●オープニング本文
前回のリプレイを見る「本星型と、4機のタロス‥‥か」
ふむ、とラウディ=ジョージ(gz0099)は顎に手を当てた。
敵側の数は12から5にまで減っている。つまり、差し引きでいえばこちらの勝ちではあった。
「例の強襲以降、ベガスの防空旅団が索敵範囲を拡大しておりますが、今のところ増援の気配はない、と」
クラウディア=ホーンヘイムからの報告を受けて、ラウディは目を閉じて考え込む。
「何か‥‥?」
良いことではないのか、と言外に含ませながら、クラウディアは問う。
男はすぐには答えず、ゆっくりと立ち上がると窓際まで歩いた。
「トリプル・イーグルという大層な肩書きだ。早々替えが利くものでもあるまい。‥‥死守を命じるほど、敵の総司令は愚かではないと思うがな」
「仰る意味が、よく‥‥」
「つまりだ」
ラウディは振り返る。
先ほどまで、夜を徹して警戒に当たっていたその顔には、少しだけ疲労が見えた。
「この期に及んで、奴が撤退の素振りも見せないのは、独断ではないか‥‥ということだ」
大勢は既に決していた。
バグアに援軍がない以上、フーバーダムが陥落するのはそれこそ早いか遅いかの違いでしかない。
更にいえば、ラスベガスが人類側の手に戻った今、ダムの価値はバグアにとって大したものではなくなっていた。
現時点でアルゲディ(gz0224)がダムに留まり続けるのは、「単なる嫌がらせ」の域を出ないのだ。もっとも、その被害は嫌がらせの範疇を超えてはいるのだが。
「‥‥アルゲディにとって、重要な何かがここにある、と?」
「わからん、が、何かしらのけじめをつけたがっているのは確かだろう。‥‥まぁ、それはあいつらも同じようだがな」
ラウディはそういいながら、一つの天幕に視線を移した。
先のダムでの戦闘から、半日ほどが経過している。
その間、整備班は不眠不休で機体の応急修理を行っているが、能力者たちも戦いに備えて休息を取っていた。
逸る気持ちを抑えながら、彼らは天幕の中で何を思っているのだろうか。
「じきに夜が明ける。そうすれば、第二幕の始まりだ」
「どんなに急いでも、補給は不完全になりますが」
「それは向こうも同じ‥‥のはずだ。少なくとも、そう願いたいところだな」
軽く鼻で笑いながら、男はダムの方向へと目を向けた。
徐々に闇が薄くなる峡谷内に、白い靄が漂っている。いずれ、それも晴れるだろう。
「整備の連中には、後で酒でも奢らんといかんな。‥‥とりあえず、機体を壊したうちの馬鹿どもを手伝いにやらせておけ」
「はい」
クラウディアはくすりと笑ってから部屋を後にする。
詰め所に一人残ったラウディは、何かを思案するようにじっと靄の奥を見つめていた。
『ハロー、ハロー。こちらマイヤー』
「‥‥聞こえている。何だ」
唐突に入ったアルフレッド=マイヤーからの通信で、アルゲディは深い思考の底から引き戻された。
『補給は終わりましたよ。といっても、満タンにはなりませんけどね』
「構わん。あと少し動けば、それでいい」
『リモートで動かすのも限界あるんですから。補給中に攻められてたら、どーするつもりだったんです?』
「それはお互い様だ」
やや不満そうなマイヤーの声に、青年は事もなげに答える。
能力者たちも無傷ではなかった。であれば、再攻撃には補給が必要だ。故に、攻められる心配はない。
理屈では、そうである。
『理詰めなのか刹那的なのか、はっきりして欲しいですけど』
「理だけではすぐに限界がくる。感情だけでもそうだ。大事なのは、そのブレンドさ」
何が楽しいのか、そういってアルゲディは低く笑った。
『‥‥まー、そーゆーのは任せます。じゃ、また何かあれば』
「タイミングは見誤るなよ? アレで中々目敏い奴らだ」
『分かっててもいいますかねー、そういうの』
最後は本当に呆れたような口調で、通信は終わる。
再び静寂が訪れた本星型HWの操縦席の中で、青年は静かに目を閉じた。
「変だ。絶対変」
研究室に入るなり、マイヤーは断言する。
「分かりきったことでしょう」
ブリジット=イーデンは、さらりと返した。
そんな冷静な切り返しにもめげず、白衣の男は続ける。
「僕らとは認識がズレてるとしか思えないね。結末を分かってて、なーんにも変化がないんだから」
「ですから、今更です。それよりも」
女は珍しく、マイヤーへと向き直ってその目を見据えた。
「ゼオン・ジハイド、というのが動き始めたそうです」
「へぇ‥‥彼らが来るんだ」
マイヤーもまた、珍しく真剣な表情をする、が、それは僅かのうちに消え去った。
「ご存知ですか?」
「そりゃね。有名人だから。ふーん、そうかそうか」
「アメリカにも、来るでしょうか」
ブリジットの疑問に、マイヤーは殊更に考え込む姿勢を見せた後に答える。
「んんんー? 来る、んじゃない? 何となく、愉快な奴が来る予感がする」
「‥‥そういう不安を煽る答えは、聞きたくありませんでした」
ため息をつく女に、男は意地悪っぽく笑顔を作る。
「さて、話は後にしよう。経路は分かってるね」
「グランドキャニオンまで抜けた後、アリゾナ州を南下。メキシコに入ったら、メキシコ湾を東進してフロリダに向かいます」
「流石。ま、この艦が遅いったって、今日の夕方には着いてるでしょ」
奇妙な鼻歌を歌い始めるマイヤーに、ブリジットは少しだけ逡巡してから告げた。
「‥‥あの方に報告する勇気は、私にはありません。ご無事の帰還を」
捻くれた気遣いに、マイヤーは少しだけきょとんとしてから、けらけらと笑う。
「平気さ。僕の仕事は、ハイヤーだからね。HWだって、水の中を進むだけなら問題ないしね」
「なら、結構ですが」
ぷいと横を向いて作業に戻る白衣の女に、肩越しに手を振りながらマイヤーは部屋を後にする。
しばらく後、ミード湖を東に向けて潜行するビッグフィッシュから、1機のHWが静かに飛び立った。
朝靄は、最早その残滓を僅かに留めるのみとなっている。
『今回で決めてくれ。流石に、これ以上物資を消費すると、作戦に支障が出る』
ラウディからの声を、能力者たちはKVの操縦席で聞いていた。
『敵機が排除され次第、機械化歩兵と特殊部隊、プレアデスの残りと正規軍の能力者部隊が突入する。ダムの制圧はそいつらに任せればいい』
確認するように説明すると、男はそこで一旦言葉を切った。
『‥‥まぁ、親玉はお前たちに任せるということだ。行って来い』
いつも通り、不敵な口調で告げるラウディの声を背に、能力者たちは再びダムへと向かった。
●リプレイ本文
●谷間の影
「‥‥ん、十分いける。整備班には感謝しないとね」
愛機のコックピットで、機体の最終チェックを終えた赤崎羽矢子(
gb2140)はそう言って微笑んだ。
ラストホープから到着したばかりの彼女の機体は、本来なら一度入念な点検・整備が必要だった。半日かからずに出撃体制にまでこぎつけたのは、整備班の文字通り不眠不休の働きの賜物である。
遠石 一千風(
ga3970)もまた、その働きに報いるべく決意を新たにしていた。
『万全を100とすれば、60といったところ‥‥か』
『ええ。けれど、まぁ、何とかなりますよ』
やや考えるような藤村 瑠亥(
ga3862)の声に、ソード(
ga6675)はフレイアの操縦席で殊更のんびりと答える。
前回は、焦りの気持ちが不覚へと繋がった。同じ轍は踏まない。
ともすれば強張りかねない手に握られたカップから、茶の良い香りが漂う。鼻腔をくすぐる芳香が、固まりかけた芯をほぐすようだった。
『終夜さん、いけますね?』
『‥‥はい』
一方、赤村 咲(
ga1042)の問いに終夜・無月(
ga3084)は僅かに掠れた声で答えていた。
搭乗者のコンディションまでは、流石に整備班ではどうしようもない。
それでも、できることをするだけだ、と言う無月に、咲は頷くことしかできなかった。
(「戦場には万全で臨むのが最上‥‥ですが、思うとおりに行かないことも、また戦場ですか」)
伊邪那美の操縦席に深く体を沈めた鳴神 伊織(
ga0421)は、小さく息を吐く。
『聞こえるな。今回で決めてくれ――』
ラウディ=ジョージ(gz0099)からの通信が、出撃の時を告げる。
『よし、行くぞ!』
煉条トヲイ(
ga0236)の声を合図に、8機のKVはダムへと向かった。
『全機、ブースト! 目標、最左翼のタロス!』
本星型HWのコックピットに響く声に、アルゲディ(gz0224)はニタリと口を歪めた。
突撃してくる機影にタロスから迎撃の砲火が撃ち出される中、男はその後方で微動だにしない。
砲弾の雨を掻い潜ったKVが、次々と右端のタロスに攻撃を加える。
激しい衝撃音とスパークが広がり、見る間にその装甲は削られていく。再生も追いついていないようだ。
と、雷電とミカガミの2機がタロスをすり抜け、本星型へと向かった。
『アルゲディ!』
『懲りないな、お前たちも』
一千風のヴァーユが繰り出したウアスを、本星型はふわりと浮き上がって回避する。
その背に定められたフェザー砲の照準はしかし、次いで牙を剥いたトヲイ機のロンゴミニアトによって大きく外れる。地面を舐めた光条は、踏み固められた大地を容易に沸き立たせた。
『簡単にはやらせん!』
吼えたトヲイは、空中の本星型へ試作型リニア砲を即座に照準する。
寸毫の後に撃ち出された砲弾は、やはり悠々と回避されたが、トヲイに落胆の色はない。元より牽制だ。
仕切り直しとばかりに相対する2機のKVを前に、アルゲディは愉快そうに笑った。
同じ頃、タロス殲滅の役割を負った6機のKVは2つの班に分かれ、それぞれが2機の敵を相手取っていた。
6対4。戦力比としては、ほぼ互角といったところか。
ここで生きてくるのは、初手の突撃だ。1機のタロスには、明らかに深手を与えていた。
潜在的な戦力差は、この時点で能力者側に傾き始めていたといって良いだろう。
『いくぞ‥‥!』
瑠亥のシュテルンが、その手のロンゴミニアトを繰り出す。
液体火薬が炸裂してタロスの右肩が吹き飛ぶが、すぐに再生が始まった。
再生を防がんと、瑠亥はGPSh−30mm重機関砲を損傷部に押し付けるが、それを嫌がるようにタロスは無骨な長剣を振るう。
軽く舌打ちをしながら剣を機盾でいなすも、その間に敵は体勢を立て直し始めている。
『させないよっ!』
だが、羽矢子のシュテルンが振るったハイ・ディフェンダーが再びタロスを大きく揺るがした。
その勢いのまま機体を回転させると、彼女は援護すべく突進してきていたもう1機のタロスに高分子レーザーライフルを撃ち込む。
たたらを踏んだそのタロスは、お返しとばかりにチェーンガンをばら撒き始める。
地面ごと抉り取っていくような破壊の嵐を辛うじてかわした咲は、弾丸の主には目もくれず、肩の装甲を回復させつつあるタロスへと双機刀で斬りつける。
生体装甲が三度切り裂かれ、タロスは悶えるようにその身をよじった。
伊織の伊邪那美が、深手を負ったタロスに獅子王を突き立てる。
『無駄な足掻きです』
返撃の刃を獅子王で受け止めると、伊織は思い切り押し返す。ガタのきていた敵機はそれだけで体勢を崩す。
そこへ、ソードのフレイアがダブルリボルバーを次々と撃ち込んだ。
銃声の度に生体装甲が弾け、操り人形のように機体が踊る。だが、それでも沈黙することはない。
前回と同様、しぶとさは流石というべきか。
(「深呼吸して、気を落ち着けるんだ‥‥相手をよく見ろ‥‥」)
違う点があるとすれば、そのしぶとさにソードをはじめとした能力者が焦れることはなかった、ということだろうか。
再生能力は無限ではない。
それを抑えた上で冷静に敵の挙動を観察すれば、その限界が近いことは明らかだった。
ソードは横目で、もう1機のタロスがフレイアに搭載された無数のファランクスによって接近を阻まれていることを確認する。
『畳み掛けましょう』
流れを一気にこちらへ。そう意図するソードの提案に、伊織はすぐさま乗った。
突貫する2機のやや後方に、無月の白皇がいた。
彼の不調の程は、本来ならば安静が求められる類のものだ。
機体性能に助けられて援護射撃に絞れば何とかなっていたが、周囲の状況を常に把握するということはままならなかった。
そんな中でもその目に力が宿っていたのは、無月の誇りの表れといえるだろう。
歯を食いしばって、射線上にダムがないことを確認すると、白皇はミサイルポッドを撃ち放つ。ベアリング弾がタロスの動きを封じ込め、伊織とソードを確実に援護していた。
●孤立
幾度かの攻防を追え、一千風は前回と同じような感覚に襲われていた。
(「この期に及んで、まだ手加減している‥‥?」)
彼女の予感は確信に近い。
だが、後方で戦うタロスの抵抗は激しいものだ。つまり、アルゲディは無人機とはいえ、味方を見殺しにしようとしている、ということになる。
だとすれば、それは常軌を逸しているとかそういう次元を超えた、遥かにナンセンスな思考だ。
『‥‥何故、死に急ぐ? リリアの命令か? ‥‥いや、違うな‥‥』
トヲイもまた、一千風と同じ確信に至ったようだった。
(「そう、死に急いでいるとしか思えない。それとも、8対1でも勝てるという自信が‥‥?」)
その疑念は、ある意味では正しいように彼女には思えた。
目の前の男の戦闘能力が卓越していることは事実だったし、絶望というものに拘るその性格を考えれば、前回同様に「優勢を覆す」という発想に至っていると考えるのは、そこまで荒唐無稽ではなかった。
『ふ。無人機如きで、お前たちを抑えられるなどと思ってはいない。それだけの話だ』
『‥‥貴方だけで私達をねじ伏せることで、より多くの絶望を振りまきたいのね?』
期せずして応答したアルゲディに、一千風は敢えて応じた。
タロスを全滅させるまでの時間稼ぎ。その目的を考えれば、舌戦となるのは願ってもない展開ともいえるのだ。
『イチカ、君はどちらの答えがお好みだ?』
『ふざけないで‥‥!』
嘲弄するような返答に、彼女の声には怒気が滲んだ。
『最後の希望。人類の最高戦力集団。‥‥1年、か』
『何‥‥?』
唐突な言動に、トヲイはふと思い出す。
彼がラスベガスで初めてアルゲディと相対したのは、確か去年の今頃だ。
奇妙な因縁は、気づけばそれだけ長引いていた。
『ま、謎掛けは後にしてやろう。そろそろ、メインディッシュだろう?』
困惑する2人をよそに、青年は楽しげにそう言った。
フレイアが、PRMを起動させる。
『さぁ、女神の舞を見せますよ!』
ソードの言葉通り、機体は優雅さすら感じる機動でタロスの攻撃を掻い潜り、至近距離から拳銃弾を叩き込んでいく。
弾丸に食い破られて薄くなった装甲の隙間を縫い、伊邪那美の機刀がタロスの肩を切断した。
生体装甲が別たれた半身を求めるように薄く延びたが、間もなく力を失う。
見れば、その胸部に深々と獅子王の刃が突き刺さっていた。
『向こうは』
完全に沈黙した2機のタロスを横目に、伊織はもう一方のタロス班の様子を気に掛けた。
『そちらも‥‥終わりそう、です』
若干の間の後に、無月からそう知らせが入る。
先ほど、1機を落としたという連絡はきていた。早期決戦という狙いは、達成されつつあったのだ。
如何に高性能の敵とはいえ、数の優位と戦術の優位が組み合わされば、その脅威は著しく減退する。
それは逆もまた然りといえるが、ともあれ羽矢子はもう倒れるだろうタロスを油断なく見据えていた。
『厄介な能力だったが‥‥これまでだ』
瑠亥が機盾を構えて突っ込み、砲撃と剣を受け流しつつ、すれ違い様に剣翼を叩き込んだ。
胴体に刻まれた亀裂の修復速度は、最早無意味といえるほどに遅い。
『もう眠りな』
憐憫と共に、羽矢子はハイ・ディフェンダーを突き立てる。大きく抉られたその傷へ、直後、咲のRavenが重機関砲を密着させた。
『冥土の土産だ。残弾全て持っていけ』
1秒に120発という規格外の連射力を誇るガトリングガンが、その弾倉に残ったありったけを送り込む。
薬莢の排出が止まる前に、タロスはボロくずのようになっていた。
撃破した敵機を省みることなく、咲は視線を本星型HWへと向ける。
「ここからが本番だ‥‥頼むぞ、相棒」
残る敵は、ただ1人。
●親衛隊
タロス班の6機が、トヲイと一千風に合流する。
計8機の敵を前にしても、本星型、いや、アルゲディに動揺した様子は見られなかった。
『余裕、とでも?』
底冷えのする伊織の声に、低い笑いが返る。
『いや‥‥よくもやると感心しているのさ』
『偉そうな口を‥‥!』
ぎり、と瑠亥は奥歯を噛み締める。
高みから見下ろすような発言が、神経に障った。
『一つ、言っておく』
自らと仲間の逸る気持ちを抑えるように、トヲイが口を開く。
『お前はリリアを絶望と言ったが‥‥彼女と相対したあの日――俺は彼女に絶望ではなく、むしろ別の可能性を‥‥感じた。それが何かは判らないが‥‥だからこそ、俺はリリアの元まで辿り着かなければならない』
『好きにするがいい。むしろそれこそが‥‥』
そこで、いや、と言葉を挟むと、アルゲディは耐え切れないというように笑い始めた。
『忠告はしたはずだぞ、トヲイ。リリア様に幻想を抱くな――となァ!』
唐突に本星型が動き出す。
その突撃を真正面から受け止めた雷電は、余りの出力に脚部が悲鳴を上げる。
『はン! お喋りな男は嫌われるよ。もっとも、あんたみたいなのは寡黙でもお断りだけど‥‥ね!』
雷電を押し込む本星型を、横合いから羽矢子のシュテルンがファングシールドで殴りつけた。
側面からの衝撃に突進の勢いがそれ、本星型は雷電を弾き飛ばして直進した先で急上昇すると反転し、再び突っ込んでくる。
『その声‥‥ハヤコか。随分と久しいじゃあないか』
『覚えてくれてなくて結構』
軽口に再び笑いながら、男はフェザー砲を乱射する。
四方に飛び散る光条に能力者たちは一旦間合いを取り、フェザー砲が収束すると同時に咲がおもむろに重機関銃とラスターマシンガンを構えた。
迷いなく放たれた弾丸の嵐は、宙を薙ぐような射線を描いて本星型へと喰らいつく。
『ほう‥‥?』
着弾と同時に広がった色の染みは、弾丸がペイント弾であることを示していた。これならば、流れ弾の被害を気にする必要はない。
アルゲディの注意は、僅かにそのペイントの意図へと逸れる。
その瞬間、伊織と羽矢子のシュテルン2機がスパークワイヤーを展開し、本星型を絡め取った。
直後、電流がワイヤーを走る。だが、彼女らが予想していた抵抗はなかった。
『それならそれで、好都合というものです』
ソードは敵の思惑を考えることを止め、一気呵成に拳銃を撃ち込んでいく。2機のワイヤーによって動きを制限された本星型に、吸い込まれるように銃弾が命中する。
『もう終わりにするぞ‥‥』
呟き、瑠亥が機槍を携えて突っ込む。
待ち構えたように放たれた迎撃のリニア砲は、機盾を片腕を犠牲にすることで耐え切った。
『その程度くれてやるさ。これで‥‥堕ちろ!』
HWの主翼に槍の穂先が食い込み、連続で爆裂する。
さしもの本星型も、それで片側の主翼は完全に吹き飛んだ。
『いい攻撃だ。だが、まだまだ』
『ほざくな!』
『瑠亥、どいてくれ!』
トヲイの声と共に、シュテルンが脇へとずれる。
その影から、雷電が機槍とハイ・ディフェンダーをもって飛び出す。
もう片方の主翼へと叩きつけられた長剣がFFを切り裂いて装甲を抉り、更にそこへ突き入れられた機槍が炸裂する。
両の主翼を失ったHWは慣性制御で尚も浮き続けるが、それも終わりを迎える。
『止める‥‥止めてみせる!』
更にその後方から飛び込んできていた一千風のヴァーユが、その内蔵雪村を解放していた。
眩く輝く超高エネルギーレーザーブレードが、本星型の動力部と思しき部分を貫いた。
「‥‥所詮は玩具、か」
アルゲディはそう呟くと、ゆっくりと高度を下げる本星型のコックピットから抜け出す。
機体上部に現れた青年の姿に、能力者たちは一瞬絶句した。
『‥‥前回、言えませんでしたが‥‥』
無月が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『俺は目指すモノのため‥‥より強い者との戦いを望む‥‥。だから俺も、貴方を倒すべき障害と意識しましょう‥‥』
「くくく‥‥ズレているな、お前は。まぁ、御託はいいさ」
集音マイクが拾ったその声に、無月はゆっくりと首を振るのみだ。
と、アルゲディが本星型の装甲を蹴って跳んだ。信じ難い脚力で、一気に数十メートルは距離を取っただろうか。
その意図に気づいたのは、ソードと羽矢子のみだった。
『このタイミング、ここで!?』
『イカれてる、こいつっ!』
2人は本星型間近のトヲイと一千風の機体へ向かおうとするも、僅かに遅い。
その瞬間、沈黙していたワームが轟音と共に爆発した。
『自爆‥‥!』
至近距離での衝撃に雷電とヴァーユがもんどり打って倒れる。
爆発が収まる頃には、アルゲディはダムの最上部にまで到達していた。
「来い、ということでしょうか」
機体から降りた伊織が、その姿を見据えて呟く。
ガコンという音と共に雷電とヴァーユの操縦席が緊急開放され、ゆっくりとパイロットが姿を現す。
「いいだろう‥‥命、誇り――俺が俺であるための全てを賭けて――アルゲディ、貴様を討ち倒す‥‥!」
機体に身を預けるように立ち上がると、トヲイは叫んだ。