タイトル:【AC】熱砂戦線マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/12 16:18

●オープニング本文


「あー‥‥だるい。暑い。日本がいいよなやっぱ‥‥日本ってよ、素晴らしいバランスの上に成立してるよな」
「え? 例えば?」
「四季とか。先進国だし‥‥ま、今となっちゃ先進国なんて考え方自体ズレてんのか」
「ストレートフラッシュだ」
 その声で場が沈黙する。その後資材用の木箱を囲んでいた三人の男の内一人が立ち上がり叫んだ。
「中里てめぇ、イカサマしてんじゃねえぞ!? さっきからずーっとお前の一人勝ちじゃねえかよ!?」
「おっと、随分な言われようだな。お前の目には俺がイカサマをしたように見えたか」
「見えねぇけど絶対してるって!」
 暫くそうして騒いでいたが騒げば騒ぐだけ暑くなるので大人しくする事になった。
 荒野のど真ん中、野営地と呼ぶにはおざなりな僅かばかりの兵器と補給品をただ雑に並べただけのこの地で三人の仕事はポーカーに勤しむ事くらいであった。
「なんかさ、俺たちこんなんでいいのかな。ラストホープの方とか大変なんだよね?」
「って言われてもよ、俺たちが行った所でどうにもなんねーし」
「エジプトの変態仮面もバリウスのように聞き分けが良ければいいんだがな。いっそずっと休戦していてもらいたい物だ」
 カードを交えながら三人は各々の意見をだらだらと並べる。足元を吹く風は僅かに離れた地から砂を運び、膝を着いたKVを覆う防塵シートに溜まった砂は時間経過を如実に物語っていた。
「帰ってこねーな隊長」
「遅いね‥‥何かあったのかな」
「ロイヤルストレートフラッシュだ」
「中里ォオオッ!! お前ロイヤルストレートフラッシュが自然に出来上がる確率知ってるかッ!?」
「二人とも飽きないねー‥‥。それより隊長だよ。どこ行ったと思う?」
「知るか! 俺あの女嫌いだ!」
 派手に赤く染めた髪をわしわしと掻き見出し気の短そうな青年はカードを置いて水の入ったペットボトルを手に取り言う。
「第一、あいつは得体が知れねぇんだよ。それに気持ち悪ぃ」
「大方俺たちと同じく何かやらかして飛ばされたんだろう。気持ち悪いというか、あの人の場合は少し世間一般と考え方がずれているというかな」
 ぼさぼさの長い前髪の合間からカードを見つめ、男は静かに息を吐いた。顎の無精髭を弄りつつカードを束ねシャッフルする。
「やっぱりここって懲罰部隊なのかな? それにしては楽っていうか、やる事ないっていうか‥‥」
 長い後ろ髪を三つ編みにした小柄な青年は溜息を一つ。ずり落ちた眼鏡を中指で持ち上げながら憂鬱そうに問う。
「じゃあさ、隊長は何をやらかしたんだろう?」
「どこかのバカみたいに上官でも殴ったんじゃないか」
「あ? 中里てめぇ‥‥何でそれ知ってやがる」
「風の噂とか。外山は上官を殴って、内村は‥‥敵前逃亡だったか。ちなみに俺は命令無視」
 三人は各々多い目を浮かべる。それは別々の過去を思い起こしていた。
「『あんな事』してまだ生きてるだけで俺たちも驚きだけどさ。隊長ってさ、もうバリバリの軍士官って感じだったんじゃないの? なんで俺たちの隊長なのかな」
「情報通の中里サンはなんか聞いてねえのか?」
「んー‥‥そうだな。噂によると彼女は――」
 と、男が口を開いたその時である。その噂をしていた隊長が姿を現した為、一瞬で奇妙な空気になってしまう。
「‥‥な、なんだ? 間が悪かったか?」
 首を横に振る三人。まさかお前の噂をしてましたよとは言えないので、一先ず黙っているしかない。
「次の作戦が決まった。中里、外山、内村‥‥出撃の準備だ」
 首を縦に振る三人。その様子に玲子はきょとんと目を丸くする。
「なんだ、今日はバカに聞き分けがいいな。良い事でもあったのか?」
「い、いやいや‥‥! それより今度は何をするんだ?」
「ああ。これまで通り戦場の隅っこでお前達の大好きなKV戦闘だ。ま、別部隊の援護というか輸送路の確保というか‥‥なんだ? 悪い物でも食べたか?」
 これまで何度も命令を伝えてきた玲子だったが、部下がこんなに大人しく話を聞いているのは始めての事だった。思わず調子が狂ってしまう。
「まあいい、準備は進めておけよ。それではな」
 颯爽と踵を返し立ち去っていく玲子。三人は直ぐに顔を寄せる。
「で? 隊長の噂ってなに?」
「これはあくまで噂でな。俺も確証はないんだが‥‥」
「もったいぶらずに早く言えよ! 気になんだろが!」
「ああ、それが‥‥」
 と、口を開いた所で何故か再び玲子が姿を現した為三人は同時に背後に飛び退いた。
「作戦前に水分補給を十分に‥‥お前ら‥‥頬を寄せ合って何をしていたんだ‥‥」
 両手に水の入ったペットボトルを持った玲子は何とも言えない微妙な表情を浮かべている。
「ま、まあ隊の中での恋愛にあれこれいうつもりはないが‥‥」
「ち、違いますよ! 俺たちはただ隊長の‥‥」
「私の?」
「‥‥‥‥隊長の為にも頑張ろうねって一致団結していたところで‥‥」
 思わず眼鏡がずり落ちる。玲子は酷く感激した様子で三人に何か物凄い勢いで労いと激励の言葉を掛けまくり、ペットボトルを置いて退散した。
「‥‥で、噂は!?」
「これが終わったらにしよう。俺はホモ疑惑を向けられるのは勘弁だ」
 こうして九頭竜小隊はいつものように戦場へと向かうのであった。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
皆守 京子(gc6698
28歳・♀・EP
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●出撃
「『6機2班で担当区域内にて相互最大目視距離を保ちつつ、威力偵察敢行。見敵次第、別班に連絡を入れつつ適時対処』――ですか」
「良く言えばそうだ。悪く言えば『敵を倒せばなんでもいい』、だな」
 出撃前、傭兵達は野営地にて準備と作戦の打ち合わせをしていた。飯島 修司(ga7951)は口元に手をやりつつ机の上にある地図を眺めている。
「確かに敵の正確な位置までは把握出来ていない状況下での殲滅戦となれば、12機でゾロゾロ動いても効率は良くないですな」
「二手に別れるという提案はいいな。その位で妥当だろう」
 頷く玲子。そんな感じで話が纏まった頃、地図を閉じる玲子にグロウランス(gb6145)は言った。
「では、よろしく、九頭竜中尉。‥‥ふむ、堅苦しいので『きゅーちゃん』と呼んでも構わないかな?」
「ああ、一向に構わん。此方こそ宜しく」
 全く気にする気配のない玲子はグロウランスに差し出された左手に合わせ慌てて右手を引っ込め左手で握手を交わした。
 一方その頃並んだ傭兵のKV達も最後の準備を終えていた。荒野の果てに広がる砂漠を眺め、ティナ・アブソリュート(gc4189)は思わず呟く。
「何でこんな何も無い場所に陣取りますかねー?」
「カカッ、まるで野良キメラだな。まぁゴーレムでもキメラでもどっちでもいい。早く喰いたいねぇ」
 煙草に火を点けながら笑う杜若 トガ(gc4987)。強い風は支援を巻き上げ彼の髪を靡かせる。
「コンテナは弾薬タイプでお願いします。もしかしたら連続で戦闘になる可能性がありますので‥‥」
 クノスペに最後のコンテナが積み込まれるのを確認しつつネクタイを緩める皆守 京子(gc6698)。その横顔にはじっとりと汗が浮かんでいる。
「ふぅ‥‥見渡す限り砂ばかり、気が滅入るわ」
 とは言え働かない訳には行かない。ニート生活を続ける姉に対する弟の視線に比べたら労働の方が幾分かマシという物だろう。
 そんな京子のクノスペの隣、既に装甲を排除し身軽になったミルヒ(gc7084)の天が跪いている。
「事前に装甲を外していくのか?」
「はい。機動力を重視しようと思って‥‥」
 地堂球基(ga1094)と肩を並べ言葉を交わすミルヒ。そんな傭兵達の所へ最終確認を追えた玲子が歩み寄る。
「九頭竜隊、お会い、するの、極北振り、です、か‥‥場所、両極端、です、ね‥‥」
 コンテナの上に腰掛けていたルノア・アラバスター(gb5133)はストンと玲子の隣に着地して声をかける。
「うむ、久しぶりだな。相変わらず小さくて可愛くて何よりだ」
 爽やかな笑みの玲子にぐりぐり頭を撫で回されるルノア。そこから解放されると九頭竜隊の隊員達を指差して言った。
「あぁ、そう、でした‥‥後で、話が、あります。私の、所に、来るように」
 そのまま自分のKVに向かって行くルノア。隊員達は顔を見合わせて言った。
「俺らなんかしたっけか?」
「さ、さあ‥‥?」

●熱砂
 こうして九頭竜小隊と傭兵達、合計十二機のKVは二つの班に別れて砂漠を行軍する事になった。
「ということで、中里さんと内村さんは宜しくお願い致します。私は前衛として出ますので、援護射撃を頂ければ、と思います」
「援護射撃か‥‥お、俺にやれるかな」
 修司のディアブロの横を走りながら不安げな中里。修司は苦笑気味に続ける。
「まあ、余り気負いすぎずに。傭兵なぞに言われるまでもないでしょうが、当たるかどうかよりも、撃たれているという事実を突きつける事が肝要ですからな」
「そ、そう? 撃ちまくるだけなら得意なんだ。なんとかなるかな!」
「‥‥まあ、当てた方が良いのは言うまでもありませんけどね」
 ですよねーとか言って沈黙が訪れる。そんな様子にグロウランスは首を傾げた。
「しかし、妙な雰囲気の小隊だな。隊長が美人さんなのは実にいいが‥‥」
 その隊長はと言うと、ティナの機体とかなり接近して走行していた。
「玲子さんと一緒ー♪ 今回も頑張りましょうね!」
「ああ! 私達二人が揃えば無敵だ、ティナ君!」
 目をキラキラさせる玲子とティナ。その後方から眺めていた京子は苦笑しながら呟く。
「あの、こんな悪路でそんなに接近して走行してると‥‥あ」
「ふぬおっ!」
 躓いて転倒する玲子のフェニックス。グロウランスの笑い声が響き、京子は差し出しかけた手を引っ込めながら溜息を吐いた。
「お楽しみの所すみません。前方に敵影六‥‥ゴーレムです」
 陽炎の向こうから迫る影に気持ちを切り替える。
「――さぁて、お待ちかねだ。狩りの時間と洒落込もうぜぇ!」
 トガの声に各々得物を手に加速するKV達。ゴーレムもそれに応じ、防塵マントをはためかせながら重い剣を手に前進を開始する。
「前に出ます。お二人は援護射撃を」
「って、言われてもなー!」
「落ち着けよ、内村」
 こちらはA班、機槍を手に飛び込む修司のディアブロ。二機のCOPKVが機銃を構えそれを援護する。
 ゴーレムはフェザー砲で迎撃の姿勢を取る。それを物ともせず突撃する修司の機体を追い抜き、トガのフェンリルがジグザグに砂漠を駆ける。
 砂地を四歩足で身軽に駆けるフェンリルはゴーレムへと跳びかかり爪を振り下ろす。フェザー砲の閃光を掻い潜りながら駆け回るその機体へ注意が向いた所、修司のディアブロが槍を繰り出した。
 脇腹に鋭く食い込んだ槍が炸裂、ゴーレムの上半身を吹き飛ばす。ディアブロは爆炎を突きぬけ次の得物へと機関砲を向ける。
「ほー、一瞬だよ」
「むしろ可哀想だね‥‥」
 感心した様子で呟く中里と内村。そこへルノアの声が響く。
「ぼんやり、しないで。援護射撃、お願い」
 ルノアはチェーンガンを構え、ブレス・ノウを起動。敵の動きを予測して放たれた弾丸は走るゴーレムの身体を削るようにして穴だらけにしていく。
「援護射撃必要か?」
 ぼやく中里。一方B班もゴーレムと接触、交戦を開始していた。
「前に出過ぎず、足を引っ張らないように注意し、味方から離れないように‥‥」
 砂漠を走る京子のクノスペは悪路を物ともせず砂丘を飛び越えていく。操縦桿を握るその指に力が入るのはこれが彼女の初仕事だからだろう。
「不整地走破性が高くて良かった。この機体なら!」
 ハンドガンを連射しながら走るクノスペ。それを後方でスナイパーライフルを構えた球基のシュテルン・Gが援護する。
「孤立して分断されるなよ。一対多で圧倒すれば決して勝てない相手じゃないからな」
「援護感謝する。ティナ君、仕掛けるぞ!」
「あ、やっぱり特攻するんですね‥‥」
 突撃する玲子に苦笑しつつ、予想通りなので遅れずついていくティナ。盾を構え、フェザー砲の弾幕を抜けていく。
「私だけに出来る事――この機体となら。一緒に戦ってね、白」
 操縦桿を握り締め顔を上げるミルヒ。重苦しいドレスを脱ぎ捨てた白い天は陽炎の中を泳ぐように軽やかに突き進んでいく。
「天‥‥最新鋭だな。成程、速い」
 思わず呟く玲子。砂を巻き上げながら移動する天はフェザー砲を回避しつつチェーンガンを構える。
 軽やかな移動で敵を翻弄する天は二基のファランクスと同時にチェーンガンにて攻撃を開始。束ねた火力でゴーレムを圧倒する。
 援護を受けて距離を詰めた玲子とティナはそれぞれ剣にて別のゴーレムへ攻撃。ティナが槍でゴーレムを転倒させると、玲子はそれを踏みつけて別のゴーレムに襲い掛かる。
 頭部をブレードで薙ぎ払う玲子。続け、ティナが倒れたゴーレムに刃を突き立てた。
「玲子さん、急に飛び込んで来たら危ないです!」
「ははは、すまんすまん」
 そんな感じであっという間にゴーレム六機がダウン。グロウランスは最後の一機にレーザー砲を撃ち込みながらレーダーを見やる。
「余裕だな。近場に砂竜と別のゴーレムの反応がある。もう一杯引っ掛けに行くか?」
「いいねぇ。こんなんじゃ全然喰い足りねぇからな」
 やる気満々のトガ。京子は振り返り玲子に冗談交じりに言う。
「ボーナスは喜んで頂きますよ? 九頭龍中尉」
「はっはっは! 皆守君、そんなの出ると思うか?」
「出ないんですか‥‥」

 そんな訳で二回戦に。移動しつつグロウランスはレーダーを見ながら指示する。
「ふむ、正面にキメラ。数は‥‥大群だな、接近中。更に奥にゴーレム六機さ」
「さっきの倍以上じゃないですか。うぅ、ボーナス‥‥」
 しょんぼりした様子で呟く京子。トガのフェンリルは仲間を追い抜きキメラへ向かう。
「炙り出してやるぜ!」
 走りながら周辺にグレードランシャーを乱射するトガ。爆風で砂が空に舞い、同時に飛び出したキメラが砂上を滑るように傭兵達へ迫る。
「意外と大きいな」
 接近してくる砂竜をライフルで撃ち抜く球基。キメラはアッサリ倒れるが、数はざっと見ても二、三十程度はいる。
 京子はガトリング、ミルヒはチェーンガンでこれらを迎撃。飛び付く撃ち漏らしをティナ、玲子が切り払う。
「潰せたのは半数程か。キメラは反転してくるぞ。ついでに正面にゴーレムだ」
 盾で串刺しにしたキメラを放り投げながらレーザー砲を連射するグロウランス。トガは走ってキメラを追いかけながら叫んだ。
「キメラは俺が潰す! ゴーレムの方は任せるぜぇ!」
 大量のキメラに追われる九頭竜小隊の面々。その間抜けな様子にトガはレーザー砲でキメラを倒しつつ語る。
「おら、もうちょい気張りな。帰ったら上手い酒が待ってるぜぇ」
「と、申されましてもー!」
「以前あなた達の任務へのやる気を見て一つ言いたい事があったんですけど‥‥良いですか?」
 槍を手にしたティナのアッシェンプッツェルが振り返り隊員達を睨む。
「もし玲子さんを困らせたり悲しませたりしたら‥‥男に生まれてきた事、一生後悔させますからね♪」
 槍を突きつけられ仰け反るCOPKV三機。そこに冷静なミルヒの声が響く。
「あの‥‥敵、来てますけど」
 慌てて機銃を構える九頭竜小隊。最早パニック状態である。
「ちくしょう! 撃ちまくればいいんだろ!」
「出来れば当てろよ」
 そうこうしている間に迫るゴーレム六機。仲間の前に立ちフェザー砲を盾で防ぎながら応戦するティナ。
「むぅ、残念ですがお説教は後です」
 剣を携えるゴーレムへ剣を手に駆けるルノア。細かな高速移動で砂を何度か巻き上げながらゴーレムへ飛び込み槍を突き刺す。更にチェーンガンにてゴーレムを二機あっという間に片付けてしまう。
 修司はそれに続き前進。左右から跳びかかるキメラを旋回気味にディフェンダーで両断しつつゴーレムへ接近。防御に使用された大剣ごと薙ぎ払い、ゴーレムを撃破する。
「残り三機、ですな」
 軽快に移動しつつゴーレムに束ねた火力で攻撃するミルヒ。素早く背後に回り混み、機鋸を叩き付ける。
「おいおい、全部喰っちまうなよ。俺にも一匹取っといてくれよ――っとぉ!」
 軽やかに砂地を舞うフェンリル。傷ついたゴーレムの傍に着地し、その光の牙でゴーレムを食い千切る。
「クカカッ、テメェは野良犬の餌がお似合いだぁ!」
 脇から肩口まで引き裂かれたゴーレムが倒れる。残るゴーレムは二機。無数のKVに囲まれ、一斉に攻撃を受ける。
「これはひどい‥‥」
「内村、ボヤいてねぇでキメラなんとかしろキメラ!」
 こうしてキメラも無事撃退される事になり‥‥。
「よし、この戦域もクリアだが‥‥他戦域ではまだ戦闘が続いているようだぞ?」
 他区域の通信を聞きながらグロウランスが片目を瞑り笑う。小隊の面々はあからさまに嫌そうな様子だ。
「機体は、全然、平気だけど」
「弾薬にも限りという物がありますからな」
 ルノアと修司の言葉に頷く面々。この面子ならば戦闘継続は可能だろうが、それにも限度はあるだろう。と、その時。
「そうだろうと思って弾薬なら積んできましたけど」
 自らが詰んだコンテナを指差す京子のクノスペ。小隊の面々は目を真ん丸くしていた。
「クカカッ! そう言う事ならしもう一回戦行こうじゃねーか」
「やっと慣れて来た所ですしね」
 笑うトガに続きミルヒが微笑む。傭兵が弾薬を補給する砂漠の中、九頭竜小隊の絶叫が響き渡ったとかなんとか。

●活躍
 それから何度かの連続戦闘を終え、流石にくたくたになった傭兵達は野営地へと引き上げていた。
 結局彼らの活躍は九頭竜小隊に想定されていた物より遥かに凄まじく、援護された‥‥というか横取りされた別の隊も驚いていた程だった。
「‥‥所で、あれはどうしたんだ?」
「勉強会、でしょうか?」
 腰に手を当て指差す球基にミルヒは首を傾げる。
 地を焦がすような日差しの下、正座している小隊の男三名。彼らの前にはパラソルの下に立つルノアの姿がある。
「なんつーか、哀れな絵だな。いや、お似合いなのか」
 けらけらと笑いながら煙草の灰を落とすトガ。暫く少女の説明は続き、三人は死にそうな顔をしていた。
「あ〜お姉ちゃんだけど。今から帰るからビール買って冷やしといて。金? 後でちゃんと払うってば‥‥」
 野営地の電話を借りて弟へ電話をかける京子。玲子はその様子を背後からじっと眺めていた。
「何と無く、君とはいい友人になれる気がするよ‥‥」
「はい?」
「いや、なんでもない。それより今回の活躍は無意味ではなさそうだぞ。意外とボーナスが出るかもしれん。そっちで話を聞いてくるといい」
 ぱあっと微笑み、指差されたテントへ走る京子。ティナは背後で手を組みつつ玲子に歩み寄る。
「玲子さん?」
「ああ、少し考え事をな。傭兵の力を借りたにせよ我が隊が認められたんだ。複雑な心境だよ」
 そう言って微笑む玲子の横顔は何故か寂しげだった。ティナは特に深く詮索せず、肩を並べて荒野の果てと目を向ける‥‥。
「ところで戦闘を見てて疑問に思ったんだが、お前さん方何で軍人やってるんだ?」
「今足痺れてんだ、見てわかんねーのか?」
 漸くルノアから解放された三人に問いかけるグロウランス。外山は不機嫌そうに唾を吐く。
「何でって言われてもな、考えた事もねーよ」
 立ち去る外山の姿を見送るグロウランス。その隣に中里が立つ。
「気にしないでやってくれ。恐らく吹っ切れてないんだろう、昔の事が」
「昔の事?」
「色々あるって事さ。あんたもそうだろ?」
 溜息混じりに笑う中里。グロウランスは腕を組み一緒に外山の背中を見送った。見送っていたら横から出てきたティナに捕まり説教されていた。
「‥‥な? 色々あるだろ?」
 こうして依頼は無事に成功した。傭兵達の活躍は期せずしてこの作戦に大きく貢献し、更に九頭竜小隊の悪評に僅かばかりの花を添えたかもしれない。
 その僅かな変化が果たして望まれた物なのか、望まれぬ物なのか。それはまだ誰にもわからないのだが――。