タイトル:【MN】わっふわふ大進撃マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/23 17:17

●オープニング本文


※ このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません



●分身!
「まったく、たまに来たら掃除しろだのなんだのってくず子はうるさいのですよーだ。ねー、マリーさん?」
「にゃー」
 なにやら猫と一緒にダンボール箱を漁るヒイロ・オオガミ。先ほどまで友人が来ていたのですが、部屋の汚さを指摘されてふてくされているようです。
「わふー‥‥実家から持ってきた荷物、まだ全然紐解いてなかったのですよ」
 おや? 彼女が見つけたのは、強化人間に焼き払われて廃墟になってしまった実家から持ち出した物のようですね。
 大神家の地下倉庫から拾ってきた物なので胡散臭い品物や必要なのかどうかすら怪しいものばかりです。
「かびくさいのです」
「にゃー」
「マリーさんもそう思うですか。でも何かおかしとか入ってるかもしれないのであける」
 多分入ってても賞味期限がきれていますよ。
「むむ、これは‥‥!?」
「にゃにゃ!」
 そうして取り出したのは一冊の古びた本でした。何かこう、縄とかで閉じられてるタイプです。古文書みたいな。
「大神流格闘術秘伝ノ書‥‥なんかよくわかんないけどかっこいーのです!」
 そんな流派本当に実在するんでしょうか。
「ぺらぺら‥‥わふーっ! かびくさいのですーっ!! マリーさん、窓をあけるのです!」
「にゃ!」
 窓辺に移動したマリーさんがシャっと窓を開けます。随分賢い猫ですねぇ。キメラだったらどうしましょう。
「ふむふむ‥‥はおうしょうこう‥‥だめだ、読めないのです。どこか読める所があれば‥‥」
 最早掃除はそっちのけ。いえ、掃除をしていた事すら覚えていないのでしょう。これだから部屋が片付かないのです。
「ぶんしんのじゅつ‥‥分身の術!? わっふー、これさえあればヒイロは無敵なのです!」
 涎を垂らしながらへらへらしているヒイロ。これは良く無い事を考えている顔ですね。
「でぇへへ‥‥よしマリーさん、ヒイロはふえます! そこで見ているのです!!」
「にゃー」
 おっと立ち上がりました。どうやら書物に書かれている事を実行に移すようです。
「まず印を結びます‥‥えーと」
 このシーンは色々な問題でお見せ出来ませんね。
「そして唱える‥‥ぶんちんのじゅつ! あ、かんじゃった‥‥でへへ」
 これは恥ずかしい失敗ですね。思わぬトラブルです。
 しかも何も起こりません。あ、諦めきれないでもう一度やってみるみたいですね。
「ぶんちんのじゅつ! ぶんしんのにゅつ! ぶん! しゅん! の! つ!」
 最早本人も何を言っているのかわからない様子ですね。
 さてさてそんな事を何度繰り返したでしょうか。すっかりしょんぼりしたヒイロは本をもう一度覗き込みます。
「何で出てこないですかー‥‥? あ、なんか書いてある。えーと、最後に決めポーズを取らないと駄目‥‥なるほど!」
 その場でくるくると回転し謎のポーズを取ったヒイロさん。どや顔。そしてそれが惨事の始まりだったのです。
「わあああああ!? なんかいっぱい‥‥ふえてる?」
 ヒイロの頭の上からもりもりと何かが飛び出してきます。それはとても小さなヒイロでした。
「わふー! わふー!」
「わふ?」
「わっふー!」
 もりもりヒイロが増えていきます。その理由はもしかしたら、何度も何度も詠唱したからかもしれません。
「わああっ!? 増えすぎなのですよう! マリーさん、捕獲して元に戻すのです!」
「にゃー!」
 増えすぎたヒイロに流されてマリーさんはどこかへ行ってしまったようです。
「マリーさーん! ていうかもう部屋が限界なんですけど!?」
 部屋の中はもう小さなヒイロで溢れかえっていました。限界を超え、窓ガラスと扉から同時に小さなヒイロが外へあふれ出ました。
 どっと雪崩れるヒイロたち。ヒイロ‥‥あ、オリジナルの‥‥は、そのヒイロの濁流の中で意識を失うのでした。

●大進撃!
「とまあ、そんな所でしょう」
 マグカップを傾けながら微笑むブラッド・ルイス。ネストリング事務所に駆け込んできた九頭竜 斬子は両手に小さなヒイロを抱えて叫んだ。
「何冷静に語ってるんですの!? 見なさいこれを!」
 全長40センチくらいの小さなヒイロのぬいぐるみのような物体を突き出す斬子。小さなヒイロはじたばたしている。
「出来の悪いぬいぐるみのようですね」
「それどころじゃないでしょ!? これどうしたらいいんですの!」
 しかも分裂したヒイロはLH中に散り散りに逃げ去ってしまった。一見すると何かのおもちゃかぬいぐるみにしか見えないのだが、これが実際に生きているちいさなヒイロなのである。
「まあ落ち着いて。例の古文書は僕も読みました。どうやら分身を元に戻すにはオオガミさんの頭にぐいっと押し込むしかないようです」
「‥‥ど、どうやって?」
「泥に沈むようにぐいっと入るようです。試しに捻じ込んでみてください」
 じたばたしている小さなヒイロが涙目でじっと斬子を見る。ゴクリと生唾を飲み込み、床の上に転がったヒイロに近づく。
「わふー‥‥」
「や、やめて! そんなつぶらな瞳でわたくしを見ないで!」
「わふふー‥‥」
「だ、駄目ですわよ! わたくしペットを育てている余裕なんて‥‥でもたまにマリーさん預かってるし一匹くらいなら‥‥あっ!?」
 その瞬間ブラッドが小さなヒイロを引ったくりオリジナルに捻じ込んでしまった。淡い光が広がり、小さなヒイロは消失する。
「わたくしのちいろちゃんがー!」
「既に名前まで!? いや、それどころではないんです。見て下さいこのオリジナルのアホ面を」
 ヒイロは死んだ魚のような目で床に転がっていた。完全なる無気力である。
「分身の術はオリジナルの持つ『存在力』を分身に分け与えて成立する術だそうです。つまりちびヒイロたちが戻らないと、オオガミさんはずっとこのままです」
 眼鏡に手をやり頷くブラッド。それはそれで別にいつも通りな気もするが、仕切りなおして‥‥。
「それじゃあちびヒイロたちを元に戻さないといけないのね」
「ええ。しかも最悪な事にここは対キメラ戦に特化した能力者の町です。今はまだそれほど騒ぎになっていませんが、大事になればそこらへんの能力者が独自に遊撃を開始し、ちびヒイロが討伐される可能性があります」
「‥‥するとどうなるのかしら?」
「オリジナルはずっとこのままですね」
 穏やかではない話である。漸く状況を理解した斬子は斧を片手に歩き出す。
「ちょっと捕まえて来ますわ!」
「オリジナルはこちらで管理しておきます。可能ならば協力者を募り、迅速に対処してください」
こうして夥しい量のちびヒイロを捕獲する戦いが始まるのであった――。

●参加者一覧

巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
茅ヶ崎 ニア(gc6296
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●追走!
「斬子! お菓子持って来いってどうしたん!?」
 斬子に呼ばれネストリング事務所にやってきた三日科 優子(gc4996)。斬子はそんな優子に事情を説明する。
「かくかくじかじかだいはつた●と!」
「なるほどな。そりゃ大変や、はよ探さんと」
「ええ。では早速‥‥」
 意気込んで歩き出そうとする斬子の背中をじっと見つめる優子。それからふと気付き、斬子のドリルを鷲掴みにする。
「そぉい!!」
「な、何をするんですの!?」
「その斧どうするつもりなん!」
 見れば斬子は愛用の大斧を担いでいた。彼女は真顔で優子に返す。
「勿論これでヒイロさん達を捕まえるんですわ」
「捕まえるのに斧を使ったら危ないやろーーー!」
 危ないやろー‥‥やろー‥‥やろー‥‥。
 ツッコミと同時に響き渡る声。二人どころか周囲の人々まで固まっていると、マイペースに歩いてくる立花 零次(gc6227)の姿が。
「あれ? 九頭龍さんじゃないですか。どうしたんですか、斧なんか持って?」
「ああ、丁度いい所に! 実はこの斧でちいさいヒイロさん達を捕獲しに‥‥」
「だから斧使ったら危ないって言っとるやろーッ!!」
 再びこだまする声。そうして零次にも事情を説明する事になった。
「ああ、それで先程から小さいのが、わふわふチョロチョロしてるんですね」
 振り返れば道端を小さいヒイロがちょろちょろしている。
「意外と驚かないんやな」
「ヒイロさんなら何が起きても驚きはしませんよ」
 爽やかな笑顔で何か言っていた。
「とりあえず大変でしょうし、俺もお手伝いしますよ。まずはお肉とかポテチを手に入れましょう」
「ポテチなら持ってきとるで」
 大量のビニール袋を掲げながら頷く優子。三人は次なるエサを求め食料品店へと向かった。一方その頃‥‥。
「ラストのパフェ‥‥あれが効いたな」
 焼肉屋の暖簾を潜り通りに出てきたのは巳沢 涼(gc3648)。学校帰りなのか制服姿である。
 腹を摩りながらさて帰ろうかと歩き出したその時、道端に何かが転がっているのが見える。
「こいつは‥‥!」
 緑ヒイロが道端でごろごろしていた。
「か、かわいい‥‥」
 ぱあっと表情が輝く涼。こう見えても可愛い物には割と目がないのだ。
「これは持ち帰るしかないな」
 転がっている緑ヒイロをひょいひょい拾い上げ、小脇に抱える涼。一見するとマッチョがぬいぐるみを大量に抱えている様相である。と、その時。
「待ちなさい! こらーっ!」
 向かいの通りにあるラーメン屋から叫び声が聞こえる。直後、開いた扉から黄ヒイロが何匹かラーメンのどんぶりを持って逃げていく。
「なんだ‥‥って、茅ヶ崎さん!?」
 慌てて茅ヶ崎 ニア(gc6296)に駆け寄る涼。ニアは凄まじい形相でちび達を追い回している。
「何やってるんだ茅ヶ崎さん‥‥って!」
 近づいてきた涼が持っていた緑ヒイロをもりもり頭から食べるニア。
「メロンみたいな味がする‥‥」
 そうして何匹か緑ヒイロをつまみ食いした後、ニアは本命を追いかけて走り去っていった。
「何がどうなってるんだ‥‥? ていうかこれ食えるのか?」
 腕の中でぐてっとしているヒイロ達。涼は複雑な表情を浮かべた。
「あ、あれ? 今走って行ったのは先輩‥‥にしては小さいような?」
 道端を歩いていたイスネグ・サエレ(gc4810)の脇をどんぶりを頭の上に担いだヒイロ達が駆け抜ける。首をかしげていると更にニアが突っ込んできてイスネグを撥ねていった。
「っとと‥‥今のはニアさん?」
 尻餅をついたまま首を擡げるイスネグ。そこへ涼が走ってくる。
「イスネグさーん!」
「涼さん、これは一体‥‥というか何を抱えているんですか?」
 涼の手を借り立ち上がるイスネグ。そこへ大量の肉とポテチを持った三人組が走ってくる。
「あら、二人ともいい所に!」
 というわけで斬子から説明を受ける二人。
「それでお肉とポテチを買い込んできたんですか」
「ヒイロさんを捕獲=食べ物で釣るって、常識じゃないんですか?」
「まあ、先輩だしなぁ‥‥」
 零次の言葉にイスネグは頷くしかなかった。
「なあ、さっき既に茅ヶ崎さんがちびヒイロを食べてたんだが‥‥大丈夫か?」
 涼の一言で場が静まり返る。
「とりあえずネストリングに行って準備をして来ましょう」
「だな。ヒイロちゃんも連れてくるか」
 イスネグの提案に賛成する涼。こうして本格的なヒイロ捕獲作戦が始まるのであった。

●捕獲!
『えー、只今LH中にビーストマンのスキルを使う40cm程のぬいぐるみ風生物が逃亡しております。発見、捕獲した際は討伐せずこちらまでご連絡をお願いします』
 広場にあるスピーカーから涼の声が聞こえる中、犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)は槍を振り回していた。宿敵に勝利する為かどうかは知らないが、トレーニングの最中である。
「騒がしいな‥‥」
 槍を肩に乗せながら汗を拭く犬彦。ふと振り返ると木の影からこちらをのぞく小さな影が一つ。
「わふー‥‥」
「なんだこのちびっこいのは‥‥ヒイロの試●召還獣か‥‥?」
「わふふー」
 一匹の赤ヒイロがちょこちょこ近づいてくる。犬彦は眉間をもみもみしつつ呟いた。
「‥‥疲れてんのかな」
 見ればちびヒイロは犬彦の足元に立ち、足をてしてししている。犬彦はじっとそのヒイロを見つめ続けていた。

「先輩、変わり果てた姿に‥‥」
「あーうー‥‥あー」
 ヒイロの様な何かを回収した一行は準備を追え再出発する。そこへ子猫が一匹姿を見せる。
「おや、あなたがマリーさんですね。お噂はかねがね。宜しければ手伝っていただけませんか? もちろんタダとは言いませんよ」
 お肉を取り出す零次。猫はちりんと鈴を鳴らしてヒイロを見やる。
「にゃにゃ」
 どうやらこんなのでも一応飼い主なのか、マリーさんは協力するのに吝かではないようだ。
 こうして猫を一匹加えた謎の集団はまず食べ物を使ってヒイロを誘き出す為近くの公園へと向かった。
「檻の中にポテチを設置して‥‥ヒイロちゃんホイホイの完成だぜ!」
 絵的に非常に問題ありげなホイホイを設置しサムズアップする涼。一行は物陰に隠れ様子を見る。
「って、物凄い勢いで集まって来てます!」
 バイブレーションセンサーを発動したイスネグが叫ぶ。見ればペット用の檻に彼方此方からヒイロが群がっている。
「カラフルやな‥‥」
「とりあえず眠らせましょう」
 イスネグが子守唄を発動するとちびヒイロ達は折り重なって山のようになったまま眠り始めた。
「しかし黒と白が全く入っていませんね」
「‥‥所で零次さん、何にちびヒイロを詰め込んでるんですの?」
「漁業用の網ですよ?」
 網にぎゅうぎゅう詰めになったヒイロがわふわふもぞもぞしていた。
「このパターンでもう少し捕獲出来そうですね」
「そうだな‥‥っておい、あれ!」
 バイブレーションセンサーを発動しているイスネグの肩を叩く涼。彼が指差す先には簀巻きにされたニアが転がっていた。
「ニア! 何しとんねん!?」
 しかもニアは黒ヒイロに囲まれ先程から蹴られたり上に乗られたり髪の毛を引っ張られたり顔にラクガキされたりしている。
「こらー! やめんか!」
「わふふふ‥‥」
 何やら卑屈な笑みを残し脱兎の如く散る黒ヒイロ達。優子に救助されたニアは涙目だ。
「うぅ、なんで私ばっかりこんな目に‥‥私はただ大ブタニンニクヤサイマシマシアブラカラメが食べたかっただけなのに‥‥」
「大ブタニンニクヤサイマシマシアブッ」
 舌を思い切り噛むイスネグ。血が飛び散った。
 名前は出せないが某ラーメン屋にて行列に並んだ後ニアはいよいよお目当てのラーメンにありつく直前だった。そこで黄ヒイロにラーメンを奪われてしまったのだ。
 しかもそれを追いかけていたら突如左右の物陰から黒ヒイロが跳びかかり、あっという間に簀巻きにされてしまった。
「仕方ないなぁもう‥‥このLH特製お土産饅頭を」
 と、饅頭を差し出したイスネグの頭にニアは齧りつく。
「それ饅頭じゃないです‥‥私の頭です」
「そういえばLH饅頭不人気ですね。さっきのちびヒイロ達もLH饅頭は食べてませんでしたし」
「もう何も怖くない‥‥」
 零次の言葉に膝をついて項垂れるイスネグ。
「まあまあ。茅ヶ崎さん、日本酒でもどうだ?」
「余計な事すなっ!」
 優子の鋭いチョップを側頭部に受ける涼。気を取り直し、チョコレートをニアに差し出す。
「しかし黒ヒイロは厄介だな。つーかヒイロちゃんより賢いんじゃねーか?」
「めちゃくちゃ素早かったわ。それにあいつら連携するのよ‥‥もぐもぐ」
 チョコやお菓子を食べて人心地ついたニアも立ち上がり捕獲に参加する。こうして一行は更にヒイロを捕獲していく。
 道端に転がっている緑ヒイロを拾っては詰め、拾っては詰め。
 黄ヒイロは食べ物で釣って眠らせる方法が有効だった。
「マリーさん、お願いしますね」
「にゃにゃ!」
 木陰で纏まってぷるぷるしていた青ヒイロはマリーさんが追い立て、逃げてきた所を捕まえた。
「赤はイチゴ、黄はレモン‥‥青はブルーハワイみたいな味ね」
「ニアさんそのちび先輩は食べ物じゃないです‥‥」
 そんなわけで色々あった捕獲戦ですが、もう佳境を迎えます。諸事情で。

●決着!
 放送の成果もあり、各地から続々と集められるちびヒイロ達。残すは主に白と黒だけなのだが‥‥。
「これは‥‥!」
 思わず固唾を呑む零次。広場では白ヒイロと黒ヒイロの合戦が始まっていた。
 意地でも戻らない黒とそれを戻そうとする白が凄まじい乱闘を繰り広げているのである。
「所でニアさんはいつ着替えたんですの?」
「いや、着る間が中々なくてさっき」
「それは何ですの?」
「八つ◯村」
 背後から斬子にどつかれ倒れたニアに黒ヒイロが駆け寄り頭をげしげし蹴って逃げていった。
「んがあー! 悪い子はいねがー!」
 黒ヒイロに翻弄されるニア。戦況はやや白が劣勢のようだ。
「このままでは‥‥っと、マリーさん?」
 振り返る零次。どこかへ行っていた子猫が戻ってくると、遅れて犬彦が走ってくる。
「何やこの騒ぎ?」
「実はかくかくじかじかで‥‥。犬彦さんはどうしたんですの?」
「いや、あいつを鍛えてた」
 指差す先には一匹の赤ヒイロが。頭に鉢巻を巻いた赤ヒイロは黒ヒイロを次々に撃退し大立ち回りしている。
 この騒動の間犬彦はずっとヒイロを鍛えていた。結果このヒイロは凄まじい速さで技を会得し強くなったのである。
「うちの見込み通りや。他のちびヒイロを打ち破りナンバーワンを目指すんや!」
「わっふーっ!」
 こうして犬彦ヒイロの活躍で白ヒイロが盛り返し、黒ヒイロ達はあえなくお縄となった。
「マリーさんが犬彦さんとあのちびヒイロを連れてきてくれたんですね」
「にゃ」
 零次の足元で胸を張る子猫。犬彦は自分のヒイロを肩に乗せ踵を返す。
「うちらはまだ特訓の途中やからな。後の事は任せるわ」
「わふ!」
 こうして白ヒイロをも仲間に加えた一行はLH中を走り回りちびヒイロ達を捕獲。増殖騒動は一応の鎮静化を見せたのであった‥‥。

「いや〜、流石に疲れたわ‥‥」
 事務所に戻ってきた一行。優子は頭の上に緑ヒイロを乗せたままソファに腰掛け胸元を煽いでいる。
「とりあえずヒイロに少しずつ戻してみんか?」
「そうですね。ではこの白ヒイロを」
 限りなくヒイロに近い何かと化した本体に白ヒイロを次々に捻じ込むイスネグ。するとヒイロはシャキっと目を覚ます。
「皆のお陰で私も元に戻る事が出来たよ。今回は私の軽率な行動で皆に苦労をかけてしまったね‥‥本当にありがとう」
 イスネグの手を取り爽やかに微笑むヒイロ。そのままいそいそとみんなにお茶を入れたりお茶菓子を出したりしている。
「もう、このままでええんちゃうやろか‥‥」
 網の中から出されたヒイロ達が何匹か事務所をウロウロしているが傭兵達は特に気にせずかまったりして遊んでいる。
「なんか先ほどから赤い先輩が膝蹴りしてくるんだけど‥‥痛いな」
「こらっ、噛み付くな!」
 イスネグは何故か人気で色々なヒイロにボコられている。涼はエアーバットをちょろちょろして遊んでいたが、バッドに噛みつかれていた。
「斬子さんどれにします? 私は緑ですかね」
「じゃあわたくしは黄‥‥って、さっきから何で和んでるんですの!?」
 持ち帰る気満々の零次を初め全員につっこむ斬子。
「何! みんなが脱線しとると! ちいろやみんなが欲望に負けてもウチは決して欲望に負けうっめ」
 唯一のツッコミとも言える優子もさっきからお菓子を食べている。
「まあまあ。今から戻しますから」
 イスネグは身体中のヒイロを引っぺがしながら涼に目配せする。そうして椅子の上で新聞を読んでいるブラッドを睨んだ。
「ところでブラッドさん、ちょいちょい‥‥」
「ん? どうしました?」
「あーっと手が滑ったー!!」
「隙アリ!」
 涼とイスネグが同時にブラッドへ襲い掛かる。そうして次々にちびヒイロを捻じ込んでいく。
「や、やめろォ‥‥ぐああああーッ!?」
 結果、ブラッドは床の上でごろごろしながらお菓子を食べつつぷるぷるしていた。
「これはひどい」
「へっ、いい気味だぜ」
「君達いじめはよくないよ! ブラッド君に謝るんだ!」
 オリジナルが何か二人に言ってくるが二人は余り気にしなかった。
 こうして残りのちび達もヒイロに無事戻される事になった。ニアが食べたりしていたので全部とは行かなかったが、まあどこかおかしくなっていても特に誰も気にしないだろう。
「スカトーとワンピ、タイトスカート」
 優子がちび達に何か洗脳を仕掛けていたが、この結果もまた定かではない。
「色々あったけど無事捕獲完了ね。それじゃあ乾杯しましょう! そしてラーメン食べに行きましょう!」
 ニアの提案でぞろぞろと事務所を後にする傭兵達。そんな中一人残ったイスネグが黒ヒイロを手に取る。
「科学者は度胸、なんでも試してみるのさ!」
 この後ラーメン屋にて黒ヒイロを自分に入れたイスネグがニアのラーメンを奪ってしまいまた一騒動あるのだが、それはまた別のお話‥‥。

「今日の特訓はこれくらいにしておくか」
「わふっ!」
「見事最後まで生き残り、ヒイロに戻る権利を手に入れるんやで」
「わっふー!」
 夕暮れを背に赤ヒイロを頭の上に乗せた犬彦が帰っていくのであった。めでたし、めでたし‥‥。



「ねーねーくず子、ブラッド君とイスネグ君が元に戻らないんだけど」
「えっ?」



 めでたしめでたし!