タイトル:【NL】導かれる者マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/11 10:24

●オープニング本文


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 とある街の一画、人通りを眺めながら夜の街に立つドミニカ・オルグレンの姿があった。
 壁に背を預け物思いに耽る横顔には影が差している。ここに一人でこうして立って居るのも、彼女にしてみれば本来不本意な事だ。
 暫くそうして寒さに身体を抱き締めていると、待ち人がやって来た。青年はドミニカの隣に立ち、封筒を手渡す。
「頼まれていた分の資料だ」
「悪いわね、身内を調べさせるような真似して」
「俺もブラッド達は信じられないからな‥‥ただ、結局まともな情報は得られなかった。マリスやマクシムは兎も角、ブラッドの警戒網は正直異常だ」
 封筒の中身を取り出すドミニカ。そこにはネストリングに所属する傭兵達の詳細が記されている。
 マリスとマクシムは能力者になる以前からの生粋の傭兵で、バグアがやってくる以前から人間同士の闘争に身を置いていた。
 ブラッドも二人と同じく傭兵の出だと思われるが、ブラッドのここ数年より前の過去は完全に闇に葬られており、知る者も調べる術もない。
「ヒイロ・オオガミと九頭竜斬子についても調べてみた。二人とも経歴はそこそこ面白いが特にブラッドと接点はないんだよな」
 ヒイロの両親は傭兵で、やはりマリス達と同じく人間同士の戦争に身を置いていた。
 その後両親が行方不明‥‥これは死亡したという説が濃厚‥‥になり、大神家に引き取られる。その後の経緯については、傭兵になるまでシンプルだ。
「斬子は‥‥母親が軍人で、父親は武器商人? 姉がUPC軍中尉‥‥あらまあ」
「面白いが、それだけだ。父親もこれといって犯罪歴はなし、怪しい所もない。母親は数年前にバグアとの戦闘で死亡しているな」
「新しく入って来た連中については?」
「数が一気に増えたからな、まだだ。まあ‥‥これは勘だが、連中もブラッドとのつながりはないような気がする」
 それはドミニカも考えていた事だ。しかし彼らを新たにネストリングの、しかも裏側を任せる位置に入れた事には必ず意味がある筈なのだ。
「‥‥危ない橋を渡らせるけど、引き続き調べてもらえる? 確たる証拠さえつかめれば、あのクソメガネをUPCに引き渡してやるんだから」
「UPCもどうだかな‥‥。結局信頼出来る相手は自分達で見極めるしかない。お前も気をつけろよ」
 立ち去る青年の背中を見送るドミニカ。資料の入った封筒を見つめ、空を仰ぐ。白く凍えた息は無秩序な軌道で空へ舞い上がった。



「えー、というわけで、恒例の新人傭兵向けのキャンプを行ないます。詳細はお手元のしおりをご覧下さい」
 所変わってネストリング事務所。集められた数人の傭兵達はブラッドから渡された小冊子を見ていた。
「今回も競合地区に行って、新人向けの戦闘訓練を兼ねたキャンプを行ないます。場所はいつものところですから、特に説明する事もないでしょう」
 時折ネストリングはこうした新人傭兵向けのイベントを催している。ネストリング所属の複数人の熟練傭兵が付き添い、競合地区でキメラ等を殲滅しつつ、バグア達との戦闘の基礎を新人に教えているのだ。
 ドミニカはこのイベントに毎度欠かさず参加しており、これで参加するのは八回目となる。場所も少しずつずれてはいるが毎回同じ地区で行われている為、勝手知ったるという所だ。しかし今回は一つ、いつもと違う事があった。
「今回は私も現場に同行します」
「え? ブラッドが?」
「はい。マリスとマクシム、それからオオガミさんと九頭竜さん‥‥要するに、裏側担当の人たちにも出てもらいます」
 唖然とするドミニカ。こんな事は初めてである。大体ブラッドは現場にも出てこないし、マリスもマクシムもついてこないのが定例なのだが‥‥。
「どういう風の吹き回し?」
「いえまあ、そういう立場でもあるわけですし。彼らに関しては実戦経験も豊富ですから、丁度良いかと」
 そりゃあ丁度良いのだが、そういう意味の質問ではない。イライラしつつ足を組み、ドミニカは考える。
 しかしこれは好機だ。これまでは任務中、しかもせわしない無茶振りの依頼でしか顔を合わせなかった彼らと、少しはのんびり同行する事が出来る。
 彼らがどのような意図でここにいるのか、或いはただブラッドに利用されているのか‥‥それとなく探りを入れてみるのもいいだろう。
 幸い今回のキャンプは一泊二日のコース。丸一日以上行動を共にすれば、少しくらい無駄話をする時間もあるはずだ。
 余計な口を挟んでやっぱりやーめた、と言われても困る。それからドミニカは説明を話半分に聞き流しつつ、策を練るのであった。
「あれ? そういえばマリスは?」
 口を挟まないと決めた直後に挟んでしまった。ブラッドは周囲を見渡し、小首を傾げた。
「おや、そういえば居ませんねぇ? あの人ここ以外に行く所なんて無いはずなんですが」
「会議に欠席するのって珍しいわよね。いつもお茶酌みして若ぶってるのに」
「‥‥本人には絶対に言わないで下さいね、その暴言。そうですねぇ、ここにいないということは‥‥」



 雪の振る山道を歩き、マリスが辿り着いたのは焼け落ちた屋敷の跡地だった。
 ここには嘗て人里から逃れるように造られた武家屋敷があった。一人の老人と何人かの女中、そして一人の少女が暮らしていた。
 約一年前、この場所はとある強化人間により焼き払われた。そして老人は死に、少女は独りになった。
「相変わらず真面目に片付けてるのねぇ、ヒイロちゃん」
 黒いコートのポケットに両手を突っ込んだまま歩く。残骸はちまちまと片付けられており、誰かが定期的にここを訪れている事を示している。
 いつもは細めている目を開き、思い出を見つめる。色あせない記憶は今でも彼女の胸の中に残っている。
「赤祢、紫先生。私達の事、恨んでる? それともああやっぱりなって、そう思ってる‥‥?」
 目を瞑れば今でも思い出せる。地獄そのものだった戦場の中、崩れた家の隅で震えていたあの日。
 銃弾飛び交う中から逃れ、偶然居合わせた雨宿りの同伴者。軍服を着た女は笑顔で手を差し伸べてくれた。
「でもね、紫先生。私達にとって、戦争は生きる事なの。それが悪しき事だと理解しても、身体に染み付いた快楽は消す事が出来ない。結局この世は利用されるか利用するか‥‥だから、ヒイロちゃんは私達が使わせて貰うわね」
 寂しげに微笑む。答えは無論無い。踵を返し、残骸を一瞥する。
「ねえ、戦争がどうしても消せないのなら‥‥神がこの世界にいないなら‥‥人類を救済するのは、どんな存在だと思う?」
 呟き一つを残し立ち去る。寂しい風が吹き抜けるその場所に、やはり答える者は居なかった。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

「今度は新人教育、か‥‥」
 廃墟の街に集まったネストリングの面々を眺め、藤村 瑠亥(ga3862)は呟く。
 今日は新人の為のキャンプに付き合うのが任務。少なくとも彼にとって危険とは程遠い依頼になる。
「日本の風習ですからね。はい‥‥おめでとうございますっと」
 米本 剛(gb0843)は懐からお年玉袋を取り出す。ヒイロは飛び跳ねて喜んでいるが、斬子は照れくさそうだ。
「わふー! 剛君だいすき!」
「あ、有難う御座います」
「ヒイロさんが不健康な使い方をしないよう、斬子さんが注意してあげてくださいね。メンバー中随一の良心は貴女だと思っているのですから‥‥頼みましたよ」
 苦笑を浮かべる斬子。そこへティナ・アブソリュート(gc4189)が歩み寄る。
「き、斬子さん‥‥助けて下さい」
 肩を落として斬子の背後に隠れるティナ。その後方ではマリスが笑顔で手を振っている。
「‥‥あの時はごめんなさい。斬子さんも私を思ってくれたからこそ、ですよね」
「わたくしこそ‥‥でも、貴女は本当に綺麗だし、いい人ですから。そういうのは勿体無いと思う」
 笑いあう二人。ティナは唇に人差し指を立て、ウィンクする。
「でも、叩かれたのは痛かったですよ? 怒ったりはしてませんけど」
「‥‥女性相手には、加減するようにしますわ」
「それはそうとマリスさん、なんとかなりませんか? 夜とか特に凄く身の危険感じるんですよ‥‥」
 ぷるぷるするティナ。斬子は目を逸らすのであった。
「皆、今日は宜しくな。そんな緊張すんなよ。気楽にいこうぜ、気楽によ」
 後輩に気さくに声をかける巳沢 涼(gc3648)。早くも打ち解けた涼の様子をキア・ブロッサム(gb1240)は壁に背を預け眺めている。
「涼は流石よねぇ。貴女はキャラじゃないって感じ?」
 近づき声をかけるドミニカ。キアはその横顔を一瞥する。
「キャラじゃない‥‥そうですね。人に物を教えるのが向いているとは思いませんが‥‥仕事ですから、ね」
「愛想よくすればいいのに。美人なんだから」
 溜息を漏らすドミニカ。キアは特に反応を返さず去っていった。
「リーダー、どうしたんですか?」
 きょろきょろと周囲を見渡す犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)。イスネグ・サエレ(gc4810)は声をかける。
「ブラッドの奴を探しているんだが‥‥」
「さっきそっちで見ましたけど」
 指差された方向に走っていく犬彦。イスネグは腕を組み、状況を見つめなおす。
「うーん、まともな依頼だ。裏がありそう」
 ぽつりと呟くと同時、マリスが遠くで手を振り声をあげる。
「はーい、集合ー! 出発するわよー!」
 思考を中断し走るイスネグ。こうして一泊二日のツアーが始まるのであった。
「自分が指導する程の者かは疑わしいですが‥‥宜しく御願しますよ、皆さん」
 斧を手に挨拶する剛。新人達を率い、草原の移動を開始する。
 予定ではこのまま山へ向かい、山中に野営地を設置する。一先ずはそこまでの移動、遭遇するキメラとの戦闘が課題となる。
「傭兵に大事なのは一に連携、二に連携だ。常に複数人で依頼をこなすわけだからな。自分のクラス特性を掴んで、出来る事をやるんだ」
 涼は何と無くキャラクター的にとっつきやすいのか人気で、新人達を引っ張っている。その様子を眺める上杉・浩一(ga8766)。
「さて、どうしたものか‥‥」
 直接指導よりは周辺警戒をする浩一。瑠亥も積極的に新人に関わろうとはしていない。
「藤村さん、行かないのか?」
「俺は‥‥一般的な傭兵の動き方をしていないからな」
「ああ‥‥」
 納得した様子で頷く浩一。瑠亥は腰に手を当て話を続ける。
「あえて一つ教えるとすれば」
「すれば?」
「どうしようもない相手からは逃げる、と言う事だな」
 腕組み頷く瑠亥。浩一は並んで遠くを見つめるのであった。
「俺はその辺りを偵察してくる。個人的に興味のある事もあるからな‥‥」
 頷く浩一。走り出した瑠亥はあっという間に見えなくなってしまった。
 とかやっている内にキメラと遭遇する一行。犬彦は咳払いし、前に出る。
「良く聞け新人共。健全な精神は健康な肉体に宿る。つまり体が資本な訳で〜‥‥もっと体鍛えろやー!」
 目を見開き叫ぶ犬彦。しかしリアクションが殆ど無かった為、ちょっと赤面する。
「身体を鍛えていればほらこの通り、動じなくなる」
 背後から岩の塊にゴスゴス頭を叩かれる犬彦。動じなさ過ぎて新人は引き気味だ。
「それじゃ、連携をやってみようか。私がまずキメラを子守唄で眠らせるからその後に叩いて」
「あ、あの人は大丈夫なんですか?」
「かなり大丈夫です」
 笑顔で答えるイスネグ。こうして新人達は援護されながらキメラと戦うのであった。
 状況は安定しており、ほのぼのしているくらいだ。剛はその様子に思案する。
 果てしなく胡散臭いネストリングではあるが、剛はそれを承諾して参加している。疑うのもいいが、こうして真面目に依頼に取り組むのも悪くはない。
「ヒイロさんを見習って‥‥信頼の方に進むのも一つの手、かな?」
 ブラッド達から信頼されれば状況も進展するかもしれない。前向きに考え、頷くのであった。
「よーし、いい調子だ!」
「簡単な例だけど分かって貰えたかな? 一人じゃ倒せない敵も仲間と一緒ならきっと何とかなるよ」
 涼とイスネグは積極的に新人を指導している。一方、涼がちらりと視線を向けると‥‥。
「ヒイロちゃん‥‥ぼけーっとしてるし」
 口を開けて呆けるヒイロ。斬子は周辺警戒をしつつなにやら考え事の模様。ドミニカはというと‥‥。
「まず置いていって頂こう、かな。他の方への信用、を‥‥」
 不敵な笑みを浮かべるキア。彼女は後衛職を数名連れ、本隊とはやや遅れて移動していた。
「私は同じ事は一度しか言いません。聞き逃さないように‥‥集中して下さい」
 銃を弄りながら新人達へ目を向けるキア。その間にドミニカは微妙な表情で立って居る。
「呼ばれたから来たけど、私要る?」
「きみには周囲の探知をお願いします。得意分野、でしょう?」
 スタスタ歩いていくキア。ドミニカは咳払いし、明るく新人達の背中を押すのであった。

 それから一行はキメラを倒しつつ山へ向かい、適当な所に野営地を設置した。
 昼間の間は各地で新人の訓練を続けた。日が暮れると野営地に戻り、キメラを警戒しつつ夜を過ごす事に‥‥。

「何事もありませんな」
「だな」
 見張りに立ちながら呟く剛。浩一も腕を組み同意する。
「走り回って調べてみたが‥‥本当に何も無いとはな‥‥」
 疲れた様子で肩を落とす瑠亥。彼はこの山周辺をそれこそ駆けずり回ってみたが、これといって何かがあるわけではなかった。
 道中キメラと戦いながらと言う事もあり、流石にこのマラソンは堪えたらしい。椅子に腰掛け闇を見つめている。
「お陰で周囲の安全が確保されたのですし、良しとしましょう?」
「何をやらせたいのかと‥‥腑に落ちん」
 俯く瑠亥に苦笑する剛。とりあえずキメラ、或いは不審な者が居ないか警戒を続ける事に。
「少しあの二人を話をして来たいんだが、ここを頼めるか?」
 星を見上げている斬子とヒイロを指差す浩一。剛の了解を得て浩一は二人の傍へ向かう。

「何やら色々な事がありましたね。先輩がキノコ食べておなか壊したり、ティナさんがキメラ食べさせようとしたり」
 焚き火を挟んで座るイスネグとマクシム。向こうの焚き火では涼が新人達とトランプをしている。
「休める時にしっかり休んどけよ、それも傭兵の仕事だ。見張りはエルがやってるしな」
 笑いながら語る涼。新人とも大分打ち解けた様子で、楽しげな声が聞こえてくる。
「そういや、ブラッドさんとは何処で知り合ったのですか?」
「唐突だな、まあいいだろう。あいつと会ったのはもう随分前の事だ」

「そうねぇ、話すと長くなるけど〜」
 食器の片付けでマリスと肩を並べるティナ。ふと問いかけた言葉にマリスは微笑む。
「銃を撃てれば良いような事は前に聞いた事がありますけど、裏の仕事に付き合う義理は無さそうに見えますが?」
「ブラッドと私は兄妹みたいな物なのよ。物心ついた時からずっと共闘してきた仲間だから、義理といえばそこかしら」
「兄妹?」
「戦場で拾われたのよ。ヒイロちゃんの、お婆ちゃんにね」

「これまでの事とどうしても無関係には思えんのだ。君のお婆ちゃん、ご両親、そして大神赤祢」
 星を見上げるヒイロの横顔に語りかける浩一。
「喋りたくないなら構わん。話してもいいと思ったら教えてくれ」
 ヒイロは困ったような顔になり、それから背後で手を組み頷く。
「浩一君は知ってると思うですが、ヒイロは人殺しの子供として苛められてたですよ。両親もそうだけど、おばあちゃんが――傭兵だったから」

「ユカリの部下だった頃、ブラッドと知り合った訳だ」
「あれ? マクシムさんは先輩のお婆ちゃんとお知り合いだったんですか?」
「ああ。あれは戦争の天才だったが、それだけ人を殺し尽くしている。だから仕方なかったと言っただろう。因果応報、だ」
 焚き火を見つめるマクシム。イスネグは同じくそこに過去を映し出す。

「私達は大神先生の下で子供の頃から傭兵をしていたわ。彼女は命の恩人であり、母親だった。ブラッドとはその頃からの付き合いね」
 笑顔で語るマリスを見つめるティナ。マリスはそこに笑顔のままで言う。
「貴女が殺した大神赤祢もそう。彼女は私の幼馴染であり、親友だったわ」

「おばあちゃんがそういう人で、そういう子達を育てていた事は知っていたのです。だからブラッド君達もカイナちゃんも、ヒイロと無関係じゃない」
 ヒイロは振り返り、真っ直ぐに浩一を見上げる。
「もし家族が間違った事をしようとしているなら、それは止めなきゃならない。私は大神を継ぐ者だから」
「確かめる為についていく、と言う事か」
「正しいなら手を貸し、過ちならば即、この手で断つ」
 拳を握り締めるヒイロ。強い決意を湛えた瞳に浩一は口を噤む。

「だとしても、あの子達に戦わせたく無いです。それが避けられないのなら、せめて前を向いて歩けるようにするのが私達大人の役目だと思ってます」
 イスネグの声にマクシムは応えない。暫しの沈黙の後、男は言う。
「なら精々気をつける事だ。ブラッドはヒイロに他人の面影を重ねている。誰かが止めなければ、あの子は偶像に仕立て上げられてしまうだろう」
「どういう意味ですか?」
 質問に答えはなかった。マクシムはそれきり席を立ち、去っていく。イスネグはその背を見送り視線を炎へ戻した。

「わたくしは、そんなに大した理由はありませんわ」
 ヒイロと浩一の遣り取りを聞いていた斬子は腕を組み語る。
「上杉さんには前にもお話しましたけど、わたくしが戦う理由は意地と矜持ですの。亡き母とも姉とも違う生き方で正義を貫く事。ただそれだけですわ」
「そうか。譲れぬならそのまま持っていかねばならん。だが君は若い、頼ってもいいんだ‥‥マクシムさんも言っていたかな」
 しかし浩一の言葉に斬子は答えない。腕を組んだまま頷き、背を向ける。
「今はそう、素直には行きませんわ。もう少し、考えてみようと思います」
「くず子‥‥」
 立ち去る斬子を見送るヒイロ。寂しげなその瞳に浩一は近づき、頭を撫でるのであった。

「は? 決闘ですか?」
「勝ち逃げは許さん、うちを負かした責任とって貰おう。こちらが勝ったら洗いざらい話を聞かせて貰う」
 星空の下ブラッドに槍を向ける犬彦。ブラッドはコーヒーを飲みながら首を傾げる。
「ちなみに僕が勝ったら?」
「なにもない」
 がくっと脱力するブラッド。苦笑しながら首を横に振る。
「じゃあ僕の損じゃないですか。それに僕と貴女が真面目に戦ったら、僕が負けてしまいますよ」
 むっとした様子の犬彦。ブラッドへ詰め寄る。
「やるのか、やらないのか」
「嫌ですよ、怪我したら大変じゃないですか」
「戦ってくれないと寝込みを襲うかもしれないぞ?」
「‥‥やめてください」
 舌打ちし槍を降ろす犬彦。今日一日ブラッドを付け回してみたが、結局怪しい動きは何一つなかった。
「まあそうカリカリせず、コーヒーでもいかがですか?」
 ブラッドの後ろにくっついて移動する犬彦。二人が向かった先、食事の片付けを終えたティナが一人でマグカップを手にしている。
「ん? どうした、ティナ」
「あ、いえ‥‥少し考え事を」
 犬彦に愛想笑いし、ティナはつい先程の出来事を回想する。
「――貴女が殺したのよ。私の親友、ヒイロちゃんのお姉ちゃん。責めはしないわ。でも、そういう事もあるって事ね」
 心を見透かすように顔を寄せ瞳を覗き込んだマリスの言葉。ティナは唇を噛み締めた。

「こんな事に‥‥何の意味があるやら、ね‥‥」
 銃の手入れをしながら呟くキア。その傍にはドミニカが座っている。何と無く今日一日、行動を共にしてしまった。
「公的に軍より‥‥令を出せば良い類でもありますし。何より‥‥正義の味方だなんて」
「ま、馬鹿馬鹿しいといえばそれまでよね」
「お人好しそうな貴女の顔の下に‥‥どのような企みがあるのやら、ね」
 前髪を指先でくるくる巻きながら黙るドミニカ。機嫌が良さそうには見えない。
「依頼は信用が大事ですし‥‥? 余り疑念は抱かせないで頂きたい、かな」
「お互い様でしょ? 貴女こそどうしてここにいるのよ」
「それは、仕事ですから‥‥。だからといって、騙されていていいとは思わない」
 顔を上げるキア。ドミニカに目を向ける。
「あらゆる事を疑い、万全の体勢で挑む‥‥世の中、馬鹿を見るのは騙される側。騙す側に罪も罰も無いのなら、防ぐ為に努力するのは必然でしょう」
「それは同感だけどね。信頼関係って、案外難しいのよ」
 溜息混じりにひらひら手を振るドミニカ。キアはふっと笑みを浮かべる。
「そう‥‥一つ借りもありましたし‥‥その返礼も考えておかねば、ね」
「もっと明るい感じに笑えないわけ? 貴女」
 その時、闇にクラクションが鳴り響いた。涼のバハムートに反応があったのだ。
「どうやら襲撃のようですな」
「キメラか‥‥」
 立ち上がり走り出す剛と瑠亥。涼も新人達を連れて慌てて飛び出してくる。
「犬彦さん、ここはいいので‥‥」
「我らがネストリングの重鎮が万が一バグアに襲われたらタイヘンだー」
「何ですかその棒読み‥‥」

 こうしてキメラの襲撃を退け、イベントは順調に終了。一行はLHへ帰る事となった。
 徒労、疑念、信頼、それぞれ様々な物を持ち帰りながら‥‥。