タイトル:ナイトメア・ドレスマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/21 06:29

●オープニング本文


●離別
 結局、いざとなったら自分が一番大事なのだ。スバル・シュタインは繰り返しそう思う。
 村がキメラで襲われたと聞いた時、父親は様子を見に山を降りていった。勿論その父親が心配だったが、少女に出来る事はなかった。
「いいかいスバル、ここは村から離れているからきっと安全だ。だけど、念の為ここに隠れていなさい」
 ろくに家具も無い部屋の中、ベッドの下に少女はもぐりこむ。父親は少女の頭を撫で、家を出て行った。
 心配だった。けれど自分に出来る事は無いから大人しく震えていた。真っ暗な家の中、独りぼっちで。
 どれくらい時間が経っただろう? 扉が開き、息も絶え絶えに誰かが入って来た。
 父親が帰ってきたと思った。しかし息も絶え絶えに歩くその人影はどうにも父とは違う。ぽたぽたと水滴が零れる落ちる音がする。右手に、剣を持っている。
 知らない人だ。それだけでスバルには恐怖だった。両手で口を押さえ息を殺した。男は膝を着き、一人で何かを呟いていた。
「‥‥くそ‥‥こんな筈じゃ‥‥刀狩り‥‥」
 きちんと聞き取れたのはそれくらいだったが、兎に角気が気ではなくスバルはこの時の事をはっきり覚えていない。
 どうやら負傷しているらしい男は箪笥の影に隠れ、少女同様息を潜めた。そうして静寂だけが部屋を包む。
 やがて複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。それはどたばたと慌てて家に近づき、強引に扉を開いて駆け込んでくる。
「スバル、大変だ! 村が燃えてる、早くここから逃げないと‥‥だ、誰だ!?」
 父親だと思った。でも父は何かを持っていた。護身用に一応手にしたのだろうナイフを振り上げる。隠れていた男が息を呑むのが分かった。
 スバルには分かった。それは事故だった。男は襲い掛かってきたスバルの父に刃を振るってしまった。
「な――っ、民間、人‥‥とっくに避難は終わってるって‥‥!?」
 男が何か言っていたが、スバルには倒れてぴくりとも動かない父親の方が問題だった。
 何か大声で喚きながら父親を抱き上げる男。手当てでもしようとしたのだろうか。しかし、それが良くなかった。
 窓を突き破り何かが部屋に入って来た。恐らく本当に男が警戒していた敵だ。男はそれと戦いながら家の壁を破って出て行った。
 外では戦いの音が聞こえる。けれどスバルはまだ口を手で抑えていた。
 怖かった。出て行けば死ぬと思った。父親が目の前で死にそうになっている。なのに何も出来なかった。
 助けようとした。でもそれより怖いという気持ちの方がずっと勝っていた。だから目の前で父親がゆっくり死んでいるのを、ただ黙って見つめていた。

●臆病者
 装備には、一応気を使っている。金もかけているし、それなりに丁寧に手入れもしているはずだ。
 ドラグーンというクラスになった事は幸いだった。元々虚弱な肉体をAU−KVがサポートしてくれる。ピッタリだと思った。
 戦いどころかろくに身体を動かした経験もない。だから片っ端から依頼を受けまくって、経験も積もうとした。
 依頼が終われば自分の部屋で戦い方を研究した。他の傭兵がどう動いているのか。自分に足りない物はなんなのか。
「なのに‥‥強くなれないっ」
 泣き出しそうな顔で呟いたのがショップの中だったので、慌てて平静を取り繕う。
 肩を落としたまま店を出る。広場で個人商店でも見ようかと思ったが、不思議と足が動かなくなった。
「何やってるんだろう」
 『刀狩り』を漸く見つけたというのに、片手で捻じ伏せられて病院行き。傷一つ与えられなかった。
 能力者になったのに。強くなったのに。恐怖を捨てて、勇気を手に入れたと思ったのに。
 怖くて仕方が無かった。死ぬと思った瞬間、何もかも投げ捨てて逃げ出したくなった。
 命乞いだってするだろう。助けてくれるならどんな見っとも無い事も出来る気がする。自分の命が大事で仕方ない。そんな自分が嫌で仕方ない。
「ちょ、おま‥‥何店先で泣いてるんだ?」
 顔を上げる。そこにはどこかで見た顔があった。
「朝比奈さん‥‥」
「どうした? 支給品が要らないモンだったのか‥‥? 俺のレーションと交換してやるから元気出せ、なっ?」
「それも要りませんけど」
 片手で目元を拭う。どうやら指摘通り泣いていたらしい。
「朝比奈君、スバルちゃん泣かしたですかーっ!!」
「ふぐおっ! 俺じゃねぇ、多分ロッタちゃんが‥‥ぬあああっ!?」
 駆け寄ってきたヒイロに背後から滅多打ちにされる朝比奈。ヒイロは慌ててポッケをあさる。
「スバルちゃん元気だして? ヒイロのねおちシールと交換してあげるからっ」
「いえ、ですから話を‥‥」
 三人して店先から移動する。朝比奈は背中を丸くしながら問いかけた。
「で、結局どうしたんだ?」
「‥‥いつになったら強くなれるのかな、と」
「スバルちゃんこないだ傭兵になったばっかだよ?」
「そうですが、私にはあまり時間が‥‥」
 顔を見合わせるヒイロと朝比奈。二人は同時にスバルの肩を叩いた。
「そんなに急ぐ事はないのですよ。皆で一緒に頑張ればいーのです」
「武器を変えたりしながら色々試してみるのがいいだろ。とりあえず君は盾でも装備したらどうだ? 俺要らねーのあるからやるよ」
「ヒイロもねおちシールあげるっ」
「それは要らないです」
 ぷるぷるしているヒイロに苦笑するスバル。ヒイロは怖くないのだろうか? ふと、そんな事を思う。
 この身体の隅々にまで行き渡った臆病さは、恫喝にも似た強引さで前に進む事でしか誤魔化せない。
 何も考えず走っている間は楽だった。でも今はそれだけでは足りないと感じている。
「とりあえず装備を考えながら依頼に参加してみます」
「また危ない依頼ですか? 一人でだいじょうぶ?」
「いえ、普通のキメラ討伐依頼とかにします。大丈夫です」
「そっかー。じゃあ、ヒイロと朝比奈君買出しの途中だから行くね。困ったらいつでも連絡するですよ」
 手を振り走り去るヒイロと朝比奈。スバルは小さく手を振ってそれを見送る。
「早く強くならなきゃ。早く‥‥」
 苛立ちを胸に振り返る。もう、黙ってみているだけなんて、嫌だったから――。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
マーガレット・ソリン(gc0970
20歳・♀・FT
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

●弱音と懇願
「す〜ちゃんもやっと自分の戦い方を鑑みてくれる気になったのですね。長かった‥‥思えば長かったのですよ」
 腕を組み、うんうんと頷くヨダカ(gc2990)。どこか遠い所を眺めるその隣り、スバルは気恥ずかしそうにしている。
 目的地へと進む傭兵達。チラチラ見てくるスバルに事情を問うてみれば、その回答は何とも今更な内容だ。
「そういう事なら、色々アドバイスするぜ。ヒイロちゃんの友達、そして同じドラグーンなら手を貸さねぇ理由がねぇぜ」
 と、乗り気な巳沢 涼(gc3648)。というより、ほぼ全員が意外と親切にスバルに対応する模様だ。何が意外かはさておき。
「ま、生身でゴーレムとやり合うでもなし‥‥普通の仕事だ、多少は余裕もあるよな」
「ゴーレムと、生身で‥‥? そんな事、可能なのですか」
 頭の後ろで手を組みながら平然と呟く時枝・悠(ga8810)。マーガレット・ソリン(gc0970)は驚きを隠せない。
 暫くの間彼女が傭兵家業から離れている間に、世の中はどうも様々な変化を迎えたらしい。
 彼方此方で戦闘以外の任務をこなしていたマーガレット。厭世的な性格もあり、あまり最近の事情には詳しくないのだが‥‥。
「たまにああいう人がいるんですが、気にしない方が良いですよ」
 と言っているスバル自身何やら不機嫌そうだ。マーガレットは適当に相槌を打ち、首から提げた十字架を握った。
「スバルは強くなりたいのか」
 腕を組み、民家の壁に背を預け呟く犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)。スバルへと歩み寄りながら語る。
「何故強くなりたい‥‥」
「それは」
「いや言わなくてもいい、きっと目的があるんだろ? なら、その為に出来ることは何でもすることだ」
「‥‥色々やっ」
「何でもしてきたって顔だな。装備、経験、肉体の強化に戦闘術、確かにどれもこれも大事だ。しかし足りない!」
 拳を握り締める犬彦。スバルは何とも言えない表情で口を紡いだ。
「スバル、お前は何だ? 夢にみた、悪人どもをばったばったとなぎ倒すスーパーマンか? 違う、人よりちょっと強いだけの人間だ」
 それはスバルもずっと感じていた事だ。能力者は彼女が思っていたような無敵の存在ではない。
「自分の身の丈に合わせて頑張ればいい。出来なくて当然、なら出来ないところは他人に頼れ。頼るのが嫌なら利用しろ。他人を利用して、他人に自分を利用させろ。目的の為に出来る事は何でも‥‥ってのは、そういう事だ」
「他人を、利用する‥‥」
 何かその言葉はスバルの琴線に触れたのか、妙に納得した様子で目を輝かせる。
「続きは実際に戦いながら覚えてもらおう。俺も色々再確認したいしな」
 と、スバルの肩を叩く涼。ぞろぞろと歩き出す傭兵達の最後尾、様子を見ていた藤村 瑠亥(ga3862)が呟く。
「ただひたすらに強く、か」
 その考え方は嫌いではない。むしろ懐かしささえ感じる程だ。
 誰にだって無力だった時分がある。誰にだって強くなりたい理由がある。彼もその例外ではない。強くなりたいと願った事を、彼はまだ忘れていなかったから。

●利用と背中
「訓練か〜。ヨダカもよくお婆様に夜の山奥に置き去りにされたり、手足を縛られて湖の真ん中に投げ込まれたりしたのです」
 銃を手に歩くヨダカ。スバルはAU−KVを纏い、その横を歩んでいる。
「それは死ぬのでは?」
「自慢じゃないですが、ヨダカの肋骨でお婆様に折られた事が無いのは一つもないのですよ?」
 どや顔で見てくるヨダカ。スバルは話を聞いてくれない人達に慣れ始めた時分を自覚した。
 そうして進む傭兵達の前、二体の狼キメラが立ち塞がる。ここはヨダカが仕掛ける構えだ。
「いいですか? 大事なのは目と足。相手を良く見て、自分は止まらずに移動し続ける事ですね」
 銃を手に走り出すヨダカ。それにキメラも応じる。
「敵が何が得意なのか、どちらから攻撃してくるのか、どっちへ避けたいのか。それらを判断して先回りしたり、追い込んだり横っ腹を突いたりするのです」
 正面から飛び掛るキメラ。その牙を交わし、ヨダカは脇腹に銃弾を叩き込む。
「す〜ちゃん、バトンタッチ!」
 後ろに下がるヨダカに代わり前に出るスバル。同じく飛び掛るキメラから身をかわし、至近距離で銃撃を命中させる。
「あ、出来た」
 そうこうしている間に増える狼。ヨダカはバイブレーションセンサーで自分達を囲むように出現するキメラを探知する。
「後ろと左右に二匹。正面に一匹来てるのです!」
 銃を手に走り出そうとするスバル。その隣りに涼が駆け寄り槍を構える。
「強くなりたいならすぐに突っ込む癖を直したほうがいい‥‥パイドロスで戦うなら尚更な」
「しかし、このままでは囲まれます」
「何の為に俺達がいるのかよく考えな。何でも一人でやろうとしないこった」
 背後では既に傭兵達が敵に対峙している。彼らにしてみれば、別に焦るような状況でもない。
「私が前に出て囮になります。スバルさんはそこを狙って下さい」
「マーガレットさん」
「私も彼と同意見です。協力体制を敷く事で、あなたの目標はきっと近づきますから」
 微笑み、片手槌と盾を構え走り出すマーガレット涼もそれに続き、スバルは後ろから銃でキメラを狙う。
「す〜ちゃん、相手が嫌がる事をしたり、わざと逃げ道を残した弾幕を張ったりして誘導、決めの一撃を放つのです!」
 頷き、走りながら連射するスバル。その攻撃から逃れたキメラを横からマーガレットの槌が襲う。
「そっち行ったぞ! スバルちゃん、盾だ!」
 飛び掛るキメラ。涼の声に盾を構える。
「小盾で攻撃を受ける際は真正面から受け止めるんじゃなく角度をつけて受け流すんだ! 体勢を崩して次の攻撃につなげろ!」
 腰を低く構えるスバル。飛び掛ってきたキメラの牙を腕ごと盾を引きながら防ぎ、身体を捻り蹴りを放つ。
 衝撃と共に吹っ飛んだキメラは涼の所に戻ってくる。それを槍で貫き、涼は撃破。
「おぉ、意外と飲み込みいいな」
「恐らく、彼女には戦い方を師事してくれる方がいなかったのでしょうね」
 残りを倒しながら呟くマーガレット。これにて正面はクリア。他はというと‥‥。
「まあ、普通に倒すか」
 キメラを槍で貫く犬彦。悠は近づくキメラを次々に一撃で撃ち殺していく。瑠亥に至っては、誰も見ていない間に一瞬で終わったようだ。
 この三人に至っては無傷どころかその辺のキメラでは近づく事も出来ない様相で、キメラの方が可哀想な状況である。
「‥‥あれが今の傭兵の力ですか」
「いやぁ‥‥あの辺はちょっと特殊な例だと思うぞ‥‥?」
 憂いの横顔を見せるマーガレット。涼は冷や汗を流しながら苦笑している。
「す〜ちゃん、ナイスなのですよ!」
 スバルとハイタッチするヨダカ。そこへ銃で肩を叩きつつ、悠が歩み寄る。
「仲間も手札の内に数えとけ。装備に頼るより手っ取り早いし、何よりタダだ」
「どうやらそのようですね」
 と、チラ見されて複雑な様子の涼。悠は顔を近づけ、スバルの様子をしげしげと眺めている。
「こんなキャラだっけか?」
「はいっ?」
「前より健全で良いけど。とりあえず、強い人の戦いを真似ろ。動きそのものより考え方。彼らがソレを選んだ理由、そこまで考えると良い」
 すっと顔を離し、スバルの腕を指差し笑う。
「戦いそのものに限らず、さ。例えば、盾を渡された理由だとか」
 盾に触れるスバル。むっとした様子で悠に言った。
「言っている事は分かりますが、貴女達の戦いは参考になりませんよ。どう真似ろというんですか」
 参考にならない勢三人はきょとんと顔を見合わせる。それから悠は首を横に振り、笑いながら先へ歩き出す。
「確かに違いない。オススメはしないね。精々頑張って、反面教師って所か」
「むーっ」
 AU−KV装備なので顔は見えないが、明らかにむくれた顔である。瑠亥はスバルに歩み寄り、声をかける。
「誰でも最初から強かった訳ではない。俺もそうだったし、悠も犬彦もそうだ」
 振り返り、瑠亥を見つめるスバル。瑠亥の瞳には優しさと余裕、或いは懐かしさのような色が見える。
「強さを願う気持ちがあるなら、後はそれに指向性を与えればいい。お前はどうしたい。あれを前に、一人でやれるとは思ってないだろう?」
 スバルが追う敵は遥か強敵。あの時は文字通り、手も足も出なかった。
「どう足掻いても、単機の力では敵わぬレベルの敵はいる。今回お前は生きている。ならまた挑むだろう。また負けても、生きてればまた挑んで、最後に立ってれば勝ちだ」
「最後に立っていれば‥‥」
「道が多岐に渡りすぎて、歩いてても実感わかないかもだがな。それでも進めてるし、なんにだってまだなれる。何処までも行けるかもしれん。そういった位置にお前はいる‥‥それを忘れるな」
 先へ進んでいく瑠亥の背中を見つめるスバル。彼らの言葉の意味を、己に問いながら進むのであった。

●進化と決意
 そうして戦闘を繰り返し、いよいよ最後の敵集団と遭遇した傭兵達。無数の狼キメラの中、一際大きな身体を持つ個体が見える。
「あれがリーダーか。スバル、あれはお前が倒せ」
「え!? 急に何を!?」
 敵のボスを指差し語る犬彦。慌てるスバルの背中をばしばし叩く。
「深呼吸して集中しろ。落ち着いてやればいける」
「で、でも‥‥」
 いつもろくに役に立たず、先日は一撃で戦闘不能にされたスバル。自分に対する自信の無さは、体の動きを鈍らせる。
「大丈夫ですよ。私が言うのもおこがましいですが、先程は上手に動けていましたし」
「俺たちはこういう時の為にいるんだぜ?」
 マーガレットと涼の言葉に顔を上げる。しかしまだ銃を握る指は震えていた。
「別に、少しくらい迷走しても強さは逃げない」
 背後からの悠の声。振り返るスバルに彼女は語る。
「走っている時は見落とす事も多いし、焦った時こそ足止めて考えると良い。求める強さはどんな形で、何故ソレが必要なのか、答えられる程度には」
「私の求める強さ‥‥」
 目を瞑り、心に問う。何故能力者になった。何故自分はここにいる。何故、力を求める――。
 ゆっくりと瞳を開き、銃を握り締める。そうだ、彼らの言う通りだ。自分は間違っていた。微かに笑みを浮かべ、しかし思考は冷静に――走り出した。
「す〜ちゃん、また突撃です‥‥か?」
 慌てるヨダカ。しかしスバルは敵集団の中を移動スキルで突っ切り、回り込んで銃を連射する。狙いはボスキメラだ。
「さて‥‥見せておこうか、一つの解だ。打たれ強さを捨てて、ひとつだけをとった能力者の、な」
 二刀を抜き敵集団へ駆ける瑠亥。次々に遅いかかるキメラを切り裂き、戦場を駆け抜けていく。
「細かい奴の面倒は見てやるか、と。さて――『アンチマテリアルライフルG−141』、具合はどうかな」
 後方に跳び、屋根の上でライフルを構える悠。放たれた弾丸はキメラの肉を抉り、内側から爆ぜつつ大地を吹き飛ばし着弾する。
「スバル‥‥それがお前の答えか」
 走りながらキメラを槍で散らす犬彦。スバルはボスを引き付け敵を撹乱、心配してついてきた仲間に敵を倒させるつもりらしい。
 実際、慌てて走り出したマーガレット、涼、ヨダカはスバルの方を向いた雑魚を散らしながら駆けつけている。
 吼えるボスキメラ。スバルはそれに対抗するように、同じく大声を上げた。
「お前なんか怖いもんか! キメラも! バグアも! 私が皆殺しにしてやるんだっ!!」
 震えは止まった。もう迷わない。強くなる為なら、恥だって捨てる――。
「す〜ちゃん、目や足を狙うのです!」
 声を上げるヨダカ。スバルはキメラの爪を盾で防ぎ、後退しながら銃撃を繰り出し目を狙う。
「巳沢さん、さっきの!」
「あ? あ、ああ!」
 背後から槍を繰り出し、同時にキメラを突き飛ばす涼。スバルは吹っ飛んできたキメラを盾で真上に弾き飛ばし、空に銃を向ける。
 引き金を引きまくる。身動きの取れないキメラを撃ちまくり、落ちてきた物に更に引き金を引き続けた。
 肩で息をし、へたり込むスバル。ボスキメラは沈黙したが、そこへ狼が飛び掛ってくる。
 襲い掛かる敵を貫いたのは犬彦だ。スバルはゆっくりと顔を上げる。
「最後まで油断すな。まあでも‥‥やれば出来るじゃないか」
 同時に安堵の息を吐くマーガレットとヨダカ。こうして戦闘は順調に進み、殲滅は問題なく終了するのであった。

「一時はどうなる事かと思ったのですよ‥‥」
「すいません‥‥でも皆さん優しいので、私が突っ込めば絶対ほっとかないと思って」
 けろりと言い放つスバル。マーガレットと涼は苦笑し、悠は離れた所で低く笑い声を上げている。
「ビビリまくりの割には良く頑張ったんじゃないか?」
「ビ、ビビってません。へたれてません」
「へたれとは言ってないんだが‥‥」
 そんなやりとりをする犬彦とスバル。涼は懐から何か取り出しつつ声をかける。
「へたれとは言わないが、お守り替わりに何か持ってくのも気休めにはなるぜ。写真とかな」
 取り出したのは楽器を携えた人々が写る写真だ。が、スバルはほっぺたを膨らませる。
「嫌味ですか?」
「は?」
「友達がいない私への嫌味ですか、と言ったんです」
「えっと‥‥ヒイロちゃんは?」
 はっとした様子のスバル。何か今拙い事を言ってしまったような気がしつつ、涼は言葉を撤回出来なかった。
「とにかく、卑怯だなんだ言うのは戯言なのです。選んで殺すのはそんなに上等なのですかね? 忘れちゃダメですよ、ヨダカ達は好んで殺しをする悪鬼だって言う事を」
 頷き、無言でヨダカの頭を撫でるスバル。
「‥‥ちゃんと聞いてるですか?」
「はい」
 そうしてスバルは仲間達を見渡す。
「今はまだ私は弱い。けど、追いついてみせます。貴方達にも‥‥刀狩りにも」
「そう。止めはしないから、好きに追ってくるといいさ」
「走り続ければ、いつか辿り着く。その時に見せて貰うさ。お前の解を、な」
 悠に続き語る瑠亥。何の為に、何故、どうしたいのか。まだはっきりと強さの答えは出せないけれど。
 微笑を返すスバル。それが今、背伸びをしない彼女の等身大の返答だったのかもしれない。

 任務を終え、帰路に着く傭兵達。
 この戦いは事件としては極小規模だが、きっとスバルにとっては忘れられない一戦になった事だろう――。