|
■オープニング本文 そう、それはとある詐欺集団から更正し、奇術団となった彼の呟きから始まった。 「なんか、風邪っぽいんすよね‥‥」 いいながら、小柄な彼はごほごっと咳を出す。 よく見ると顔も赤いし、目がぼーっとしている。 「お前、熱もあるんじゃ‥‥?」 リーダーたる痩せぎすのおじさんは仲間の体調にはっとする。 咳の感じからそれほど重くはないとしても、馬鹿にはできない。 風邪をこじらせたせいで、彼の幼い子供が以前死にかけたこともあるのだ。 そしてよくよく周囲を見れば、仲間達全員、顔色が悪かったり赤かったり。 「‥‥まて、お前たち。もしかして全員‥‥ごほごほっ?!」 言っている側から、おじさんも咳。 「まずい、まずいぞ。これでは興行できん‥‥」 焦るリーダーだが、焦ったところで病気は治らない。 けれど全員この状態で奇術を披露するなど不可能で、そして休めばその分見に来てくれているお客の信用を失うのだ。 しかも本当に不味いことに、近日噂を聞いた有力商人が娘を連れて見に来てくれることになっていたのだ。 以前迷惑をかけてしまった分も、良い公演をしたかったのだが‥‥。 背に腹は変えられない。 おじさんはリーダーとしての威厳を持って、開拓者ギルドを訪れるのだった。 |
■参加者一覧
アルセニー・タナカ(ib0106)
26歳・男・陰
伏見 笙善(ib1365)
22歳・男・志
鈴歌(ib2132)
20歳・女・吟
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
宮鷺 カヅキ(ib4230)
21歳・女・シ
アーニー・フェイト(ib5822)
15歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●まずは衣装を借りちゃおう。あ、お見舞いもだね! 「おっちゃん達、ちゃんと飯食ってるかー?」 ぽんっと勢い良くドアを蹴り開けて、部屋の中で寝込んでいる五つ星奇術団の団長にアーニー・フェイト(ib5822)は思いっきりタメ口。 家というより小屋と呼びたくなる小さなその部屋で、団長は赤い顔をして寝込んでいた。 「アーニー様、お行儀が悪いですよ? 幼子が真似をしてしまいます」 そんなアーニーの素行を帝国貴族に仕える執事・アルセニー・タナカ(ib0106)はやんわりと嗜める。 でもその瞳は笑っていたり。 ちなみに幼子とは団長の一人息子君。 以前アルセニーのお陰で元気になった彼は、今は一生懸命お父さんの額の濡れタオルを取り替えていた。 「だってさー、あたしの両手塞がってんだもんよ。スズカー、半分もってくんね?」 アーニーはくすくすと笑っていた鈴歌(ib2132)に荷物を半分、強引に押し付ける。 押し付けられた鈴歌は、 「随分沢山のリンゴやなぁ」 愛らしい黒目をちょっと見開いて、紙袋に詰め込まれたリンゴの山を覗き込む。 両腕でしっかりと抱きかかえられたそれからは、随分と甘い香りが漂っていて羽喰 琥珀(ib3263)の鼻をくすぐった。 「なぁなぁっ、おっちゃん。一個もらってもいいかっ?」 わくわくっと黄色と黒の縞々尻尾を振る琥珀に、 「興行が終わったら皆さんで頂きましょう」 ふふっと微笑んで宮鷺 カヅキ(ib4230)はアーニーに「本当に値切り上手でしたね」と感心する。 団長の家に来る時、みんなで今日から興行する市場を通って来たのだが、そこの果物露店でアーニーが思いっきり値切りまくって団長達へのお土産にと買って来たのがこのリンゴの山なのだ。 「だってよー、あの露店絶対ぼってるって! いくら輸送に金かかるったって天儀の二倍はやりすぎだよ。でも味は確かだったんだよね。だから買うならあそこだと思ってさー。おっちゃん、このリンゴは全部土産だからさ。ガキと一緒に食ってろよ。その間にばっちりコウギョー成功させてくるからさ。とりあえず衣装一式貸してくんね? ぶかぶかでもいーからシルクハットとテールコートあるかな?」 寝台の側のテーブルにリンゴの詰まった紙袋を置いて、アーニーはきょろきょろと部屋を探す。 起き上がるのも辛そうな団長に断りを入れて、クローゼットから琥珀が衣装を持ってくる。 「まあ、団長殿は安心してミー達に任せるといいよ」 伏見 笙善(ib1365)は借りたマントを手にとって軽くウィンク。 ●世紀の奇術ショー、開催☆ いつも五つ星奇術団が興行をしている市場。 そこはさまざまな露店が立ち並び、今日も大いに人で賑わっていた。 「大勢の前で何かをするのは初めてです。上手くいったらサイドビジネスにしようかなー‥‥楽しみですね」 そのクールな表情からは読み取れないが、カヅキ、かなり緊張しているよう。 打ち合わせは完璧にしてあるのだが、大勢の前で何かをするというのは誰しも緊張するものだ。 その隣では、鈴歌が口笛を歌いだす。 優しげで、けれど楽しげでもあるその口笛は、これから何か始まるのかと集まりだし始めた人々の心を和ませる。 そしてリュートを奏でながら市場を練り歩いて客寄せをしていた琥珀が、沢山のお客様を引き連れて戻ってきた。 「さーさー五つ星奇術団の世にも奇抜な奇術の数々っ! 見なきゃ損するぜ〜っ」 その腰には、沢山のハート型チョコレート。 食べても美味しいけれど、ラッピングされたそれは道化師風の飾りにも見えて、目立つ目立つ。 もともと旅一座の出身の琥珀は器用に折り紙を折って集まった子供達にプレゼント。 「はいはいみなさ〜ん!! 五つ星奇術団の奇術ショーがもうすぐ始まりますよ〜♪ お誘い合わせの上こぞっていらっしゃってくださいな〜♪ お、そこの綺麗なお嬢さん奇術ショーどうですか〜♪」 笙善はいつの間にかさくっと作成しておいたのぼり旗をひらめかせ、琥珀とは反対側の道から姿を現す。 その後ろにはやっぱり興味津々のお客様達。 開拓者達の呼び込みにぞくぞくと人が集まって来た。 ふひひっとアーニーは笑って、集まった観客を惹きつけるべくダンシングステッキ。 団長から借りた衣装はぶかぶかでサイズがまったく合っていないけれど、それすらも芸の魅力として写るほど楽しげにステップ。 タラッタ、タッタタッタンタッタン、タラタラタタタタタンタン♪ 鈴歌のハープに合わせてステッキをくるっと回してアーニー、ひょうきんに決めポーズ☆ 観客から拍手が沸き起こる。 「さあって、改めてショーカイをっ。五つ星奇術団を救わんと友人たちがこの街までやってきたっ! ぶっ倒れたおっちゃん達の代わりに、今日はあたし達がコウギョーをつとめるぜ。みんな、よろしくー!」 アーニーの紹介にあわせ、アルセニー、琥珀、カヅキ、鈴歌、笙善、綺麗にそろってお辞儀。 さぁ、開拓者達の奇術劇、始まり始まり♪ ●演目はいっぱいあるよ♪ まずは一番手。 魅惑の催眠術師・カヅキ! 「では、本日は皆様に催眠術をおかけしましょう。まずはそうですね、伏見さん、こちらへ」 カヅキに呼ばれた笙善はおずおずと用意された背もたれつきの椅子に腰掛ける。 そして観客からは既に「えっ」と声が上がる。 それもそのはず、さっきまで男性だったはずの笙善、いつの間にかきっちりと女装。 顔立ちこそ変わっていないから本人だとわかるのだが、見事な美女っぷりに驚かずにはいられない。 そんな観客達に笙善はにっこりと営業スマイル。 「では催眠誘導を行います。まずは深呼吸してリラックスしましょうか。しばらくの間言う通りにして下さいねー」 鈴歌がより一層催眠効果を高めてくれそうな、ゆったりと、そして静かな音楽を奏でる。 「あぁ、そちらのお客様。素敵なネックレスですね。そちらをお貸しいただけますか?」 カヅキ、最前列にいた女の子からネックレスを借りる。 ころっとしたペンダントトップがついたそれは、催眠術の小物にぴったり。 「ではコレを、目を逸らさず良く見て下さい。見つめていると、目が段々疲れてきます」 いいながら、カヅキは笙善の目の前にネックレスをぶら下げる。 「ふっ。私にはそんな催眠術なんて効かない‥‥」 笙善は余裕で指示に従って、ネックレスをガン見。 「‥‥とても目を開けていられません。まぶたがどんどん下がり、目が閉じてしまいます‥‥」 ゆっくり、ゆっくり。 そして一定間隔を持ってゆらしながらだんだんと目線を下げてゆくカヅキの動きに、笙善、マジでうとうと。 「目を閉じると体の力が抜けて楽になります。疲れも取れます。開こうとするほど開けることができません‥‥」 いわれるままに、体中の力が自然と抜けてゆくのが見ている観客にも良く判る。 「そのまま閉じているともっと力が抜けて、気持ち良くなってきます。背もたれに寄り掛かってリラックスしましょうか」 普通の口調のようでいて、けれどなぜか抗うことが出来ない。 「あまりに気持ちが良いので、段々と眠たくなってきます。とても眠くなります。このままほんの少しだけ眠りましょうかー‥‥」 かくりっ。 すやすやと寝息を立てて本当に眠ってしまった笙善に観客からは驚きの声が上がる。 けれど熟睡している笙善はその声では目覚めない。 そう、カヅキの声でなければダメなのだ。 見事に催眠術が成功してほっとしつつ、カヅキは笙善の肩を叩いて催眠術を解く。 「あわわわ‥‥ほんとに眠っちゃったわ〜、カヅキ殿、恐ろしい子‥‥!!」 ほんとに眠ってしまったことに驚いて、笙善はしみじみとカヅキを賞賛。 観客からは拍手が鳴り響く。 ●来たぞ、有力商人親子! さあ、楽しませることは出来るかな? (あれは、先日の依頼人) 開拓者達がつぎつぎと奇術を披露する中、控えめに観客に混ざった有力商人とその娘をアルセニーは確認する。 以前の仕事で商人のほうとは一度会っていたから、すぐに判ったのだ。 お金持ちだというのに人が良く、決して傲慢に割り込もうともせず、商人と娘は開拓者達の興行を見ている。 (では、楽しんで頂きましょうか) アルセニーが一歩前に出る。 その手には人魂で作った蝶。 その蝶はひらひらと輝き舞って、商人の娘の頭に止まる。 「虹色に輝く蝶の髪留めです。ステキなお嬢様、こちらへどうぞ。お父様もご一緒に」 急に呼ばれた商人の娘・フレッタはその大きな瞳を輝かせて奇術団の舞台へ。 商人も娘に引っ張られて前に出る。 「この子を預かっていただけますか?」 人魂でもふらを模した式を作ったアルセニーは、フレッタの手にそれを乗せる。 「お父様、ハンカチをお借りできますか?」 真っ白なハンカチを借りて、アルセニーはフレッタの手にそれをかける。 「お父様の自らの手でどうぞ」 そのハンカチを取るようにと、商人を促す。 「では、1、2、3!」 商人はなにが起こるのかと少し戸惑いながら、娘の手の平のハンカチをそっととる。 もふらはそこにはいなくなっていた。 戸惑う商人にアルセニーは微笑む。 「はい、ミニもふらはここに移動しました」 観客と商人から死角になるように背中でミニもふらを再生して、アルセニーはちょこんと自分の頭にそれを乗せる。 その瞬間、観客から再び歓声が沸き起こった。 「この印、よっく覚えておいてくれな〜。今からこれが瞬間移動するからさ」 琥珀はトランプのマジックを披露。 もちろん、相手はフレッタ。 舞台の上にいたフレッタにそのまま協力をお願いしたのだ。 「さあ、好きな絵柄を選んでくれよ」 フレッタに好きな柄を選ばせると、それをあちらこちらに隠しておいたカードから見事に選び出す。 もちろん、種はあるのだが、観客にもフレッタにもわからない。 驚きと歓声で更に更に会場は沸きあがる! 大いに盛り上がり成功する興行に有力商人親子も大満足。 「我らの友人フレッタにも盛大な拍手をっ!」 |