タイトル:戦士の居場所マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/28 08:59

●オープニング本文


●交渉
「おや。早かったですね、マクシム」
 ネストリング事務所にて新聞を読んでいたブラッドはそう言って来客に微笑みかけた。
 事務所に入って来たのは冴えない大柄の男だった。ぼさぼさの髪に無精髭、眠たげな目、タンクトップシャツにぼろぼろのジーンズ。ブーツの紐に至っては片方解けている。
 大男は何も言わずにソファの上にどっかりと腰掛け、どこを見るでもなくぼんやりと虚空に視点を定めている。
「用は何だ」
 野太く抑揚の無い声だった。男は目線だけをブラッドへと向け、太い首をゴキリと鳴らした。
「無論、依頼ですよ。親バグア派組織の壊滅、それから構成員の暗殺です」
 立ち上がり茶封筒を手に大男に歩み寄るブラッド。手渡された封筒の中身を引っ張り出し、男は書類に目を向けながら呟く。
「毎度の事だがどこで掴むんだ、こんな情報」
「長年こういう仕事をしているとコネというものが出来るんですよ」
 男は黙って書類に目を通し、再び封筒に丁寧に収めると机の上に無造作に放り投げた。
「どうです、引き受けていただけますか?」
「ああ」
 短い返事だった。必要最低限の事しか話したくない――そんな拒絶染みた意図さえ感じられる程に。
「それと、今回は他にもう一つ厄介な要件をお願いしたいのですが」
「何だ」
「これまでは貴方一人に依頼してきましたが、今回は他の傭兵を雇おうと考えています」
 その言葉に初めて男は意志の篭った目でブラッドを見つめた。無表情故に難解だが、それは抗議の視線であった。
「そんな顔をしないで下さい。邪魔になるようならほっといていいですから」
「俺は一人でしか仕事はしないと言っている筈だ」
「『依頼には口出ししない。気に入らないなら受けない』‥‥とも言ってましたよね」
「引き受けないとも気に入らないとも言っていない。ただ正確に情報を理解し、依頼の内容について依頼人との齟齬をなくしておかなければイレギュラーも発生し得る」
「うーん、そうですねぇ‥‥。仕事自体はそう難しくないんですよ。ただ少し気になる事がありまして」
 腕を組み思案するブラッド。やがて何を思ったか人差し指を立て、頭の横辺りでくるくる渦を描いてみせる。
「こんな頭の女の子がですね、一緒に行くんですが」
「が?」
「その子が使い物になるかどうか、貴方の判断を仰ぎたいなと思いまして」
 益々わけがわからないといった様子の男にブラッドはへらへらと笑いかける。
「お願いしますよ。道楽だと思って付き合ってください。報酬はいつもの倍払いますから」
 報酬は倍という言葉に暫し考え込み、それから男は封筒を引っ手繰って事務所から出て行った。
「よろしくお願いしますよー、マクシム・グレークさん」
 ひらひらと手を振るブラッド。こうして今日もまた胡散臭い依頼を引き受ける傭兵が一人、LHを彷徨うのであった。

●対岸
「あああああっ! むかつく! むかつくっ! む! か! つ! くッ!!」
 薄暗い廃ビルの一室。打ちっ放しコンクリートに囲まれた必要最低限の家具だけが転がる奇妙な場所に絶叫が響き渡っていた。
「オーイオーイ、うっせーぞリップス‥‥集中してゲーム出来ねェだろが」
「人間のくせに! 人間のくせに! 人間のくせにぃいい!」
 巨大な鋏を何度も振り上げては何度も振り下ろす小柄な少女。その足元には夥しい量の赤い水溜りが広がっている。
「おま‥‥落ち着けよ。もう人間じゃねえよそれ。キメラも一緒にぶっ殺してんぞ」
 肩で息を繰り返しながら振り返る少女。その視線の先で胡坐の上にアーケードスティックを乗せた女が溜息を漏らす。
「テメェよー、一回任務に失敗したくれーで荒れすぎだろ。定期的に暴れんの止めろよタリィから」
「うぅ‥‥失敗してない‥‥あたし、失敗なんかしてない。失敗なんかしてない‥‥っ」
 泣きそうな顔でスカートを握り締め震えるリップス。女は頭をぼりぼり掻き、食べかけのスナック菓子の脇に転がった錠剤を手に取る。
「おーよしよし、イジメられて可哀想になァ。お薬のお時間でちゅよーバブバブ」
「子供扱いすんなぁーっ!! ‥‥むぐ!?」
 口の中に錠剤を放り込まれ黙り込むリップス。少女は直ぐに大人しくなり鋏を放り投げて古びたテレビの前に座った。
 薬が効いているというよりは薬を飲んだという事実が効いているのだろう。既にケロリとした様子でお菓子を食べている。
「これで漸く俺の昇竜が安定するわ。小足見てから余裕」
「ねーカイナ、次の仕事まだかな」
「あ? お前しらねーの? ネルが代わりに行ったよ」
「えー!? 聞いてないよ!」
「だから聞いてなかったろテメェ様はよォ」
 限界までほっぺたを膨らませるリップス。長髪の女は瞬きもせずにゲームに集中している。
「親バグア組織の調査だってよ。明らかに人材ミスな。ネルが大人しく帰って来るワケがねェよ」
「ネルちょー人間嫌いじゃん。なんでネル行かせたの? 親バグアでも多分殺しちゃうよ?」
「だからおめーが何かよくわかんねー物体バラすのに夢中になってたからだろアホ」
「カイナが行けばいーじゃん」
「見てわかんねえのか。俺は今最強を極めるのに忙しい」
 唇を尖がらせるリップス。それからお菓子を口に放り込み、咀嚼しながら女の背後にくっつく。
「ねーカイナー、暇だから遊んでよー」
「2コンやるか? 2コン」
「カイナ壁際でずっとボコボコにしてくるからヤダ」
「じゃあクソして寝てろハゲ。これそういうゲームじゃねェから」
 二人の強化人間がそんな不毛な会話を続けていた頃――。
「‥‥人間の町‥‥同じ空気を吸っていると思うだけで‥‥虫唾が走る」
 レインコートに身を包んだ少女がとあるスラム街を歩いていた。落ち着かない様子で親指の爪を噛みながら独り言を呟いている。
「ただ生き長らえる為だけに親バグアを名乗る‥‥ゴミ‥‥ゴミ‥‥ゴミ‥‥ゴミ、ゴミ、ゴミゴミゴミゴミ、ゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミ」
 頭の中で天秤が揺れていた。任務は最近新しく出来た親バグア組織とコンタクトを取る事。だが彼女の頭の中は別の事で一杯だった。
 爪を噛む歯が開き、薄っすらと線を引くように浮かぶ笑み。左右に身体を揺らしながら、少女は地下へ続く階段を下りて行く。
「ゴミ掃除‥‥しなきゃ‥‥」
 ぽつりと、小さく呟きを残して。

●参加者一覧

蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
蕾霧(gc7044
24歳・♀・HG

●リプレイ本文

●雨
 その日、スラムには雨が降り注いでいた。バーの周辺を調査する傭兵達にもそれは例外なく降り注ぐ。
 傭兵達の読み通り、どうやら親バグア組織のアジトはバーの地下にあるようだ。
 二手に別れた傭兵達は雨に打たれながら正面と裏口に移動する。後はタイミングを見計らい、同時に突入するだけだ。
「本当に‥‥やるんですのよね」
 正面入り口の様子を物陰から眺め斬子が呟いた。その顔色はお世辞にも良いとは言えない。
 震える手で斧を握り締める斬子をティナ・アブソリュート(gc4189)が抱き締めた。濡れた服越しに温もりを送るように彼女は囁く。
「以前悲しい事があった時、玲子さんにして貰ったんです。そしたら不思議と落ち着いたんですよね」
「お姉様に‥‥?」
「心が決まらないなら、無理はしなくて良いですから」
 優しく微笑むティナ。そんな二人の様子にマクシムは小さく溜息を一つ。
「子供のごっこ遊びなら他所でやってくれ」
 頭をがしがし掻いた後、一人で歩き出そうとするマクシム。その腕を掴みティナが問う。
「貴方はブラッドさんを胡散臭いと思います?」
 無言で振り返りマクシムは眉間に皺を寄せる。答える気はないのかティナの手を振り払った。
「その辺にしとこうぜー。そろそろ時間だ」
 睨み合う二人の間に割って入り月読井草(gc4439)が言う。突入のタイミングは裏口班と合わせてある。
「一人で行っても、勝手について行きますからね」
 背後からマクシムに告げるティナ。大男は溜息混じりに言った。
「勝手にしろ」

「警備どころか鍵すらなし、か。無用心なのか勇敢なのか」
 ゴミ山に半分隠れた裏口の扉に手を伸ばし蒼河 拓人(gb2873)が呟いた。肩透かしを食らう程全てにおいて問題はない。
「今回の依頼‥‥新人傭兵育成に何の関係が‥‥」
 違和感を思わず口にする張 天莉(gc3344)。確かにネストリングの活動とこの依頼はかけ離れているように思える。
「裏がありそうな依頼だが関係ない。バグアに与した瞬間から奴らはヒトではなくバグアだ。バグアを討ち人を守るのが我らの役目だからな」
 銃を手に静かに語る蕾霧(gc7044)。天莉も彼女の言葉の意味は理解している。だからこそこの依頼を引き受けたのだ。
 小さく深呼吸し胸に手を当てる。思う所がないわけではない。それでも戦う覚悟だけは既に決めてきた。
「時間だね」
 静かに呟き扉に手をかける拓人。同時刻、バー正面でも傭兵達が動き出す。彼らは同時に前後からアジドへと突入するのであった。

●力
 窓が割れる音から数秒。バーの中を眩い光が覆い尽くした。
「全員動くな! あたしらは奥に用があるだけだ!」
 怯む店員と数名の客は井草の声に慌てた様子で身構える。閃光手榴弾の効果もあり照準も定まらないまま彼らは銃を手に取り井草へと向けた。
「おぉ‥‥こりゃ全員よく訓練されたバグアっぽいな。クズキリ!」
 井草は自分と斬子へ練成強化を施し超機械を構える。
「これであんたは鉄の暴風だ‥‥っておーい、聞いてるかー?」
 斬子は完全に停止していた。敵はどう見てもただの人間、その事実が彼女を硬直させる。
 その間に敵は容赦なく拳銃を撃ってくる。狙われた井草に銃弾が命中するが、これといって外傷はない。
「うぉおっ!? 何やってんだクズキリ!?」
 それでも動けない斬子。代わってティナが敵に駆け寄り銃を両断。続けて機械剣を胸に突き刺した。
「こいつら銃が効いてないぞ!?」
 震える手でティナを狙う敵。そこへマクシムの放った銃弾が次々に命中する。
「能力者にただの銃は効かんよ」
 のしのしと歩いてくるマクシム。覚醒した彼の体表は黒い毛で覆われ、その外見は狼男と比喩するのが相応しい。男は斬子の脇を通り抜けながら呟く。
「戦えないなら帰れ。ここは戦士の居るべき場所だ」
 カウンターの奥には地下へ通じる階段があり、マクシムはそこを悠々と降りていく。斬子は口元に手を当てたままその場に崩れ落ちた。
「‥‥こんな一方的な‥‥」
 涙を堪え立ち上がる斬子。ティナと井草はその様子に頷き、全員で地下へと向かうのであった。

「お前、らは‥‥ヒトを‥‥殺した、か‥‥?」
 一方裏口から突入した傭兵達もまた組織の構成員と遭遇していた。狭い通路で銃を向ける男達に不破 炬烏介(gc4206)はゆっくりと歩み寄る。
「何言ってやがる‥‥」
「待ておかしい! さっきから銃が効かない‥‥こいつら!」
 ゆらりゆらりと歩み寄り、炬烏介は無表情に問う。
「ソラノコエ、云う‥‥。『屈服スル者。罪ハ罪、然シ死罰トハ。何故殺スノカ。ヒトノ闇ヲ見ヨ』‥‥。ニンゲン‥‥お前達は、何者だ?」
「撃て! 撃ちまくれ!」
 一斉に炬烏介に発砲する構成員達。その答えに彼は無言で拳を振り上げる。
「ならば‥‥殺す」
 拳を叩き込まれた者から派手に吹っ飛び敵は動かなくなった。その間に拓人は裏口の扉を壊し、退路を塞ぐ作業を完了する。
「さて、手分けしていこうか。アジトにいる奴は勿論だが全員始末だよ」
 拓人と炬烏介は立ち塞がる敵を薙ぎ払い通路の奥へと進んでいく。部屋があれば中に居る者を討ち、道を塞ぎ抵抗すればそれを討ち、進軍が滞る事は無い。
「私は人類を救う為に傭兵になった‥‥だから人類の敵を討つ、ただそれだけ‥‥」
 蹴りが当たれば人間は一撃で拉げる。天莉はその感触に眉を潜めながらも淡々と敵を処理していく。
 人類同士で争っている場合ではないというのに、彼らは敵になってしまった。今彼に出来る事は苦しまぬようにせめて一思いに命を絶ってやる事だけだ。
「来るな化物!」
「や、やめてくれ‥‥たすけ‥‥」
 命乞いを聞かず部屋の隅で震える者達にマシンガンを掃射する蕾霧。動かなくなった敵に銃を降ろして告げる。
「悪いが仕事なのでな。恨むならバグアに与した自分達を恨む事だ」
 殲滅は順調に続いていく。二つしかない出入り口から同時に進行する傭兵達から逃れる術を彼らは持ち合わせていなかった。
 正面班も階段を下り地下アジトに到達。通路に立ち塞がる敵に井草が電撃を放ち、団扇を振るい烈風で次々に吹き飛ばしていく。
「ほんと戦争は地獄だよ!」
 明るい調子で叫ぶ井草。そもこの戦いは戦いにすらなっていない。
 敵を両断し振り返るティナ。斬子は少し離れた所をついてくるが戦う気配は全くない。
 そんな彼女へ道端に倒れた敵が銃を向けた。攻撃はマクシムが腕で庇い、代わりに銃で止めを刺す。
「戦えない者に構うな」
 マクシムへと目を向けるティナ。狼男はのしのしと奥へ進んでいくのであった。
 一方拓人はアジトの中心にある大部屋に辿り着いていた。表のバーに近い作りで、その部屋には複数の構成員が集まっている。
「来たな能力者! 俺はそう簡単にはやられねえぞ!」
 足を止め部屋をぐるりと眺める拓人。どうもこの男がこの組織の切り札らしい。
「簡易強化人間か。今までの強化人間の子達と違いはあるのかな‥‥まあ、やる事は変わらないんだけどね」
 落ち着いた様子で銃を向ける拓人。ナイフを手に向かって来る強化人間へ小さく告げた。
「――因果応報。先にあの世で待っててよ」
 引き金を引けば当たり前の結末が訪れる。銃弾は真っ直ぐに敵を貫き、平等に死を与えるだけであった。

●杭
「これで殲滅完了か」
 残った雑魚を蹴散らした蕾霧が銃を下ろし呟く。大部屋の中にはろくな抵抗も出来ずに散らされた敵の死体が黙しているだけだ。
「装備も対応もお粗末、完全に素人だったね。銃を持って多少強化を受けたくらいじゃ時間稼ぎにもならないよ」
 リボルバーに弾を込めながら呟く拓人。その脇を抜け斬子は死体の前に膝を着く。
「依頼だからって、敵だからってこんな‥‥これが本当に正しい事なんですの‥‥?」
「正しい事だけしていたいのなら傭兵なんて辞めてしまえ」
 マクシムの言葉に泣きながら鋭い視線を向ける斬子。そこへ諭すように蕾霧が続く。
「奴らは既にバグアの軍勢だった。生かしておいてもまた別の場所で悪事を働くだけだ」
 単純な話だ。ここで自分達がやるのか、別の場所で他の誰かがやるのか。違いはそれしかない。
 その時どこからとも無く足音が聞こえてきた。逸早く気付いた天莉が顔を挙げ唯一の出入り口に目を向ける。
「他に誰か‥‥いる?」
 近づく足音に身構える傭兵達。暫しの間を置き、ゆっくりと扉が開かれる。
 現れたのはレインコートの少女だった。雨水を滴らせ、部屋に静かに歩みを進める。
「貴様‥‥何者だっ!」
 銃を向け叫ぶ蕾霧。それと同時に銃を向けたマクシムは即座に発砲、銃弾を受けた少女は吹っ飛び仰向けに倒れた。
 暫しの沈黙。すると倒れた少女は平然と起き上がりフードの下でぎらついた目を輝かせる。
「あぶねーツラしやがって‥‥」
「貴方は誰です? 鋏の少女‥‥リップス・シザースの仲間ですか?」
 笑う井草に続き天莉が問いかける。しかし少女は答えずそのまま天莉に向かって突っ込んで来る。
「やはり問答無用ですか‥‥!」
 蹴りを傘で受ける天莉。攻撃を防ぎながら横目にマクシムへ問う。
「マキシムさんは会った事有ります!?」
「いいや」
 銃を連射するマクシム。少女は瞬時に後退し、壁際で制止。レインコートを脱ぎ去り笑みを浮かべた。右腕には異形の装備。そして全身に大量の杭の様な鉄の塊を提げている。
「自分は拓人、お嬢さんのお名前は何かな?」
 拓人の問いに少女は無邪気に笑う。それから足から提げていた杭を手に歩み寄る。
「杭を打ちましょ‥‥腹に頭に心臓に‥‥塵は塵に‥‥灰は、灰に‥‥」
 会話は成立しない――そう判断し拓人は引き金を引く。銃弾は一度あらぬ方向へ向かい、床を刎ねて敵の腕を穿つ。
 流れる血。少女は焦点の合わない目で拓人を捉え手にした杭を投擲。高速で飛来した杭に肩を穿たれ衝撃で拓人は大きく後退する。
「真なる‥‥穢れの眷属‥‥殺して‥‥やる」
 拓人に代わり炬烏介が前に踏み込み拳を繰り出す。敵はそれに拳を合わせ、激突の結果炬烏介の拳が悲鳴を上げた。
 炬烏介を壁に投げつけ、腕に杭を突き刺して釘付けにすると狂ったように笑いながら近くにいた斬子へと走り出す。
「斬子さん!」
 避けようともしない斬子を庇い攻撃を受ける天莉。それでも斬子は動けずに居た。
「何をしている、死にたいのか!」
「でも‥‥」
「躊躇うな! こいつらはバグアだ! 人類の――敵だ!」
 天莉を射撃で援護しながら叫ぶ蕾霧。戦意喪失状態の斬子を気にしつつ攻撃を防ぐ天莉に敵は右腕を突きつけ低く構えた。
 劈くような轟音と共に衝撃が天莉を襲う。腕に装填された杭を零距離で射出したのだ。天莉は派手に吹き飛び、そのまま壁に縫い付けられる事になった。
「釘打ち機、か」
 呟くマクシム。彼と同時に蕾霧が銃を連射するが、敵の挙動は早く照準がまともに追いつかない。
「この鋭い攻撃、敵ながらグレートな奴だぜ」
 笑みと共に練成強化を味方に施す井草。強化を受けティナは声をかけながら走り出す。
「マクシムさん、援護を!」
 壁を高速で駆け上がり頭上から刃を振り下ろすティナ。敵はそれに反応し拳を繰り出すが、ティナは空中で回転しつつ自らが羽織っていたコートを敵の顔に覆い被せた。
 顔を布で塞がれた敵の背を着地と同時に素早く斬り付けるティナ。敵は反射でティナへ腕を伸ばすが突っ込んできたマクシムが蹴りを入れ、その身体を弾き飛ばした。
「速いけど動きは直線的だ。落ち着いて狙えば当てられない相手じゃない」
 釘付けにされていた拓人が杭を抜いて復帰。同じく炬烏介も拘束を離脱する。
 強烈な一撃を受けた天莉は傷も深く出血も酷い。壁に縫われたまま気絶しているのを井草が手当てしている。
「こんな釘大した事ないぜー! 悔しかったらバンバン撃ってみろってんだ!」
 治療しつつじたばた叫ぶ井草。相手の手の内を探る為の挑発、それに敵はあっさり応答する。
 連続で装置に杭を装填して構える敵。嫌な予感に走り出す井草を追い、連続発射された杭が壁を粉砕していく。
「連続で撃てるんかい!」
 杭を装置で発射するには装填が必要――そこを狙い撃つ拓人。装置が銃弾で弾かれ、発射の反動で少女は横に回転する。
「‥‥全身全霊で往く、ぞ」
 接近し拳を振り上げる炬烏介。攻撃を左腕で防ぐ少女だが、その腕は最初に拓人に撃たれておりガードが甘い。崩れた所へ炬烏介は畳み掛ける。
「‥‥死ね、よ‥‥『虐鬼王拳』‥‥」
 脇腹に減り込む一撃。しかし敵はけろりとした様子で反撃を繰り出そうとする。そこへ拓人と蕾霧の銃撃が入り、止むを得ず敵は後退する。
 その時部屋に間抜けな呼び出し音が響き渡った。臨戦態勢を解き、少女は悠々と通信機を取り出し呼び出しに応じる。
 少女はそうして暫く無言で通信に耳を傾けた後、いそいそと杭を適度に拾いレインコートを羽織って何事も無かったかのように部屋を後にするのであった。
「‥‥なんだありゃ」
「深追いはしなくていいだろう。奴に関しては、特に依頼に含まれて居ないからな」
 呆れた様子の井草に続き溜息混じりに蕾霧が言う。こうして乱入者は立ち去り、アジトに静けさが戻るのであった。

「ヒイロさんにこの依頼が斡旋されるのを防ぎたかった‥‥ってところでしょうか」
 戦いが終わり斬子に声をかける天莉。少女は何も答えない。
「泣いている‥‥のか?」
 炬烏介の言葉にも答えない。少年は頭上を仰ぎ目を瞑る。
「ソラ‥‥俺は‥‥罪人か?」
「もちろん悪い事だよ。でもそれが今回の仕事だからなー」
 肩を竦める井草。それから斬子に目を向ける。
「それにさ、理由が有れば悪行が善行に変わるの?」
 誰もその問いには答えられない。炬烏介は徐にナイフを取り出し、自らの身体を切りつけた。周囲の目を気にせず炬烏介は呟く。
「全ては‥‥バグア。奴ら‥‥居る故の災厄‥‥。強く、なるぞ‥‥。奴ら、必ず、殺す」
「あいつとは、また会う気がするよ」
 疲れた様子で呟く井草。役目を終え傭兵達はアジトから引き返していく。
 最後までその場を動けず立ち尽くす斬子。その手から斧が落ち、からんと空しく音を響かせた。