タイトル:未完成のソリティア2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/17 10:52

●オープニング本文


●再審
「やっぱり動いてないか」
 反応しないエレベーターの呼び出しボタンから手を離し腕を組むカシェル。かつてここにはバグアの街があった。
 『人形師』と呼ばれたバグアが作った模造品の街。大切な者を失った人々が暮らす時間の止まった世界。
 しかしそれは傭兵達の活躍によって破壊され、沈黙した。カシェルもまたその場に居合わせた一人であった。
 あの事件からもう半年近く経った今、何故彼がこの地に再び訪れたのか。それは彼の頭の端に残る疑問を払拭する為だった。
 森の中を歩きながら思案する。思えばあの頃は余裕も何もなくて、ただ敵を追う事だけで手一杯だった。
 だから、後手に回った。相手の思うように動かされた。けれど今はその経験を踏まえ、考えて行動する事が出来る。
「そもそも、人形師ってなんだったんだ?」
 バグア。宇宙からやってきた敵。人類を滅ぼす、或いは支配する者。
 人形師とてバグアの一人。如何に変わり者であろうとも、彼も何らか『敵』として役割を持っていた筈。
 新たに対峙した『敵』と人形師の繋がり。そこに或いはこの疑問を解決する糸口があるかもしれない。
「‥‥と、思っていたんだけど」
 三つ存在する搬入口の一つの前に立ち、カシェルは剣を抜いた。
 通路を塞いでいたであろう瓦礫が強引に取り払われ、道が開けている。勿論言う程容易くはなく、周囲に重機もないのであれば人の仕業とも考えにくい。
「敵‥‥なのか?」
 何故今更――? 疑問を胸に唾を飲む。
 この場所は彼にとって特別な場所だ。あのバグアを倒した場所。結局何も救えないのだと思い知らされた場所。
 一歩踏み出し、そこに立ち入る。暗闇をライトで照らし、砂利を踏んだ。
「逃げないさ。何が待っていたとしても‥‥もう二度と」
 逃げた先に、現実から目を逸らした所に良い事なんてない。
 兎に角今は先手を打たなければならない。これ以上あんな事を繰り返してしまわない為に‥‥。

●裏切り者
「ブガイ、あいつ知らないかい? ホラ、服着てない奴」
 一升瓶を片手に森の中を歩く女。ブガイと呼ばれた大男は焚き火の前で刀を眺めている。
「姐さん、いい加減名前くらい覚えなせぇ。あの‥‥ありゃなんだったかね」
「馬鹿だねぇ、あんたも覚えてないんじゃないか。あたしにもあの子と同じ様な義手を拵えて貰いたかったんだけどねぇ」
「おやま。姐さん、隻腕で余裕って豪語してたじゃねぇすか」
「余裕ぶっこいてたらこの間酷い目にあったさね。無くて困るもんでもないが、あれば使いようってもんがあるだろう?」
 ブガイの隣りに腰掛け一升瓶を呷る女。その片腕は肩口から切り落とされ、白い布が巻かれている。
「こいつがあれば決闘で負ける事はまずないけど、燃費が悪くてねぇ‥‥。こいつも強化出来ないもんか」
 眼帯に覆われた瞳を親指で軽く叩く女。大男はちょっとげんなりした様子だ。
「勘弁してくだせぇ。そんなもん卑怯と姑息の見本市すよ」
「あたしゃ賊だから卑怯でいいんだよ‥‥っと、そういえば例の坊ちゃんもいないじゃないか」
「この間死にかけたんでより強く改造するってんでおねんねっす。あの男はその為に古巣に戻るとか言ってたっすね」
「古巣‥‥ウルカの所かい? なんでまた?」
「ほとぼりも冷めた頃だってんで、色々回収したいんだとか。俺らにはわからん大事な物でもあるんじゃないすか」
 話は半分程度に止め、美しい刀の反りに微笑むブガイ。女はぐびぐびと酒を飲みながら眉を潜める。
「確かに重宝してるが、腹の内が読めないねぇ、あのミイラ男」
「姐さん、多分それ違うっす。フランケンシュタイナーってやつじゃないすか」
「あたしゃ詳しくないけど‥‥それも違うんじゃないかい?」
 二人して首を傾げる。しかしその内お互いどうでもよくなって酒を飲む事や刀を愛でる事に夢中になり、会話は終了してしまった。

●ノーナンバー
 『人形師』は人の願いを聞き入れ、求められる形をした嘘を彼らに与えた。
 そんな彼の生き方が齎した結末が、自らが与えた者達からの反逆だったのだとしたら、なんと無意味な事だろうか。
「ボスは可哀想な人ですね」
 九ヶ月前、ドールズと呼ばれた強化人間が暮らしていたアジトで白衣の少女は呟いた。
「んー? どういう意味さー?」
「ボスは全てどうでもいいんです。自らの願いを持たないから、他人の願いに依存している。一人では何も出来ない。どこにもいけない」
 少女の言葉に太極服の少年は考え込む。
「そんなの、おれたちも同じだろ? 結局おれたちも、決められた事しか出来ないんだから」
「‥‥そうですね。なんて不出来な‥‥みっともない命」
 胸に手を当て悲しげに呟く少女。成程、確かにそうだ。『人形師』はみっともない。そして狂っている。
 自分以外の誰かが齎してくれる『よくわからない何か』を待って、その為だけに全てを投げ出せる。そんなのは狂気以外の何物でもない。
 どうせ気が狂っているのなら、その力を自分の為に使えばいい。自分自身の願いを以って、自分自身の為を成せばいいのに。
 もうじきここは戦場になる。それで彼らの人生は終わり。人形師に見捨てられた人形は、あっけなく死を待つばかりだった。
「‥‥なんだけどな。悪いなボス、俺はあんたのヘタレに付き合って死ぬのは御免だっつの」
 『彼』が取り出したのは自分と瓜二つな人形。勿論、一見どころかよく調べても直ぐには分からない作りになっている。
 それを自分の席に座らせ、部屋全体に爆薬を仕掛ける。頃合を見て爆破すれば、いい具合に人形は吹き飛ぶだろう。
「あばよ、ドールズ! 俺様は俺様の願いの為に生きる。楽しかったが、おさらばだ!」
 荷物を背負い、笑いながら立ち去る。人形師はどん詰まりの研究者だ。ならばその先を見てやるのもいいだろう。
 一先ずは身を隠す場所、身を寄せる者が必要になる。
 レイ・トゥーが連絡をしていた幾つかのバグアを頼ってみようか。男は白衣を翻し、陽気に歩き出すのであった。

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
崔 南斗(ga4407
36歳・♂・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
雨宮 ひまり(gc5274
15歳・♀・JG

●リプレイ本文

●再来
淀んだ空気も、崩れた天井も焦げた町も、既にそこが終わった世界である事を語りかけてくる。
 ミュージアムの外周を埋める町は、その大半を先の戦闘で失っていた。
 プラント爆発の炎に包まれ、崩れた岩の天井が家々を押し潰す。どれ程の命がここで潰えたのか、形容し難い悪臭を以ってしても知る由はない。
 大人も子供も、ここから逃れた者は僅かだった。残った者達がどんな気持ちで死んだのか‥‥抱き合う死体を目にメアリー・エッセンバル(ga0194)は眉を潜める。
「またここに来る事になるとはな‥‥」
 瓦礫だらけの通路、隙間を縫うようにやってきた傭兵の中、六堂源治(ga8154)は溜息を漏らした。
 半年前、ここで起きた戦いに彼も参加していた。彼にとってここは、一つの終わりを見届けた場所でもある。
「しかし、やはり通行可能になっていた通路の状態から察するに、先客がいるという事ですね」
「こんなところに来るのは余程の物好きか悪党に決まってる。一つ顔を拝ませてもらうとしようじゃないか」
 沖田 護(gc0208)の言葉に頷く月読井草(gc4439)。ここに敵がいる事は明らか。警戒は必要不可欠だろう。
 そんな訳で各々調査に入ろうとした時、雨宮 ひまり(gc5274)が何かを取り出しカシェルの口へと捻じ込んだ。
「もがー!?」
「カー君、眉間にしわを寄せてたらお爺ちゃんになっちゃうよ」
「‥‥ぶはあ! え!? その事とこれに何か関係あるの!?」
 口に押し込まれたサンドイッチ的な物体を食べながら焦るカシェル。ひまりはぽけーっとした様子で語る。
「あまり良い所ではないので、ピクニック風にしようかと思って」
「今の攻撃とピクニックにどういう関係が‥‥」
「馬鹿だなーひまりは。こういうのはピクニックじゃなくて廃墟探検って言うんだぞ」
「‥‥月読さんはちょっと静かにしててください。ややこしくなるんで」
 井草の首根っこを掴み、歩き出すカシェル。井草はじたばたしている。
「なんだよー。こないだテレビでやってたんだぞー!」
 そんな相変わらずな空気の一方、残りの傭兵は各々物思いに耽っていた。
 何を隠そう、彼らもまたこの地にとって無関係ではない。今も続く、それぞれのわだかまりが眠る場所なのだ。
「ウルカヌスは、どうしてミュージアムを作ったのかな」
 仲間達に背を向けたまま死体の前に膝を着き、メアリーは呟く。
「彼は『永遠』を作りたかったと言っていた。死者をキメラとして蘇らせて、失った人々の心の穴を埋めた。ドールズだってそう。ある意味人間らしくて‥‥まるで家族のようなコミュニティを形成していた。ウルカヌスが本当にしたかった事って、なんだったのかな」
「‥‥メアリーさん」
 護はその背中を複雑な眼差しで見つめる。
 彼女の言わんとしている事は、護にも分かっている。しかしそれでも人形師の所業を許す事は出来ない。
 確かに、その行いで生まれた笑顔もあっただろう。だがその一方、尊厳を穢された命もまた生まれた。
 許してはならない悪なのだと定めたあの日から、今でも護の気持ちが動く事は無い。全てを否定する事は出来ずとも、迷いの果てに同じ答えを出すだろう。
「ここに、デューイの家族も居たんだろうな‥‥」
「ええ。こんなになっちゃ、もう探す事も出来ないだろうけど」
 崔 南斗(ga4407)の言葉に頷くメアリー。そうして彼女は取り出したカメラを構え、シャッターを切った。

 ――今の自分を、あいつが見たらどう思うだろうか?
 街の中心部、研究施設が集まる中に、強化人間達が暮らした場所もあった。
 そこだけがまるで洋館のような内装で、源治はカーペットを踏みながら思いに耽る。
 追う立場から追われる立場になり、彼にも知りたい事が出来た。部屋の扉を一つ一つ開き、主の居ない闇を見つめる。
「‥‥こいつは」
 そこが嘗て傭兵として共に戦った事もある少女の部屋であると気付いたのは、懐かしい顔ぶれの写真があったから。
 そしてそこに残っていた記録を彼が手に取ったのは、恐らく偶然ではなかった。
「ミュージアムの人間を説得する為に調べ上げた記録、か」

「どうだ? 何かわかりそうか?」
「この辺埃っぽいからね。先客がどっちに向かってるかくらいはわかるよ」
 カーペットの埃を指先でつんつんしながら南斗を顧みる井草。侵入者の痕跡は、キメラプラントの方向に向かっている。
「メアリー、この先に枯れないグラジオラスの花畑がある」
 南斗は振り返り、分かれ道を指差す。
「ウルカヌス最期の地だ。今はどうなっているか知らないが」
「そっか‥‥。じゃあ、行ってみるよ。皆はこのままプラントに行くんでしょ?」
「そうだな。もしバグアなら、何かを回収しに来たのかもしれん。再利用されるなんてとんでもないからな」
 頷く南斗。メアリーは仲間達とは違う道へ歩き出す。
「メアリーさん」
 呼び止めたのは護だ。振り返るメアリーに、頷いてみせる。
「お気をつけて」
「そっちもね!」
 カメラを掲げて走り出すメアリー。残りのメンバーはプラントへと歩き始めた。
「あれ? 源治ー、置いてっちゃうぞー?」
 井草が呼びかけると奥の方でドアが開き源治が顔を出す。視線は本に落ちたままだ。
「悪いッスね、ちょっと今個人的に知りたかった事が分かりそうなんスよ。先に行っててくれー」
 手を振って部屋に引っ込む源治。こうして余り侵入者に興味の無い二人が別行動となり、残りの面子で先へ進むのであった。

●残党
 かつてここには巨大なキメラプラントと共に、強化人間の製造に関わる設備が密集していた。
 主なプラントが傭兵達の手で爆破された今、その機能の大半は失われている。その場所で侵入者はコンソールを操作していた。
「誰だ! ドールズの残党か!」
「あぁん? そうだと言ったら何だ?」
 護の呼びかけに振り返る男。白衣のポケットに片手を突っ込み、傭兵達を眺めている。
「ちょっとお兄さん、一応ここは立ち入り禁止区域なんだけどね。あぶねーカッコしやがって、素肌に白衣とか丸っきり変態だな」
「バカ言え、マッドサイエンティストの正装だろうが」
 井草の物言いに正面から返す男。そうしてばさっと白衣を翻し名乗る。
「俺様はツギハギ! ドールズ最後の男にして死んだ筈の男だ! よろしくな、おチビ」
「ていうかなんでボロボロなんだ?」
 見ればツギハギは傷だらけである。男は困った様子で肩を竦めた。
「だって、うろついてるキメラが襲ってくるから‥‥」
 そういえば動いているキメラに遭遇しなかったが、もしかしてこの男がいちいち倒してくれていたのだろうか。
「バグアの科学者か。人形師の本拠地に何の用だ」
 銃を構える南斗。ツギハギは肩を竦める。
「何って、こっちが聞きたいぜ。何があったんだ? 何もかも滅茶苦茶にしやがって‥‥ボスの研究データもオジャンじゃねえの。ジョンに関しては俺が作ったんじゃねえから、データがないとなぁ」
「ふーん? 知ってたら教えてほしいんだけど、ドールズの連中って何で中途半端に人間臭かったんだ? 戦闘には必要無いだろ?」
 井草の問いに思案するツギハギ。それから白い歯を見せ笑う。
「お前らの言うドールズっつーのは、ジョンとレイを除く連中だろ? それなら俺が作ったからわかるぜ。ありゃ、俺の趣味だ」
 一瞬の間。沈黙する傭兵達に男は笑う。
「殆ど性格面に関しちゃ弄らない事にしてんだ、面白いしな。最近強化してやったガキも中々だった。ありゃ逸材だな」
「ジョンの腕を持つ少年‥‥まさか、彼を強化したのは」
「俺様だ。刀狩りが保護したここの生き残りだろ? かわいそうに、お前らの所為で住む所も家族も失ってよ」
 カシェルの問いにあっさり答えるツギハギ。井草は剣を構え、男を睨む。
「棺桶なんか背負って弔いって柄でもないだろ」
「その棺‥‥中身が何だろうと置いていけ!」
 南斗の言葉にツギハギは笑う。そうして棺桶を蹴飛ばすと勢い良く蓋が吹っ飛び、中から異形が姿を現した。
 背に黒い羽を持つ、全身に縫合跡のある女の死体。その外見は彼の人形師に良く似ている。
「紹介するぜ。嫁のザバーニーヤだ。美人だろ?」
「人形師‥‥!?」
「似てるけど違う。外見は好みだったんだが、あいつは問題があってな。何せ――男だったんだもん!」
 南斗の疑問に叫ぶツギハギ。死体は緩やかに動き出し、傭兵達へ迫る。
「やっぱり、変態だったんですね」
 弓でキメラを迎撃するひまり。南斗は銃弾をばら撒き、その進撃を抑制する。
 護の練成強化を受けたカシェルと井草が前へ。二人は剣で攻撃を仕掛けるが、キメラは固い翼でそれを防ぐ。
「気をつけて下さい! あの可哀想な服の人は、ナイフを隠し持ってる気がします!」
 ひまりの言葉に驚くツギハギ。今正にメスを取り出した所だ。
「しかも麻痺毒が塗ってあるような気がします!」
「何ィ!? 何故そこまで分かる!?」
 跳躍し、棺桶の上に立ったツギハギがメスを投擲。カシェルと井草は左右に跳んで回避する。
「流石にそこまで分かってれば避けるよ!」
 ひまりは続けて弓を連射。ツギハギの腕を射抜き、メスを弾いて見せる。
「そいつらの墓はここに作るべきだ。一番思い入れがあった場所にな」
 銃を連射してキメラを狙う南斗。キメラは長い両腕を振り回すが、カシェルがそれを盾で弾き強引に吹き飛ばす。
「一気に排除させて貰います!」
 杖を掲げる護。キメラ周辺に電磁波が生じ、続け井草が大剣で身体を捻るようにして一撃を加えた。
「ったく、俺は戦闘向きじゃないってのに。ザバーニーヤ!」
 両腕を広げ、口を開くキメラ。流れ出した歌に傭兵達の動きが鈍る。
「くっ、これは‥‥!」
 よろける護。南斗と井草は膝を着き、そのまま倒れてしまった。
「ね、寝てる‥‥」
 冷や汗を流すカシェル。ツギハギは傭兵達の頭上を飛び越え、脱出を試みる。
 ひまりと護が追撃を仕掛けるが、影響もあり命中しない。そのままひまりはぱたりと倒れてしまった。
「ぐぅっ、駄目だ‥‥沖田、さん‥‥」
 続けて倒れるカシェル。何とか耐えていた護がキメラに攻撃を仕掛けると歌が止み、傭兵達が意識を取り戻した。
「うぁうっ」
「ぐおぉ、よだれが‥‥」
 転がっていた小さい二人が起き上がる。南斗も頭を押さえ立ち上がった。
「くっ、奴はどこに‥‥」
 一方ツギハギは通路を走っていた。しかしその前方に源治の姿が。
「な、何故いる!?」
 擦れ違い様に刃を振るう源治。切り付けられたツギハギが転倒すると、背後から何かが迫ってくる。
「六堂さん、退いて下さい!」
「お、おう」
 部屋に飛び込む源治。突っ込んできたのはAU−KVに乗った護で、倒れていたツギハギを撥ね飛ばす。
「轢き逃げかッ」
 吹っ飛ぶツギハギ。更に傭兵達が追いついてきた事で完全に包囲されてしまった。
「‥‥終わった」
 遠い目で呟くツギハギ。こうして彼の逃走は失敗に終わるのであった。

●花畑
「なんか、本当にあぶねーやつだったな‥‥」
 傭兵にボコボコにされ倒れたツギハギの亡骸を切っ先でツンツンする井草。
 その後、合流した源治を加えツギハギと戦った一行。元々戦闘タイプではなかった事もあり、ツギハギは割とあっさり倒す事が出来た。
 移動速度が遅く、やっと追いついてきたキメラも無事に撃破し、一通り戦闘は終了。一仕事終え、護は溜息を吐いた。
「結局こいつは何をしに来たんだ‥‥」
 冷や汗を流す南斗。とりあえずこれでドールズと呼ばれた強化人間は全滅した事になる。
「そういやこれ、そこで見つけたんスけど」
 源治から手記を手渡される南斗。開いて中身を見れば、『彼女』の物である事は直ぐ分かった。
「月読さん、ちょっと」
「お? どしたどした?」
 二人が手記を覗き込んでいる間、カシェルは周囲の様子を眺めている。その背中にひまりは呟いた。
「カー君、最近まるくなったよね‥‥。角が取れて大人になった気がする」
「え? きゅ、急にどうしたの?」
 慌てた様子のカシェル。ひまりは再びおにぎり的な何かを取り出し、カシェルに差し出した。
「あ、ありがとう。大人になったかどうかは分からないけど、君や月読さんみたいな人と一緒に居ると、敵に怒る暇とかないからね」
 おにぎりを食べながら微笑むカシェル。そこへ護が声をかけた。
「カシェル君、一応この人の持ち物を調べてみましょう」
「あ、はい!」
 走り出すカシェル。その背中をひまりはぼんやりと見送るのであった。

 一面の広がる鮮やかな花畑の中、メアリーは佇んでいる。
 枯れる事のない花達に、人形師が思い描いた永遠の形を見る。
 彼は人の為に生き、無償の愛を注いだ。この地で暮らした人々が彼を神と同一視したように、それは人ならざる行いだ。
 ここには確かに幸福があった。そしてそれは戦いの中で失われてしまった。
 何かを正しいとすれば、何かを間違いであると言わねばならない。ここにおいて正しさを語る事は、とても重く難解だ。
「『楽しい思い出』が‥‥こんなに、沢山‥‥」
 シャッターを切る。いつかは消えてしまうかもしれないこの理想を、形に残す為に‥‥。

「さてと! 悪党の墓にしては立派過ぎるけどまぁ良いか。そろそろ行こうぜカシェル、刀狩りを追うんだろ?」
 井草の呼びかけに頷くカシェル。源治は腕を組み、小さく息を吐く。
「カシェル。『あいつ』の事ッスけど‥‥」
「はい。大体分かってきましたね。彼は多分‥‥ある意味、最後のドールズだった」
 ならば決着を着けるまで、本当の意味でのケリはまだ遠い。
「それは南斗さんが持っていてあげてください。多分、彼女もそう望むと思いますから」
 カシェルの声に頷き手記を懐に収める南斗。踵を返し、歩き出した。
 こうして傭兵達はミュージアムを後にした。それぞれの思いに一つの区切りをつけ、新たな戦いに挑む明日が始まる。
 終わってしまった世界は彼らが去った後もそこにあり続ける。まるで、永遠の中に取り残されているかのように、いつまでも‥‥。