タイトル:【OF】イカロスの翼マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/14 22:31

●オープニング本文


 今や世界中が知る所となったプチロフの断行。しかしそれは、世界中が宇宙を見上げる契機になった事もまた事実だった。
 苦い想いを噛み締めながらも、宇宙を見据えた動きは各地で加速し、様々に物語を奏で、ソラへと向かって収束しつつある。
 墜落したKV達。そこに籠められた情報を回収する為の動きも、その一つだ。
 そして――彼等の死は無駄にはならなかった。

 そこから明らかになった事は人類にとってもまた衝撃的な物だった。
 そこには、宇宙へとあがる人類を嘲笑うかのように機動するキメラやワーム達がいた。
 そして。
 ブレナー博士によって発見され、低軌道上に在ると言われていた、謎の影。
 それは、低軌道上から人類を見張る衛星であり、砲台だった。
 そこから放たれた奔流は、為す術なくキメラやワーム達に揉まれていたKV達を容易く呑み込み、喰らい尽くした。

 それが、英霊達が遺したモノだった。

 人類は今、新たな局面を迎えようとしている。
 その道行きに落ちる影は払わねばならないが――情報が足りない事もまた、事実。
 それ故、そのための威力偵察がエースパイロット、冴木 玲(gz0010)を中心にいま、行われようとしていた。

「シン、緊張してるのかい?」
 全ての準備を終えコックピットで時を待つシン・クドウ。そこにキアラン・ホワイトの声が響いた。
「いや。ただ、いよいよかと思ってな」
「いよいよって程準備もしてないけどねぇ☆」
 太原衛星発射センターにあるマスドライバーにセットされた急拵えの特殊コンテナの中、固定されたKVから見えるのは闇だけだった。
 オービタル・ファインダーズ第二隊。彼らもまた冴木 玲の率いるチームと共に宇宙に上がり、彼女達を支援する。
「むしろ緊張しているのはリェンだろ」
「あ、あたしの何処が緊張してるって!?」
 シンの声に応じるリェン・ファフォの声は既に上擦っている。キアランは笑いながら一言。
「宇宙に行って冴木 玲の手伝いをするだけさ。そんなに緊張する事ないでしょ」
 十分な準備期間も装備も無い旅路、不安は当然。リェンは深呼吸を一つ、気持ちを切り替える。
「分ってるわよ。ここまで来たんだ‥‥後はやるだけ!」
 拳を握り締め頷く。それと同時、全員に声が聞こえてきた。
『最終チェック完了。マスドライバー、ケージ射出準備に入ります』
「一番機了解した。お前達、お喋りはそこまでにしろ」
「はいはい、二番機了解♪」
「三番機了解!」
「問題ない。四番機了解」
 隊長であるハロルド・ロンベルクの声で雑談は終了する。
『カウントダウン開始。一番機より順次射出を行います。皆さん、ご武運を』
 数字の減る音と共に宇宙が近づく。
『5‥‥4‥‥』
 人類は今、新たな一歩を踏み出し始めたのだ。
『3‥‥2‥‥1‥‥』
 その先に何が待っているのかも知らずに。
『――射出開始』



「OF隊、第一第二共に射出完了。ケージのパージを確認。ブースター起動、順調に上昇中。間も無く低軌道に入ります」
 インカムに手を当て管制官の一人が淡々と告げる。状況を見守る宇宙センターの管制室のモニターには全てが順調に映って見えた。
「高度250k突破‥‥想定戦闘エリアに突入――」
 と、同時。耳を劈く様な音が響き渡り、モニターに危険を示すシグナルが表示された。
「OF隊、バグア衛星に接近! こ、これは‥‥!?」



「何‥‥これ」
 他に言葉は出てこなかった。闇を背にした空の彼方、淡い光の輪郭に姿を隠していた衛星が姿を現した。
 同時に衛星は無数のキメラを放出。夥しい数の敵、視界を全て多い尽くす敵、敵、敵――。
「動けリェン、人型に変形しろ! 各機連携を密に! 孤立するな!」
 隊長機が人型に変形、ガトリングを乱射する。その声に弾かれるように各機変形、キメラの迎撃を開始する。
「孤立するなって言ってもね‥‥!」
「隊長、上です! ヘルメットワーム‥‥本星型か!」
 四方八方から降り注ぐ閃光の雨に四機のKVは完全に翻弄されていた。
 訓練は積んだ。しかし慣れない宇宙戦、それは装備も同じ事。全てが予定通りには行かない。大勢に無勢、絶望的な空気が戦場を支配していた。
「嘘‥‥あたし、ビビってる?」
「リェン、動け! 止まったらやられる!」
 シンの声ではっと顔を上げるリェン。正面から突っ込んできた大型のキメラに刎ね飛ばされ宙を舞う。
「シン、リェンのフォローを‥‥」
「隊長っ!!」
 気が逸れた直後無数のキメラが擦れ違い様にハロルド機の手足を食いちぎっていく。壊れた人形の様に踊り、光に射抜かれそれは動かなくなった。
「隊‥‥」
「シン、撤退しろ! リェンはお前が守れ!」
「撤退って‥‥!」
「第一隊も引き返し始めた! もういい、もう十分だ!」
 放心気味のシンとリェンを庇うように立ち塞がるキアラン機。迫るキメラをライフルで次々に撃ち抜いて行く。
「行けシン! リェンを死なせるな!」
「少尉‥‥キアラン!」
 破損したリェン機は既に降下を開始。重力に従い地球へと落ちていく所だった。シンは機体を変形、戦闘機形態でその後を追う。
「お前も引けキアラン!」
「時間稼ぎは必要だろ? それより見ろよ、シン」
 ライフルを構えるキアラン機。そこに無数のキメラが群がる。
「こんな状況でも百発百中‥‥全く、僕は天才って奴かな」
「キアラ‥‥」
 その姿が見えなくなり、シンは言葉を止めた。
 叫ぶのも泣くのも後だ。今は彼の最後の言葉を、想いを酌まねばならない。
「リェーーーンッ!!」
 落下する機体に追いつく事は出来た。しかし敵の多くはキアランに向かっているとは言え、追撃も易しくはない。
「変形しろリェン! 人型じゃ墜落するだけだ!」
「やってるわよ! やってるけど‥‥こんなんでどうやって変形しろってのよ!?」
 リェン機の手足は吹き飛び、今も装甲や部品を少しずつばら撒きながら落下している状態にあった。
「変形出来ない‥‥っ」
 空を見上げる。衝撃で負傷したのか、額を流れる血が目に入った。
「ちくしょう‥‥なんて遠い――!」
 空に手を伸ばすリェン。迫るキメラと戦闘しつつ、シンの機体も落下して行く。
『聞こえるか、人類。――これが、蒙昧の対価だ』
 突然の声。シンは咄嗟に周囲に視線を巡らせる。彼方に見えるのは落ちていくキアランの機体であった。
 無残な姿に変わり果て、コックピットを貫かれた鋼の塊。シンはただそれを見送る事しか出来ない。
『貴様達も直にこうなる。‥‥その棺桶の中で、無様に震えてろ』
 通信は途切れた。途端、脳裏を様々な思い出が通り過ぎていく。
 短い付き合いだ。反りも合わなかった。別れは覚悟していた。それでも――仲間だった。
「死なせない! 生きるんだ、二人の為にも!」
 機体が悲鳴を上げている。さっきからずっとバラバラになりそうだと叫んでいる。
 それでも後少しだけ、飛んでくれと祈る。願いを叶えられさえすれば、この命なんて要らないから――。

●参加者一覧

新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
ジェーン・ジェリア(gc6575
14歳・♀・AA
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA

●リプレイ本文

●流星
「センターの観測結果、来ました」
 夜空を舞い上がる八つの影。OF隊撤退の連絡を受けた傭兵達は緊急出撃、降下‥‥否、落下してくる機体を捜索していた。
「セラさん、そちらはどうですか?」
「ちょっと待って下さい。落下中でかなり熱を持ってるから探し易いそうですが‥‥」
 新居・やすかず(ga1891)の声にレーダーと睨めっこしつつセラ・ヘイムダル(gc6766)が応じる。
「見つけました! ついでに周囲の敵も調べるのです!」
 セラから送られてきたデータを受け傭兵達は進路を帰る。高度が上がり地上が遠ざかってくると、代わりに見えてくる物があった。
「‥‥既に交戦中か。詮索は後、今は降下している部隊の救出が最優先である」
「後ろから気持ち悪いの追って来てるー! あれダメ、すぐに落さないと!」
 戦闘の光を遠巻きに見つめながら呟くリヴァル・クロウ(gb2337)。無数の異形のキメラにジェーン・ジェリア(gc6575)は悲鳴を上げた。
「シン機、聞こえますか? 私達が来たからもう安心ですよ」
「冗談じゃない、見て分るだろう!? どこに安心があるって言うんだ!」
 シンの機体はこれまでの交戦で既にボロボロになっていた。セラの気遣いに応じる余裕も無い。
「相手は未知数です。速やかに救助を完了し帰還しましょう」
「ついでに敵の情報も持ち帰る‥‥ですわね?」
 アルヴァイム(ga5051)の声に微笑むミリハナク(gc4008)迫る敵にすっと目を細める。
「宇宙にも面白い敵がいそうで楽しみですわ」
「みーねぇ、あんまり暴れちゃだめだよ?」
「分ってますわ。お楽しみはまた今度、今日は支援に従事しますわよ」
 ジェーンの声にウィンクするミリハナク。そんな中、ムーグ・リード(gc0402)は空を見上げ小さく呟く。
「‥‥偶然、ニ、感謝、スベキ、デショウ、カ‥‥」
 こんな状況だが、まだ助ける事が出来るかもしれない。可能性は僅か、しかし傭兵達は間に合ったのだ。
「――さあ、バトンを受け取りに行きましょう。取り落とさずに送り届けるのが僕達の役目です」
 やすかずの声と戦闘開始はほぼ同時であった。無数のキメラに追われるシン機、よろよろと飛ぶ天の背後にリヴァルが着く。
 放たれた無数のミサイルがキメラに次々に着弾、炎を散らして吹き飛ばしていく。
「宇宙から来ただけあって、やはり宙域は‥‥バグアの支配下‥‥ですね」
 呟きながらシン機を守る様に追っ手に攻撃を仕掛ける御鑑 藍(gc1485)。G放電装置で敵を散らし、スラスターライフルでキメラを撃墜する。
「これは‥‥」
「言ったでしょう、もう安心ですと。他の人達は歴戦の勇士ですから、もう一人も絶対大丈夫です♪」
 セラの言葉通り傭兵達は追撃戦力を圧倒していた。落下する天を守るように、キメラを片っ端から駆逐して行く。
「やられる前にやってしまいましょう。あのキメラが未知数である以上、あまり自由を許すべきではありません」
「大した事ありませんわね。これでは楽しむ間もありませんわ」
 シン機をフォローしつつ声をかけるやすかず。ミリハナクはキメラを食い千切りながら鼻を鳴らした。
「そっちの機体大丈夫!? 機体がバラバラになっちゃう‥‥助けないと!」
「助けるって‥‥出来るのか!?」
 ジェーンの声に驚きを隠せないシン。リヴァルはそんなシンを追い抜きながらリェンの天を見ていた。
「損傷が激しいが、やるしか有るまい。ムーグ氏、やれるか?」
「シミュレート、ハ、万全、デス‥‥」
 加速し一度リェン機を追い抜くリヴァルとムーグ。シンは訳が分らず首を傾げる。
「お、おい?」
「すまない、説明している暇が無い。セラ、軌道計算と援護を頼む」
「墜落してる人の救助ですネ。人命救助、頑張ります!」
 シンは最早蚊帳の外である。セラはリヴァルの機体を見下ろしつつ、瞳を輝かせる。
「‥‥これはチャンス! 愛しのお兄様に良く思われるのデス♪」
 彼女の呟きもにやけた顔も、戦闘中という事もあり誰も気付かなかった。
 ムーグは落下するリェン機と機体を並走させる。そこで空中変形、リェン機へ取り付いた。
 それは言う程簡単な作業では無く、高い集中力を要する操作だ。シンは漸く意図を察する。
「まさか‥‥受け止めるつもりか!?」
「成功する確率は極めて低い。だが、これしか方法は残されていない」
「どうしてそこまで‥‥お前達も巻き込まれるかもしれないんだぞ?」
 シンの言葉に二人は答えない。作業は非常に繊細な段階に入ろうとしていた。だがその時である。
「こんな時に‥‥! ヘルメットワームとキメラの増援、来ます!」
 焦りを孕んだセラの声が響く。本星型が四機、キメラが多数。この調子ではまだ出るかもしれない。
「ここからが正念場‥‥ですね」
 呟く藍。追撃を阻止する為、傭兵達は次々に旋回して行った。

●救出
「全く、なんて数ですの‥‥!」
 先程の倍近いキメラに弾をばら撒きながら飛翔するミリハナク。キメラは淡く発光し、口から光の矢を吐き出してくる。
「四番機は離脱して下さい! その状態では避けきれない!」
 降り注ぐ閃光に被弾しつつやすかずが叫ぶ。シン機は損傷もあるが武装がバルカンしか残っていない。状態は最悪に近かった。
「こっちは気にしないでいい、自分の事は自分で何とかする!」
「シンさん!」
「あんたらが強いのは分った、だからリェンは任せる。だが、何もしないのは性に合わん!」
「あ、ちょっと!?」
 セラの制止も聞かず引き返すシン。しかし構っている余裕も無い。
「ふふふ、貴方の強化FFは貫けるかしら?」
 旋回しつつHWへ荷電粒子砲を放つミリハナク。眩い光はHWに直撃するが、強力なFFで弾かれてしまう。
 それを確認したアルヴァイムはHWを追いながらバルカンで攻撃。断続的に弾を命中させる。
「あれには全力攻撃よりも削りが有効です。それはFFが消えるまで取っておきましょう」
 唇を尖らせつつもバルカンで攻撃するミリハナク。とは言え彼らのバルカンは並の威力ではない。あっという間に一機墜落していく。
「みーねぇ、次はこっちだよ!」
 ジェーンと連携しミリハナクは敵陣に突っ込んでいく。藍は放電装置でキメラを攻撃しつつ、救出班への追撃を阻止していた。
「ここまで降りても‥‥飛べるなんて‥‥」
 宇宙型キメラは大気圏内でも泳ぐように飛行している。口から放つ閃光を次々に回避しつつ反転、擦れ違い様にスラスターライフルでキメラを落とす。
 敵の集団に向かいつつ、HWをロックする藍。放出されたミサイルの数は100発、夥しい軌跡を描き、空に炎の華を咲かせた。
「シンさん、危険です!」
「武装が無くても囮くらいにはなれるさ!」
 自機を追い抜き加速するシン機に続くやすかず。シンはバルカンでキメラと戦闘しつつ大きく旋回するようにして敵を集める。
 やすかずはそれをミサイルで焼き払いシン機と連携。キメラと交戦しつつ空を舞う。
 一方、ムーグは作業に苦戦していた。リェン機にワイヤーを繋げ減速作業に移る予定だったが、機体が大きく破損している事もあり作業は難解を極める。
「あんた達‥‥は?」
 気絶していたリェンの声だった。ムーグは優しい口調でそれに応じる。
「オチ、ツイテ‥‥空ヲ、見てイテ、クダサイ‥‥」
「空‥‥? どこ、に‥‥?」
 その呟きにリヴァルは眉を潜めた。
「まさか、目が‥‥」
「お兄様、また敵が!」
 セラの声でレーダーを睨む。先程と同規模の敵が更に迫っていた。
「そこまでして‥‥逃がしたくありませんか」
「作業を中断させる訳には行きません。ここで足を止めます」
 藍に続きアルヴァイムが敵に向かっていく。ジェーンはミリハナクから離れ、振り返りながら叫んだ。
「そっち大丈夫!? あたしに手伝える事があったら言って!?」
「デハ‥‥」
 ジェーンはムーグと同様にリェン機に変形して取り付く。二機は機体を丸ごと支えるようにワイヤーを固定しに掛かった。
「これでブレーキングすればいいんだね!」
「慎重、ニ‥‥」
 時間は余り残されていない。二機は同時に減速するが、これも非常に繊細さを求められる。指先が震え、汗だくになりながらジェーンは機体を支えた。
 徐々に減速するが、それは追っ手に近づく事も意味している。足止めは善戦していたが、近くなれば当然取りこぼしも生まれてしまう。
 キメラが放った攻撃を防いだのはセラだ。攻撃を身を挺して阻止しつつ、セラは落下コースを計算する。
「セラ!」
「お兄様動かないで、手順が狂ってしまいます!」
 リヴァルの声に微笑むセラ。リヴァルは操縦桿を握りしめ、己の役割に徹する。
 するとセラへ迫る敵をやすかずとシンが排除。アルヴァイム、ミリハナク、藍の善戦もあり敵との距離が開いていく。
「四号機は‥‥攻撃させません‥‥!」
「オーディエンスは引き受けますわ! 早くお済ませなさい!」
 藍とミリハナクの声に頷くジェーン。リヴァルへと声を上げる。
「ありがと、みーねぇ‥‥! 行くよっ!」
 頷くムーグ。リヴァルは速度を合わせ人型へ変形、落下するリェン機を受け止める。
「聞こえるか、三番機‥‥諦めるな」
 こんな使い方は誰も想定していない。無理をさせる代償は当然彼らを襲う。だが‥‥。
「まだ――終わらせん!」
 錬力の限界もあり、白い光を帯びた二機のスレイヤーが戦闘機形態に戻り左右によれながら散っていく。ここからはリヴァルの仕事だ。
 尋常ではない振動と衝撃が彼を襲っていた。当然、シュテルンの能力はこんな使用を想定しない物だ。
 減速は完璧ではなかった。落下するKVという質量を空中で受け止めるなんて所詮無理な話。二機は見る見る地上へ落下して行く――。
「止まらない‥‥駄目だ、間に合わない」
 シンが泣きそうな声で呟いた時だ。無茶な動作直後で墜落しそうな機体を建て直しつつ、ムーグが呟いた。
「大丈夫‥‥デス」
 宇宙に一番近い場所から、彼らは舞い降りた。
 白い雲を突き抜けて、遥かに広がる星を臨む。
 そこにあったのは一面に広がる海。この星の大半を包み込む青は日光を浴びて僅かに輝いている。
「お兄様っ!!」
 ロクに着陸姿勢も取れず文字通り落下する二機。派手な水飛沫が上がり、セラの声を掻き消した。
「潮時ですね。お引取り願いましょうか」
 電磁加速砲を放つアルヴァイム。光の軌跡を追うように複数の爆発が起こり、続けて煙幕を発生させる。
 ミリハナクはミサイルと共に煙幕をばら撒き、アルヴァイムを背に地上へ向かう。
「殿は我が」
「お任せしますわ。まだあっちの救助が残ってますしね」
 大地が近づくと追っ手も殆ど無くなっていた。僅かな敵を撒き、傭兵達は海に落ちた仲間の救助に向かうのであった。

●星海
 UPC軍の協力もあり、リヴァルとリェンの機体は回収された。そこに無事の二文字をつけるのは難しかったが。
「お兄様ーっ!」
 担架に乗せられ運ばれてくるリヴァルに駆け寄るセラ。身体が全く言う事を効かないリヴァルだったが、平静である。
「命に支障はないと判断する。それより‥‥」
 遅れて運ばれてきたリェンの状態は悲惨だった。既に応急処置が済んだ後だが、包帯は真っ赤に染まり、そして二本ある筈の足は片方しかなかった。
「あんた達が‥‥助けてくれたんでしょ? ありがとう‥‥お陰でほら、あたしは生きてるわ」
 重苦しい沈黙が場を包んでいた。かける言葉も無く、シンも立ち尽くしている。そんな中ムーグがリェンに歩み寄る。
「‥‥ソラ、ハ‥‥綺麗、デシタ、カ‥‥?」
 血塗れの手をそっと握るムーグ。リェンは包帯で覆われた目で空を仰ぎ見る。
「綺麗だった‥‥。この目にハッキリ焼きついてる。綺麗だったよ。すごく綺麗だった‥‥」
 担架は運ばれていく。リェンは傭兵達に微笑みかけた。
「本当に‥‥ありがとう。助けて貰った命で‥‥きっとまたあそこに、戻ってみせるから」
「‥‥何故、ソレデモ、空‥‥へ?」
 血の滲む唇で微笑み、リェンは弱弱しく拳を掲げる。
「‥‥それが、夢だから」
 リェンを乗せたヘリが飛んでいく。シンは放心状態でそれを見送っていた。
「俺はお前達を誤解していた。お前達が来てくれなかったら、俺もリェンも死んでいただろう。助けてくれて本当にありがとう‥‥ありがとう」
 でも、きっとリェンはもう飛べないだろう――その言葉は続かなかった。
「この恩はきっと返すよ。きっと‥‥きっとだ」
 背を向けたまま歩き出すシン。ここで傭兵達に出来る事はもう何も無い。依頼は完了したのだ。
 海の上には天の焼け焦げた残骸が幾つか浮かんでいた。二度と空を飛ぶ事のない翼は、太陽を仰ぎ見るようにして海へと沈んで行った。



 格納庫で修理中の天を見上げながら、シンはOF第二隊が解散する事になったという通知が書かれた紙を握り締めていた。
 より厳密に言えば、解散ではなく壊滅である。四機並んでいた真新しい機体も、今となってはたった一機だけしかない。
「隊長‥‥キアラン‥‥リェン」
 別段親しかったわけではない。だが志を共にしたかけがえの無い仲間達だった。
「これで‥‥終わりなのか?」
 絶望が心を支配していた。彼らが助けに来てくれなければ、自分もきっとここには居られなかっただろう。
「何が‥‥オービタル・ファインダーズだ‥‥ッ! 俺は‥‥俺は、一人じゃ何も出来なかったじゃないか‥‥!」
 通知を破り捨て、天に背を向けるシン。それがOF第二隊が完全に終わってしまった瞬間であった。