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■オープニング本文 渡月島に急造された飛空船工房では、天儀のみならず泰国、ジルベリアから集められた船大工と宝珠加工職人達が、長く続いた作業の終了に揃って地面に座り込んでいた。 「こりゃあ、軍船だ」 「軍船だって、こんな丈夫なのは滅多にねえよ」 彼らが見やる先には、最初見た時からこれまで、変わることなく荒れた様子しか見せない嵐の空がある。いつこの島も暴風雨に晒されるかと、彼らのその心配は杞憂だったが、注文通りの飛空船が完成した今は、別のことが気に掛かる。 「まさか、あたし達まで一緒に乗れなんて言われないかしら?」 「冗談じゃない。そりゃ騎士や開拓者の仕事だよ」 これまで渡月島では嵐を突破するための飛空船改造が、一三成の監督の下で行われていた。 朝廷からの派遣だけでは二、三隻を改造するので手一杯だったろうが、各国の思惑が入り乱れ、あちこちから人手が送り込まれた結果、十隻を超える飛空船が軍船もかくやという強度と武装に加え、宝珠を追加されて推進力を増していた。これなら嵐も突破出来るだろうが、職人達でそんな危険な船旅に同行したい者はごく少数派だ。 もちろん黒井、一三成に、各国派遣の調査隊や利権を求めて来た商人達は、職人達より開拓者を乗せることを選んでいた。 「これ、やばいかも?」 砂嵐に巻き込まれて不時着したのはつい先ほど。 一面に広がる砂漠には果てなど見えようはずもなく、開拓者の額に冷や汗が浮かぶ。 もっとも、冷や汗だけでなく熱風で大量の汗をかいているのだが。 歩いても歩いても砂が全てを飲み込んでゆく。 「更に厄介なのがきなすったようだぜ。‥‥おい、逃げろっ!」 開拓者の一人が叫ぶ。 その目線の先には天儀やジルベリアではまず見ない類の巨大な芋虫―― サンドワーム。 砂から出ている上半身と思わしき姿だけでも3mは軽く越し、胴囲は考えたくもない。 「アヤカシか?! でか過ぎだろ‥‥っと、逃げるのまった!」 サンドワームに見つかる前に逃げようとした開拓者達だが、その足を止める。 サンドワームは開拓者達にこそ向かってこなかったものの、別の獲物を見つけたのだ。 そう、開拓者達が今最も会いたかった現地人を! 「俺達も加勢すっぞ!」 得物を構え、開拓者達は全力でサンドワームへと駆け出した。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
郁磨(ia9365)
24歳・男・魔
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
マーリカ・メリ(ib3099)
23歳・女・魔
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ
ジク・ローアスカイ(ib6382)
22歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●救出に、急げ! 「やれやれ、一難去ってまた一難か。まったくせわしないわな。最初からこれでは先が思いやられるわ」 サンドワームに襲われている現地人を助けるべく、天津疾也(ia0019)は全力で走る。 灼熱の太陽に熱された砂が舞い上がった。 「酷い暑さだね。僕もいつもの格好じゃいられなさそうだ」 セパレートタイプの衣類を身に纏った真亡・雫(ia0432)は、その大地と大気の暑さに肌を焼かれそうになる。 そしてジク・ローアスカイ(ib6382)も駆け出しつつ、現地人の様子を伺う。 様々な土地を見知っているというモハメド・アルハムディ(ib1210)によれば、下手な援護は獲物を奪われるという誤解を相手に与えてしまうこともあるようなのだ。 だが明らかに現地人達は劣勢で、怪我人も既にいるようだ。 サンドワームは一匹だけなのだろうか? だがこんな巨大な敵は一匹で十分だ。 「芋虫?! でかすぎます。虫じゃないですよ!」 マーリカ・メリ(ib3099)がそう叫びたくなるのも致し方ないことだろう。 まだ距離があるのにサンドワームのその巨体は嫌でも目に飛び込んでくる。 硬い鱗に覆われたその身体は、激しい砂埃を巻き上げながら砂の中を海のように泳ぎまわる。 「ンフフッ! 砂漠って随分激しいトコロねェん♪」 巨大なサンドワームに臆する事無く、セシリア=L=モルゲン(ib5665)は暑い日差しよりも熱い眼差しが好きだわと鞭を構える。 露出過多だが魅惑的なその肢体はこの灼熱の世界でも艶やかに輝いている。 「‥‥動き辛いし敵の情報も無いし暑いし、厄介な状況ですね〜」 厄介といいつつ、その表情は少しも困っている風には見えないのは気のせいだろうか。 サンドワームの目を盗み、郁磨(ia9365)は着物の裾を翻しながら怪我をしている現地人に駆け寄る。 「我々は遠い儀より嵐の門を越えてやって来た開拓者です‥‥。‥‥此の儀については何も知りませんが、貴方達の敵ではありませんっ!」 「ハル・アントゥム・ビハイリン?! ナハヌ・ナンカザクム!」 郁磨は通じないかもしれない自分達の言葉で、そして祖先がこの儀に住んでいたと信じているモハメドが氏族に伝わる言葉で現地人に呼びかける。 驚いた事に、そのどちらも現地人に通じたようだ。 「待ち望んでた現地人に、出来ればご遠慮したいサンドワームとは、まったく運が良いやら悪いやらってかぁ?」 不破 颯(ib0495)は、はーさん無茶しないでと止める郁磨に余裕の笑みを向け、天津と共にサンドワームに先制攻撃を仕掛けた。 ●激闘! サンドワーム! (新天地と言う言葉に興味を惹かれやって来たと思えば、この様な未知の生物と出会えるとは、ね) ジクは現地人を救助の必要があると判断し、尚且つサンドワームの弱点を探す。 皆がみな、初めて遭遇する敵なのだ。 新しい儀であるこの地の情報は乏しい。 アヤカシやその他の生態についても、そして目の前で暴れるサンドワームについても全てが手探り状態なのだ。 「くっ、随分硬いな!」 天津はサンドワームを現地人より自分達に引き付ける為に一撃必殺より細かな傷をつけて出血を促そうとしていたのだが、硬い鱗に覆われたサンドワームの身体は強靭でなかなか上手くいかない。 そして目障りな事にサンドワームは地中に潜るのだ。 砂の上に殲刀「秋水清光」を突き立ててもサンドワームまでその剣先が届く事無く、天津は悔しげにズレたグラサンを指で押し上げる。 「とりあえずこのやっかいな奴一緒に倒そうぜ? つもる話はそれからってなぁ」 突然の未知なる開拓者達の登場に驚いている現地人に、不破はにかっと笑って余裕を演出、サンドワームに先即封を打ち込む。 サンドワームは稲妻のような地鳴りを上げて進行方向を変え、ターゲットを現地人から不破達へ切り替えた。 砂埃を巻き上げながら突進してくるサンドワームは砂もろとも天津を丸呑みしようとする! 「空腹ならば鉛弾をご馳走するよ、少々火傷するが、ね」 天津を狙ったサンドワームのこめかみにジクのマスケット「バイエン」が火を噴いた。 無論、それは牽制。 硬い鱗に覆われたサンドワームの身体には、外からの物理攻撃は大して効いていない。 ずっとサンドワームの動きを観察していたジクには、その弱点が見えてきていた。 「ンッフフッ!! どうかしらァン。私の鞭、びんびんカンジていいでしょォ!!」 ジクの牽制でグラついたサンドワームの頭に、セシリアは自慢の鞭を巻きつけ、そのまま一気に爆式拳で瘴気を放出させる。 炸裂した瘴気はサンドワームの硬い鱗に阻まれることなくダメージを与えたようだ。 そしてモハメドは共鳴の力場をリュートで奏でて仲間と現地人の抵抗力を高めた。 モハメドにとって、現地人は自分と同じく先祖の血を引く仲間かもしれない想いからか、何時もよりも音色が強く響いて感じた。 不破や天津、セシリアがサンドワームの気を引いている隙に、郁磨は現地人の手当てを終える。 敵ではないといい、サンドワームより何より、自分達の手当てを優先した郁磨に現地人は強い信頼を寄せたようだ。 「ホーリーアローが効かないって事は、これはアヤカシではありませんね。でもこんな巨大な生物アヤカシと大差ないですよっ?!」 とりあえずホーリーアローを打ち込んでアヤカシかどうかを判断したマーリカだが、正直困惑を隠しきれない。 現地人の信頼を得た今、アヤカシ相手と同じくガンガンやっつけてしまいたいのだが、サンドワームの巨大さはこれまで開拓者達が出会ったことのない大きさ過ぎた。 遠目でも砂から出ていた部分だけでも3メートルは越えていたが、至近距離まで来た今ならはっきりとわかる。 3メートルはあくまでサンドワームのほんの先端。 砂を泳ぐその巨体は先端の3倍、全体で10メートルはあるだろう。 そしてサンドワームは今まで飲み込んだ砂を全て放出させるかのように体内に取り込んだ砂と唾液を高圧力で吐き出した! まるで小さな竜巻を思わせるその攻撃は開拓者達を薙ぎ倒してゆく。 高回避率をもつ天津はなんとか避けれたが、攻撃線上にいた真亡、セシリア、不破、モハメドが避けきれずに負傷する。 直撃なら命を落としかねないその攻撃は、モハメドが予め共鳴の力場を奏でてくれていたから皆の抵抗が高まって重傷にならずに済んだものの、強い粘液を持つ唾液が彼らの自由を奪う。 あまりの攻撃力に眩暈を感じながら、それでもマーリカは気合でサンドワームから目をそらさずにアイヴィーバインドを仕掛けてみる。 多少は効果があったのか、サンドワームの動きが少し鈍って思えた。 だがサンドワームはマーリカではなく、何とか唾液から脱出しようとするモハメドに向かって突き進む! もがくモハメドのリュートの音に反応したのだ。 「させへんで、こっちこいや!」 天津が捨て身で自分を横切ろうとするサンドワームを切りつけ、 「聴覚や触覚で獲物を探しているのだろう、ね」 視覚やない事を見てそう判断したジクもダメージを与えることより射程ギリギリの位置でサンドワームの身体を撃ち、動けない仲間達から目を逸らさせる。 二人が時間を何とか稼いでくれている間にマーリカが皆のダメージをブリスターで順番に回復して、粘液からの脱出も手伝う。 なんとかサンドワームの粘液交じりの砂泥から剥いでた四人は急ぎ体制を整える。 「私を捕らえた罪、高くつくわよォッ!」 セシリアは地面にひれ伏せられたことがかなり屈辱だったようだ。 鞭を唸らせサンドワームを調教するかの如く、それでいて止めを刺そうとはせずに皆と少し離れた場所へ誘導! 次の瞬間地縛霊が発動し、サンドワームの上半身にダメージが降り注いだ。 セシリアがサンドワームに最初に攻撃を仕掛ける前に、予め仕掛けておいたのだ。 そして真亡は動きの少し鈍りだしたサンドワームの鱗の隙間に自慢の刀「水岸」を差し込み、白梅香をきめる。 研ぎ澄まされた水岸の鋭い刃は精霊力を帯びて更に切れ味を増し、サンドワームに強いダメージを与えた! 「身体がべた付くよ」 好奇心旺盛とはいえ、身体に引っ付いたサンドワームの粘液に真亡は嫌そうな顔をする。 暴れるサンドワームはすぐさま深く地中に潜って身を隠す。 だが逃がす気のない開拓者達は心眼を用いる。 天津、真亡、郁磨。 三人がかりで地中を探れば、サンドワームはその巨体ゆえ他の地中の生物とは間違えようがなく、手に取るように分かった。 「はーさん、斜め後ろ構えてや〜!」 郁磨の声に即座に不破は振り向く。 その手には焙烙玉。 「こいつの弱点は口の中だ、ね」 不破を喰らおうと砂の中からその巨体を突き出し、大きく開いたその口の中にジクがストロングバレットを打ち込む。 脳天の突き抜ける角度で打ち込まれたその銃弾にサンドワームは大きくのけぞり、そして更に不破が思いっきり躊躇いもなく焙烙玉を仰け反る口に投げ込んだ。 咄嗟に口を閉じたサンドワームのその中で、焙烙玉は大爆発。 のたうつ巨体から体液が迸った。 「これで決まりやで!」 深い出血に勝機を見た天津が秋水を用いてサンドワームの身体を深く強く貫く。 最後の最後まで抵抗し、暴れていた化け物はその生涯に幕を閉じた。 ●アル=カマルの人々 「アーニー、私はモハメド・アルハムディ。ヤッガ、貴方方も無事でなによりです」 何とか目の前の強敵を倒しきったモハメドは現地人に手を差し伸べる。 砂漠の儀を長い事信じて夢見てきたモハメドの、氏族の言葉が通じる者がいるのだから、もしかしたらこの地が本当にモハメドの祖先が住んでいた儀かもしれないのだが‥‥彼らとの会話の中でもジルベリア、天儀、そして氏族の言葉が普通に使われていて良く判らない。 「汗で出ちゃった塩分補給に桜の花湯、みんなで飲みましょ」 アル=カマルの人々が作ったテントで休ませてもらいながら、マーリカは持参していた桜の花湯を振舞う。 テントの中に桜のほのかな香りが漂った。 「‥‥呆れる大きさだな。あんなのがゴロゴロいたら落着いて野宿もできないよ」 現地人が言うには、今回のサンドワームはまだ小さく弱く、運が良かったほうだと。 その言葉に真亡は大きく溜息をつく。 「此の砂漠の果てにあるものは、なんなんだろうなぁ‥‥」 手当てをしてあげたアル=カマルの人々の耳は天儀人のそれとはかなり異なっていて、つんと長くとがっている。 サンドワームがいた時はその外見よりも怪我の治療を優先させた郁磨だが、倒し終わった今はこの儀が今までとは大きく異なる新天地であることを改めて実感する。 「あれよ? もふらだけは絶対にはずしちゃなんねえよ?」 現地人からこちらの儀について尋ねられた不破は、なぜかもふらについて熱く語る。 ぶさ可愛いと評判のもふら様の魅力を、果たして彼ら現地人に伝えきれるかどうか。 不破の手腕が問われるところである。 「未だ知りえぬ物に触れる、童心に還るようだ、ね」 アル=カマルの人々が立てたテントも、砂漠の床に敷かれた敷物も、その衣装も。 何もかもが未知でジクの興味を刺激する。 きっと、これから先もこの儀では新たな謎が起こるのだろう。 そしてそれはこれから次々と解決されてゆくのだろう。 新しい儀の人々と、開拓者と共に。 |