タイトル:望まざるはサウダーデマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/23 15:21

●オープニング本文


「なあ、俺達ここで何してるんだっけ」
「‥‥さあ」
 眼前に広がる森を眺め、立ち尽くす燕尾服姿の執事が二人。片方は煙草を吸っており、片方は眼鏡に光を反射させている。
 二人がこうしてここに立ち尽くして既に二時間近くが経過している。ボケーっと突っ立った男の口元から煙草の灰がポロリと落ち、時間の経過を知らしめる。
 執事達には奇妙な点があった。それは二人とも何故か片手に虫捕り網を握り締めており、肩からは安っぽい虫篭がかけられているのだ。更に言えば頭の上には酷く懐かしいデザインの麦藁帽子が鎮座している。大の男が二人揃ってやるには随分ときわどいファッションである。
「‥‥うわーん! うわあああんっ! もういやですう! いやですうううっ!」
 ふと、二人が同時に顔を上げた。その視線の先、森から出てきたのは顔見知りの使用人の女性であった。所謂メイド服を着用しているはずの彼女だったが、そのメイド服は所々がまるで溶けたように崩れており、使用人の女性は両腕で何とか布を押さえている状態であった。
「な、何がどうなればああなるんですか!?」
「だ、大丈夫か!? 何があった!?」
 二人が慌てて駆け寄るが、服がギリギリである所為か女性は走って逃げてしまう。結局一悶着あり、一定の距離を保って二組はにらみ合う。
「もう無理ですう‥‥! このお仕事辞めますっ! もう絶対辞めますっ!」
「だから、何があったんだよ‥‥」
「キメラです! あれ絶対キメラですっ! そうに違いないんですっ! すごくうねうねしてて太くて硬かったんですっ!」
 男二人は腕を組んで想像する。妙なものしか浮かんでこなかったのは内緒である。
「‥‥待ってください。ここは私有地ですよ? あるものと言えば、旦那様の別荘くらいのもの。そこに何故キメラが?」
「バグアの考える事はわかんねーなオイ‥‥」
「兎に角絶対キメラだったんですう! もうやだ! いやです! 能力者呼んでください今すぐここにっ!」
 泣きながら激しく取り乱した様子のメイドさん。確かにキメラがいるのならば能力者にでも頼るしかないのだろうが‥‥。

 とある海の上に浮かぶ、とある富豪が所有する南の島――。所有者の富豪は時々この島に家族連れでバカンスにやってくる。それが全ての事の発端であった。
「‥‥うおっほん! なあ、息子よ。せっかく南の島に来たんだから、一緒に海にでもいかないか?」
「何言ってんのパパ‥‥。南の島なんてクソ暑いだけで何も良い事なんかないよ。言っておくけどボクは冷房効いた部屋から絶対出ないからね」
 別荘の一室、クーラーがガンガンに効いた部屋で息子はソファの上に転がってゲームをしていた。使用人達の間で『W』になっていると有名なヒゲを弄り、父親は語る。
「子供の内は、外に出て遊んだ方がいいんだぞ! それに、室内で一人でいたら相手がいなくて退屈だろう? どうだ? パパと一緒に海にでも‥‥」
「相手なら携帯ゲーム機で間に合ってるよ」
「むぐぐ‥‥! で、では山ならどうだ? お前は虫が大好きだったからなあ。どうだ、パパと一緒に昆虫採集なんか!」
「パパ、いつの話してんの? 虫なんか捕ってどうすんのさ。虫もゲームで間に合ってるよ」
「そ、そんな!? 昔は一緒に昆虫採取したじゃないかっ!」
「‥‥まあ、確かに珍しい物を見るのは好きだけどね。自分で捕りに行くのめんどくさいから、パパ捕ってきてよ」
「パパだけ行くの!? ま、まあいいだろう‥‥それで息子が喜ぶというのなら‥‥! おい、執事二人!」
 主人が手を叩くと部屋の外から二人の男が入ってくる。二人の前で腕を組むと、Wは言った。
「‥‥虫捕り夏の思い出作戦は失敗だ。だが虫は見たいそうなので、虫だけとってくるのだ」
「お言葉ですが旦那様‥‥。虫捕り夏の思い出作戦の為に、山の中には坊ちゃんが好きだった虫を意図的に放ってありますよ‥‥? 実際に坊ちゃんが捕りに行かないと意味がないのでは‥‥」
「私もそうしたいが息子が嫌だっていうんだからしょうがないでしょ!? いいから行って来て! メイド一人くらい連れてっていいから!」
 こうして執事二人はもつれた親子関係のツケを払わされる形で森に向かったのである――。

「‥‥坊ちゃんも昔はあんな子ではなかったのですが」
 眼鏡をかけた執事の手にあったのは昔坊ちゃんが書いた手作りの虫図鑑であった。そこには坊ちゃんが勝手に命名した様々な虫たちが元気よくクレヨンで描かれている。
「ま、それでも坊ちゃんが喜ぶなら俺達はやるまでさ。けどとりあえずキメラの件は報告しねえとな」
「ふええんっ! あなたたちはそれでいいかもしれませんけど、私ただのバイトのメイドですよ!? これどうするんですか!?」
 男二人はチラリと破れたメイド服を見やる。それはそれで――いいんじゃないだろうか。心の中で二人は納得し、メイドを置いて踵を返した。
「ちょ、ちょっとー!? うえーん、待って! 待ってくださいよう! 本当にキメラがいたんですよう! 嘘じゃないんですようぅうーっ!」
 よたよたと二人を追いかけるメイドが小石に躓き派手に転倒する。彼女の不幸は――このお話とは特に関係ありません。

●参加者一覧

Letia Bar(ga6313
25歳・♀・JG
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
信貴乃 阿朱(gc3015
19歳・♂・EP
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD
牧野・和輝(gc4042
26歳・♂・JG
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP

●リプレイ本文

●どこにいるかな
「さぁて、虫採り楽しんじゃうよぉ!」
 Letia Bar(ga6313)のそんな元気な第一声が行動開始の合図であった。中にはそもそも虫が嫌いな者や出現したキメラの能力を後で知り固まった者も居たが、一度受けてしまった以上逃げ場はない。とにかく明るくスタートするしかないのが現実であった。
「南の島で虫取りか。面白そうだな、子供の頃を思い出すぜ」
 六人兄妹のお兄ちゃん、信貴乃 阿朱(gc3015)にとって残念だったのはこれがキメラ討伐も含んだ依頼だという事だ。そうでなければ家族を連れてきてやりたいくらいなのだが、仕事では仕方が無い。
 ほぼ全員がまずは情報収集へと向かう。その中からはぐれ、ふらりと森へ向かうのは最上 憐 (gb0002)だ。憐にとっては虫取りは美味しい物を探す『ついで』に他ならない。美味しそうな物を求めて本能的に移動を開始する憐にまだ誰も気づいてはいなかった。
 とりあえずキメラに実際に遭遇したというメイドに話を伺う為に依頼人達がいる別荘へと向かう。メイドは能力者達を見るなり身振り手振りで説明を開始した。やや依頼内容と関係性の薄い不幸話が混じったが、大まかなキメラの場所はこれで確かめられた。
 仲間がメイドの話を聞いている間、牧野・和輝(gc4042)はあえて執事に話を聞いていた。キメラの情報ならば仲間が集めるだろうし、執事が虫を放ったのならば大物の情報が得られると思ったのだ。しかし実際はあのメイドが苦手なだけだったのは内緒である。
「虫捕り、一緒に行かないか?」
 能力者がやってくると言えば物珍しさに負けて坊ちゃんがやってくるのもある意味当然の流れではあった。物陰からこっそりこちらを見ていた少年に気づき、番 朝(ga7743)が声をかける。それにLetia続き、少年を誘う。
「女の子の誘いは断るもんじゃないさね。ほらほら、出ておいで〜」
 しかし少年は出てくるどころかそそくさと退散してしまった。首を傾げる朝の隣、ネイ・ジュピター(gc4209)は一人何かに納得した様子だった。
 そもそもネイの思考には『坊ちゃんが本気で虫捕りを嫌がっている』という可能性がすっぽり抜けていた。行きたがらないのは何か理由があるのか、それともただ素直になれないだけなのか。とりあえず障害であるキメラさえ倒してしまえばきっと楽しく皆で過ごせるだろう――そう信じて疑っていないのだ。
「被害者がいる以上放って置く訳にもいきませんね。一先ずキメラを倒し、昆虫採取はそれからにしましょう」
 八葉 白夜(gc3296)が頷きながらそう語ると、能力者達は森の中へと移動した。メイドがぶんぶん手を振って応援していたが、和輝は出来るだけ目をあわせないようにした。

●ようしゃなきたたかい
 森の中、情報通りの場所にそのキメラは居た。言われてみれば異常にしか見えないその容姿は巨大化したラフレシアのようだ。
 見方によっては大口広げた凶悪なキメラに見えなくもない。しかしそれとは無関係な要素により能力者達のキメラ討伐への気迫は凄まじい物があった。全員が同時に覚醒し、戦闘が開始される。
 先陣を切ったのは白夜であった。能力をフルに発揮し、一気にキメラへと近づき驟雨で斬り付ける――。白夜が違和感を覚えたのは己の挙動に過ちや疑念があったからではない。ただ単純に、一度斬りつけただけのキメラが既にぐったりしているのに拍子抜けしたのである。
 戦闘能力の低いキメラではあったが、殺傷能力とは程遠い、しかし強力な能力を持っていた。攻撃に反応してか、大量の粉塵が周囲に撒き散らされたのである。甘ったるく、眩暈がするようなその匂いは見る見る周囲に広がっていく。
「げっ!? なんだこりゃ、身体が上手く動かねえ‥‥!」
 想像以上の広範囲に、しかもかなりの勢いで広がっていく麻痺毒に阿朱が舌打ちする。しかし事前に湿ったマフラーで口元を覆っていた朝に効果は薄く、視界を遮るような粉塵の中を朝は駆け抜けていく。
 木の影に隠れ、離れた位置から銃による攻撃を仕掛ける和輝とLetia。仲間達へと伸ばされる触手を迎撃しつつ、援護を続ける。朝は攻撃を抜けキメラへと大剣を叩き込んだ。全能力をフル稼働して放たれた一撃はキメラの花弁を両断する。しかしそれとほぼ同時、背後で触手に絡め取られている人物の姿があった。
「‥‥なんで俺なんだよ!?」
 触手から放たれる謎の液体で上半身が裸になった阿朱はしかし無傷であった。無傷で、何故か服だけが溶けている。下半身まで裸体になっていては問題だったが、とりあえず鍛え抜かれた筋肉質な上半身が露になるだけであった。
 阿朱が触手に捕らえられたのは回避が遅れたからとか麻痺していたからとか運が悪かったからとか理由は様々だが、何かこれは違う気がする。奇妙な沈黙が一瞬場を支配し、後に全員が既に戦闘不能になっているキメラへ攻撃を仕掛けた。
「こ、こう見えて我も女なのでな。女の敵に容赦はせぬよ!」
 ネイの声を筆頭に、後方からは銃弾がキメラを貫き四方八方から刃が繰り出される。ぼっこぼこにされたキメラの状態はオーバーキルという表現がピッタリである。
「と、とりあえず処理は終わりました。これで一安心ですね」
 ズタズタに引き裂かれた哀れなキメラを見やり、白夜がそう呟いた。その背後阿朱は肉体美を晒し続けている。
「あらら〜‥‥? えーと‥‥結構いい身体してんじゃん!」
 あまり元気にならないLetiaの激励。ネイは咳払いをしながら視線を逸らしていた。そこへ和輝が歩み寄り、阿朱の肩にそっと自らのコートをかける。
「‥‥ありがとよ」
「着替え‥‥あるか?」
「おう‥‥」
 見詰め合う男二人。なにやら奇妙な空気のまま、キメラ討伐は完了したのであった。その頃憐は森の中で発見したバナナを一人で食べつくそうとしていた。
「‥‥ん。南国。ジャングル。果物。野生に。還りそうになる」

●じゅんびをしましょう
 さて、いよいよ本題の虫捕りが開始された。まずは罠を仕掛けて置こうというLetiaと朝チームは倒したキメラ周囲にも罠を仕掛ける抜かりなさ。虫捕りの経験など無い朝も頑張って調べて中々本格的な罠を作ってきたようだ。
 二人が一緒に罠を設置している頃、ネイは森の中を駆け抜けていた。素早く移動しつつ、素早く罠を仕掛けていく。名づけて『数撃ちゃ当たる』作戦である。設置量だけなら随一だ。
 和輝は夜の探索に備え、地図を片手に森を散策していた。執事から虫を放ったエリアの情報は得ているので、それを頭の中で符合させておけば後々有利になるだろう。
「昆虫採集と言っても何をすれば良いのか‥‥」
 とりあえず歩き回ってみる事にしてみた白夜。捕まえるのならばやはり強そうな虫だろう。強そうな虫イコール毒虫だという思考が後に悲劇を招く事になる。
 準備が進んでいるのはコテージの中も同じであった。着替えを終えた阿朱は皆の為にお弁当作りを開始する。袖を捲くり気合を入れる彼の前にあるのはゆうに十人前はありそうな食材の山が。大家族を支えるお兄ちゃんにとってこの程度は日常の一部である。
 そしてその頃、憐は――。
「‥‥ん。果物。食べ放題。独り占め。美味。甘露。至福の時」
 ヤシの実を叩き割り、中身を飲み干す事に躍起になっていた。

●おひるやすみ
 お昼になると、能力者達はコテージへと集まった。メイドや執事、坊ちゃんも呼んだお昼ご飯の時間だ。が、W字のヒゲのお父さんは坊ちゃんに拒否され来ていなかった。
 それぞれが持ってきたお弁当も勿論美味しそうだったが、圧倒的だったのはやはり阿朱の作ったお弁当である。ずらりと広げられたそれを見た時、その場の殆どの人間が食べきれないと考えた。そう、たった一人を除いては――。
 ふらりと戻ってきた憐は次から次へと阿朱の料理を平らげていく。少女の小柄な肉体から考えると、明らかに許容量はオーバーしているように見えるが、憐の食欲は留まる事を知らない。
「‥‥ん。カレー。ないの?」
「いや、夏のお弁当にカレーはやばいだろ」
「‥‥ん。カレーは。お弁当とは違う。カレーは。飲み物」
 憐が持論を展開する隣では朝が瞳をきらきら輝かせながら皆のお弁当を食べていた。あんまり美味しそうに食べる物だから、自然と雰囲気も和やかになってくる。
「皆で食卓を囲むのもいいものですね」
「――たまには悪くない」
 穏やかに微笑む白夜の隣、和輝は黙々と料理を口に運んでいた。シリアル以外を食べるのは久しぶりで、賑やかな食事はもっと久しいかもしれない。それにしても何故阿朱の作った料理はたこさんウィンナーを筆頭に可愛らしい物ばかりなのか――。流石はお兄ちゃんである。
 阿朱は白夜と和輝にも次々に料理を勧めて来るが、白夜は困り気味であった。いくら料理が美味でも、食の細さが治るわけではないのだから。それとなく白夜が遠慮した分は、そのまま憐のお口へと運ばれていった。
「このサンドウィッチ、実に美味だな」
「これ美味しぃ! あ、お茶も持ってきたから皆どんどん飲んでよ!」
 お互いのお弁当を食べて頬を緩ませるLetiaとネイ。朝は何を食べても美味しいのか、ずっと幸せそうである。それは憐も同じであり、気づけば山のようにあった料理は殆どなくなっていた。
「‥‥ん。果物。取って来た。大量」
 デザートは憐が取ってきた果物で、賑やかな食事は終了した。虫捕り再開となった頃、朝とLetiaは改めて坊ちゃんを誘ってみる事に。
「君とも楽しみたいんだ。一緒に行こう」
「‥‥でも、僕虫取りは」
 と、なにやら語り出そうとした少年の手を握り締め、ネイが頷く。突然の事に呆然とする少年にネイは言った。
「よし! 童、行くぞ!」
「え、何が!?」
 ネイに手を引かれ、坊ちゃんは森の中へ消えていってしまった。ぽかーんとそれを見送る朝。
「レティア、どうする?」
「んー‥‥。まあもう危険はないしね。大丈夫じゃない?」
 あの勢いをあえて止めるのもどうかと思ってしまう。少なくともこの依頼を楽しみ、そして坊ちゃんを楽しませようというネイの気持ちは純粋なのだから。

●いでよおおもの
 日が暮れるといよいよ虫捕りも佳境となった。森の中に響く木の揺れる音は阿朱が出している物だ。虫の居そうな木を片っ端から蹴飛ばしてみる‥‥。作戦と言えば、これも彼の作戦である。
「追いかけっこはここまでですよ、捕まえました」
 森の中を走り回り、虫を捕らえるのは白夜だ。虫を発見するや否や迅雷を使っての捕獲を試みる。果たしてその結果は‥‥。
 闇の中、和輝は昼間の成果を生かして大物を発見していた。スキルで気配を断ち、虫へと近づく。そこまでは正に完璧であった。しかし和輝の動きが止まる。
 虫を手で捕らえる――という事に強い抵抗感があった。ただでさえ潔癖症な彼に手袋越しとは言え虫に触れというのはある意味酷な要求である。仕方が無く足で捕獲しようとしてみるが、どう考えてもその方が数段難しい。
「――あっ」
 足で虫を捕まえようとした結果――彼は見たくない物を見て、絶対に忘れられない感触を靴底に味わう事になった。
「おや、不発‥‥。おっかしいな〜、罠は上出来なのに」
 朝と一緒に設置した罠を見てみるが、Letiaの罠は不発続きだ。一方朝はちょっと木を蹴飛ばしただけでも虫が落ちてきたりする。
「レティア君、運悪いな」
「むむ‥‥っ! それじゃあ朝と一緒に居れば少しは運が良くなるかな?」
 虫が取れなくても明るくめげないLetiaに運は向くのだろうか? 朝は彼女の分も虫を捕まえようとより一層やる気を出すが、図鑑を確認せずとりあえず捕まえているので何が捕獲出来ているのか、本人にもわかっていない。
「楽しいなぁ。のお、童」
 罠を確認するだけの作業もネイはノリノリだ。その手を繋いだ先にはぐったりした様子の坊ちゃんが申し訳程度にくっついている。思いの他楽しくなってしまい、坊ちゃんにあまり目が向いていないのだ。
 そんな二人の前、仕掛けられた罠の木には何故か憐がくっついていた。甘いにおいに誘われて、本能的にここまでやってきたらしい。憐は木から離れると、その手に大きな虫を握り締めて二人に近づいた。
「‥‥ん。何やら。大きい。見た事が無い。虫っぽいの。発見。多分。虫かな」
 よくわからないまま二人にそれを見せる。黒光りする、大きな虫‥‥。まあ、カブト虫のメスに見えない事もない。だがそれはどうやら坊ちゃんのトラウマを刺激してしまったようだ。
「それ、カブト虫じゃなくて‥‥ゴキブ――ッ!?」
 幼い頃、父親と一緒にカブト虫を探してた少年が捕獲してしまった大きな虫。それが今、彼の目の前に再び姿を現したのである。顔面蒼白になった少年はネイにしがみつき、まるで絹を裂くような悲鳴を上げた――。

●またあうひまで
「これは、シャイニングペガサス!?」
 というのは朝が捕まえてきたカブト虫を見て少年が叫んだ言葉であった。当然全員が首を傾げ、同時に図鑑を捲る。そこにはクレヨンで描かれたシャイニングペガサスなる虫の姿があった。
 能力者達がなんと言おうと、それはシャインングペガサスなのである。どこがシャイニングでペガサスなのかは大いに謎だったが、坊ちゃんは満足してくれたようだ。虫篭を眺め、珍しく無邪気な笑顔を見せる。
「でも、まあまあ楽しかった。パパに言っておくから、報酬は期待していいぞ」
 なんだかんだ騒ぎつつもしっかりと大物も捕まえた能力者達。働きの分はきちんとボーナスが出そうだ。そうして喜ぶ坊ちゃんの肩を白夜が叩く。
「そう言えば壺毒‥‥ってご存知ですか?」
 何故か壷の中にムカデやらクモやらを詰め込んできた白夜の所為で再び夜の別荘に坊ちゃんの悲鳴が響き渡った。能力者達はお互いの成果を見せ合ったりしつつ、帰りの準備を始める。
「楽しかったねぇ! ‥‥でも、親子で行くのも楽しいんじゃない?」
 Letiaが少年の頭を撫でながらウインクする。少年は少し照れくさそうに自分の手とネイとを交互に見つめた。
「‥‥まあ、考えてみるよ」
 思い出したのは手を繋ぎ、共に歩いた夏の道‥‥そして忘れたかった辛い記憶である。少年は能力者達を眺め、照れくさそうに呟いた。
「また、遊びに来てもいいんだからね」
 虫篭と虫捕り網を装備した少しだけ奇妙な格好の能力者達は、まるで子供のような笑顔を浮かべ少年に頷いてみせた。こうして無事、依頼は達成されたのであった。めでたし、めでたし‥‥なのだが。
「‥‥流石にこれは泣かれますねぇ」
 妹達にお土産を持っていこうと考え壷毒もどきと化した物体を眺め、白夜は漸く悟った。自分の虫捕りは、何かが根本から間違っていたのだと――。