タイトル:【DAEB】黒の道マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/13 11:47

●オープニング本文


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「やあ、来たね。待ってたよ」
 モデルのような体形の男が、漆黒のゴーレムから降り立つと、柔和な笑顔を向ける。無造作に結んだ銀色の髪が風に揺れている。整った顔立ちが、微妙にくしゃりと笑い、愛嬌をかもしだしている。雰囲気もとても優しくて、彼を嫌いだと言う者は、彼に手酷い裏切りをされた過去の女性達しか居なかった。手ひどい裏切りさえも、裏切りと思わず、しょうがないわねと笑う女性も居るほどであった。
 多くのパトロンを持ち、思う様その設計の腕をふるい、幻想的な建物を作っていた。
 バグア襲来までは。
「綺麗になったねえ。昔は可愛いかったけど」
 屈託無く笑う。
 男の名は、ロウ。今ではバグアの強化人間として、人類の敵となっている。
 ペッパー(gz0297)は表情を変えないまま、彼と相対していた。
「‥‥あたしは、強化人間になれるか?」
「もちろんさ。君はずっと運び屋とかで各地を転々としてただろ? 能力者でも無い君が、私達の裏をかいた事、一度じゃない。それに、君の肉体はとても鍛え抜かれている。今もまだ、踊れるぐらいに」
 目を細めて、ロウはペッパーを見た。
「なら、良い」
「じゃあ、行こうか?」
「ひとつ約束が欲しい」
「何? 可愛い人。君の為なら出来る限りのことはするよ?」
「記憶はそのままで良いんだな?」
「そりゃね。私を見ればわかるだろう?」
「確約出来るか?」
「話通してあげるから、ね?」
 ロウは、ペッパーの華奢な身体を慣れた手付きで抱き寄せる。
 ペッパーは無表情のまま、ロウのさせるままにし。
 
 ゴーレムがペッパーを乗せて浮き上がる。
 そして、その足で、ペッパーの乗ってきたジープを踏み潰した。
「‥‥」
「本当に、綺麗になったね。眉ひとつ動かさないの?」
「あれは捨ててきたものだ」
「だね。きっと専用機も用意してもらうようにするからね」

 目を開けたのは、暗い部屋だった。
「目が覚めた? ペィギー」
 暗いと思ったのは、男が光を遮っていたからだった。
 人懐こい男は、ロウと言い、自分のパートナーだと言った。
 そう‥‥確かに、そうだ。懐かしい顔だ。
 ペィギー? 何か違和感がある。
 ちり。
 頭の奥が痛む。
 そう、ペィギー。あたしの名前はペィギー。
 強化人間として、北京環状包囲網を行き来し、攻撃手のひとつとなっている。
 本星からドレアドル様が降下し、『休門』済南市が落ち、様々な補給を各地域事に行わなくてはならなくなった為、多忙である。
「今度の担当は何処?」
「朝陽空港・空軍基地と、赤峰空港近辺だよ。瀋陽市が人類側に戻っちゃったから、北京環状包囲網のもう一枚外側の布陣って所かな阜新空軍基地を落とされちゃったから、ちょっとがんばらないといけないんだ」
 強化ゴーレム工場のあった阜新空軍基地は、UPC軍と傭兵達の攻撃によって陥落している。
 基地には、100体ものゴーレムがあったが、それが未起動のまま、陥落。
 人類側の攻撃が素早く、起動させる事すら出来なかったという報告が纏められている。
「‥‥阜新空軍基地を守っていたのはあんたか?」
「えーっと‥‥」
「あんたなんだな?」
「嫌だなあ。そんな怖い顔しないで?」
「どうせまた、補給も疎かにしているんだろう。ウランバートルからの定期便は何時だ?」
「えーっと‥‥」
「いい。あんたに実務は期待していない。あたしがやる」
 ペィギーは、頭痛の残る頭を振りながら、司令室へと向かって歩いていった。
 その後姿をロウは小首をかしげて見送っていた。
(「話しを通した事があだになっちゃったんだー」)
 強化人間の一人二人、さして上に上げる懸案では無い。
 だが、ペッパーが望んだ、記憶を無くさないで欲しいという嘆願が、何故かウォン司令の元まで届いてしまったのだ。それならば、と、ウォンが指示したのは、当然のようにペッパーの記憶の削除であり、すり替えであった。完璧なそれでは無く、ふとしたはずみでストッパーが外れるというおまけつき。
 もし、彼女が望んでバグアになったのならば、記憶が戻っても後悔などするはずがない。
 だが、万が一、何らかの意図があって強化人間にとやってきたのならば。
 己の手が真っ赤な血に染まって尚、平然としていられるかどうか。
 余興だと、ウォンは笑ったという。
(「会った事無いけど、司令、怖いんだ。だから、ごめんね、ペッパー。でも、良いよね? 私のところに来てくれたんだものね?」)
 ロウはひとつ頷くとペッパー‥‥いや、ペィギーの後を追った。

「赤峰空港近くで、箱持ちムカデと呼ばれるワームを発見しました。何かの不具合か、動けなくなっているようです。調査をお願い致しますの。上手くいけば、敵物資を横取りとか出来ますの。最悪、破壊をお願いいたしますの」
 UPC総務課、ティム・キャレイ(gz0068)が、手早くモニターに映し出す。

 そこへ漆黒のゴーレムが向かっていた。
 光る緑の細い線がいくつも描かれているその機体には、ペィギーが乗っていた。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
シエル・ヴィッテ(gb2160
17歳・♀・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
杉崎 恭文(gc0403
25歳・♂・GP

●リプレイ本文


 敵輸送物資の回収。もしくは破壊依頼。
 その場所は、参加した多くの傭兵達にとって、記憶に新しい場所だった。
「なんかこの頃『掃除屋』と呼ばれる連中が頻繁に出没しているようですし、気を抜かないように事に当たらないといけませんね」
 乾 幸香(ga8460)は、イビルアイズ、バロールを飛ばしながら、周囲を確認する。共に依頼に向かう仲間達の微妙な雰囲気を感じてはいたが、依頼は依頼である。
 南米で発覚した、『掃除屋』。バグアにも、様々な役所があるようで、今までバグア機の回収が思うようにいかなかった一端が垣間見えた報告も上がっている。この依頼も、その類の輩が関わっていないとも限らない。がんばらなくてはと、幸香は思う。
「コンテナを回収するっつー話だもんな」
 バイパーを操りながら、杉崎 恭文(gc0403)が頷く。
(「こんな事してる場合じゃ‥‥ってわけにもいかねーか」)
 この区域で、消えた知り合いの安否が気にかかる。だが、依頼は依頼だ。
 気持ちだけがはやる。
(「再度の北京。ペッパーさんの手掛かり、とか。見つかるかな‥‥」)
 ロビンを仲間達と飛行を合わせ、不知火真琴(ga7201)は気にかかる女性の事をふと思った。
 警戒を怠らず、ウーフー2で飛んでいる大泰司 慈海(ga0173)は、各国の惨状を思う。戦火が下火になる場所もあれば、激戦の区域もある。大陸は、今、正に戦乱と呼ぶような地域であるのだろう。
(「行方の知れないペッパーちゃんのことも心配ではあるけれど、今は、目の前の依頼をこなすことに集中しないと‥‥ね」)
 やはり、気にかかるのは、ひとりの女性。
 だが、と、慈海は首を横に振る。
「箱の中の物資が、戦況を有利に進めるのに役立つものなら良いね」
「うーん‥‥。箱の中身は何なんだろう‥‥? 早く確保しなきゃね」
 オウガ、ミーティアを飛ばしながら、シエル・ヴィッテ(gb2160)が首を傾げる。総務課としては、中身が何であれ、敵物資ぶんどりは濡れ手に粟という事らしいのだが、つい深読みをしてしまう。
「罠じゃなくて良い物が回収できたらいいわね」
 フェニックスA3型、Merizimを飛ばしながら、ラウラ・ブレイク(gb1395)は、先行きの地形を確認しつつ、起伏や林などを注意深く確認していた。撤退時のルートは多いほうが良い。何よりも、撤退中に背中から狙い打たれるのは好ましくない。上手く利用出来る場所を幾つかピックアップし、覚え込んでいた。
 そして、陽光を反射する鋼の光。
 10m程のワーム一機に、五連結するコンテナが、岩場の亀裂に嵌まり込むような姿が見えてきた。


 次々と、岩場の近くへと、KVが降下する。
「モノがモノ‥‥待ち伏せや‥‥敵の出現は‥‥想定の範囲ですね」
 周囲は軽いジャミングに満ちている。ここは、境界ぎりぎりの場所。いや、どちらかといえば、バグア地域の色が濃い。朧 幸乃(ga3078)は、ワイバーンMk. IIを操り、警戒に回る。
「いやーな感じだよねえ」
 慈海機が、岩場を登る。急な坂では無いが、緩やかな起伏が重なるこの場所は、見通しが悪い。
 強化型ジャミング中和装置には、今の所、何も引っかからない。
「空から来られると、飛ぶまでに、少しかかるかな。この場所‥‥」
 岩場へと上って、降りる。
 警戒に当たる自分達も、それだけの手間がある。
 回収班が、回収中に攻撃を受けたら、撤退するまでの間をどれだけ維持出来るか。
 シエルは、首を小さく傾げる。
 箱持ちムカデを中心に、傭兵達は、何となく、遠くない場所へ放射状に散る。

「なぜ擱座したのかしら? 五体ともだと単なる故障じゃないかもね」
 ラウラは、そう呟くと、周辺の確認をすれば、この辺りの岩場は、起伏が多い。あちこちにコンテナが引っかかった跡が見える。通常ならば、岩場ぐらいではワームは壊れない。だが、ムカデの積荷は、酷く重そうだ。
「‥‥方向は‥‥真っ直ぐに来たと考えれば‥‥ウランバートル?」
 北京包囲網のもう一枚外側に当たる、この地域。
 BFなど、輸送の為の空路は、発見し易いのだろうか? 
 目立たないように輸送をするのならば、陸になるのかもしれない。
「さっさと回収しちまおうぜ。あんま長居して敵に囲まれましたじゃ、笑い話にもなりゃしねぇし」
 恭文が、渋面を作る。どう回収するのかと、仲間に問いながら、連結コンテナへと近寄って行く。
 と、月城 紗夜(gb6417)のシラヌイ、第六天が不意に強化型ショルダーキャノンを撃ち込んだ。
 目標は連結部位。
「だあっ?!」
 恭文機が、僅かに体を傾ぐ。
「触ったら爆発するのかと、パチったら音が鳴るみたいに」
 紗夜は、不思議そうに問う。いきなり触れては何かあってからでは遅いのではないかと。
「まあ、その可能性も無きにしもあらずですが、どうやらバチパチはしないようです」
 幸香機が、ヒートディフェンダーを構えて、連結部位に叩き込む。
「そうね、銃器も悪くないけど」
 ラウラ機が、練剣・七星を取り出す。軽い音と共に、レーザーブレードが姿を現した。
 紗夜が頷く。
「そうか。では、回収に当たろう」
 挟まったワームとコンテナは、KVで引っ張り上げれば、回収は容易のようだ。

 人手は足りているだろうかと、回収班へと、真琴が、声をかけるが。
「っ! 敵接近!?」
 慈海が声を上げた。
 急速に接近する、強いジャミング。
 空か。陸か。
 慈海が指し示す方向へと、警戒班は移動するが。
 最初にぶち当たったのは、一番近い方角に居たシエルだ。
 半ば空中に浮かんだ状態のゴーレムが、接近していた。
 ライフル弾が撃ち込まれるが、まだ遠い。
 威嚇のようだ。
「それを置いていけ。置いていくならば、見逃してやろう」
 空中に居ると見るや、シエルは可変し、空へと上がる。
「この声は‥‥、まさかっ!? ‥‥やっぱり‥‥。分かってはいたけど、やりきれないなぁ‥‥」
 すかさず、可変し、84mm8連装ロケット弾ランチャーを撃ち込むと、ゴーレムは地上へと降下し、そのまま、傭兵達へと向かって突っ込みに行く。ライフル弾が容赦無く飛ぶ。
「有無を言わさず、攻撃か。バグアに負けず劣らず、好戦的だな、人類は。交渉の余地無しか。良いだろう。ならば、容赦などしない」
 シエルの攻撃に苦笑するかのような声が返る。
 幸香が積み込みの手を休めずに、対バグアロックオンキャンセラーを発動させると、声を上げる。
「‥‥バグアの手先の警告を鵜呑みにして任務を諦めれるほど、わたしももうウブじゃありませんからね。止めたければ、わたし達を実力で止めてみて下さい」
「そうさせてもらおう。実力で生き延びると良い」
「お前、ペッパーか!?」
 聞き覚えのある声に、恭文は憤りを感じる。
「あいつ自分から行きやがったな! 力を求めるのは当然だろうが‥‥やらせるわけにはいかねぇ!」
 仲間達が防戦に入るのを身ながら、コンテナを引き出す手を休めない。
 ただ、怒りが湧き上がるのを必死で堪え。
「土木作業員だな、全く」
 コンテナの周囲をメトロニウムピックで突き崩し、コンテナを取りやすくしていた紗夜は、その声に軽く眉を上げたが、黙々と作業の手を休めない。
「今の声はペッパーさん!? 私の聞き間違いじゃなさそうね」
 ラウラは、現れた黒いゴーレムを見て、目を見張る。先の依頼で、破壊されたジープの近くで目撃されたのは、やはり黒いゴーレムだった。仲間達の反応を見て、ラウラは軽い溜息を吐く。
「敵機四方から接近だよっ! ‥‥ね、君ペッパーちゃん? ペッパーちゃんでしょ?」
 慈海は、自機のモニタに映る赤い光点を見て、ため息を吐きつつ、迫るゴーレムから発せられた声に向かい、問いかける。
「‥‥ペッパーさん?」
 射程距離まで、マイクロブースターで加速し、ようやく150mm対戦車砲を撃ち込むと、真琴も問いかける。
 聞き間違えの無い声。
 一般人だった彼女が、ゴーレムを操っているとすれば。
 強化人間になったか、ヨリシロとなったかである。いずれにしろ、最早人には戻れない。
 バグアに、なったのだ。けれども。
 敵機は多かった。フルブーストで迫ってきているようだ。
 その全てがHWだとしても、今すぐに撤退を開始しなければ、間に合わない。
 空中に居るシエルが、もう、視認出来るほどの近くに迫る、ペィギーのやってきた方向からのHWを相手取る為に、仲間達と離れ過ぎないよう、前にと進む。チカチカと見えるのは、CW。小さく脆いワームだが、数が重なれば侮れない。攻撃が通りにくくなるからだ。
「知り合いがバグアに居るのか? 残念だが私の名はペィギーだ。ペッパーというバグア、この地では聞かない名だが、覚えていたら、言付けよう」
 会話で時間を引き延ばそうと思っていた慈海だったが、今はそうも言っていられない。本気でかかって来る黒いゴーレムをどう扱おうか、迷う。
 突進してきた黒いゴーレムからの無数の弾が、雨のように襲い、一瞬行動が止まる。
 真琴機が真ツインブレイドで薙ぎ払う。だが、早い。
 かわされると殴られ、無数の弾丸が襲い、僅かに動きが止まる。 
 残念ではあるが、彼女がバグアへと向かう事も可能性のひとつとして頭にあった。
 幸乃機は、牽制をと向かっていた。
「Why?」
 淡々と、ただ問う。
「何が言いたい?」
「今も、答えはYesです‥‥?」
「あいにく問答は苦手だ。が、Noと答えておこうか」
 後方へと逃れようとする幸乃機の動きを見て、黒いゴーレムはそれを追い、ライフルを打ち込む。幸乃機が、ぐらりと傾ぐ。行動不能には陥らないが、何度も食らえば、動けなくなる。激しい戦闘は想定していなかった。
 シエル機と、上空でワームが戦闘を開始していた。
 一機では長く持ちこたえられない。
 シエルの攻撃の合間を抜けて、降下するCWにHW。

「帰還を優先しましょう!」
 ラウラが声を上げる。囲まれてはお終いだ。
「ですね」
 幸香が頷く。
 二つのコンテナは回収したが、残りは無理のようだと判断した回収班は、残りコンテナを破壊した。派手な爆発音が上がる。
「適当にお引き取り願うしかないわね」
 急接近する敵機の群れに、ラウラは首を横に振る。
 お引取り願うには、あまりにも数が多い。
 ライフルで狙い打つゴーレムから、逃れつつ、紗夜は声をかける。
「何故断った。置いていけ等と言うより攻撃する方が早い」
「そうだな。次はそうしよう。あんた達のやり口はわかったからな」
 侮蔑するかのような言葉が返った。
 バグアに言われる筋合いでは無いがと、紗夜は軽く肩を竦めて、離脱へと持てる力全てを使う。
「任務遂行を優先し離脱する、ガラスの靴を捨てたシンデレラに宜しく言っておけ」
 捨て台詞に近いそれに、返事は返らない。
「ペッパーでもペィギーでも、あなたが誰でも構わない。次は容赦しないよ。覚悟しておいてね」
「その言葉、そのままお返ししよう。お前の機体は覚えた。次は容赦しない」
 シエルが声を上げれば、あざ笑うかのような答えが返った。
 撤退戦をしながら、引き上げるのは、容易な事では無かった。
 黒いゴーレムは、それ以上追っては来なかったが、急接近したHWとCWに手を焼いた。
 ラウラが確認していた撤退路のおかげで、操縦不能に陥る者は居なかった。


「強化人間か、ヨリシロ‥‥と、いう所でしょうね。
 幸乃は、静かに首を横に振る。
「でも、一般人をヨリシロとする例は少ないですから‥‥多分、強化人間でしょう‥‥」
「何があってそっちへ行ったんだか知らないけど、バグアに組した以上は敵でしかないでしょ」
 シエルが問題は単純であると言わんばかりに首を傾げる。
「中途半端に投げ出すのも、また生き方だ。だが、我はそんな人間は嫌いだ」
 紗夜は、言葉にしてから、首を横に振った。
 孤独である時には、周囲を見渡す事は出来ない。ただ、一点を見据える事しか出来ないのだ。
 誰の言葉も、行動も、そうなった心には届かない。
(「兵器は戦うだけだ」)
 だが、彼女には頼る相手が居た事が自分とは違うと、思った。
 羨ましいという感情がふと湧き上がり、紗夜は。自嘲ぎみに溜息を吐いた。
「名前、違ってたって事は、洗脳‥‥とか? 彼女、親バグアを酷く憎んでいたはずだもん‥‥」
 目線を遠く見やり、慈海が呟く。
「なら、俺がやる事は‥‥あいつを引き戻す。これしか、ねぇな。俺はあいつの生き様とか、少ししか見てないけど気に入ってたからな。助けるなんておこがましい事は言わねぇ。俺のエゴで、あいつの目を覚まさせてやんよ!」
 恭文が唸る。
 裏切られたという思いで、ペッパーへの怒りに染まったが、そうでないのならば、引き戻したいと。
「彼女の意思なら、戦うのに躊躇する事なんて無いです。でも、もしそうでないなら、無闇には倒せない‥‥」
 思案顔の真琴の眉が寄る。
「‥‥次に会った時、どうすべきか悩みますね」
 あらましを聞いた幸香が、首を傾げた。
 洗脳されているのならば、その事は一応心に留め様と。
「彼女を助けたいなら協力するけど、強化人間には残酷な道しか残ってないわよ‥‥」
 ラウラは、知らず、困ったような顔をした。
 思い出すのは強化人間となったかつての友。
 その結末は。
 軽く首を横に振る。
 ラウラの言葉に、真琴はこくりと頷く。彼女をあそこまで駆り立てた理由である人物。
 ロウと言った。
「でも‥‥もし、捕まえられるなら‥‥」
 ──あいつだ。
 そう、真琴は思った。

 撤退線をしながらも、コンテナは二つ確保出来ていたのは上出来だった。
 そのコンテナの中身は、建材であり、バグアが基地を強化でもするのか、別に拠点を作るのか。
 バグアの使い道まではわからなかった。
 だが、奪取した建材は、人類圏に取り戻した拠点強化へと有効活用されるとの事だった。