タイトル:愛の形、憎しみの匂い1マスター:

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/28 00:50

●オープニング本文


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「なんだ? この弱々しいキメラは‥‥」

 そのキメラは空中とフラフラと飛び回っていた。大きさこそ3m程もあるのだが、その飛び方は危なっかしく、見た目にも牙や爪などの武器も見えない。何より、その体が細く生える翅も薄く‥‥『儚い』という言葉がぴったりである。

「キメラはキメラ‥‥だな!」

ターン

 男はSES搭載の銃で翅を狙い打つ。しかし、フラフラ飛び回る事もあり、狙いははずれ、胴体へと命中してしまう。突如の攻撃に驚きつつも、キメラは男へと襲いかかるべく急降下してきた。

「ふん! やられるかよ」

タタタタターン

 男は構えた銃の弾を全弾撃ちつくす。

ドスン!

 空中で既に息絶えたキメラが、地面へと衝突する。その衝撃で、FFの消えた体は無残にも切れ切れになり、体内から何かが出てきた。

「なんだ、コレ‥‥『マリアへ』?」

 体内から出てきた物は小包で、その箱には『マリアへ』と宛名が書かれていた。

●罠

「私に見せたいものって何ですか?」

 マリア・ケミカーがオペレーターに尋ねると、奥の部屋へと案内された。その部屋にはモニターが用意されていた。

「先日、討伐されたキメラの体内から『箱』が発見されました。その箱には『マリアへ』と書かれては居たのです。誰の事かも解らなかったのですが、その箱の内容を調べた所、こういう映像が記録されていました」

 映し出された映像には、マリアの夫‥‥ロビン・ケミカーが映っており、場所はまたあのオアシスであるという事はすぐにわかった。しかし以前と違うのは、その後ろにはバスが置かれていたことだ。

「ワタシを馬鹿にしたマリアにツぐ。ウシロのバスのナカには、子供がノッている。そして、これはキバクスイッチだ。モチロン、あのバスをバクハするためのだ。あのコたちをタスけたければ、マリア・ケミカーがヒトりでワタシのトコロまでクるんだ。あのバスにはショクリョウや、それをセワするセンイセイというモノものっている。だが、そうナガくはモたないだろう。イソぐことだな」

 ロビンの話が終わると、画面には時間が表示された。その時間まではあと6日程あった。

「‥‥人質まで使って私を」

 マリアの顔からは困惑が見て取れる。だが、何故自分に拘っているのかはよく理解できていなかった。

「映像に映っていたバスだが、あれはバグア領の国で使われているバスらしい。という事は中の園児は親バグア派の子供だな」

 そうは言っても、人質は人質である事に変わりはない。

「出来れば、あの場所に以前赴いた連中に手助けをしてもらいたいものだな」

 マリアはその話を聞きながら、違う事を考えていた

(夫をこの手で楽にしてあげるチャンスなのかしら‥‥)

 その右手にはエミタが装着されていた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
夜神・零夢(gc3286
13歳・♀・CA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
ヴァナシェ(gc8002
21歳・♀・DF

●リプレイ本文

  緊迫した雰囲気の中、ロビンとマリアが対峙しており、ロビンは起爆スイッチらしき物を握り、岩に腰掛けている。マリアとロビンとの距離は20mほどだろうか?

「愛が憎しみに変わったのかな‥‥よくわからないですけど」

 岩陰に隠れたトゥリム(gc6022)が、二人の雰囲気を見てつぶやく。その傍には、ヴァナシェ(gc8002)が居り、軽く頷いている。

 彼らが居るのは、ロビンから100m程離れた場所だが、そこからロビンまでは一切の遮蔽物がなく、これ以上近寄るのは困難であった。とは言っても、ここまで来るのも大変危険だった。トゥリムによる探査の眼では、オアシスに潜伏するキメラの存在が判明し、終夜・無月(ga3084)が月読を使って調べた所、人質の乗ったバスの背後には、巨大なウスバカゲロウキメラの姿を捉えた。そんな中を密かに作戦を遂行しなければならず、身を削る思いだった。
 やっとの事でここまで辿りついたものの、離れすぎて声は聞こえない。

「何の話してるんでしょうね」

 夜神・零夢(gc3286)が二人を不安そうに見つめていた。

●愛の形

「そこでブキをオけ」

ドン、ドドン

 マリアは銃と弾丸を地面へと投げ捨てる。そして、ロビンへと歩み寄る。

「何故、私なの?」
「オマエがこのニンゲンのコトをシりすぎているからだ。カンタンにイえば、ジャマなのだ」

 岩に腰掛けたまま、見下ろすかの様な視線のままだ。ロビンは顔はそのままで、目線だけを横へと向ける。

「どうせ、ヒトリではないのだろう?」

 その指摘に、最初は動揺するマリアだったが、読まれても不思議ではないか‥‥と、開き直ってしまう。

「私もそう思うわ。でも、だったらどうするの?」

 ロビンは思わぬ反応に、つまらないと言った感じでため息をつく

―――
 
 その様子を見ていた面々は、二人の距離が近づくのをみて、好機と判断した。

「手筈通り行くぞ」

 終夜が合図し、終夜とトゥリムの二人が瞬天速で突撃する。距離は100m。一度の瞬天速では無理な距離であり、連続使用を余儀なくされる。そして、ロビンの死角へ死角へと回り込む様に接近する。

「うまくやってくれよ」

 半ば祈る様にヴァナシェから声が漏れる。しかし‥‥その祈りが届く事はなかった。

―――

「来たか」

 何かを察したロビンが、持っていた起爆スイッチを何の迷いもなく押す。

ボボボン!

 子供たちの乗るバスが、突如爆発炎上する。思いがけない事態に、トゥリムが瞬天速を解いてしまい、終夜も躊躇するが、そのままロビンへと斬りかかる。その首を切り落とすのが狙いで‥‥

「助けて! マリア!」

 いつものロビンの口調が一変し、マリアの名を叫ぶ。そして、紙一重で攻撃を避け、終夜の次の攻撃を、手の甲で捌く様に受け流す‥‥が、その手のひらは両断される。

「マリア!」

 なおも、マリアに助けを求める。
―――

 バスの爆発を見て、慌ててヴァナシェと夜神がバスへと救助に向かう。しかし、無事に助けられるとは到底思えない状況であった。燃えるバスの中に飛び込んだ二人だったが、助け出せたのは三人だけであった。

「あんた達は死なせないわ」

 夜神が、全身に焼けど負った子供の手当てを始めるが、手の施しようがなく‥‥一人息耐えてしまう。
 バスの背後から、ウスバカゲロウキメラが姿を現す。

「この身に代えても‥‥、皆は護る!」

 子供たちを護る様に、ヴァナシェが立ちはだかる‥‥が、キメラはそのままロビンへと向かって飛んでいく。

ドドドドドドドド!

 けたたましい音と共に、エトセトラの赤兎馬隊が、デザートモービルに乗り現れる。夜神が予め、人質の救出後の為に来てもらって居たのだが、爆発を聞きつけて駆けつけてくれたようだ。しかし‥‥搬送する子供は危険な状態である。赤兎馬のメンバーも、戸惑いを隠せないで居たが、時間にもはや余裕はない。子供たちを乗せ、猛スピードでその場から離脱していった。

●憎しみの匂い

「ふざけるな!」

 マリアが終夜を突き飛ばし、ロビンへと殴りかかる。

バシッ!

「くははははは! いいぞ! そのカオ! ジツにイイ」

 マリアの拳を斬られていない方の手で受け止めると、また元の口調に戻り嘲笑う。

「このカオで、オマエをユさぶるためにここにヨんだんだ。そして‥‥オマエたちもな!」

プシュシュ!

「グワァ!」

 小さな音と共に、マリアの拳を掴む腕から血飛沫が飛ぶ。

「離して」

 そこには、サプレッサーを付けたクルメタルP−56を構えるトゥリムの姿があった。

バシュ!

 血飛沫の飛ぶ腕を、終夜が切り落とした‥‥かに見えたが、骨を絶つまでには至らなかった。さすがに、連携してくる傭兵を二人も相手にするのは無謀と感じたロビンが、後方へ飛び退く。

「これイジョウは、ムイミだな」

 ロビンが怪我をしている手を勢い良く振り回すと、その飛び散る血で終夜とマリアへ目潰しを図る。さらに、服の間から発炎筒が数本転げ落ち、周囲を一瞬で煙で包み込む。トゥリムは煙に巻き込まれずに済んだものの、煙の中には終夜もマリアも居るため、攻撃が出来ないで居た。

「せいぜい、まだイキのあるコドモを助けることだ。わざわざ、ゼンインがソクシしないようにしておいてやったのだから!」

 上空から、ロビンの声がする。見上げると、10mを超えるサイズのウスバカゲロウキメラに掴まれたロビンが飛び去っていく。トゥリムが即座に銃を向けるが、それを邪魔するように、他の小さい(と言っても、3m程はある)ウスバカゲロウキメラが覆いかぶさって襲ってくる。それは、終夜やマリア、子供の救出に当っている夜神やヴァナシェも同じであった。

「待ちなさい! ロビン!」

 マリアの悲痛の叫びも意味をなさず、ロビンの嘲笑うかの様な高笑いは徐々に小さく遠ざかっていった。

 幸い、ウスバカゲロウキメラの弱さはかなりの物で、全員が余裕で倒すことが出来た。そして、全員でバスの中から子供達の遺体と、先生の遺体を運び出す。衣服は焼け焦げ、もはや判別も困難な程であった。

「ごめんね‥‥」

 夜神が、遺体に手を合わせる。他の者も、同じ様に手を合わせ冥福を祈る。

「救える命は救えたはずだ」

 ヴァナシェが励ますように夜神に声を掛けるが、その声から悔しさが感じられた。その後、誰も一言も発する事無く、遺体をオアシスに埋葬していった。

―――

 搬送した子供達が居る病院に駆けつけた傭兵達は、「どうにか命だけは助かる」という医者の言葉を聞き、胸をなでおろした。

「でも、この子達‥‥独りぼっちなのね」

 マリアが言う通り、子供達には親が居ない。元々バグア領から連れて来られた人質だったからだ。このまま順調に回復したとしても‥‥それは、本当に幸せなのだろうか? マリアはそんな想いに捕らわれていた。

 マリアは終夜、トゥリム、夜神、ヴァナシェ、そして、赤兎馬の人たちに対し、深々と頭を下げる。

「助けていただいて‥‥本当にありがとうございました」

 そう礼を述べたマリアだったが、その顔は暗く、床には涙がこぼれ落ちていた。彼女にとっては、大きな決意で能力者になったばかりの、一番最初の戦いだったのだ。自分の無力さ、夫への未練‥‥自分の為に、自分のせいで‥‥今回の事で、さらに様々な物を背負う事になったマリアだった。

(強く‥‥強くならなきゃ‥‥今の私じゃ何もかもが足りない‥‥。この子達の為にも、助けてくれる仲間の為にも‥‥そして、ロビンの為にも‥‥)