●リプレイ本文
●樹海戦線
「こちら傭兵の白鐘だ。九頭竜中尉、聞こえるか」
キメラをブレードで薙ぎ払いながら振り返る玲子。通信機からの声にキメラを迎撃しつつ応じる。
「こちら九頭竜機、聞こえている。増援か‥‥有り難い」
「間もなく合流する。ゴーレムとタートルワームは引き受けるので、輸送隊の直衛は任せたい。問題ないか?」
大量に迫るキメラを迎撃しつつ後退を続ける九頭竜小隊に近づく傭兵の一団の姿があった。白鐘剣一郎(
ga0184)は遠目に戦闘を捉え、玲子に問いかける。
「了解した。というより既にそれで手一杯だな」
溜息混じりに呟く玲子。傭兵の戦闘を行く剣一郎のシュテルン・Gが後続の二機にハンドサインを送り、三機は九頭竜小隊の脇を抜け戦域の奥へと向かう。
続け芹沢ヒロミ(
gb2089)のフェンリルとフローラ・シュトリエ(
gb6204)のディアマントシュタオプが通過。先行する三機に続く。
剣一郎の指示通り後退する輸送隊について引き下がる玲子。そこへ近づくキメラを後方から放たれた無数の弾丸が貫いていく。
「さすがに数が多いですね‥‥でも、やらせないですよ」
バルカンを連射しつつキメラの群れへと向かうヨダカ(
gc2990)のペインブラッド。その隣をシーヴ・王(
ga5638)の岩龍がスラスターライフルを撃ちながら前進する。
「数が多いのが面倒でありやがるですが、簡単にゃ進ませねぇですよ」
「すまないな。つくづく傭兵には助けられる」
玲子のフェニックスも交え三機は近づくキメラを片っ端から撃ち抜いていく。しかし倒しても倒しても焼け石に水で、樹海から次々にキメラが姿を表してくる。
「キリがねぇですよ。九頭竜小隊は少し後方寄りを守って貰えねぇですかね」
「言われなくても俺達は後ろの方で見てますんで!」
三機のS−01は既に輸送隊よりも後ろに待機している。シーヴは振り返り、その体たらくに何とも言えない視線を向けた。
「この間は九頭竜中尉には恥ずかしい所を見せてしまったので名誉挽回なのですよ!」
「ん‥‥そういえば君は確か‥‥」
以前の戦いを思い返し複雑な表情でヨダカを見る玲子。キメラを撃ちつつ、ヨダカはあどけない笑顔で語りかける。
「あ、中尉の事を『きゅ〜ちゃん』と呼んでよいです?」
「か‥‥かわいいっ!? 何か色々ツッコみたいが、かわいいっ! 勿論呼んで良いともさ!」
胸の前で手を組む玲子のフェニックス。きょとんと首を傾げるヨダカに玲子は目を輝かせる。シーヴはそんな玲子の様子に溜息を一つ。
「‥‥しっかりしやがれです」
三人がそんな感じでキメラと戦闘している間、夢守 ルキア(
gb9436)は骸龍のコックピットでレーダーに目を凝らしていた。
「アルゴスシステム起動――うわ、敵多‥‥。ゴーレムとタートルワームの位置送るよ。キメラにも注意してよね」
ASに手動でデータ入力を行い、各機に敵の位置情報をリンクするルキア。送られてくる敵の数の多さに全員一瞬うんざりした気分になる。
「まったく、これじゃあさっさとこっちを片付けないと話にならないわねぇ‥‥」
「樹海に樹木型キメラとは、正に木を隠すなら森の中、ですな。ルキアさんが居てくれなかったら位置把握に苦戦していた所です」
接近するゴーレムに向かうレイラ・ブラウニング(
ga0033)と飯島 修司(
ga7951)。二人は剣一郎と共に敵機を補足しつつあった。
「それよりも‥‥九頭竜中尉。先ほどから何やらずっと呟いておられるようですが、何かありましたか?」
「ん? いや、何もないさ。お化けはいないってだけの話だ」
わけのわからない返答に眉を潜める修司。正面にはゴーレムが四機、横一列にならんで布陣している。
ゴーレムの放つフェザー砲の無数の光が降り注ぐと三機は散開。修司と剣一郎が先行すると、レイラはレーザーガンとバルカンを構え弾幕を形成する。
「さぁ、一気に行くわよ!」
レイラが攻撃を開始すると先行する二機はブースト。それぞれの得物を手に別々のゴーレムへと迫る。
「来て早々だが、お引取り願おう。駆けろ、流星皇!」
迫る光の矢を物ともせず槍をを構える二機。そのまま一気に接近し、ほぼ同時にゴーレムに機槍を突き刺した。
槍を引き抜き、続け機刀「獅子王」を繰り出す剣一郎。刃はゴーレムの装甲をするりと切り裂き、上半身を袈裟に両断する。
修司は槍をゴーレムに突き刺したまま加速。ゴーレムを盾にフェザー砲を掻い潜り、次のゴーレムそのまま突っ込んでいく。
爆ぜるロンゴミニアトの矛先を引き抜き剣を構えるディアブロ。その姿は誰よりも『悪魔』の名が良く似合っている。
「貴様らの相手は俺たちだ。余所見をする余裕などないと思え」
剣を軽く振るい、次の獲物へと向かう剣一郎。レイラが吹いた口笛は驚きと賞賛に満ちていた。
そんな三人の脇を抜け、ゴーレムの後方のTWに向かう機体が二つ。
「お互い初陣だ。気合入れて行こうぜ? フェンリル」
新型のコックピットで愛機に語りかけるヒロミ。久々の依頼、初と言っていい実戦。
身震いするのは緊張の所為ではなく、彼の場合は武者震いだろう。こうして初陣をこの機体と迎えられた事を心強く思う。
「まずはTWを速攻で落とすわよー。ゴーレムは向こうがきっちり抑えてくれてるし、集中してかかれそうね」
隣を行くフローラは笑顔で言うと加速。ヒロミもそれに続く。
マイクロブースターを起動し、一気に急加速するフェンリル。フローラのディアマントシュタオプより先行し、TWに迫る。
「クソ‥‥なんつー加速力だッ! だがコイツを使いこなすには、この程度でヘバる訳にゃいかねぇんだよッ!」
地を駆けるフェンリルへTWの放つ閃光が迫る。光の矢を右へ左へ回避しつつ、ヒロミは歯を食いしばり突撃する。
「これが今の俺とフェンリルが出来る――全力の一撃だッ!!」
擦れ違い様、練機刀「白桜舞」の淡い朱の光がTWを斬りつける。
「接近してしまえばこちらのもの、ってね」
続け接近したフローラもまた練機刀を振るう。二人の放った桜色の軌跡はTWの堅い装甲に鋭く刻まれている。
「ヒロミさん、トドメ!」
「突っ込むだけが能じゃない‥‥てなもんだ」
距離を取りつつ互いの位置を調整し、同時にプラズマライフルを構える二機。二機は同時に攻撃を開始。十字砲火で繰り出されるエネルギー弾にTWは沈んでいく。
「ふう、いっちょ上がり‥‥ってねー」
息ピッタリな二人。フローラの笑顔にヒロミはサムズアップを返すのであった。
「また数増えてるケド‥‥本当にキリないね」
輸送隊の傍でガトリングを乱射するルキア。樹海各地から出現したキメラは輸送隊を包囲するように展開しつつあった。
「さあ、アテナにひれ伏してぇヤツはどいつですか」
射撃だけでは対処しきれずじわじわと接近する敵に槍を構えるシーヴ。びしっと決まった台詞の後やや思案し‥‥。
「めんどくせぇので全員ひれ伏しやがれです」
兎に角数が多い。近づく敵を片っ端から薙ぎ払い、死体の山を組み上げていく。
詰まれた死体は意図的な物で、今や簡易のバリケードとして機能しつつあった。それでも敵の進行は阻止出来ない。
「これなら纏める必要もないのです!」
翼のようなシュラウドでその身を覆い、ヨダカのペインブラッドが瞳を輝かせる。
「フフフ‥‥! ブラックハーツ・クラスター、発射なのです!」
閃光が瞬き、正面にいた無数のキメラが焼かれていく。効果は覿面でヨダカは笑みを浮かべるが、焼けた後から新しい敵が次々に迫ってくる。
「いくらなんでも多すぎなのです!」
二度、三度と瞬く光。光のヴェールがキメラを焼くと漸く少し敵が減ってきたように思える。
「何なのだこいつらは‥‥まさか本当におばけじゃないだろうな!?」
「中尉は何を怖がっているのです?」
「キメラは化けモンだと思うですし、お化けっちゃお化けじゃねぇですかね」
三人は白兵武器で木々を薙ぎ払う。すると背後からルキアが声をあげた。
「後方からもキメラが来てるよ! 九頭竜隊の連中じゃ対処しきれない!」
気付けば退路も断たれていた。ルキアは後方からの敵を迎撃するが、九頭竜隊のS−01がキメラに取り付かれて動けなくなってしまう。
「た、隊長もう無理です! 助けてください!」
ルキアは装剣したノワール・デヴァステイターでキメラを切り倒し、S−01を救出。だがこのままではジリ貧になるのは明白だった。
「これでゴーレムはケリが着いたな。キメラの方はどうだ?」
「想像以上の数に苦戦しているようですな。これではまるで樹海そのものを相手にしているかのようです」
ゴーレム四機を撃破した剣一郎達は振り返り輸送隊の方へと向かう。が、迫ってきたキメラは合流を邪魔するように立ち塞がっている。
「部下はやらせん!」
「おいこら、一人で突っ込むんじゃねぇです」
シーヴの静止も聞かずキメラを薙ぎ払いながら部下の下へと急ぐ玲子。連携が崩れ、シーヴとヨダカにどっと敵が迫る‥‥その時であった。
「聞いた事があると思うけど‥‥この樹海、自殺や殺人の名所で有名なのよねぇ‥‥」
通信機から聞こえたレイラの声に玲子の動きがピタリと止まる。
「幽霊の目撃証言も多数有るって話しだし〜。下手に突撃して辺りを荒らしたら呪われるかもしれませんね〜」
「最早荒らすというレベルではないような気もしますがね」
修司のツッコミを無視してレイラは続ける。
「私としてはできれば輸送車を囲んで近づいてくるキメラに牽制射撃‥‥ってぇ、ちょっと!?」
玲子のフェニックスは固まっている間にキメラに絡め取られ、ボコボコに殴られていた。
「わぁーっ!? きゅーちゃんのフェニックスがー!?」
慌てるヨダカ。シーヴとルキアは同時に何かどうしようもない物を見るような目を向けていた。
「ふむ、逆効果でしたな」
「あーもう、手間かけさせるんだからっ!」
ヴィヴィアンを構え、キメラの群れに突撃するレイラ。疾走する騎士はキメラを薙ぎ払い一気に道を切り開いていく。
「ほらほらほら、退きなさい! 戦乙女に仕上げたうちの娘は伊達じゃないわよ!!」
剣一郎と修司も片っ端からキメラを叩き切りレイラに続く。合流を果たした傭兵達は輸送隊を守るように布陣した。
「しっかりして下さい中尉!」
レイラは棒立ちのフェニックスを救出しつつ声をかけるが反応が無い。そこへヨダカが呟く。
「幽霊なんてこの世にはいないのですよ? 銀河の果てまで行ける船でも、亡くした人には会えないのです」
聞き方によってはまるで幽霊が居て欲しいと願うような、そんな寂しげな呟きに玲子は顔を上げる。
「それでただの化け物なら、殴ればぶっ飛ばせるのですよ!」
「クズ中はキメラというお化けに勝ってやがるんですよ。恐れる必要はねぇはずです」
続けシーヴが微かに笑みを向ける。玲子は何か思い直したように頷き、近づく敵を切り払った。
「そうだな‥‥ありがとう。もう私はお化けを恐れない!」
「本当かしらね‥‥」
冷や汗を流すレイラ。とりあえず復活したようで何よりだ。
「さすがにこれだけ数が多いと手間が掛かりすぎるな‥‥。このまま突破してしまおう。九頭竜中尉、輸送隊の先導を頼めるか? こちらで道を切り開く」
「それしかないか‥‥。各機前進! 戦域を離脱する!」
こうして輸送隊を連れ突破を試みる事になった。傭兵達は近づく敵を薙ぎ払い、輸送隊を守りながら進軍する。
ルキアの指示でより敵の少ない部分を突破していく傭兵達。離脱ルートの先ではヒロミとフローラがキメラとの戦闘を続けていた。
「ったく、大忙しだぜ!」
「こっちよー、急いで!」
二機は周囲のキメラを殲滅。その後輸送隊に近づく左右の敵をプラズマライフルで撃ち抜いていく。
「もう少しだ!」
戦域を離脱する輸送車両。殿をヒロミとフローラが務め、傭兵達は突破に成功するのであった。
「せっかくだから、最後まで付き合うわよー」
「この調子じゃまたいつ襲撃を受けるかわからねぇしな」
最後まで敵を減らしつつフローラとヒロミが離脱する。そんな流れで結局全員が最後まで輸送隊に付き合うのであった。
●離脱後
「死ぬかと思った」
無事物資輸送の任務を終えた九頭竜小隊の隊員達は開口一番にそう呟いた。
「補給戦の構築が戦争で一番大事なのですよね。だから敵さんも狙って来る訳なのですけど」
ヨダカの言葉に顔を見合わせる隊員達。いまいち大事な仕事を成し遂げたという自覚は薄いようだ。
「何とか無事か。皆、お疲れ様だな」
仲間達の善戦を労う剣一郎。戦闘よりも別の部分で疲れたような気もする。
「そうだ中尉、後で皆で飯でも食いに行こうぜ。ちょいと遅れたが、誕生日パーティと洒落込もう」
けろりと笑いながら語るヒロミ。しかし玲子は何か信じられない物を見たという様な形相で詰め寄ってくる。
「そそそ、そ‥‥そんな事ってあるのか!?」
「いてててっ!? な、何がだ!?」
無駄にエースアサルトの握力で肩を掴んでくる玲子。女は至極真面目な表情で言った。
「私は基本的に誕生日を祝ってもらった事がないのだ。友達も居ないし、家族も私の誕生日なんか覚えていない」
「‥‥はあ?」
冷や汗を流しつつ何とも言えない表情のヒロミ。玲子は胸の前で手を組み、幸せそうに空を見上げている。
「誕生日祝い‥‥なんて素敵な言葉なのだろう」
「一貫してアホでありやがるですね」
「あれはもうそういうモノだと思って、上手に利用する方法を考えた方がいいカナ」
シーヴの隣、腕を組んで一人頷くルキア。玲子は二人の視線に気付かない。
「九頭竜中尉、誕生日おめでとう。実は俺も誕生日一緒なんだ」
「そうだったのか。では、君もおめでとうだな」
笑い合う剣一郎と玲子。その間に立ちヒロミは笑う。
「じゃあ一緒にやっちまえばいいじゃねぇか! 皆も行くだろ?」
「んー、そうだね。最後まで付き合うって言っちゃったしねー」
肩を竦めて笑うフローラ。こうして何と無く誕生日祝いの約束を取り付けつつ傭兵達の仕事は完了するのであった。
「中尉、御祓いで有名な神社教えましょうか?」
「結構だ!」
ニヤニヤ笑うレイラの声にビビりながら叫ぶ玲子。修司はそんな様子を眺め、腕を組んで笑っていた。