タイトル:【MN】Nightmare 6マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/27 12:21

●オープニング本文


●バグ
「要約するとこういう事? 『ジンクス』が夢を見ている、と」
 薄暗い研究室の中、白衣の女は眼鏡越しに鋭い眼光を向ける。彼女の周囲には数名の研究員が資料を片手に立っていた。
 『ジンクス』、それはただの戦闘シミュレーターとして生み出された機械の名だ。
 やがて様々な思惑によりそれ以上の『結果』を『想定』する装置として機能したそれは、六年前の事件時にシステムの根幹を破壊されるまで非常に高性能な演算装置として活躍していた。
「博士もご存知の通り、件の事件で失われた『女神』のサルベージ作業は難航していました。いえ、限りなく不可能に近いという結論が出されたばかりでした」
 眼鏡を外し、博士と呼ばれた女は目を伏せて溜息を一つ。その横顔には強い徒労の色が見て取れる。
「言われるまでもないわね。六年‥‥六年よ。その間私はずっと『女神』を蘇らせようと尽力して来たわ」
 イリス・カレーニイ――それが彼女の名だ。ジンクス研究開発室室長、カレーニイ博士。それが今の彼女の全てだった。
 六年前、彼女は当時人類の技術では未知の領域にあった『人工知能』の研究開発を行った。そして人間に限りなく近い思考と感情まで兼ね備え、かつ『ジンクス』というシミュレーター‥‥つまり仮想とは言え『一個の世界』を完璧に管理する存在にまで育て上げた。
 それで終わりならハッピーエンドだったのだろうが、『そうならなかった』のだから運命というのは残酷な物だ。
 バグアとの戦いの中で『女神』は破壊された。ジンクスという、彼女の存在と同義である『世界』の崩壊を防ぐ為に。

「私はあの子を救いたかった。でも救えなかった。それでも救おうとして、もう一度会いたくて六年かけた。その結果がこのザマとはお笑いね」
「お言葉ですが‥‥可能性は六年前から既に無かったのです。ジンクスという膨大なデータの中、砂粒程にまで粉砕された女神のデータを回収するなんて事は‥‥」
「分ってるわ、ただのジョークよ。話を戻しましょう」
 眼鏡をかけ直しイリスは微笑む。余裕ではない。ただ、六年の間に我慢するのだけは慣れたというだけの事。
「我々が女神の‥‥『アンサー』の反応を察知したのが一週間前。更に詳しい解析をかけ、『どこ』にいるのか突き止めました」
「バグの可能性は?」
「真っ先に考えましたが間違い有りません。オリジナルの『アンサー』は今の我々とは全く異なるプログラムで稼動していますし」
「そうね、確かに当時はバグアの技術を『わけがわからない』まま使ってたから‥‥『わけがわからない』ものがあるとすれば、アンサーなんでしょうね」
 あっけらかんと答えるイリス。その手に若い研究員の男は資料を手渡した。
「反応があったのは現在は使用されていない仮想戦闘フィールドです」
「‥‥アンサーが消失した場所ね、懐かしいわ」
 口元に手をやり思案する。先程バグの可能性はないと言ったが、イリスの目にそれはただのバグに見えた。
 元々アンサーという存在がバグの様なものだったのだ。本来有り得ない性能を得てしまった、成長するシステム‥‥。それは、人類ではなくバグアの技術で作られた存在。
「いいわ。私が直接調べてみるから」
「と、言うと?」
「ジンクスにダイブしてみるわ。大事にはならないと思うけど、一応サポートだけお願いできる?」
 白衣を脱いで微笑むイリス。『行ってみた』所で何があるとは思えない。だがいい加減頃合という物だろう。
 六年、過去に縛られてきた。だからもういい頃合なのだ。いい加減にしておくべきだろう。こんな後ろを向いて生きていく日々なんて。
「それで? 彼女はジンクスにどんな夢を見せているの?」
「わかりません。シミュレート条件がこちら側からは一切操作出来ないようになっているんです、このエリア」
「あの子が何を想定しているのか分らないけど‥‥確かめてみれば、後はわかる事ね」

●悪夢
 頬を撫でる埃っぽい風も、濃く雲の陰を地に落とすこの光も、全ては夢なのだとイリスは知っていた。
 このシステムを作った時に最初の仮想戦場として作ったのがこの街だ。誰も居ない、時の制止した死の街。
「六年前から何一つ変わらないわね。当然なんだけど」
 砂を踏んで歩き出す。この戦場は古く、既に使われていないエリアだ。どこもかしこも想い出だらけで嫌になる、というのも理由の一つだろう。
「さて――これはどういう事なのかしらね」
 廃墟の真ん中に立つイリス、その眼前には色とりどりの花が咲き乱れる花畑が広がっていた。その奥にはなにやら見慣れた豪邸が見える。
 黙ってその中を進み、洋館に辿り着いた。庭ではメイドが手入れをしていて、気付けば空は晴れ真夏の日差しが降り注いでくる。
 何が起きているのかもう大体分ったが、庭の中にどんどん足を踏み入れていく。するとメイドが振り返って言った。
「おかえりなさいませ、イリスお嬢様」
 無視をして庭を抜ける。目指す場所への行き方は言われなくてもわかった。何せ、ここは自分の実家なのだから。
 中庭にある温室にはやはり様々な花が美しく咲き誇っていた。その真ん中に三人の人影が見える。
 小さな少女は花を手に楽しげに微笑んでいる。その少女が語りかけているのは彼女とは少し歳の離れた姉らしき女性。そして――。
「何をしているの、アンサー」
 白いワンピースに麦藁帽子という出で立ちでそれはそこに居た。
 銀色の髪を靡かせ振り返る。それは嘗て女神と呼ばれ、このシミュレーターを管理していたシステム。そして、イリス・カレーニイ博士が作った、『人工知能』であった。

●救出
「いい加減限界だ。博士がダイブしてもう三日も経つんだぞ!」
 ジンクス本体は巨大な黒い籠のようだった。そこから無数のケーブルで接続されたダイブ装置の上にイリスは眠るように横たわっている。
 彼女が問題のポイントにダイブを開始してから三日が経過した。中で何が起きているのかは全く調べがつかず、強制的にイリスを呼び戻す事も出来ない。
「まるでジンクスの見ている夢に取り込まれたみたいだ‥‥」
 研究員の中の誰かがそう呟いた。そしてそれはあながち間違いではない。
 打開する手段は一つしかない。イリスと同じく例のポイントにダイブし、直接状況を打開する事――。
 しかし問題が一つ。イリス・カレーニイはこのシステムの管理者であり、製作者であり、創造主である。ジンクスという世界の神に等しい人間でも『戻ってこられない』。だから問題なのだ。
「元々能力者向けの戦闘シミュレーターだからな。『そういう』事になる可能性もある」
「だとすると、博士はもう‥‥」
 重苦しい空気が流れる。が、こうしている間にも状況は刻一刻と悪化の一途を辿っている――かもしれない。
 状況の対処を能力者に依頼する事になったのは当然の流れであった。夢見る機械へのダイブ作戦が今、始まろうとしていた。

●参加者一覧

レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
八葉 白珠(gc0899
10歳・♀・ST
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD

●リプレイ本文

 大勢の群集が自分を見ている。煩わしいノイズが実は誰かの拍手であった事に気付き、レベッカ・マーエン(gb4204)は顔を上げた。
 壇上に立った自分に大勢の人々が賛辞を向けている。ふと見るとレベッカは花束を手にマイクの前に立っていた。
 なぜ、どうして、どうやってここに立ったのかは覚えていない。言葉は浮かばなかった。何と無く、何かを失ってしまった気がする。
 恐らくは喜ばしい事だ。きっと自分は何かを成し遂げた。歴史に名を残し、人類にとって何か大きな貢献を果たした。

 ――あれからもう、六年も過ぎたんですね。

 脳裏を掠めるノイズ。視界の端がちりちりと歪む。

 ――もう少し嬉しい話題で集まりたかったものですが。
 ――だが再会を喜ぶのは――も揃ってからだ。

 不快な感覚に額に手をやる。何かがおかしいのは分っていた。この状況は、とっくに危惧していた筈なのに‥‥。
 群集の一番奥。カメラや照明を構えた人々の更に向こう。このパーティーホールの扉の前、少女の姿が見える。
 この祝いの席には似合わぬ麦藁帽子の下、瑞々しい唇が何かを告げている。そうしてはっと、レベッカは思い至った。
「そうだ、あたしは‥‥」
 壇上から飛び降りると群集の姿はもうなかった。沈黙に支配されたホールの中、少女の幻影を追って彼女は走り始めた。



 随分昔に失った光景だ。故にそれは幻なのだと和泉 恭也(gc3978)は理解していた。
 あの事件が起こらなければ、こんな日々が続いたのかもしれない。妹が居て、友が居て‥‥両親がそれを見守っている。
「――――!」
 妹が手を振っている。自分を呼んでいるらしいが、いまいち頭に内容が入ってこない。
「――」
 親友が何か言っている。だがやはり何だか良く分らない。
 良く分らないのだが、これが幸福だという事だけはわかる。これが続けばいいと、そう思う。だが――こんなのはうそっぱちだ。
「こんな機能があったとは聞いた覚えがありませんが」
 振り返ると見覚えのある少女の幻影。少年であった恭也は気付けば青年の姿に戻り、影だけがうろつく実家を庭から眺めていた。
「自分で壊したんだ。過去に戻るなんて有り得ない‥‥。自分に幸せになる資格はありませんから」
 自らの手を見つめる恭也。友を失い、帰るべき場所を失い、あれから何年経っただろう。
 もうそれは済んだ事だ。後悔ならとっくに終えている。ならやはり、これはただの幻なのだろう。
 少女の幻影が遠ざかる。彼はその影に導かれるようにゆっくりとその場を後にした。



「それでね、和菓子の美味しいお店を見つけたんですよ、今度一緒に食べに行きましょう♪」
「――――」
「ふ、太ったりなんてしてませんよ。本当にイジワルなんですから‥‥」
「――――」
「え? 今なんて‥‥」
 笑顔を向けた矢先、望月 美汐(gb6693)の表情は固まった。それから正面を向き、掲げられた十字を見やる。
 茜色の光がステンドグラス越しに二人を照らしていた。神に祝福されたこの場所で、得られなかった幸せに出会えた気がした。
「時の流れは‥‥残酷ですね。もう顔も思い出せないなんて」
 確かに隣に彼はいる。だが美汐がそちらを向く事はもうなかった。
「貴方を亡くして、随分と彷徨いました。でも、答えは簡単な事だったんです」
 特別な幸福なんて要らない。ただ、有り触れた小さな幸せだけで十分だった。それすら叶わなかったけれど、それでも‥‥。
「『抱きしめられたい』‥‥それがMy Answer。六年前のあの時、私はもう救われていたんですよ。だから‥‥」
 立ち上がり目を向ける。教会の中には彼女一人しか居なかった。きっとそう、最初から。
 振り返ると入り口に少女の姿が見えた。まるで美汐を待っていたかのように影は踵を返す。
「さよならゆ〜くん。大好きでしたよ」
 扉が閉ざされると静寂だけが残る。彼が座っていた席にふわり、勢いを失った紙飛行機が落ちた。



「白夜‥‥兄‥‥さま‥‥?」
 妹の声に八葉 白夜(gc3296)は手にした本をぱたんと閉じ、優しく微笑んだ。
「おや白珠。随分と大きくなりましたね。息災のようでなによりです」
 今は亡き兄の手が八葉 白珠(gc0899)の頭を撫でる。そう、白夜は死んだ。だからこれは幻‥‥白珠が見る夢なのだ。
 それでも気付けば涙が零れていた。これはあの日のシーンの焼き直しだ。彼女は今看取る為に、今際の言葉を聞き届ける為にここに居る。
「‥‥魔を祓うべき私が残滓としてまたこの世に現れるとは、中々に業が深いものですね。ですがそれも私の愚かしさ故の事」
 妹は幸せになれたのだと信じていた。いや、きっとなれたのだろう。そこに兄の読み違いはなかった。
 自分は居なくとも彼女には支えてくれる多くの人々がいる。一つ彼が間違えた事があるとすれば、それは自分がどれだけ家族にとって大事な存在なのかを自覚出来なかった事だろう。
「白珠‥‥辛い思いをさせてしまいましたね」
「‥‥いいえ。つらい事もあるけれど、それでもわたしを支えてくれる素敵なお友達がいますから」
 兄の言葉を受け止め、白珠は笑顔を浮かべる。そう、これは最初から分っていた事だ。
 兄が自分達の幸福を願っていた事も、後悔なんてしないで逝った事も。
 彼の死に際を悲劇にしてしまわない為に笑うくらいの強さはもう持っている。一人では乗り越えられない傷も、皆と一緒に乗り越えられる。
 この白夜は白珠が見ている夢。ならば彼の言葉は彼ではなく、彼女が信じる言葉。彼女は分っていたのだ。大好きだった彼の気持ちを。
 ふと、二人の視線の先に見覚えのない少女の姿が浮かび上がる。麦藁帽子の下、少女は悲しげに二人を見ていた。
「イレギュラー‥‥いえ、この世界では‥‥だからこそ、私が‥‥貴方は同じ‥‥」
 少女はぼそりと呟きすっと身を翻す。兄妹は立ち上がり頷き合うと、その姿を追って走り出した。



「‥‥というかだな。あの家の汚さは尋常じゃなかったぞ。カレーニイ家の教育はどうなっていたんだ?」
「――」
「イリスもそれを言っていたな。何でもメイド任せというのはどうなんだ?」
「――――」
 もしかしたら、そんな幸せがあったのかもしれない。
 姉と妹と、そしてあの頃の仲間達‥‥。共に戦い、共に夢を追い、酸いも甘いも共した仲間達。その輪の中でヘイル(gc4085)は微笑んでいた。
 それはIFの景色。全てが救われていて、文句なしのハッピーエンドで。誰一人失わず、全てが成功して‥‥。
 その時だ。彼の肩を叩く手があった。彼女は眼鏡を外し、珍しく微笑んでみせる。
 気付いていた。これは所詮幻だと。確かに思う。こんな未来だったら良かったのに、と。でも――。
「‥‥ああ、そうか。忘れてなんかいなかった」
 自らの腕を見やり、目を瞑るヘイル。
 ――叩き伏せられた痛みを覚えている。
 ――届かなかった悔しさを覚えている。
 ――貴女の胸を貫いた痛みを憶えている。
「それでも、笑い合えた今までの日々を――」
 良かった事ばかりじゃない。幸せだけがあったわけじゃない。でも‥‥それでも。
 今まであった事は無駄なんかじゃない。不幸なんかじゃない。腕輪が輝き幻を消していく。残されたのは白い景色、そして――。
「‥‥夢は終わりだ。俺も、お前も」
 黒い影が立って居る。その隣には十字架に鎖で縛られたイリスの姿があった。
 シルエットはアンサーの物だ。しかしその姿は赤黒く塗りつぶされている。武器を構えるヘイル、突如その身体を無数の鎖が捕らえた。
 大地を貫いて現れた鎖に身動きが取れないヘイル。その背後からふわりと白い少女の幻影が現れる。
「アンサーが‥‥二人?」
 白い影が鎖に触れるとそれは一瞬で消失した。闇の鎧と翼を纏った影の足元には地球儀のような影が浮かんでいる。
「これは‥‥なるほど、そういう事でしたか」
 ヘイルの隣、恭也が姿を現す。続け美汐も白い大地に降り立った。
「あれはアンサー? それともワールドの方?」
「どちらも、という事だろう。アンサーという知性が持つ『二面性』‥‥その体現と言った所か」
 美汐の声に応じたのはレベッカだ。腕を組んだまま靴を慣らし、仲間達と肩を並べる。
「アンサー、貴女はイリスさんを引き止めたかったのですね?」
 彼女にも一人は寂しいという心が、死にたくないと願う気持ちがあったとしたら。恭也の問い掛けに少女は悲しげに微笑んだ。
「つまりあれが元凶ですか。人を甘い偽りに誘い惑わすとは許し難い行い。ここでその所業償わせましょう」
「貴女はわたしに本当に幸せな夢を見せてくれた‥‥でも!!」
 最後に合流した白夜と白珠が得物を構える。美汐は大声で眠っているイリスへと呼びかけた。
「イリスさん! 帰って来れない時は連絡してくださいって言ったじゃないですか! お夕飯が無駄になっちゃいましたよ!」
「うぅ、ごめんなさい‥‥って、美汐!?」
「お姫様、もう起きる時間ですよ」
「恭也まで‥‥ああ、成程。どうやらまた迷惑をかけてしまったみたいね」
 やや自己嫌悪気味に呟くイリス。それから白夜を目にして驚いた様子で言った。
「貴方、一体どういう‥‥何故その状態を保っていられるの? NPCじゃあるまいし‥‥」
「その話は後にしましょう。どうやらあちらはもう待ってはくれないようです」
 黒い影が吼える。勿論イリスを返すつもりは無いし、彼らを逃がしてくれるつもりも無さそうだ。
「いいだろう。俺達の6年に――ついてこれるか?」
 槍を構えるヘイル。傭兵達は一斉にアンサーへと走り出す。鏡面の様な白い大地から無数の漆黒が溢れ、槍となって傭兵達を襲う。
「風よ‥‥お願い!!」
 白珠の起こした竜巻が降り注ぐ攻撃を弾き飛ばしていく。開いた斜線にレベッカはエネルギーガンを構えアンサーを狙う。
「イリスも、あたしも、明日に生きる! 居心地のいい悪夢なんかに何時までも居続ける訳にはいかない!」
 飛来する無数の閃光、アンサーはそれを片手を振るい弾き飛ばす。直角に曲がった弾道は異常な力で逸らされたとしか思えない。
「攻撃を捻じ曲げられた‥‥あれは?」
「あの時と同じ、という訳ですか」
 降り注ぐ槍の束を縦で薙ぎ払う恭也。白夜は小太刀を投擲し、更にその影から飛び出した恭也がアンサーへ斬りかかる。
「やはり‥‥破れませんか!」
 小太刀は弾かれ恭也も見えない壁に吹き飛ばされる。その様子にイリスが叫んだ。
「レベッカ、この鎖を! あの時と同じ様に私が介入し、奴をクラックする!」
 頷き走り出すレベッカ。それを狙う鎖を美汐が薙ぎ払う。
 レベッカが魔刀を振るうとイリスが拘束から解放される。するとアンサーはイリスを逃がすまいと攻撃を加えるが、美汐と恭也が壁となりイリスを護る。
「180秒下さい!」
 無数の画面を展開するイリス。その声に応じ白珠はアンサーへ攻撃を仕掛ける。
「貴女の相手はわたしです! 兄さま!」
「合わせるぞ、白夜!」
 白珠の援護を受け白夜とヘイルがアンサーへ挟撃を仕掛ける。攻撃は片っ端から弾かれるが、絶え間なく繰り出される攻撃にアンサーは釘付けになっている。
「シールドを破壊したわ! 今よ!」
 イリスの声と同時にアンサーの周囲をノイズが走る。守りを失ったアンサーは全方向に影の槍を放ち応戦。
「夢は逃げ込む場所じゃない! 目指し、この手で掴むものだ!」
 レベッカの放つ閃光は見えない壁を破砕する。飛来する槍からイリスを護る恭也に後を任せ、美汐もアンサーへと走り出す。
「ヘイルさん!」
「分っている!」

「アンサーシステムスタンバイ‥‥アクセスッ!」

 二人の声が重なる。ヘイルが投擲した苦無を弾いたアンサーへ黄金に輝く美汐が接近。結界を貫き槍を突き立てた。
 続けヘイルが槍を刺し、二人が離れた所へ烈風が襲いかかる。その風に乗って舞う小太刀がアンサーに刺さった直後、背後に回りこんだ白夜が刃を振るう。
「八葉流終の型――八葉白夜」
 刃が煌き影の頭が落ちる。悪夢の元凶は苦しみ悶え、ゆっくりと消滅していく。
「フィロソフィア‥‥あたしの勝ちだ」
 レベッカの呟きと同時、闇は爆ぜて消えた。白い世界に静寂が響き、悪夢は終わりを告げたのであった。



 白い少女の幻影も存在を薄め、今消えようとしている。イリスはその様子を無表情に見つめていた。
「‥‥心惜しいですが、別れの時のようです。どうかいつまでも幸せに。それが私にとっての最高の手向けとなりますから」
「白夜兄さま‥‥」
 いつものように微笑む兄を妹は見つめる。その目に涙はない。
「わたし‥‥幸せです。皆さんのいいところ、思慮深い所だとか仲間思いの所とかいい所を一杯教えて貰って‥‥あと白夜兄さまの――」
 兄の姿はもうなかった。空を見上げる白珠、その肩を恭也が叩く。
「いなくなったりしませんよ。例え死んだとしても、心は此処にあります。今の貴女ならわかるんじゃないですか?」
「想定されただけの幻が闊歩する‥‥それをバグと呼ぶのか、奇跡と呼ぶのか。どちらにせよ、きっと無意味な事ではないわ」
 腰に手を当てイリスが呟く。白珠は頷き再び空を見上げた。
「わたしは泣きません。だって‥‥白夜兄さまにも幸せでいて欲しいから!」
 微笑み振り返るイリス。もうそこにアンサーの姿はなかった。そんなイリスに美汐が笑いかける。
「さ、帰りましょう。アップルパイを焼いてあるんですよ♪」
「‥‥ええ、そうね。帰りましょう、私達の現実に」
「久しぶりの再会ですし、皆さんもご一緒にどうですか?」
 笑いながら白珠の頭を撫でる美汐。こうして彼らは現実への帰還を果たし、今回の事件の労を労うのであった。
「‥‥さよなら、アンサー」
 誰かの声が響き、空白に人影はなくなった。沈黙と無の中、誰かの声が漂う。
「合点がいきました。悪夢を見ていたのは私の方‥‥成程。悪夢と言うものも悪いものではありませんね」
「これで良かったの? 貴方は」
 誰かの声。それに答える声はなかった。沈黙は安らかに舞い上がり、終わる事のなかった物語に終わりを告げる。

 六年の時の流れで変わった物。それでも変わらなかった物。どちらも架空の話、夢の話だ。
 彼らには無限の可能性があり、そして今もそれと戦い続けている。
 仮にどんな未来が待ち受けていたとしても何も変わらない。彼らは今を生き、そして未来を生き続けるのだから。