タイトル:ロジック66−5<黒>マスター:雨龍一

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/25 23:57

●オープニング本文


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 いつから暗闇の中を平気になったのだろうか。
 いつからまっすぐに物事を見れなくなったのだろうか。
 純粋なあの子が、いつも憎らしい。
 他の者から守られている、あの子が嫉ましい。
 だけど‥‥

 僕は今、そのことよりも彼らの意図を知りたかった。

「この施設たちから発見されたのは、これだけなのか?」
 ニコール・デュポンは施設の捜査に入った部隊に聞いていた。この度は、生きたままのβを捕獲できるとあり、なるべく刺激の無いように試みたものの、最終的にはやはり無駄に終っていた。危険を避けて中を調べるには、時間が掛かっても除外しなければならなかったのだ。
 各施設では、この実験体βの居た場所の下に、隠し格納庫が存在していた。
 その中に有った物は何かのパーツとなる存在であった。
 それを、現在まで4つ。つまり一施設一パーツが集まっていたことになる。
 現在それの組み立て方は不明であるが、どうやら同じ物体の部品であることだけはわかった。
「製作者は、何を意図してこれを各施設へと収めたのだろうか‥‥」
 プラスチックのボディーに覆われつつも、金属を内包されしその部品は、メタリックな塗装により綺麗に磨き輝いていた。


 ニコールは幼少をイギリスで過ごしていた。
 それは、ポール・アブディール、ノーラ・シャムシエルと同じ、イギリス・ロンドン。
 近所に住んでいただけではなく、幼い3人には共通の遊び場があった。
 それは、同じく近所に住む変わり者、ミハイル・セバラブルの家だった。
 へんちくりんで年上のクロリア・ドースンは、まだ幼い妹のシェネスティーンと共に三人の面倒を見つつ、自分の養い手となったミハイルの後を追って類稀なる知識を蓄えつつあったのを覚えている。
 いつも、どこにいくも一緒だった。
 そんな関係が変わったのは‥‥
 恐らくノーラが寄宿生の女学校へと移ることが決まったころだったと記憶していた。
 それはある日突然の出来事。
 突然血相を変えたミハイルが帰宅すると、止めるクロリアを無視して家を飛び出したのだ。
 それに続いてニコールの家でも、異変があった。
 ニコールの父が変死体となって発見され、そしてその後日、母が何も告げることなくニコールを連れ、逃げるように故郷であるイタリアへと移ってきた。

 父は、薬品会社の重役としての地位に居た。そして、それは暖かな家庭を築いている上で、裕福さを齎していた。そして、父の死後もそれは保障されるとの話があったのを覚えている。なのに‥‥。
 母は、自分を連れて逃げた。

 そこからの貧困生活を思うと、震えがこみ上げる。
 軍に入れば‥‥この生活から逃げ出せると。
 その思いだけで入り、そして‥‥
「あの時、あいつを殴って左遷‥‥今に思えばいい転機だな」
 最初は、左遷先のファイル整理だけのはずだったのに。
 そこから導き出されたのは、自らの家族を切り裂いた者へとたどり着く、僅かな糸。

 母が亡くなる直前に呟いた言葉が、今でも忘れられない。
「父さんは、会社に殺されたの‥‥」
 あの会社には、悪魔がいる。
 それが、何故か今耳に蘇る。

「ペンテスト。そして‥‥サイクル‥‥」
 広げた地図に書き加えられたのは5番目と、6番目の位置だった。


_______________________________________

 〜CUATROへと送られていたメールからの抜粋〜

 内包したものによって、βは光を嫌い始めたのは間違いない。
 光を当てると、身を縮めるのだ。
 この実験体は何を示すのだろうか。
 βの情報を、そちらより頂きたい。
 こちらの媒体は、謎が多い。

 今は、施設内の光さえもつけられない状態だ。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN

●リプレイ本文

「錬金術、ね‥‥不老不死、さもなくば永久機関でも作ろうってか?」
 百瀬 香澄(ga4089)は地図を片手に呟いていた。
 地図に書き記されていたのは全部の施設の位置だった。そして、その横に記入されたのはその施設の床に描かれていた文字。いや、記号といってもいいのかもしれない。
「5番目で665‥‥次は獣の数字か」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の言葉に、他の者も頷き返した。そう、この施設でのキーは『665』。次の施設で使われるのは明らかに‥‥
「悪魔のロジック‥‥覆したい」
 くしゃっと静かに握りつぶされたのは、まだ火が付いてそんなに経っていない煙草。いつもより真剣な様子が、ホアキンの鋭い視線から読み取れるようであった。



 潜入は、地下から行われた。
 それは、近場の下水溝からもぐりこみ、チェックしていた上へと抜ける。下水路の地図で言うと、丁度出口の番号がその施設の中庭に通じているようなのだ。
 警備パターンは少し遠くではあったが高台からの偵察により確認、詳細に書き起こしている。

 段々と警備が厳しくなっていっているのはみな感じ取っていた。それは、最初の施設から警戒が始まっているのであろうことも。
 ニコールは、この仕事を頼む時に不意に一言漏らしていた。
 『ペンテスト』と。
「故意なのだろうか‥‥掌で踊らされているというのか? 好かないね‥‥」
 用意した地図に細々と書いた詳細注意点。周りから調べられるものは、全て記載していた。深夜に動くのだ、より注意を必要としていた。
 下水道はしっとりとした空気を纏い、身に重さを染み渡らせている。深夜遅くという時間帯も有り、水の流れが余計寒さを感じさせていた。
 調べていた番号へと近づいた時、素早く合図を促す。時計を確認し、警備員の動きを記憶から呼び覚ましていた。
「少し待っててくれ」
 そういい促すと、フェイス(gb2501)は先に様子を窺うために顔を出すことにした。
 ゴトリと鈍い音を出しながら、上へと持ち上げ横にスライドさせる。冷たく重い感触を掌に感じつつ、なるだけ音を立てないように腕の筋に力が入った。
 時間的には警備員が巡回する時間までまだあった、少し出来た隙間から様子を窺う。


 潜入は二手に別れることを決めていた。
 正面側を回り込んだのは風代 律子(ga7966)と百瀬、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)、非常口をホアキン、終夜・無月(ga3084)、フェイスが回る。

 正面側では、監視カメラに注意しつつあらかじめニコールより借りていたカードキーを利用していた。そのおかげかスムーズに潜入は成功を収める。
 一方非常階段のほうへと回った者たちは、監視カメラを避けつつ非常階段の所に降ろされた鍵をどう開けるか考えていた。
 点灯した灯りに照らされ、細部を確認するように扉を見つめる。
 電子ロックにより施錠されてはいるものの、カードキーを入れる場所は見当たらない。監視カメラには、フェイスのペイント弾を用いて時間稼ぎを行っていた。置かれているのは、扉の横にある電子パネルだけである。つまり‥‥
「暗証番号だけで開くタイプだったのか‥‥」
 恐らく別に鍵穴があるとか想像していたのだろう。ゆっくりと息を吐き出すと、徐に番号を入力した。

― 665 ―

 エンターを押した後、鈍い電磁音が開錠を告げた。三人は顔を見合わせると、駆け上がるように上の階を目指していく。
「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
 終夜は、見守るような輝く月にそう祈りを込めた。

 内部は広く、風除室からエントランスと入るところのドア部分で自動ドアは既に動きを止めていた。軽く目配せすると、ユーリが素早く工具でドア部分に隙間を作る。そこに割り込む形で身体を入れると、続く2人が警戒を怠らずにすり抜け内部へと侵入した。
「なんだか忍び込みにも慣れてきた‥‥っと、油断は大敵だな」
 手馴れた様子で監視カメラの死角に立ちながら、百瀬は感じていた。いつの間にか忍び込むことに、慣れてきたのだ。既に5施設目となっている、当然であろう。素早く辺りを確認すると、ユーリが探査の眼を用いて辺りの様子を確認し始める。見落としは無いのか‥‥何よりも、監視カメラがどこについているかが探るのが大事だった。

 青地図を頭の中に叩き込んでいるものの実際の動きとなると、中々難しさが生じる。何よりも、建物の中の感覚というのは実際体験しないと図り取れない部分が多いからだ。この施設の内部に入ったとき、フェイスはあまりにも角質的な空気に驚きを感じた。無機物なのだ。
 研究施設といえど、人間が集う場所でこのように肌に刺すものが冷たいのは異様である。そんな考えを頭で降り消し、内部の様子を窺い見る。
 たどり着いた三階にあったのは、正面にシャワールーム、そして給湯室。階下へと続く階段が目に入った。
 角を曲がるとそこには2つの大きな扉が見える。もう一つ小さい部屋が通路を挟んで反対側に有った。青地図によると一つは談話室、もう一つが目的の制御室である。小さい部屋が恐らく所長室であるのだろう。
 扉は、やはりカードキーを要していた。その横にパネルで暗証番号を打ち込む仕組みである。階段から、ゆっくりと上がってくる人の気配を感じると、終夜は警戒態勢を見せた。
 カタリ、と鈍い音を発すると同時に暗闇から現れたものへと攻撃態勢に変わり‥‥
「ま、まって!」
 小さい声に気付き、態勢を解除した。
 それは、正面突破組だったのだ。
 ふうと、胸元を撫で下ろしつつ、ホアキンは百瀬に目配せをする。
 こくりと頷くと、胸元からカードキーを取り出し、電磁ロックを解除することに成功した。
 内部に入ると、既に予測されていたのだろう‥‥横から常駐していた警備員が鈍器を振り下ろしてくる。それに対し、先導をしつつ入った百瀬が素早く瞬天速を発動させ、間合いをつめ感覚を鈍らせると、手刀を首の後ろへと振り落とした。
 崩れ来るのを終夜が受け止めつつ、風代が後ろ手に縛り上げる。
 急いでユーリが制御室のモニターを見に走ったが、他の警備員は気付いていないらしいことにほっとした。どうやら、この警備員はこの部屋に入ってくるのに気付き迎え撃てば済むと思っていたのだろう。
 もし、応援を呼ばれていたらと思うと少々ぞっとしかねない。

 ホアキンは席に着くと次々とパスコードなどを変更していく。ユーリも同様に手伝いつつ、百瀬達はモニターに映った各部屋の様子を見て監視カメラの位置を改めて手元の青地図に書き記していった。どうやら、先程のは非常階段を登った先の扉を開けたときに気づかれたようである。そのモニターだけが、拡大画面で映されていたのだ。
 各部屋のコードを変えつつ、流石に深夜であまりいないものの若干残っている研究員の姿を確認し、注意と部屋に書き記していく。
 そして、ある程度の下準備が終ったところで、目的の物を探す準備へと取り掛かった。

 階下へと降りるエレベーターはまさしく制御室の内部に設置されており、そこから風代とユーリは下へと降りる。同時に各部屋の調査を終夜とフェイスが、所長室を百瀬が調べる事で話は済んでいた。無線の周波数を再び確認し、各自担当した場所へと去っていく。


「タイム制限!? それは聞いてないぞ!」
 降り立った先のドアに書かれていたのは、室内に入れる時間が書かれた大きな電磁扉であった。制限時間は10分。その間に何を調べられるのだろうか。
『とりあえず、現在その内部には人がいないようだ』
 ホアキンは、監視モニターで地下の部屋の様子を見ながら伝える。
 赤外線カメラなのだろうか、モニター部分ははっきりと見て取れないが、蠢くものを部屋の中心に移しつつ、中には人らしき動きがないことを示していた。
 エレベータ自体の制限はかかっていない。そう、その先へと続くドアが制限かかっているようなのだ。
「制限かかるような、そんな物体でも使っているというのか‥‥」
 今までの施設と違い、この度のβはあまりにも変な習性を身につけている。
「光を嫌。う、ねぇ」
 思い出した言葉。そして‥‥
 ごくりと飲み込んだ唾の音が、やけに響いたように感じた。
 ゆっくりと電磁ロックに暗証番号を入力する。鈍い音、そして‥‥扉が開いた。

 無線機を通じて、ホアキンは資料が有りそうな場所などを示唆していく。入り口に置いた、大きなライトにより照らし出される室内。不思議な音が、室内へと響き渡っていた。
『熱源が‥‥どうやらβが熱を発生しているようだ』
 その現象に気付いたのはもうすぐ時間が終わりを告げようとしたときだった。
 電子機器からは手持ちのメモリーカードへとデータを移転しつつ、βの入っている巨大なガラス容器を外から内部を取りつつ、できる限りの調査を行っている時である。
 連絡によってモニターを見ると、ガラス内の温度が上昇していることを示す数字が現れていた。
「光を‥‥嫌うじゃなく熱源へと変えているのか?」
 もし、嫌うという言葉が別の意味を示していたとしたら‥‥
「残り1分、撤退するわ」
 風代の言葉に慌てて回収したデータを手に持ち、エレベータの方へと駆け寄る。膨れていくβを感じつつ、その場を後にしようと。
「無理はしない。あくまで探索が目的なんだから」
 その言葉にしかと頷き返しつつ。

 引き上げてきた地下探索組に合流するように他の研究室を調べていた終夜とフェイスが戻ってきた。
 百瀬も所長室を中心に調べてきており、手には色々な資料を詰め込んだカバンを持っていた。


 パーツは回収できなかったものの、様々な資料を回収できたことに、ニコールは感謝を示す。そんな彼女に百瀬は一言呟いた。
「そろそろ、話してくれてもいいんじゃないかい? わかってきていることを」
 ゆっくりと視線をあわせながら、ニコールは席へと着いた。それに伴い、6人も席へと着く。
「これは、恐らく前から企まれていた実験が表に出てきただけの話だ」
 取り出したのは一つのファイル。そこには、企業の名前だけが書いてある。
「この企業、GMSはイギリスにある大手製薬会社だ。調べてもらった結果、ここが全ての根源であると予想されている。そして、同時に最近まで起き続けていたイギリスでの殺人事件の企業の株主であることも恐らく関係しているだろう。この施設たちから集められた研究者、技術者たちが関わった施設ばかりから被害者が出ているようだね」
 ファイルをぱらぱらと捲ると、そこに書き記されていたのは一連の事件についてだった。そして‥‥
「僕の父は、ここの重役を務めていたことがあったんだ。まぁ、小さいころに死んだんだけどね。その頃に、母がよく言っていた言葉を思い出したよ。――『悪魔が襲ってくる』ってね」
「一体、何が関係あると思っているんだ?」
「それは、今回得た資料によって関連付けられたと僕は思っている」
 そう言って取り出したのは、所長室で百瀬が見つけた一つの本、日記であった。
 その表紙に描かれていたのは、まさしく今回の施設たちが作り出しこの地に浮かんだ図形。二重円に縁取られた、六亡星。
「これ、GMSの社章なんだよ」
 にっこりと微笑んで、印をつけた箇所を開き見せる。
 そこに書き記されていたのは‥‥

『βを解しての錬金術計画について』


「錬金術、なんてね。時代錯誤か、最先端か‥‥」
 フェイスは現れた図形を見つめて零れ落ちた。
 錬金術‥‥確かにそれは、古からの産物なのかもしれない。しかし、科学の発展はそれを失くしてはありえなかった事実が、そこにはあるのだ。
 理想を現実に、そして‥‥発展へ。
 錬金術師がいつしか、科学者と変わっていったように‥‥この施設たちの意味してきたものもまた変わっていったのだろうか。
 6番目の施設‥‥それを目指して。

「六亡星‥‥ですかね。オカルト趣味も、行き過ぎは勘弁です」
 紫煙を漂わせながら話すフェイスに、無言でホアキンも一本貰う。
 カチッとなった火花は、薄く煙草に灯し火を移し、消えていった。


 一体、軍として調べているのか、それとも‥‥
 ニコール・デュポンの行動は謎に包まれつつ、何かしらの終焉は迎えていきそうにあるようであった。