●リプレイ本文
「それにしても、廃れた街だなぁ‥‥」
望月 美汐(
gb6693)の運転するジーザリオに揺られながら町並みを眺める秋月 九蔵(
gb1711)。文字通り廃墟と化した戦場にかつての賑やかさを垣間見る事は出来ない。
「シミュレーターで廃墟を再現した事はありますが、現実はこういうものなのですね」
窓から身を乗り出し街を眺めるイリス。彼女が座る席だけ妙にクッションでふわふわに彩られている。
集合した傭兵達は車両を使い目的地へと向かった。美汐の運転するジーザリオの後ろ、和泉 恭也(
gc3978)のインデースが続いている。
街に入った傭兵達は一旦車を止め、データ収集の準備をする。イリスは積んできた機材を運び、傭兵達に装着する作業に入る。
「しかし、その格好は何とかならなかったのか?」
相変わらずのイリスの格好に口出しするヘイル(
gc4085)。しかしイリスはレベッカ・マーエン(
gb4204)を指差す。
「レベッカだって白衣ですよ?」
「研究者の正装だからな。ちなみにこれは立派な防具でもあるのダー」
とかそんな話をしつつヘイルに機材を装着するイリス。思いの外ヘイルは動き辛そうだ。
「次はレベッカですね」
「流石に脱ぐんだろ、白衣」
「上から着ればいいのでは?」
とか言っている間に完了。イリスはちまちまと、しかし手早く装着を済ませてしまう。
「‥‥見た目はかなり微妙だなぁ」
車に背を預け、ポケットから飴を取り出す九蔵。機材を装備した二人はお世辞にもかっこよくは見えない。
最後に銀・鏡夜(
gb9573)が機材を装備するのだが、代わりに試作型アンサーシステムをイリスに差し出した。
「アンサー‥‥暫しのお別れ」
「使わないのに持ってきてくれたんですか?」
「私の宝物」
頷きイリスに手渡す。イリスは嬉しそうな反面、重いのか足がぷるぷるしていた。
そんなこんなで準備完了。今回のテストではヘイル、レベッカ、鏡夜の三名が測定装置を装備する。
「あ、そうそう。イリスさん、これ使ってください」
美汐が差し出したゴーグルを受け取るイリス。付け方が分からないので結局美汐につけてもらう。
「倍率は5倍までですけど、その分、調整が効きますから。外に出る時は私か和泉さんのそばを離れないでくださいね?」
「これはいいものですね。遠くまで見えます‥‥あーっ!」
ズームで遠くを見ながらうろつき転倒するイリス。既に膝をすりむいている。
「今、何も無い所で転んだような‥‥」
「‥‥言わないでおいてやれ」
九蔵の肩を叩くヘイル。前から分かっていた事だが、イリスは兎に角にぶい。
「フィールドワークは研究の基本のひとつだからな。でもあまり無理はするなよ、イリス」
苦笑するレベッカ。和泉 恭也(
gc3978)の手を借りてイリスは立ち上がる。
こうして先の思いやられる戦いが始まるのであった。
傭兵達は主に移動は車で行い、敵を発見次第下車。主に戦闘は測定器をつけた三名が行い、残り三名が安全確保という布陣で依頼に臨む。
その手段は非常に有効であった。そもそもイリスは徒歩でろくに移動出来ないのだから、むしろこれ以外なかったとも言える。
「車が無かったら如何する積もりだったの?」
「え? 考えてなかったです」
鏡夜の質問にきょとんとするイリス。荷物運びもろくに出来ないのに、本当にどうするつもりだったのか。
「依頼の前提として間違っているような気もするな」
とはヘイルの談。ともあれ、移動が車と言う事でイリスは安全に、疲れもせずに傭兵達について行く事が出来た。
最も多く出くわしたのは小型のトカゲキメラで、測定班の三人にとっては特に問題となるような敵ではなかった。
三名が順当にキメラを撃破する間、ゴーグルをつけたイリスの左右を美汐と恭也が固める。
更に危険が迫っていないか、次にどちらに向かうか等を離れて行動する九蔵が警戒、連絡する仕組みだ。
「さてと、お次は‥‥」
無線機を片手にビルの窓から周囲を眺める九蔵。実は無線機を忘れてきたので、これは恭也に借りた物だ。
ついでに彼から受け取ったサンドイッチをを齧り銃を担いで移動する。密かに彼が一番走り回っているかもしれない。
「うーん、景色もいいし、しっかりしたものを作ってくるのでしたね」
空は晴れ、気持ちのいい風が街を抜けていく。恭也は隣りでサンドイッチを齧るイリスに笑いかけた。
「恭也、私達は遊びに来ているんじゃないんですよ」
「いいじゃないですか。忙しいからって遊ぶこと、遊ばせることをしない理由にはなりませんよ」
「そういえばイリス、料理は出来るようになったか?」
トカゲを蹴散らした三人の中、ヘイルが槍を肩に乗せ笑う。イリスはばつの悪そうな表情を浮かべ、話題を逸らした。
「ヘイル、いつもと動き方が違いますね。アンサーみたいです」
「よくわかるな」
自らの得物に目をやるヘイル。アンサーを意識して動いてはいるが、所詮は模倣に留まっている。
そもそもあれは前提からして傭兵とは全く異なる存在だったのだから、当然なのだが。
「トカゲは相手にならないようですし、飛竜を狙いますか? 北に行った所で秋月さんが見つけたみたいですよ」
通信機を片手に運転席から顔を覗かせる美汐。そのまま降りてきてイリスの口周りを拭う。
「そうだな‥‥ところでイリス、こいつはデータ収集に使えないのか?」
ヘイルは装備したアンサーシステムを掲げる。イリスは腕を組み、僅かに思案。
「使えなくはありませんが、今回の機材の方が効率的ではあります。良ければ後で蓄積したデータを回収させて貰えれば一石二鳥かと」
「ふむ。確かにな」
こうして傭兵達は更に移動し、次に飛竜の群れに遭遇する事になった。
「数も多いし、流石に圧勝とは行かないかも」
「だな。望月、和泉イリスを頼むのダー」
背後に呼びかけるレベッカ。エネルギーガンを構え、飛竜を狙う。これが意外とすばしっこく、傭兵達に襲い掛かる。
「羽付きが来ましたよ、奇襲に注意してください! イリスさんは車の中へ!」
恭也にせかされ車に乗り込むイリス。美汐は恭也と共にイリスの乗った車を護衛する。
「今回はサポートに徹させてもらいますね。気を引きすぎても困り者ですし」
二人が援護を行なうが、敵は数が多い上に素早く飛行している。これは前衛の三人にも容易い状況ではない。
「動き辛い上に、相手が速い‥‥」
「測定器を壊すわけには行かないからな‥‥おっと!」
低空飛行で突っ込んで来るキメラを盾で防ぐレベッカ。鏡夜は超機械から黒い光弾を放ち敵を狙うが、中々数は減らない。
「こいつらは炎も吐くぞ、気をつけろ!」
「と、言われても」
「炎は避けるしかないのダー」
ヘイルの声に走る二人。吹き付けられる炎は防いだ所でどうしても測定器に損傷が及ぶ。
弓で敵を撃ち落すヘイル。飛び込んでくるキメラから身をかわし、その速さに舌打ちする。その時遠方より飛来する弾丸‥‥九蔵の狙撃である。
「さて、狩人の合唱を聞かせてやるか」
崩れたビルの壁から銃を突き出し、腹這いに銃を構える狙撃。九蔵がダメージを与えよろけた敵を優先的に狙っていく。
敵の注意の一部が狙撃に向いた事もあり、結果的に美汐と恭也の援護も積極的に出来るようになり、そこからは敵の撃破もスムーズに進んだ。
「色々な意味でドキドキしました」
というのはイリスの感想。流石にノーダメージとは行かなかった為、機材は僅かに損傷してしまった。イリスはその修理を手早く行なう。
「これは思った以上に厄介なのダー」
「脆い」
「‥‥流石に私も分かってますよ。これは改良の余地ありです‥‥」
レベッカと鏡夜の視線に小さくなるイリス。しかしそんな事を言っても今は仕方が無いので、次の獲物を探して移動する。
「こう考えるとアンサーも外に出る機会がほとんどありませんでしたからね」
運転しながら呟く恭也。車に揺られながらイリスは何かを思い返している様子だった。
思えばこの景色はあの場所に似ている。彼女が一人きりで暮らしたあの町に。
過去を懐かしむ、寂しげな横顔。それがきょとんと目を丸くしたのは窓の向こうに何か見えたからだ。
「何か今でっかいのがいたような‥‥」
『いたような、じゃなくていますよ。恐竜型です』
無線機越しに聞こえる九蔵の声に車を停める。正面の大通り、十字路を巨体が横切ろうとしているのが見える。
「漸く本命のお出ましなのダー!」
「え‥‥あれとやるんですか?」
レベッカと恐竜を交互にみやるイリス。その表情は険しい。
「あんなのに叩かれたら装置が‥‥」
ぷるぷるしている間に傭兵達を車を降りていく。恐竜はこちらに気付いたのか、雄叫びを上げながら向かってきた。
「大丈夫ですか!? 本当にあれ大丈夫ですか!?」
無表情に振り返り、サムズアップする鏡夜。ヘイルもやる気である。
大地を慣らしながら迫る恐竜。三人はそれを各々遠距離攻撃で迎撃する構え。特にヘイルは弓にて恐竜の目を狙う。
「迫力はあるが‥‥!」
良く狙い放たれた矢は恐竜の右目に突き刺さる。恐竜は怯んだが、それは一瞬、暴れながら続けて突撃して来る。
「アンサー、あたし達と一緒にイリスを手伝って欲しいダー」
アンサーシステムを一瞥し銃を構えるレベッカ。その隣に鏡夜が並ぶ。
「狙うとすれば、足」
「サポート効果のデータもあった方がいいだろう。力を合わせていくのダー」
レベッカは味方に練成強化を施す。更に鏡夜と共に恐竜の足を狙って攻撃を加える。
「こちらも足を狙います。動きがもたついたらどうぞ」
美汐と恭也も足を狙い遠距離から攻撃。傭兵達の徹底した狙いは功を奏し、恐竜は突撃途中で転倒する。
「なんか、大物倒すの慣れてませんか?」
「まあ、色々ありましたからね」
イリスの問いに苦笑する恭也。恐竜が倒れたのを見計らい走るヘイル。そのまま恐竜の頭に槍を突き刺した。
「畳み掛ける」
「銀、合わせるぞ!」
エネルギーガンを構えるレベッカ。その銃口に紋章が収束する。
鏡夜がエネルギー弾を放ると同時にレベッカも発射。倒れている恐竜に光が炸裂する。
恐竜は尾を振り回し、周囲を薙ぎ払うように暴れる。そうして立ち上がり、大きく口を開いた。
放たれたのは巨大な火球である。大きさ、火力、どちらを取っても三人が装備する測定器を破壊するのは容易だろう。
完全に炎を遮断する事が出来ない以上、三人がそれを回避したのは必然。しかしそのまま火球は後方のイリス達へ迫る。
「イリスさん、下がって!」
迫る炎に対し前に出る美汐。盾で火球を防ぐが、炎は爆ぜて周囲に燃え広がる。
それを更に恭也が盾を構えて防ぎに入る。拡散した炎は彼が展開した紋章に吸い込まれ、纏まった所を掻き消された。
「ここから先は進入禁止です。イリスさん、大丈夫でしたか?」
「今結構リアルな走馬灯が‥‥」
完全に膝が笑っているイリス。恐竜は再び襲いかかろうとするが、残った左目を九蔵の放ったペイント弾が直撃する。
「今なら奴は狙いが定まりません。一気にケリをつけましょう」
「賛成だ」
弓に持ち替え構えるヘイル。傭兵達は暴れる恐竜に遠距離から一斉攻撃を仕掛ける。
恐竜は悶え、闇雲な方向に攻撃を繰り出すがそれが傭兵達の脅威となる事はない。
「Sweet Dream――!」
九蔵の弾丸が止めとなり、恐竜は悲鳴を上げながら倒れる。ずしんと重い音が響き、傭兵達は武器を下ろすのであった。
「何だか来た時と比べてげっそりしてませんか?」
合流した九蔵は開口一番にそう言った。その視線の先、イリスは確かにやつれているように見える。
「死に掛けたのもありますが、いつ高価な機材が破壊されるかと思うと胃が‥‥」
イリスの頭を撫でて苦笑する美汐。あれから何度か戦闘を繰り返したが、その間ずっとイリスにしてみればハラハラドキドキの連続だったのだろう。
「ふう‥‥。データが欲しいなら、実戦形式で俺達がやり合うのでは駄目なのか?」
「だめです」
測定器から解放されたヘイルの言葉。イリスはジト目で唇を尖らせる。
「貴方達同士で戦わせたらどんな無茶をするか分かったものではありません。私の見積もりが甘かった。傭兵というのは無茶と無謀で出来ているのでしたね」
「まあまあ。そういえば、AI改良の候補に挙がってるって聞きましたよ。おめでとうございます」
背後からイリスを抱き締める美汐。イリスはずり落ちたメガネを直しながら頷く。
「この調子で、イリスさんの研究が認められる様に頑張りましょうね♪」
「アンサーと貴女の為になる事なら何でもするから」
腕を組み微笑む鏡夜。そういえばその胸が終始揺れていた気がするが‥‥。
「‥‥何故俺を見る」
「いえ、別に」
冷や汗を流すヘイル。イリスは美汐の腕から逃れ笑みを浮かべた。
「たまには用がなくても呼んでください。仕事を手伝うのは難しくても貴女の力になれるはずですから」
「ええ。頼りにさせてもらいますね」
イリスと笑いあう恭也。こうして傭兵達は引き上げの準備を済ませLHに帰る事になった。
「鏡夜、これは返しますね」
鏡夜にアンサーシステムを手渡すイリス。優しく微笑みながら鏡夜の手に自らの手を重ねる。
「大事にしてくれてありがとう」
「大切な物、だから」
頷き車に乗り込む鏡夜。空を見上げるイリス、その背後からヘイルが声を掛ける。
「近い内にフィロソフィアの研究所にもう一度行く必要があるのではないかな」
「あそこに、ですか」
「まだジンクスに関するデータが残っているかもしれないし‥‥アヤメの件もある。俺としてももう一度あそこには行く意味がある、と思うのだが」
「そうですね。あまりいい思い出のない場所ですが‥‥」
乾いた風がイリスの髪を撫でる。ぼんやりと遠くに思いを馳せるイリスの背中をヘイルは何も言わず見つめていた。
「何してるんですか? 置いて行きますよ」
九蔵の声で慌てて車に乗り込むイリス。ヘイルも同じ車に乗り込んだ。
こうして無事傭兵達はLHへと帰還した。その後、簡単な幾つかの測定時に関する質疑応答やデータ回収の作業を経て、依頼は完了となるのであった。