タイトル:ヒイロ、服を買う!マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/13 00:43

●オープニング本文


「そういえば〜、ヒイロちゃんはいっつもそのジャージね〜?」
「わふっ?」
 ネストリングの事務所にてボロいソファに腰掛けながらヒイロはかりかりと煎餅を齧っていた。
 暇が出来ると勝手に遊びに来てはお茶菓子を食べて帰るのが習慣になりつつあったヒイロ。必然、いつもお菓子をくれるマリス・マリシャとは仲良くなっていた。
 マリスはテーブル越しに冷たい緑茶を飲みながらぱたぱたと胸元を仰いでいた。この事務所にも空調は存在するが、今は節電で停止しているらしい。
「涼しそうでうらやましいわぁ〜‥‥。ほら、私っていつもスーツだから‥‥今日は暑いわねぇ」
「なんでエアコンつけないですか?」
「ネストリングはね〜、あんまりお金が無い組織なのよ〜」
 ヒイロも汗だくなのだが特に気にならない様子。そんなヒイロは部屋の中をきょろきょろ見回す。
「今日はブラッド君いないですか?」
「お仕事で出かけてるわね〜‥‥あっ! ブラッドがいないんだもの、冷房つけちゃいましょう」
 ぷるぷる震えるヒイロの目の前でリモコンのボタンを押すマリス。それからじっとヒイロを見つめる。
「ねえヒイロちゃん? そのジャージ、洗ってる?」
「わふ? たまに洗ってるですよ?」
「でもやけに汚いっていうかボロボロのような‥‥。そういえばヒイロちゃんが他の服を着ている所なんて見た事ないけど」
「だってヒイロジャージと短パンしか持ってないですよ?」
 かりかりと煎餅を齧る音だけが響く室内にエアコンの音が混じり始める。マリスは笑顔のまま小首を傾げた。
「持ってないって‥‥?」
「持ってないのですよ?」
「おばあちゃんと暮らしてた頃は?」
「ちっちゃい頃はお着物だったのですよぅ。でも動き辛いのです」
 すっくと立ち上がるマリス。つけたばかりのエアコンのスイッチを切ってしまう。
「若い女の子がそんなんじゃ駄目よ〜? 若い時は一生懸命お洒落しないと、歳をとると着られない服もあるんだから〜」
「マリスちゃん、もう着られないですか‥‥あひぃっ!?」
 一瞬恐ろしい殺気を放たれビクビクと震えるヒイロ。マリスは直ぐに笑顔に戻りヒイロの頭を撫でた。
「ヒイロちゃんもお洒落したいわよね?」
 只管コクコクコクコクと頭を縦に振るヒイロ。それから何故かソファの上に正座した。
「そうと決まったらみんなでお買い物に行きましょう♪ ヒイロちゃんに服を買ってあげるわ〜」
「‥‥マリスちゃん、ただ涼みたいだけなんじゃ‥‥そして暇なだけなんじゃ‥‥」
「ヒイロちゃん?」
「わっふーーーっ!! おようふくだいすき!!」
 何故かハアハアしているヒイロ。マリスは胸の前で両手をあわせ微笑む。
「それじゃあ是非お友達も誘ってお出かけしましょう。お支払いはネストリングが負担するから遠慮なく買うのよ?」
「え‥‥お金ないんじゃ‥‥」
「ネストリングそのものにはないけど〜、ブラッドのポケットマネーがあるから〜」
 凄まじい勢いで高速振動するヒイロ。
「とととと友達を呼んでいいですか?」
「いいわよ〜。カシェル君や斬子ちゃんでもいいわよ?」
「く、くず子はなんか今修行で忙しいって言われたから‥‥」
 それでここに遊びに来たわけなのだが。
「カシェル先輩はだめなのです‥‥」
「駄目って?」
「なんかね‥‥ヒイロにね、ふりふりした服とかね、ぼろぼろの服とか着せようとしてくるの。カシェル先輩はね、ちょっと残念なセンスなの‥‥」
 彼の私服を思い出して震えるヒイロ。ゴシックやらパンクやらはヒイロ的には未知の領域であった。
「でもカシェル先輩いっぱいお着替えしててうらやましーのです。ヒイロちょっとたのしみになってきました!」
「高い服一杯買っちゃっていいわよ〜。ブラッドのおごりだから〜」
「‥‥前から思ってたですが、マリスちゃんはもしかしてブラッド君の事が嫌いなのですか‥‥?」
 そんな感じで二人はネストリング事務所を後にするのであった。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG
茅ヶ崎 ニア(gc6296
17歳・♀・ER
ララ・スティレット(gc6703
16歳・♀・HA

●リプレイ本文

●出発!
「ヒイロさんっ! 今日は一日楽しみましょーねっ。よろしくお願いしますっ!」
 適当な所に集まって出発する事にした傭兵達。ララ・スティレット(gc6703)はヒイロに駆け寄り笑顔で挨拶する。
「ララちゃんだ! 今日は眼鏡かけてる」
「え? あぁ、普段はコンタクトなのですよ。でも、最近は活発に動くような時以外はこっちでいいかなって」
「ヒイロも眼鏡かける!」
 ララから眼鏡を借りようとするヒイロ。その首根っこを掴み三日科 優子(gc4996)が笑う。
「今日は呼んでくれてありがとう。まずはヒイロ。お風呂でキレイキレイしよなー」
「え!? それは聞いてないのですよ‥‥!?」
「だいじょーぶ。お姉さんに任せんしゃい」
 じたばたするヒイロをそのままずりずり引き摺っていく優子。その様子をイスネグ・サエレ(gc4810)と茅ヶ崎 ニア(gc6296)は肩を並べて眺めていた。
「先輩がイメチェンする‥‥だと?」
「あのヒイロがお洒落とは成長したものね」
 二人はそう言って空の向こうを見つめる。その横顔には様々な苦労と思惑が滲んでいた。
「そういや私はずっと半袖だな‥‥北極も半袖だったのか‥‥」
「防寒した方がいいですよ。もう遅いけど」
 こうしてとりあえずヒイロをお風呂に入れる事になった。しかし今日はやる事が沢山ある。
「なので、ダイジェストでお送りします!」
 引き摺られながらサムズアップするヒイロ。というわけで少し時を早回ししよう。
 近場にスーパー銭湯があるというララの一言で一行は銭湯へ。
「茅ヶ崎 ニアさん、一番いい水風呂を頼む‥‥ってあんたが入るんか」
「偶には他所様の銭湯も良いわね。仕舞い湯じゃないし、働かなくて良いし、更にはバタ足まで〜」
「バタ足はすな!」
 イスネグとニアのコントに突っ込む優子。ちなみに全員一緒に入っているのだが勿論水着を着用している。
 ララと肩を並べ水風呂に浸かっていたヒイロが優子に引き摺られ頭を洗われる様子を米本 剛(gb0843)は苦笑しつつ眺める。
「いやはや、中々に慌しいですな」
「ニアが色々な店に予約を入れてくれたみたいで‥‥実は俺も服を注文していますし」
「そうでしたか。まあ、風呂はまた機会があればゆっくり入れば良いでしょう」
 時間を気にしつつ微笑む終夜・無月(ga3084)。その隣でマリスが全員に言う。
「そろそろ次に向かう時間よ〜」
 というわけで全員銭湯より離脱。優子がヒイロの髪をセットする間残りは待つ事に。
「みんなお待たせなのですよー」
 優子と共に現れたヒイロは何か髪形がふんわりとセットされちょっと女の子っぽくなっていた。
「うん‥‥可愛くなったね、緋色」
「折角亜麻色の綺麗な髪しとんねんから、ちゃんとせんと勿体ないで」
 無月に褒められ嬉しそうなヒイロ。優子は腕を組み頷きながら言った。
「ちゃんとしかたがわからないのですよー」
 そんな様子を眺めるニア。唐突に振り返り、囁く。
「ちなみに女性はマリスさんが一番でした。男性は水着着用の為測定不能」
「‥‥えっと、誰に話してるんですか?」
 不思議そうな表情のララ。ニアは何事も無かったかのように笑顔で誤魔化すのであった。

●服を買う!
 そんな訳で傭兵達は彼方此方でヒイロの服を見繕う事に。一番手は既に用意してあったララだ。
「新しいジャージ‥‥ならっ、こーゆーのはどうでしょうっ!」
 彼女が取り出したのはカンパネラのジャージであった。眼鏡を輝かせながら高々と天に翳してみせる。
「これとかは学生じゃなくても買えますし、凄くいいものだと思いますよっ」
「学生じゃなくても着ていいですか?」
「勿論いいですが、学生ならもっと着ていいんですよっ!」
 じりじりとヒイロに接近するララ。
「こういう制服も問題無しですっ。ヒイロさんがカンパネラに来てくれれば、もっと問題無しですっ!」
 次に取り出したのはカンパネラの制服である。詰め寄るララにヒイロはぷるぷるしながら答える。
「ヒ、ヒイロ制服は学ラン派だから‥‥っ」
 ぷるぷるするヒイロに溜息を一つ。少し不満そうに唇を尖らせるララ。
「それじゃあ仕方ないですね‥‥。ヒイロさんが来てくれれば、私も嬉しいですっ。ともかく、ちょっとだけ考えてみてくださいねっ」
 もう眼鏡は光っておらずいつものララだった。ほっと胸を撫で下ろすヒイロ。
「あ、でもジャージは欲しいです!」
「ジャージと学ランね。それなら次は私かな」
 次はニアの案内で服を見に行く事に。何を売っているのかやや方向性のわからない店でニアはジャージを手に取る。
「見た目は普通だけど新素材を使ってるから動きやすくて丈夫。色もほれこの通り選べるんだって」
 ずらりと並ぶ何かどこかで見た事のあるジャージ群。その中から黄色い物を取り出してみる。
「この黄色と黒のやつなんか伝説の企業戦士ドラゴン・リーが着てたのと同じだわ」
「えー。ヒイロ赤がいい‥‥」
「ドラゴン・リー知らないの? 黄色と黒は勇気のしるし〜♪」
「愛と勇気が友達なのはしってる」
 そんな会話をしつつとりあえず赤いジャージを購入するヒイロ。お支払いはブラッド君で。
 更に奥に入り今度はヒイロの要望通り学ランを見るニア。ララは周囲を眺めつつ呟いた。
「ここ、何のお店なんでしょう‥‥」
「ジャージと学ランを売ってる店だから、そういう店なのかな?」
 何と無く答えるイスネグ。一方ヒイロは学ランが気に入ったようで一式購入、その場で着替えていた。
「押忍! 次に行くのです!」
 下駄を鳴らして歩くヒイロに続く一行。ふとそこで剛が足を止める。
「皆さん、少し寄って行きませんか?」
 指差したのは広場に出ていたドネルケバブの屋台。ヒイロは目をきらきらさせてそこに走っていく。
 パンに挟んだケバブを野菜と一緒に大口を開けて齧るヒイロ。傭兵達もそれぞれケバブを楽しんでいるようだ。
「もっとソースいっぱいかけよっと」
「お待ちなさいヒイロさん!」
 きょとんとした顔のヒイロに詰め寄る剛そうして彼はヒイロが手にしていたチリソースを引ったくり代わりにヨーグルトソースを差し出す。
「個人的にケバブにはヨーグルトなのです! チリソースはこの際邪道と断ずるも止む無し!」
 ぽかーんとするヒイロのケバブにヨーグルトソースをかけ、爽やかな笑顔で頷く剛。ヒイロはぷるぷるしながらそれを齧っていた。
「ま、まあソースは何をつけるのも自由だと思‥‥」
「いいえっ、ヨーグルトソースです! さあ皆さんも!」
 ぽかーんとするイスネグ。ヒイロと二人でたっぷりヨーグルトソースが掛かったケバブを頬張る。
 まあヨーグルトはそれはそれで美味しかったので満足して一行は屋台を後にする。
 それからも彼方此方の店を見て周る一行。主に服を見るのは女性で、男性陣は荷物持ちの様相が出来上がりつつある。
「貴方達はお洋服選ばないのかしら?」
「自分も私服はこのスーツですからねぇ‥‥趣味も良い方ではないですしな」
 狭い店の外で荷物を持つ男性陣に問うマリス。剛は苦笑しつつ答えるが、マリスは首を横に振る。
「あら、スーツは世界で最もカッコイイ男性の衣服よ〜? 働く男のスーツなら尚更ね♪」
 歳が近いからかそれとも魂胆が近いからか剛とマリスは親しげに会話する。と、そこで気付いたように振り返った。
「あらあら? イスネグ君は?」
「さっき一人で何処かに向かったようですが‥‥」
 と、無月が呟いた直後、両手に大量のソフトクリームを持って帰って来るイスネグ。そして三人にアイスを配る。
「暑いですし、どうぞ」
「‥‥有難う。でも‥‥」
 全員分はなかった。ソフトクリームを七つ持って帰って来るのは流石に無理だったのだ。
「ご心配なく、もう一回買ってきますから!」
「では自分も‥‥」
「いえ、ご心配なく! 慣れてますから!」
 イキイキと走り去っていくイスネグ。太陽の光を浴びるその背中は爽やかなほどだ。
「さーて、そろそろ次の店に行こか」
 そこで店を出てくる女性陣。そのまま次の店に向かおうとする。
「ちょっと待った。優子、イスネグさんが‥‥おーい優子ー。ヒイロー」
 イスネグの事をすっかり忘れているのかニアの声も聞かず去っていく二人。そこへ汗まみれで戻ってくる笑顔のイスネグ。ニアは何も言わなかった。
「学ラン暑いのですー‥‥イスネグ君、お茶ー」
 その後も終始彼は様々な物を買いに行かされたのだが、あまりに頻度が高かった為その描写はここまでとする。
 次に彼らが向かったのは無月が服を注文していた店だ。約束通り服は仕上がっていたのでヒイロは着替えてくる事に。
 現れたヒイロは何だかかっこいい服に着替えていた。どことなく強そうに見えない事もない。
「うわー、すごい! オーダーメイドですか、これ?」
「ヒイロ、ヒーローになった気分なのです!」
 ララの前でくるくる回るヒイロ。馬子にも衣装な気もするが、無月は満足そうに腕を組んでその様子を見守っていた。
「緋色が気に入ったなら良かった‥‥」
 それが無月にとって何よりも重要だった。ヒイロが楽しそうに笑っている‥‥それだけで今日一日は十分に成功と呼べる。
「オーダーメイドですか。しかし、お高いのでしょう?」
 剛の言葉に無言でカードを取り出すマリス。二人は黒い笑顔を浮かべ店員にカードを差し出していた。
「そうそう、スーツも良いかも知れませんよ? こう‥‥ビシッとしますからな。ここなら決まったスーツを仕立ててくれるでしょう」
「スーツ! ヒイロねー、仕事の出来る男になる!」
 こうしてお高いスーツを注文する剛。スーツに関しては完成次第後で取りに来る事になった。
 赤いコートを翻し颯爽と歩くヒイロ。次に彼女が向かったのは優子が案内する店だ。
「みんな甘いで‥‥! ウチならこうする!」
 どや顔の優子が試着室のカーテンを開く。すると今度は女の子らしい格好に着替えたヒイロが立っていた。
「ヒイロの動きやすく、そしてウチの女の子っぽくを両立した完成系や!」
 最早誰だという勢いなのだが、とても可愛らしい事は可愛らしい。しかし当の本人は唇を尖がらせている。
「優子ちゃん、優子ちゃん?」
「なんや?」
「かわいーのは分るのですが、ヒイロは日本男児なのでかっこいーのがいいのですよ」
 と、そこで仕方がないなと言わんばかりに颯爽と前に出るニア。それから店の外を指差して言う。そこには店の前の通りを歩く可愛らしい女の子が。
「見なさいヒイロ、一見凄く可愛い女の子に思えるけど‥‥実は男の子なのよ!」
「なん‥‥だと‥‥?」
 驚愕に打ち震えるヒイロ。ニアはその肩をニヒルな表情で叩く。
「外見はどうあれ男の魂があるなら服なんて問題にならない。あんたにもそれがあるならどんな服を着ても動じないはずよ!」
「ニアちゃん‥‥」
 二人は何故か手と手を取り合う。そんなニアをひょいっと横において優子はヒイロに迫る。
「もっと女の子しよ思ったらこうなるけどな。一応インナーを長袖にしたり、下を普通のジーンズに変えたらオールシーズン行けるで。黒やから合わせやすいしな」
「優子ちゃん? 優子ちゃーん?」
 次から次へとヒイロを着せ替える優子。ヒイロ着せ替えタイムは暫く続いたという。

●お肉!
「あ、お兄さん取り敢えずビール! 皆はどうする?」
 買い物が一通り終了し一行はニアが予約した店へ。肉料理を片っ端から注文し、ニアはビアジョッキを一気に傾ける。
「プハーッ! この為に生きてるわ〜!」
「ヒイロも! ヒイロもやる!」
「ヒイロさんはオレンジジュースにしましょうね」
 剛にジュースを渡されるヒイロ。しょんぼりするが肉が運ばれてくると一瞬で元気になった。
「もうこれでもかってぐらい肉ですねっ」
 怒涛の肉である。切り分けずステーキに齧りつくヒイロを横目にララも負けじと肉に齧りつく。
「今この時だけは‥‥食欲だけが正義ですっ」
「あぁ、ヒイロ。口の周り汚れとるやないか。ほら、ララも」
 二人の口を拭きながら笑う優子。イスネグはちまちまと野菜だけを食べていた。
「ほらヒイロご希望のお肉よ、どんどん食べなさい‥‥あ、すみませんワイン追加で♪」
「あれは‥‥その、大丈夫なんでしょうか?」
「ニアちゃんはいつもああだから」
 苦笑する無月にヒイロは答える。肉をもぐもぐするその横顔を無月は楽しげに見つめていた。
「美味しい?」
「う? おいしーのです!」
「自分らちゃんと野菜も食べり!」
「野菜はイスネグ君のだから!」
「そうですよーっ!」
 ヒイロとララの頭を小突いて睨む優子。二人はぷるぷるしながら大人しく野菜を食べていた。
「‥‥良かった」
 そんな様子を眺めグラスを傾ける無月であった。
「しかし、ブラッドの財布は大丈夫やろか」
「支払いは任せろ〜バリバリ」
「ぶっ!? まさか、マジックテープ!?」
 優子の不安げな声に財布を取り出すイスネグ。が、聞こえた音に思わずニアがワインを吹きそうになる。
「お支払いは気にしなくていいわよ〜。イスネグ君にはいつもヒイロちゃんがお世話になってるみたいだし」
 LH饅頭を手に微笑むマリス。それからイスネグに耳打ちする。
「あの話、本当に考えておいてね。貴方ならネストリングも歓迎するから」
 それは彼が挨拶がてらした話の続きであった。いつもの様にLH饅頭を手にマリスに挨拶をした時の事。
「初めまして、先輩の後輩のイスネグです。先輩を見習ってネストリングに入りたいのですが」
 それに対するマリスの答えはあっさりとしたOKであった。元々組織性は薄いので『入る』という程の事もないのだが‥‥。
「ヒイロちゃんに優しいお友達がいて良かったわ〜。これからも仲良くしてあげてね」
 ジョッキを傾けながら微笑むマリス。その横顔はどこか寂しげであった。
「ヒイロは大満足なのです! いっぱい服も買えたし、お肉も食べられたし‥‥っ! みんな、ありがとーなのですよっ!」
 口の周りをまた汚しながら満面の笑みで叫ぶヒイロ。イスネグは思った。こんな日々がずっと続けばいいのに――と。
 こうして慌しい一日はお肉と共に終わっていくのであった‥‥。
「次の店行くわよ、次ー!」
 と、そこで空のジョッキを掲げ叫ぶニア。やっぱり終わるのはもう少し先になりそうだった。