タイトル:【七星】ユニラテラルマスター:藤山なないろ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/23 05:25

●オープニング本文


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【1】
単一であること、単独であること。
西洋に伝わる数秘術によれば、1は万物の始まり、唯一絶対であることを示し、神などを象徴する場合もある。
接頭辞:uni、mono。

●Reaction
「‥‥帰った」
 アフリカでの依頼を終え、帰還した俺は報告にと本部へ足を運んだ。
 受付では、馴染みのオペレーターであるバニラ・シルベスターが「お疲れ様」と笑顔で出迎えてくれる。
 簡単な報告を済ませると、俺はさっさと踵を返した。
 自覚はしていなかったが、心身ともに少しずつ疲弊しているように感じる。
 一連の事件の事もあるが、何より、年末のクラブ調査での出来事は俺の心を削るのには十分だった。
 そんな俺の様子を察したのか、バニラは吉報があると呼びとめてくる。
「なんだよ、良い報せって‥‥」
「ほら、シグマが探してた人! 丁度さっき別件の依頼から帰ってきて報告を済ませた所なの」
 どくんと一度、大きく心臓が鼓動するのを感じる。
 バニラは嬉しそうに一人の男を指差すと、「あの人だよ。言っておいで」と笑う。
 そのとき、世界がスローモーションビデオを再生しているかのような奇妙な感覚に陥った。
 俺は、怖かったのかもしれない。
 けれど、目をそむける事はしない。出来ない。
 ゆっくりゆっくり、身体を、顔を、回して指差す方角に向き合う。
 正面に男を捉えた時、男は確かにこちらを見ていた。
 ‥‥正確には、「俺」を見ていた。
「件の依頼で生存した傭兵の内の一人‥‥ブレアさんよ」
 近くにいるはずのバニラの声が、遠くで鳴り響く鐘の音の様だ。
 世界には俺と「あいつ」の二人しかいない様な、それは冷たく暗い感覚だった。

●Reach
 昨年末。
 俺は、助力を申し出てくれた傭兵たちと共にイギリスのクラブである事件にまつわる調査をしていた。
 ある事件‥‥それは、俺の父親であるジークムント・ヴァルツァーが死亡したとされる依頼についてだった。

 イギリスのクラブに人型バグア出現の通報があり、駆け付けた8名の傭兵のうち3名が死亡するという悲惨な内容だった。
 3名もの犠牲を出しながらも、人型バグアは討伐に成功したと言うことで事件は片付いたはずだった。
 残る5名の傭兵の証言によると死亡した傭兵達は、いずれもバグアの自爆に巻き込まれたとの事。
 「体が残っていない」のも、そのせいだ、と。
 どこか父親の死を心で納得出来ずにいた俺が、その事件後に「父親の身体を使ったバグア」に遭遇したのは偶然では無いのかもしれない。
 ‥‥今思い出してもサイアクの気分だ。
 俺の左腕は、父の身体を弄んだバグアを屠った時、失われた。
 未だにファントムペインに苛まれるのは、恐らく真相に辿りつけないでいる俺を父が叱咤しているのだろうと‥‥そう、思う。

 恐らく父は件の依頼で体が残らない程の爆発に巻き込まれて死んだ訳ではないのだろう。
 体はヨリシロとなって、残っていたのだから。
 ということは、誰かが父の身体をバグア側に持っていった可能性があるということ。
 そして、傭兵達が偽の報告をしているだろうという可能性があるということ。
 いくつか指摘すべき点はあったが、俺たちは前述のイギリスのクラブを調査した時に暗く重い事実に辿りついていた。

 生き残った5名(うち2名はその後依頼で死亡したとされ、生存者は現在3名)の傭兵達には共通点があった事。
 調査報告書から抹消されるように、一言も触れられていなかったもう1組のバンドがあの日現場にいた事。
 そして、そのバンド──名を「the Plough」という──の演奏中、一人の人間が突然奇妙な挙動をとり、対バン相手のボーカルを刺し殺そうとした事。
 その後、取り押さえられた男は保護されたが、鑑定の結果「洗脳状態」であったことが判明した事。
 他にも幾つもの重要な証言、事実を掴んでいる。
 だが、父の死の真相により近づく為には、避けては通れない道があった。
 それは、その事件に実際立ち会っていた傭兵達が握っているであろう、真実を、手に入れる事──。

●Reactive
「私に、なにか御用ですか?」
 ブレアと言う名の男は、俺の接触に怯むことなく応えた。
「ああ、その‥‥俺は、シグマ‥‥いや。シグムント・ヴァルツァーと言う。以前、貴方の参加した依頼で命を落としたジークムント・ヴァルツァーの一人息子だ」
 そこまで伝えると、ブレアは予め俺の事を知っていたかのようなリアクションをとる。
 いや、そう感じたのは俺がこの男に対して穿った見方をしているからかもしれない。
「あの依頼の事は‥‥本当に、力不足で申し訳無かった」
 申し訳なさを醸し出しながらも、「あの時の身の上」を嘆くかのような表情。
 疑念だけが、俺の腹の中で静かに成長していく。
「その件だけど。俺、調べさせてもらったんだ。イギリスでの事。クラブや、資料に記載のなかったもう1つのバンドの事」
 そこまで話を続けると、目の前の男から表情が消えているのがわかった。
 実に人間味の無い、人間の表情。ブレアは感情が死んでいるような、そんな顔をしている。
「決定打を掴んだ訳じゃない。だが‥‥俺は、確実にあの‥‥」
「そこまでにしましょう」
 言いかけた俺の口を、ブレアは強引に塞いだ。
 恐ろしいまでの、力で。
「ここでお話するには、内容が込み入っています。‥‥場所を変えましょう」
 そう言って、男は手持ちの手帳に何かを書き込むと、頁をちぎって俺に寄越した。
「明後日の0時。その場所で、待ちます。他の人に聞かれたくは無い。必ず、お一人で、いらして下さい」

●Reclaim
 間もなく、午前0時。
 ここはイギリスの首都ロンドン郊外の廃墟だった。
 こんな場所に呼びだされた理由くらい、バカな俺でも察しがついてる。
 恐らく、ブレア‥‥いや、連中は、俺を殺す気でいるのだろう。
 死人に口なしとは良く言ったものだな、などとつまらないことに思いを巡らせ、俺は大仕事前の喫煙を堪能する。
 数本目に火をつけようとしたその時、背後で足音がした。
「‥‥解かっていたんだろう? ここへ来れば、殺されるって事くらい」
 廃墟の中、頼みの月明かりはそこへ届かず、顔は見ることが出来なかった。
 しかし、その声に聞き覚えがある事は確かだった。
「来る事以外、俺に選択肢はなかった。どうしても、お前らに聞かなくちゃなんねえことがあるんだよ」
 俺の言葉に反応するように、足音が増えた。恐らく、相手は3人。
 けれど、怯むつもりもなければ、負けるつもりもない。
 ここには、完全武装で訪れていたし、それに‥‥「仲間」が来てくれている。
「そうか、残念だな。私はお前に選択肢をやることが出来なかったか。‥‥お前の父親には、2択ほどくれてやったがな」
 笑い声が冷たい廃墟を支配する。
 ガトリングガンを握りしめる手に、より一層の力がこもる。
「詳しく教えてもらうぞ、オッサン」
 こいつらを倒して、真実を知る。
 ───選択肢は、一つだ。

●参加者一覧

シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

●暗闇に潜む真実
「‥‥すぐ父親に会わせてやる」
 その言葉を合図に、ブレアはシグマへ急接近する。
 シグマは迷わずブレアへと制圧射撃を喰らわせるも、後方にいたペネトレーターのクリフも迅雷を発動し、エレクトロリンカーのグレンはその場から銃型の超機械でシグマへとエネルギー弾を射出。
 シグマの左脇腹を超高圧のエネルギーが焼き切るも、射撃の手は止めない。信じているから。
 その時、廃墟内に3つの影が飛び出した。
 シクル・ハーツ(gc1986)が障害物から姿を現すとその場から雷上動に矢を番え、引き絞る。
 制圧射撃で動けずにいるブレアの手元へ矢が突き刺さり、大剣が揺らぐ。
「遂に実力行使ですか。馬鹿な真似を‥‥」
 防音装置を施されたパイドロスの脚部がスパークする。竜の翼でブレア目掛けて特攻するのは秦本 新(gc3832)。
 そして、シクルと同じ場所から飛び出したもう一つの影も全力移動を開始。
「虚偽報告のうえ、口封じ‥‥か」
 舌打ちしたくもなるが、その気持ちを抑えイレイズ・バークライド(gc4038)は駆ける。
 イレイズの狙うクリフはシグマへ向かって迅雷で廃墟を駆け抜けてきている。ならば、シグマとの間に割って入り迎え撃つまで。
 突き刺さったシクルの矢を引き抜き、ブレアは嘲笑う。
「何人連れてきても同じだ」
 相手の一言一句を逆境を破るエネルギーに変え、新は2度目の竜の翼でブレアを射程に捉えると、和槍を構え貫く。
 しかし。
 踏み込みの浅い新の槍は、敵の体に触れる事が出来なかっただけでなく、そのまま槍の柄を掴まれた。
 瞬間、ブレアの筋肉がスキルによって隆起。
 元々その攻撃は劣勢を演じる為の1手。新は、攻めより守りを重視し、敵の次の攻撃に備える。
 だが、ブレアは槍をもつ新の身体を、掴んだ槍の柄で軽々と持ち上げ、新の身体をシグマへと向かって放り投げた。
「しまっ‥‥!」
 シグマは新の身体を受け止めるも、強靭な力の前に二人共吹き飛ばされ、後方の廃材に叩きつけられる。
 瞬間、衝撃音とは別の鈍い音が鼓膜に張り付いた。
「シグマさん!?」
 廃材にもたれながらシグマはぐらりとその場に倒れ込んだ。
 1手目にシグマの脇腹を焼き切った弾痕から、今の衝撃で血が噴き出している。
 新は急いでシグマを看ると、救急セットで出血を抑えるべく応急処置を始めた。
 ブレアの元へとクリフが到着する頃、前衛としてその場にいたのはイレイズ一人。
 後方からシクルが再び矢を番えるも、イレイズが同時に二人を相手するには厳しい状況だった。
「どうやらお前等はこちら側ではなく、バグア側の人間だったようだな」
 下段の構えをとっていたイレイズが皮肉まじりに言う。
「なんなら、お前も仲間になるか?」
 イレイズは小さく息をつくと、紫電を纏う鳴神がぱちりと小さく音を立てる。
「死んでも断る」
 鞘から刀を振り抜くタイミングに、イレイズは迷いなくクリフへ足払いをかける。
 しかし、そこへブレアが大剣を引き抜きイレイズへと全力で刃を振り抜く。
 一方、シクルはシグマと新が叩きつけられた廃材の近くに居た為、状況を完全に把握していた。
 恐らく先程の音から判断するに、シグマの背骨は折れたのだろう。今、全力でかかっても4人では劣勢を覆せない。
「もう‥‥誰も、失いたくはない!」
 シクルの放つ矢が大剣を構えるブレアの左肩に鋭利なまでの速度で突き刺さり、血飛沫が噴き上がる。
 その勢いでイレイズへの攻撃は崩れたが、後方から射出される弾がイレイズの足を焦がす。

 ──劣勢を演じられる相手であればよかった。
 しかし、相手は戦力的に拮抗しているか、それより少し格上の相手。少しの手加減が大きな消耗に繋がる。
 そして実際、4人は劣勢に陥った。
 本当に追い詰められているのか、迫真の演技なのか?
 味方の演技に自分が呑まれ、そこで飛び出したとしたら作戦が全て無に帰してしまう。
 この違いがやや離れた場所から見守る仲間に伝わるか否か、その線引きは大きく。
 味方の重傷時には駆け付けると言えど、その基準が判断し辛い作戦だった。
 まだ情報を引き出してはいない。だから、残る奇襲組は踏み込む事をしなかった。否、出来なかった。

 だが、本当に劣勢であってもやるべき事は果し、待つ仲間に繋げる。
 イレイズ達は少しずつ廃墟内の北側へと位置をずらし、窓側を背に立つ。
「くっ‥‥なぜ、こんな事をするんだ!?」
 追いつめられたシクルが叫ぶ。
 ブレア達も浅くは無い傷を負っていたが、完全に優位と判断し口を開いた。
「その答えにはならんが‥‥お前達にも選択肢をやる」
 新達は、こみ上げる感情を殺す様に、ブレアの言葉に耳を傾ける。
 しゃべりだした相手の話を止める事は無い。ここが情報を引き出すチャンスだ。
「問題です。貴方達は人間としての生をここで終えます。我々の仲間となり、死後の身体を我々に預けますか?
 それとも、今すぐ無残な肉塊になりますか?」
「‥‥それと同じ質問を、シグマの父親にしたのか」
 イレイズの目から光が消えている。暗く、冷たい声音が廃墟に伝う。
「あいつの答えは、『どちらも必要ない』だったが‥‥良い器だから極力傷つけず持ち帰れと言われてな」
「貴方がたに指示を出す人物が別に居るんですね」
 散らばる真実の欠片。新の考察から、その先まであと僅かだった。
「しゃべりすぎたな。で、お前らは‥‥あぁ、思い出した」
 ブレアは血を滴らせた大剣にゆっくり舌を這わせる。喉仏が上下した後、恍惚とした表情で笑んだ。
「殺せと、言われていたんだった」

●沈んだ意識に見えた6つ星
『合言葉?』
『ええ、そうです。それを合図に、私達が本命奇襲をしかけます』
『暗視対策をしてる以上、閃光を味方が喰らったら危険でしょう』
『あー、新は賢いな。んで、俺はなんて言えばいいんだ?』
『「俺達はひとりじゃない」です』
『‥‥は?』
『2度は言わんぞ』
『実際‥‥間違いではないですし』
『と言う訳です。頼みましたからね』

●覚醒の時
「シグマ‥‥!?」
 イレイズがその光景に目を見張った。
 敵も一斉に振り返ると、そこには銃を支えにして辛うじて立っているシグマの姿があった。
 その余りに無様な姿にブレア達は高らかに笑う。まるで、勝利を確信したかのように。
 人間は感情の生き物。‥‥敵を侮った者は、必ず敵に足元を掬われる。
 ブレア達は最初にこの死に損ないから、と一斉にシグマへと対象を移した、その時。
 精一杯の、深呼吸。出来得る、最大ボリュームの声。

「俺達はひとりじゃない!!」

 瞬間。
 シクルが、新が、イレイズが‥‥そして、待機していたシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)、夢姫(gb5094)、御鑑 藍(gc1485)が一斉に暗視スコープのスイッチを切る。
「な‥‥!?」
 最後の気力で手榴弾のピンを予め引き抜き発動時間を弄っていたのはシグマの意地。
 炸裂した閃光手榴弾。闇を暴く強烈な光が、隠匿された者達の嘆きを代弁するような音が、廃墟に満ち敵の目と耳を焼き焦がす。
 ──第2の奇襲が、幕を開ける。

「皆さん、後は任せて下さい」
 光と共に飛び出した夢姫が、迅雷で一気に駆け抜ける。
「事件の真相、全て吐き出してもらいます‥‥」
 夢姫とは逆の方向から、藍が迅雷で駆けつけ、シンが瞬天速で現れた。
「まずはシグマさんを治療しましょう」
 夢姫が即座に駆け寄ったのは、グレン。
「これがなければ‥‥能力、使えないですよね?」
 夢姫は、接近した勢いでグレンの手に握られていた銃型の超機械に目をつけると、ベルセルクの柄をもって全力でそれを叩き落とす。
 普段の柔らかい笑みとは異なる、真摯な表情を浮かべた夢姫は、心中をあらゆる疑念で満たしていた。
(彼らは洗脳されているのか、それとも協力者なのか‥‥)
 その差は、大きい。しかし、夢姫は小さく首を振る。今は相手を無力化する事に徹すると、誓い。
 叩き落とした超機械を、夢姫は思いの丈をぶつける様に蹴り飛ばす。超機械は破片を散らしながら窓の外へと放り出された。
 慌ててブレアは副兵装に持ち替えようとするも、その行動1つが雌雄を決する事がある。
「貴方達の葬ってきたたくさんの人々の命と真実。‥‥その重みを、知って下さい」
 動揺したグレンは夢姫の輝く銀の瞳を捉えると、なぜかそこから目が離せなくなった。
 そこに覗く強い意思。覚悟。越えてきた過去、求める未来。
 人の「生」の力強さを、見せつけられた気がした。
 瞬間、グレンの首根に強烈な回し蹴りが叩き込まれる。夢姫の一撃で体勢を崩したグレンへと、シクルが矢を放ち、イレイズが稲妻の如き一撃を叩き込む。
「‥‥死なせません。全て、話してもらうまで」
 意識を手放したグレンを、夢姫は静かに見下ろした。

 シグマの治療を終えたシンは、夜間迷彩で極力姿を捉えられないよう距離を保ちながらエネルギーガンを構える。
「逃がしませんよ。‥‥尤も、逃げられるとは思えませんが」
 射出されるエネルギーは闇の中で光を纏いながら直線軌道を描いて飛んでゆく。
 その1弾、1弾が確実にクリフの足へ命中し、機動力を削ぐ。
 更に藍がクリフの懐へ迅雷で飛び込むと、シンの攻撃で弱った足へと狙いを定める。
 真正面、ゼロ距離で円閃を発動。
「どうか、目を覚まして下さい!」
 藍の小さな体。そこに眠る全ての力を引き出すように、大きく全身を回転させると、遠心力を利用した最大級の一撃を叩き込む。
 足の砕ける歪な音が、クリフの低い呻き声と共に廃墟に響く。
「‥‥もう、終わりにしましょう」
 更に追撃の構えをとっていたシンが次に狙ったのは、クリフの効き腕。
 足を砕かれて尚、最後まで手放す事のなかった刀は、その一撃で容易く弾き飛ばされた。

 一方、新は一人、ブレアと戦っていた。
「何故バグアに寝返ったんです?」
 ブレアからあがる笑い声。同時に剣の紋章が現れると、それは武器に吸収される。
(両断剣・絶の兆候‥‥!)
 最悪の大技に気付いた新は、対策通り竜の翼を発動する。全て、新の想定内だ。
「!?」
 振るわれる長大な剣を全力で回避し、尚且つ後背のシグマを抱えて素早く移動する。
 効果時間は一瞬。射程の外に出れば、それは全く脅威ではない。
 気付けば、藍達がブレア一人を囲むように立っていた。
「あの二人は、捕縛しました。本当の事、聞かせてもらえませんか」
 藍が口を開く。その時、ブレアの視界には彼女の隣で横たわる二人の姿が見えた。途端に、男の口が悪魔のように歪む。
「御鑑さん、避けて!」
 再び現れる剣の紋章に気付き、遠方に居たシンはブレアへ弾を連発で叩き込むが、大剣は振るわれた。
 それは、藍を狙っているように見えた為、迅雷でかわした藍の判断は間違いでは無かった。
 だが、それはブラフだった。異常なまでに巨大で鋭利なソニックブームが迷いなく放たれる。
「まずい、あの二人‥‥っ」
 瞬天速を発動するも、シンの手は僅かに届かず。
 凶悪な真空の刃は2名の捕縛された傭兵を巻き込み、消える。残されたのは、両断された無残な2つの遺体だった。

●真実を照らす光
 意識を取り戻したブレアは両手足を拘束された状態で、傭兵に囲まれていた。
 自殺の可能性を考慮した新が入念な身体検査の後、ガントレットをブレアの口内に押し込み、自殺の手段を完全に排除したのだ。
 恐らく、こうしなければ男はこの場で命を絶っただろう。新の行動は、最善の策だった。
「先日、私達はあるバンドのライブに行ってきました」
 ブレアに対し、夢姫は少しずつ語りだした。
 演奏中に突然異変をきたし、ブレア達が関わった事件の唯一の目撃者が殺されそうになった事や、目撃者の証言から浮上した人型バグアの存在を指摘する夢姫。
「それに、あの事件について、貴方がたは虚偽の報告をしましたね」
 新は、強化人間として現れたジークの存在、そして状況や記録の矛盾からも事件化に十分である事を告げる。
 点と点はやがて集合し、線となる。そして、線は形状を描き出す。
「‥‥指示を出したのは、誰です?」
 藍の問いに男の瞳孔が揺れる。しかし、口を開く様子は見られない。
 突如、見かねた夢姫が小さく笑みを零した。くすりと笑い声が響く。
「ほんとはね、知ってるんです、私」
 男の額から、つと一筋の汗が伝う。
「ネトナさん‥‥ですよね?」
 夢姫は、何がとは言わなかった。その推論まで辿りついていた新も、注意深く状況を見守る。
「自殺しようとしても、すぐ治療します。舌を噛む痛みを何度も繰り返したくないのなら、話して下さい」
 シンの言葉に、諦めたようにくぐもった声が聞こえる。ガントレットを、外せと。

「概ね、お前達の推察通りで間違いない」
 それに、ここに来た時3人は確かに洗脳されていたとも証言した。
 夢姫の発した「ネトナ」という言葉が、その決意を固めさせる鍵だったのだ。
「だが、今の俺と同様に‥‥そこの2人も、最後は洗脳が解けていただろう。だから、余計な事をしゃべられる前に、殺した」
「どういうことだ?」
 イレイズが荒い口調で詰め寄る。
「俺は、歌姫に全てを捧げられる。お前達には分かるまい。洗脳を受けた時のあの一種のトランス状態。あれはどんな薬でも得られない。快感に全身が総毛立ち、脳全体に行渡る彼女の甘い声が囁くように告げる」
 歪んだ笑みを浮かべた男は、理解しながら自ら望んで洗脳されていたと告げた。
「人を‥‥仲間を殺した理由が、それですか」
 藍の手は、怒りに震えていた。
「ネトナを護る為なら、な」

 結果。ジークが死亡した依頼について、報告書の内容が虚偽である証言を得た。
 死亡したとされた3名は、現在は強化人間になり、うちジークは死亡。他2名はネトナの元にいるらしい。
 そして、件の依頼で生還したものの、後の依頼で死亡したとされた残る2名は『自ら進んで』強化人間となり彼女の元にいるとのことだった。

 本部へ通報し、夢姫達はブレアの身柄を引き渡しに廃墟の外へと向かう。
 廃墟は静寂に包まれた。俯いたシクルと、シグマを残して。
 シグマは何も聞かず、ただ隣に居た。その視線には気遣いの色が見え、シクルは思わず視線を逸らす。
 僅かな沈黙。覆っていた雲が流れ、月の光が廃墟に差し込む。
「‥‥私が能力者になってすぐに、母が‥‥目の前で殺されたんだ」
 私の力不足のせいで、とシクルは付け足す。
「シグマ殿が爆発に巻き込まれた時、その時の事と重なってしまって‥‥。すまない、こんな事を話してしまって。自分の問題なのにな‥‥」
 眉を寄せて無理に笑おうとするシクルの頭に、無骨な手が触れる。
「あのなぁ、『俺』の問題にここまで付き合ってるシクルがそんなこと言うなよ」
 お前の問題も、俺に‥‥俺達に、聞かせてくれ。そう言って、シグマは手を差し伸べる。
「行こう、皆が待ってる」
 少女の儚げな笑顔が、柔らかな月光に包まれた。