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■オープニング本文 「緊急緊急っ! 未綿の里の住民、全員南の里へ避難させてくれ!」 開拓者ギルドにそんな緊急依頼が飛び込んでくる。 つい先日、アヤカシが南の森で発見され、調査に赴いた開拓者のお陰でアヤカシの奇襲は避けられたのだが、何時また攻めてくるとも限らない。 むしろもう隠れなくとも良い分、いつ未綿の里が襲われてもおかしくない状況だった。 混乱に混乱を重ねる渦中の里・未綿。 これ以上の不幸を増やさぬ為にも、住民の非難は一刻も早く行われるべきものだった。 南の里への移送ルートは3つ。 一つ目は、アヤカシの発見された森の東側を迂回して南の里へ。 二つ目は、東ではなく西側へ迂回して南の里へ。 三つ目は、森をそのまま真っ直ぐ突っ切る道。 「‥‥さすがに、森を突っ切るのはきっついよな?」 依頼を読んだ開拓者のこめかみに冷や汗が浮かぶ。 それもそうだろう。 以前の調査で森の中には確認出来ただけでもがしゃ髑髏や祟り神といった中級レベルのアヤカシが、大量の下級アヤカシを指揮していたのだから。 調査していた開拓者達が機転を利かせてがしゃ髑髏と祟り神をそれぞれ東と西へ引き離し、未綿の里への襲撃を遅らせることに成功したものの、この中級アヤカシが二体揃うとかなり厄介だろう。 森の中を突っ切るということは、最悪この二体とそれぞれの率いる50ではきかない数のアヤカシ軍団を相手にすることになりかねないのだ。 ただ、最短ルートではある。 里の住民は大分避難を終えてはいるようなのだが、まだ数十人残っている。 その中には老人や怪我人もいて、休み休みの移動となるだろう。 そして東と西のルートは森を突っ切る場合に比べてその倍近く時間がかかるが、見晴らしがよく、負の感情を求めたアヤカシ達の格好の餌食となりかねない。 東も西も、恐らくがしゃ髑髏か祟り神に襲撃を受けるだろう。 森を突っ切ることに比べれば約半数のアヤカシとの戦闘だから、一見マシに見えるのだが‥‥。 開拓者は依頼書を握り締め、未綿の里人達の為に最善なルートを模索するのだった。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / ヘラルディア(ia0397) / 真亡・雫(ia0432) / 柚乃(ia0638) / 酒々井 統真(ia0893) / 氷海 威(ia1004) / 皇 りょう(ia1673) / からす(ia6525) / 一心(ia8409) / 和奏(ia8807) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 羊飼い(ib1762) |
■リプレイ本文 ●怯える里の民 「前にこの里に関わった時は、里の連中と戦いにだったんだが‥‥ま、アヤカシの仕業だったなら済んだ話か」 未綿の里の民を眺め、酒々井 統真(ia0893)は苦笑する。 逃げ遅れた里の民はおよそ50名。 情報通り怪我人と老人がその半数を占め、若い娘や子供は怪我人や老人の家族なのだろう。 この中に酒々井と戦った者もいるかもしれない。 けれど今は安全であるはずの南の里への希望を胸に、里の民は素直に開拓者達に従っている。 もしかしたら、もう歯向かう気力すらないのかもしれない。 戦乱で全てを失ってしまったその顔には、深い疲労が刻まれている。 「温かいもの食べると気持ちも明るくなれますからねーぇ」 そんな里の民達に温かい食事を振舞うのは羊飼い(ib1762) 村人全員にいきわたるだけの大量の食料を、一体どこから調達したのかと聞けば、ギルドからだという。 「長い道程の足しになれば‥‥」 食料が無い様なら自分の持ち寄った食料品を村の世話役に預けようと思っていた氷海 威(ia1004)は、羊飼いが調達したご飯をお握りにしはじめる。 冷たいその雰囲気からは想像もできないぐらい器用に手際よくお握りは作られてゆく。 長年自活していた証拠だろう。 開拓者達が選んだ南の里へのルートは東の道。 アヤカシの出現が認められた南の森をぐるっと迂回するそのルートは、森を突っ切る場合の二倍の時間がかかる。 保存食は十分に用意するべきだ。 (住み慣れた土地を去らねばならぬとは、心中お察し致す。せめて道中の安全くらいは確保せねば‥‥) 幼子はもちろんの事、老若男女出立前に里を見つめるその瞳の切なさ。 皇 りょう(ia1673)も酒々井と共に里の民と以前戦った開拓者なのだが、里の民の瞳に浮かぶ色に胸を痛めながら今はただただ彼らの安全を守ることのみを想う。 (子供達に不安を与えないようにしなくては‥‥) 何が起こっているのか良く判らずとも、周囲の大人たちの不安と殺気の入り混じった空気は感じているのだろう。 真亡・雫(ia0432)はそんな不安げな子供達の気持ちを和らげようと、凛とした瞳に終始笑みを絶やさぬように勤めながら大丈夫だよと声をかけてゆく。 ●進路を東へ 未綿の里の南に森は大きく広がり、里の民と開拓者達の行く手を阻む。 (がしゃ髑髏と祟り神を同時に相手取るのは避けたい所だ) そうなるとは限らないとはいえ、不安が残ると琥龍 蒼羅(ib0214)は遠くにうつる森を疎ましく睨む。 けれどその表情は傍から見ているとさほど変化が無く、護衛をしている里の民も気づかない。 森から十分に距離をとり、見晴らしの良い道を選んで大回りに森を避けているものの、出来るだけ森の横を速く抜けたい。 柚乃(ia0638)が出立前に怪我人達の応急手当をしてくれている分、幾らかはましなのだが、里の民の歩みは遅く、進む距離に反比例して時間ばかりが過ぎてゆく。 「先行組みも今の所無事のようですね」 アメトリンの望遠鏡で先行組みの様子を確認していた一心(ia8409)は、ほっとした様子で望遠鏡を懐に仕舞う。 里の民を少しでも危険から守る為に開拓者達は先行組みと護衛組みに別れていた。 先行組みは真亡、柚乃、氷海、皇、和奏(ia8807)。 後衛の護衛組みには羅喉丸(ia0347)、ヘラルディア(ia0397)、からす(ia6525)、一心、琥龍、羊飼い。そして他ギルドから派遣された開拓者達。 酒々井はどちらかというと先行組みなのだが、里の民への脅威を減らすために強行偵察、むしろ囮となってアヤカシの多いであろう森側に位置していた。 そして守るべき里の民達は、一心の用意した迷彩布をマントの様に纏っていた。 見晴らしの良い場所ゆえ、アヤカシが出ればすぐに発見できるのだが、それはつまりアヤカシにとってもこちら側がすぐに見えてしまうということ。 迷彩布は少しでも見つかり辛くする為に考えた策だった。 「だいじょーぶよー、なーんにもみえないわぁー」 人魂で雲雀を作った羊飼いは空から周囲を確認する。 今の所、周囲にアヤカシの姿は無い。 雲雀はくるりと護衛組みの上空を旋回し羊飼いの腕に止まって消え去る。 今のは何かと訪ねる里の子供に、羊飼いは「羊よぅー」と笑う。 どう見ても羊には程遠いのだが、子供達は羊飼いに釣られてついつい笑ってしまっている。 へらへらっとして掴みどころの無い羊飼いだが、その緊張感の無さは返って里の人々を安心させていた。 自分達を守る為に来てくれた開拓者がこんな風に笑っているのだから、大丈夫だと。 定期的に爪弾くからすの弓の弦にも怪しい波動は引っかからない。 「来るのががしゃ髑髏か祟り神かしらねぇが‥‥突撃してやるぜ」 森側に位置して進んでいた酒々井は、パシッと拳を合わせ森へと向きを変える。 アヤカシに襲われるのをギリギリまで待って里の民を恐怖に晒すより、自らがアヤカシを引き付けて叩く方がやりやすいと判断してのこと。 確かにずっと南の里まで神経を張り詰めていてはいざと言う時に疲れきり、全力を出し切ることは出来ないかもしれない。 この作戦が吉とでるか凶とでるか。 桜色の燐光を纏った酒々井の拳に惹かれるように、アヤカシ達が森より湧き出してくる――。 ●敵は此方に! 「‥‥森から多数の生命体が溢れてきます! 恐らく酒々井さんとアヤカシが交戦中ですっ!」 心眼で周囲のアヤカシを感知した和奏が叫ぶ。 無論、心眼でアヤカシとそうでない生命体の区別はつかないのだが、森から溢れた生命体が一体の生命体に向かっている状況を感知すればアヤカシ以外には考えられぬというもの。 「26‥‥いや、32匹か? 守りに入るだけでは敵につけ入る隙を与える。行くぞ!」 里の民も気掛かりだが、アヤカシの即座の殲滅が守ることにも繋がると信じ、皇は自身も心眼で感知したアヤカシであろう生命体の集団へ走る。 「負の感情に惹かれる‥‥か。そうであるならこの悔悟と慙愧の念を喰らいに来るがいい‥‥」 里の民に向けた優しさとは正反対の暗い色を瞳に灯し、氷海は斬撃符を構える。 「伊邪那、まだ出て来ては駄目です‥‥あっ」 そして柚乃の手にした宝珠からは管狐・伊邪那が飛び出してくる。 お日様色の瞳を輝かせる伊邪那は柚乃を守る気満々。 あんたはあたしがいなくちゃ駄目なのよと言い切って、頼んでもいないのに柚乃に同化! 「まーたゆうことを聞いてくれないのだから‥‥っ」 困ったように叫びつつ、皆と一緒に森に走る柚乃は口調ほど困ってはいない。 「深追いはしないつもりだったけれど、こうなっては殲滅しかないね」 南の里へと少しずつ移動しながら、降りかかる火の粉を落とすような交戦を想定していた真亡も全力で走る。 流石に酒々井が囮となって単身森へ突っ込んで行くなどという事は予想できていなかったのだ。 だが里の民の安全と出来るだけ彼らに負担をかけさせまいと考えていた酒々井なのだから、これは当然の結果なのかもしれなかった。 「間に合ってください‥‥っ」 酒々井の強さは折り紙つきだが、それでも大量のアヤカシを同時に相手にするのは困難な筈。 もしかしたら酒々井もアヤカシは一匹ずつおびき寄せるつもりだったのかもしれない。 だが既に大量のアヤカシが発見された森に突っ込めばどうなるか。 全力で森へ走る先行組みは、はたして――。 「西方、一里、およそ30体。西北、6体」 爪弾いていた玄を止め、からすが里の民には聞こえぬよう、手短に呟く。 それはアヤカシの数と方向、そして距離。 護衛組みに一気に緊張が走った。 「出番がなければいいと思っていたが、虫が良すぎたようだな」 羅喉丸は西北に向き直る。 一里の先にいるアヤカシは恐らく先行組みと当たっているはず。 ならば西北から来る敵を食い止めるのは羅喉丸達だ。 (瘴気の集合体はいない‥‥狂骨2匹と白大蛇3匹、そして火兎だけなのは幸運ですか) アメトリンの望遠鏡でアヤカシの構成を確認した一心は、里の民に悟られないように誘導するよう他の開拓者に耳打ちし、自分達はその場に残る。 この場所でアヤカシは食い止める。 羅喉丸、ヘラルディア、からす、一心、琥龍、羊飼いが6体のアヤカシを迎え撃つ。 「たった六体、されどアヤカシ。みなさま、孤立されませぬようお気をつけて!」 全員が自身の回復スキルの届く範囲に収まるよう、そして自分自身も孤立せぬようにヘラルディアは後衛に下がりながらも位置を気をつける。 そして狂骨と白大蛇がその姿を視認出来る距離まで近づいてくる。 白大蛇は動きこそ素早くなくむしろ遅めといっても過言ではないが、その巨体さとねっとりとした動きに生理的嫌悪感が琥龍を襲う。 視界がぼんやりと霞むが、斬竜刀「天墜」で雪折をつかってその揺らめく視界ごと白大蛇を薙ぎ払う。 急所には至らなかったものの、2mを越す巨体で長い刀身を生かした琥龍の技を避ける事は困難。 幻惑に惑わされながらも放たれた一撃は、白大蛇の身体を確実に斬る。 だがそれでも急所は避けられ、琥龍は白大蛇の反撃を体を開いてかわす。 「里の民には決して触れさせはしません」 最初から全力を持って対峙する一心は六節と極北を使い、最短行動で敵の防御力を落とし、朧月にて止めを刺す。 限界まで引き絞られた弓は違うことなく狂骨に命中し、瞬時に瘴気へと変えてゆく。 「きみの行く手は遮らせて頂く」 数匹の白大蛇の進行方向を阻害すべく足とも胴ともいえるその身体にからすの猟兵射が炸裂し、動きの鈍ったそれらを羅喉丸の崩震脚が一気に薙ぎ払う。 「そーそーやられはしないんだけどなぁ」 のほほんとした口調は、けれど羊飼いの危機。 火兎がその愛らしい姿とはうって変わった凶暴さで羊飼いに火の粉を浴びせたのだ。 「わたくしがいる限り、誰一人として怪我などさせません!」 即座に発動させたヘラルディアの神風恩寵が羊飼いを包み込み、火の粉を吹き飛ばしてその傷を癒してゆく。 「限界とは‥‥、超えるためにある物だ」 幻惑の解けた琥龍が輝く紅葉を舞い散らせながら深雪を用いて火兎を夜宵姫の錆にする。 護衛組みが粗方アヤカシ討伐を終えた頃、先行組みはがしゃ髑髏との苦戦を強いられていた。 「回復速度が速いですね‥‥」 皇が斬り付けた傷が即座に回復してゆくのを見て、和奏の額に冷や汗が浮かぶ。 そう、酒々井が引きつけたアヤカシは大方雑魚ばかりだったのだが、ただ一匹がしゃ髑髏だけは強敵だった。 満身創痍の酒々井は柚乃の高い治癒スキル閃癒のお陰で事なきを得たが、もしも先行組みの到着が遅れる、もしくは酒々井のレベルがもっと低かったなら命の保障は無かったろう。 「絶対に‥‥誰一人欠けさせない。里の方々だけでなく、僕達も含めて‥‥ね」 がしゃ髑髏と共に溢れる雑魚を、真亡は恐ろしい速度で切り捨てる。 「そちらには行かせぬ!」 開拓者よりも遠くにいる、視認出来ないはずの里の民の方角へがしゃ髑髏が向きを変え、その直後、氷海が自身の叫びとも取れる呪声をがしゃ髑髏に浴びせる。 無痛覚のがしゃ髑髏とはいえその脳裏に響く暗い想いは目障りなのだろう。 再び向きを変え氷海に飛んでそのまま多数の武器で切りつける! 後ろに下がって直撃を避けはしたものの、刀の一つが白い頬を切り裂き、氷海は美麗な顔を苦痛に歪めながらも即座に吸心符でがしゃ髑髏から生命力を奪ってその傷を癒す。 「すぐに再生してしまうのなら、それよりも早く滅せれば良いだけのこと‥‥!」 夕日のような光を纏った愛刀を構え、皇は白梅香にてがしゃ髑髏を切る。 多数の腕に構えられた剣が即座に皇を切り裂こうと振りかざされるが、和奏の剣がその腕を切り落とし、 「伊邪那、判っています!」 はやくがしゃ髑髏を倒しなさいよと叫ぶ相棒に反論しながら柚乃の精霊砲が発動! 皇に降り注ぐはずだった剣の嵐は仲間達によって消し去られ、皇の剣はがしゃ髑髏の生命を著しく殺いだ。 「やられっぱなしは性に合わないんでね。ブチかまさせてもらうぜ!」 柚乃に癒されて戦線復帰を果たした酒々井の渾身の拳ががしゃ髑髏の頭蓋骨にめり込んだ。 再生し続けるがしゃ髑髏も開拓者達の全力攻撃の前に成す術を無くして瘴気へと帰ってゆく。 ●辿り着いた平安の地 「結構早くついたわねーぇ」 のほほんと、やっぱりマイペースに羊飼いは笑う。 その眼前には南の里。 一番大きな襲撃の後もちょくちょくアヤカシに遭遇したものの、誰ひとり欠けることなくここまで来た。 「さぁ、あと少しです。先行の仲間達は既に南の里に着いております。皆さんの新しい生活が幸せでありますように」 先行組みと護衛組みの伝令を勤めていた皇が、里の民達を励ます。 恐ろしかった南の森は遥か遠く、もう此処までくればアヤカシの脅威は無いだろう。 長かった旅は、無事に終わりを告げたのだった。 |