タイトル:【東京】Singularity:Tマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/12 22:11

●オープニング本文


「‥‥何機無事に降りられたんだ?」
 乾いた風が頬を撫でる。聞こえてくるのは銃声と爆音――要するに戦場の音だ。
 元々無茶と言えば無茶な作戦だった。行きもかくや帰りの事もあまり考えられていない。この作戦は成功する事が前提で、消耗する事も前提に入っていた。
 道路に着陸を試みたクノスペの部隊が次々に人員輸送コンテナを投下して行く。その内の何割かが飛来する光の線に貫かれ、火を噴いて墜落していった。
 無事に地上に降りられただけでも幸運。ここから目的地に突入するのには更なる剣呑が待ち受けている。
「安全に送れるのはここまでだ! 後はそっちで何とかしてくれ!」
 自分をここまで送ってくれたクノスペがぐらついた挙動で離陸しながら離れていく。パイロットは『安全に』と言ったが、この状況のどこが安全なのか。
 正面に聳え立つ黒き塔――。新宿の天を衝くあの摩天楼こそこの作戦の目的地。距離はまだある。しかしここからは走っていくしかない。
 敵のワームやらUPCのKVやらが彼方此方で戦闘を繰り広げる中を走るのは剣呑というだけでは語り尽くせぬ心境だが、兎に角今は走るしかない。それが最も安全で最も効率的な選択なのだから。
 塔を見上げながらカシェル・ミュラーはブリーフィングの事を思い出していた。
 新宿に構えるバグアタワーと呼ばれるこの塔は新宿一帯に妨害電波を飛ばす役割を持っている。この妨害の影響下にあるKVはその行動を強力に阻害される事になる。
 要するに今繰り広げられているKVによる戦闘が明らかに劣勢なのもこの塔の所為。人員輸送のクノスペが面白いように落ちたのもこの塔の所為。そしてそれはこの戦場だけに限った事ではない。
 この塔をなんとかしなければ、新宿各地での戦いで同じ様な結果が待っているという事。とどのつまり――ここを落とせなければ勝ちは無い。
 塔はミサイルを逸らしレーザーを弾く。充実した防衛戦力に守られたこの塔を無力化する唯一の策、それが生身による突入であった。
「‥‥いや、策と呼んでいい物なのか、これは‥‥!」
 全力疾走しつつごちるカシェル。目標を達成する為に組まれたスマートな策略を作戦と呼ぶのなら、明らかにこれは作戦とは異なる。
 突入からして既に博打。突入して敵装置を破壊出来るかどうかも博打。無事にそこから生還出来るかも博打――まともだとはとても言えない。
 それでも走る。余計な事を考えている場合ではない。ここで死ねば全てが終わり、文字通りの打つ手無し。
「死んでられないよな‥‥こんな所で」
 塔についての情報はこれまでUPC軍が命懸けで調査を行った結果であり、この地に住まう人々の願いでもある。
 レジスタンスと呼ぶ事すら躊躇われる少年少女でさえこの塔を調べる為に力を貸してくれた。
 新宿各地で戦う仲間達は自分達がこの塔を落とせると信じてくれている。それを前提に作戦は進行していく。
 だから走るしかない。無茶だとか危険だとかそんな事は関係ない。今はただ、走るしかないのだ――。

「やはりここにも仕掛けてきましたか」
 バグアタワー第一展望台。眼下で繰り広げられる激戦を前に水桐タカヤが呟く。状況は当然、バグアに優勢だ。
「ジャミング機能を初め、タワーの全機能が正常に作動しています。玉砕覚悟の特攻でしょうか」
 部下の言葉に目を細めるタカヤ。玉砕覚悟の特攻――成程、あながち間違いではない。しかし‥‥。
「彼らの狙いはタワーへの直接侵入によるジャミング装置の破壊でしょう」
 利口とは言えないがシンプルで効果的な作戦だ。KVによる攻撃が難しいなら生身で仕掛ければ良いだけ、という事だろう。
「言うに及ばずこの塔は新宿の守りの要です。ここを死守すれば各地の戦闘もこちらの勝利で落ち着くでしょう」
 腰から下げた刀を抜き、軽く構える。振り返りながら刃を翻しタカヤは部下達に言った。
「ミスターに任されたこの地を守り通す事、それが我らの役目。速やかに侵入者を迎撃します。アルケニーを駆る我らアーバングレーの恐ろしさ、彼らに身を以って味わっていただきましょう」
 槍を構え整列するUG隊の隊員達が一斉にバイクに跨り行動を開始する。再び地上を見下ろしタカヤは静かに微笑んだ。
「この塔は我ら騎馬の城砦――。歓迎しますよ、人類諸君」

 結局塔に辿り着いたのは投入された戦力の何割程度だっただろうか。生き残った戦士達は休む間もなく塔を登る事を余儀なくされる。
「ここからが本番、だね」
 剣を手に坂道を駆ける。生き残った面子で、辿り着けた戦力で、この塔を落とす。
 長い長い坂道を、傭兵達は今駆け上がり始めた――。

●参加者一覧

エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
宮明 梨彩(gb0377
18歳・♀・EP
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
雨宮 ひまり(gc5274
15歳・♀・JG
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●一蓮托生
「辿り着いたのはこれだけか‥‥」
 あれだけの数の仲間がこの地を目指して走り出したというのに、辿り着いたのは僅か十名余り――。巳沢 涼(gc3648)は周囲を眺め思わず溜息を漏らした。
 塔の元に辿り着けた十名は直ぐに突入の準備を始める。自分達以外の仲間は殆ど道中でワームや鹵獲KVに蹴散らされてしまったが、幸い味方の追撃阻止もあり背後から敵が迫ってくる気配も無い。
「いやはや、我ながら良く無事だったもんだ。カシェル先輩も‥‥お互い運が良いのか悪いのか」
「ここは良いって事にしておきましょうよ、巳沢さん‥‥」
 遠い目を浮かべる涼とカシェル。その隣で聳え立つ塔を見上げ上杉・浩一(ga8766)が呆然と立ち尽くす。
「‥‥疲れるな、うん。これは疲れる‥‥」
 もう疲れたような気がしないでもないが、ここからが本番。ちらりとカシェルに目をやりつつ気を取り直す。
「一先ず編成を組み直そう。幸いバイク乗りが多い‥‥ここはダンデムで」
 振り返り仲間に指示を飛ばす浩一。でっちあげの即席編成だが、この面子で攻略をやりきるしかない。
「んーと‥‥よぅし、大体判った。俺の後ろに乗るのはイーリスで良いのか?」
 バイクに跨り操作を確認しながら振り返る龍深城・我斬(ga8283)。後ろに跨りイーリス・立花(gb6709)は銃を手に頷く。
「色々なものがこの一戦にかかっています。せめてそれらに恥じる事のないように最善を尽くしましょう」
「こいつを破壊しない事には東京開放なんて夢のまた夢って事だな‥‥やってやるさ。バイクに乗るのは初めてだが、まあなんとかなるだろ」
「‥‥初めて、なんですか?」
 一瞬不安そうな表情を浮かべるイーリス。とはいえここまで辿り着いた一人なのだ、我斬の腕は信用出来るだろう。
「さぁ、乗って下さい。バイクはカスタマイズして来たので、とびっきりの動きを魅せますよ!」
 バイクに跨り白い歯を見せて笑う宮明 梨彩(gb0377)。元気の良い梨彩とは対照的にその後ろにちょこんと座る雨宮 ひまり(gc5274)はのんびりした様子だ。
「高さ600m、東京の新名物おっきいねー。東京バグアツリー? 入場料は‥‥いくらかな?」
 ぽけーっとタワーを見上げるひまりを心配そうに見ながらレインウォーカー(gc2524)のバイクに乗るカシェル。レインウォーカーは振り返りカシェルに笑いかける。
「攻撃はそっちに任せるよ。ボクは運転に専念するからさぁ」
「‥‥あっ、はい! 宜しくお願いします!」
 緊張した様子のカシェルの顔を覗き込み青年は微笑む。
「途中までとは言えしっかり頼むよぉ。出来れば万全な状態で『ケリ』をつけたいからねぇ」
 本心の読めない笑顔を浮かべる瞳に僅かに『火』が見える。カシェルは頷き銃をホルスターから抜いた。
「生きて、帰れるのかなー‥‥ま、やるしかないよね!」
 少し不安げにミルヒ(gc7084)のAU−KVに跨る相澤 真夜(gb8203)。不安は隠せないが、自らを奮い立たせるように明るく声を上げる。
「これを破壊すれば東京解放は勝利に繋がります。私に出来る事でがんばるつもりです。宜しくお願いします」
「私もがんばるよー! 今日はあにきがいないけど、これをあにきだと思ってがんばります!」
 腕に輝く腕輪を掲げ笑う真夜。ミルヒは暫し固まった後、小首を傾げて言った。
「あにきって‥‥誰ですか?」
 そんな感じでややデコボコなコンビもある中、涼と彼の後ろに座った浩一のコンビは妙な安定感があった。
「間違いねぇ、今回は俺の人生で最悪の依頼だ。敵制空権下で空挺降下なんざもうやらねぇ‥‥!」
「‥‥同感だ。だがこの作戦、是が非でも成功させねばならない」
「そうだな‥‥ま、今回も宜しくお願いしますよ」
「こちらこそ」
 そうしてそれぞれの編成が完了したのを見計らい朧 幸乃(ga3078)が声をかける。
「時間との戦いですから、出来る限り迅速に。あちらの基地である以上、あちらが有利なのは当然。臨機応変に対処しましょう」
 傭兵達は二つの班に分かれ、別々の道を駆け上がり始める。600mを踏破する戦いはこうして幕を開けた。

●バイク・チェイス
 黒い塔を取り巻く様に上へ上へと続く道。B班に所属する五名は三台のバイクで道を駆け上がっていた。
 鉄骨のような素材で出来た塔本体の向こう、息を合わせるようにして並走するA班の姿が確認出来る。無理はせず、しかし可能な限り連携して行く事‥‥それが基本方針だ。
「さて‥‥早速お出ましだぜ」
 正面にバイク――アルケニーに乗り込んだ敵、UGが三人。槍を手にして突撃してくるのが見える。幸乃は隣を走る二人に目配せする。
「走行中ではまともに応戦するのは難しいでしょう。ガードを固めて‥‥突破を」
「判った! 朧、ミルヒ‥‥孤立するなよ。来るぞ!」
 真っ直ぐに交差する六台のバイク。先陣を切る我斬が槍で二体の敵と刃を交え、ミルヒが盾で槍を弾き一先ずはやり過ごす事に成功する。
 しかし運転しながら片手で槍で攻防を繰り広げた我斬のバイクがよたつきあわや転倒しそうになる。何とか持ち直しつつ我斬は冷や汗を流した。
「攻撃や防御は私に任せてください。一度足が止まってしまえば一方的にやられるだけです」
「それが無難か‥‥判った、任せるぜイーリス」
「イーリス、後ろからきてるよ!」
 振り返りながら真夜が声を上げる。先程擦れ違った敵が反転し追ってきているのだ。
 プロトンライフルを撃ちながら追撃してくる敵に慌てながら真夜は弓を構える。
「ゆれてて、狙いにくいけど‥‥っ!」
 慎重に放った矢が敵の一人を貫き、バイクが転倒する。続け後ろにマシンガンを突き出しイーリスが連射すると残り二人も倒れ、その姿が見えなくなっていく。
「イーリスすごい!」
「倒しきらずとも足を止めればいい事ですから」
 風に髪を靡かせながら真夜に微笑むイーリス。そんな彼らの正面、再び敵が現れる。
「正面攻撃にはつよいみたいだけどー、これはどうかなっ!」
 正面に矢を放つ真夜。矢は真っ直ぐに敵に向かわず、その足元に放たれた。シビアなタイミングではあったが矢は道を跳ねてバイクに側面から命中する。
 体勢を崩しスピン気味によろけた敵は隣の敵を巻き込み転倒する。ガッツポーズを取りながら笑う真夜にイーリスは頷いた。
「御見事です」
「えへへ‥‥うわわっ!?」
 笑っていたら転落しそうになり慌ててミルヒにしがみつく真夜。ミルヒは目だけで真夜を見やる。
「落ちたらどうにもなりませんから‥‥気をつけて下さい」
 常にバイクで駆け上がり続けている為、既に高度はそれなり。落ちていったUGがどうなったのかはあまり考えたくない。
「正面プロトン砲、来ます‥‥!」
 既に砲座に変形済のアルケニーが二台、正面で待ち構えている。幸乃の声で全員それに気付くが、対処の仕様が無い。
 放たれる閃光を必死で回避する一行。直撃でも受ければ間違いなく転倒してしまうだろう。
「だめです‥‥避けきれない」
 唇を噛み締めながらミルヒが呟いたその時である。どこからとも無く矢が飛来し、正面のアルケニーが沈黙する。
「ギリギリだったな‥‥どこからだ?」
 我斬が目を向けたのは塔を挟んだ向こう側。その道を走る別働隊であった。

 A班、梨彩の後ろで風を受けながらひまりは弓を構えていた。
「す、すごいな‥‥そんなのって可能なのか?」
 銃を手に思わず呟くカシェル。ぼーっとした様子で遠くを見ていると思ったらひまりは矢を放ち、塔越しにB班の道を塞ぐ敵を排除してしまったのだ。
 それは言う程簡単な事ではない。隙間だらけの塔とは言え高速移動中。そして標的までの距離はかなりある。少なくともカシェルには不可能な曲芸染みた技であった。
「参考までに聞きたいんだけど、どうやって当ててるの?」
 カシェルの質問に小首を傾げるひまり。
「砲座モードなら固定目標だし‥‥狙い目だと思うけど」
「というかぁ、カシェルはもう少し頑張ってくれないとねぇ」
 レインウォーカーの声に苦笑を浮かべるカシェル。彼の銃の命中精度はとても褒められた物ではない。
「この調子でガンガン行きますよ! 飛ばしますから、しっかり捕まっててくださいね!」
「はぅ‥‥っ」
 加速する梨彩の後ろでひまりがなんとも言えない表情を浮かべる。その内吹っ飛ばされそうな気がしないでもない。
 そんなA班は何度目かのバイク状態のアルケニーとの対面を果たす。先陣を切る涼のAU−KVに跨り浩一は銃を構える。
 銃を連射して漸く一人倒す事に成功。リロードしながら浩一は眉を潜める。
「雨宮さんのようにはいかんな」
「問題ねぇ! 残りは‥‥蹴散らす!」
 加速する涼。AU−KVが光を帯び、そのまま敵に正面から突っ込むと衝撃で敵が左右に吹っ飛んでいく。
「力技だねぇ」
「ある意味一番確実なんですが」
 レインウォーカーに続き苦笑するカシェル。A班は主に涼とひまりの活躍で順調に塔を走破していく。
「第一展望台まであと少しです!」
「退けぇええええっ!!」
 梨彩の声続き涼が叫ぶ。道中を邪魔する敵を蹴散らし、A班はついに第一展望台へ近づいた。
「向こうも無事のようだな」
「よし、突っ込むぞ!」
 浩一に頷き第一展望台へ突入する涼。そんな彼が見たのは入り口に向かってずらりと並んだプロトン砲座の姿であった。

●アーバングレー
 息を合わせて二班が同時に第一展望台に突入した事がここで初めて裏目に出る事になった。
 広いスペースが確保された第一展望台には横一列にプロトン砲に変形したアルケニーが並んでおり、傭兵達の姿を確認すると同時に一斉砲撃が行われた。
 逃げ場がない上に隊列を組んだアルケニーから断続的に放たれた攻撃で傭兵達の連携は瓦解。バイクは全て転倒し傷だらけで全員が放り出される事となった。
「バグアタワーへようこそ‥‥っと、少しばかり歓迎が過ぎましたか?」
「水桐‥‥タカヤ‥‥」
 アルケニーに跨り笑みを浮かべるタカヤ。膝を着きながらレインウォーカーは睨みを利かせる。
「我々をキメラか何かと勘違いされては困りますね。我らアーバングレーはミスターの為に鍛え上げられた特殊部隊なのですから」
 タカヤが刀を掲げるとプロトン砲座の一部がバイクに変形。横一列に徒党を組み、騎兵達は槍を構える。
「一斉砲撃後突撃、敵を殲滅します。総員、構え!」
「‥‥まずい、体勢を立て直し‥‥っ!?」
 我斬の言葉を待たず傭兵達にプロトン砲が飛来する。防御、回避とそれぞれがなんとか対処するが、続けて正面から槍を手に敵が突っ込んで来る。
 そんな中立ち上がりレインウォーカーが手にしたのは照明銃であった。手持ちの照明銃を次々に近づく敵へと射出していく。
「上手い――これならっ!」
 当然照明銃に殺傷効果などない。が、眩い光が高速で接近してくればUGの手元も僅かに狂う。
 レインウォーカーの奇策に舌を巻きつつ前に出たカシェルが突っ込んで来る敵をひきつけ盾で守りを固める。
「立て直してください! ここは私達で押さえます!」
 マシンガンを乱射しながら叫ぶイーリス。大切なのはここで止まってしまわない事。目的地はまだ遥か頭上なのだ。
 バイクで接近するUGを擦れ違い様に切り倒す浩一。そのまま小銃を連射し味方を援護する。
「移動しながら治療します‥‥立って!」
 負傷した仲間に声をかけつつ隊列を組んだプロトン砲座の中に閃光手榴弾を投げ込む幸乃。光に怯んだ所へ真夜とひまりが弓を放つ。
「砲身を曲げちゃえば‥‥!」
 砲座を次々と攻撃する真矢。ひまりは矢を束ね、並んだ敵に同時に攻撃を放つ。
「怯むな! 第二攻撃隊、前へ!」
 タカヤの合図で後方に控えていた隊が槍を構えて前進する。AU−KVを装着した涼は突っ込んで来る敵を盾で弾き飛ばし、近づく敵にペイント弾を撃ち込んでいく。
「突っ切れ! 突破しちまえばこっちの勝ちだ!」
 涼の叫びを受け同じくAU−KVを纏うミルヒ。突っ込んで来る敵を盾で受けて吹き飛ばし、機械剣を振るう。
「私も‥‥私も、役に立ってみせる‥‥。出来るって事を‥‥証明する」
 心と身体を奮い立たせ前進する。戦況が酷い乱戦に陥ると、少しずつだが突破の光明も見えてきた。
「凄い数の敵だけど‥‥装置破壊の為なら、この命なんてくれてやりますよ!」
 敵の中へバイクで突っ込んでいく梨彩。仲間の援護で道が開かれ、何とか敵の布陣を切り抜ける事に成功した。
「やった、抜けた!」
「そのまま突っ切れ、宮明!」
「は、はい! お先に!」
 槍を振り回しUGを蹴散らしながら叫ぶ我斬の声に背を押されそのまま上層へと突っ切る梨彩。それに気付きタカヤが振り返り銃を向ける。
「ここから先には通しませんよ!」
「水桐、タカヤ――!」
 そこへ突っ込み刀を繰り出すレインウォーカー。舌打ちしながら振り返り、タカヤは数度刃を交える。
「覚えてるか、ボクの事を」
「それは勿論。自己紹介を交わした仲ですからね」
 レインウォーカーの繰り出す斬撃を片手で払い、代わりにとショットガンを突きつけるタカヤ。そこへ瞬時に武器を槍を銃に持ち替え我斬が横槍を入れる。
「一緒に足止めと行きますか。雨君一人じゃ無理っしょ、アレの相手はさ」
 笑う我斬を忌々しげに睨み視線だけで振り返るタカヤ。既に梨彩の姿は影も形も無い。そうこうしている間に涼、ミルヒが敵を散らしながら突破。AU−KVをバイクに戻し、幸乃と共に立ち去っていく。
「良し‥‥敵が崩れた。俺たちも抜けるぞ!」
「攻撃は引き受けます! 皆さんは先に進んでください!」
 次々に突っ込んで来るUGから仲間を守りながらカシェルが叫ぶ。更にイーリスが制圧射撃で活路を開き、浩一とひまりが第一展望台からの離脱に成功する。
「水桐タカヤ‥‥この間はよくもあにきを撃ちましたね‥‥? これはその分!」
 仲間に続いて走りながら振り返り交戦中のタカヤに矢を放つ真夜。弾頭矢の一撃を腕に受け、タカヤは苛立った様子で振り返る。
「やりましたあにき! 一泡吹かせてやりましたよー!」
「ク‥‥ッ! 猪口才な‥‥!」
「余所見とは余裕だな!」
 タカヤに槍を繰り出す我斬。タカヤはバイクから飛び退くように回避し、ショットガンを構える。
「それじゃあ、殺し合おう。お互いの全てを賭けて」
「東京を‥‥否、この国を返して貰うぞ、虫野郎ども!」
 我斬とレインウォーカーに阻まれ眉を潜めるタカヤ。小さく息を吐き、冷静に振舞う。
「あくまで私の足を止めるつもりですか。まあ良いでしょう。あなた達を直ぐに始末すればいいだけの事ですから――」

●解放の狼煙
 先に第一展望台を突破したバイクに乗った機動力重視の面子は後方から追撃して来る敵、そして正面に立ち塞がる敵の挟撃に苦しんでいた。
 新宿の空を翔るような通路からは地上の戦いが見て取れる。この戦いに勝利しなければ、この街の開放自体が危うくなってしまうかもしれない。
「装置は破壊します‥‥この命に換えても!」
 覚悟に身を震わせる梨彩の傷が癒えていく。並走しながら練成治療を施し、幸乃は優しく微笑んだ。
「意気込みは立派ですけど‥‥命を捨てる前に手は尽くしましょ」
 少なくともここで任務と心中するつもりは無い。幸乃は脱出経路が無いか探りつつバイクを走らせるが、それらしき物は中々見当たらなかった。
「尚更、ね。最悪、自分の足で‥‥帰ってもらわないとですから」
 正面、砲座に変形したアルケニーが待ち受ける。砲撃をかわすために傭兵達が散らばると砲座をバイクに戻し、片手で槍を回しながら機敏にバイクを動かし突っ込んで来た。
「こいつ‥‥さっきまでの連中とは動きが違う!」
 擦れ違い様槍と槍での打ち合いになる涼と敵。結果涼は転倒させられAU−KVから放り出される。
 あわや通路から落下という所で立て直すが敵は既にUターンを終え突っ込んできている。追撃を盾で防ぎつつ通路から弾き出そうと試みるが、落ちていったのはバイクだけであった。
「巳沢さん!」
「先に行け! こいつは何とかする!」
 遠ざかる梨彩の声を背にAU−KVを纏う涼。足が止まってしまったのなら仕方ない。それにこいつは恐らく――。
「親衛隊って奴か? やりあいたくはなかったんだがね‥‥!」
 互いに機動力を失い正面からぶつかり合う両名。涼を欠いて先に進む傭兵達を更に親衛隊が待ち受ける。
「下がってください。ここは私が」
 先行しAU−KVを纏うミルヒ。脚部に光を走らせ、機械剣を手に一気に加速する。
 正面衝突時に竜の咆哮で敵を弾き飛ばしながら振り返る。涼と同じ手だが、これが今は一番効率的だ。
 そうして一人は退場させるが続いて二台アルケニーが迫ってくる。擦れ違い様の攻防で打ちのめされたミルヒは転倒、しかしその隙に梨彩と幸乃が通り抜けていく。
 傷を庇いながら立ち上がるミルヒ。傷は痛むが第二展望台まで後僅か‥‥最優先は装置を破壊する事だ。
 深く息を吐き、光の剣を構える。敵がUターンしてくる。覚悟を決め、小さく呟いた。
「証明します‥‥ここで」
 盾を前に走り出す。プロトンライフルで撃たれながらも前へ。
「願いを込めて‥‥剣を振るいます。──壊れてください」
 ミルヒと涼を残し先を急ぐ二人は遂に第二展望台に到達する。乗り捨てるような勢いでバイクから飛び降り、梨彩は閃光手榴弾を手に取る。
「さっきは待ち伏せがあった‥‥なら!」
 投げ込んだ手榴弾が光を放った直後マシンガンを手に突入する。中には数名のUG、そして大型の奇妙な装置が一つ。
 マシンガンを連射しながら突っ込む梨彩。そちらに目が向いている間に幸乃は超機械を構える。
「防衛がいても‥‥」
 超機械に射線は関係ない。連続してジャミング発生装置を攻撃する幸乃。しかし装置は中々停止しない。
 眉を潜め小型超機械を取り出す幸乃。走り出した彼女を援護し梨彩は自らの身体を盾に先へと進ませる。
 プロトン砲に撃たれ倒れる梨彩。幸乃は装置に駆け寄り、小型超機械を翳す。
 超機械から光が放たれ、ジャミング装置がスパークする。直後装置は完全に停止し、その瞬間各戦域へのジャミングは消失するのであった。
「T班、ジャミング装置の破壊に成功‥‥。今こそ副都心解放の時、やっちゃってください‥‥!」
 血を流しながら通信機に叫ぶ梨彩。力が抜け、そのまま意識を失ってしまう。しかし声は確かに仲間達へと届いていた――。


 バイクで先行した面子を徒歩で追う傭兵達は追撃してくる敵と交戦しつつ先を急いでいた。
「やった! やったよあにき!」
「とは言え、問題はここからだな」
 喜ぶ真夜の隣、浩一が神妙な面持ちで呟く。そんな彼らの正面、苦戦する涼の姿が見えてくる。
 もつれ合うように戦う二名に駆け寄りイーリスと浩一が連続して敵を斬りつける。涼はその隙に竜の咆哮で通路から叩き落し、そのまま合流して走り出す。
「すまねぇ、助かった!」
「涼さん、他のみんなはっ?」
「先に行った。無事だといいんだが‥‥」
 と、放していると正面から二台バイクが迫ってくる。
「真夜、私の後ろに!」
 放たれるプロトンライフルを盾で防ぐイーリス。その間に真夜とひまりが弓で敵を迎撃。涼が盾で一人弾き飛ばすと浩一が駆け寄り刃を振り上げる。
 浩一が振り下ろした刃で強引に敵をバイクごと捻じ伏せ叩きのめすとその脇を抜け傭兵達は走っていく。
「ほわぁ‥‥ありがとイーリス。だいじょうぶ?」
「あれくらい防御に専念すればなんて事もありませんよ」
 心配そうな真夜に微笑みかけるイーリス。そうして暫く走るとうつ伏せに倒れているミルヒを発見する。
「さっきの奴らにやられたのか。流石に親衛隊二人はな‥‥」
「僕が背負います。治療も出来ますし」
 ミルヒに肩を貸し、治療を施しながら歩くカシェル。そこへ浩一が近づき、代わりにミルヒを背負い上げる。
「一人で何でもやる事はない。たまには大人を頼る事だ」
「あ‥‥はい。ありがとうございます」
 少し照れくさそうに笑うカシェル。しかしこうなってくると先に進んだ二人が心配で仕方がない。
「二人とも無事だと良いのですが」
「無事といえば‥‥」
 振り返る真夜。第一展望台ではまだレインウォーカーと我斬が戦っているはずだ。
「信じるしかないな‥‥追いついてくると」
 神妙な面持ちで呟く浩一。シリアスな空気の中ひまりが何度か転びそうになりつつ走っているという事は、恐らくカシェル以外は気付いていなかった。

●空
『T班、ジャミング装置の破壊に成功‥‥。今こそ副都心解放の時、やっちゃってください‥‥!』
 第一展望台にてタカヤと交戦するレインウォーカーと我斬。そこへ通信機から聞こえてきた声にタカヤは目を見開く。
「馬鹿な‥‥まさか、そんな」
「残念だったな。これで副都心のジャミングは消える。お前の負けだよ、タカヤ」
 片手で顔を押さえ、我斬の言葉に目だけを動かし鋭い殺意を向けるタカヤ。
「私は‥‥ミスターのご期待に背いてしまったというのですか‥‥! この、私が‥‥!」
 顔を挙げ、男は吼えた。びりびりと肌で感じる程の激しい怒りと後悔に思わず傭兵は身構える。
「ああ、ミスター‥‥お許し下さい! 私は‥‥アーバングレーはッ!」
 ゆらりと振り返り、獣の様な目で傭兵を睨むタカヤ。物腰柔らかく紳士的であった様子から一変、激しい感情の昂ぶりを隠そうともしない。
「まだだ‥‥まだ装置を修理すれば間に合う! 我が身の失態は我が身で償えば良いだけの事‥‥!」
 それは傭兵達にとっても真理であった。そう、まだ終わっていないのだ。
 装置は停止したが再び動かされてしまえばそれまで。ここでこの敵を屠る事が出来なければ結局は何も変わらない。
「楽に死ねるとは思わない事です‥‥! 私の忠義に傷をつけたあなた達は、万死を以ってしても許されません!」
「来るぞ、雨君!」
 猛然と突き進んでくるタカヤに盾をと槍を構える我斬。タカヤの刀を受け止めようとなんとか食らいつくが、盾と槍の間にショットガンを捻じ込まれ吹き飛ばされてしまう。
「タカヤ‥‥!」
「あなた如きに構っている暇は!」
 連続してタカヤに攻撃するレインウォーカーだがその悉くを弾かれてしまう。
 至近距離で突きつけられる銃口。散弾が身体を貫く直前に宙を舞うレインウォーカー。空中で旋回しつつ、鋭く刃を振り下ろす。
「終わりだぁ、水桐‥‥嗤え」
「その程度でいい気にならない事です!」
 身体ごと回転するように繰り出された刃を次々に受けるタカヤ。ショットガンでレインウォーカーを撃ち、刀を繰り出す。
 血を吐きながら目を見開くレインウォーカー。彼はダメージを覚悟で左腕でタカヤの刀を受け、そのまま刃をしっかりと握り締めた。
「何‥‥!?」
「この程度は覚悟の上。お前もそうだろぉ」
 刀を押さえたまま刃を振り下ろすレインウォーカー。止むを得ずショットガンで受けるタカヤ、その背後に素早く我斬が回り込んだ。
 我斬の槍がタカヤの身体を連続して貫く。刀を押さえるレインウォーカーを強引に斬り伏せ振り返りながらショットガンを構えようとするが、手元が狂い銃を落としてしまう。
「な――ッ」
 単純すぎるミス。タカヤは一瞬でその理由を回想する。
 確かに痛んでいた。激昂で痛みを忘れてもダメージを体が忘れる事は無い。そう、彼女が放った矢の傷も――。
 雄叫びと共に更に槍を繰り出す我斬。その一撃が胸を貫き、更に背後からレインウォーカーの斬撃が背を裂いていく。
「ぬ、お‥‥ぉおおおっ!」
 刀を振るい二人を引き離すタカヤ。三人は血塗れで距離を取る。
「雨君、無事か‥‥?」
「大丈夫さぁ‥‥約束を破るわけにはいかないんだぁ」
 左腕は明らかに使い物にならない。散弾で体中に穴を空けられ意識が朦朧とする。それでもレインウォーカーは生きる事を諦めようとはしなかった。
「生きて帰るんだぁ‥‥必ず‥‥」
 呟き、しかし限界だったのか倒れこむレインウォーカー。我斬は傷を庇いながら槍を構える。
「そうだな‥‥生きて帰らなきゃな」
 銃を手にタカヤが近づく。我斬は自分に言い聞かせるように呟き、タカヤへと走り出した――。

 第二展望台に辿り着いた傭兵達が見たのは倒れた幸乃と梨彩の姿であった。
 複数の親衛隊を相手にそれぞれが戦闘を開始する中治療を試みるカシェルだが、既に錬力が限界を迎えていた。
「だめだ、僕じゃもう手当て出来ない!」
「救急セットなら持ってる! 何とか持ち堪えるんだ!」
 カシェルに救急セットを投げ渡し親衛隊の一人と刃を交える涼。傭兵達も善戦しているが敵は全員腕の立つ強化人間、劣勢は明らかだった。
「イーリス、後ろからもきてる! きりがないよっ!」
 バイクで突入してくるUGのプロトンライフルから負傷者を守り立ち回るイーリス。その体に次々に光線が着弾する。
「イーリス!」
「下がりなさい真夜! 私の戦場は此処、ただそれだけです!」
 追撃に対し閃光手榴弾を投げつける浩一。その隙に真夜とひまりが弓で敵を倒していくが状況は好転しない。
「一人一人が強い‥‥もう持たんぞ‥‥!」
 敵と斬り合いながら苦しげに呟く浩一。そこへ更に突入してくるアルケニーが一台。乗っているのは‥‥。
「水桐タカヤ‥‥そんな、じゃあ!」
 タカヤは騎乗したままイーリスに突撃。イーリスを弾き飛ばすとバイクを降り近くにいた真夜へと銃を向ける。
 放たれる散弾を真夜を庇い受けるカシェル。その間に背後から涼と浩一が接近するが、攻撃は刀で受けられてしまう。
「ジャミング発生装置を‥‥よくも!」
 そこへひまりが無数の矢を同時に放つ。体中を矢で貫かれ怯むタカヤ、その負傷は決して浅くはない。
「傷を負ってる‥‥倒せない敵じゃありません!」
「あにき‥‥力を貸してっ!」
 ひまりが叫びながら矢を放つとそれに続き真夜も矢を放つ。続け涼、浩一、カシェル、イーリスも銃を手に取り一斉に攻撃を繰り返す。
「ぐ‥‥っ! 私は、まだ‥‥!」
「えー!? なんで倒れないの!?」
 泣き出しそうな顔で叫ぶ真夜。血塗れになりながらもタカヤは前進してくる。UGの親衛隊もまだ残っている。状況は万事休すの一言であった。
「ご安心を、ミスター‥‥ジャミング装置は、私が必ず‥‥」
 タカヤがここに居るという事は第一展望台に残った二人は既に倒されたという事だろう。傭兵達の脳裏に『全滅』の二文字が過ぎった――その時である。
『下がってろ、ULTの傭兵!』
 突然大音量で外から声が聞こえてきた。傭兵達が振り返ると全面ガラス張りの第二展望台の向こう、KVが旋回しながら上昇してくる。
 慌てて左右に散らばる傭兵達。直後KVから機銃が連射され、タカヤの身体を銃弾が文字通り吹き飛ばしていく。
 倒れるタカヤ、呆然とする傭兵達に声が響いた。
『約束通り迎えに来た! お前達のお陰でジャミングは消失した! 作戦は成功だ!』
 クノスペから垂らされたワイヤーを伝い第二展望台に突入して来た特殊部隊の兵士が敵と交戦を開始する。
 恐らく気力だけで動いていたであろうタカヤも沈黙し、UGの足並みは崩れている。そこから一気に形勢逆転。傭兵達は敵の殲滅に成功する。
「イーリス! 助かったんだよ、私たち!」
「そのようですね‥‥いたっ、真夜‥‥傷がっ」
 イーリスに飛びついて喜ぶ真夜。絶望的な空気が和らぎ傭兵達は次々に安堵の息を吐く。
「間一髪って所か‥‥」
「ひまりちゃん、大丈夫だった? 怪我は無い?」
 その場に倒れこむ涼に苦笑しながらひまりに訊ねるカシェル。ひまりはその場で一回りし無事を伝えるのであった。
「負傷者がいるんだ。優先的に救助と治療を頼む」
 増援の能力者達と言葉を交わす浩一。負傷者達もここで応急処置をして適切な治療を受ければ命に別状はないだろう。
「それと、第一展望台に二人まだ仲間がいる筈なんだ。そちらも頼む」
 浩一の声でその事を思い出しまた不安げな空気になる一同。そこへ通信機から声が聞こえてきた。
『こっちも迎えに来てくれるかねぇ? 自力脱出辛そうなんだけど‥‥』
 それは我斬の声だった。通信機を手に取り、真夜は嬉しそうに叫ぶ。
「すぐ行くから待ってて! もう大丈夫だから!」
 こうしてバグアタワーでの戦いは無事人類の勝利で幕を閉じた。
 第一展望台、血塗れで倒れるレインウォーカーの隣で我斬は息を吐く。彼もまたタカヤと刺し違え深い傷を負っていた。
「‥‥だ、そうだ。帰るぞ‥‥雨君。一緒に生きて、さ‥‥」
 レインウォーカーの応急処置をしながら微笑む我斬。ふと目を向ける展望台の外、彼らが取り戻した新宿の青空が眩く輝いていた。



 新宿副都心制圧作戦、バグアタワー攻略――完了。