タイトル:嘘と罰マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/03 23:29

●オープニング本文


●理想
 人生に不満なんてなかった。この世界は苦しい事もあるけれど、きっと美しい物なのだと信じていた――。
「ねえパパ、テレビの中のヒーローはどうして現実には存在しないのかな?」
 療養の為には良質な環境が良いと、湖畔に建てた小さな屋敷の中で暮らして来た。
 水も空気も綺麗で、戦争の足音も遠いその場所は確かに療養には良かった。だが近くの町にまで行くにも時間のかかる山奥だった為、少女には友と呼べる存在が居なかった。
 そんな彼女の唯一の楽しみはテレビを見る事と、マンガを読む事だった。小説も好きだけれど、やはり動いている姿を見るのが楽しい。自分の身体は思うように動いてくれなかったから。
「いきなりそんな寂しい事を言わなくてもいいじゃないか、スバル。もしかしたらいるかもしれないよ?」
 線の細い男性は長い前髪を片手で退けながら優しく微笑む。少女は車椅子に座ったまま父に言った。
「もし本当にヒーローがいるなら、この世界は救いが合ってもいいと思うの」
「この辺は本当に何もないし、バグアの侵略からも逃れているから大丈夫だけどね‥‥麓の町ではどんどん人が疎開してるって話だ」
「こんなに何も無い所から何処に逃げるのかな。ヒーローが居たら、逃げなくても済むのかな‥‥」
「そうだね‥‥。もし僕がヒーローだったら、今すぐ君の病気を治して、バグアもやっつけてあげられるのに」
 父は腰を落とし娘の髪を撫でる。優しく大きな指が触れるとつい甘えたくなり、意地悪も言いたくなる。
「ねえパパ、私幸せよ? ヒーローなんかいなくてもいい。世の中が平和にならなくてもいい。私の身体がずっとダメで、ずっとこんなんで、ずっと動けなくてもいい。それでも私、幸せだもの」
 諦めにも似た寂しげな瞳で微笑む娘に父は似たような笑みを返す。そうして立ち上がり言った。
「きっと大丈夫なんて無責任な事は言えない。けどねスバル、諦めてしまえばそれまでだ。だから僕らは都合のいい夢を見て生きている」
「夢?」
「楽しい事を考えよう。君の病気が治ったらママに会いに行こう。そして三人でやり直すんだ。きっとバグアも軍の人たちが何とかしてくれる。世の中は平和になる‥‥」
 父のその言葉は娘には現実逃避のように聞こえた。しかしその本質は別に在る。
「夢を見なさいスバル。そしてそれを叶える為に出来る百の努力をしよう。きっと、君の未来は良くなる。良くして見せるよ」
 父の事を強い人間だとは思わなかった。むしろ駄目な部類に入るだろう。なよなよしていて、気が小さくて、不器用で‥‥。
 それでも真っ直ぐに自分を見て、等身大の言葉で語りかけるその姿が心の支えだった。たった一人、彼だけがいつでも自分を見てくれた。
 だからそう、彼は弱弱しいヒーローで。いつかは自分もそうやって誰かの手を取ってあげられるヒーローになりたいと、そう願ったのだった――。

●現実
 この瞳が金色に輝いている間だけ出来損ないの身体は良く動く。錬力の無駄遣いだと分っていても、依頼中は覚醒している時間が多くなる。
 戦闘が終わるとすっかりくたびれてしまい、倒れて仲間に引き摺られるようにLHに帰る事も多々あったが、こればかりは止められない。
「辺鄙な所ですね」
 ライダースーツの首周りを緩めながらスバル・シュタインは呟く。パイドロスに跨った姿勢のまま見渡す景色は、正に『田舎』の一言であった。
 キメラ討伐依頼を引き受けLHを経ち、現地に到着して数十分‥‥。さっさと討伐に向かいたいのだが、妙な所で無駄足を踏んでいた。
 キメラの目撃情報があったのは村の裏山にある廃寺なのだが、これが結構な奥にあり道順が少々ややこしいという。
 そんな訳で村人が誰か案内するだの、しなくても大丈夫だの、けどやっぱり案内するだと、じゃあ誰がするだの、そんな下らない話が続いていた。
「というわけで、俺が案内すっからよろしく!」
 数分後、能力者達の前に現れたのは十代前半くらいの少年であった。スバルは目頭をもみもみしつつ問う。
「貴方が廃寺まで案内すると‥‥?」
「おう。俺第一発見者だしな、あの辺でよく遊んでるから道には詳しいぜ」
「せめて大人の方を‥‥」
「うちの村は足腰弱ってるジジババが殆どだし、あんな所もう誰も行かないから大人じゃわかんないって」
 そんな説明もそこそこに少年はスバルに駆け寄りその周囲をぐるりと周る。
「そんな事よりさ、あんたたち能力者なんだろ? スーパーマンなんだよな!?」
「はい?」
「だーかーら、宇宙人と戦うヒーローなんだろ!? 俺知ってる! このバイク変形するんだよな!」
「いえ、その」
「かっちょいー! なあなあ、乗せてくれよ、いいだろ?」
「ですから‥‥」
「ていうか能力者って普段どんな事してんの!? 俺もなれるかな!?」
 と、そこでスバルは無言で少年の首根っこを掴み上げる。スバルの背が高い事もあり少年は空中を走っている。
「能力者はスーパーマンでもヒーローでもありませんよ。決して人には誇れない‥‥嫌な仕事です」
 吐き捨てるような言葉には憎悪すら感じられた。しかしそれが少年に通じたかはまた別の話。
「ま、いいや! とにかく案内すっからついてこいよ。あ、階段とかいっぱいあるからバイクはやめた方がいいぜ?」
 無邪気な言葉に苛立ちながらパイドロスを装着する。余計な事で苛立っても仕方ない。今は目の前の任務に集中するだけだ。
 そんなスバルの決意を変形したバイクに対する歓声が邪魔をする。小さく舌を打ち、腹の底で煮える悪意を鎮めるようにスバルは目を閉じた。

●参加者一覧

ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
南 日向(gc0526
20歳・♀・JG
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

●不機嫌
「久しぶりやなスバル。こんな形で会うとは思っとらんかったがな」
「‥‥お久しぶりですね。あの日以来ですか」
 三日科 優子(gc4996)とスバルの会話はそれで終了した。原因はスバルの拒絶的な視線にあった。
 傭兵のなる前と今、スバルの様子は明らかに変化した。上手い言葉が見つからず優子は寂しげに呟く。
「まぁ、無茶は止めとき」
 その言葉に返事は無かった。そんな微妙な空気の一方‥‥。
「最近の子供は言うこと聞かないよねー。ついてくるのはいいけど死んでも知らないよ?」
「いや、お前も俺と同じくらいだろ!」
「そうかもね。ていうか私より年上な気がする?」
 少年と背比べしつつ微笑むエレナ・ミッシェル(gc7490)。彼と彼女、確かに歳は同じくらいだろうか。
「では少年、案内を頼む」
 少年の肩を叩き頷くグロウランス(gb6145)。但し、と一言付け加える。
「今から依頼が終わるまで、俺と手を繋いで放さない事。それが唯一にして絶対の条件だ」
「えー、おっさんとかよ‥‥」
 露骨に嫌そうな少年。そこへエレナが手を差し伸べる。
「でもどうせ付いてくるんでしょ? なら一緒に行こ♪」
 頬を赤らめる少年。『女子と手なんか繋げっか!』とか言って結局おっさんにつく。そんな様子をベーオウルフ(ga3640)は木に背を預け遠巻きに眺めていた。
「ヒーローか。あれ位の歳なら憧れるのも解らんでもないが」
「ヒーローはいます! そしてきっとなれますよ!!」
 と、拳を握り締め笑う南 日向(gc0526)。その瞳はきらきら輝いている。特に何も言わないベーオウルフの隣で六堂源治(ga8154)が苦笑を浮かべた。
「俺は六堂源治。坊主、名前は?」
「風間一登! カズって呼んでいいぜ。よろしくな!」
 そんな和やかな様子を横目にスバルへ話しかけるヨダカ(gc2990)。
「ヨダカもですね、覚醒すると目の色が変わるのですよ!」
「そうですか‥‥あの、何か?」
「何というか、どうも勘違いした自称善人が多いですからね。スバルさんみたいな人は大切なのですよ」
 唇を尖らせながら呟くヨダカ。直ぐに笑顔に戻りスバルの手を取る。
「あ、す〜ちゃんって呼んで良いです? それともスバスバとかすばるんとかの方が良いですかね?」
「いえ、あの‥‥」
 そんな感じで山へと分け入っていく一行。先頭を進む少年は意外と身軽で体力もあり、ひょいひょい草木を分けて進んでいく。その様子が微妙に納得行かないスバル。
「面倒かも知れないが、これも良い経験ッス。自分の思い通りになる依頼なんて、殆ど無いッスからねー」
「あの子は何も分っていません。興味本位でこんな所まで来るなんて‥‥」
 源治の言葉に拗ねた様に呟くスバル。そんな彼女に狐月 銀子(gb2552)が笑いかける。
「心配してあげてるの?」
「別に‥‥」
「現実を知ってもね、忘れちゃならない心はあると思うの。こんな世の中だから余計にね」
 そうして頷き、銀子は拳を握る。
「折角だし応えてあげたいじゃない。あの子の憧れにさ」
 不機嫌そうに黙るスバル。ヨダカは退屈そうに欠伸を一つ、目を擦るのであった。

●能力者
「あそこにいるのがそうじゃないですか‥‥って、まだ突っ込んじゃダメですよ!」
 階段を登り件の廃寺に到着した一行。すかさず飛び出そうとするスバルをヨダカが羽交い絞めにする。
「キメラっていうんだろあれ。見た目妖怪みたいだよな」
「こーら。あんまりうろちょろすんなや」
 物陰に隠れつつ少年の頭を抑える優子。グロウランスは少年の手を取りその顔を覗き込む。
「では行くぞ。男と男の約束だ、放すなよ少年」
「わかってるって!」
「意外と数が多いけど‥‥観客もいる事だし、パーフェクトで行きたいものよね」
 まともなキメラは五体だが雑な作りの物が多く配置されている。数はざっと見ても二十近い。
 ヘルメットを被り立ち上がる銀子。それを筆頭に傭兵達は一斉に動き出した。
「まずは動きを止めるよ♪」
「了解です! 変‥‥身!!」
 エレナの声に頷き覚醒する日向。その身体を鎧のオーラが包み込んでいく。
「すげー! 変身した!」
「半分くらい変身するんだがな、このチームは」
 はしゃぐ少年の手の先で冷静に解説するグロウランス。
 膝を着きライフルを構えるエレナと盾を銃座代わりにSMGを構える日向。二人が同時に引き金を引き敵全体に弾丸をばら撒く。
「練成強化、練成強化‥‥っと! す〜ちゃん、待つのですよー!」
 味方に強化を施しつつ飛び出したスバルを追うヨダカ。二人の背中に優子は雷遁の巻物を開きながら声をかける。
「無茶すんなっつったろスバル!」
 移動スキルで突っ走るスバルに続き銀子、ベーオウルフ、源治の三人が敵へと走る。
「この程度の敵なら大丈夫だ。甘やかしすぎじゃないか?」
「でも、味方を見捨てるヒーローっていうのもね」
 ベーオウルフの呟きに笑う銀子。源治は刀を肩に乗せながら振り返る。
「グロウランス、一登を頼むッス!」
「わざわざ案内してやったんだ、負けんなよ!」
 手を振る少年に軽く刀を掲げ応じる源治。三人はまず砲兵タイプのキメラを探す。その姿は直ぐ発見出来たが‥‥。
「屋根の上か」
 屋根の上にて銃を構えるキメラが二体。襲撃がスバルを襲うが、スバルは自力で回避に成功。
「結構頑張ってるじゃない、あの子。露払いは引き受けるわ、行って!」
 エネルギーキャノンの銃口を敵中央に向ける銀子。放たれた光が雑兵を散らすとベーオウルフがそこを駆け抜けていく。
 一息に跳躍し、更にナイフを空中に刺して足場にすると二段跳躍。一気に屋根の上に駆け上がり敵を襲撃する。
 キメラの放つ銃弾をかわし刃を繰り出すベーオウルフ。防御能力は大した事ないのか、その首を刎ねるのは容易だった。
 続けもう一体へソニックブームを放つ源治。構えた銃ごと衝撃波はキメラを両断、沈黙させる。
「俺達を相手するには、少々力不足だったッスね」
 一方雑兵の半数はぞろぞろと少年に迫っていた。間に立つのは日向だ。
「少年には敵は向かわせません!」
 銃を連射し敵を迎撃する日向。その左右を抜けグロウランスの起こした烈風と優子の放った雷撃がキメラを吹き飛ばす。
「数が多いと思ったら増えてない、これ?」
 雑兵の頭を撃ち抜くと立ち上がり走り出すエレナ。彼女の言う通り、森の中や寺の裏から増援が現れているようだ。
「右側からも来てるですよ!」
 ヨダカの声に銃を向け引き金を引くスバル。二人は敵にど真ん中で完全に囲まれてしまっている。
「もう、周り全部敵なのです!」
「そのようですね」
 スバルへ襲い掛かる武者キメラ。その側面から飛び込んで来た銀子が勢い良く顔面を殴り抜ける。
 更に屋根上から降りてきたベーオウルフと源治が雑兵を次々に切り払い、二人もそれぞれ武者キメラと対峙する。
 数が減った事で薄くなった包囲に超機械で攻撃。スバルと背を合わせヨダカが叫ぶ。
「こっちはヨダカが抑えますから正面をお願いなのですよ!」
 前線は安定しつつあるが敵の増援は出現し続けている。階段を上がってきた敵を撃破し、グロウランスは少年を担ぐ。
「ここはもう危険だな。本堂の方に移動しよう」
「日向、援護頼むわ!」
 優子の声に頷きSMGに貫通弾を装填する日向。無数の雑兵目掛けて銃を連射する。二人はその隙に本堂へ。
 一方武者と刃を交える源治は些細な違和感を感じていた。
 その戦闘力は彼にとって脅威ではないが、それでも『以前』と比べると力が増している様に感じるのだ。
「気のせいッスかね」
 刃を強引に弾き袈裟にキメラを叩き斬る源治。振り返りながら雑兵を薙ぎ、増援の武者へと走る。
 銀子は武者の繰り出す刃に拳を合わせ叩き折るとそのまま光を帯びた拳を思い切り振り被る。
「見ていなさいっ! これがあたしに宿る、正義の証!」
 拳はを受けたキメラはダウン。更に雑兵キメラを次々に殴り飛ばして行く。
「キリがないわね!」
「それも直に終わるさ」
 雑兵を葬りながら応じるベーオウルフ。事実敵もいよいよ減り始めてきた。
「す〜ちゃん、せめて避けるか防ぐかするのです! ノーガードすぎなのですよ!」
 スバルに何度目か分らない練成治療を施しつつ困った様子で叫ぶヨダカ。そこへ日向が合流、共に雑兵の迎撃に当たる。
「大丈夫ですか! 助けに来ましたよ!」
「別にヨダカは助けてなんて言ってないのですが」
 ジト目で日向を見るヨダカ。日向は盾でキメラの刃を防ぎつつ銃弾をばら撒く。
「私にとってヒーローとは人の命を救う人! 頼まれなくても当然の事なのです!」
「何で皆人の話聞かないのですか、もう!」
 結局三人協力して敵を倒す。そんな三人を包囲するキメラを本堂の屋根の上に移動したエレナがライフルで撃ち抜いて行く。
「大分減ってきたし、そろそろおしまいかなー?」
 エレナの呟きから間も無く敵は一頻り殲滅され、戦闘は事も無く終了するのであった。

●理由
「すっげー、すっげー、すっげーな! 俺途中からポカーンとしちゃったよ!」
 文字通りぴょんぴょん跳ねてはしゃぐ少年。その姿をスバルは複雑な表情で見つめていた。
「まったく、す〜ちゃんは無茶しすぎなのですよ。それじゃあ奴らを絶滅させられないですよ?」
「絶滅‥‥」
「そうなのです。憎悪はもっと研ぎ澄まさないとダメなのです。お鍋でコトコト煮込まないとですよ?」
「そうですね‥‥。でも、私が本当に憎い物は‥‥違うんですよ、ヨダカ」
 首を傾げるヨダカ。スバルは寂しげに微笑んでみせる。
「命を大切にしない人間は自分が嫌い‥‥か。スバル、自分は何でそんなに自分が嫌いなん?」
 優子の言葉は責める様な物ではなく、しかし踏み込み問いかける言葉であった。
「自分が嫌いな人間は敵を殺し、仲間を殺し‥‥最終的に自分を殺す」
「どうだっていいでしょう? 貴女には関係の無い事です」
「スバル! 話はまだ終わっとらんで!」
 踵を返すスバルの方を掴む優子。スバルの膝が折れその場に倒れこむのとそれはほぼ同時であった。
 咄嗟に倒れるスバルを支えるグロウランス。その様子に少年は目を丸くする。
「何か大変なんだな、ヒーローも」
 他人事な台詞に眉を潜め、キメラの死体を引き摺り少年に突きつけるヨダカ。
「これが傭兵のお仕事なのです。相手を殺してでも、欲しい物やしたい事があるならなればいいのです」
 困惑する少年。源治はヨダカの肩を叩き首を横に振る。
「過剰に現実を突きつけても仕方ないッスよ。勿論、あえて理想を演じる必要もない」
 それから少年と向き合いその頭を少々乱暴に撫でる。
「一登はどう感じたッスか?」
「俺は‥‥」
「今の気持ちに任せちまうのが一番ッスよ。今一登が感じた事が、ありのままの自分なんスから」
 逡巡し、頷く少年。そうしてヨダカに向き合う。
「お前はどうして傭兵になったんだ?」
「ヨダカですか? 勿論復讐なのですよ」
「‥‥かわいそうだな、お前」
 暴れだしそうなヨダカを冷や汗だらだらで押さえる源治。
「私、昔はただ人類の敵を倒してればヒーローになれる! って思ってました」
 銃を手に空を見上げる日向。そうして静かに目を瞑る。
「でも傭兵とヒーローは真逆だって知り合いに言われたのです。何でヒーローになりたかったのかと、聞かれたのです」
 日向の言葉をグロウランスの腕の中でスバルも聞いていた。唇を噛み締め目を瞑る。
「まだ答えは出てません。でもいつかきっと答えを返しに行きます。私のはっきりとした目標を」
「無敵でも完璧って訳でもないけどさ。何か感じてもらえたなら、きっとその子にとってのヒーローだし。夢を壊すよりはかっこいいんじゃないかしらね」
 日向の肩を叩き、それから少年の頭を撫でる銀子。更にグロウランスが続ける。
「君がどんなヒーローを望んでいるかは分からない。だがそれは、唯の人から生まれる。特殊な能力など必ずしも必要ない。そして、いつか唯の人に還って行く者だ」
「能力者がヒーローなんじゃない。偶々ヒーローが能力者になっただけ。その条件は、力なんかじゃないからね」
 微笑む銀子。と、その話を遠巻きに聞いていたエレナが手を振る。
「話長すぎー。ねー、そろそろ帰ろーよ」
「そうだな。日も暮れてきた」
 頷くベーオウルフ。何と無く穏やかな雰囲気で帰路に着こうという時、グロウランスの手を弾いてスバルが叫んだ。
「いい加減にして下さいッ! 何がヒーローですか! そんな物‥‥ある筈無いんです!」
「スバル‥‥」
「三日科さん、私が自分を嫌いな理由‥‥知りたいって言いましたよね? 教えてあげますよ」
 自虐的な笑みを浮かべ、スバルは詰め寄る。
「私の家族は能力者に殺された‥‥! 私はね、ヨダカと同じです。復讐する為に、憎い能力者そのものになったんです。バグアなんてどーでもいい! ヒーローとかどーでもいい! 私はただ! 復讐を遂げられさえすれば後はどうだっていいんですっ!」
 一息に叫んだ後肩で息をするスバル。身体は言う事を聞かないのか、そのまま膝を着く。
「復讐する相手が貴方達の中に居るかもしれない‥‥それなら、私は‥‥っ」
 気を失うスバルに寄り添う優子。そうして目を伏せて呟く。
「スバルは本当は優しい子や。そうでなきゃヒイロがあんなに懐くわけない‥‥。でも‥‥『それだけ』やなかったんやね‥‥」
 何とも言えない重苦しい空気に包まれる。そんな静寂を引き裂いたのは少年の声だった。
「でもさ!」
 上手く纏まらない言葉を胸の内で束ね、彼は続ける。
「それでもさ‥‥俺にとって皆はヒーローだよ。ヨダカも、スバルも‥‥! だから‥‥だから、ありがとう!」
「帰るぞ。いつまでもここに居ても仕方ない。お荷物も居る事だしな」
 真っ直ぐな目の少年を見やり呟くベーオウルフ。グロウランスはスバルを担ぎ、苦しげな横顔に告げる。
「お疲れ、戦友」
 闇の帳が落ちるより早く彼らは廃寺を後にした。
 村人達は彼らに感謝の言葉を述べた。その言葉をどのように受け取れたのかは彼ら次第だが‥‥。
 少なくとも、依頼は無事に終了した。それぞれの想いを胸に、傭兵達は帰路に着くのであった。