タイトル:GQ†代償マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/08 22:09

●オープニング本文


 バグアが侵攻してきてから、戦線間近の村や町には言い知れない緊張が続いている。
 そんな中でも、芸がしたい。人と触れ合い、喜ばせたいという命知らずの芸人ギルドがあった。大元締めの下、小さな旅団を組んで村や街を巡る。
 ジャグラー、占い師、踊り子、歌い手。主なメンバーはそのくらいで、最小6人で幌馬車を仕立てて回る。
 時代がかったその幌馬車から出てくる、きらびやかな衣装、笑顔、不思議。
 それは、玉手箱のようで。
 その中でも、特に芸が秀でれば、その名は何時しか有名になる。
 ジプシークイーン。
 タロットカードを手にするセルヴィアの名は、その幻想的な容貌とあいまって、良く知られるものとなっていた。
 銀糸で縁取られた、黒に近い紫の、大きなヴェールを頭から被った細身の麗人。亜麻色の癖の無い長い髪に縁取られた細面の顔は、はっとするほど綺麗で。明るい茶色の瞳が切れ長の目の中で揺らぐ。
 本人が望まなくても。回すカードは、高い確率でその結果を導き出した。しかし、噂には尾ひれがつきものである。大きくなった自分の仇名に、苦笑する姿をよく見かける。

 北京で移動遊園地『東の月』へと出張興行を終えると、『ほうき星』は中東へと向かった。
 そこはサラの生まれ故郷が近い。
 次第に優勢になるUPC軍。息を吹き返す民兵。
 活気つけの一役にと、地元の有力者からの要請で、その足を延ばした。
 その町は、砂漠の中にあった。
 周囲を乾いた砂塵が吹き抜ける。
 隣へと行くにはジープが無ければ無理だろう。
 ぶらりと歩けば、半日で一回り出来てしまう。
 大きな旅館は一つきり。
 町の誰しもが顔見知りのようであり、年寄りと子供の姿が目立つ。
 路地という路地は無く、大通りが町を突っ切っている。
 そんな、街に『ほうき星』は興業の帰り道、足止めを食らっていた。
 
「‥‥サラが居なくなった?」
 セルヴィアは僅かに眉を顰めた。
 大柄な団長が首を横に振り、細い目をさらに細くして溜息を吐く。
「サラは、セラの事が本気だったのでは‥‥」
「それは無いわ」
「セラ」
「気性の激しい子よ‥‥自分の気持ちが間違っているなんて‥‥中々認められないわ‥‥もっとあの子と話をすれば良かったわ‥‥それを怠ったのは‥‥私の責‥‥」
 セルヴィアは目を伏せる。
「恋人ではないのに‥‥親しい者だというのが、我慢ならないのでしょうね」
 依頼を出しましょうと、セルヴィアはため息を吐いた。


 UPC軍が、民兵と競合しつつ、進軍を開始している。
 HWが次々と撃破される空。地を行くゴーレムと格闘するKV。
 戦車群が砲撃を撃ち込み。UPC有利で解放されつつあるインド、アジメール。
 その混乱に紛れて、男の子の格好をしたサラは、民兵に混じっていた。
 移動芸人は、腕の立つ者が多い。
 雑多な地域を行き来する為、自然に身についた腕だ。
 サラは、手に銃を持ち、民兵の後方を守っていた。
「ぼうず、無理するな」
「子供扱いするな」
「ふん‥‥まあいい。女の子だってバレるなよ」
「! ああ。へましない」
 この民兵のボスは、昔『ほうき星』へとサラを預けた男だ。
 一時は父親ではないかと疑った事もあるが、どうもそうではなさそうだった。
 インド付近へと来る度に、サラに会いに来てくれている。
 何処か、懐かしそうな目で自分を見るのがくすぐったい。

 踵を返して小走りに立ち去るサラを見送り、男はため息を吐く。
 サラを訪問するのを楽しみにしていたが、今回は少し違っていた。
(一座に居たくないからって、なあ)
 部隊に置いてくれなければ、別の部隊へと向かうと言い切られては連れて行くしかなかった。
(適当な村で、後方支援に回すか‥‥)
 重要な役割だと言い含めて、そうするかと、男はやれやれと、首を横に振った。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文


「セルヴィア達と会うのは何年振りだろう?」
 指定された宿へと向かいながら、煉条トヲイ(ga0236)は懐かしそうに呟く。
 「いきなりいなくなったって言うのは穏やかじゃないわね‥‥早く見つけ出さないと心配ね」
 本部にあがっあ文面を思い出し、リン=アスターナ(ga4615)は言う。
「無事に見つかると良いのですけど‥‥」
 つなぎに、運動靴で、軽快に歩くのはレーゲン・シュナイダー(ga4458)。心配そうに僅かに眉を顰める。
「人探し、です?」
 不知火真琴(ga7201)は、小首を傾げる。
 真琴の横を、叢雲(ga2494)が、ダークスーツに黒いレザージャケットを羽織り、歩く。エンジニアブーツが砂地を掴むように進む。
「サラ‥‥セルヴィアの側にいつもくっ付いていたあの可愛らしい踊り子さんね」
 もう随分と大きくなっているのだろう。初めてみた時は、小さな少女であったと、リンは思う。
「痛く、ナイ、筈ガ‥‥ナイ、デス」
 ムーグ・リード(gc0402)は、遠くを思うように見た。
 ムーグは、先日の遊園地の演目の数々を思い出していた。あの場所を築きあげる為の日々は知らないけれど、あの熱は覚えがあった。
(長キヲ旅シテキタ、小サナ星ノ欠片)
 少女の行方。それが、不本意なものならば、救うのは当然の事。けれどもと。
 それが、自発的な失踪であるのなら、その原因は何だろうかと。
「我らに土地勘があるでもなく、簡単な事ではなかろうな」
 リュイン・カミーユ(ga3871)の道服の裾が砂塵に翻る。
「故に、手掛かりが必要。娘は何故に姿を消したのか」
 ジャングルブーツが砂を踏みしめる軽い音を立てた。
「それは一時的なのか、帰るつもりを失くしてか」
「誘拐等の事件か、出奔か‥‥か」 
 周囲を見渡し、低い声が響く。杠葉 凛生(gb6638)だ。
「内部トラブルが原因ならば、当事者を気遣い、いろいろ隠すかもしれんな。個別に聴取するか」
 表情を変えずに、凛生は言い放つ。心配を煽り、揺さぶりをかければ何か出るかと呟く。
「先ずは一座に話を聞く必要があるな」
 リュインの言葉は、仲間達全ての意思でもあった。


 旅団は、旅立ちの準備で慌ただしかった。
 次の土地へと移るのだという。
 移動遊園地は楽しかったと、真琴はセラと団長に様々な感想をひとしきり言うと、占いの礼を言う。
「‥‥いいえ。けれども、占いは結果を知った時点から、また変わるもの‥‥先を決めるのは貴女です‥‥」
 真琴は、解っていると思うと、セラへと頷く。
「この前『ほうき星』の興行の警備に行った時は、サラとセルヴィアが一緒にいる姿を見なかったわ」
 リンは首を傾げる。
「あの時から既に何かあったのかしら?」
「‥‥ええ‥‥そうね。あったといえば、その頃」
 眉を顰めるセラを見て、リンはそうと頷く。
「理由もなく姿を消したりはせんだろう」
 リュインだ。
「‥‥家出と誘拐。二つの線が考えられるが‥‥」
 トヲイが真摯な表情で尋ねる。
「知っている事があれば、詳しく聞かせては貰えないだろうか? 失踪前の様子を教えて欲しい」
 トヲイが言えば、お久しぶりとセルヴィアが微笑み、相変わらず綺麗な女性だとトヲイは思う。性別を今も女性だとトヲイは思っているので、丁寧な態度を崩さない。
 言いにくい事かもしれない。誰もが痛みを感じているかのようにムーグは思う。
「心当タリハ、アリマセンカ。ココヲ出ル理由。ココナラ、出レル理由」
「最後に姿を見たのは? サラの様子に変化は? 行方をくらます切欠に心当たりはないだろうか。仕事や人間関係など」
 凛生が尋ね、リュインが軽く腕を組む。
「不満があったとか、一座の外に気がかりがあったとか、原因に心当たりはないか?」
「サラはセラが男女の意味で好きなのです」
 団長がそう言うと、セラを見た。
「はっきりと言葉に出して、告白をしたという訳では無いのですが‥‥」
 僅かに言葉を濁す団長に、セラが頷く。
「あの子は子供のようなもの‥‥その好意を受けるつもりは無いの‥‥ずっと婉曲に断り続けていたわ‥‥」
 サラ自身が、セラにはっきりと告白をすれば、セラももう少し、やりようがあったはずなのだが、サラは告白はせずに、セラに自分はセラが好きだと言うそぶりをずっと続けていたのだと言う。
 それが原因の一つかもしれないとは思うが、断じる事は今の段階ではわからない。
「書き置きとかは無かったのか」
 凛生だ。
「ええ、ざっと見た所、それらしきものは無かったですね」
「経歴を教えてくれないか」
 そうかと頷いた凛生が続ければ、団長が答える。
「両親を失くしたようでね、物心つくかどうかの頃に、預かって」
 それからずっと一座に居るのだと言う。
「幼い頃からサーカス暮らしならば、世間を知らないはずだな」
「いいえ? そこいらの子よりもよっぽど世間を知っていますよ。安穏な場所に暮らしている方々よりもね」
 威圧的な凛生に、団長は苦笑しつつ答える。そも、芸人一座であり、サーカス団では無いと言い替えて。凛生にとっては、一座もサーカスも変わらないのかもしれない。
 あてもなく出て行くには幼すぎると思っていたムーグは、かなり小回りの利く少女だという事実を知る。
「そうか、では、行くあては‥‥? 故郷や親類縁者が居るのならば聞きたいが」
「預けた男‥‥今は良い年ですが、預けた時点では未だ青年でしたか、その男性が唯一の知り合いです」
 この辺りで、サラを預かったと団長が言う。
 男性の名は通り名でしかしらず、また、知る必要もないし詮索もしたくはなかったと団長は言った。
 疾風のイムラン。
 そう、告げられる。
 写真があればという、傭兵達へと、サラが踊っている様と、セラと団長と仲間達と笑っている姿の二枚を渡される。まるで別人だ。踊っている時は、光と影の具合もあるのだが、嫣然とした姿。そして、仲間の間では、元気いっぱいの笑顔だ。
 仲間達が質問をするのを、後方から見ていた叢雲は、サラの写真を見て、見た事のある少女の姿と重なり、心中で頷く。
「お化粧して厚底の靴やマントで背丈を誤魔化せば大人の女性のフリが、声のトーンを下げれば少年のフリが出来ますよね」
 レーゲンは、変装の可能性があると思っていた。その、裏付けを見たかのように思った。
 そして、可能性を質問する。
「サラさんは能力者ですか? 能力者なら、キメラの出る市街地も抜けられるかも知れません」
「あの子は能力者ではありません」
 なので、心配なのだと団長が言う。
「サラの荷物、見せてもらえる?」
 リンが尋ねれば、セラが頷く。
「長期もしくは永久に戻る気がないなら、着の身着の侭ではあるまい」
 リュインは、二人の立会いの元、と、保護者の了解を得る為の言葉を繋いだ。
 そんなリュインに、団長とセラは快く頷いた。
「サラさんの大切な物や服とか無くなってはいないでしょうか?」
 真琴だ。レーゲンが続く。
「サラさんが、普段から身につけていた小物や香水等はあるでしょうか」
 サラの荷物は、手つかずで、幌馬車の荷台に積んであった。
 ざっと探せば、化粧道具が無くなっており、銀細工が全部揃っていると、セラが首を傾げる。
 必ず、手足に銀細工をつけているので、一式は身に着けているはずであるのだと。
 ムーグは、攫われたのでは無いかもしれないと、安堵の息を吐き、飛び出す程の、何かがあるのだろうと思う。
「家出ならば、その場所が問題だな‥‥家出後に、彼女が頼りそうな人物に心当たりは無いだろうか?」
 トヲイが聞けば、その、疾風のイムラン以外の知り合いはこの辺りには居ないと。
 けれども、イムランの居場所は、わからないのだと。民兵であり、遊撃としてUPC軍の近辺を行くイムランの隊はいつもその所在が不明なのだと。
「もうひとつ。万が一、誘拐だった場合、不審者に心当たりは? 脅迫などは?」
 そうなると、お手上げだと、団長は首を横に振った。

「ところで、己の足では捜したのか?」
 団長とセラに向き直ると、リュインは言う。
「もう、次の街に出立しなくてはならないんです。小さな一座ですが、きちんと約束事はまもらなくてはなりません」
 そういう事ならば、また話は別だ。軽くため息を吐くと、リュインは腰に手を当てた。
「行方が分かったら迎えにくらい行ってやれ」
「‥‥すぐには‥‥無理ね」
「何故だ? 傭兵に頼むほど大事なのだろう」
「私達は、戦場を転々と動いています。約束の元に。楽しみにしている人達が待っているんです」
 そうかと、リュインは頷く。
「見つけたらどうしたい?」
 奇縁かと思いながら、凛生はセラへと改めて向かうと、尋ねる。
「思いを受け止めず、ただ否定し、戻ってこいと‥‥?」
 何故突き放したのかと。
「他人の心は読めても、自分自身の心は、深い霧の中、か? 時は歩みを止めない。女は化ける‥‥何時までもガキじゃないだろう。人の心の変化を拒み続ける事など出来ないんじゃないか?」
 団長が溜息を吐いた。
「勝手な憶測は止めて下さい。今、関係のある話でしょうか?」
 尚も言い募ろうとする団長を、セラが止める。
「依頼は、サラの行方を捜して欲しいという事‥‥」
 セラが穏やかに笑んで、凛生を幌馬車の外へと出て欲しいと言うそぶりを見せた。
「それは‥‥お願いできるのでしょう?」
 凛生は依頼主に嫌われた事を感じたが、尋問、揺さぶるという指針を持っていただけに、それも想定範囲内なのだろう。軽く肩を竦めた。
 セラの経歴を団長に聞く事は暫くは出来ないだろう。
「そんな方法しか出来ない方と‥‥承知していますが‥‥」
 凛生は、背後からセラに声をかけられ、僅かに肩を竦める。
「疑問があれば‥‥必要な事は、お答えする気でいますよ‥‥」
 策を弄する必要など無い。相手は依頼者だ。穿った考え方をしていた自分に凛生は苦笑した。


「家出、誘拐‥‥どちらにせよ、移動するには『足』が必要だ」
 トヲイは、車を見かけた事は無いかと、余所者が来た場合の宿泊場所や、民家を中心に聞いて回れば、ジープが、夕刻に出て行ったのが不思議だと言う話を聞く事が出来た。その持ち主までは判明はしなかったが、方向が絞れただけでも、良しとしようかと頷く。
「女の子なんだが‥‥いや、男の子の姿かもしれん」
 リュインが老人へと尋ねれば、男の子と、壮年の男が歩いて行く様を見たと、言う話を聞いた。
 老人たちは、ずっと座って動かない者が多い。行き交う人の流れを、良く見て覚えていた。
 彼等は、ジープで夕刻に出て行ったのだと言う。
 サラを見なかったかと写真を持って回るリンは、商店を巡る。
(何かしら身支度をするために買い物をしてるかもしれないわね‥‥)
 持ち出されたものはあまりにも少ない。
 女の子の写真を見て、首を傾げた店主が、男の子に、砂除けのマントを売ったと言う話を聞き込んだ。
 どうやら、ばっさり髪は切っているようだ。
 さてと、リンは、火のついていない煙草を軽く噛みしめる。

「危険地域で、一人、徒歩で町から出るとは思えない。誰かと一緒か‥‥」
 単語を並べながら、凛生はムーグと共に歩く。悪い事件という訳では無く、心配している人が居るからと、ムーグは手当たり次第に聞いて回る。

「『ほうき星』見ましたか? 私はまだ見たことないのです」
 見たと口々に言う子等に、レーゲンはにこりと笑う。
 レーゲンは、綺麗なベストを着た男の子を見て頷いた。
 どうやら、サラは服を男の子のものに変えたようだという情報を子供達から手に入れた。

 叢雲は、出会う人物手当たり次第に夜に変わった音などは無いかと聞いて回るが、特に何も出てこない。
 真琴は、酒場、お店、路地裏へと向かう。
(真琴さんも、何故、酒場とか路地裏とか変なとこにいきたがるのか‥‥)
 叢雲は、溜息を吐く。
 情報収集には、そういう場所が良いのは確かなのだけれど。どうしても、危なっかしい。
(後ろから見てて、不安を誘うというか、なんというか)
 ワンピースの女の子が聞いて回るのだ、揶揄する声も無きにしも非ずで、思ったような情報は入らない。
 身ぎれい過ぎるのだろう。脛に傷持つ輩は、傭兵達を見るや、逃げるではないが、避けて通る。
 真琴は、何となく背中がもぞもぞして、後ろを振り返れば、不安げな叢雲の姿があり、首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ‥‥この辺りではあまり情報は手に入らないようですね。他の方の状況を聞いてみましょう」
 無線機を取り出すと、叢雲は、仲間達へと順番に連絡を取りはじめる。
 むー。そんな感じを露わにしつつ、真琴は軽く深呼吸をした。


 時間通りと思いながら、何時と、決めては居なかった。
 思い思いの情報収集が終わる頃に、仲間達はぼつぼつと集まってくる。
 無線を各自携帯していたのが幸いし、そう時間も経たずに集合出来た。

『イムランらしき男と、少年に変装したとみられるサラが、
 とある方向へと昨日夕暮れ時にジープで、この集落から移動をした』
「――その先にあるのは、アジメール。戦場か‥‥」
 トヲイは、ジープが向かった先を見透かすように目を細めた。

 市街地。
 それは、廃墟ともいえない程の、街のなれの果てであった。
 集落の横に広がる砂漠に埋もれ、見え隠れする姿。
 バグアはこの地を蹂躙しつくした。
 探索の足を集落の外へと伸ばした傭兵等は、その街の残骸に僅かに足を止める。

「砂漠じゃ轍等も残ってないですよね‥‥」
「男でもできたか‥‥?」
「‥‥ぉー‥‥?」
 レーゲンは、風に吹き流される砂を見て呟く。雰囲気が変わったような気がして、凛生はレーゲンに何気なく言えば、ばたばたとするレーゲンに、ムーグが首を傾げる。
 ちらりと凛生はムーグを見て嘆息する。ムーグはそんな凛生を見て、小さく息を吐き出した。
 ムーグに依存しているのではないだろうかと凛生は、わだかまりの小さな塊を抱えていた。
 先の占いに表された言葉がそれだ。『受け入れなければ失うと』それは何だろうかと自問する。
 ムーグも残る言葉に惑っていた『弱い部分を――大切に。迷っていると、失う』何を迷うのか。
 失う事の怖さは知っているのだけれど、どう表していいのかわからない。
 互いに思うのは、何の兆しか。
「何か来るか」
 リュインが僅かに眉を顰めた。
 砂地から飛び出した蛇キメラ。その数は傭兵達と同等。
「行きますっ」
 真琴が飛び込み、叢雲がそれを援護する。
 それぞれが、それぞれに蛇キメラを倒せば、現れた砂地が舞い上がり、ひらりと焼け焦げた一枚の小さな紙が現れた。
「何かしら」
 リンが拾い上げる。
「家族の写真か」
 トヲイが丁寧に砂を払う。辛うじて人の顔が判別出来る程のものだった。
 無くなった街のひとつの家族。
 砂塵が傭兵達の合間を吹き抜けて行った。

 その頃、アジメールの戦いは、陸空と共に、UPC軍の有利に戦いが展開されていた。