タイトル:【OF】ソラを射抜く光マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/19 17:33

●オープニング本文


 OF隊による強行偵察は、犠牲を出しながらも十分な成果を上げていた。
 迎撃衛星。その砲台の性能と、自己再性能。衛星を守護すべく存在する多大なワームとキメラからなる戦力。
 人類は、それら全てを打破する矛を必要としていた。その中核となるのが――ブリュンヒルデIIだ。同機体は、暫し改修作業の為に前線から離れていた。
 全ては、ソラへの足掛りを築くために。
 本来なら、宇宙用の戦力がより充実した時期に決行すべき作戦である。
 だが、北米から宇宙にあがったというギガワームの存在が決行を急がせた。看過すれば、軌道衛星迎撃網に加えギガワームが人類の頭上を押さえる事になるからだ。

 そうして今日、この日‥‥宇宙用の改修が施された同機を中心に、今回の作戦は設定された。

 軌道衛星を破壊するに当たり、障害が三つある。
 一つ、人類の動向に対応し高高度領域まで高度を下げてくる戦力。
 二つ、低軌道領域に存在する戦力。
 三つ、同要塞が保持する戦力。
 そのいずれも虎の子であるブリュンヒルデIIを十全に機能させるにあたり大きな障害であった。
 故に人類は、それぞれに対する矛を用意し、本作戦にあたる必要がある。
 どの段階でも、局地的な勝利を十全に約束されている訳ではない。
 危険は大きく、失敗は即ち、死に繋がる。
 それでも、本作戦の通達を受けたマウル・ロベル中佐はその任務を一分の恐れも見せる事無く受け入れた。



「――ですから、G5弾頭は見せ札にしつつ、ブリュンヒルデII自体がDレーザーの射程内にまで接近する必要があります」
 ブリーフィングの最中だというのに、まだ考え事をしている。こんな事はこれまで一度だって無かった。
 頭に入っているのか居ないのか、ディスプレイを背にしたアナートリィを見つめる男が一人。その思考にはまだ迷いと葛藤が横たわっている。
 シン・クドウ軍曹。先の作戦で強行偵察を行なったOF隊の数少ない生き残りの一人であった。
 必ず勝利をと息巻いて舞い上がった空の果て、敗北という現実に打ちのめされた。仲間を失い、今この席にいるのも彼一人である。
 酷い戦いだった。成果はあったが、それだけだ。それ以外の全てを代償に支払って、やっと得られた物。それが本当に、犠牲とつりあっていただろうか?
「僕達KV部隊の役目の一つは、この敵への対応です。ブリュンヒルデIIを守りながら、回避する空間、あるいは余力を作る事が求められます。そして――」
 ふと、顔を上げる。ブリーフィングは気付けば随分進んでいた。そして‥‥。
「あの衛星を、直接妨害する部隊も、募ります。状況次第ですが、KVが先行する事が可能であれば、あの衛星の射撃能を阻害する事で、一時的にブリュンヒルデが近づく時間を稼ぐ事が出来る筈です」
 一瞬思考が止まった。アナートリィは希望者を募っている。そう認識した瞬間、思わず手を挙げていた。
 一番驚いたのはシン本人だ。何故? どうして? この面子で? この場所で? 様々な思考が脳裏を過ぎる、が。
「自分にやらせて下さい」
 言葉は驚くほどはっきりと、真っ直ぐに突き抜けた。
「一度はあれに敗北しました。仲間も殺されました。自分は‥‥せめて自分だけは、あれに挑む義務がある。その責任があります」
 思いがけず立ち上がり、らしくない程前のめりに語る自分に漸く自覚する。
 要するに、納得行ってないんだろ? 負けっぱなしが嫌なんだろ? 仲間の仇を討ちたいんだろ? だからここにいるんだろ?
 OF隊だとか階級だとか実力だとかそんな事は関係ない。ここで立たなければ、これから一生自分を許せないままなんだろ?
 やっと気付いた。だからその横顔は晴れやかで自信に満ちている。迷わず進もうと誓った。それが、オービタル・ファインダーズなのだから――。



「‥‥お前も、独りぼっちになっちまったな」
 格納庫の隅に並んだ愛機を見上げ、優しい声で語りかけてみる。
 OF隊に入った時は全て覚悟していたつもりだったのに、失って気付いた。
 付き合いは短かった。気の合わない時もあった。思想も別々の方向を向いていて、足並みなんか揃わない。
 それでも彼らは誇りを持っていた。夢を持っていた。固い信念を持っていた。
「俺にはそれがなかった。そんな俺だけが生き残るなんて、バカげてるよな」
 一度は諦めた。もう駄目だと思った。けれども諦めてないバカがまだ一人、ソラを見上げているから。
 OF第二隊もう一人の生き残り、リェン・ファフォ。片足を失い、生死の境を彷徨った彼女は、一人病院でリハビリを続けている。
 身体に包帯、目には眼帯。歩くのに松葉杖が必要で、満足に普通の生活を送る事だって難しい。それなのにリェンはまだ諦めていない。
 見舞いに行ったつもりが、結局陰に隠れてリハビリを眺めていた。今の自分には見舞いに行く権利もないと思った。
「なあ、相棒。俺の棺桶よ。最初はわけのわからんでっちあげの宇宙機だと思ってたけど、リヴァティーやらラスヴィエートやらは俺には合わないみたいだ」
 丁寧にメンテナンスを施された天の装甲に片手を触れる。一度は傷だらけになって落ちたこの翼で、もう一度ソラに挑む。
「一緒に叩き落そうぜ。そしてリェンに言ってやろう。お前をボコボコにした敵は、俺達がぶっ潰してやったぜ‥‥ってな」
 仲間達の姿を心に思い描き、踵を返す。
 今度こそ、絶対に負けない。この命と引き換えにしても、勝利を掴んでみせる。
「‥‥行こう。俺達が、オービタル・ファインダーズだ」
 閉ざされたソラを射抜く決戦が今、始まろうとしていた――。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

『UK1、指定ポイントに到着。これより各機の打ち上げ作業に入ります』
 雲を突き抜け高高度領域を進むUK1。傭兵達は各々機体の最終チェックに入る。
「いよいよ‥‥か」
 コックピットで静かに目を瞑るウラキ(gb4922)。新たな愛機、Ecdysisのシートはまだ素材の匂いを残している。
 長い地上での戦いで機体は進化した。それは今、彼を新たな戦場へ誘おうとしている。
「全く‥‥まるでアニメだな」
 紫藤 文(ga9763)の声に顔を上げるウラキ。文はカウントダウンを刻む声と共に頭上に思いを馳せる。
 S−02のシートはS−01から通じる物を感じる。操縦桿を握っては放し、感慨深く目を細めた。
「軍曹‥‥色々あったって話は聞きました。OF第二隊は‥‥大尉も」
 傭兵達に続き出撃する予定のシンに語りかける石田 陽兵(gb5628)。その脳裏に先の戦いが過ぎる。
「でも、軍曹は戦闘に私情を挟むような人ではないはず。死に急ぐような事は決してしないで下さい」
「ああ。俺もそのつもりだ」
 その声には意外と余裕が感じられた。御鑑 藍(gc1485)は頷き、優しく語り掛ける。
「シンさん‥‥前回の帰還支援の時以来‥‥ですね」
「その節は世話になったな」
「宇宙へ出れるようになったら‥‥シンさんが、リェンさんを連れて行ってあげましょう‥‥ね? だから‥‥」
 必ず戻ろう。それは全員が通じて胸に抱く想いでもある。
「結局演習を共にした連中でここに並べたのはきみ一人になっちまったな」
 コンソールを操作しつつ呟く地堂球基(ga1094)。あの日共に夢を見た彼らの姿はもうここにはない。
「それでもこうして一緒にやれるんだ。頑張ろうぜ、オービタル・ファインダーズ」
 サムズアップと共に微笑む球基。いよいよ出撃の時が迫ってきた。
「宇宙での初陣‥‥行くよ、天雷」
 空を仰ぐ張 天莉(gc3344)。傭兵達の機体は大型のブースターを装備しカタパルトに並ぶ。
『作戦開始。ブリュンヒルデIIに先行し、敵軌道衛星攻撃を開始します。各機、武運を祈ります』
「了解した。リヴァル・クロウ、電影――発進する」
 青い空へ舞い上がる翼。白煙を巻き上げながらリヴァル・クロウ(gb2337)のシュテルン・Gが飛翔する。
 次々に軌跡を描き傭兵達は空へ。そしてその淡い蒼と闇との境界を虚空の戦場へと突き進んでいく。
 外付けのブースターを切り離し、漆黒の世界へと沈み行く。遠く遠く、仲間達の戦争は既に始まっている。
「これが宇宙‥‥見渡す限りの黒い世界」
 進んでいるような、止まっているような。翼は闇を漕いで自由なのに、どこか寒々しい。
「少し、怖いです。綺麗な白い景色にならないのでしょうか?」
「これはこれで趣があるんだよ」
 ミルヒ(gc7084)の声に球基は笑う。闇はただ黒ではなく、星の瞬きをちりばめている。
「さてと‥‥。正面に熱源多数。そろそろお目見えだな」
 文の声の直後、闇の中に光の波が走る。
 それは闇に沈んで光を弾く迷彩のカーテン。突如出現した巨大な衛星、それは最初からそこにあった。
「なんて大きさだ‥‥」
「この圧迫感‥‥私達の空を抑えている。急ぎ過ぎでも‥‥解放されたかったのでしょう」
 全長約3kmの要塞は無数のキメラやHMを吐き出し、その全身から火砲による迎撃を開始する。
 その様は闇に咲く華。近づく全てを棘に絡め取ろうと強い悪意で傭兵達を出迎える。
「気をつけろ、見ての通りの化物だ」
 追いついてきた後続の軍人達の中シンが加速しながら声をかける。文はその様子を一瞥する。
「ま、上手くやろうか。合流して奴を叩くぞ。弾や燃料残して落ちんなよ、煩いヤツらに叩きつけてやれ」
 S−02とラスヴィエートの編隊が合流し、傭兵達と共に衛星へ進む。
「状況を開始する。――paybacktimeだ」
 リヴァルの声、それに弾かれるように無数のKVが攻撃を開始する。
「――天雷、先行します!」
「役に立てるようにがんばります」
「さて行きますかね。背中は預けるよ」
 リヴァルに続き天莉、ミルヒ、球基がブーストを使用し加速。一気に衛星へと突き進む。
「‥‥先ずは周囲の敵を‥‥一掃します」
「了解。出鼻を挫かせて貰おうか」
 藍の機体に球基、ミルヒが並ぶ。三機は同時に複数の敵をマルチロック、ミサイルを放出する。
 同時発射されたミサイルの数、750発。文字通り弾幕と化したミサイルは次々に爆ぜ、闇に夥しい数の火を灯した。
「出し惜しみは、しません」
 ミルヒは二基のK−02小型ホーミングミサイルを惜しげもなく掃射。目に付く敵片っ端から攻撃し、煙幕弾を射出する。
「少しは白くなりましたね」
 その煙を突き抜けるリヴァルと天莉。周囲で炸裂しまくるミサイルの光と衛星が放つプロトン砲で混沌とした闇を進む。
「コレが宇宙での挙動、ですか‥‥うわっ!」
 横一線の帯となって迫るフェザー砲の光に弾かれる天莉。何とか機体を制御しつつ人型に変形、レーザーガンを構える。
「慣らす時間はありませんか‥‥!」
 簡易ブーストで小刻みに機体を移動させつつキメラと交戦する天莉。リヴァルは衛星を取り巻く敵と戦いつつ巨影を睨んだ。
「ブリュンヒルデ、聞こえるか! これから衛星の火力を潰す! 突入ルートは指示に従ってくれ!」
 通信機に叫ぶ文。先行した傭兵達の戦いを後方から眺めつつ、火砲の位置を確認する。
「クドウ軍曹、砲台を潰すぞ。行けるか?」
「勿論だ。借りを返させて貰う」
 軍人の部隊と共に前進する文。それにウラキも続く。
「そう長くは戦えない‥‥短期戦、いや‥‥」
 先の大量のミサイルで開かれた道を突き抜け、衛星を見つめる。
「――長い百秒になるか」
 ガトリングでキメラを撃ち落しながら前へ。衛星に接近し、搭載機の発着口へドリルミサイルを発射する。
 照準最適化機能で丁寧に狙った一撃はハッチに食い込み爆発。発進しようとしていたHWを巻き込み崩れていった。
「ここで、大尉が死んだ‥‥でも!」
 ラージフレアを展開し衛星に接近する陽兵のリヴァティー。キメラやHWをやり過ごし、衛星にミサイルを放つ。
「雑魚に用はない――どけよ!」
 無数の軌跡は衛星に次々に着弾する。それは具体的な目標を狙った攻撃ではなく、敵の気をひきつける為の牽制であった。
「まだだ! ありったけ撃ち込んでやる!」
 次々にミサイルを撃ち込む陽兵。自分を打ち負かした彼を殺したこの要塞はどれだけ攻撃を加えてもびくともしない。それでも陽兵は諦めていなかった。
 生きて帰る。まだ死ねない。死者を追う事が出来ないなら、超えるしかないのだ。代わりにこの怪物を。しかし‥‥。
「こいつ‥‥ダメージを回復してるのか」
 ミサイルが着弾し傷ついた地点がゆっくりと再生している事に気付く。
「問題はない。衛星自体は修復しているが、装備は別だ」
「衛星の一部だけでも確実に無力化する‥‥それが私達の仕事です!」
 リヴァルに続き声を上げる天莉。そう、彼らの役割は道を切り開く事。これを沈める事ではない。
「皆さんは砲台破壊に専念してください」
「雑魚はこっちで引き受けるからさ」
 人型に変形しマルコキアスを構えるミルヒの天。その周辺を球基の天が舞う。ミサイルでキメラを薙ぎ払うと友軍機が一斉に要塞を攻撃する。
 シン機と共に敵の迎撃を抜ける文。乱波を放ち、迫るミサイルを群れに機体を捻る。
 複数のスラスターできりもみ状に回転し、小刻みにミサイルを突破し砲台にロケット弾を撃ち込む。しかしその背後では友軍機が撃墜されていく。善戦はしているが、迎撃の激しさは並ではない。
「――何だ、あれは? クドウ軍曹!」
 衛星の正面に迫り出した大型の砲台に文が叫ぶ。頭上で砲台を攻撃していたシンはそれを認め声を上げた。
「大型のプロトン砲‥‥あれは!」
 放たれた閃光は後続の友軍機を薙ぎ払い闇の中に光の線を引く。遅れ、複数の爆発。傭兵達は直ぐに立て直し攻撃を続ける。
「ウラキ、狙えるか?」
「あの大きさだ。狙えません、とは言えないね」
 リヴァルの声に機体を人型へ変形させつつウラキは応じる。榴弾砲を構え、発射直後で放熱中のプロトン砲を狙う。
 しかし変形して砲を構えるウラキの機体に敵が群がる。ウラキはディフェンダーを構え攻撃を防御、そこへ藍のシラヌイが接近、HWを背後からレーザーライフルで攻撃する。
「すまない、助かったよ」
 改めて流弾を構えるウラキ。放たれた砲弾はプロトン砲を捉え、次々に爆発を起こす。続けウラキは友軍が纏めた敵機へ砲撃を開始。弱った敵を次々に駆逐して行く。
「アシストが良い‥‥狙い易かった」
「ナイススキル、いい腕だ。敵の大型砲はまだ二つ残ってる張さん、頼めるか?」
 文の声に背後にマウントしていた対艦荷電粒子砲を手に取る天莉。別の位置にある大型砲を狙う。
「分りました。あれさえ破壊してしまえば、少しは――」
 そこへ接近するキメラ。藍はそれを真上からレーザーライフルで撃ち抜いて行く。そのままカートリッジを放出し人型に変形、機剣でキメラを両断する。
「周りの敵は‥‥任せて下さい」
 飛び込んでくるキメラを次々に薙ぎ払う藍の声。天莉は改めて狙いを定める。
「では‥‥天の雷をお見舞いしてあげましょう」
 放たれた閃光は砲台に直撃、爆発する。そのままでもう一つの大型砲も破壊し、更に荷電粒子砲を連射。
「いっけーーーーっ!!」
 破壊され吹き飛ぶ衛星の装甲。その残骸を突き抜け人型に変形したリヴァル機が迫る。
「OF第二隊のシン・クドウと言ったか」
 そんなリヴァルの後方、人型に変形したシンの天が周囲の砲台をガトリングで攻撃する。
「あんたはあの時の‥‥」
「ああ。救出の際、何故そこまでと君は聞いたな。答えは簡単である」
 赤熱した敵装甲の穴に着地し、リヴァルは機体の片腕を振り上げる。
「あの時の君は、昔の俺と同じだった」
 もしも普通の人間に世界を変える方法があるとしたら、それは眼前の悲劇に一つ一つ挑むという事。
 悲劇に納得しない。未来を信じて立ち向かう者にのみ、運命の女神は微笑む。
 衛星の装甲に腕を突き刺し、直接内側に武器を捻じ込んでの放電。続け壁を蹴り離脱、アサルトライフルで追撃する。
「俺だってそうだ。俺も何一つ、諦めてなんかいない!」
 グレネード弾を撃ち込み、砲台を刀で斬り付け変形。シンもリヴァルと共に衛星から距離を取る。
「十分だな、戻ってくれ。後はブリュンヒルデに任せよう」
 文の声で離脱を開始する各機。それを衛星からの追撃が襲う。
「そろそろ潮時のようですね‥‥皆さん、今の内に離脱を!」
 人型形態のまま立ち止まり敵の迎撃を防ぐ天莉。次々に味方が追い抜いていく中、球基と陽兵が足を止めた。
「手を貸そう」
「錬力は温存してあるからね!」
 三機は追撃してくるキメラはHWを迎撃。衛星からの攻撃は砲台の破壊が効いているのか、激しさは大分和らいでいる。
「無理はするなよ。アレがまだ残ってる」
 彼方に見えるバグアの本星を指差し文が語る。こうして撤退する傭兵達の視界、衛星へ向かうブリュンヒルデの姿が見えた。
 撤退する傭兵達に射線上から退くようにとの通信が入る。ブリュンヒルデは周囲を取り巻く敵と交戦しつつ、Dレーザー発射体勢に入る。
 遠く、ブリュンヒルデが光を放つ。その本流は闇に浮かぶ衛星を鋭く貫いた。続け、接近したブリュンヒルデはG5弾頭による攻撃を開始する。
 驚異的な破壊力で衛星を撃破したブリュンヒルデIIはゆっくりと宇宙を進み、撤退する傭兵達と擦れ違った。
「凄い‥‥あれを一撃で‥‥」
 唖然とする陽兵。残った敵も帰る場所を失い、明らかな混乱と共に引いていく。傭兵達は各々の思いを胸に衛星の散る様を見届けた。と、その時。
「‥‥ふっ、ふふふ。あははは!」
 突然聞こえて来た笑い声に目を向ける。声の主はシン・クドウだ。
「人類をナメるからそうなる。全く、ざまーみろ、だ!」
 まるで子供のようにそう叫んだ後も堰を切ったかのようにシンは笑い続けていた。何と無く、緊張していた空気もほどけてしまう。
「やったんですね、私達」
「そうだな‥‥」
 ミルヒの声に微笑む球基。深く息を吐き、遥かな宇宙に思いを馳せた。
「これが始まりなんだ。諦める事をしなかった人類が掴んだ、漸くの始まり。反撃の、狼煙だ」
 明るく、力強くそう語るシン。その声をウラキは複雑な表情で聞く。
「シン・クドウ‥‥か」
 真っ直ぐなその言葉に目を瞑る。それは彼の胸中で燻っていた疑念にどう響いただろうか。
「軍曹、そんなに無駄に飛びまわると錬力切れますよ! ただでさえギリギリなんだから!」
 シンに声をかけつつ陽兵も一つの区切りを感じていた。これで決着の代わりと呼べるだろうか。
「‥‥帰りましょう。これで少しは‥‥空の憂いも晴れるでしょうから」
 背後を顧みながら微笑む藍。その後を追い傭兵達は地球へと帰還する。彼らが帰るべき、それぞれの場所へと‥‥。
 闇の中、酒瓶が舞う。最後に残った文は停止した闇を漂う機体のハッチを開き、黙祷を捧げる。
「ゆっくり休んでてな。後はまぁ、なんとかするからさ」
 この寒くて暗い海に散っていった幾つもの命に祈る。
 遠ざかる文のリヴァティー。ただよう酒瓶は太陽の光を弾き、きらきらと輝いていた。
 この日、人類は封鎖衛星の一つを破り、宇宙における勝利を収めた。彼らは未開の領域にて人類の力を証明したのだ。
 それはきっとこの世界の流れを加速させ、未来へと進ませる事だろう。
 人類の反撃は、まだ始まったばかりである――。



 作戦の数日後。とある軍病院の廊下を歩くシン・クドウの姿があった。