タイトル:【徳島】帝王最後の戦いマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/01/04 20:21

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 徳島沖の海底要塞は、誰も知らない間に危機に瀕していた。
「最下層のキメラの群れは制御できません。どうなさいますか、ボルゲ様」
 麗将モリンが問う間にも時折響く、何かの壊れる音。まるで地震の様に絶え間なく震える天井から、パラパラと何かの破片が落ちる。
『おのれ‥‥おのれ、キドンの奴めがっ』
 壁のレリーフが忌々しげに叫んだ。先の作戦で爆死した智将キドンは、幽閉後の洗脳されるまでの間に、仕掛けをしていたらしい。自らの死が引き金となって、徳島攻略に使用されて役に立たなかった『失敗作』の隔離されていた区画が開くように。
 要塞内部は仮面のような蝶と愛らしい直立猫が行き交い、怪力の牛頭人身があたり構わずハンマーを振り回す無法地帯になっていた。中でも杉キメラはもっと光が欲しいらしく大暴れしている。
「毒花粉は第三区画まで侵食しています。このままでは‥‥」
『ぬぐぐ、止むを得ぬ。下部は切り離し、海底要塞を浮上させるのだ』
 ボルゲの目が赤く光り、海底に沈みこんでいたエイのようなワームが海底から浮き上がった。腹に響く爆発音と共に、薄く広がったヒレ部分が左右に別れる。中央に残った平べったい円形のコアユニットが、ゆっくり浮上を始めた。その前面が、赤く光る。謁見の間のボルゲと似た顔状パーツが、四肢とともに突き出してきた。
「‥‥もう後が無いわね」
 ただ1人、ブリッジに残るモリンが呟く。長期作戦に必要な生活ユニットは下層に存在したのだ。
『この姿を晒すからには、もはや猶予は無い。決戦である』
 その様子は、当然ながらUPC海軍に探知される事となる。

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「ソナー大型ワームを確認。当初のエコーはビッグフィッシュクラスと思われましたが‥‥、現在は小型ワームクラス。分離した模様で、高速です」
「何だと。位置は!」
 問い返した護衛艦の艦長は、耳を疑った。
「阿南海岸!? 産卵にでも来るつもりか!」

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 砂浜に上陸したワームは、北を目指しかける。その足を止めたのは、海岸に打ち上げられた下部構造だった。キメラの半ば以上は溺死したのだろうが、残る物が相変わらず製作者の意図を離れて暴走している。無秩序に破壊と癒しとスギ花粉をばらまく様子は、すぐに徳島市民たちの知るところとなった。そして、徳島某所のある喫茶店にいる者たちにも。
「キメラの大発生?」
「そうだ。その発生源と思われるのが、亀のようなワームらしい。情報では、麗将モリンが目撃されているのだが‥‥」
 彼女がキメラと戦っていた、という話もある。そう付け足してから、『ドラゴン』マスターの八木は少し辛そうな顔をした。その正体を知って尚、店に訪れていた客としての『森 里美』を、まだ信じたいと思っているのだろうか。迷いを振り払うように、彼は一度だけ首を振って視線を上げる。
「これまでに無い規模の敵だ。奴らも決戦のつもりなのだろう。君たちだけが頼りだ。‥‥頼んだぞ、ルブラエンジェルズ」
 なお、護衛艦を初めとしたUPCの勇敢な皆様は行間で撃退されていた。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
アンジェリカ 楊(ga7681
22歳・♀・FT
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
御崎 栞(gb4689
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

●良い子にも判りやすく
 喫茶『ドラゴン』ののんびりした雰囲気は、バグア襲来の知らせにあえなく破られた。地元ローカルテレビが映し出す現地の様子には、無作為に暴れるキメラたちが映っている。存在を忘れられたとりかーねるを除いて。
「これまでの怪人オールキャストにボスらしき敵。いかにも最終決戦なシチュエーションね」
 ちょうどフレームに入ったボルゲワームへ視線を向けながら、智久 百合歌(ga4980)が言った。普通のタートルワームと違うのは顔パーツくらいなのだが、巨体の存在感はCGには無い迫力を御茶の間へ届けていた。普通のお子様なら泣いてしまうかもしれない。
「今時ただのタートルワームって‥‥。つまらないわね‥‥」
 が、その姿もいい加減見飽きてきたのだろう。ファルル・キーリア(ga4815)はそう溜息をつく。
「再生怪人に、タートルワーム。敵も追い詰められてるみたい」
 アンジェリカ 楊(ga7681)も首を傾げた。彼女達は、新しい着ぐるみが作れないほどに予算が枯渇した番組のような哀愁を、画面から感じている。
「打ち切り最終回だなんて言わせません‥‥有終の美の為 頑張りますね!」
 そんな空気を振り払うように、直江 夢理(gb3361)が加奈の手を取った。
「そ、そうね。うん」
 2人並んで、視線を客席側へ向けてみる。脳内カメラがあるのが恐らくその辺りなんじゃなかろうか。
「最終回! 決戦! これで燃えずしていつ燃えるのかっ」
 ぐぐぐ、と拳を握った斑鳩・南雲(gb2816)も、多分脳内カメラを意識している。
「‥‥許しません。絶対に」
 同じ方向を向いて、柚井 ソラ(ga0187)が呟いた。前回に自爆した敵の、キドンを思う。倒すべき敵ではあったが、仲間に利用されて死んだ彼の無念をソラは感じていた。
「決戦ですか‥‥これに勝てば徳島は平和になりますね。‥‥けど‥‥」
 観葉植物の陰になるテーブルで、御崎 栞(gb4689)が俯く。本の内容が頭に入らず、彼女はすぐに視線を上げた。ここで過ごした一年弱の間に、少女は『ドラゴン』マスターの八木へ、年の差を越えた仄かな想いを抱いている。
「上司がいない? 貴様のそれは何の為のバッジだ!」
 そんな彼女の視線に気付いた様子も無く、元軍人の八木はUPCへの電話に大忙しだった。

「ソラ君。今日が最後の決戦かもしれないから‥‥これ、持って行って!」
 クラウディア・マリウス(ga6559)の声に、ソラが振り返る。差し出された紙包みを受け取ってから、中を覗いた。
「‥‥あ。これは。‥‥ありがとう‥‥ございます」
 僅かな戸惑いと、それを振り切る決意。
「えへへ、良かった。喜んで貰えて」
 瞳の中の決意をくれたのは、クラウの微笑だった。包みを胸に抱いて、ソラが視線を上げる。
「もう、嫌だなんて言ってられないですよね‥‥、女装」
 包みの中には、前回同様に綺麗にクリーニングされたチア服が入っていた。しかし、今回は最終回だ。
「ああ、待ってくれないか、ソラ君。皆もだ」
 更衣室へ向かいかけたソラを、電話を置いた八木が呼び止める。
「‥‥こ、これは」
「随分、皆の制服も痛んでいるようだったからね。僕が注文しておいたんだよ」
 揃いのデザイン。襟や一部のカラーだけはパーソナルカラーに塗り分けられている。特注品だった。
「せっかくだから着てあげるわ。ところで、八木さん。全員分のマスクは用意してくれた?」
 凶悪なピンクガスマスクを手に、アンジェが言う。勿論、と八木が頷いた瞬間、彼の手元から一同が凄い勢いで制服を取っていった。
「これが新しい制服‥‥。金というのは少し、目立ちますね」
「ふふ、夢理ちゃんって忍者っていうよりニンジャよね」
 多分、加奈に悪気は無いのだろう。
「‥‥ええと、マスクは‥‥」
「ほわ。真っ白です」
 胸に当てたり、広げてみたりする一同は、八木の方へ視線を向けようとはしなかった。
「余計な物なんかつかなくってもこれで十分よ。そもそも、余分なウエイトは無い方がいいわ」
 妙に説明的な口調が誰のものかは、あえて語るまい。そして。
「‥‥どうして、八木さんに私のサイズが‥‥?」
 頬を染めて俯いた栞の意識は、仲間達とは別の方角に向いていた。
「私1人だけこの格好っていうのも恥ずかしいし‥‥。せっかくの八木さんの厚意だから、皆も受け取ったらいいと思うよ」
 最近、周囲の視線に気がついたらしいアンジェは執拗だ。自分が素顔になるのではなく仲間全員をガスマスクにしようと考える辺り、重症といわざるを得ない。そんな風に場が混乱する中で。
「私のガスマスク姿を、八木さんがどうしても見たいと言うなら‥‥」
「あ、いや。その‥‥。僕が見たいとかじゃなく。どうしてそうなるのかな」
 栞はさりげなく八木にファーストアタックを与える事に成功していた。そんな様子を百合歌が微笑んで見ている。
「えへっ。ちょっとは正義の味方っぽいかな? かな?」
 早速着替えてきたクラウは、背中につけたエンジェルウイングを揺らしてみせた。
「とても似合うわよ」
 代表して、百合歌が頷く。正義の味方っぽいかはさておき、実は成人とは思えないくらいに子供向け番組枠にマッチしていた。

 毒花粉の脅威を、アンジェがこれでもかと強調した結果。ドラグーン以外の面々はとりあえずガスマスクを受け取ってみた。が、この場で着けようとは誰もしなかった。
「いい、皆。徳島に平和を取り戻す為、絶‥‥」
「徳島の平和は私が! いや、私たちが守ってみせるよ!」
 百合歌よりも元気よく、南雲がどーんと胸を張る。まるで、忘年会で課長の乾杯を取ってしまったような微妙な気まずさが辺りに漂ったが、南雲本人は全く気付いていない。
「そういえば八木さん。KVの使用許可は‥‥」
 アンジェの言葉に、八木は溜息をつく。急過ぎたゆえか、KVの戦闘許可はすぐに下りなかったらしい。
「移動に使ってもらうのは構わないけど。現在、小松島の基地へ問い合わせ中だ。許可が出次第、知らせるよ」
「くっ。めんどくさいわね。亀なんかパパッと蹴散らしてビーチで遊ぼうと思ってたのに」
 ファルルが口を尖らせる。真冬の海で何をする気なのか、彼女はビーチパラソルに水着まで完備だった。視聴者サービスのつもりだとすれば、需要がどこにあるのかリサーチ不足と言わざるを得ない。
「パラソル‥‥。八木さんは、お嬢様みたいな人が好みなのかな」
 日傘を手に白の装いに身を包んだ森 里美、ことモリンの姿を思いだして、栞が溜息をつく。少なくとも、パラソルがあれば誰でも良いというわけじゃないと思うんだ。

●そして、CM前のワンカット
「やはり、ボルゲ一味の要塞は海中にあったか。念の為こいつで警戒していて正解だったぜ‥‥」
 新鋭機リヴァイアサンの機内で、夏目 リョウ(gb2267)はそう呟いた。護衛艦を撃沈した後、敵は一度南下してから西へ向かっている。その後を追うように、彼は自機を進め掛け。
「ん? ソナーに影‥‥巨大なマグロ?」
 ブリップが味方を示すグリーンに、そして固有アイコンへ置き換わる。
「‥‥そうか、彼も帰ってきたのか」
 心強い仲間の事を思い、リョウはメットの下で微笑した。マグローン(gb3046)のリヴァイアサンも、すぐにその巨体を浮上させてくる。

●砂浜の決闘!
 外海と内海の境界付近の波は高くも無く低くも無く、季節が良ければ、海水浴にもよかったかもしれない。ボルゲ一派の残党が上陸したのは、人里からも近いそんな砂浜だった。ちなみに、海亀が上陸するのはもう少し南、太平洋に面した辺りである。
「キメラ獣の制御は取り戻せません。どうなさいますか、ボルゲ様」
『‥‥構わぬ。このまま北上して徳島を火の海にしてやるのだ。これより徳島炎上作戦を開始する』
 波間に浮んだ丸い岩、のような風情のタートルワームから重々しい声が響く。その上に、肌も露わな衣装の美女がすっと現われた。
「はい、ボルゲさ‥‥っくしゅん」
 モリンが意外と可愛らしいくしゃみをしてから、不本意そうに周囲を見回す。海岸にいたキメラ獣すぎすぎの仕業だった。しかし、カットを撮り直す余裕は無い。
「そこまでよ、モリン!」
 浜に面した低い堤防から、百合歌の鋭い叫びが響く。
『現われおったな! 小娘め!』
「いえ、あれは小娘という年齢ではありません。ボルゲ様」
『‥‥小娘と年増め!』
 耳打ちされたボルゲがわざわざ言いなおす。結構律儀なバグアだった。
「いまどきタートルワーム一匹とか、舐めてるにも程があるわね」
 悠然と現われたファルルの声に、ボルゲの奇妙な笑い声が返る。
『ファファファファ‥‥馬鹿め。何の策も無くここに来たと思うたか。このワームには爆弾が仕込んであるのだ』
 馬鹿の一つ覚えだった。が、やられたら困る事に間違いは無い。
「そ、そんなことは俺達がさせません! あと、俺もいるので呼び名はもう一度訂正を求めます!」
『ぬぐぐ、後から後から増えおって。良かろう、このボルゲ自ら踏み潰してくれるわっ』
 ソラの申請は聞こえなかったらしく、ボルゲは唸り声を上げる。10m以上はある海岸まで、モリンがワイヤーで吊られたように華麗に跳躍した。
「ルブラエンジェルズ、今回で終わりにしてやるわ。この麗将モリンが名に賭けて!」
 手にした鞭が宙を裂く。ただ1人の彼女を迎え撃つように、堤防の上にチア服姿がずらりと並んだ。固唾を呑んで、ボルゲ一派はお約束を待ち受ける。
「皆、マスク忘れてるよ」
 静けさの中、アンジェの小声がやけに大きく響いたが、百合歌は聞こえない振りをした。

●連載終盤、今頃の名乗り!
「歳に触れたら熱血制裁。その辺だけ情熱の赤、ルブラバイオレット!」
「ちょっと、赤って言ったじゃないの!?」
 モリンが突っ込むと、百合歌はやる気無さそうにそっぽを向いた。
「えー、じゃあレッドでいいわよ」
 赤はレッドじゃないと子供達にわからないのです。全く、年を取るとひねく‥‥。
「清らかなる心は純白の翼。ルブラホワイト!」
 最後までモノローグが語られる前に、ファルルがきりりとした表情で言い放つ。
「スルー検定の時間よ、わかるわね」
「隙だらけすぎて、どこから突っ込んだら良いのか判らない。さすがだねファルルさん」
 モリンの冷たすぎる対応に応じるように、隅の方でアンジェが呟いた。しかし、検定に不合格な者もいる訳で。
「ほわっ、えっとえっと、ルブラ‥‥ほわいとのはずなんですけどっ」
 わたわたとクラウが慌てて、左右を見る。
「もう居るし‥‥はぅ、どうしようソラ君、分らなくなっちゃったよぅ」
「じゃ、じゃあクラウさんがイエローになりますか」
 恥ずかしい名乗り口上から解放されるかも、というささやかな少年の願い。しかし。
「分かったわよ、真面目にやればいいんでしょ」
 両手を前で交差させるようにポーズを決めるファルル。残念、寄せても無いものは無い。
「全てを呑み込むは漆黒の闇。ルブラブラック!」
「はわ、あってました。えっと、ルブラホワイトですっ! よろしくね!」
 ほっとしたように、クラウはニコッと笑う。笑ってから、隣のソラへ視線を向けた。
「次はソラ君の番だよっ」
 何となく暴れるのをやめていた暴走キメラの視線が、集中する。ボルゲワームのアイカメラも、モリンの目も。
「は‥‥初恋はレモンの香り ルブライエロー‥‥」
 俯き加減で続けるソラ。その破壊力は、触れてもいないのにすぎすぎが一匹ノックアウトするほどである。堤防上の最後の1人、アンジェのガスマスク姿がその後に続くと言うのが別の意味で破壊力絶大だった。
「マスクに秘めた素直な心。ルブラピンク!」
 皆が乗らないならせめて自分だけでも、というようにアンジェはあえてマスクを強調する。御茶の間の印象は、これで正月映画までしっかりと固定されたに違いない。

「‥‥それで終わりだったっけ?」
 モリンが言うと同時に、砂浜にSES機関の吸気音が響く。さほど広くない海水浴場を、2台のAU−KVが走ってきた。砂でお城とか作っていたキメラ獣こねこねを避けて停車し、栞が先に名乗りを上げる。
「溢れる知識、ほんの少しのブルーな気持ち‥‥。ルブラブルー」
 襲いかかろうとした空気の読めないキメラ獣ねこねこを裏拳一発で殴り倒してから、南雲がそのポーズのまま白い歯を見せた。
「人生いつでも若気の至り! 若草色の青春! ルブラグリーン! YATTA!」
 ポーズの背後に発破一発あればいい感じの名乗りである。そして、その逆側から再びバイクの爆音が響いた。
「‥‥派手ね」
 ボソッとモリンが呟く。ちょうど南の日差しを背に、金銀カラーの加奈と夢理のミカエルが併走していた。砂浜に仁王立ちしていたキメラ獣の間合いギリギリで停車する。チア服姿の2人を、展開したミカエルの装甲が包んだ。
「麗しき金と銀‥‥二人の友愛は双子のお婆さんの如く、100年以上経っても永遠に!」
「え、永遠に!」
 大事な事なので繰り返しつつ、2人はみのみのへ左右から切り込む。
「その力‥‥友愛は、時に一線を超える!」
「い、一線を越えるっ。‥‥って一線って、どんな線なのかな」
 首をかしげたところで、みのみのがゆっくりと崩れた。
「全人類へ――でも特に女の子へ愛を捧げる黄金微少女忍者! ルブラゴールド!」
「あ、あわ。最近素敵な彼氏さんができました。ルブラシルバーです」
 今度こそ、これでおしまいである。

●心強き戦士たちの加勢
『ええい、後から後から、うっとおしい!』
 その間しっかり待っていたボルゲが、溜まった鬱憤を晴らすようにプロトン砲をぶっ放した。
「危ないっ!」
 加奈が手を引き、夢理の身体を引き寄せる。引っ張った勢いでもつれるように転がった頭上数ミリを、赤熱する光線が擦過した。
「こ、これが密着できない胸の大きい方では不可能な微少女戦隊回避必殺技! 合体ぺったんこ避けです!」
「技、だったんだ?」
 無い胸を張る夢理に手を貸しながら、加奈が首を傾げる。沖合いのボルゲは早くも次弾発射態勢に入っていた。
「フン、いつまでちょこまかと逃げ続けられるかしら!」
「くっ‥‥。手の届かない所から攻撃とは、卑怯ね」
 鞭を構えたモリンへ、自分が逆の立場なら嬉々として攻撃していただろうファルルが苦情を述べる。卑怯結構、こっちは悪役だ、とばかりにプロトン砲が火を吹きかけた瞬間。
「‥‥この曲は、まさか」
 不意に流れたハープの音色に、モリンが視線を巡らせた。海から突き出る岩の上、光を受けながら立つ影。
「みんな、ここは俺達に任せて、まずはモリンを!」
『おのれ、何者だ』
 ボルゲの御約束な誰何に、シルエットのリョウの歯が輝く。
「行くぞ『騎煌』、武装変! 学園特風カンパリオン、世界の危機にただいま参上」
『俺達‥‥だと? ぬお』
 不意にボルゲがぐらついた。その足元をアンカーテイルで引っ掛けた巨大な海龍が立ち上がる。
「さぁ‥‥参りましょうか、リヴァイアサン! 鮪の実力、思い知らせて差し上げましょう」
 マグローンの涼しげな声が、海に響いた。リョウも足場にしていた岩‥‥ではなくKVへと滑り込む。
「お前がボルゲ一味の親玉か、この徳島の未来はお前なんかに渡しはしない! こい『蒼炎』、大武装変だ!」
 波を裂き、2体のリヴァイアサンが亀に対峙した。
『おのれ小癪な。小娘と年増の前に貴様らから片付けてくれる!』
「‥‥小僧も混ぜてください」
 控えめな苦情は、今回も届く事は無い。

●麗将モリンの最期
「星よ、力を‥‥」
 ぐ、と握った拳でペンダントに触れ、クラウが覚醒した。仲間達も覚醒し、ドラグーンたちはAU−KVを装着する。5人の生身の戦士と4体の装甲服が並んで、再度ポーズを取った。
「ええい、やってしまいな‥‥って何でこっちに向かってくるのよ!?」
 鞭を鳴らしたモリンが慌てたように叫ぶ。
「あっち行きなさいっ」
「‥‥邪魔、です」
 百合歌と栞が、それぞれの技でキメラを突き飛ばす。自分へとかかってきたみのみのを鞭で切り裂き、ぱぴよんを叩き落してからモリンは半歩飛び退った。砂浜に、5本のナイフが刺さる。
「この戦いもこれでお終い。さぁ、モリン。私の前に跪いて、靴を舐めなさい!」
 言い放つファルルに気を取られたモリンに、横から小袋が飛ぶ。切り落とした瞬間、よく判らん粉があたりに散った。
「これは、まさか毒粉!?」
「‥‥悪役じゃあるまいし、そんな事しませんよ」
 栞が冷たく笑う。またたびパウダーです、と彼女が続けた瞬間、モリンが失笑した。
「ねこねこを私にけしかけようと言うわけね? フッ、キメラ獣は改造によって獣を越えた存在。そのような弱点など残って‥‥あ、あれ?」
 周囲のネコ型キメラの目が光っている。
『ぎにゃー』
「キ、キドンの無能者ー!」
 砂浜の一角で、お城を作っていたこねこねズの耳が、ぴくっと立った。
「はーい、あっちに行っててね?」
 百合歌がどこから出ているのかわからない程優しい声で、その背中を押す。
「つ、連れて帰りたいですっ‥‥けどっ」
 葛藤に耐えつつ、ソラが彼女に手を貸した。しかし、こねこねはすぐに戻ってきてしまう。
「どうして。こっちに戻ってきちゃ駄目なのにっ」
 自然と、もといキメラと人間は共存できないんだよ。捨ててきなさい。
「人類の天敵‥‥。ここで、倒します」
「必殺! ミカエル彗星拳・改!」
 そんな感じで、栞の超機械と南雲の拳がすぎすぎを殲滅していた。相当広範囲に毒花粉を撒いていたオリジナルと違い、コピー品はそこまで毒性も強くないようだ。
「見なさい! どんなに再生したって、戦闘力がそのままじゃ能力がインフレした少年マンガじゃ1コマで倒される運命なのよ!」
「決戦って聞いたのに、よく見たらボロボロじゃない。もう、こんな事やめたら?」
 言い放ったファルルの脇で、眉をひそめるアンジェ。ガスマスクに隠れて見えないが、何となくそんな雰囲気だった。
「チッ、お前達も成長していると言う訳ね。‥‥成長?」
 モリンがもう一度言い直してから、2人をしげしげと眺める。眺めてから、切ない表情で視線を逸らした。こうかは、ばつぐんだ。
「精神攻撃! 流石、やるわね‥‥! ブラック、ピンク! 大丈夫?」
 こねこね製作のお城の前から百合歌が叫ぶ。ソラと彼女は、別の意味でこねこねの魔性の魅力に参っていた。
「癒しの光よ‥‥」
 クラウの祈りが、傷つけられた乙女達に降り注ぐ。だが、根本的な部分はどうしようもない。どうしようも、ないのだ‥‥! 勝ち誇るように胸を張るモリンへ、すぎすぎ隊を倒した南雲と栞が向かう。
「モリン‥‥私と貴女の因縁、今こそ清算しましょう」
「因縁‥‥?」
 一方的過ぎて通じない思いを胸に、栞はモリンを睨む。初めての遭遇から半年ほど、いまだに彼女には2人と違って未来があった。
「ししょーを殺したのはお前だねっ! 覚悟ー!」
 やはり一方的過ぎる憤りを胸に、南雲が突進する。モリンの鞭を片腕で弾き、もう片方の拳をまっすぐに突き入れた。
「師匠って誰よ!?」
 モリンのバランスが崩れ、揺れるべき所がちょっぴり揺れた。その光景に、もはや怒りしかない黒と桃色が肩を並べ。
「わわ、星の加護をっ」
 こねこねに見惚れる暇もなく、クラウが強化を飛ばした。多分この2人に加護を与えている星はブラックホールだろう。
「久々にいくよ‥‥極彩朱雀!」
「楽しかったわ。でも、それももうお終い。汝、漆黒の闇に飲まれなさい。黒閃・天魔獄滅!」
 まともに2撃を受けたモリンは、それでも膝をつかない。
「こ、この程度とは‥‥。笑わせてくれるわね。真の必殺技を見せてあげるわ‥‥ッ」
 鞭をリボンのように回して、自身の周囲へ円を描き始めるモリン。どう考えても長さが伸びている気がするが、きっと気のせいだ。
「今ので倒れないなんて‥‥もう、合体攻撃しかないよ」
 アンジェが振り返る。攻撃に加わらず、砂遊びに興じるこねこねに見入っていた2人がわたわたと立ち上がった。
「はわっ‥‥。クラウさんを守らなくちゃいけないのに」
「恐るべき魔性の魅力ね‥‥」
 というか仕事しなさい。
「1人づつでは勝てない相手に全員で力をあわせる。浪漫だね!」
 どーん、と南雲が勢い良く立つ。多分、この中で一番何も考えていない少女は、それだけに強い。少なくとも、モリンの精神攻撃は痛くも痒くも無いようだ。
「ですが、9人での合体攻撃は今まで成功した事のない大技‥‥!」
 夢理が言うが、年始の隠し芸番組では本番で成功するのが通例だからきっと心配は無い。というかそもそも練習とかしてないし。
「ミカエル、パージッ」
 もそもそと組体操、もとい必殺技の準備を始めるルブラエンジェルズ。男の子のソラはとりあえず下段を主張していた。上は見ちゃ駄目、絶対。
「フン、どんな技でも無駄よ。この円形星雲陣の前にはいかなる攻撃も通用しない事を知るがいいわ」
 余裕綽々で、モリンはそれを待ち構える。待ち構えてくれないと、色々と困るのだが。百合歌が中央に、脇を加奈とソラがそれぞれ肩車3組で固める。上に乗っているのは南雲と夢理、クラウだった。
「いくわよっ!」
 下段トリオがバレーのレシーブのように組んだ手の上を、細身で軽いファルルとアンジェが駆け上がる。組んだままの手に、栞が乗った所で大きく上へ。でも、視線は上を見ちゃいけません。‥‥勢いで少し顔が上に向いたかもしれないけど、多分セーフだ。多分。
「モリン、これで決着ですっ!」
 最上段に乗った栞が、キッとモリンを睨んだ。
「いくわよ。名付けて『ルブラ・エクスキュージョン』」
 上段が宙を舞い、中段も飛ぶ。肩車三組も、雪崩を打って後に続いた。同時攻撃、というにはややタイムラグがあるものの、多角攻撃がモリンを襲う。
「さようなら‥‥キドンが待ってるわ」
 迎え撃つ鞭を掻い潜り、百合歌の鬼蛍が斜めにモリンを切上げた。たたらを踏んだ所に、矢と電撃が飛ぶ。二刀と槍が薙ぎ、拳が真っ直ぐに突きこまれた。
「ししょー、私はやりましたよ!」
 吹っ飛ばされ、波打ち際に倒れたモリンを睨んでから、南雲が拳を天に掲げる。

●帝王ボルゲ、跡形もなく死す
 砂浜に手を突いて起き上がりかけてから、力尽きたように崩れ落ち、力尽きたモリンは盛大に爆発した。
「‥‥っ。また‥‥」
 ソラが唇を噛む。
『おのれ、人間どもめ』
 吠え立てるボルゲだが、リヴァイアサン2機にタートルでは旗色が悪いなどと言うものではない。尺の都合がなければとうに倒されていただろう。
「部下を犠牲に後ろから命令するだけなの?」
 倒れた宿敵に敬意を示したのか、アンジェの瞳に怒りの炎が燃える。と、SESではない重低音が堤防側から聞こえてきた。少女とアメリカがまだ幸せだった頃に街で良く聞いたあの音。
「そこまでだ、ボルゲ。諸君、KVの使用許可が下りた!」
 大型バイクに乗ってきた八木が、可哀想なボルゲに追い討ちをかけるように大声を上げた。
『‥‥うぬぅ』
「ここから先に行かせはしない‥‥!」
 十分以上にボロボロなボルゲへ、リョウが正対する。
『し、仕方があるまい。徳島を火の海にするまで使う予定は無かったが‥‥取って置きのボディを呼び寄せてくれる。こい! ミノタロース!』
 説明しよう。ミノタロスとは、ボルゲが決戦用に温存していた別ボディである。その名の通り、みのみのっぽいタロスだった。どこに指があるのか、パチンという音が海原を響く。

『‥‥あ、あれ?』
 もう一度。しかし母なる海はボルゲの声に答える事は無く。
「ああ。それでしたら先刻、目障りだったので破壊してきました」
 しれっとマグローンが言う間に、ルブラエンジェルズはKVに乗り込んでいた。
「よし‥‥、行けます」
 ごうん、と立ち上がったクラウのウーフーは純白。胸の中央には星の飾りが施されている。整備の人はきっと徹夜だったに違いない。
「へる・へぶーん! ファイナルバトル、承認!」
 その横では、南雲が高らかに天へ拳を突き上げる。
「KVは不慣れですけど‥‥八木さんへの恋心の前に不可能はありませんっ」
 外部拡声器がオンになったまま、栞も気合を入れた。ちなみに、堤防の上で本人が聞いています。
「‥‥ぇ?」
 目をぱちくりさせる八木。
「栞さん、スピーカー、ついてますっ」
「これも、愛の為せる事なのですね‥‥」
 クラウと夢理の声で、事態に気付いた栞の顔が見る見る赤くなった。
「こっこれはボルゲの罠ですっ」
 冤罪だ。明らかに冤罪だ。
『ええい、貴様ら、防げ。防がぬかぁ!』
 可哀想なボルゲに同情したのか、それともようやくまともに戻ったのか、生き残りのキメラの目が赤く光った。
「邪魔はさせません」
 通常カラーにあぶれた金と銀が、その行く手を塞ぐ。
「夢理ちゃん、そっちをお願いっ」
「はい‥‥。ここは何人たりと通しません」
 加奈のイビルアイズが槍を振るい、抜けようとする敵には夢理のミサイルが炸裂した。
「行くぞっ、ルブラエンジェルズ。俺達の想い、今ひとつに重ねる‥‥」
 リョウの声にあわせて、南雲のヘルヘブンと百合歌のワイバーンが波打ち際へ並ぶ。海中に少し入った位置へ、ソラのKF−14が分け入った。
『うぬれっ‥‥』
「部下を犠牲に後ろから命令するだけなの?」
 おたつくボルゲへ、アンジェが言う。同じく後方にいる身ではあれど、自分とボルゲの差は。
「私も後ろから指示するけど、あんたとは違うんだからっ」
 海にて身動き取れぬボルゲを、3機が作るトライアングルが指す。仲間が作り上げた矢を後ろでひたと引くのがアンジェの役目だった。
「行くよ!」
 助走をつけて、三角形の頂点へ向かう。ワイバーンとヘルヘブンの間を渡り、そのままKF−14の上を越え。
『‥‥ッ。まさか、跳ぶのか!?』
 KVは普通に飛べるだろうとかそういう不粋な突っ込みは禁止されているっぽい。クラウと百合歌の放つ援護射撃が空気を焦がす。
『こ、この‥‥』
 撃ち掛けた砲身へ、ファルルのミサイルが刺さった。爆発と共に内部から甲羅がひび割れる。
「私も行くよ! 超必殺ぅ!」
 足場になった南雲のヘルヘブンの、合わさった二輪が遠浅の浜を噛み、波を蹴立てて進む。ついでにばら撒くバルカンが水面に飛沫を上げる中を、螺旋がワームの中央に刺さった。
「ストレイト‥‥、ドリィィル!」
 削り、抉る。ワームの内奥を。
「これで、止めだよ!」
 宙高く飛んだアンジェが斜め上からレッグドリルを叩きつけた。火を吹き、紫電を放ちながらタートルワームが遂に動きを止める。
『おのれ、もはやこれま‥‥ぬぐぁ』
「輝け蒼き燐光、カンパリオンスーパーファイナルクラッシュ!」
 背後からリョウの雪村が、飛び去りかけた頭部を両断した。

●そして、数日後の喫茶『ドラゴン』。
「夢理ちゃん、どうしたのかな‥‥。今日がお別れ会なのに」
 加奈が、扉を見ながら言う。戦いが終わった後、彼女の友人はいつの間にか姿を消していた。
「こねこね、ドラゴンのマスコットに欲しかったです‥‥」
 裏に作られたこねこねの墓の前に膝をつき、そっと手を合わせる栞。ちなみに、モリンやキドンなどの墓は誰も作っていない。
「それよりも。八木さんとはどうなるのかしら」
 百合歌の茶化すような声に、栞はぐっと拳を握り。
「まだバイトを続けてもいいって、言う事は‥‥脈はあると思うんです」
 明らかに挙動不審になっていた八木を思い出して、百合歌が苦笑する。時間はまだあるのだから、絶対に振り向かせて見せる、と言う栞の頭へ、百合歌がそっと手を置いた。
「皆、寂しくなるけれどまた、遊びに来てくれ」
「もとより気の向くままのバイク旅‥‥なんちゃって。近くに着たら絶対に顔、出すよっ」
 これからの南雲のツーリングコースは、海峡越えが多くなりそうだ。
「はわ、記念に撮影とかしませんか?」
「絶対嫌です!」
 そんな会話が店内で響く中、隅のテーブルでリョウはカップを傾けている。その口元が、微笑を浮かべた。
「‥‥やはり、大団円には全員揃わないとね」
 彼の声にあわせる様に、ドアベルがカランと音を立てる。
「夢理ちゃん! ずっと一緒だって言ってたのに、いなくなるからびっくりしました」
 怒った様子の加奈に目を丸くしてから、夢理は微笑する。
「大丈夫、2人の友愛は永遠ですよ」
 入り口を塞ぐ2人に、大き目の影が掛かる。長身の紳士を店内に迎えてから、冷蔵庫から八木が大きなケーキを出してきた。ソラとクラウが幼い子供のように目を輝かせる。
「ここのコーヒーもお菓子も、嫌いじゃなかったわ。パパのお店には敵わないけどね」
 アンジェはガスマスクを大事そうに小脇に抱えていた。実は気に入っているのかもしれない。
「私がお店を出したら、徳島になんか絶対支店作らないんだから!」
 プイッと横を向いたアンジェの頬は少し赤い。喫茶『ドラゴン』の商売敵にはなりたくないという、彼女の精一杯の意思表示だったりした。
「ま、退屈したら寄るかもしれないわ。また事件でもおきなければいいんだけど」
 カウンターでそんな不穏な事を言うファルル。
「私と加奈さんがいるから、大丈夫です」
 言いつつ、栞が勝手口から入ってくる。
「あ、その。私のバイト、今月までなんです」
「‥‥ふーん」
 加奈の返事に、百合歌がニヤニヤしながら栞の背を叩いた。


 今日も徳島は、平和である。この平和を守った戦士たちの名前は、知られてはいないけれど。僕らは忘れない。少女と言うには微妙な年齢や性別を苦にせず、チア服で果敢に戦った微少女戦士達を。毎回楽器を変えるたびに、特訓を欠かさなかった学園特殊風紀委員を。そして、脂が乗って美味しそうな回遊紳士の事を。
 この徳島に危機が迫る時、彼らはきっと戻ってくるだろう。さようなら、貧‥‥じゃなかった。微少女戦隊ルブラエンジェルズ!

――このリプレイは楽しい時を作る報告官紀藤と、御覧のPC様でお送りしました。