タイトル:【徳島】真実は何処にマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/11 22:11

●オープニング本文


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「こ、ここは‥‥」
 八木は、薄暗い殺風景な部屋に自分がいることに気がついた。上げようとした手は、何かに固定されている。両足も、動かない。どうやら、がっしりした椅子のような物に縛り付けられているようだった。
「‥‥何事だろう」
 独り言は残響だけを残して消える。次に、八木は何があったのかを思い出そうとした。粉チーズが切れたので、買出しに出かけたのは覚えている。行き先は馴染みのスーパーで、ついでにシェービングクリーをも買い物籠に入れた事も。支払って、帰り道。近道を通ろうと、寂しい路地を通った時に、何かがあったような気がした。
「目を覚ましたようだな」
「だ、誰だ」
 室内の、首が回る範囲に見える人影は無い。男は、短い間の後でもう一度口を開いた。
「私は智将キドン。ボルゲ様の第一の部下だ。我らが秘密基地へようこそ。八木君」
 目を見開き、今一度両手足に力を入れてみる。が、縛めは固かった。

 数刻前。ボルゲの海底要塞内。
「キドン、地下牢から出して貰えたの? フン、もう少し寝ていれば良かったのに」
 回廊を早足で歩く黒衣へ、柱の影から出てきたモリンが冷ややかに言った。
「‥‥モリン。私が罰を受けている間に、進展はあったのか?」
 鼻で笑う男の片目は、眼帯で覆われていた。言後を絶する罰が加えられたのか、あるいは失敗を重ねた自らへの戒めか。それとも、彼の変容の原因がそこにあるのだろうか。
「奴らの基地を突き止める事には失敗したけれど。八木という男が、重要な役割を担っているのは分かったわ。これからじっくりと‥‥」
「手ぬるいな」
 回廊を出て、謁見の間に入ったキドンは、同僚の言葉を一言で切り捨てた。
『キドンか』
 壁面に刻まれた人面の、赤い眼光が輝く。キドンは、それに向かって深々と頭を下げた。
「はっ。ボルゲ様のお陰をもちまして、再び日の目を見ることが叶いました」
 ボルゲに向かって反抗的だった面影は、もはやない。
「この御恩、ルブラエンジェルズの壊滅を以って返させて頂きたく思います。目的を果たせねば、戻らぬ覚悟」
『うむ。ならばお前に任せよう。モリン、キドンの補佐をするのだ』
 ボルゲの無機質な声は、何処か満足げに響いた。釈然としない様子のモリンだったが、ボルゲの命には絶対服従である。
「は‥‥はい」
 モリンを一瞥してから、キドンは謁見の間を出て行った。後へ続こうとしたモリンを、ボルゲの低い声が呼び止める。
『待て、モリンよ。お前には特別任務を与える』


 再び、現在。
「八木君、貴方は何も返答する必要は無い。君の思考は全て、君の椅子に仕込まれたキドン式嘘発見器によって見破られているのだ」
 ハッと身を固くした八木に、キドンは矢継ぎ早に言葉を投げた。
「八木君はルブラエンジェルズを知っているね?」
 八木が口を開くよりも先に、頭上に緑の光が点る。彼からは見えないが、それはYESという文字の形をしていた。
「では、八木君。彼女達の弱点を知っているかな?」
 今度は、赤いランプ。キドンの顔が渋くなる。
「面白いわね。じゃあ、八木さんあの子達の正体も知っているの?」
「も、森さん!?」
 割り込んだモリンの声にも、機械は反応した。点いた灯りは、緑色。
「そうまでして隠すのは、八木さん。‥‥あの中に誰か、ただの客以上の関係の相手でもいるのかしら」
 再び緑のランプ。モリンが嫌らしく笑う。
「フフフ、八木さん、恥ずかしい? ねぇ、こんな質問されて恥ずかしい?」
 緑の灯りは点ったままだ。
「余計な質問はやめたまえ。肝心の質問が出来ないではないか。一度の判定に10秒はかかってしまうのだからな」
 キドンが、制してからもモリンは楽しそうに笑っている。
「‥‥最後の質問だ。彼女達は、囚われの身の君を助けに来ると思うかね」
「く、来る訳が無い!」
 激しく首を左右に振る八木。しかし、頭上のランプは緑を点した。
「ククク‥‥。そうだろう。ならば弱点は、彼女達自身に聞こうではないか」
 嫌な笑いを浮かべたキドンの背後には、彼らの宿敵の数と同じだけの椅子が並んでいる。
「来るな。来るんじゃないぞルブラエンジェルズ!」
 その悲痛な叫びを録画しながら、モリンは興味深げにしていた。
「ねぇ、これって私達が座っても本音がばれるわけ?」
「いいや。あくまでも人間にだけ通用する物だ」
 チッ、と舌打ちしてからモリンは人間の姿に偽装する。清楚なお嬢様風の白の外見に、日傘を下げて。
「クククク‥‥。秘密基地へ来るように伝えて来るのだ。断れば、彼の命は無い、とな」
「じゃ、地図と一緒に、証拠としてこのビデオを渡してくるわね?」
 モリンが手にしたビデオには、囚われた八木への質疑の結果が入っている。そして、その間に交わされた言葉も。そこに、恐ろしい嘘発見器の弱点が含まれていた事に、キドンは気づいていなかった。そして、妙に協力的なモリンに下されている隠された指示にも。
「‥‥馬鹿ね、キドン。貴方は所詮捨て駒なのよ」
 ボソリと呟く。地下牢に送られたキドンは、再洗脳を受けた後、強力な自爆装置を片目に埋め込まれていた。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
アンジェリカ 楊(ga7681
22歳・♀・FT
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
御崎 栞(gb4689
19歳・♀・DG

●リプレイ本文


 テレビに映る囚われの八木。
「八木さん‥‥私達のせいで、大変なことに」
 出だしを見たアンジェリカ 楊(ga7681)の表情が青ざめた。
「八木さんを巻き込むなんて許せません‥‥」
 メラメラと炎を背に負う御崎 栞(gb4689)の目は据わっている。
「バグアの4、5人くらい、最強のコックみたいに圧倒してぶっ潰して帰ってきなさいよ」
 打ちひしがれる一行の中で、ファルル・キーリア(ga4815)は忌々しげに舌打ちをしていた。
「何故! 何故囚われの人が加奈様ではなく八木様ですか!?」
 直江 夢理(gb3361)も、別の意味で忌々しいようだ。
「あ、そうよね。私なら能力者だし‥‥」
 呟いた加奈に、栞が据わったままの目を向ける。
「‥‥私だって、八木さんの代わりに。従業員なら私も対等、です‥‥」
「え? あ、うん」
 言われた側は、どちらの発言の裏も良くわかっていないように見えた。
「あれ? いつかのロープウェーのおじさん?」
 久しぶりの斑鳩・南雲(gb2816)は状況の把握が遅れている。ランニング姿の彼女をはじめ、夢理と栞はブレザーだったりファルルはセーラーだったりと珍しいバラバラさ加減も、彼女達の混乱を表しているのかもしれなかった。
「な、なんとかしなきゃっ」
 と言う柚井 ソラ(ga0187)に至っては、直衣である。

 30分後。
「嘘発見器‥‥! なんて面白、いや、便利な、じゃなくて、卑怯なものを!」
 ビデオを見終えた南雲が、拳を握った。アンジェがふと呟く。
「‥‥致命的な欠陥がある気がするんだけど、この機械」
「そうね。貴女もわかった?」
 百合歌の不敵な笑み。栞が不安を湛えた目で、砂嵐を映す画面を見つめる。
(‥‥でも‥‥お客さん以上の関係の相手って誰なんでしょう‥‥)
 それは、仲間達の不安とは微妙にずれていた。
「必ず無事に助け出しましょう!」
 力強い智久 百合歌(ga4980)の号令に、周囲が一斉に頷く。
(というかどんな関係? あああ‥‥気になりますっ)
 約一名は、除いて。


「良く来たな、ルブラエンジェルズ。お前達の墓場へ」
「‥‥ししょー? あれ? こんなだっけ?」
 記憶より低い声に、南雲が瞬きする。
「はいはい、行けばいいんでしょ。人質を取られたら、とりあえずは従うしかないじゃない」
「眼帯とかしちゃって、キャラ変えのつもり? 似合ってないのよ」
 悪態を吐くファルルとアンジェ。2人の後ろで、ソラが首を傾げた。
「‥‥何か変、だ」
「そうね。これまでのキドンとは違う」
 百合歌の視線に気付いて、キドンは口元を吊り上げるように笑う。
「残りの、着いてこい。人質の命が惜しければな」

 神社の裏の細道の先で、仲間達の背を見送る夏目 リョウ(gb2267)。
「ルブラエンジェルズ。おやっさんは、俺が責任を持って救出するぜ」
「‥‥いえ、私もです」
 その隣に栞が立った。リョウは秘密基地の別の入り口を確認している。仲間が時間を稼ぐ間に、潜入して人質を解放するのが、彼ら2人の役目だ。
「行きましょう。時間がありません」
「ああ。こっちだ」
 少女を後席に乗せ、『騎煌』は走り出した。


「武器は置いて貰おうか。鎧もだ」
「仕方が無いわね、皆。悔しいだろうけれど従って」
 そう言う百合歌の手にしたギターケースをキドンは指差す。
「馬鹿にしているのか。それもだ」
 舌を出す百合歌。が、おたまが武器な事には気付かれなかった。アンジェの槍や夢理の剣と盾、ファルルの弓と銃は言われるまでもなく回収対象だ。
「私の武器はこの拳よ! ってほあ?」
 ミカエルを脱いで、胸を張る南雲の手を取るキドン。
「‥‥へ、へんたい!」
 硬直していた南雲が慌てて両手を胸元に。
「その銃も出してもらおう」
 アンジェの太もものS−01は、そこに隠すにはちょっとばかり長すぎた。
「へんたい! そんなにじろじろ見ないでよね」
 が、キドンは動じた様子が無い。以前の彼ならば、うろたえて隙を見せていたのに。ソラがその違和感を思う間に、アンジェはホルスターごと外して渋々と渡す。
「えと。俺、は?」
 試してみようと問うソラへ、キドンが目を向けた。
「自分で出すか、それとも身体検査をして欲しいか?」
「‥‥へ、へんたい!」
 一斉に沸き起こるヘンタイコール。声援であるかのように、片手を挙げて応えるキドン。音声を消してお送りするとかっこいいシーンかもしれない。
「あなた‥‥、変態だとは思っていたけど、こんないたいけな少年を毒牙にかけようなんて」
 息を整えてからファルルは叫ぶ。
「この変態! ド変態! ヘンタイターレン!」
 眉1つ動かさずに聞いてから、キドンは隻眼を細めた。
「お前は、スカートの下にナイフを仕込んでいたな。自分で出すか、それとも」
「じょ、冗談じゃないわ」
 ナイフのベルトを外すファルル。その様子を見ながら、百合歌は確信を深めていた。
(このキドンは‥‥違う。いつものちょっと残念な雰囲気はどうしたの?)
 が、どさくさまぎれにソラの検査を忘れている辺り、根は同じなのかもしれなかった。


 武装解除された一行は、再び人質をちらつかされ椅子に座らされた。手足を鋼の輪が拘束する。
「ククク、キメラ獣を捕らえる為の拘束具だ。逃れられると思うなよ」
 言ってから、キドンの表情が険しくなった。椅子が2つ空いているのだ。
「最初の質問だ。お前達の仲間はあと2‥‥」
 キドンの声を、ソラの声が遮る。
「俺はどこからどう見ても男ですよねっ?」
 一瞬の静寂。
「どうみてもって言われるとねぇ‥‥」
 ファルルの頭上に、赤い光がついた。無言で微笑しつつ、首を振る百合歌の上にも。
「私、何処かで聞きましたよ。あんな可愛い子が女の子のはずがない、って」
 きっぱり言う南雲の頭上も、赤い。というか、部屋は赤く染まっていた。
「ぬ、ぐ‥‥」
 装置の欠陥に気付いたのだろう。キドンが呻く。
「ずっと聞いてみたかったのだけど。嫌だって言ってるけど、実は女装、好きなんじゃないの?」
 アンジェが、ソラに愛らしく尋ねた。
「嫌に決まってるでしょう!」
 叫んだ頭上は、黄色。
「‥‥え」
「深層意識まで精査し、一概に判別できない複雑な結果になった場合は黄色が表示されるのだ」
 わざわざ解説するキドンの奥で、ソラががくりと項垂れる。
「私‥‥先日のにょろにょろ依頼で奪ってしまったのは、加奈様の初めてでしたか!?」
「あ、うん。でも、女の子同士はノーカウントだって言うし」
 加奈の頭上は緑色だ。むしろ、質問者の夢理の表情が赤くなったり青くなったりせわしない。
「戯言はやめてもらおうか。こっちには人質が‥‥」
「百合歌さん。この機会にきいておきたかったことがあるんだけど」
 キドンの言葉を、ドスの効いた声が遮った。
「‥‥どうぞ」
「ちょ、待て」
 キドンの制止など聞きはせず、ファルルが重々しく口を開く。
「実は私達の事を見下してる」
 ごくり、と誰かがつばを飲んだ。百合歌の頭上の明かりは、赤。否定だ。
「人間出来てますから」
 慈愛の微笑を浮かべる百合歌。ファルルがもう1つ、静かに言葉を続ける。
「可哀想だと思ってる」
 切なげに首を振る百合歌の頭上は緑色に輝いた。
「周りも平らにしてしまおうとする辺りが‥‥ねぇ? ところで、私も質問、いいかしら」
 ぐ、と言葉に詰まった2人組へ、彼女はそう言う。
「‥‥3A?」
 アンジェの頭上に、赤。3Aでは無かったらしい。
「ち、違うわ!Aよ!」
 もう一度、煌々と赤い灯がついた。つまり、Aでも無いらしい。
「‥‥アンジェさん」
 ほろり、と隅の方でソラがもらい泣きしかかっていた。
「本当はもっと欲しいのでしょう?」
 百合歌が、サディスティックな笑みを浮かべる。返答以前に、ファルルが目を見開いた。
「粛清よ、粛清よ! ここまで言われて一緒にチームを組んでいられるほど、私は大人じゃないわ。そう、まだ若いのよ。誰かさんと違ってね!」
「‥‥ほう」
 拘束具を鳴らすファルルに、嘲笑で答える百合歌。2人の椅子に激しい電流が流れたのはその瞬間だった。
「くっ」
「ああ!?」
 苦悶に歪む色っぽいお姉さん達の表情を2秒ほど作ってから、電流は止まる。
「ええい、静まれ。騒々しい。どれだけ暴れようと無駄だ」
 空気に呑まれかかっていたキドンが立ち直っていた。
(偽者、なのかな)
 その切り替えの早さに、ソラは違和感を深める。
「‥‥貴様達の弱点を聞こう。妙な横槍を入れたら次は電流を全員に流す」
 キドンは微笑すら浮かべていなかった。
「弱点‥‥?」
 南雲が考え込む。普段から余り考えた事が無いので、急に言われても判らないらしい。
「あ、セロリとかは嫌いですよ。癖が強いって言うか匂いが駄目なんですよねー」
「そんな事は聞いていない!」
 地面を蹴るキドンへ。夢理がキッと視線を向ける。
「私の弱点ですか? 私を倒す気なら加奈様達を超える様な美少女を持ってくる事です! そんな人いないと思いますけどねっ」
「夢理ちゃん、私よりも可愛いと思うんだけどな」
 再び、多分音声を消せばカッコいい会話シーンだった。
「‥‥残りは多くて2人。ならばここでお前達を消した方が利口かも知れん」
 スイッチを手にするキドン。もっと早く気付けという思いと、気付けないのが智将が自称たる所以なんだよな、という思いが交錯する。リョウと約束した時間稼ぎは、10分。身体検査や何やかやでそろそろの筈だ。


 一方。潜入した2人は、敵に出会うこともなく八木の牢へとたどり着いていた。
「大丈夫かおやっさん、ナイトと姫の到着だぜ。‥‥御崎、助けたことを早くみんなに」
 八木の拘束を解きながら、リョウが言う。が、栞は頭を振った。基地内だけあって電波は妨害されているらしい。
「‥‥仕方無い。電源を落せば気づくだろう」
 立ち上がったリョウに、栞が頷く。配電盤も同じ地下にあった。斧を振るうと、一瞬のスパークと共に灯りが落ちる。非常灯の頼りない明りが廊下をぼんやり照らしていた。
「‥‥おかしいな」
 暗転した室内で、リョウが呟く。警報の1つもならない。見張りも出てこない。
「まさか。モリン‥‥!」
 彼の脳裏に、もう1人の敵幹部の顔が過ぎった。
「‥‥え」
 振り返った栞の肩を、掴む。
「もう、時間が無いかもしれない」
 もしも、彼の想像が正しければ、モリンはこの周囲にまだいるはずだ。
「急ごう。彼1人では‥‥」
 八木に頷く栞。
「行きます。‥‥しっかり、ついて来て下さい」
「ああ。ありがとう」
 モリンの事を、聞きたくないはずはないのに、黙ってついてくる八木。もやっとする気分が、駆ける少女の口からこぼれた。
「八木さん! あの、お客さん以上の関係の人って誰なんでしょうか?」
「ん? ああ、見られちゃったのか。君や加奈君の事だよ」
 苦笑する八木。お客以上の関係、すなわち店員のバイトの事だったらしい。正義の味方にバイトをさせているのは、彼にとってはとても恥ずかしい事なのだ、とか。
「‥‥」
 はぐらかされた気分を感じつつも、栞は少しほっとしていた。

「直江さん、一番好きな人は女性ですか?」
 ソラが最後の時間稼ぎの為に取って置いた質問を飛ばす。
「そ、その様な恥ずかしい質問、私には‥‥喜んで答えられます!!」
 忍者ならではの肺活量で、自分の知る限りの守備範囲の少女たちについて並べ立てる夢理。下は8歳から、上は成人までを含む夢理の華麗な美少女遍歴に、キドンが言葉を挟む間もなく。瞬間、周囲が暗くなった。
「電気が? おのれ」
「か、かかりましたね! 私の忍法時間停止に!」
 効かなくなったスイッチを何度も押すキドンへ、勝ち誇る夢理。
「だが、お前達が囚わ‥‥、って、何!?」」
「この程度、大した事無いわよ」
 アンジェは、豪力発現で椅子を捻じ曲げていた。自力で脱出した百合歌が、仲間達の戒めを解きに掛かっている。
「ば、化物め」
「もう降参したらどう?」
 言うアンジェを、キドンは鼻で笑った。拘束を解いた所で、彼女達には武器もAU−KVも無い。
「フ、徒手空拳でこのキドンに勝てると‥‥」
「この拳が私の答え! ミカエル彗星拳‥‥真正面からどっかーんといっけええええ!!」
「人の話を聞け! ‥‥ぬっ」
 南雲を蹴り倒した所へ、白光が闇を貫いた。ソラが超機械を隠し持っていたのだ。同じく取り上げられなかったおたまを構えた百合歌が不敵に笑う。
「それでも、2人。相手にもならんわっ」
 キドンのサーベルがおたまを弾きざま、ソラへ衝撃波を放った。
「‥‥くっ。武器さえあれば」
 悔しげなファルルが百合歌を睨む。
「ファルルさん、一応敵はあっちだよ」


 神社の境内にモリンはいた。不意に漂う草笛。
「遅かったわね」
「闇ある所に光あり、悪ある所に正義あり。今度は何を企んでいる、麗将モリン」
 口を開きかけた所に、栞の声が響いた。
「モリン、積年の恨みここで晴らします!」
 彼女の後ろの八木を一瞥してから、モリンは口の端を上げる。
「いいわ。遊んであげる」
 鋭い鞭が空を裂いた。栞とリョウが飛ばされる。
「残りは、キドンのところね。馬鹿な男。自爆装置を仕込まれているにも気がつかないで」
『な、何だと‥‥!?』
 驚愕の声は、栞の腰のから聞こえた。暗夜に鮮やかな緑のランプが通話中である事を示している。
「‥‥ぁ」
 妨害の消えた今は地下まで届くらしい。
「聞こえちゃったなら、仕方ないわ。恥ずかしくない死に様を見せなさい、キドン」
「待ちなさい!」
 止めようとした2人に背を向けて、モリンは闇へと消えた。


「今のうちよ。それっ」
 茫然自失のキドンの背後に回り、奪われた武器を取り戻す。
「キドン‥‥あんたはそれでいいの?」
 ソラの叫びに、キドンは我に返った。ゆっくりと右手で眼帯を取る。埋まった真紅の球体が、禍々しく脈動するのが見えた。
「思惑通りになる気なの!?」
 百合歌が叫ぶ。
「確かに強いけど、一斉に掛かれば‥‥」
 ファルルがナイフを手にした瞬間、キドンは右手の指を自らの眼窩に突き入れた。
「‥‥ク、ククク」
「キドン!」
 笑いながら、抉り出した球体を握り締める。
「残り60秒。もはや一切の介入は不可能だ」
 例え自分が死のうとも、あるいはボルゲ自身の手であっても。そう言い、くるりと背を向けた。
「さらばだ。ルブラエンジェルズ。我がライバルよ」
「シショー?」
 南雲が一歩踏み出し掛ける。その肩を、夢理が掴んだ。
「あの方は、死ぬつもりです」
 忍びにも、死を選ぶ場合がある。彼女の目には覚悟が見えたのだろう。
「つきあって巻き込まれる義理は無いわ。いきましょう」
 ファルルが言う。暗い通路を駆け抜け、神社の裏へ。最後の百合歌が飛び出したとき、地面が激しく揺れた。振り返った先で、通路が崩れ行く。
「キドン‥‥!」
 叫んだソラの肩を抱きとめて、百合歌が呟いた。
「キドン‥‥貴方の事は忘れない」

――この報告書は、楽しい時を作る報告官キトーと、御覧のPC様でお送りしました。