タイトル:【情報戦】謎始めましたマスター:

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 不明
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/28 14:45

●オープニング本文


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 倒壊したビルの瓦礫が山となっている場所。そこでは、捜索が続けられていた。捜索しているのは、エトセトラの面々であった。

 ――エトセトラ戦闘部隊「ビッグマウス」リーダーのロバート・夏、ナッシュ・ホランドの二名、消息不明

 エシュロンの罠により、倒壊するビルに巻き込まれた二人。懸命な捜索を行なうものの、遺体どころか遺品さえ見つかってはいなかった。二人を探すエトセトラのメンバーの中には、すでに生存を諦める者も居たが、そうではない者がほとんどであった。

「大丈夫、何も見つからないってことは、どこかで何かしてるんですよ。なんたって、スパイみたいな事ばかりしてる部隊のメンバーと、そのリーダーですもの」

 牛鬼のリーダーであるリナは、瓦礫の埃にまみれて汚れた頬を拭いながら、笑顔で強く断言する。その言葉は誰に対して言った物でもないが、周囲の者達はまるで励まされたかの様な気分になれたのであった。


●ただいま潜入中

 実際にロバートとナッシュの二人は、エシュロンへの潜入に成功していた。あのビルの倒壊に紛れ、二人は変装しエシュロンの負傷兵と入れ替わっていたのだ。しかし、そこからは容易ではなく、例え変装で外見は誤魔化せても、性格などは不可能であった。その為、幾度と無く正体がバレそうにはなっていた。それでも、彼らの技術と経験は神がかり的であり、そのいくつもの危機を脱する事で、より深くまで潜入を進めていった。


「‥‥どうやら、エシュロンはもうダメかも知れないな」

 潜入を始めて2週間程経った頃から、エシュロン内部は混乱していた。それは、エトセトラを罠に掛けたあの作戦の事がきっかけであった。元々エシュロンの目的というのは、情報収集能力を活用し、その情報という力を使っての、バグアとの交渉であった。『人類が人類として、バグアという組織内部で立場を確立』という目的である。しかし、それにはまだまだ力が足りて居なかったにも関らず、『キメラ』が現れたのある。しかも、明らかに罠を知っていたかの様に‥‥


「バグアへの内通者、か。やっかいな話ですね。」
「ま、とりあえず‥‥そろそろ潮時だ」

 変装して誰だか判らないが、ロバートとナッシュである。集めるだけ情報を集めた物の、今のエシュロンに長居する事は危険である。内通者探しが始まれば、問答無用で取り調べられてしまうからだ。


「その前に、アイツに会って話しでも聞いておくか」
「‥‥アイツというと?」
「引き摺り下ろされたボスだ」


●裏切り、幽閉、檻の中

 あの作戦の後、『エシュロンのボス』は即座に行動を起こしたのであった。まだ時期尚早であるバグアとの接点、それは危険でしかない。まずは情報漏洩の確認と、漏洩が事実ならその出所‥‥判断も行動も、指示も状況把握も的確であった。欠点があったとすれば、ただ一点‥‥。


「あなたをボスと呼ぶのは今日が最期です。ボス」

 幹部の裏切り。それは予期しておくべきだったのかも知れない。時期尚早と判断、それはボス個人の感覚であったのだ。銃を突きつけられ、数人の組織員に連行され、地下への牢へと幽閉されてしまったのであった。

 ボスを失なったという動揺、分裂する組織、交錯を始める異文化、うろたえ思考を止める者、暴走する狂乱者、信奉する妄信者。冷静さを失ったシギント組織に「力」などあるはずがない。力なくした組織にバグアは何を見出すのか。


「解り切っていると思っていた。それは私の間違いではなかったはずだ。まだなのだ。いや‥‥こうなってしまってはもう遅い。もはや、食われるがままだ」

 暗い牢の中、ボスと呼ばれた男は嘆きつぶやく。その背中からは、最早ボスとしての威厳は感じられなかった。


「ボス、‥‥ボス!」
「誰だ‥‥?」

 牢の外に人影――ロバートである――が見えるが、完全には姿が見えない。変装してはいるので、見えても差し支えはないだろうが、ここは用心しての行動である。


「大丈夫ですか? まだボス派の人間は大勢居ます。諦めずに頑張ってください」
(この混乱の勝者がバグアになってしまっては困るからな‥‥)

「今のままではダメだ。幹部四人の内二人が裏切り、私はこの有様だ。どうにかして残りの二人を味方につけなければ‥‥」

「私で出来る事はありますか?」

「No5のハリー、彼と連絡を取れ。何かと変わった奴だが、あいつの能力はこの状況では確実に有効なはずだ」

「連絡を取るには‥‥?」

「ここへ行け。詳しい居場所などは、私にもわからんが、ここに行けば何か手掛りがあるはずだ」

 ボスが手渡したのは、ヨーロッパにあるエシュロン支部の住所が書かれた紙切れであった。それを受け取ったロバートは、静かにその場を後にした。


●変人は間に合ってます

 ロバートとナッシュは、密かにエシュロン本部から抜け出すと、二人だけで「支部」へと向かった。もちろん、エシュロンのメンバーとして‥‥この時点までは。


カチッ!

 支部と思しき施設は無人であった。しかし、部屋に一歩足を踏み入れると、旧式のテープレコーダーから音声が流れ始めた。


「ようこそ。名も無きエシュロンの同胞‥‥ふっ、エトセトラのメンバー諸君と言った方がいいな。的確な表現だ。既に、君達の正体、ボスの置かれた立場、本部の状況などは耳に入っているんだよ。当然と思ってくれ。しかし、君達に協力をしても良いと思っている。このままでは、この私の立場も危ういからね。無条件ではないぞ。壁にかけてあるメッセージの謎を解いてみたまえ。私をそれを見て楽しむとしよう。」

 音声はそこで終わり、テープレコーダーの動きが止まり。逆回転を始める。


「なお、このテープは自動的に‥‥」

 古い、古い、むか〜し、昔のお決まりパターンかと思えば‥‥


「‥‥発射します」

ドン!

 天井を突き破り、テープだけが飛び出して行く。


「確かに、変わり者だな。ふぅ〜‥‥」

 目を壁に移すと、そこにメッセージボードが掛けてあり、謎めいた文と共に一枚の古い写真が貼られていた。


「古い航空機の写真か‥‥」

 裏を見ると、『1940年〜1942年 アブロ679』と書かれていた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ジョー・マロウ(ga8570
30歳・♂・EP
ヴァナシェ(gc8002
21歳・♀・DF

●リプレイ本文

「やれやれ、潜入やら聞き込みなら手馴れている自信はあるんだが‥‥」

 変装を解いたロバート・夏(gz0451) が、完全に不貞腐れた様子で椅子の上でぐでんとしている。そこに来客が来る。


「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」

 白衣を着てハイテンションで登場したのは、ドクター・ウェスト(ga0241)である。完全に行き詰ったロバートは、自分と部下の生存をエトセトラに報告し、能力者の協力を要請したのだ。元々はそれほどお金に余裕のある様な組織ではないが、エシュロン潜入時に何かしら失敬してきたらしい。潜入先で換金物を頂いてくる辺り、彼らの技術の高さが窺えるが、チームのシンボルが「鼠」である点にもどこか納得が行く。
 ドクターの来訪から数分後、立て続けに二人の協力者がロバートを訪ねてきた。


「よ、俺はジョー・マロウだ、よろしくな」

 一人は、スーツを着込んだ男性、ジョー・マロウ(ga8570)である。そして、一緒に来たのは、紅一点のヴァナシェ(gc8002)である。


「さて、まずは状況の説明と情報の整理から始めるか。おっと、あと一人居るんだったな」

 部屋の中央に置かれたテーブルの上に、電話が置かれており、その電話にマイクとスピーカーが繋がれている。どことなくミスマッチな外見をした機械同士が繋がっている印象が強い。そこから男性の声が聞こえてくる。


『UNKNOWNだ、よろしく』

 今回一人だけ電話による参加なのが、UNKNOWN(ga4276)である。これで全ての協力者が揃ったわけだ。


「そんじゃ、始めるか‥‥」

 ロバートによる説明が始まった。エシュロンへの潜入時に起きたクーデターや、ボスの幽閉など大雑把ではあるが説明する。そして、ハリーが残した肉声テープとその末路、そしてメッセージに関しても。


「ほう、テープを発射したか〜。は〜、ソウ来るとはね〜」

 聞き終えたドクターが興味を持ったのは、テープにされた細工の方であった。


「しかしソンナことを思いつくような者がバグアにいるとは、少々もったいないね〜」

「いや、ハリーって奴はバグア派じゃないそうだ。エシュロンって組織に執着しているだけで、むしろバグアに対しては危険視している節があるな」

 ロバートがテーブルの上で、人物相関図を簡単に書き始める。組織幹部は全部で、四人。No2とNo3が裏切った形ではあるが、それ以前は互いに不仲であり、ボスには忠実という二人であった。そして、今回ボスが頼りにしたNo5のハリーは、バグアに取り入ろうとするボスには反抗的であった。No4に関しては、まったくつかみ所のない人物であり、どちらに傾くかは今後の状況次第と言った所だそうだ。


「天を司る塔に私は居る。その塔を守る者には、『喜びの声・わめき声』が付き纏う事だろう。その塔に住まう者達には、共通の言語が存在し、その言語が「生まれた土地」のどこかにその塔はあるだろう。ってのが残されたメッセージだ。そして、これが一緒にあった写真だ。どうだ、この時点で何か解る事はあるか?」

『ああ、それは管制塔だね。マンチェスター空港だろう』

「やけに唐突に答えを出すんだな‥‥」

 ロバートが怪訝な表情で、UNKNOWNの言葉に反応を示す。しかし、その理由などは説得力にはかけ、説明がうまく出来ておらず、『結論』としては弱かった。命の危険の可能性もあるのだから、仕方がない。
 もう一つ、航空機の写真『アブロ679』に関してドクターが発言する。


「ふむ、アノ写真の機体は、我が国の爆撃機であった『アブロ マンチェスター』に違いあるまい〜」

 ドクターの指摘は正しく、確かに別名としてその名前を持つ爆撃機であった。ロバートが、赤兎馬のメンバーに確認を入れたのだ。これで、「マンチェスター」という部分から、UNKNOWNのマンチェスター空港という点にも説得力が出て来た。


「UNKNOWNさんの推理に賛成。管制塔なのは間違いないかな」

 ヴァナシェは、塔が管制塔であるという点には賛成ではあったが、未だにその明確な理由には触れられずにいた。


「マンチェスター空港の管制塔、管制室でいいんじゃないですか。外れても何かありますよ」

 ジョーの意見によれば、ハリーという人物はこの謎を「楽しんでいる」と思われ、例え外れていても、あれほど頭の切れる人ならば、それなりに失敗する事も予測し、何かしらの痕跡なり残しているのではないか、という事であった。


『甘く見てもらっては困る。失敗すれば協力は決してしない。それだけは言っておく』

 突如、電話から聞きなれない声がする。しかし、それに聞き覚えがある者が一人だけいた。


「その声は、ハリーか!」

 ロバートがマイクに向かって、声を荒げる。どうやらハリーは最初から、電話回線を利用して盗聴をしていた様だ。そもそも、盗聴はエシュロンの得意分野なのだから、不思議はない。


『都合よく電話回線を引いてくれたので、私も楽が出来た。運も実力だ。君達がテープを聴いた時点から、ずっと監視は怠ってはいなかったのだよ。当然だ』

 声の抑揚はとても楽しげであった。それは逆に、ロバートや他の者にとっては不快以外の何物でもなかった。しかし、その言葉を最後にハリーの声が聞こえてくる事はなかった。

 それから数時間後、エトセトラが手配した航空機で、イギリスのマンチェスター空港管制塔に向かう事になった。しかし、謎が十分に解けたわけでもなかった。


「オレの記憶が確かなら、マンチェスターという空港は二つある。イギリスのマンチェスターと、アメリカのマンチェスター・ボストン地域空港だ」

 航空機内でもまだ推理は終わっては居なかった。ロバートが地図上で指し示した二つの空港、アメリカとイギリスの両方にマンチェスターという名が付く空港はあったものの、ドクターの言う「イギリスの爆撃機」という点から、イギリスという事になった。しかし、UNKNOWNからは、アブロ社のマンチェスターという点から、必ずしもイギリスではないのではないか、そして、管制塔の共通語という点でも「フォネティックコード」は英語ではなくアルファベットであり、イギリスを指す物ではないと、矛盾点への指摘がいくつかあった。


「もうすぐ到着だ。ジョーの言う通り、行ってみればわかるさ‥‥たぶんな」

 暗い表情のまま、ロバートが空港を指さした。しかし、空港に着陸する前に答えが判明する。管制塔から通信が入ってきたのだ。


『よく来たな、回答者の諸君。正解だ』

 それは、目の前の管制塔に居るハリーの一段と楽しそうな声であった。


●評価点は‥‥?


「さて、前にも言ったが、君たちの目的は解っている。勿論だ」
「なら、話は早い。エシュロンが完全にバグア側につく前に止めて欲しい」

 ここで初めて、ハリーの声から楽しげな抑揚が消える。


「そうしたい所だが‥‥残念だ。読みが甘い。おそらく、エシュロンはすでにバグアの支配下にあると思っていい。最悪だがな。クーデターを起こしたというNo2とNo3は、おそらく既に人間じゃない。ヨリシロと言ったか?」

 それを聞いた全員が、事態の深刻さを悟った。だが、電話による参加のみであったUNKNOWNだけはこの場には居らず、この会談には参加していなかった。


「だが、安心しろ。ボスが必要としたのは、私の特技の事だろう。利用されるのは嫌いだがな。さて‥‥話は変わるが、謎を解かせてばかりではなんだ。君達の謎も解いてあげるとしよう。何か質問に答えよう」

 ヴァナシェがその言葉に対し、即座に質問を始める。


「具体的には何をするつもりだ?」

「簡単に言えば『演説』だ。それが私の特技だ。人心誘導を目的とした口技が特技でね、まずは、エシュロンから反バグア派を引き抜き、中から戦力を削り取る」

「そもそも、エシュロンとは?」

「諜報組織と思ってくれて構わない。しかし、そこに居るエトセトラとは別のタイプの組織だな。デジタルがエシュロン、アナログがエトセトラと思えばいい」
「おいおい、なんかオレたちの方が旧式みたいな言い方だな」

 ロバートが「アナログ」に過敏に反応する。多少自覚があったが故なのだろうか。


「ははは! 得意分野の違い、と言い直そう。面白い反応だ。そうそう、面白い反応と言えば、ドクター・ウェスト。君は私の細工したテープに興味を持ってくれた様だね。気が合いそうだ。」

 友達が出来たと喜ばんばかりに、屈託のない笑顔をドクターに向ける。


「さて、私の方の時間がそろそろなくなって来た様だ。最後に君達の謎解きの評価をしようか。点数は60点という所だな。正解は正解だが、その過程はとても危うい物だったよ。」

 屈託のない笑顔が豹変し、酷評を叩きつける評論家の如き顔つきになっている。


「塔とはカンセイ塔の事だ。喜びの声、わめく声‥‥どちらも、歓声と喚声だ。そして、『天』を司る塔、故に管制塔となるわけだ。それほど難しい言葉遊びではなかったつもりだったのだがな。」

「そして、どこの管制塔であるか。ここで、ドクターの言った『アブロ マンチェスター』が出てくるわけだ。実際には、この時点でイギリスのマンチェスターと断定してくれても良かったのだが、古いネタだったからな、さらにヒントを出しておく事にしたのが、『共通語』という謎だ」

 表情はまたもや変わり、今度は困った表情となる。


「まさかここで、NATOフォネティックコードを出してくるとは思わなかった。あれは正確には『言語』ではないからな。航空管制において、母国語と英語の二つが基本的に使われる言葉だ。もちろん、例外的には色々と複雑ではあるが、英語で『会話』するという点だけは共通だ。よって、共通語とは英語であり、英語が生まれた土地というのは‥‥」

「実は、UNKNOWNが言った様にいくつかある。だが、『アメリカ』では決してないのだから、マンチェスターとはイギリスのマンチェスターしかありえないのだよ」

 長いセリフはテンションが下がる。と、思っている者も居るかも知れない。しかし、ジョーが推測した「頭が切れる」というのは、当っているだろう。変人ぽさは相変わらず全開ではあるが‥‥。


「それでは、これで君達との楽しい謎解きの時間も終わりだ。残念だがな。約束通り、混沌としたエシュロンから肥えきった無駄肉を削ぎ落として来てやろう。期待に応えよう」

 ハリーはそう宣言すると、管制塔を出て行く。しかし、その背中から先ほどのオーラはなく、どこか悲しげなオーラを漂わせていた。彼が目指したエシュロンと、今のエシュロンとのギャップに落胆し、さらに落胆させるであろう出来事を自分の手で行なうのである。