タイトル:ブレード・アクターマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/05 21:37

●オープニング本文


「おーい少年。そう、君だ。キョロキョロしない、君であってる」
 本部を出た所で声をかけられ振り返るカシェル・ミュラー。その視線の先には長身の男が片手を掲げていた。
「よっ! 暇そうだな」
「‥‥あの、人違いでは?」
「いや君であってる。カシェル・ミュラーだろ? 『人形師』を倒した」
 暫く聞いていなかった単語に眉を潜めるカシェル。その視線に青年は肩を竦める。
「何で知ってるんだって顔だな。ま、ドマイナーな引き篭もりのド田舎バグアだからな。知ってるやつの方が少ないだろうさ」
「‥‥もう過ぎた事です。色々ありましたから、話が広がらない方が個人的には嬉しいです」
「ま、そうだな。デューイのおっさんの事もあるし」
 驚いたように顔を上げるカシェル。だが冷静に思い返せば驚くような事ではない。彼はとても顔の広い傭兵だったのだから。
「俺もあのおっさんには少し世話になったクチでな。知らなかったとは言え、手を貸せなかったのは申し訳なかった」
「あ、いえ‥‥その話は止めましょう。お互い過ぎた事ですし」
「そうか? だよなー! まあ昔の事はお互い気にしないようにしようぜ!」
 バシバシと肩を叩かれ複雑な表情のカシェル。一瞬真面目な表情で心配してくれたような気がしたが、気がしただけかもしれない。
「っと、自己紹介が遅れたな。俺の名前は朝比奈 夏流だ。朝比奈さんでも夏流君でも構わないぜ」
「それでその朝比奈さんはわざわざデューイ先輩の話を僕にする為に呼び止めたんですか?」
「っかー、可愛くねぇなぁ‥‥まあいい、要件は全く別にある」
 夏流はカシェルの腕を掴むとそのまま本部へ引き返し、ある依頼を紹介した。一見するとただのキメラの討伐依頼なのだが‥‥。
「一緒に参加しないか?」
「え?」
「どうせ暇なんだろ? 俺は参加が決まってるんだがな、出来ればお前みたいな奴が一人は欲しいんだ」
 小首を傾げるカシェル。改めて依頼内容を確認してみる。
 依頼は夜な夜な現れる鎧武者のキメラを倒して欲しいという物だった。若干ホラーというかオカルト染みているが、特に珍しい事はないただの討伐依頼に見える。
「キメラ自体は多分問題なく倒せるんだ。確かに個体としては強めだけど所詮キメラだからな」
「まるで戦った事があるみたいな口ぶりですね?」
「そりゃあるからな。何度かこのタイプのキメラは叩き斬ってる」
 余計良く分らなくなり眉を潜めるカシェル。夏流は少しだけ真面目な口調で語った。
「俺の狙いはこのキメラを設置した強化人間を誘い出す事だ。その為に手を貸して欲しい」
「何か嫌な予感がするなぁ‥‥絶対訳ありですよねそれ」
「まあそう言うなよ。俺の経験上ヤツはキメラの戦闘を近くで見張ってる筈だ。で、基本的にはキメラがやられるとそそくさと逃げやがる」
「じゃあどうするんです?」
「他の傭兵がキメラと戦っている間に俺がそいつを探して叩く。お前はこっそり戦闘を長引かせて欲しいんだ。ガーディアンならそういうの得意だろ?」
 腕を組み考え込むカシェル。確かに時間稼ぎだとか囮だとかは得意とする分野だ。格上との戦闘でもある程度持ち堪える自信はある。しかし‥‥。
「それって他の参加者を騙せって事ですか? そういうのは僕ちょっと‥‥」
「わけのわからん強化人間と当たらせるよりいくらかマシじゃないか?」
「いやそうですけど、それって朝比奈さんを一人で強敵に当てるって事ですよね? 出来ませんよ、そんなの」
 真剣に言うカシェルに夏流は驚いたように目を丸くし、それから苦笑を浮かべた。背にしていた大剣を片手で抜き、軽く振ってから両手で構える。
「心配すんな。少なくとも俺はお前よりはつえーからな」
 爽やかに笑う夏流だが本部内で刀剣を振り回さないでくださいと結構キツめに注意されおずおずと刃を収めていた。
「おっかねー。俺結構注意されたりつまみ出されたりしてっからな‥‥」
「何やってんですかいい大人が‥‥」
 ひそひそと肩を寄せて語り、無邪気に笑う夏流。釣られてカシェルも笑ってしまう。
「兎に角、そういうのは他の参加者に相談してみましょうよ」
「ただキメラ倒せば終わる仕事だぜ? 余計な事なんてしたがるかねぇ?」
「そこはお願いしてみるしかないでしょう」
「それもそうだな。より、参加者を集めようぜ。可能ならば女子、しかも可愛い子にしよう」
 形容し難い視線で夏流を射抜くカシェル。青年は肩を竦めて言った。
「どうせなら女の子がいいだろが。君は彼女とかいないのかね?」
「いませんよ。ていうかいたとして僕の彼女を誘ってどうするつもりですか」
「どうするって‥‥なぁ?」
 無言で爪先を踏みつけるカシェル。男は暫くその場で悶えていた。
「お前なぁ、大人にそういう事しますか!?」
「朝比奈さんが本部からつまみ出される理由が今分りました」
「どういう意味だおい。まあそれはいいんだ。ただ、真面目に女の子にしようぜ」
「ナンパするなら仕事以外の所でしてください! 命に関わるんですよ!?」
 そんな感じで言い争いながら歩いている二人に当然女子どころか人が近づく筈もなく、参加者集めの滑り出しはいまいちなのであった。

●参加者一覧

孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

●観察
「いつまでこうしてるんだ?」
 竹林に隠れながらキメラを観察する傭兵達に小声で夏流が言う。昼間からかれこれ数時間既にこうしており空は茜色に染まり始めていた。
「うーん? 華麗に正体を見極めちゃう予定だったんだけどなぁ‥‥」
 困惑した様子で苦笑するセラ(gc2672)。その隣で孫六 兼元(gb5331)が腕を組み頷く。
「微動だにせんな! ガッハッハ‥‥むぐぐ!?」
「おいオッサン騒ぐなっちゅーに」
「オ、オッサン!? ワシはまだ若‥‥むぐぐ!?」
 夏流に羽交い絞めにされる兼元。とは言えキメラの観察に関しては彼の仕切りで、今の所気付かれた気配は無い。
 竹林の中でキメラは仲良く整列しており突っ立ったままピクリとも動かない。正直見ていても退屈なだけだ。
「あ、動き出しましたね。後を追いましょう‥‥あれ、ラナさんは?」
 周囲を見渡すカシェル。いつの間にかその場を離れていたラナ・ヴェクサー(gc1748)はカシェルの声に戻ってくる。
「あ、いた。敵が動きましたよ。追いかけましょう」
「さっきからラナちゃんたまに居なくなるよな。まさかトイ‥‥うごッ」
 夏流の脇腹に肘を捻じ込むカシェル。勿論三十分毎にトイレに行っている訳ではないのだが、理由をカシェルに言う訳にも行かない。ラナは困った表情を浮かべるだけだった。
「つまんねぇ依頼だよこれ。女子が全員俺に冷たいよ」
 キメラを追いながら泣きそうな声で言う夏流。傭兵達は数刻前の事を思い出していた。
 参加女性陣に片っ端から声をかける夏流だが女性陣は良くてスルー、月城 紗夜(gb6417)に関しては何やら敵意の篭ったジト目で見られてしまった。
「げ、元気出して下さい!」
「セラちゃんマジ天使」
 セラの手を取り上下に振る夏流。そんな彼の背中を叩き、何やらセクシーなポーズを取る月読井草(gc4439)。
「誰だ小学生連れて来たのは」
「小学生はいくらなんでも失礼だろーっ! 女としての魅力満載だぞ!」
 くねくねする井草。静まる一同。
「ほらカシェルもうかうかしてらんないぞ?」
 くねくねする井草。カシェルは彼女を抱き上げそのまま歩いていく。
「遊んでないで行きますよ月読さん」
「おいちょっとは焦れよ!」
 そんな訳で夕暮れになり街道に出るキメラ達。やはり何もせず棒立ちのままだが。
 傭兵達は物陰に隠れ観察を継続。そこへナンナ・オンスロート(gb5838)はカシェルの傍に身を寄せる。
「カシェル君は彼女さんとか、居ないんですか?」
「ハイハイ! 俺はいません!」
「あ、朝比奈さんは結構です」
 爽やかな笑顔で断言するナンナに夏流は泣きながら走り去っていった。けど誰も追わなかった。
「ぼ、僕はまだ十五歳ですから。そういうの早いと思います!」
 真っ赤になってナンナから目を逸らすカシェル。視線を逸らした先で井草がどや顔していたがスルーした。
「おい、あたしだってへこむんだぞ」
 と、そこへ素早く月城 紗夜(gb6417)が合流してくる。彼女は近くの村の調査に向かっていたのだ。
「訊いてみたのだが、要領を得なくてな」
 結論から言えば村は平和だった。キメラを気味悪がってはいるものの、何の被害も受けていないからだ。
 老人ばかりのこの村では夜出歩く人間は少ない。仮にキメラに遭遇しても何もされなかったという。
「目の前を横切っても手出ししてこないらしい。お陰で討伐依頼が出されるまでの間、長期間放置されていたらしい」
「そういえばこの道、先程から人一人通りませんね」
 口元に手を当てナンナが言う。罠――その可能性もある。だがより濃厚なのは‥‥。
「キメラと能力者が戦闘する中に実験の要素があるのかもしれませんね」
「一般人を襲わない理由を考えれば妥当な線だな。どう思う、朝比奈?」
 紗夜の問いにいつの間にか戻ってきた夏流は答える。
「言われてみれば他のケースでも一般人が襲われた事は無かったと思う」
「貴様‥‥やはり何か隠しているのではないだろうな」
「何で君は初見の俺にそんなに冷たいの? ねえ何で?」
 そんなやり取りの一方、レインウォーカー(gc2524)はカシェルに囁きかける。
「ひとつだけ、教えてくれないかぁ。水桐タカヤ、アイツの生死は確認できたのかぁ?」
 先日の戦いを思い返すカシェル。それからレインウォーカーを見つめた。
「そうですか、貴方はまだ‥‥」
「この手で借りを返したいからねぇ‥‥」
 左腕の傷を見つめ何処か寂しげに笑う。何も答えないカシェルに彼は口元を僅かに歪めて言った。
「縁があればこの手で借りを返す機会はあるかもねぇ」
 こうして観察は深夜まで続くのであった。

●交戦
「ガッハッハ! 結局何もせず帰って行くな!」
 夜もいい加減更けて来た頃、兼元の声で傭兵達は気を取り直した。
 キメラが帰ってしまっては仕方ないので予定通り班を二つに分けそれぞれ行動開始する事に。
「やっと出番かぁ。いくぞ、カシェル。派手にやろうかぁ」
 まず飛び出したのはレインウォーカーとカシェル。続け兼元と井草がキメラへ向かう。
「ワシらも行くぞ、月読氏!」
「おっけー、兼やん!」
 最後にナンナとセラ‥‥アイリスが残りのキメラへ。
「やれやれ、これも適材適所というのだろうか?」
 思わず呟くアイリス。そう、この戦いはキメラの調査を兼ねている‥‥という『設定』の『時間稼ぎ』なのだ。
 陽動班が交戦開始した頃、残りの調査班は竹林の中を走っていた。先陣を切るのは加賀・忍(gb7519)だ。
「加賀君‥‥場所が分るんですか?」
「分るわけじゃないけど」
 双眼鏡を覗き込む忍。その視界の奥、竹林の影に紛れるようにして袴姿の人影が立って居るのが見える。
「当然、見やすい場所に居るわよね。風下から回り混みましょう。逃げられては元も子も無いわ」
 一方キメラと戦闘を続ける六名。レインウォーカーは繰り出された刃をステップを刻むように回避、そのまま擦れ違い様に刃を振るう。
 時間稼ぎがバレないよう積極的に攻めてはいるが、その得物は本来彼が使い慣れた物とは違う。
「まあ、演技の練習と思えば悪くない仕事だなぁ」
 連続して繰り出される刀をかわす。剣閃は意外と鋭く、気を抜いて戦えば傷を負う可能性もある。真面目に避けている様子が逆にちゃんと戦っているように見えなくもない。その一方で‥‥。
「んー、カッコブー」
 キメラと対峙する井草はいつの間にか武者鎧を装備していた。とは言えそれは明らかに手作りしましたって感じの代物だが。
「わわっ違う違う! キメラはあっちね!」
「いや、ワシも流石に間違えんぞ」
 二人は笑い合う。それから井草は徐に超機械を兼元へと向けた。
「ワシは味方だぞ!? 確かに似た風貌だがな!」
「こっちが兼やんだったか‥‥じゃあえーと」
 振り返る井草。そこへキメラが刀を手に迫っていた。
「月読氏!」
 兼元はキメラへと飛び込み太刀を振り下ろす。重い衝撃と共に地に減り込むキメラから井草は慌てて飛び退いた。
 ナンナは高速移動しつつ銃撃にてキメラを攻撃。アイリスは盾を手に前に出てキメラの攻撃を受ける構えだ。
 攻撃は主にナンナが行う以上、彼女が弱装弾を使用しているのだから直ぐに敵が倒れてしまうという事は無い。むしろ狙いは正確になる為うっかり急所を撃ってしまう事もないだろう。
 こうして続くキメラとの戦闘を遠巻きに眺める袴姿の男。顔は狐面で覆っている為表情はわからないが、戦闘を観察していると見て間違いないだろう。
「朝比奈‥‥我は貴様を信用していない。前衛で戦え、強いのなら援護は要らんな?」
「何これツンデレなの?」
 紗夜の言葉に頭を抱える夏流。そこへラナがおずおずと言う。
「あ‥‥でも、一人じゃ危険ですし‥‥」
「ラナちゃんめっちゃいい子」
 ラナの頭を撫でる夏流。ジト目で見られるが気にしない。
「でもま、無理せず下がってな。女の子が怪我でもしたら事だしな」
 大剣を抜きながら笑う夏流。走りながら刃を振るい衝撃波を放つ。
 敵は特に無挙動で対応――が、気付けば刀を抜いて衝撃波を引き裂きそのまま同じく斬撃を飛ばしてくる。
 夏流は回転しながら刃を横薙ぎに繰り出し反撃を相殺。大剣を投擲する。
 数歩身を引きつつ刀で剣を弾く剣士。夏流は高速移動で背後に回り混みながら剣を手に取り、そのまま首を狙い横薙ぎに刃を繰る。
「本当に一人でやってますけど‥‥」
「独り占めなんて許さないわよ」
 一息に飛び込み身体を捻り一閃を繰り出す忍。不意打ちだった筈が刀はいつの間にか手にしていた脇差で防がれていた。
 剣士は二刀で二人の攻撃を片っ端から弾いていく。その挙動を注意深く観察していた忍は不機嫌そうに眉を潜めた。
「こいつ‥‥ッ」
 先程から、一歩も軸足を動かしていない――。
 練成弱体を施しながら走る紗夜。ラナはナイフを連続して投擲しつつ接近。剣士はそれに低く構え応じる。
 衝撃が走る。夏流と忍は同時に攻撃をしていたのだが刃はあらぬ方向に弾かれていた。ナイフは三つとも何処かへ消え、風と共に飛来した衝撃がラナの身体を弾く。
 追撃が来なかったのは紗夜が敵目掛け照明銃を放ったからである。閃光も両断されたが、一度身を引くには十分な隙であった。
「早すぎて動きが殆ど見えないわね」
 頬の切り傷から流れる血を拭いながら笑う忍。ラナは不思議そうに問う。
「笑ってるんですか‥‥?」
「こちらの方が凌ぎ合いを楽しめるじゃない。何れは私の糧とする為よ」
 複雑な表情を浮かべるラナ。傭兵達は再び戦いを始める‥‥。

●月閃
 別働隊からの連絡を受けたキメラ対応班。井草は頷き超機械を振るう。
「とりあえず練成強化したろ」
「では反撃と行こうか」
 背中の水晶を握り潰しながら笑うアイリス。小さな輝きが風に舞う中傭兵達はそれぞれ本来の力を発揮する。
「道化の演目は終了。ここからは本気の殺し合い。さぁ、はじめようかぁ」
 刀を持ち変え仮面を装備するレインウォーカー。高速でキメラに接近、連続して刃を繰り出す。
「これがボクの切り札だ‥‥嗤え」
 刃の軌跡が十字を描きキメラを引き裂く。レインウォーカーが軽く刀を振るい鞘に納めると同時にキメラは仰向けに倒れるのであった。
「往くぞ‥‥八双の構え」
 低く構えを取る兼元。元々傷ついたキメラだ、一息に倒すのに何の問題があろう。
 豪腕から次々に斬撃を繰り出す兼元。鎧ごと切り裂かれたキメラ、そこへ井草が団扇を振るう。
「ほいっと」
 刃を鞘に収める兼元の目の前で切り刻まれたキメラが烈風で吹き飛んでいく。
「ガッハッハ! ワシらが本気を出せばざっとこんなものよ!」
 ふと見るとナンナはアイリスが敵を抑えている間に遠距離から銃をガンガン撃ってキメラを倒していた。
「さて、向こうに合流しましょうか」
「一瞬だったな‥‥」
 冷や汗を流しながら呟くアイリス。ふと、カシェルを見やる。主におなか辺りを。
「いや‥‥なんでもない」
 こうして移動を開始する一方、剣士との戦いは苦戦を強いられていた。
 何故か積極的に攻めてこない為持っては居るが、剣の速さと正確さは異常と言える領域にある。
 一撃離脱を前提に飛び込み攻撃する忍だが、その刃を、足を、腕を、敵は剣の峰で打って阻害する。結果彼女の動きは完全に停止する事になった。
「加賀君‥‥!」
 素早く身をかわしながら接近し攻撃するラナ。反撃の突きを注視し身を逸らす回避した――と切っ先から敵へと視線を戻すと既に次の攻撃が来ている。
 横薙ぎの斬撃を回避。続けて攻撃――しようとするとラナの眼下、刃が鋭く持ち上がるのが見える。咄嗟に身を引くが、何故か傷は袈裟に肩からついていた。
 そこへ飛び込む夏流と紗夜。二人同時に斬撃を繰り出すが攻撃は防がれてしまう。更にある程度攻撃が集中すると再び構えを取り、周囲への強烈な斬撃が来る。
「くっそ、まともに近づけねぇ!」
 苦々しく呟く夏流。剣士は刃を納め、静かに身を引く。
『引いては頂けぬか。拙者、女子を斬る趣味は無いのでござるよ』
 くぐもった声は戸惑った様子だった。思い返せばこの場の全員、傷は深くない。剣士は常に『峰打ち』で戦っていたのだ。
『これ以上やるのであれば、不本意ではござるが』
 再び構える剣士。そこへ残りの傭兵達が駆けつけてくる。
 剣士は構えを解いて後退。夏流はそれを一瞬追おうとし、しかし刃を地に刺して舌打ちした。
「コンチクショー名を名乗れ! 君ィ‥‥ちょっとローラースケートを履いてみないか? あ、こら待てって!」
 叫びながらちょこちょこ騒いでいる井草。しかし剣士の姿は既に無かった。
「皆、怪我は無かったかい?」
 アイリスの問い掛けに四人は答えなかった。正直あまりいい雰囲気ではない。一方的にあしらわれ、『女だから』と手心を加えられたのだから。
 その後傭兵達は他にキメラが居ないか確認、村に被害が無かった事も確かめて帰路に着く事になった。
「結局なんだったんだろうねぇ、これは」
 倒れたキメラを見下ろしながら笑うレインウォーカー。カシェルも同じ事を考えていた。
 結局今回の件であった被害といえば‥‥竹林が大量に薙ぎ倒されてしまった事くらいだろう。
「BB弾も出なかったしなー。これで終わりそうにないな。次も呼んでくれないと、またまた暴れちゃうぞ!」
「月読さん、遊んでないで帰りますよ」
 井草を抱き上げて歩き出すカシェル。その様子に苦笑し、ナンナは思案する。
「後手に回ってる以上、早々に首謀者を追い詰めないとダメですね」
「今回はしてやられたけど、得られた感触は悪くなかったわ」
 一方忍はラナと肩を並べて月を見上げていた。ラナは自らの手を見つめ過去の戦いを思い返す。
「余計な美辞麗句は素通しでも、受け止めるべき感慨が美味なのを認めなさい。ラナも同じなんでしょう?」
 ラナの肩を叩き歩き出す忍。去り際に振り返らず彼女は言った。
「歓迎するわよ。『こちら側』で‥‥ね」
 遠ざかる足音を聞いていた。あの日の言葉を思い出す。あの死は決して『高揚』ではなかった。だが‥‥。
「私が‥‥闘争を、欲している‥‥?」
 否定する言葉は持ち合わせていない。何より否定する必要も無い。
 それが大切な人を護る力になるのであれば。それこそあの『死』を繰り返さない事なのかもしれない。
「紗夜ちゃん、まだ俺を疑ってるのか?」
 村人の安否を確認してきた紗夜に問う夏流。二人は視線を合わせず擦れ違う。
「もっとニッコリ笑ってた方がいいぜ。君は可愛いんだからさ」
 遠ざかる背中を見送り目を瞑る。腰に手を当て男は空を仰ぐ。
「待ってろ‥‥『刀狩り』」
 風が吹き抜け竹林を涼しげに鳴らす。そのざわめきは新たな戦いの幕開けを告げる合図だったのだろうか。
 傭兵達は帰路に着く。それぞれの想いを胸に。