タイトル:【JX】My Answerマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/15 23:06

●オープニング本文


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「ああ。約束だ、きっとボクは夢を叶える。だからその時は――ボクの隣に居てくれるかい?」
 秘密を共有した姉妹は約束を交わした。それはきっといつかの未来、叶わないと知る夢の話。
 きっと理解していた。そんな幸せな結末なんて有り得ないと。けれどその時は、二人きり誰にも知られず指を絡めたその時だけは、復讐も哀しみも憎しみも忘れる事が出来たから。
 結局の所ただそれだけの物語。ただ傍で手を取り合っていれば良かったのに、二人はそれぞれの道を往く。ならばこの別れもきっと、あの時から決まっていた。
「勿論です! その時はきっと三人ですね」
 妹の笑顔に首を傾げる姉。花のように笑う少女は当たり前の様に言った。
「私と姉さん、それから――いつか私達が形にする『あの子』。それで三人です」
「あの子‥‥? まるでアレを生きてるみたいに言うんだね」
「生きてますよきっと。機械に命は宿らなくても、作り手が込めた魂は息づいている筈ですから」
 その発想は無かった。きょとんとした目で妹を見やる。その小さな手はきっと神に愛される為に、そして何かに命を吹き込むためにあったのだろう。
「‥‥そうか。なら、三人で」
「いつかまた、ここで」
 手を取り合い夢を語った日々は戻らない。それでもきっとそこには意味があった。なかった事には出来ない、大切な意味が――。

「これで完成、か」
 目の下に隈を作った羽村が呟く。薄暗い研究室の中、イリスは作業台の上に手を伸ばした。
「まだ課題は山積みですが、決戦には間に合いました。試作型アンサーシステム‥‥これでフィロソフィアに少しは対抗出来る筈」
 それはアンサーの戦闘経験を元に作られた戦闘補助システムであった。
 決戦に挑む傭兵達一人一人に合わせた形状、取り付け箇所を意識したその生物的なフォルムの装置はこれまでの研究成果そのものであった。
「もう少し小型化が出来れば良いのですが‥‥それにやはり急ごしらえですから、性能もまだまだです」
「でもフィロソフィアに関する情報だけは持ち得る情報全て叩き込んだじゃないか。他の相手にどうかは兎も角、あのバグアを相手にするだけなら‥‥」
「そうですね。少しは役に立つと思います。その為にわざわざあのバグアに一度捕まったのですから」
 簡単に完成させられる物ではなかった。恐らくイリスの独力であればまだ数年の年月が必要な代物だろう。
 だがイリスは彼の研究所に赴き、そこで彼の研究を垣間見た。人間の発想から逸脱した全く新しい理論を再現する事は難しいが、自分流にアレンジする事は出来る。
「それに‥‥姉さんとアンサーが、託してくれた物ですから」
 他のバグアはいざ知らず、フィロソフィアに関してアヤメ以上に詳しい人間は居ない。彼女はいざという時の為に彼について多くの情報を残していた。
 アヤメがバグアの下で学んだ技術、イリスが独力で育てた知識、そして敵から奪った発想‥‥そして何よりそれらを学習し戦闘行為に反映するというアンサーの持つ力がこの装備を完成に導いたのだ。
「‥‥未完成ですけどね」
「対フィロソフィア用データの為に他の大部分を犠牲にしているからね。本当の完成はまだ先だろうけど‥‥良くここまで来たね、イリス君」
 イリスの頭を撫でながら微笑む羽村。彼は彼女の努力をずっと見つめ続けて来たのだ。一番感慨深いのは彼だろう。
「貴方のお陰でもあります。羽村 誠‥‥貴方は一体‥‥?」
「僕の事は何でもいいじゃないか。今となっては些細な事だよ」
 白衣のポケットから煙草を取り出し火をつける。思い返すのは若かりし頃の記憶である。
 彼は二人の天才を知っていた。一方は光を浴び、一方は闇に果てた。その二人の間に違いがあったとしたら、それは単なる運の問題だと思う。
「知ってるかい? 君のお父さんとアヤメ君のお父さんはね、一緒に研究をしていた事もあったのさ」
 イリスとアヤメが手を取り合った時間は僅かだが、あの頃の事を思い出さずには居られなかった。運命の悪戯というものは残酷で、時に数奇なめぐり合わせを強要する。
「二人の乖離が生み、君達の邂逅が育てたのがジンクスなら、きっと全てはこの瞬間の為にあったんだろうね」
「運命が育てたシステム‥‥」
「そうだね。そしてその運命を君が壊すんだ、イリス君。君と君の仲間達の手で、こんな事は終わりにしよう」
 優しく微笑む羽村。本当は彼の娘に、彼の娘らに危険な事などさせたくは無かった。連れ戻してくれと頼まれた事もある。だが――。
「君の背を押すよ、イリス・カレーニイ。三人の力でアレを倒してきなさい」
「‥‥ありがとう、誠」
 目を瞑り夢を抱き締める。楽しい事よりは、辛い事の方が多かった。
 でも何故だろう、思い浮かぶのは楽しい記憶ばかりだ。こんなにも胸が苦しいのに、魂が幸福を確信している。
 無かった事にならない過去なら全て背負って進むしかない。また転んで躓いて泣きべそをかく日も来るだろう。それでも信じている。信じ続ける。
 アンサーが居て、アヤメが居て、大切な人達が居て、そんな日々があって、それが嘘じゃなくて、終わってしまうとしても輝きは消えないのなら‥‥。
「――もう私は大丈夫。私を誰だと思っているんですか? 私は姉さんの妹で、アンサーのお母さんで、そして彼らの仲間。『天才』、イリス・カレーニイなのですから」
 優しく柔らかく笑うイリス。笑顔を知らず、心を知らず、人形のようだった彼女はもう何処にも居ない。
 哀しみはただ冷たさを注ぐわけではない。重く足に絡む水を裂いて、歩き出す強さをきっと教えてくれるから‥‥。

 花に囲まれた温室の中にアヤメは佇んでいた。彼女がまだアヤメ・カレーニイだった頃、その景色を何度も思い返した。
 何故ここに来たのかは思い出せなかった。ただ来なければ行けなかったような気がする。
 手に入らない全てを壊して栄光と賞賛と知識を手中に収める‥‥ある意味それが彼と彼女の共通点であった。
 確かに二人は似た者同士。だがこの景色をもう一度見たいと願った微かな心の動きはきっと彼の理解の他にある。
「‥‥わからない、か。不快な言葉だ」
 この体を得た時、自分は逆転の切り札を得たのだと思った。
 この体ならば全てを上手くやれる。イリスもアンサーも手に入れる事が出来る‥‥そう思った。
 欲する気持ちは強くなった。それなのに何故か体が思い。自分の物にしてしまえばいいのに。小鳥の羽を毟る様に。
「答えがあるというのなら、見せてくれ」
 この不快な感覚を止めてくれ。
「知識の空白を埋めてくれ」
 ワカラナイを消してくれ。
「待っているよ‥‥イリス」
 空を仰ぐ。太陽すら飲み干したいと願った知識の欲は今、胸の虚空を知りたいとその身を焦がし続けていた――。

●参加者一覧

神撫(gb0167
27歳・♂・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
銀・鏡夜(gb9573
16歳・♀・ST
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

●Letter
「皆さん、如何お過ごしでしょうか。私はそれなりに元気にやっています」
 薄暗い机の上でペンを走らせる。あの戦いから暫しの時が立ち、落ち着いて過去を振り返る余裕も生まれてきた。
 お礼の言葉を認めようと思い至り、ペンを手に思案する。
「相変わらず私は、ジンクスに掛かりきりです。今後の対応がどうなるかは不明ですが、諦めず尽力するつもりです」
 ありきたりな言葉だ。この胸の内の気持ちを伝えるにはあとどれくらいこんな言葉を連ねれば良いのだろう。
 眼鏡を外し窓の向こうへ目を向ける。この手紙を書き終わったら彼らとの絆も終わってしまう‥‥そんなありもしない不安にかられた。
 彼らはきっと自分を忘れない。仮に忘れられても、終わったとしても、それはきっと長い人生の中の一幕に過ぎない。
 喜びも苦しみも出会いも別れも、決して無駄ではなかった。それが彼らにとっても同じだと願うのは些か我侭という物だろうか。
 目を瞑り、あの日の事を思い出す。空は皮肉にも良く晴れていて、雲一つ無い抜けるような青だけがあった。
 懐かしいにおいと懐かしい音。忘れられない記憶。最後の言葉‥‥。あの日はそう。本当に――いい天気だった。

●Memory
「確認、大丈夫ですね?」
 カレーニイの屋敷を臨む丘の上で望月 美汐(gb6693)が仲間の一人一人と目を合わせつつ呟く。傭兵達は輪を作るように立ち、最後の打ち合わせを終えた所だ。
「今更異を唱えることもなかろう。全く、いつの間にか遠くへ来たものだ」
 肩を竦めて笑うニコラス・福山(gc4423)。その横顔は少しだけ懐かしむような優しさを孕んでいるように見える。
「最終確認です。各自、『アンサーシステム』は正常に稼動していますね?」
 イリスの言葉に傭兵達はそれぞれがASに目を向ける。それは失われた心の残滓、そして彼らが歩んだ道程の末路。望む望まざるを無関係に、それは確かに存在する。
「出来るだけの事はしたつもりです。それでもASだけでは勝利には程遠いでしょう。これで最後です。皆さんの力を‥‥貸してください」
「俺はまだこれで終わりにするつもりはないな」
「そうだな。これから始めるんだ」
 神撫(gb0167)の言葉に続き、レベッカ・マーエン(gb4204)が頷く。
「こ、こういう場合は何かやるべきなんでしょうか? 円陣を組むとか」
「何だ、円陣を組みたいのか?」
 おろおろするイリスに笑いかけるヘイル(gc4085)。結局特に何もせずぐだぐだした感じで顔を見合わせる。
「‥‥イリスさん」
 美汐はイリスの正面に立ち、小さな身体をぎゅっと抱き締める。
「決着をつけましょうね、ここで」
 イリスは照れながらも頷き、美汐の身体を抱き返すのであった。
「イリスとアンサーの力、確かに受け取った。後の荒事は俺たちが引き受ける」
 微笑む神撫。それから振り返り、カレーニイの屋敷を眺めて言う。
「さて――行くか」
 こうして傭兵達は屋敷へと歩みを進めた。
 人里離れた場所にある屋敷は使用人が脱出している事もあり静かだった。広大な敷地に広がる庭園の中、神撫は周囲を見渡す。
「ここに来たって事は、アヤメの記憶に引きずられてるのか?」
「きっとそうです。答えを探しているんですよ‥‥彼も」
 そう神撫に応じる橘川 海(gb4179)。悲しげなその横顔に目を向け、それから神撫は言う。
「まずはこのばかでけぇ屋敷のどこにいるか探さねぇとなぁ‥‥。イリス、アヤメが好き好んでいた場所はわかる?」
「はい。姉さんが好きだった場所は限定されて‥‥」
 と、そこで不意に苦笑を浮かべる。何だか妙な話だ。あれはもう、『姉さん』ではないというのに。
「案内します」
 白衣を翻し歩む道は嫌でも記憶を逆撫でする。複雑な表情のイリスに案内され辿り着いたのは中庭にある温室であった。
 色とりどりな花の絨毯に囲まれてアヤメ・カレーニイは空を見上げていた。傭兵達は同じく虹の上に歩みを進める。
「‥‥来たか。待っていたよ、君達を」
 抑揚の無い声で、悲しげな瞳で語るアヤメ。武器を構え応じる傭兵達の中、海だけが一人前に出る。
「私達はあなたを殺す為にここに来ました」
「当然だな。語るまでもない」
「そうですね。だから少し、屋敷を回ってみませんか?」
 その言葉には敵味方含め少なくない衝撃を生んだ。しかし海は至って真剣である。それは彼女の誠意でもあった。
 これまで何度も刃を交え、お互いの命を食い潰そうとした間柄だ。信頼を得るのは難しいだろう。だが‥‥。
「知りたくありませんか? その、『わからない』という気持ちの答えを。そう、知りたいんです‥‥私も」
 胸に手を当て語る海。アヤメはきょとんとした後、口元に手を当て肩を震わせる。
「くくく‥‥はははは! 成程そうか、そうだったな。流石、ワタシを良く理解している」
 一頻り笑った後、女は白衣のポケットに両手を突っ込んだまま歩み寄る。それは一時的な休戦を意味していた。
「ここはアヤメさんにとって、どういう場所なんですか?」
「そうだな。彼女にとってここは‥‥数少ない居場所だった」
 温室の花は人の手で制御されなければ生きていけない。美しくしかし有限であり、本質的に隷属的存在だ。
 その中で自分に笑いかける妹にどこか自分と似通った物を感じていた。他の場所では兎も角、この中では二人は本当の姉妹で居られたのだ。
 傭兵達と共に屋敷内を歩むアヤメ。傭兵達は当然警戒を怠らなかったが、アヤメは特に何もする気配はない。
 やがて海はカレーニイ博士の書斎へと踏み込んだ。そこはイリスも入った事のない部屋だった。
「えっと、海? 何を探しているんですか? あまり荒らすと‥‥」
「多分どこかに隠してあると思うんですけど‥‥」
 部屋の彼方此方を調べまわる海をやんわりと注意するイリス。その時海が発見したのは古ぼけた手記であった。それも一冊二冊ではなく、大量の。
「お父さんの日記です」
 その言葉にアヤメは明らかな不快を示した。見るどころか近づこうともせず部屋の外に出て行く。
「戯言はもう十分だ。そろそろ本来の役割を果たしたらどうだ」
「姉さ‥‥」
「勘違いをするな。ワタシはアヤメ・カレーニイであってそうではない。万と千の言葉を交わした所で、我々が交わる事は決してないのだから」
 確かな拒絶が彼らを本来の時間に引き摺り戻していく。寄り道を終え、傭兵達は戦いの為に屋敷を後にした。

●Power of 『11』
 広さに文句の付け所がない中庭で敵同士は対峙する。この場所が決戦の地になったのは運命だったのだろうか。
「加減をする必要性はない。君達を悉く殺して、ワタシは先に進ませて貰うよ」
 これまで以上の殺気を纏いゆっくりと歩み寄るアヤメ。そこから目を逸らさずにヘイルはイリスに呟く。
「‥‥いいんだな?」
 その一言に沢山の気持ちが詰まっていた。少女は唇を噛み締めて首を横に振る。
「いいわけ、ない。でも‥‥」
 風が吹き抜ける。いいわけない。これで終わって欲しくなんかない。でも――。
「このままの方が、もっと良くないから。だから‥‥お願い」
 頷き槍を構えるヘイル。そう、このままでいい筈が無い。
「任せておけ。アヤメが、安心して眠れるように――ここで」
 頷くイリス。その肩を叩きレベッカは微笑む。
「行ってくる。終わりと始まりのために」
 ASへと視線を落とし、そうして小さく息を吸って吐いて。
「アンサー、あたし達に力を貸してくれ」
 傭兵達の覚醒と同時にそれぞれのASが起動する。全ては正常。全ては予想通り。
「――システム『アンサー』起動!」
 海が声を上げる。傭兵達がそれぞれ動き出す中、真っ先に美汐が構えた小銃を連射する。
 アヤメは避けて終わり――そう考えていた。しかし美汐の銃口は彼女の動きに対応する。
 一発目より二発目が。二発目より三発目が。より精度を増し、アヤメの挙動を追尾する――。
 命中はしなかった。しかし足を止めるには十分。真正面から斧を振り上げ神撫が突撃する。
 振り下ろされる戦斧を機械の腕で受け止める。斧を押し返しながら光の刃を振るうアヤメ、その腕を剣閃が奔る。
 神撫の攻撃に合わせ間合いを詰めて来た銀・鏡夜(gb9573)の放った斬撃が腕を斬り付けたのだ。血を流しながら構え直すアヤメに左右から二人は再び攻撃を仕掛ける。
 振り回される神撫の斧も鏡夜の大剣も決して連携しやすい武器ではない。手元が狂えば仲間を傷つける事もあるだろう。であれば必然、攻撃は安全な軌道を通る事になる。
「く‥‥っ」
 しかし二人は容赦なく攻撃を繰り返していた。互いをを気遣っている気配は無い。無いのだが‥‥。
 以前全て避けられた攻撃に苦しめられる。違和感を覚え、放電しつつ飛び退くアヤメ。鏡夜は軽く両手で剣を振るい、改めて構え直した。
「これが、御前と戦う為に手にした力だ」
「何をした‥‥いや、何をしている?」
 勿論鏡夜が質問に答える事は無い。代わりに思い返すのはこの戦いに望む直前の事だ――。

「アンサー、ありがとう。兎に角先ず是を言いたくて‥‥」
 ジンクスの作る幻の中で鏡夜はアンサーの頬に触れ優しく語り掛けていた。
「安心して、貴女が言った様に貴女を犠牲にはしない――」
 胸に手を当て目を瞑る。虹の女神は言った。そして最期には確かに微笑を残していた。
 これが果たして悲劇なのか、そして鏡夜が今何を思っているのか、それを知る術はない。ただ一つ言える事は、彼女もまた前に進む為に踏み出したという事。
「‥‥貴女と共に育んだ心は確かに此処に在るから」
 初めて言葉を交わした時の事、覚えている?
 一緒に見た花火の事、覚えている?
 友達になった日の事、覚えている?
 確かに微笑を描いた瞬間の事、覚えている?
「――アンサーの心は、なくなったんじゃないと思いますよ」
 和泉 恭也(gc3978)はイリスと肩を並べる鏡夜に言った。
「拡散して世界と交じり合って、少し分かりづらくなっただけ。だから、彼女は必ず帰ってきます」
 穏やかに微笑み、少しだけ悪戯っぽく彼は言う。
「と言うか、連れ戻すつもりなのでしょう?」
「そうですね。恭也の言う通りです。アンサーは消えて居ないし、きっと私が取り戻してみせる。だから――」

 斬撃を放ち、急接近して剣を振るう。反撃の放電に大剣を地に突き刺し、片手と片足を押し当てる様にして防ぐ鏡夜。その身体を光が包み込む。
 それは天使、或いは女神だったろうか。輝きが形成した夢に似たそれは鏡夜と共にあり、彼女を護るように背後に佇む。
「貴女が私の中に作ってくれたモノ、其れを今度は私が‥‥」
 また、友達を呼ぶ為に。その声で、その言葉を聞く為に。
「今は――戦う!」
 彼女の戦いは己を知る戦いだった。そして今彼女は己の中の答えと共に、この禍根へと挑む。
 神撫が投げつけた閃光手榴弾が光をばら撒く。その光の向こうへ照準を合わせレベッカは引き金を引く。
「考えろ、感じろ、そして信じる‥‥自分を、仲間を、11人の力を――!」
 光の弾丸を放つ。情報を、記憶を、思考を総動員して戦況を組み立てればいい。
 不可能ではない。成功率は決して低くない。出来ない方がおかしい。
 彼女の戦いはイリスと共にあった。時に彼女の友として同じ場所で、時に姉のように一歩前から言葉をかけてきた。
 その思考は常に前を向く。見えない筈は無い。届かない筈も無い。正解は地べたにも背後にも存在しない。在るとすればそれは、信じて進む瞳の先に――。
 エネルギーガンを連射しながら走る。叫ぶ事はしない。そうしなくてもきっと伝わるから。
 美汐が銃を連射する。海は回り込みつつ銃撃。レベッカは魔刀を手に銃撃に晒されるアヤメへと突っ込んだ。
 後衛の予期せぬ突撃に一瞬対応が遅れるアヤメ。当然だ、前衛は今も彼女に攻撃を続けている。隙間を縫うように刃を振るう。風を切り、太刀はアヤメに傷をつけた。
「貴様‥‥ッ!」
 機械腕を振り上げるアヤメ。その腕をヘイルが槍で薙ぎ払う。弾かれて姿勢が崩れた所へレベッカはエネルギーガンを押し付けた。
 懐で光が爆ぜる。が、直ぐに反撃は来る。光の刃――それを側面から飛び込んできた海が回し蹴りで吹き飛ばす。
 空中で回転し着地するアヤメに海が追撃で放った銃弾が迫る。傭兵達が取り囲む。必然、彼女は腕を振るう。
「来るぞ、下がれ!」
 叫んだのはニコラスだ。直後強烈な閃光と共に衝撃が炸裂する。大地は隆起しまるで刃のようにアヤメの周囲に壁を作っている。しかし‥‥。
 粉塵を切り裂き神撫が斧を繰り出す。咄嗟に防ぐアヤメ、しかし屈んだ神撫の肩を足場にニコラスが跳躍、機械刀を振り下ろした。
 再び衝撃波を繰り出そうとする腕を渾身の力で薙ぎ払うニコラス。切っ先は地を削り、凛とした音を響かせた。
 彼の戦いは少し外れた所にあった。いつも彼は渦中ではなく、やや距離を置いた場所で物語を見ていた。
 その視点は時に仲間を救い、予想外の結果を齎す事もあった。常にブレなかったその瞳は彼の父性そのものだったのかもしれない。
「それはそう何度も撃たせんよ」
 後退しつつ前衛を治療するニコラス。一息ついて己の刃を見つめる。
 無理をしたとは思っていない。別に無茶でもない。イリスの作ったそれを信じているから。いつでも彼はきっと、誰より仲間の事を信じていたから。
「何故押されている‥‥? 何故!?」
 両腕を振るい、連続して電撃を放つアヤメ。でたらめに降り注ぐ雷光は美しい庭園を焼き払っていく。
 光の残滓と煙が晴れる。が、特に傭兵達に倒れた物は居なかった。感情任せに放った雷光は今の彼らにとっては脅威ではない。
「‥‥お怪我はありませんか?」
 後方で様子を眺めていたイリスの前、盾を構えた恭也が振り返る。イリスの無事を確認し、彼は刃を手に前に出る。
 ニコラスの属性変化により雷撃に強くなった恭也は盾を構え、光を弾きながら突っ込んでいく。繰り出す刃を受けるアヤメ、その視線は戸惑っていた。
「何故このワタシが貴様ら如きに‥‥!」
「分からないことなんて、生きていればどんどん生まれるでしょう」
「ふざけるな!」
 数度の打ち合いの後、アヤメは恭也に掴みかかる。その挙動は致死の一撃の前触れ。しかし彼の表情には余裕すら垣間見える。
「おや、ダンスを御所望ですか? お付き合いしますよ。『最後まで』ね!」
 彼の戦いは護る為の戦いだった。その勘定の中に、恐らく自分の命は含まれて居なかった。
 過酷な戦いだった。迷い苦しむ事もあった。護りたかった物全てを護り通せたとは言えないだろう。それでもまだ、護りたい物がある。
 命懸けなんて陳腐な言葉だ。けれど貫き通せばそれは矜持になるだろう。護ると誓った。その誓いを貫く時は――今だ。
「アンサー、これで最後です。だから――力を貸してください!」
 アヤメが笑みを浮かべる。それに対し恭也はありったけの力を刀に込めた。
 閃光――そして硝子が砕け散るような澄んだ音が響いた。衝撃で距離を開く両名。アヤメの表情は驚愕に彩られていた。
 彼女の最大威力の攻撃だった。しかし恭也は無傷。光を帯び、砕け散った刀身の無い刃を放って恭也は笑みを浮かべる。
「馬鹿な、無傷――ッ!?」
 隙だらけの背中を斬り付ける鏡夜。続けヘイルの放った無数の苦無が迫る。片手で弾き飛ばす。そこへニコラスが超機械で追撃する。
「どうだ、私の演奏は。戦場に花を添えてやろうじゃないか」
「馬鹿な、どういう動きだそれは! まるで――」
 と、そこで思い当たる。アヤメは鋭くイリスを睨み付けた。
「まさか、君はこの短期間で‥‥」
 少女は哀しげな瞳で見つめ返すだけだ。その哀れむような視線が気に食わなかった。
 自分に出来ない事を平然とクリアしていく。褒めて褒めてと言わんばかりに笑いかけてくるのが見下されている様で堪らなかった。
 誰の感情だったか。いや、それは最早関係ない。女は腕を振るう。雷光を放つ為に。
「イリス――!」
 閃光を防いだのは美汐だった。イリスを庇い、そして銃を構えながら彼女は語る。
「なんとなくですね、似てる気がしたんですよ、私と」
 銃を降ろさずに語る美汐。彼女の戦いは‥‥自らを重ねる戦いだった。
「本当に‥‥大切な人に素直になれない事も。届かないなら足を引こうとする事も、手に入らないなら壊してしまおうとする事も、手遅れになるまで気が付かない事も」
 初めてアヤメを見た時から感じていた想い。ジンクスを巡り敵対していた時から、美汐はアヤメの事を気にかけていた。いや、厳密にはアヤメを、ではない。イリスやアヤメを取り巻く環境を。
 イリスを抱き締めるその腕で彼女が護ろうとしたのは彼女達だったのだろうか。それとも自分自身だったのだろうか。
 幸福な結末が見たかった。自分の過去を彼女達に重ねていた。自分はもう取り戻せない過去、その幸福を代理してほしかった。
「その先には何もありません。行ってきた人間が言うんですから確かですよ。だからフィロソフィア、貴方の欲しかった答えはもうどこにもありません。亡くなってしまったんです」
 傷も、痛みも、消える事は無い。この物語を無かった事にも出来ない。残された手段なんて、滑稽なくらい単純だ。
「そしてアヤメさん。忘れません、あなたの事は‥‥だから、あなたを殺します。もうどこにもいないあなたの為に!」
 近づくアヤメを蹴り付ける美汐。そのまま銃撃にて追撃する。
 結局想いは伝えられなかった。もしもっと早く言葉を紡いでいたら結果は違ったのだろうか。今は変わったのだろうか。
 答えは出ない。そもそも関係ない。今出来る事をするしかない。前に進んでいく為に。
「ワタシが押されている‥‥何故、如何して‥‥!?」
「あたしたちは一人で戦っているわけじゃない。もし違いがあるとすればただそれだけ。単純明快な答えだ」
 レベッカの声に血が滲む程歯を食いしばるアヤメ。傭兵は数で勝っている。勿論、目に見える形以上の意味で。
 アヤメの知識と経験を得たこのバグアにとって傭兵達の存在は想定可能な物に過ぎない筈だった。しかし今は明らかに予想を上回っている。
 ASの力のお陰――? そうだろう、それもある。だが、それだけが真実ではない。
 ずっと一緒だったのだ。これまでの長い戦いを彼らは共に歩んできたのだ。
 今更語る必要は無い。今更迷う事も無い。不思議でも無いし、不自然でも無い。経験は想定を凌駕する。彼は甘く見すぎていたのだ。成長する人間の力を――。
「何故だッ! ワタシは強い! ワタシは優れている! 誰よりも優秀だ! 誰よりも! 誰よりもッ!!」
 傷だらけの腕を振るい、声を上げる。
「全てを得る権利がある! 誰よりも真実に近く在る権利が! ワタシは負けない! ワタシは誰にも負けられないんだ!」
「それは、どっちの言葉なんだ?」
 斧を下ろし語りかける神撫。彼の瞳は真っ直ぐにアヤメを見つめている。
「話は羽村さんに聞いたよ。六車博士の事も、カレーニイ博士の事も」
 かつて二人の天才が居た。片方は光を浴び、片方は影を踏んだ。だが、六車菖蒲にとってそれは本当に悲劇だったのだろうか?
「六車博士がアヤメさんに望んだのはこんな事じゃなかった筈だろう?」
「煩い‥‥!」
「そしてアヤメさんは知っていた筈だ。だから護ろうとしたんだ、イリスを」
「黙れ! アヤメ・カレーニイは憎んでいた! 一度として妹を愛した事は無かった!」
「名は心と共にある。外見だけで中身のないお前がアヤメを語るな!」
 機械の腕で顔を覆うアヤメ。その様子は何かに苦しんでいるように見える。
「何故なんだ‥‥苦しい‥‥! 何なんだ、この焦燥感は!」
 誰かの記憶がずっと傍にある。思考を邪魔している。
 知識を欲する鼓動とは別に頭の中をかき乱しているのは乾きにも似た理解不能な感情。砂のように流れて、しかし確かにそこにある。
「存外に阿呆だな、貴様は」
 声に顔を上げる。そこには静かに語るヘイルの姿があった。
「『イリス達と一緒に幸せになる』という未来があの時喪われた事で『アヤメ』は最早満たされることは無い。それでも『此処』を望んだのは彼女が描いた幸せの原点、『夢』の残照が此処にあるからだろう」
 はっと、気付かされる。身体を鉛に変え、思考に泥を注ぎ、視界に幕をかけるこの理解不能の正体に。
 要するに、アヤメなのだ。アヤメ・カレーニイが想い描いていた、強く強く願っていた夢が、そっくりそのまま自分を呪っている。
「それ程までに‥‥」
 大切だったのだろうか。
 完全に動きが停止したそれを隙と取らない物は居なかった。
 海、美汐、レベッカ、ニコラスの四名が遠距離から一斉に攻撃。防御すらせずそれを受け、アヤメは漸く気を取り直した。
「人の想いは簡単には分析出来ない。どこからが知識でどこからが記憶かなんて簡単に割り切れるものじゃない」
 レベッカの声に哀しげに雷撃を放つアヤメ。それを黒いヴェールに覆われたヘイルが突き抜ける。
 彼の戦いは常に理想を追う戦いだった。何時如何なる時も最善手を求め、その為に努力を怠らなかった。
 故に彼こそが最もこの戦いを望まなかった。きっと彼の理想の中に、こんな景色は一片も紛れては居なかっただろう。
 苦無を投げつけながら駆ける。この敵には何度も辛酸を舐めさせられた。己の無力を嘆き、悔しさを噛み締めた日もあった。
 それでもまだ諦めていない。理想を。夢を。明日の微笑みを――。
 レベッカが声を上げる。回り込むヘイルに続き鏡夜が斬りかかる。胴を凪ぐ刃。続く一撃を受け止めるアヤメ。そこへ神撫が突撃する。
 輝きを纏う刃を振り上げる。驚異的な力の高まりに防御の姿勢を取るアヤメ。しかし無関係に思い切り一撃を叩き込む。
 彼の戦いはイリスの為にあった。初めて彼女と会った時から、彼は彼女を護り続けてきた。
 不器用な彼は何かを語るのは得意ではない。どちらかと言うと、イリスに対して言葉をかけるのは人任せだった。それでも必ず彼は傍に居た。
 いつでも優しくイリスを見守っていた。そして誰より彼女の敵に怒りを覚えた。彼女が傷つく事を決して是とはしなかった。
 悲しみを薙ぎ払う為に武器を手にする事、それが彼にとってのイリスへの愛情だったのかもしれない。その力で彼女の壁を取り払う事、それが彼の是であるならば。
 振り下ろされた紅い斬撃は地を抉り激しい衝撃を伴いアヤメを斬り付ける。舞う血飛沫を潜り、更にヘイルが突き進む。
 黄金の光を纏い、男は全力の一撃を繰り出す。機械の腕を突き出すアヤメ、その掌に刃を食い込ませて。
 何度も攻撃を受けた腕は神撫の一撃で限界を迎えていた。まるで肉を裂くのと同じ事。ヘイルの槍は指先から肩にかけ、その武装を破壊する。
 視線と視線が交わる。アヤメの瞳には恐怖ではなく戸惑いだけがあった。
「これで、終わりだ――」
 槍はアヤメの胸を貫いた。引き抜かれた胸の穴からぼたぼたと血が零れ、女は地に膝を着く。それがこの戦いの結末だった。

●The truth
 瀕死のアヤメが再び目を開いて見たのは自分の傍らに膝を着いた美汐の姿だった。
 美汐だけではない。傭兵達は既に死を待つだけのアヤメを囲むようにして見つめていた。
「‥‥ああ。ワタシの負け、か」
 見れば美汐は泣き出しそうな顔をしていた。それがおかしくて少し笑ってしまう。
「全く、お前達人間は御し難い。酷く矛盾した、アンバランスな存在だ」
「だからこそ、きっと願い続けているんですよ。お互いを想って」
 足音に目を向けると、そこには例の手記を手にした海の姿があった。幾つか持ち出したそれを手に海はアヤメの傍に腰を下ろす。
「真実を知りたくありませんか? あなたの捜し求めていた答えに近づけるかもしれません」
 そうして彼女は手記を開き、語った。本当の六車菖蒲の人生を。
 カレーニイ博士の手記には全てが記されていた。二人の天才が実は親友であった事。些細な意見の食い違いで別々の道を歩んだ事。
 それでもカレーニイ博士は親友の身を案じていた。ずっと、ずっと。
 彼が自分へのコンプレックスで人類を裏切った事も、その所為で命を落とした事も、一人娘を天涯孤独の身にしてしまった事も、彼はずっと後悔していた。
「そんな‥‥そんな馬鹿な」
「彼はなぜアヤメさんを引き取ったのか。恨まれると知っていて」
 親友の娘は死んだような目をしていた。実際きっと心は死んでいた。彼女を生かすには、生きる目的が必要だった。
 恨まれる事でそれが成せるならそうしよう。何不自由ない生活を与えよう。孤独を癒す愛情を与えよう。罪を償おう。今は亡き友へ。
「カレーニイ博士は恨まれる事を望み、自分が傍に居られないからイリスさんを傍に置いたんです」
「そん、な‥‥」
「いつか、大人になって。わかりあえたらいいなって‥‥そう願ってたんじゃないでしょうか?」
 血塗れの手で顔を覆いアヤメは泣いていた。その涙が何故流れたのかは誰にもわからない。
 ただ、女は泣いていた。嗚咽を殺し、命を削るように涙を流した。
「人の想いなんて、誰にもはわかりません。でも‥‥信じる事は出来ます」
 六車菖蒲の、アヤメ・カレーニイの人生は悲劇だったのだろうか?
 今なら言える。それはきっと否だ。
 彼女は孤独ではなかった。間違いを犯しても、沢山の愛に囲まれていた。
 当たり前のようにあったその優しさに気付けなかった。もし悲劇があったとしたら、それは言葉を尽くさなかった事。
 父に。もう一人の父に。妹に。そして――彼らに。
 微笑む海。彼女の戦いは思い遣る戦いだった。
 信じ、愛し、与え、想いを通した。彼女は信じていた。いつか姉妹が手を取り合い、幸せな未来を作る事を。
 願いはもう叶わない。祈りは届かない。それでも信じて歩み続けた結果がこれなら――彼女は、少しは納得出来るのだろうか?
「姉さん‥‥」
 アヤメの手を取る小さな手。イリスは目に一杯の涙を溜めて大切な人の名を呟く。
「アヤメ姉さん‥‥」
 アヤメは何も言わなかった。ただ優しく、本当に優しく。慈しむ様に微笑み、そうして瞼を閉じた。
「‥‥辛い時には泣いていいんですよ」
 イリスの傍に膝を着き、恭也がイリスの頭を撫でる。
「自分たちは貴女を家族のように思っています。家族の前でぐらい‥‥心根を見せてください」
 震える背中を抱き締める。堰を切るように泣きじゃくるイリス、その背後で恭也も泣いていた。
 子供のように泣くイリスの声だけが青空の下全てを覆っていた。その時――声が響く。
 空を見上げ、小さな声で。やがて声量を上げて。ヘイルは歌う。彼らの耳にも残る懐かしい歌を。
 気に入ったのか? 彼女はそう言って笑っていた。目を瞑り、ヘイルは歌う。それに合わせ、ニコラスはバイオリンを手に取った。
 空は皮肉にも良く晴れていて、雲一つ無い抜けるような青だけがあった。歌は空へ、想いを乗せて消えていく。それがこの戦いの本当の決着だったのかもしれない。

「感情‥‥人になって初めて知るものだったのかもな」
 レベッカの呟きにニコラスは僅かに顔を上げて応じた。その手にしたグラスにはセラーからくすねてきた上等なワインが注がれている。
 涼しげな風に吹かれ、それぞれの思いを胸に描く。どこか爽やかで、でも寂しげな。一つの季節の終わりと始まりを感じさせる風だ。
「イリス、進もう。あたし達はまだ道半ばだ。一緒に前に、あたし達に道を託してくれた人の願いも背負ってな」
「そうだね。ねえ、レベッカ」
 眼鏡を外し、イリスは振り返る。
「ありがとうね」
 等身大の笑みで、傭兵達に語る。
「皆、ありがとう。ありがとうね‥‥」
 と、そこでがくりと体から力が抜ける。慌てて抱き留め神撫は苦笑する。
「まったく、若い女の子が徹夜続きでぼろぼろとは‥‥けど、よくやったイリス。今はゆっくりお休み」
 安らかな様子で眠るイリス。傭兵達は戦いの終わりを知った。そして――。
「また、新しい物作ったらテストには呼べよな? いつでも、どんなのが相手でも請け負ってやるよ。もちろんアンサーの教育なら喜んでな」
 ――また、新しい戦いが始まるのかもしれない。

 それから幾つかの時が流れた。
 ビフレストコーポビルは相変わらず修復中で、とりあえず研究はストップしている。イリスはそれを前向きに休暇だと思っていた。
 それぞれの傭兵達はまた新たな戦いに出向いていく。そんな彼らの元にイリスからの手紙と荷物が届いた。
 近況報告と呼ぶには随分まとまりの無い手紙。それから丁寧に梱包された包みが一つ。
「‥‥おかえり、アンサー」
 中身を見て微笑む鏡夜。それから空を見上げる。
「会いに行くよ、また」
 雲一つない抜けるような青空は、新しい物語の始まりを祝しているかのようだ。
 彼らも、彼女も、きっと同じ空を見上げている。それが例え本物ではなかったとしても。
 仮想空間の中、それはキメラを片足で踏みつけながら空を仰いでいた。
 幻想の空はいつでも蒼い。白銀の装甲を纏った少女は銀色の髪を風に靡かせ指にこびりついた血を掃う。イリスはその様子に微笑を浮かべる。
 夢は終わらない。諦めない限り。足を止めぬ限り。求める声が在る限り。信じる者が居る限り。
 少女はメールを打つ。誰に宛てた物だろうか。或いは自分への手紙かもしれない。ただ一言だけ、始まりを告げた。



 『JX』プロジェクト、再開――!