タイトル:【JX】邂逅のジンクスマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/20 19:31

●オープニング本文


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●遠き日
「私もいつか、姉さんみたいになりたいです!」
 幼き日のイリス・カレーニイはそんな言葉が口癖であった。
 血の繋がらない姉、アヤメ・カレーニイ。彼女はイリスの父の友人の娘だったと言う。
 アヤメの父が死に、彼女はカレーニイの家にやって来た時、イリスはお姉ちゃんが出来たと無邪気にはしゃいでいた。
 大きな洋館と言う籠の中で育ったイリスにとってアヤメは強い興味の対象であり、初めて接する自分に近しい年頃の少女だった。
 大学教授を務める父と科学者の母の間に生まれたイリスの周囲はいつ見ても大人ばかり。だからこそ、アヤメに惹かれたのかもしれない。
「‥‥ボクは別に、君が思っている程凄い人間じゃないよ?」
 きらきら輝くイリスの視線を受け、姉はいつでも困ったようにそう答えた。
「でも、私は一人じゃ何も出来ないのに‥‥姉さんは何でも一人で出来て、すごいですよ?」
「それは‥‥ボクが、この家の子じゃないからだよ」
「え? なんですか?」
「いや‥‥うん、そうだね。ボクはまあ‥‥ほら、お姉ちゃんだから」
 今なら分る、彼女の苦しんでいた理由も。彼女がどんな気持ちで自分を抱きしめ、頭を撫でてくれたのかも。
 だが幼き日のイリスにとって世界は目の前にある物だけが全てだった。自分が居て姉が居て、それだけで良かった。永遠に続いて当たり前だと、そう思っていた――。

●プロジェクトJX
「‥‥ぅあ?」
 実際の所、イリスが居眠りをしていたのはほんの数分の出来事であった。
 口の端から垂れていた涎を拭い、寝ぼけ眼で時計を見やる。寝すぎていなかった事を認識し、少女はほっと胸を撫で下ろした。
「まさか、キーボードに顔面を叩きつけて寝ているとは‥‥我ながら凄まじい」
 白衣の裾でキーボードをごしごし擦りながらイリスは胸の中に蘇った僅かな暖かさに頬を緩めていた。
 幸福だった日々。満ち足りていた日々。自分の事だけ、ただ想っていれば良かった日々‥‥。今は遠い、戻らない日々。
 だが諦めたわけではない。あの日のようにまた姉と笑い合える日を夢見て、その為にここにいるのだから。
「今日も一日、頑張って仕事をするぞー!」
 両腕を挙げ、謎のポーズを取ってみる。特に意味は無いしこれまで一度としてやった事もない。ただテンションに身を任せてしまった結果だった。
 だがその直後研究室の扉が開き、くるりとイリスは振り返る。そこには何故か夢でみた人が白衣のポケットに手を突っ込み立っていた。
「‥‥?」
 まだ夢の中である可能性を思い、少女は目を擦る。それからもう一度見直すが、やはり現実は変わらない。
「何をしているんだ、イリス・カレーニイ?」
「ね‥‥っ!? 姉さん!?」
 思わず飛びのいた衝撃で背後にあった椅子に躓き、派手に転んでデスクの角に後頭部を強かに打ちつけるイリス。
 暫く涙目で悶え苦しんでいたが、そこへ姉の――アヤメ・カレーニイの手が差し伸べられた。
「君は毎日そうやって研究室を破壊しているのかい?」
「ち、違いますよ!? 普段はすごくいい子で、研究室のみんなとも物凄く仲良しですっ!!」
 その宣言に同室した研究員達は全員一斉に『そのウソは苦しいだろ』と思ったが、彼女の名誉の為に誰も何も言わなかった。
「なら構わないけど‥‥以後、研究室では騒がないように」
「は、はいっ! それで姉さんはどうしてここに?」
 後頭部をすりすりしながら小首を傾げるイリス。姉は静かに息を吐き、自らの首から提げた社員証を手に取った。
「自己紹介が遅れたね。本日付でビフレストコーポレーション、ライブラ研究開発室室長に就任したアヤメ・カレーニイだ。以後、宜しく」
「んっ?」
「本日付でビフレストコーポレーション、ライブラ研究開発室室長に就任したアヤメ・カレーニイだ。以後、宜しく」
「んっ? あれ? えっ!? 何で二度言ったんですか!?」
「大事な事だからさ‥‥。と言う訳で、前室長の羽村誠から色々引継ぎは受けている。本日よりシミュレーター開発プロジェクトの再始動とする。イリス、コーヒー」
 指先をクイクイする姉に頷き、イリスはコーヒーを淹れに走る。新たな室長は椅子の上に腰掛け職員を見渡し言った。
「ボクが室長になったからにはこれまでのようにダラダラした研究は行わない。まずは研究室全体の整理整頓を行う‥‥って、甘ッ!?」
「姉さん、甘いの苦手でしたか‥‥?」
「コーヒーはブラックと決めている。はい作り直し」
 しょんぼりして去っていくイリスを片手で追いやる姉。意地悪しているつもりなのだが妹が嬉しそうなのがちょっと怖い。
「同時に正式なプロジェクト再構成につき、本プロジェクト名を『ライブラ』から『ジンクス』という名称へ変更する」
「要するにバージョンアップですか?」
「そういう事になるな。うん、甘くない‥‥ご苦労」
「はいっ!」
 目を輝かせるイリスを片手で押しやりアヤメは話を続ける。
「まあそういうわけだから、各自自分のデスクから整理を始めろ。これからは文句も抗議も聞き入れない。全部やれ、これは命令だ」
 前室長の羽村も色々とアレな男だったが、また凄い室長が来た物だ――と職員達はのそのそ動き出す。
 だが彼らが一切抗議しなかったのは、我侭娘であるイリスに対する対応で人としての器が大きくなっていた事、そしてあのイリスの姉だからまあしょうがないという謎の納得があったからだ。
 こうしてイリスも嬉々として掃除を開始したのだが、唐突に気付く。
「あっ! ア、アンサーの事‥‥どうしよう」
 喜んでばかりも居られない。これで状況はより複雑になってしまった。
 今の所アンサーの開発はまだ職員の誰にも露呈していない筈だ。このまま隠し通すべきか、それとも打ち明けるべきか‥‥。
 また一つ増えた大きな悩み。イリスは盛大に溜息を吐き、甘いコーヒーを口にするのであった。

●参加者一覧

神撫(gb0167
27歳・♂・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
牧野・和輝(gc4042
26歳・♂・JG
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

●はぐ
「イリスさん、思ったよりも早かったですけど‥‥アンサーの学習は大丈夫です?」
 出発前、街の入り口にてイリスを抱き締める望月 美汐(gb6693)の姿があった。
 抱き締められるのにそろそろ慣れてもいい頃だが、相変わらずイリスは困った様子で顔を赤らめている。
「問題ありません。私が他の作業をしている間も、アンサーは自己学習が可能ですし」
「アンサーも、環境が変わったみたいですけど‥‥落ち着いて対応していきましょうね」
 続けて隣でぼーっとしているアンサーも抱き締め頭を撫でる美汐。戦いの始まりは大体いつもこんな感じだ。
「久しぶりだな二人共。今回もよろしく」
 抱擁から開放されたアンサーへ歩み寄り、握手を求めたのはヘイル(gc4085)だ。
 アンサーは前回の事を覚えているのか、彼の握手に応じる。それから唐突に両腕をがばっと広げ、ヘイルを抱き締めた。
 加減が分らないのかかなりの力で締め上げられるヘイル。イリスと美汐が慌ててアンサーを引き剥がす様子を神撫(gb0167)は苦笑と共に眺めていた。
 前回は敵で、今回は味方。シミュレーターだからこそ在り得るそんな状況だが、依頼の目的が変わったわけではない。
「ちゃんと指示して守るってことを憶えさせないとな」
 賑わいを眺めながら神撫はイリスとアンサーを交互に見やる。依頼は兎も角、気懸かりな事があるのもまた事実だ。
「今回は簡単。相手の中心は、常に輸送車を破壊することだよっ。私たちはそれを守る‥‥忘れないでっ」
 橘川 海(gb4179)が言い聞かせる言葉にアンサーは小さく頷いてから車両に目を向けた。
 こうしてそれぞれが配置に着くと車両はゆっくりと動き出し、作戦行動が開始されるのであった。

●音
 ――無人の廃墟の空、そこへヴァイオリンの音色が響き渡っていた。
 傭兵達は車両の直衛と先行偵察、二つの班に別れて行動する事になった。
 偵察班はAU−KVの機動力を生かし、多少の悪路は物ともせず廃墟を駆け抜けていく。
 美汐の運転するバハムートに揺られながらレベッカ・マーエン(gb4204)は通信機から聞こえてくる音色に耳を傾けていた。
 敵の数そのものは少ないと読んでいた海はアスタロトを停め、ゴーグルを外して周囲を見渡す。
 偵察隊も決して気を抜いている訳ではないが聞こえてくる軽快なメロディには思わず笑みが零れてしまう。
 音色は通信機の向こう、ゆっくりと移動する車両の荷台から奏でられていた。
 自称スペシャルなバイオリンを奏でるのはニコラス・福山(gc4423)だ。正直楽器の繊細さを再現出来ているかは怪しいが、一応音は出ているようだ。
 車両の上では牧野・和輝(gc4042)が吸えない煙草を咥え、隣に座るイリスと共に遠くを眺めていた。
「‥‥そろそろ、煙草の味を如何にかする気はないか?」
「え? リトライしていいんですか?」
「いや、いい‥‥やっぱりいい」
 即答だった。そんな和輝の態度が気に入らないのか、イリスはニコラスの方を指差し‥‥。
「楽器の再現度を見て下さい。後はわかりますね?」
「しかしなイリスちゃん。たまに音が飛んでるんだな、これが」
 意地悪な笑みを浮かべながらニコラスが言うと、イリスは暫く固まっていた。
 微妙にだらっとした空気だが、神撫が提案した布陣で車両の護衛そのものは万全である。決して不真面目にしているわけではない。
 和泉 恭也(gc3978)は意図的にやや前に出てアンサーの様子を見ていた。無表情なアンサーの隣、神撫が苦笑しながら進んでいる。
『なんだ、そっちは随分楽しそうだな』
 イリスが手にした通信機からレベッカの声が聞こえてくる。偵察班は予定進行先にビルが倒れ、通れなくなっている事を伝えながら引き返していた。
「こちらのルートは問題なく通れるようですね」
 美汐は双眼鏡を下ろしルートをイリスに伝える。その隣でレベッカは通信機を片手に笑う。
「折角だ、アンサーにドレミのうたでも教えてみるか。何事も基礎からなのダー」
「歌か‥‥良いな。彼女にも影響があるかもしれないし」
 通信を聞きながらヘイルが頷く。そうしてレベッカ、ヘイル、イリスの三人がドレミのうたを歌い始めると戦場は不思議な空間に変化した。
 アンサーはまだ声を持たないのだが、真似をして口を動かしている様だった。ニコラスが伴奏を務め、車両はのんびりと進んでいく。
「ドレミの歌が〜♪」
『聞こえてくるよ〜♪』
 何度かのルート変更を行いつつも、そんな平和な時間は暫し続くのであった。

●連携
「キメラがいますね。迂回は‥‥難しいかな?」
 先に敵と遭遇したのは偵察班であった。進行上の道を塞ぐように蠍のキメラが三体横に配置されている。
「倒さないと通れそうにないな」
 ヘイルの言葉に頷き、偵察班は一斉に物陰から飛び出した。
「アスタロトっ、あなたの性能をみせてっ!」
 先陣を切ったのは海だ。AU−KVに跨ったままキメラへ急接近、アスタロトを装着して道の脇へと走る。
 その行動をサポートするようにレベッカとヘイルが遠距離から攻撃するが、正面に並んだ盾の守りは硬い。
 盾を前に進軍し、尾から針を飛ばしてくるキメラ達。強固な行軍へあえて飛び込み、盾を踏み台に跳躍する美汐。
 飛び乗る形で背に槍を突き立て、背後へと再び跳躍する。海もそこへ混じり、裏側へ回り込んだ二人が攻撃を開始する。
 元々旋回性能は悪く、三体の蠍は前後からの攻撃にうろたえるように列を崩す。そこへレベッカが練成弱体を発動。ヘイルと共に攻撃に参加していく。

 偵察班が戦闘を行っている頃、車両の方にも動きがあった。進行方向ではなく、後方から二体の恐竜キメラが走ってきたのである。
 和輝が銃を構え、まだ遠いキメラへと攻撃するが足を止める気配は無い。何故かイリスはその様子に満足気だった。
「後ろからですか‥‥。アンサー、突出せずにフォローお願いします」
 キメラへ向かって走り出そうとするアンサーに恭也が声を投げかける。神撫はアンサーの肩を叩き、彼女の立ち位置を指差した。
 大人しく配置に着くアンサーを確認し、恭也は接近するキメラへ攻撃を開始する。しかし猛然と突っ込んで来るキメラは止まらない。
「足を狙え、足を。必殺足払い」
「‥‥わかってるさ」
 ニコラスの言葉に応じ、和輝が弾丸を放つ。狙い済ました一撃は片方のキメラをよろけさせ、車両後方を守る恭也とニコラスの攻撃で転倒させる事に成功した。
 だが止められたのは一体だ。もう一体の突撃を恭也が盾で弾くが、車両を追い越しキメラは正面をUターン、再び接近して来る。
「良く我慢したな。行くぞ、アンサー」
 神撫の言葉に頷きアンサーは手の中に剣を作り、それを手に走り出す。
 スライディング気味にキメラの足を斬り付けながら擦れ違うアンサー。そこへインフェルノを手に神撫が接近、派手に斧を振り抜きキメラを横倒しにする。
 倒れてしまえば片付けるのは簡単で、二体のキメラを順調に処理した彼らは再び移動を開始した。
「護衛対象から離れすぎると咄嗟に戻れなくなり任務に支障をきたす可能性があります。さっきは良く出来ましたね」
「どこまで指示を理解出来るか心配だったけど、上出来だな」
 恭也と神撫に頭を撫でられ褒められるアンサー。ほっとした様子のイリスは次に隣の和輝を不満げに見上げる。
「‥‥何だ」
「いえ、別に‥‥」
 進行上のキメラも偵察班が倒したとの連絡があり、一安心した直後、一発の銃声。攻撃したのは和輝だ。
 遠くを警戒していた和輝が見つけたのはサーチャーと呼ばれた小型キメラであった。直ぐに撃ち落したが、恐らく目は合ってしまっていた。
 警戒しながら暫く進行すると、脇道から飛び出すように正面に騎士のキメラが回りこんでくる。数は2、共に大型の武装を携え向かってくる。
「何か強そうだな。よし、アンサーも飛んで戦うんだ」
 騎士が浮遊移動している事を確認し、ニコラスが何と無く言う。するとアンサーは一度屈んでから大きく跳躍、空中からキメラへ飛びかかった。
「いや、本当に飛ぶか普通」
「来ますよ!」
 飛び掛ったアンサーだが、攻撃は盾で弾かれランスで弾かれてしまった。危険性を感じ取り、各自がその襲撃に備える。
 神撫がアンサーに続き足止めに掛かる。このキメラとの戦闘には馴れているが、攻撃の重さはこれまで以上だ。
「流石に一人じゃ、抑えきれない‥‥か」
 と、次の瞬間騎士は側面から弾き飛ばされていた。急接近し騎士を攻撃した海を筆頭に別働隊が駆けつける。
「おまたせっ! 大丈夫ですかっ?」
「大丈夫、助かったよ。それよりアンサーは‥‥」
 神撫の視線の先、手馴れた様子で騎士を分断し対峙する美汐と共に戦っているアンサーの姿が見えた。
「では第三世代の実力‥‥見せていただきますよ?」
 騎士と槍をぶつけ合う美汐。次の瞬間騎士の槍は勢い良く回転し、美汐の槍は弾かれてしまう。
 何度か打ち合うが力では完全に騎士が上回っている。槍を回し美汐は偏差攻撃を繰り出すが、読んでいたかのようにキメラは槍を地面へ。
 回転槍に弾かれた瓦礫が視界を覆い、美汐へ槍が繰り出される。しかしそれは美汐をアンサーが突き飛ばす事で命中には至らない。
 アンサーは美汐を引っ張る様にして車両まで戻って行く。それから床を指差し、剣を構えた。
「アンサー、銃と剣の切り替えはタイミングが大事だ。奴を近づけるな!」
 ヘイルの声にアンサーは装備を持ち替え銃を構える。二人に練成強化を施した後レベッカもそこに加わり、三人は同時に射撃を開始する。
「いやはや、これは壮観ですね」
 遠距離からの一斉攻撃で騎士の片方が倒れると恭也が苦笑交じりに呟いた。
「こっちも負けてられないな」
 海と二人でもう一体を相手していた神撫。斧で騎士を打ち上げると、海と共に挟み込む様にして武器を構える。
 二人は落下してきた騎士へと思い切り一撃を叩き込んだ。甲冑が崩れ吹き飛んでいく騎士、それを見送り二人は背中合わせに武器を下ろす。
「一先ず安全確保‥‥かなっ?」
 振り返る二人の視線の先、アンサーは美汐を抱き締めた後頭を撫でていた。その様子に思わず苦笑がこぼれてしまう。
 こうして強敵を撃退した傭兵達は無事に車両を目的地へ到達させ、任務は完了となるのであった。

●反省
「えへ、今日はイギリス巻きっ♪」
 戦闘終了後、前回と同じくアンサーの髪を弄る海の姿があった。銀の髪を円に束ねながら優しくアンサーを見つめる。
 こうしてアンサーの髪に触れるのは、彼女なりの友愛の証なのだ。決して遊んでいるわけではない。
 それを理解したのかはわからないが、アンサーもまた海の髪に手を伸ばした。加減が効いていないので海は苦笑しつつ嗜める。
「いたた‥‥っ!? アンサーちゃん、もっと優しく、そっと触らないと痛いんですよっ」
 最初ヘイルを抱き締める‥‥もとい、抱き潰そうとしていた事も思い返し、海は説明する。必死の思いが通じたのか、アンサーは海の髪から手を放した。
「いい感じですね、アンサー。何でも真似したがるというか‥‥ヘイルさん?」
 美汐の隣、ヘイルは真顔で余計な事を考えていていた。口元に手を当て、アンサーの武器切り替えに思いを馳せる。
「俺もやってみたいものだ‥‥」
 きょとんとした様子の美汐の隣、ヘイルは我を取り戻しアンサーへと近づいていく。一方イリスとレベッカは今回の反省会を行っていた。
「人工知能に意思があるならばそれはパートナー、相棒であるべきだ。人と力を合わせ互いの力を最大限に発揮するバディという存在‥‥父の受け売りだがな。とは言えそれにはアンサー自身に自分を『個』と認識させる事が重要なんだが」
「‥‥私もそう思います。贔屓目かもしれませんが、アンサーにはその可能性もあると思っています。ただ‥‥」
 俯くイリス。レベッカは腕を組み、隣に立ってアンサーを見やる。
「ジンクスの稼動データのチェックをすれば今回も前回もログがある事位すぐにわかるだろう」
 顔を上げるイリス。意外そうな表情は、やがて納得の色へと変わっていく。
「シミュレータも次のステップに進むんだろう? なら、小さくとも自分の一歩として打ち明けてみてはどうだ?」
 イリスは俯き、黙り込む。恭也はイリスの隣に立ち、肩をそっと叩いて言った。
「このプロジェクトを誇れるものだと思っているのなら、話してみてください。どんなことがあっても、自分たちは味方ですから」
「味方‥‥。本当に、味方なんでしょうか」
 恭也の微笑みにイリスは不安げに言葉を返す。顔を見合わせるレベッカと恭也だったが、イリスは明るさを繕って頷いた。
「少し、考えて見ます。ありがとう‥‥二人共」
 そうして反省会が続く中、遠巻きにそれを眺める男が二人。和輝とニコラスは吸えない煙草を咥えながら瓦礫に腰を落としていた。
「和輝ちゃんも何か言ってやらなくていいのか?」
「気の利いたアドバイスなんざ何も出来んからな‥‥。そういうあんたは?」
「キャラじゃないからな。後ろの方でどっしり構えてれば良いのだ」
 そうして二人は暫しの沈黙。それから煙草を唇で上下させながらニコラスが笑う。
「で、本当はどうなんだ」
「‥‥他の奴の方が適任だろ」
「素直じゃないな。言ってやればいいのに」
 ヘイルがドレスを取り出しアンサーに合わせると、ちょっとした歓声が上がる。
 わいわいと反省会が続く間もイリスの表情は晴れず、神撫はそれが少し心配だった。
 偽りの青空を見上げて思う。イリスはアンサーに何を求めているのだろうか? そしてアンサーは、自らの未来をどう願うのだろうか‥‥?
 背後からイリスの頭を撫で、神撫も微笑む。今はまだその領域に達していないのだとしても、それでも‥‥。
「‥‥どうしました?」
「いや、なんでも。今日は良くやったね、イリス」
 照れくさそうに、しかし嬉しそうにイリスは笑う。
 アンサー開発はまだまだ始まったばかり、乗り越えるべき問題も数多残されている。
 それでも少しずつ進んでいくしかないのだ。不確かな、未踏の未来へと。
 こうして彼らの反省会は暫し続き、無人の世界に賑やかな声が響き続けるのであった。