タイトル:GQ†砂塵マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/27 07:11

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 バグアが侵攻してきてから、戦線間近の村や町には言い知れない緊張が続いている。
 そんな中でも、芸がしたい。人と触れ合い、喜ばせたいという命知らずの芸人ギルドがあった。大元締めの下、小さな旅団を組んで村や街を巡る。
 ジャグラー、占い師、踊り子、歌い手。主なメンバーはそのくらいで、最小6人で幌馬車を仕立てて回る。
 時代がかったその幌馬車から出てくる、きらびやかな衣装、笑顔、不思議。
 それは、玉手箱のようで。
 その中でも、特に芸が秀でれば、その名は何時しか有名になる。
 ジプシークイーン。
 タロットカードを手にするセルヴィアの名は、その幻想的な容貌とあいまって、良く知られるものとなっていた。
 銀糸で縁取られた、黒に近い紫の、大きなヴェールを頭から被った細身の麗人。亜麻色の癖の無い長い髪に縁取られた細面の顔は、はっとするほど綺麗で。明るい茶色の瞳が切れ長の目の中で揺らぐ。
 本人が望まなくても。回すカードは、高い確率でその結果を導き出した。しかし、噂には尾ひれがつきものである。大きくなった自分の仇名に、苦笑する姿をよく見かける。

 北京で移動遊園地『東の月』へと出張興行を終えると、『ほうき星』は中東へと向かった。
 そこは『ほうき星』の踊り子であるサラの生まれ故郷が近かった。
 次第に優勢になるUPC軍。息を吹き返す民兵。
 活気つけの一役にと、地元の有力者からの要請で、その足を延ばした。
 その町は、砂漠の中にあった。
 周囲を乾いた砂塵が吹き抜ける。
 隣へと行くにはジープが無ければ無理だろう。
 ぶらりと歩けば、半日で一回り出来てしまう。
 大きな旅館は一つきり。
 町の誰しもが顔見知りのようであり、年寄りと子供の姿が目立つ。
 路地という路地は無く、大通りが町を突っ切っている。
 そんな、街で『ほうき星』からの依頼が舞い込んだのは先日。
 それは、踊り子サラが居なくなったので探して欲しいというものだった。

 傭兵達から、サラの報告を受けた『ほうき星』のメンバーは溜息を吐いた。
「やっぱり。という感じですが、まさか。とも思っていましたよ、私は」
「‥‥無理に連れ戻しても‥‥同じ事‥‥あの子が、その場所に居るのを望むのなら‥‥」
「ですねえ」
 団長や仲間達が、セルヴィアに頷く。
 戦場近くを旅する『ほうき星』。戦えない者は少ない。
 流石に、キメラに対しては、傭兵達に護衛を頼むしかなかったが、相応に対処の出来る者ばかりだ。
「‥‥イムランが‥‥あの子の拠り所だと‥‥あの子は何時気がつくかしら‥‥」
 セルヴィアは、幌馬車を出ると、深とした夜へと足を踏み出して、ひとり呟いた。
 カードは告げていた。イムランがサラを愛していることを。
 けれども、サラのカードはめくれない。サラは、家族だから。
 セルヴィアは戦場である、アジメールの方角を透かし見るかのように目を細めた。


「‥‥やっかい払いだ」
 少年──サラは、イムランを睨みつけた。
 後方の拠点での待機を命じられたからだ。
 イムランは、全身ハリネズミのような雰囲気に変わったサラに、苦笑する。
「違うって。そこを守っててもらわないと、俺達の帰る道が無くなるんだって」
「いいよ。騙されてあげるから。でも、置いてったら‥‥」
「他にも二人、居るだろうが。俺の部下なんだから」
 イムラン以外、サラが女の子だと知る、数名の部下のうち二人を、サラの護衛につけた。もちろん、その場所を抑えられると、撤退時に厳しくなるからだというのも本当だ。
 UPC軍が優勢に戦っているのだから、それは杞憂かもしれないが、戦いは何時もひょんな事で風向きが変わる。
 心配性ともいえる程の用兵をするイムランは、撤退を躊躇しない。能力者では無いのだから、命あっての戦いだと、いつもうそぶいている。無闇やたらと、功を上げようとはしない彼の部隊の動きは何時も素早いとの定評があった。
 踵を返したサラの後姿を、イムランは優しげに眼を細めて見た。
 街の誰もが好きだった女性アーシャーの子。
(アーシャー‥‥サラはたくましく育ってる)
 ほんの僅か、憧れの女性を思い返したイムランは、仲間達の待つ方へと歩いて行った。


「アジメール攻略戦の中、多数のキメラが放たれたと言う報が入りました」
 本部でオペレーターの柔らかな声が響く。
「民兵の一部隊から、傭兵に依頼が至急で入っています」
 それは、アジメールより後方の、その部隊の拠点へと急行してもらいたいという依頼。
「砂蛇キメラが多数、向かっているとの事です‥‥向われる方には、拠点の座標を送ります」
 サンドワームから排出された砂蛇は、UPC軍にあらかた退治されたが、その小ささ故に、軍の隙間を抜け、民兵等と激しい戦闘を繰り広げているようだ。その民兵の後方拠点へも向かっているようなので、これを退治して欲しいという事だった。

 ジープが、ひた走る。
 サラがジープから身を乗り出す。
「馬鹿やろうっ! キメラに三人で何が出来るっ! 一体じゃないんだぞっ!」
 それを、中肉中背の男、ローハンが引き戻す。
 サラは半泣きだ。
「でもっ!! ここにキメラが来るなら、イムラン達はっ?!」
「だーい丈夫だって、疾風のイムランは伊達についてる名前じゃないぞ」
 ハンドルを握る、小柄な男、ヴィシャールが笑えば、ローハンが眉間に皺を寄せる。
「傭兵を頼んだんだ‥‥間に合ってくれるか」
「! やっぱり戻ろうっ!」
「だーからっ。大丈夫だって!!」
 キメラが、ジープを追っていた。

●参加者一覧

叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文


 ジープが砂漠に踊り込む。
 砂を巻き上げ、整地していない大地の隆起に弾む。
「サラは、疾風のイムランって人に連れられてアジメール方面に向かった‥‥」
 ハンドルを取るリン=アスターナ(ga4615)の銀髪がなびく。
「アジメール。アジメール、ねぇ」
 そのジープに同乗する叢雲(ga2494)は、火のついていない銜え煙草を、弄びつつ、砂漠の先を見る。
 至急の依頼先は、奇しくも先の依頼で探し当てたサラの向かった地でもある。
「アジメール付近、民兵‥‥」
 重なるキーワードに、不知火真琴(ga7201)は揺れるジープの中、考えを巡らせる。
 リンが、真琴へ頷く。
「で、そのアジメール方面の民兵から救援要請?」
「サラさんが居るかも」
 先の依頼で判明したサラの変装。少年のような感じの子には注意をしようと、頷く。
「確か、イムランって人は民兵のリーダーだったわよね‥‥?」
 ジープがバウンドする。

 走るジープはもう一台あった。
 慎重に運転しながら、レーゲン・シュナイダー(ga4458)は、先の依頼をかいつまんで話していた。
「‥‥と、言う訳です‥‥もしかしたら戦場で遭遇する可能性もありますよね」
「複雑そうだな。変わらず元気で『ほうき星』に居るもんだと思ってたが」
 何時もの様に飛び込んだ、依頼は、良く見知った顔が多い。
 話を聞いたアンドレアス・ラーセン(ga6523)が謝意を告げつつ呟く。
「デカくなってっだろが‥‥出奔ね‥‥」
 彼等を護衛した依頼を思い返して目を細める。
「さて、巻き込まれていなければ良いが」
 サラは髪を切ってまで一座を離れている。軽く目を眇め、リュイン・カミーユ(ga3871)が言う。
「‥‥アジメール。サラサン、ト、イムランサン、ガ、行ッタ、場所、デス、ネ‥‥」
 ムーグ・リード(gc0402)が呟く。
「サラの決意‥‥十六の子供ですら‥‥いや、子供だからか‥‥思い切った決断が出来たのは」
 頷く杠葉 凛生(gb6638)は、ムーグをちらりと見て、小さく息を吐き出す。
 思いが様々に重なり、少女の様に思考が散漫になっている自分に苦笑する。
「とはいえ、民兵の団長と同行しているならば、襲撃を受けている可能性は高いかもしれんな」
 リュインがどっかりと座り直す。
「‥‥個人的には、自分の足で探そうとしない相手の元へ帰る気にはならんがな」
 どんな理由があるにしろ、と、先の依頼で聞いた理由を思い返し、リュインはそう思う。
(身近な者に笑顔を与えられずに、誰かに笑顔を与えられるものか‥‥)
 この場に居ない相手へ、考えても仕方がないかとリュインは首を横に振る。
 けれどもと、ムーグは心中で思う。
(彼女ノ中デ答エガ出ナイ限リ、何の解決ニモナラナイノデハ‥‥)
 そう、これは、他でもない、彼女が決めた行動だったから。


 砂塵が遠くに見える。仲間達二台のジープが、共に、逃走中のジープを視認する。
「あれか」
 双眼鏡でいち早く確認したリュインが仲間達へと告げる。
 ジープの後方からも砂塵が巻き上がっている。キメラだろう。
 停車する双方のジープ
「ULTからだ。依頼人はお前さん達か?」
「ああ、頼む。じき、キメラが追いつく」
 アンドレアスの問いに、頷く男。そして、小柄な少年がさっと身を隠す。
「少年兵か、大変だな?」
 凛生が声をかけるが、顔を隠すような角度の少年は頷くだけだ。
 仲間達は、少年というキーワードに誰しもが反応をしていた。
「此処は任せてもらおうか」
 リュインの行動は早かった。
 髪と瞳が黄金色に変化し、右手甲から肩にかけトライバル柄の紋様が紅く浮かび上がる。
 ジープから飛び降りると、即座に錬成強化をかけ、キメラが来る方向を向いて立つ。
「本隊の状況はどうなってる?」
「負傷者が半数を占めるが、壊滅には至っていない。キメラ戦も本隊ではここほど切迫した戦いにはなっていないが、厳しいだろう」
 ローハンと名乗った中肉中背の男が言う。
「別口で申し訳ないのですが、少々お聞きしたい」
「スリーサイズ以外なら」
 軽口を叩く小柄な男ヴィシャールをローハンが睨みつけ、早く後方へ逃れたい風を見せるが、ヴィシャールが頷くので、叢雲が問う。
「ある旅団から、人探しの依頼を受けていたのですが、こちらにそのような話は?」
 首を横に振るヴィシャールに叢雲は謝意を告げる。
 具体的な問いを詰めてもいなかったので、叢雲は、良いでしょうと心中で頷く。
 顔を隠そうとしている少年と目が合わない。レーゲンはサラではないかと思いつつも確証に至らない。
 だからこそ、少年はサラだという確証に至ったのはリンだ。
 傭兵を少なからず知っているからこそ、気まずいのではないかと踏んだのだ。
 だが、何よりもこうしている合間にもキメラは来る。リンはジープへ、逃走を促す。
「サラ、話があるの。話しだけよ。だから、後で時間をくれないかしら」
 リンの断定する声に、不承不承顔を上げたのは、雰囲気は変わっていたが、サラだった。
「待って、うちも、少しだけ聞いて欲しい話があります」
 真琴が声を上げる。
「来るぞっ」
 リュインの鋭い声が飛ぶ。
 会話が長引いた。
 それがキメラの接近を許していた。
 砂が巻き上がる。
 ジープから降り、傭兵達は戦闘態勢に入ろうとするが、キメラの方が僅かに早い。
 エンジンをかけっぱなしにしていたヴィシャールが、ジープを発進させる。
 そこへ襲いかかろうとするキメラは、リュインが阻む。真っ赤な刀身、鬼蛍が切り裂いた。間一髪だ。
「本気出すのは面倒なんだが」
 面倒くさそうにリュインが呟く。
 ムーグがその足を生かして、ジープとキメラの合間へと走り込む。砂塵が巻き上がる。
「多イ‥‥デスネ」
 凄まじい破壊力で、ムーグが九十度扇状に攻撃を撃ち込み始める。ブリットストームだ。
「行先を教えてくれ。報告は何処に行けばいいっ?!」
 凛生が叫ぶ。
「無線範囲にはとどまってるさっ!」
「了解だ」
 凛生は、ヴィシャールへと背中越しに返事を返すとキメラへと。
 探査の目を発動させるが、次々に襲い来るキメラに、不要かと苦笑する。
「護衛に回りましょう」
「不要っ! 足手まといになるつもりは無い! あんたらはあんたらの仕事を頼む」
「了解ですよーっ」
 叢雲と真琴は、逃走車の護衛に回ろうと動こうとするが、ヴィシャールの言葉で踏みとどまる。
 ざあっと砂漠が能力者達の足を捉える。
「索敵の手間が無くて良いっちゃあ、良いねェ」
 銀髪がなびく。キツイ眦、口の端で笑みを作る姐さんと言うような雰囲気に変化したレーゲンが、走り込む仲間達へと順に練成強化をかけ始める。
「さくさく行ってくれ」
 金色の光の塊が出現する。アンドレアスだ。手当たり次第に、出てくるキメラへと練成弱体をかけて行く。
「同じタイプと見て間違いは無いわね」
 ショットガン20で、出てくるキメラへと、リンが狙いをつけて撃ち込んで行く。三発の銃弾が砂蛇を宙で躍らせ、吹き飛ばす。飛び散った輩へとナイフでとどめを刺すまでもない。
「‥‥お待ち。逃がしゃしないよ」 
 にやりと笑うレーゲンが、広がったキメラの動きを見て、横合いから抜けそうな輩へとエネガンを撃ち放てば、飛び上がった砂蛇は、痙攣をしたかと思うと動かなくなる。
 真紅に染まった瞳。右目に羽をかたどった紋章が浮かび、一房の銀の前髪が揺れる。【OR】複合兵装「罪人の十字架」で照準を合わせた叢雲が、仲間達の合間から、キメラへと攻撃を浴びせかけ、白い髪、青の瞳、武器を持つ手、足へと、ふわりと焔が纏う真琴が拳銃黒猫で応戦をする。
 怒涛の攻撃があっという間にキメラを殲滅へと追い込んだ。
「お終いか?」
 リュインが鬼蛍をひとふりして、やれやれとばかりに顔を上げれば、アンドレアスとレーゲンが怪我人は居ないかと見回す。どうやら、キメラに後れを取る者は誰も居ないようであった。


 その戦場のキメラの数は多くなかった。
 けれども、民兵等は能力者では無い。
 FFを打ち破るには、何度も何度も、根気良く攻撃を当て続けなければならず、一体倒すにもかなりの時間がかかる。能力者は人類のほんの一部。
 アンドレアスは、戦況が覆ってきたのは、こういう人達が居たからだという事だと、呟く。
「ULTから派遣されてきた。いっちょ踏ん張ろうぜ!」
 負傷兵を後方へと回しながら、前線を維持しているその様を見て、アンドレアスが声をかける。
 その金色の姿に、民兵等は目を見張る。能力者が変化するのは知っているが、何しろ荘厳な姿である。
 つい、神に祈る言葉が零れる者も居る。アンドレアスは軽く笑い、重傷者は固まってくれと声をかける。
「医者でも何でもねぇけどよ。大概慣れた役割でね」
「緊急を要する奴はどいつだぃ?」
 レーゲンがにやりと笑い、練成治療と応急手当を使い分けつつ、民兵等の治癒に当たる。
 ムーグが、その足を生かして、真っ先に前線へと駆けこんだ。
「‥‥負傷者ノ、護衛、ハ、十分、デス、カ?」
 銃弾が、苦労しているキメラ戦へと文字通り風穴を開ける。
 死者の居ない事に、ムーグは目を見張り、前線は任せて欲しいと笑顔を向ける。
 FFがあっさり吹き飛んだのを見て、民兵等が雄叫びを上げる。
「動けるならさっさと退け」
 ざあっと前線に駆け込んだリュインは、崩れ落ちる民兵へと練成治療をかけ、後退を促す。スキルだけではダメージ全てを回復出来るものでは無いのだ。
 FFに苦労しているその戦いへと、鬼蛍で切り込んで行き、凛生が合間に攻撃を叩き込む。


 バレたとなったら、サラは堂々としたものだった。
 民兵のジープを背に、砂漠に立って傭兵達を迎え、助けてくれたことに対する謝意が告げられた。
「この間、サラさんの捜索を頼まれました。皆さん心配していました」
「うん、きっと心配していると思う」
 真琴の言葉に、キツイ眼差しを向けるサラに、リンが笑みを向ける。
「誤解しないで。私たちは貴女を強引に一座に連れ戻すことなんて依頼されてないし、一座の人たちもそんな事は望んでいないはず」
「うん、セラ達はそんな事しない。自分の行動に責任を取れない程、私も子供じゃないし」
 あら、と、リンが笑みを零す。
「けれど、一方的に自分の思いだけを告げ、叶わなかったから飛び出すというのはフェアではないのではなくて?」
「セラに自分の気持ちを言った事なんかないわよ? といっても、バレバレよね」
 嘆息するサラに、真琴が言葉を探しながら言い始める。
「自分の居場所は自分で決める事だし、一座を離れた理由も解らないけど、本気でそうするなら、尚更話はきちんとした方が良いと思う。でないときっと棘になってしまうし。第一こんな別れは寂しくないです?」
「棘? 別れ?」
 サラが怪訝そうに真琴を見る。真琴は、サラに言う。
 様々な葛藤を。
「だから何をどうしろとは言えないけど、ただ、会えなくなってからでは遅いから‥‥」
「私は私の気持ちに決着をつけたら、きっと戻る。セラはそうしてくれてるはず。貴女はそんな経験があるの?」
 恋では無い。そう、セルヴィアはサラの気持ちを言った。
 確かに、恋ではなさそうだ。思い詰めている様子は無い。
 旅団に甘えた上での、身勝手な行動。
 リンが、さて。とばかりにサラに向かい合う。
「貴女が自分は子供じゃないと主張するのなら‥‥戻るにしてもこのまま出ていくにしても、一度、一座に戻って、突然出て行った事くらいは、団長達に謝る。それが、筋ってものよ?」
 バツが悪そうなサラは、リンを見て、ジープを見返し、また、リンを見て不承不承頷く。
「帰るときは言って下さい。責任持って護衛しますよ」
 叢雲が連絡先はと言えば、ULTの連絡は、知っていると口を尖らされ。
「まあ、よろず相談も受け付けますから」
 叢雲はくすりと笑った。


 イムランが、傭兵達へと向かい、謝意を告げる。
 レーゲンは、無線を触りながら、顔を上げる。アンドレアスは、民兵の中に入り込むと、戦いの歴史を興味深そうに聞いていたのを僅かに止め、耳を傾ける。
 凛生は、イムランへと自己紹介をすれば、万が一の時はULTへと連絡を取る予定だったからなと頷かれる。凛生は、サラの居場所の捜索願が出ていた事をイムランに告げれば、イムランは頷く。
「で? 彼等は連れて帰ってくれって頼んだのか?」
「いや。そういう依頼は受けてはいない」
 前回も、連れ戻せという依頼では無かった。
 凛生は続ける。
「サラの出奔の理由は聞いてるか? 戦場に置き続けるのも大変だろう」
「そうだな。どういつもりで同行させたわけなのか知りたいな」
 興味がある。そう、リュインは言った。
「同行させれば、戦場へ連れてくる事になるのは分かっていただろうし?」
「あれの好きなようにさせたいんだわ」
 イムランがもどかしいというようなそぶりを見せる。
「親ではないと聞いたが、親戚なのか?」
 凛生が続ければ、イムランが肩を竦める。
「はっきりせんな。これから娘を如何したいんだ?」
 リュインが不服とばかりに言う。事は娘の人生に関わる。
「‥‥何故、撤退、シナカッタ、ノ、デショウ」
 ムーグがのらりくらりとかわしているイムランへと不思議そうに問えば、イムランが言葉に詰まった。
 疾風のイムラン。
 功を焦らず、引き際の良い部隊が、何故今回は半数が負傷する事になっても戦場を維持していたか。
「撤退出来ナイ程ノ戦場ダッタノデショウカ。ソレトモ、守リタイ何カガ?」
「部隊長失格だわなあ」
 イムランが苦笑する様を見て、ムーグは彼の行動が腑に落ちた。
「出来ルナラ、共二居タイ。ケド、正シク無イ。守レナイカモシレナイ」
 ムーグは視線を落とす。
「共ニアル事自体ガ危険ヲ内包シテル事は‥‥私ニハトテモ馴染ミガアル感覚ダカラ」
 イムランは降参の両手を上げた。
「あれがもう少し、大人になったら言うつもりなんだ。って所で勘弁してくれないか」
 酷く優しい表情だと、ムーグはイムランを見て思った。
「あれは、じき戻る。もし、彼等にまた会う事があれば伝えてくれ。それまでは」
 命に代えても守るからと。
 言うのは簡単だと、リュインは、ふんと踵を返した。
凛生は複雑な思いでムーグを見た。
 ムーグは、立ち入った事に踏み込んだ事へとイムランへと謝罪すると、笑みを零した。
「‥‥危ナク、ナッタラ、傭兵、ヘ」





 イムランが戦いに身を投じたのは、生まれ育った街が廃墟と化した事が発端だった。
 街から離れていた僅かの人を残して、過去が詰まった時間事全てが無となった。
 その時、街から辛くも逃げ延びた人達の中でサラを見つけたのだと。
 サラがイムランの過去であり、生きる目的でもあると。
 生まれ故郷を取り戻す為、この手に武器を持った。
 そう、イムランはムーグの問いに照れくさそうに答えたのを、ムーグは忘れないと頷いた。