★白い日には簪を★
マスター名:霜月零
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 19人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/12 09:43



■オープニング本文

「やっちゃったのよねぇ‥‥」
 通りすがりの開拓者に、とある開拓者ギルド受付嬢・深緋は大きく溜息。
 いきなりわざとらしい溜息をつかれたマッチョイケメン開拓者は首を傾げる。
「受付さん、何かあったのかい?」
 よせばいいのに、尋ねちゃったり。 
「あったのよぅ! 良くぞ聞いてくれたわね? 聞いてくれたからにはもちろん参加してくれるわよねぇ?!」
 がばっとマッチョにつかみかかる勢いで、深緋は受付から身を乗り出す。
「参加って、何に‥‥?」
 うん、ぜんぜん話が見えない。
「もちろん、あたしの賭けによぅ。これを見て?」
 言いながら懐から取り出したそれは12枚の花札。
 色鮮やかなそれには季節の花々が描かれており、天儀でよく見かける花札とは少し違うようだ。
「天儀の花札をちょこーっとアレンジしたものらしいんだけどぉ、これであたしと勝負なさい。あたしが勝ったら200文頂くわ。あたしが負けたらあたしの簪コレクションをあげるわよぅ?」
 いつも持ち歩いているのだろうか?
 懐から再び袱紗を取り出して受付机に広げると、そこにはありとあらゆる簪が。
「もちろん、全部未使用新品よぅ?」
 うふふと笑ってマッチョに見せびらかすが、マッチョ、良く判ってない。
「簪、別に欲しくないぞ?」
「がーんっ!!! 簪欲しくないって、あんた人間?!」
 深緋、目一杯のけぞって驚くけれど、マッチョが簪使う姿想像できないから。
「ま、まあ、いいわ。とにかく簪かけてあたしと勝負しなさいよ。じゃないと誕生日プレゼント買えないのよぅ」
「誕生日プレゼントと賭け事の関連性がまったくわからないぞ‥‥」
 マッチョ開拓者、ますます混乱。
「だからぁ、うっかり妹の誕生日忘れてたのよぅ」
「妹さん? あの子は8月生まれじゃなかったか?」
 遊郭に勤めている深緋の妹は度々ギルドにも訪れていて、マッチョ開拓者も何度か話したことがあるのだ。
「ちがうちがう、朽黄じゃないわ。鳩羽の分よぅ。たぶんあんた達は会った事ないんじゃないかしらね? 吉凶や運勢を占う巫女やってるんだけど、寺院からめったに出てこないしねぇ。だからあたしもあの子の誕生日うっかり忘れちゃったんだしぃ」
 朽黄から鳩羽の誕生日プレゼントを相談されて、それで思い出したのだとか。
 自分は朽黄と二人の妹からちゃんと特別な簪をプレゼントされているというのに、随分酷い姉である。
「ついつい簪買いまくっちゃっていま金欠だしぃ? このままだとプレゼント買えないしぃ、あんた達から資金巻き上げようってワケ。わかったぁ?」
 うふっと笑ってウィンクする深緋。
 最低。
「そんな事言われて参加するとでも‥‥?」
 そろそろマッチョ開拓者のこめかみに怒りマークが浮かぶのも仕方がないことだろう。
「あ、鳩羽、美人よぅ? あんた達から資金巻き上げたら一緒に買い物に行くつもりなんだけどぉ、一緒に来る?」
「のった!!!」
 そんなこんなで、開拓者と深緋の花札イベント、開催です!


◆解説◆
 金欠ギルド受付嬢・深緋と花札勝負をして頂きます。
 深緋が勝った場合、参加者から200文頂きます。
 深緋が負けた場合、深緋の簪コレクションより一つ、簪を差し上げます。
 プレイングにて、ご希望の簪を明記しておいてください。
 ご希望がなく深緋に勝利された場合、ランダムでこちらで簪を選ばせて頂きます。
 ここにない簪が当たることもある、かも?

◆簪コレクション◆
『鼈甲の簪』
 鼈甲の簪。深みのある色合いをした、良質な鼈甲が使われている。

『真珠の簪』
 一般的な女性用髪留めの一種。大粒の真珠を使った簪で、簡素で落ち着きがある。

『睡蓮の簪』
 一般的な女性用髪留めの一種。睡蓮を模した宝石飾りがあしらわれた綺麗な簪。

『白雪の簪』
 白い雪のような貝殻を装飾した簪。漆によって淡い光沢を放たれており、贈答用にも用いられる。

『枝垂桜の簪』
 一般的な女性用髪留めの一種。桜を模した宝石飾りがあしらわれた綺麗な簪。花びらが枝垂れのようになっているのが特徴。

『銀時雨の簪』
 簪の片端に、沢山の細長い銀の短冊がついた簪。振れば、かすかにしゃらしゃらと音がする。

◆お買い物◆
 勝負の後、さまざまな露店の並ぶ市場へお買い物に行く予定です。
 一緒に買い物がある方は、プレイングに希望商品とともに明記してください。
 レアアイテムは見つからないと思いますが、掘り出し物はあるかも?
 あまり高額なものは期待できません。
 代金は自腹を切って頂きます。
 ご希望の商品が市場に売っていない場合や、お手持ちの資金で購入できない金額の場合は購入できません。


■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / ルオウ(ia2445) / エリナ(ia3853) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / ユリア・ソル(ia9996) / アーシャ・エルダー(ib0054) / アルセニー・タナカ(ib0106) / ラシュディア(ib0112) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / アイシャ・プレーヴェ(ib0251) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / 真名(ib1222) / ジレディア(ib3828) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / ウルシュテッド(ib5445) / アーニー・フェイト(ib5822) / みすけ(ib6436


■リプレイ本文

●いざ、勝負!
「あらあらぁ、随分集まってくれたわねぇ」
 鴨ネギ鴨ネギと歌いながら、深緋はご機嫌。
 予想以上に多い開拓者の数に頬が緩みっぱなし。
 だが果たして鴨になるのはどちらなのか。
「大事な妹様の誕生日プレゼント。買ってあげられると良いですね」
 ギルドの受付テーブルの片隅に陣取る深緋と向き合う礼野 真夢紀(ia1144)。
 鬼畜深緋なんかと向き合って、その澄んだ想いと瞳が曇らなければ良いのだが‥‥。
 博打も良く知らない礼野が選んだ手札は2。
 対する深緋の手札は9。
 あたしの勝ちねぇと初っ端から勝ち星を決める深緋。
 深緋の妹の為を思って参加した、心優しい礼野に対してすら情け容赦ないとは鬼畜此処に極まれり。
「良いもの買ってあげて下さいですの。まゆも姉様二人いますから他人事じゃないですし」
 高笑いする深緋に嫌な顔一つせず200文を差し出す礼野。
 きっと、絶対にいい事あるよ!!!
「俺はサムライのルオウ! よろしくな。こっちは連れのエリナ。今日は二人揃って参加だぜ」
 赤髪の元気少年ルオウ(ia2445)は仲良しのエリナ(ia3853)と揃って参加。
 ルオウはエリナに「応援しててくれよなっ!」とにかっと笑って勝負の席に着く。
 そんな仲睦まじい二人に深緋はほんのり唇を尖らせつつ、勝負!
「うがーっ、負けたあぁっ?!」
 手札の2をぶん投げて頭をかきむしるルオウに、8の手札を見せて踏ん反り返る深緋。
「ルオウの分まで、頑張りたいな」
 化粧の濃い深緋を新鮮な眼差しで見つめながら、エリナはルオウと同じ2の手札を選ぶ。
 対する深緋の手札は3。
「引き分けかな? 次は3でどうでしょうか」
 二番目の手札を選ぶエリナに、4の手札を見せる深緋。
 またしても引き分けだ。
「それなら、最後は4です。‥‥勝負!」
 どきどきと手札を見せたエリナに、深緋は思いっきり悔しそうにする。
 そんな彼女の手札は5。
「うおっ、エリナやったじゃん! 勝ったぞ!!」
「うん、ルオウ、勝てました!」
 手を取り合って喜ぶ二人に深緋は悔しがりながらも簪プレゼント。
「ふむ、次は私の番だな。深緋殿、如何?」
 受付の側のテーブルで皆にお茶を振舞っていたからす(ia6525)が受付に戻り、自らの手札を深緋に見せる。
 その手札は4。
 対する深緋の手札はといえば‥‥。
「えっと、これはぁ‥‥」
 深緋、ある事に気づいて大粒の冷や汗を流す。
 彼女が握り締めている手札は12。
「ルールにないようだね」
 焦りまくる深緋に冷静なからす。
 そう、深緋は勝負を始めるまで気づいていなかったのだが、根本的にルールに欠陥があったのだ。
「ふ、ふん、最初から想定済みよぅ、ほんとほんと。ルールにない数字は挑戦者の勝ちなのよ。あんた達に有利になるようにしておいたのよぅ‥‥」
 皆のじとーっとした疑いの眼から目を逸らし、深緋は言い放つ。 
「運は私に味方したようだね」
 ふふっと笑って簪を受け取って、再び順番待ちの挑戦者達にお茶を振舞いに行く。
「この簪は万商店さんの籤でお見かけするモノですね‥‥200文もするとは存知ませんでした」
 景品として受付カウンターに広げられている煌びやかな簪に、和奏(ia8807)はふむふむと頷く。
 その肩には人妖の光華姫。
 貴金属が大好きな光華姫はあんまり興味なさげな和奏の肩から落ちそうな勢いで簪に目を輝かす。
 そしてどこかほんわかとした和奏の手札は8。
 12の手札を恨めし気に見つめながら、深緋は和奏に千羽鶴の簪を手渡す。
 人妖たる光華姫が身に着けられるものではないかもしれないが、勝負に勝利してきらきらと色とりどりに輝く簪を手にしたことで、和奏は光華姫のご機嫌を損ねずに済んだ様だ。
「顔はよくないとダメよね。その上魅力のある良い男じゃなくちゃ♪」
 勝負の前に深緋ににっこりと微笑んで言い切るユリア・ヴァル(ia9996)はかなりの美女。
 化粧で誤魔化しているだけの深緋にして見れば羨ましいことこの上なくライバル心バリバリなのだが、良い男がいいと言われてしまっては逆らえない。
 むしろ意気投合。
 勝負そっちのけで噂話に花が咲く。
「あんたの彼氏って、やっぱりイケメンなのぉ?」
 興味心身に尋ねてくる深緋に、けれどユリアはぴたりと黙る。
 これまで筋肉はつきすぎちゃ駄目、でもひ弱はお断り、お金はありすぎて困るもんじゃないしと語りまくる深緋に負けず劣らず饒舌だったのに、一体どうしたというのか。
 派手な服が負けそうな容貌のユリアなのだが、彼氏には何かトラブルがあるのだろう。
 なんとなく気まずい気配を感じとった深緋が勝負を促す。
 気を取り直してユリアの引いた手札は10。
 対する深緋の手札は7。
「あらら、負けちゃったわね。まあ、良い数字だったから許すわ」
 美人には負けるわけにいかないのよぅと笑う深緋に苦笑しつつ、200文を支払うユリア。
「妹さんの誕生日ですか。私達は同じだから忘れようがないのですよ〜」
「アイシャ・プレーヴェと言います。よろしくお願いしますね」
 双子の姉妹で参加したアーシャ・エルダー(ib0054)とアイシャ・プレーヴェ(ib0251)はアーシャの執事アルセニー・タナカ(ib0106)と共に勝負を受ける。
 まず最初は姉のアーシャから。
「睡蓮の簪は私も同じの持ってます。夫からのプレゼントなのです」
 カウンターの深緋のコレクションの中に睡蓮の簪を見つけて、アーシャは嬉しげに微笑む。
 きっと、愛する旦那を思い出したのだろう。
 そして勝負の行方は引き分けが二度続き、最後の勝負で勝利!
「お姉いいな。あたしもお揃いの狙いますよ〜」
 では勝負願いますと深緋に頭を下げ、アイシャは手札をめくる。
「残念ですね」
 アルセニーが深緋とアイシャの手札を見比べてお気を落とさずにと慰める。
「双子なのに苗字が違うから、運も違うのね。そこの所、どう思われます? 深緋さん」
 早々に既婚者となった姉の苗字が変わったから、双子だというのにアイシャとアーシャは苗字が違い、それ故、運も変わってしまったのかもしれない。
 行き遅れ気味の深緋からしたら既婚者で強運とは羨ましい限りである。
「最愛の方の為に」
 そしてアルセニーはほんの少し頬を赤らめ、真剣な眼差しで手札を選ぶ。
 だがそんなアルセニーの気持ちを裏切るかのごとく深緋の手札は6。
 イケメンには勝たせて上げたいんだけどねぇと言いつつ、深緋はきっちりアルセニーから200文を徴収。
「これだけ沢山の素敵な簪をお持ちならどれかを売られた方が‥‥。でも、それでは駄目なんですよね」
 鬼畜な深緋に臆することなくその正面に立ったアルーシュ・リトナ(ib0119)は、深緋の簪コレクションを見つめて呟く。
 その言葉にはっとした顔をする深緋は、たぶん考えもつかなかったのだろう。
 もしもそうしていたなら今頃出費も抑えられて簪がどんどん減ってゆく事もなかったろうに。
「綺麗な札ですね‥‥いざ勝負」
 そんな深緋の焦りに気づかずに、アルーシュは美麗な花札を見つめた後、運命の一枚を選び出す。
「私、運だけは良いんですよ」
 にっこりと微笑む彼女にがっくりと肩を落とす深緋。
 アルーシュの望む白雪の簪は、その柔らかそうな茶色の髪にきっとよく似合うだろう。
 そして通りすがりの不破 颯(ib0495)が振り向いた。
「‥‥ほう、花札と聞いたら黙っちゃいられないねぇ。その勝負乗ったぁ!!」
 バン!
 思いっきり気持ちよく200文をカウンターに叩きつけ、ヤル気満々。
 いいわよぅ、乱入大歓迎と深緋もにっこりと手札を突きつける。
「ほい花見で一杯月見に一杯、も一つおまけに三光ってなぁ♪」
 ご機嫌に手札をめくる不破は賭け事慣れしているのだろう。
 余裕の彼に付け焼刃の深緋が適うはずもなく完敗。
 またやろうな〜と笑う彼は適当に簪を選んで去ってゆく。
「実は花札、全然知らないんだ、あはは♪」
 まだまだほっぺたがぷにぷにしてそうな美少年・琉宇(ib1119)は、とんがり帽子を揺らしながらカウンターにつく。
「僕の手札も深緋さんが選んでくれるかな? つまり僕の札も運任せだよ」
 鬼畜に運を任せ、「さあ、どうなるかな」と琉宇は勝負の行方を見守る。
 けれど深緋の運のなさが琉宇にも降りかかり、残念な結果に。
 子供にぐらい手加減という言葉を知らないのか、深緋は無常にも200文を琉宇から奪い取る。
 もう誰かこの女ぶっ飛ばしてください。
「陰陽師の真名よ。よろしくね」
 綺麗な簪ばかりだから、賭け事にはあまり興味がなくとも参加したという真名(ib1222)は、果たして深緋の毒牙から逃げられるのか?
「勝つまで。負けず嫌いなのよね」
 そう呟いてめくる手札は5。
 対する深緋の手札は8で、見事真名の勝利!
 姉のアルーシュと同じく、強運だったらしい。
 真名はアルーシュとお揃いになる白雪の簪を髪に飾る。
 大分数の減ってきた簪コレクションを見つめ、深緋は次々と叫びながら挑戦者に向かい合う。
 そしてそんな深緋にマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は花束「薔薇の祝福」を差し出した。
「差し出がましいかもしれませんが、妹様へのプレゼントに如何でしょうか」
 腕一杯の大輪の薔薇は、もらったら確かに嬉しい一品だろう。
 自分のものとしてではないとはいえ、手渡された深緋も思わず頬が綻ぶ。
 負けが込んできた今、それほど高いプレゼントはもう望めない。
 けれどこの花束を鳩羽が受け取ったなら、きっと喜んでくれるだろう。
 負けすぎてピリピリと苛立ち始めていた深緋だったが、マルカの心遣いには素直に感謝。
 でも勝負は別だとふふんと笑う。
「まぁ、勝ちましたわ!」
 ぱちんと指を鳴らして喜ぶマルカは、すぐにはしたない真似をしてしまったと頬を赤らめる。
 次の挑戦者は冷静な魔術師。
「‥‥ルールは大体覚えました。覚えてない分はラシュディアが覚えてくれていると信じます」
 保護者を名乗る恋人に付き添ってもらって、ジレディア(ib3828)はおそるおそる花札を手に取る。
 ルールもうろ覚えだと言うのに、その手札は見事深緋を打ち負かした。
 恋人からもらった枝垂桜の簪以外は身に付けないかもしれないが、深緋が選んだ簪をジレディアは大切に仕舞いこむ。
 そして自分の番が来たウルシュテッド(ib5445)はその緑の瞳でじっと深緋を見つめる。
 手札と深緋を見つめるその目線に、深緋、年甲斐もなくあたふた。
「簪を質草に借金した方がいくらかマシな気もするが‥‥そうだな、もしまだ入り用ならもう一勝負300文でどうだい?」
 勝負事には強そうだというのに三回も負けたウルシュテッドは深緋にもう一勝負持ちかける。
 お金はいくらあっても足りない深緋は二つ返事でもちろんOK。
 けれどなぜかその勝負も深緋の勝利。
 正直、深緋の悪運だけでは済まされない何かを感じるぐらいだ。
「ははっ、完敗だな。ま、悪い気はしないけれどね」
 勝負の金は妹への贈り物に使われるのだからと笑うウルシュテッドは、もしかしたらわざと深緋に勝たせてくれたのかもしれない。
 そして最後の挑戦者は一癖もふた癖もありそうなアーニー・フェイト(ib5822)。
「面白そーなコトやってんじゃん。あたしも混ぜてよ」
 にかっと笑うアーニーに、深緋はじと目。
 それもそうだろう。
 アーニーの手先の器用さは折り紙つき。
「‥‥このカードじゃあイカサマでき‥‥いや、ジョークだって。あたしもうっさい猫のおセッキョーは聞きたかないしさ」
 信じろよコキヒーと笑うアーニーに、深緋は苦笑して手札をめくる。
「にしし、これでボロ儲けってね。くれるカンザシはあんたが選んでいーよ」
 やっぱり負けたわと悔しがる深緋にチェシャ猫スマイルを披露して、アーニーは琥珀の玉簪を受け取った。


●市場でお買い物。探し物は見つかるでしょうか?
「あんま高いもんの目利きはできねーけどさ。他のもんなら目利きと値段交渉ぐらいは手伝うよ」
 そう言いながら買い物に付き合ってくれたアーニーは、アメトリンの望遠鏡を手に、深緋と鳩羽を手招きする。
 その鳩羽の手にはマルカが用意してくれた薔薇の祝福の花束が。
 もうそれだけでも十分に鳩羽は嬉しそうだ。
「一緒にお買い物連れてってくれません? 上の姉の誕生日が4月20日なのですが、良い物がなかなか見つからなくて‥‥助言戴ければ幸いです」
 そう言う礼野の姉は、どことなく鳩羽に似ているらしい。
「お姉様? 嫋やかな美人です。声荒げた事見た事ないです。漆黒の髪と青い瞳、髪はまゆより長くて。動く事は殆ど無いですね。一応志体持ちですけど病弱で総領娘ですから地元で巫女やってますの」
 姉を想って色々と悩む礼野に水姫の髪飾りを奨めてみる。
 色鮮やかな貝や珊瑚を用いて作られたその髪飾りは、あまりジルベリアでは出回っていないのかもしれない。
 定価より遥かに高い値段で露店に置かれていたそれを、アーニーが見事に定価まで値切ってみせる。
 深緋たちとは別行動で、開拓者達も各々市場を見て回る。
「エリナは何か欲しいものとかあるのか?」
 花札勝負では格好悪いところを見られてしまったルオウは、ちょっと照れながらエリナに尋ねる。
「ルオウのくれるものならなんでもいいかな」
 本当にそう思っているのだろう、エリナは自分のものよりもルオウが欲しがっていた凝集の篭手を見つけて大はしゃぎ。
「じゃあさ、この綺麗な帯なんかはどう? エリナの青い瞳に似合うと思うんだ」
 墨染色の布地に青い花が描かれたその帯はどことなく儚げな雰囲気を漂わせ、その青さがルオウの目を惹いた。
「ほお。これはまた、良い酒を仕入れているな」
 食料品売り場をうろついていたからすは、その美酒の香りに目を細める。
 美酒に浮かぶ桜を見れば、恐らく酒「桜火」に違いない。
 即座に購入したその背には掘り出し物の弓「桜姫」。
 本当は美麗な花札を譲ってもらいたかったのだが、二つも掘り出し物が手に入ればまぁ良いほうだろう。
 からすは満足げに一口、酒に口付ける。
「そういえば、服も欲しがっていましたね」
 ほわわんとした和奏は、光華姫に唆されて、勝負に買っても負けてもいろいろおねだりされている様だ。
 けれど騙されていることなど気づかずに、美麗なドレスを手にとって選んでいる。
 そのドレスが人妖に着れるかどうかは、きっと突っ込みを入れちゃいけないのだろう。
「扇は集めてるんだけど、なかなか揃わないのよね」
 ここでなら揃うかしらと、ユリアは扇の飾られた露店に足を止める。
 そのバックには、既に色々な堀り出し物がたっぷりと詰まっていた。
「ねーねー、こっちのほうが可愛いくない?」
「これも良いですよー」
 双子のアーシャとアイシャは洋服をそれぞれ手にとって、相手の身体に合わせている。
 メイド服をあわせられたアーシャはよほど気に入ったらしく、即購入。
「あれ? これ、もしかして‥‥」
 ウィンドウショッピングを楽しんでいたアイシャは、ちょっと変わった足袋に気がつく。
「理穴の足袋? でもあたしが探しているのは埋穴の足袋なんだけどなー」
『理』穴の足袋と『埋』穴の足袋。
 似ているようで違うような。
 値段も相場の二倍近くで、怪しさ倍増。
 けれどもアイシャはえいっと勝負がてら購入!
 花札勝負の後でちょっぴりギャンブラーになっていたのかもしれない。
「すみません、お嬢様方。ちょっと試着してくるっと回っていただけませんか?」
 アーシャとアイシャの荷物もちを快く引き受けていたアルセニーが、二着のドレスを手に二人に尋ねる。
 その頬が、やっぱり赤い。
 すぐにピンと来た二人がユノードレスとオータムドレスをそれぞれ試着してアルセニーの前に立つ。
 モデルが良い為かどちらも魅力的なドレスに見え、悩んだ末にユノードレスを購入。
 簪は手に入らずともアルセニーの最愛の人はきっと喜んでくれるだろう。
「見たいところ、ですか? では‥‥」
 恋人に尋ねられ、ジレディアは本屋へ向かう。
 彼女の目的は魔術書。
 高望みしすぎかもしれないけれどと探す彼女を、恋人も一緒になって手伝う。
 埃の山の中に埋もれた古い書物は、か弱いジレディアには探しきれるものではなく、恋人が手伝ってくれていなかったら目的のものを手に入れられなかったかもしれない。
「真名さん、このブローチなどいかがでしょうか」
 春物のブローチを二個手にとって、アルーシュは真名に一つを手渡す。 
 桜色の宝石がついたそれは、ほんわかとした雰囲気を持つ姉妹によく似合っていた。
「おっ、結構いい色合いだねぇ。おいちゃん、こいつはいくらだい?」
 不破は路上に並べられた飾り紐に目を留める。
 色取り取りの鮮やかな飾り紐は一本だけ選ぶのはちょっともったいない。
 値段もそれ程ではないしと、不破は二本購入してみる。
 その内の一本は何か妙なもっふらとした感触の不思議な毛触りの飾り紐だった。
「美味しそうなお菓子が一杯だったんだよ、あはは♪」
 両手一杯にお菓子を抱かかえ、琉宇は楽しげ。
 全部を食べきるには、数日かかりそうだ。
「随分と大量のお荷物ですわね」
 少し持ちましょうかと、マルカはウルシュテッドに尋ねる。
 ウルシュテッドの両手と鞄には、これでもかというほど様々な荷物が。
「ん? ああ、姪からの頼まれ物もあってね」
 数だけ見ればそれ程多くはないのだが、どうやらかさばっているらしい。
 特に多めに買ったチョコレートは割れないように入れているようなのだが、はてさて何個残るのか。
「今日はみんな、本当にありがとうねぇ♪ また稼がせてもらうわよーぅ?」
 懲りない深緋の言葉が市場に響き渡って、開拓者達はめいっぱい苦笑するのだった。