タイトル:誰が為の刃マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/19 09:33

●オープニング本文


●覚悟
「‥‥意外だった。またお前と一緒になるとはな」
 ネストリングの事務所で肩を並べる九頭竜 斬子にマクシム・グレークは視線を向ける。
 いつものドレスの上に銀色の鎧を纏い、戦斧を肩に乗せながら斬子は鋭い視線を返した。
「何ですの? わたくしがもう戦えないとでも?」
「その通りだが‥‥気合だけは十分のようだな」
 斬子は先日装備を一式新調し、ファイターからエースアサルトへ転職を済ませてきた。それで人格まで変化するわけではないが、横顔からは覚悟を感じ取る事が出来る。
「色々あって、わたくしも考えましたの」
 鋼を纏う拳を握り締める。能力者になってからはいつもがむしゃらで、余計な事を考えている暇なんてなかった。
 けれど少しだけ足を止めて思い返してみれば答えはシンプルだ。自分が何故傭兵になったのか。何故ここにいるのか。
「わたくしは我侭でしたわ」
 家族への――姉への反発で傭兵になった。
 認められる為だけに無茶をして、そんな時にあの子に出会った。
 初めてのライバルは始めての友達になった。
 これと言ってやりたい事なんてなかった。志が低ければ当然、その刃の重みは変わってくる。
「正しくなくてもいい。例え悪と呼ばれようとも構わない。それでもわたくしには守りたい物がありますの」
 手を汚さずに掴める物なんてない。あったとしても、何の意味がある?
「形振り構っている時点で甘えですわ。だから何とだって戦うし、何にだって勝つ。そんな答えで如何?」
「別に俺はお前の決意表明なんて興味ないんだがな」
「あらそうかしら? 随分気にしているようでしたけど」
 悪戯っぽく笑う斬子から視線を逸らしマクシムは鼻を鳴らした。そこで新聞を読んでいたブラッド・ルイスが顔をあげる。
「では話も纏まった所で、二人とも準備は宜しいですか?」
「ええ。さあ、あの子にやらせる予定の仕事、片っ端からわたくしに寄越しなさい」
 ちらりと見やる少女の瞳は以前とは違う。ブレていた紳が通ったような、真っ直ぐな眼差しだ。
「良いでしょう。それでは恒例の親バグア狩りと行きましょうか」
「前から思ってたんですけど、貴方‥‥やけに親バグア組織に詳しくありません事?」
「色々な依頼の仲介やってますし、自らも情報収集に勤しんでいますからねぇ」
 本当にそれだけ――? 口から出かけた言葉を少女は飲み込む。
 何だっていい。やるべき事をやるだけだ。この男がもしも敵ならば――その時は両断すれば良いだけの事。
「今回は九頭竜さんを中心にチームを組んでもらいます。貴女方がオフェンス。マクシムは彼女らの討ち漏らしを始末して下さい」
「‥‥単独行動は望む所だ」
「ま、今回も一方的な戦闘になるでしょうから、気楽に行ってきてください」
 と言われても、これまで一方的な戦闘だけで済んだ記憶がない。複雑な表情を浮かべ、斬子は溜息を一つ。
「了解ですわ」
 文句も泣き言も封印しよう。逃げ癖を直し、一歩踏み込む力は決意と勇気に他ならない。
 逃げていても仕方ない。誰より自分が一番楽しくない。傷つかない為に逃げない。それが少女が得た、尊重すべき一つの答えであった。

●『供給源』
「おらゴミクズ共、装備持ってきてやったぞ感謝しろ」
 両手に提げた大型のトランクを放り投げ長身の男がニヤリと笑う。そうして彼は椅子に腰掛け煙草に手を伸ばした。
「残りは表のトラックの中だ。勝手に下ろしな」
 虫でも追い払うように振った手首でじゃらじゃらとアクセサリが音を鳴らす。男はその手で通信機を取り出す。
「こちら灰原、哀れな子羊ちゃん達に無事エサをお渡ししましたよっと」
『‥‥そうか。ではお前ははそのまま待機。指示があるまで彼らの護衛につけとの事だ』
 聞こえてきたのは老人の声だ。男はあからさまに不満そうな表情を浮かべ、サングラスを外す。
「そいつぁ上手くねえな、話が違う。『供給源』がそう言ってんのか?」
『ここ最近、彼が武器を送っている組織が次々に潰されている。彼は同じ事になるのではないかと危惧している』
「今更かよ‥‥。ま、あいつは頭おかしいからなぁ。つーかバカ? 俺ならもっと早く動いてるね」
『彼はまだこの仕事の知識に乏しい。彼は否定しているが、恐らく内通者でもいるのだろう』
「俺は知らんけどな。で、幾ら出す?」
『言い値で構わん。後で好きなだけ請求しろ』
 上機嫌に口笛を吹き男は立ち上がる。指先で通信機を回し、それからポケットへと収めた。
「完全にバカだな、商売ってもんを分ってねぇ。ま、俺としてはいいカモだけど」
「お、おい! 何だこの銃は!」
 と、そこで運んできた武器を手に数人の男達が駆け寄ってくる。
「普通の銃じゃないか! こんなので能力者が倒せるか!」
「あ?」
「能力者に襲われたらどうする‥‥? 俺達じゃ太刀打ちなんて‥‥」
「じゃあ死ねばいんじゃねぇ?」
 あっけらかんとした言葉に息を呑む男達。灰原と名乗った男はサングラスを手に笑う。
「勘違いすんなよ。お前らなんかいっくら死んでもいいの。お前らはゴミ! 他に行くアテも帰る場所もないゴミでぇ〜す!」
 そうして男の一人の胸倉を掴み突き飛ばす。男は凄まじい勢いで吹き飛び、壁に激突して倒れた。
「そんな吹けば飛ぶようなお前らでも戦い方を工夫すりゃ、能力者相手にも時間稼ぎくらいは出来らぁな。良かったな〜、今日の俺は機嫌がいい。戦い方をレクチャーしてやるよ」
 白い歯を見せ笑う男。その言葉に誰も逆らえず、言われるがまま彼らは銃を取った。

●参加者一覧

米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●定石
 夜明け前の暗闇の中、傭兵達は街の入り口に身を潜めていた。
「斬子さん、吹っ切れたみたいですね」
 横顔を眺めながら呟く張 天莉(gc3344)。それにティナ・アブソリュート(gc4189)が頷いた。
「決意に満ちた目‥‥答えは出たようですね」
「一人で抱え込まないか、ちょっと心配ですが‥‥」
 以前の様子を思えば当然の危惧である。ティナは腕を組み、眉を潜める。相変わらず依頼は胡散臭く、ブラッドの狙いは読めない。
「斬子さんたちの命を狙ってなら回りくど過ぎますし、もっと有効な手もある筈‥‥」
「物騒な憶測だな」
 いつの間にか隣に並んだマクシムがぼそりと言う。大男は斬子を複雑な様子で見つめている。
「余計な事を考えすぎない事だ」
 そんなマクシムを見やる犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)。斬子と交互に眺め、壁を背に仲間達とは少し離れた場所に立つ。そんな犬彦にレインウォーカー(gc2524)が歩み寄る。
「前にもこの組み合わせだったなぁ。よろしく頼むよぉ」
「そういえばそうですね。宜しくお願いしますね、道化さん、犬彦さん」
 二人の挨拶に適当に返す犬彦。その頃セラ(gc2672)は斬子と共に街の様子を観察していた。
「まったく。子供を戦場に出すとは、世も末だね」
「リ、リアクションに困りますわね‥‥」
 肩を竦めるセラ。今回は刺激が強いという理由で最初からアイリスに人格交代済みである。
「ともあれ同じ班だ。米本さん、斬子さん、よろしく頼むよ」
 頷き挨拶を返す米本 剛(gb0843)。しかしその表情は浮かない様子だ。
「それにしても疑わしい依頼です。いえ‥‥疑わしすぎる、と言いますかな」
 首を傾げるアイリス。斬子は彼の言葉を理解したのか、唇を指で撫でる。
「警戒は必要だけれど、考えすぎても仕方ありませんわ」
 と、そこに歩み寄る楊 雪花(gc7252)。斬子の顔を覗き込み、握手を求める。
「初めましてくず子サン、ワタシ楊 雪花と言うネ」
 微妙な間。
「‥‥くず子ではなく、九頭竜 斬子ですわ。どこで聞いたんですのそれ」
「ふむふむ九頭竜 斬子が本名カ。日本人の名前難しいヨー」
 斬子の手を取り上下に振る雪花。斬子は目が笑っていない。
 そんな僅かなやりとりと準備を終えた頃、堺・清四郎(gb3564)が先頭に立ち仲間達を呼ぶ。
「そろそろ行くぞ。くれぐれも慎重に、な」
 傭兵達は予定通り三つの班に別れ、それぞれが敵を探し薄暗闇に包まれた街を進み始めるのであった。

●罠
「歩哨か。こんな時間にご苦労な事だね」
 C班、地に手を着き周囲の様子を探るアイリスは敵を捉え立ち上がる。
「九頭竜さん、宜しいですね?」
「ええ。もう逃げませんわ」
 剛の問いに力強く頷く斬子。アイリスはその横顔に笑いかける。
「強く高潔なだけじゃなく。弱く潔癖な事も大事だ‥‥。人殺しが怖いと思った自分、大事にしたまえ」
 頷く斬子。三人は武器を手に路地を走る。
「さて、殲滅を‥‥いや、殺戮を始めようか。淑女的にね」


 曲がり角で出くわした敵が反応するより早く、清四郎の刃は影を両断する。
 倒れた死体を見ると確かに銃を持ってはいるが、この程度で能力者がどうこう出来るとは思えない。
「素人に毛が生えた程度の連中が能力者に挑むとはな‥‥」
「何とも気の滅入る話ヨ。けど任務ということならやるしかないネ」
 肩に担いだ剣を軽く掲げ、雪花は進んでいく。
「でも、豚を解体するときよりは楽ネ」
 悲しげに俯く天莉。それから顔を上げ二人に続く。
「せめて、一瞬で意識を飛ばしてあげましょう」
 その時、路地から出てきた敵と目が合った。敵はすぐさま来た道を引き返していく。
「あら、逃げたネ」
「こいつらを囮にして本命の強化人間が我々を各個撃破する作戦か?」
 構えた銃を下ろしながら呟く清四郎。頭を振り、敵の後を追う。
「追うぞ。油断は禁物、慎重にな」


「どこかに拠点があると思いますが‥‥ツェルベルスさん、見つかりませんか?」
 歩きながら通信機に語りかけるティナ。何とも気の抜けた返事が帰って来る。
『なんだ、それは?』
「マクシムさんのコールサインです♪」
 振り返り、ネクタイを締め直しながら咳払いする犬彦。特に誰も気にしなかった。
「逃げる敵を倒すのは簡単なんだけどねぇ」
 会敵するや否や逃げ出した敵を撃ち殺し死体を片手に戻ってくるレインウォーカー。
 先程から何度か敵に遭遇しては倒しているが、拠点らしき場所は見つからない。
「とりあえず拠点を‥‥道化さん!」
 ティナの声で咄嗟に敵の死体を構えるレインウォーカー。そこへ複数の弾丸が着弾する。
 物陰に隠れるティナ。犬彦は槍を片手で振り回すようにして弾丸を弾き視線を巡らせる。
「逃げたか‥‥時間稼ぎの小細工だな」
『狙撃手にはこちらで対応してみる』
 マクシムの声が聞こえた直後、どこからか派手な爆発音が聞こえて来た。



「二人ともご無事ですか?」
「ああ、大した事は‥‥ん?」
 狭い裏路地に入った所で手榴弾を投げつけられた剛とアイリス。それを防いだ直後、更に足元に何かが転がってくる。
 直後、閃光と共に激しい音が鳴り響く。更に煙が周囲に立ち込め、涙が止まらなくなった。
「げほ、ごほ! な‥‥なんですの!?」
「スタングレネードと催涙弾‥‥と言った所かな」
 続け、マシンガンによる銃撃。ろくなダメージにはならないが完全に足が止まったこの状況は好ましくない。
「ここは自分が‥‥!」
 目を瞑ったまま狭い通路を駆ける剛。銃弾を物ともせず敵集団に体当たり気味に突っ込んだ。
 敵は逃げていったがセラと斬子も煙から脱出。堰をしながら呼吸を整えた。
「足元をすくう程度の罠だが‥‥効果的だ。気を付け給えよ」
 目尻の涙を拭いながら呟くセラ。剛は通信機を手に眉を潜めている。
「敵の装備について連絡しようと思ったのですが‥‥」



「駄目ですね、通じません!」
 敵の機関銃による銃撃を傘で受けながら声を上げる天莉。盾を構えたまま前進すると、敵は手榴弾を投げてくる。
 爆発を盾で防ぐ天莉。既に逃げ始めていた背中に清四郎と雪花が斬りつける。
「いったい連中は何をするつもりだ? やはり各個撃破が狙いなのか‥‥」
「ご明察。大体そんなトコだよ」
 声は上から聞こえた。ビルの窓から手を振っていた男は一息に飛び降り、三人の前に立ち塞がる。
「リップス達ではない‥‥誰です!?」
「気にすんなよぼうや。どうせすぐ何も考えらんなくならぁ」
 構える三人。白スーツの男は不気味に笑い、二対の奇妙な形状の短剣を手に駆け出した。

●白蛇
「こんな事なら連絡が途絶した場合の行動を決めておくべきでしたね‥‥」
 大型のオフィスビル前に潜みつつティナが呟く。敵を追い拠点らしき場所にやってきたが、誘い出された感が否めない。
「ま、この程度のイレギュラーは慣れっこだけどねぇ。さて、どうする?」
「罠の可能性がありますし、迂闊に建物に入り込むのは‥‥」
「ここでじっとしていても敵は逃げると思うがな」
 犬彦の言葉に焦りが募る。仲間を呼びにいくべきか、踏み込むべきか。迷った挙句、依頼の目的を果たす為三人は進む事にした。
 敵の死体を盾に正面から突っ込み、敵を撃ち殺すレインウォーカー。三人がビルに入った直後、複数の手榴弾が投げられる。
 連続した爆発で盾にしていた死体は吹き飛んだ。敵はそのまま奥へと逃げていく。
「味方を吹っ飛ばして全く動揺なし。冷静なのか、それともボクらよりもっと怖い奴でもいるかなぁ?」
 敵を追い走るレインウォーカー。奥の通路へと踏み込んだ瞬間、ちらほら設置物が見えた。
「クレイモア地雷!?」
 吹っ飛んで戻ってくるレインウォーカーに駆け寄るティナ。傷は大した事ないが、周囲の壁に夥しい量の鉄球が減り込んでいる。
「大丈夫か?」
「大した事はないねぇ。でもまだこれがあるとすると厄介かぁ」
 犬彦の手を借り立ち上がり男は溜息を一つ。敵の姿はもうどこにも見えなかった。



 白スーツの男は一瞬で背後に回り混み天莉を襲う。舞うように繰り出される刃を盾で防ぐと、雪花が男へ斬りかかる。
 攻撃は空振りに終わった。男は跳躍し、ビルの壁を蹴って回転しながら天莉を斬り付ける。怯んだ天莉を背後から組み伏せ、首筋に刃を当てた。
「面倒な用心棒ネ」
「動くなよー? 動いたらこの綺麗なガキの首がちょん斬れるぜぇ?」
「貴方は一体‥‥!?」
 男は低く笑い、刃を押し付けながら囁く。
「お前、『姉妹』の知り合いか。ツメが甘いんだよなあいつらは」
「やはり、仲間なんですか?」
「そんないいもんじゃねえよ勘違いすんな? 俺はただ、あいつらを調教しただけだ」
 男を睨む天莉。そこにあったのは狂気を孕んだ瞳だ。
「ただのその辺のガキだったにしちゃ上出来だろ? 酸素消費するだけのゴミクズを使えるようにしてやったんだ。なんつーんだ? リサイクル?」
「貴方は‥‥っ」
 と口を開いた次の瞬間、首を引き裂かれ倒れる天莉。血の海に沈む身体を踏みながら男は呟く。
「勝手に喋んなよ」
 すぐさま襲い掛かる清四郎。繰り出される鋭い斬撃を男は軽く身をよじり回避する。
「遅すぎんだよォ!」
「‥‥舐めるなぁ!」
 連続して放つ攻撃を男は刃でいなす。更に雪花が斬りかかるが、左右の刃で二人の攻撃を交互に男は防ぐ。
「く‥‥!」
「下がれ雪花!」
 刃を構え、刃で地を削りながら清四郎は低く斬りこむ。
「我が一撃は、誇り也!」
 強烈な一撃、しかし視界に男は居ない。気付けば背を斬られ、清四郎は片膝を着く。
「おっ、しぶといな。ま、そろそろ動けなくなる頃だ。てめえの誇りって奴がどこまで持つか楽しみだなぁ? ん?」
 震える切っ先。清四郎は身体の痺れに気づく。何らかの毒――男は笑いながら再び清四郎に襲い掛かった。



「待ってくれ! 降参する、殺さないでくれ!」
 数々のトラップを乗り切りビルのとあるフロアに乗り込んだ三人。突入した物の、そこには両手を挙げた男が数名いるだけであった。
「武器を手にした相手にバグアも人間もないが‥‥」
 武器を持たない事を確認し銃を降ろす犬彦。男は跪いて泣き出した。
「殺さないでくれ、家族がいるんだ‥‥」
「この組織はどうなってるのかねぇ。何でおまえ達はこんな事をしたんだい?」
 肩を竦めるレインウォーカー。男は泣きながら頭を抱える。
「したくてしてるわけないだろ、でも他に生きていく方法がないんだ!」
「バグア支配下や捕まった奴はこうするしか‥‥」
 死にたくないとすすり泣く大の大人を前に三人は顔を見合わせる。何か情報を得られるかもしれないと、レインウォーカーは男達に歩み寄った。



「全然倒れねーな、お前‥‥」
 雪花を守るように刃を構える清四郎。何度も切り付けられ毒にも犯されたが、それでも彼は立ち続けていた。
 白スーツの男が苛立たしげに前に出たその時、側面より衝撃波が飛来する。飛び退く男との間に割り込んだのはC班の三人であった。
「駆けつけるのが遅くなって申し訳ない」
「敵の口を割らせるのに手間取ってしまってね」
 仲間を守るように構える剛とアイリス。彼らは倒した敵の命を救う代わりに作戦の概要を聞き出したのだ。その後仲間と合流するのが先決と判断し駆けつけた次第である。
「聞きましたわ。貴方、バグア占領下の人間を親バグアに仕立て上げて‥‥!」
「人間の命も貴重な資源だ。商売に使って何が悪い?」
 大斧を構え睨む斬子。白スーツの男は肩を竦め背後に跳ぶ。
「逃がしませんぞ!」
 叫ぶ剛。男は肩を竦め失笑を浮かべる。
「うるせーよ逃げるっつの。給料分は働いたしな、捕まるくらいなら証拠は隠滅するに限るってな」
 スイッチを押した瞬間、各地で爆発が起こった。意味が分らない一同に男は笑う。
「結構高いんだけどな、逃走防止用の自爆装置ってよ」
 男は素早く闇に姿を消した。何とも言えぬ虚しさが込み上げる中、傭兵達は武器を降ろす。



「行き成り爆発するなんてねぇ」
 拠点であったビルの中、爆ぜて燃える死体を眺めながらレインウォーカーが呟いた。
 生存者は誰もいない。ただ死体が燃える。犬彦は命乞いをしていたそれを見つめ、無言で拳を握り締めた。

●微笑
 倒れた天莉に応急処置を施すアイリス。傭兵達は街の入り口に集合していた。
 結局大した手掛かりも見つからず、敵の生存者もなし。依頼の目的は達成したと言えるだろうが‥‥。
「重要情報は消去が基本だけど、この組織は基本が出来てるかなぁ」
 レインウォーカーの言葉に複雑な表情を浮かべるティナ。気絶している天莉の傍に膝を着き、その手を握り締める。
「申し訳ない‥‥もう少し自分達が早ければ」
「いや、お陰で助かった」
 剛の言葉に首を横に振る清四郎。そんな様子を眺める斬子に犬彦は歩み寄る。
「今日は逃げなかったか。その格好は見掛け倒しじゃなかったな」
「‥‥でも、疲れましたわ」
「その割にハ楽しそうに仕事してたけド」
 声は雪花の物だった。斬子は眉を潜め雪花と向き合う。
「イヤ斬子サン戦闘中に笑顔だたかラ不思議に思テ。自分で気付いてなかたノ?」
「で、出鱈目を‥‥私はそんな‥‥」
「そ? ま、何かヤ誰かを守るため戦てるうちに、目的を忘れないよう祈てるネ」
 ひらひら手を振り踵を返す雪花。何かを言い返そうとした斬子の口は何も言葉を紡がなかった。
「九頭竜さん‥‥あまり、気を張り過ぎない事です」
「ありがとう、米本さん」
 じっと天莉を見つめ、背を向けてどこかへ歩き出す斬子。それと入れ違いにマクシムが戻って来た。
「おや、無事だったようで何より」
 アイリスの声に反応しないマクシム。考え事をしていたのか、はっとした様子で頷いた。
「あ、ああ。あまり役に立てなかったな‥‥すまない。兎も角、引き上げよう。彼もきちんとした場所で治療が必要だろう」
 天莉を背負うマクシム。こうして傭兵達はゴーストタウンに背を向けた。
 朝日が昇り、誰も居なくなった街を照らし出す。そこには何もなかった。敵も、味方さえも――。