●リプレイ本文
●流星
「センターの観測結果、来ました」
夜空を舞い上がる八つの影。OF隊撤退の連絡を受けた傭兵達は緊急出撃、降下‥‥否、落下してくる機体を捜索していた。
「セラさん、そちらはどうですか?」
「ちょっと待って下さい。落下中でかなり熱を持ってるから探し易いそうですが‥‥」
新居・やすかず(
ga1891)の声にレーダーと睨めっこしつつセラ・ヘイムダル(
gc6766)が応じる。
「見つけました! ついでに周囲の敵も調べるのです!」
セラから送られてきたデータを受け傭兵達は進路を帰る。高度が上がり地上が遠ざかってくると、代わりに見えてくる物があった。
「‥‥既に交戦中か。詮索は後、今は降下している部隊の救出が最優先である」
「後ろから気持ち悪いの追って来てるー! あれダメ、すぐに落さないと!」
戦闘の光を遠巻きに見つめながら呟くリヴァル・クロウ(
gb2337)。無数の異形のキメラにジェーン・ジェリア(
gc6575)は悲鳴を上げた。
「シン機、聞こえますか? 私達が来たからもう安心ですよ」
「冗談じゃない、見て分るだろう!? どこに安心があるって言うんだ!」
シンの機体はこれまでの交戦で既にボロボロになっていた。セラの気遣いに応じる余裕も無い。
「相手は未知数です。速やかに救助を完了し帰還しましょう」
「ついでに敵の情報も持ち帰る‥‥ですわね?」
アルヴァイム(
ga5051)の声に微笑むミリハナク(
gc4008)迫る敵にすっと目を細める。
「宇宙にも面白い敵がいそうで楽しみですわ」
「みーねぇ、あんまり暴れちゃだめだよ?」
「分ってますわ。お楽しみはまた今度、今日は支援に従事しますわよ」
ジェーンの声にウィンクするミリハナク。そんな中、ムーグ・リード(
gc0402)は空を見上げ小さく呟く。
「‥‥偶然、ニ、感謝、スベキ、デショウ、カ‥‥」
こんな状況だが、まだ助ける事が出来るかもしれない。可能性は僅か、しかし傭兵達は間に合ったのだ。
「――さあ、バトンを受け取りに行きましょう。取り落とさずに送り届けるのが僕達の役目です」
やすかずの声と戦闘開始はほぼ同時であった。無数のキメラに追われるシン機、よろよろと飛ぶ天の背後にリヴァルが着く。
放たれた無数のミサイルがキメラに次々に着弾、炎を散らして吹き飛ばしていく。
「宇宙から来ただけあって、やはり宙域は‥‥バグアの支配下‥‥ですね」
呟きながらシン機を守る様に追っ手に攻撃を仕掛ける御鑑 藍(
gc1485)。G放電装置で敵を散らし、スラスターライフルでキメラを撃墜する。
「これは‥‥」
「言ったでしょう、もう安心ですと。他の人達は歴戦の勇士ですから、もう一人も絶対大丈夫です♪」
セラの言葉通り傭兵達は追撃戦力を圧倒していた。落下する天を守るように、キメラを片っ端から駆逐して行く。
「やられる前にやってしまいましょう。あのキメラが未知数である以上、あまり自由を許すべきではありません」
「大した事ありませんわね。これでは楽しむ間もありませんわ」
シン機をフォローしつつ声をかけるやすかず。ミリハナクはキメラを食い千切りながら鼻を鳴らした。
「そっちの機体大丈夫!? 機体がバラバラになっちゃう‥‥助けないと!」
「助けるって‥‥出来るのか!?」
ジェーンの声に驚きを隠せないシン。リヴァルはそんなシンを追い抜きながらリェンの天を見ていた。
「損傷が激しいが、やるしか有るまい。ムーグ氏、やれるか?」
「シミュレート、ハ、万全、デス‥‥」
加速し一度リェン機を追い抜くリヴァルとムーグ。シンは訳が分らず首を傾げる。
「お、おい?」
「すまない、説明している暇が無い。セラ、軌道計算と援護を頼む」
「墜落してる人の救助ですネ。人命救助、頑張ります!」
シンは最早蚊帳の外である。セラはリヴァルの機体を見下ろしつつ、瞳を輝かせる。
「‥‥これはチャンス! 愛しのお兄様に良く思われるのデス♪」
彼女の呟きもにやけた顔も、戦闘中という事もあり誰も気付かなかった。
ムーグは落下するリェン機と機体を並走させる。そこで空中変形、リェン機へ取り付いた。
それは言う程簡単な作業では無く、高い集中力を要する操作だ。シンは漸く意図を察する。
「まさか‥‥受け止めるつもりか!?」
「成功する確率は極めて低い。だが、これしか方法は残されていない」
「どうしてそこまで‥‥お前達も巻き込まれるかもしれないんだぞ?」
シンの言葉に二人は答えない。作業は非常に繊細な段階に入ろうとしていた。だがその時である。
「こんな時に‥‥! ヘルメットワームとキメラの増援、来ます!」
焦りを孕んだセラの声が響く。本星型が四機、キメラが多数。この調子ではまだ出るかもしれない。
「ここからが正念場‥‥ですね」
呟く藍。追撃を阻止する為、傭兵達は次々に旋回して行った。
●救出
「全く、なんて数ですの‥‥!」
先程の倍近いキメラに弾をばら撒きながら飛翔するミリハナク。キメラは淡く発光し、口から光の矢を吐き出してくる。
「四番機は離脱して下さい! その状態では避けきれない!」
降り注ぐ閃光に被弾しつつやすかずが叫ぶ。シン機は損傷もあるが武装がバルカンしか残っていない。状態は最悪に近かった。
「こっちは気にしないでいい、自分の事は自分で何とかする!」
「シンさん!」
「あんたらが強いのは分った、だからリェンは任せる。だが、何もしないのは性に合わん!」
「あ、ちょっと!?」
セラの制止も聞かず引き返すシン。しかし構っている余裕も無い。
「ふふふ、貴方の強化FFは貫けるかしら?」
旋回しつつHWへ荷電粒子砲を放つミリハナク。眩い光はHWに直撃するが、強力なFFで弾かれてしまう。
それを確認したアルヴァイムはHWを追いながらバルカンで攻撃。断続的に弾を命中させる。
「あれには全力攻撃よりも削りが有効です。それはFFが消えるまで取っておきましょう」
唇を尖らせつつもバルカンで攻撃するミリハナク。とは言え彼らのバルカンは並の威力ではない。あっという間に一機墜落していく。
「みーねぇ、次はこっちだよ!」
ジェーンと連携しミリハナクは敵陣に突っ込んでいく。藍は放電装置でキメラを攻撃しつつ、救出班への追撃を阻止していた。
「ここまで降りても‥‥飛べるなんて‥‥」
宇宙型キメラは大気圏内でも泳ぐように飛行している。口から放つ閃光を次々に回避しつつ反転、擦れ違い様にスラスターライフルでキメラを落とす。
敵の集団に向かいつつ、HWをロックする藍。放出されたミサイルの数は100発、夥しい軌跡を描き、空に炎の華を咲かせた。
「シンさん、危険です!」
「武装が無くても囮くらいにはなれるさ!」
自機を追い抜き加速するシン機に続くやすかず。シンはバルカンでキメラと戦闘しつつ大きく旋回するようにして敵を集める。
やすかずはそれをミサイルで焼き払いシン機と連携。キメラと交戦しつつ空を舞う。
一方、ムーグは作業に苦戦していた。リェン機にワイヤーを繋げ減速作業に移る予定だったが、機体が大きく破損している事もあり作業は難解を極める。
「あんた達‥‥は?」
気絶していたリェンの声だった。ムーグは優しい口調でそれに応じる。
「オチ、ツイテ‥‥空ヲ、見てイテ、クダサイ‥‥」
「空‥‥? どこ、に‥‥?」
その呟きにリヴァルは眉を潜めた。
「まさか、目が‥‥」
「お兄様、また敵が!」
セラの声でレーダーを睨む。先程と同規模の敵が更に迫っていた。
「そこまでして‥‥逃がしたくありませんか」
「作業を中断させる訳には行きません。ここで足を止めます」
藍に続きアルヴァイムが敵に向かっていく。ジェーンはミリハナクから離れ、振り返りながら叫んだ。
「そっち大丈夫!? あたしに手伝える事があったら言って!?」
「デハ‥‥」
ジェーンはムーグと同様にリェン機に変形して取り付く。二機は機体を丸ごと支えるようにワイヤーを固定しに掛かった。
「これでブレーキングすればいいんだね!」
「慎重、ニ‥‥」
時間は余り残されていない。二機は同時に減速するが、これも非常に繊細さを求められる。指先が震え、汗だくになりながらジェーンは機体を支えた。
徐々に減速するが、それは追っ手に近づく事も意味している。足止めは善戦していたが、近くなれば当然取りこぼしも生まれてしまう。
キメラが放った攻撃を防いだのはセラだ。攻撃を身を挺して阻止しつつ、セラは落下コースを計算する。
「セラ!」
「お兄様動かないで、手順が狂ってしまいます!」
リヴァルの声に微笑むセラ。リヴァルは操縦桿を握りしめ、己の役割に徹する。
するとセラへ迫る敵をやすかずとシンが排除。アルヴァイム、ミリハナク、藍の善戦もあり敵との距離が開いていく。
「四号機は‥‥攻撃させません‥‥!」
「オーディエンスは引き受けますわ! 早くお済ませなさい!」
藍とミリハナクの声に頷くジェーン。リヴァルへと声を上げる。
「ありがと、みーねぇ‥‥! 行くよっ!」
頷くムーグ。リヴァルは速度を合わせ人型へ変形、落下するリェン機を受け止める。
「聞こえるか、三番機‥‥諦めるな」
こんな使い方は誰も想定していない。無理をさせる代償は当然彼らを襲う。だが‥‥。
「まだ――終わらせん!」
錬力の限界もあり、白い光を帯びた二機のスレイヤーが戦闘機形態に戻り左右によれながら散っていく。ここからはリヴァルの仕事だ。
尋常ではない振動と衝撃が彼を襲っていた。当然、シュテルンの能力はこんな使用を想定しない物だ。
減速は完璧ではなかった。落下するKVという質量を空中で受け止めるなんて所詮無理な話。二機は見る見る地上へ落下して行く――。
「止まらない‥‥駄目だ、間に合わない」
シンが泣きそうな声で呟いた時だ。無茶な動作直後で墜落しそうな機体を建て直しつつ、ムーグが呟いた。
「大丈夫‥‥デス」
宇宙に一番近い場所から、彼らは舞い降りた。
白い雲を突き抜けて、遥かに広がる星を臨む。
そこにあったのは一面に広がる海。この星の大半を包み込む青は日光を浴びて僅かに輝いている。
「お兄様っ!!」
ロクに着陸姿勢も取れず文字通り落下する二機。派手な水飛沫が上がり、セラの声を掻き消した。
「潮時ですね。お引取り願いましょうか」
電磁加速砲を放つアルヴァイム。光の軌跡を追うように複数の爆発が起こり、続けて煙幕を発生させる。
ミリハナクはミサイルと共に煙幕をばら撒き、アルヴァイムを背に地上へ向かう。
「殿は我が」
「お任せしますわ。まだあっちの救助が残ってますしね」
大地が近づくと追っ手も殆ど無くなっていた。僅かな敵を撒き、傭兵達は海に落ちた仲間の救助に向かうのであった。
●星海
UPC軍の協力もあり、リヴァルとリェンの機体は回収された。そこに無事の二文字をつけるのは難しかったが。
「お兄様ーっ!」
担架に乗せられ運ばれてくるリヴァルに駆け寄るセラ。身体が全く言う事を効かないリヴァルだったが、平静である。
「命に支障はないと判断する。それより‥‥」
遅れて運ばれてきたリェンの状態は悲惨だった。既に応急処置が済んだ後だが、包帯は真っ赤に染まり、そして二本ある筈の足は片方しかなかった。
「あんた達が‥‥助けてくれたんでしょ? ありがとう‥‥お陰でほら、あたしは生きてるわ」
重苦しい沈黙が場を包んでいた。かける言葉も無く、シンも立ち尽くしている。そんな中ムーグがリェンに歩み寄る。
「‥‥ソラ、ハ‥‥綺麗、デシタ、カ‥‥?」
血塗れの手をそっと握るムーグ。リェンは包帯で覆われた目で空を仰ぎ見る。
「綺麗だった‥‥。この目にハッキリ焼きついてる。綺麗だったよ。すごく綺麗だった‥‥」
担架は運ばれていく。リェンは傭兵達に微笑みかけた。
「本当に‥‥ありがとう。助けて貰った命で‥‥きっとまたあそこに、戻ってみせるから」
「‥‥何故、ソレデモ、空‥‥へ?」
血の滲む唇で微笑み、リェンは弱弱しく拳を掲げる。
「‥‥それが、夢だから」
リェンを乗せたヘリが飛んでいく。シンは放心状態でそれを見送っていた。
「俺はお前達を誤解していた。お前達が来てくれなかったら、俺もリェンも死んでいただろう。助けてくれて本当にありがとう‥‥ありがとう」
でも、きっとリェンはもう飛べないだろう――その言葉は続かなかった。
「この恩はきっと返すよ。きっと‥‥きっとだ」
背を向けたまま歩き出すシン。ここで傭兵達に出来る事はもう何も無い。依頼は完了したのだ。
海の上には天の焼け焦げた残骸が幾つか浮かんでいた。二度と空を飛ぶ事のない翼は、太陽を仰ぎ見るようにして海へと沈んで行った。
格納庫で修理中の天を見上げながら、シンはOF第二隊が解散する事になったという通知が書かれた紙を握り締めていた。
より厳密に言えば、解散ではなく壊滅である。四機並んでいた真新しい機体も、今となってはたった一機だけしかない。
「隊長‥‥キアラン‥‥リェン」
別段親しかったわけではない。だが志を共にしたかけがえの無い仲間達だった。
「これで‥‥終わりなのか?」
絶望が心を支配していた。彼らが助けに来てくれなければ、自分もきっとここには居られなかっただろう。
「何が‥‥オービタル・ファインダーズだ‥‥ッ! 俺は‥‥俺は、一人じゃ何も出来なかったじゃないか‥‥!」
通知を破り捨て、天に背を向けるシン。それがOF第二隊が完全に終わってしまった瞬間であった。