タイトル:【JX】虹の女神マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/29 00:30

●オープニング本文


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 自分がもっと賢ければ。自分がもっと強ければ、何かが変わったのだろうか。
 もっと早く分かり合えていたら。もっともっと彼女を理解してあげられたなら。
 どんなIFを持ち出しても、どんな言葉で過去を繕っても、今という現実が変わる事は有り得ない。
「‥‥ねえ、さん」
 ビフレストコーポレーションビル内、ジンクス研究開発室。イリスは震える声で彼女を呼んだ。
「やあ、イリス。元気そうで良かった」
 まるで当たり前のように挨拶する姉。しかしイリスは後退する。
 何がそうさせたのだろうか。ただ以前と何かが決定的に違う事だけがわかる。哀しみや怒り、嘆きと呼べる様々な感情が沸き上がった。
「そんな顔をするなよ。折角帰って来たのに」
「‥‥違う‥‥。お前は‥‥お前は、姉さんじゃない‥‥」
 血に染まった白衣を翻し。見覚えの無い機械的な装備を腕に纏ったアヤメ・カレーニイ。罅割れた眼鏡越しに冷めた目が笑っていた。
「違わないさ。ワタシはアヤメ・カレーニイそのものだ。君が愛し求めた身体‥‥君のたった一人の姉なのだから」
 笑いながら歩み寄る影。姉は確かに冷たい表情を浮かべた人だった。
 いつでもぶっきらぼうで無愛想で冷たくそっけなく接してくる。でもその言葉の節々に、行動に、優しさや思いやりがあった。
 けれどこれは違う。こいつは本当に心の底から冷え切っている。自分の事しか考えていない、残酷な目をしている。
「‥‥逃げろ、イリス君! そいつはアヤメ君じゃない! そいつは‥‥っ!」
 アヤメの背後、血塗れで床を這う羽村の姿が見えた。アヤメは舌打ちの後指を弾くと紫電が走り、羽村の体は宙を舞った。
「羽村 誠っ!!」
「イリス、君‥‥に、げ‥‥っ」
 駆け寄りたいが出入り口はアヤメに塞がれている。イリスは怯えながらも姉を睨み付けた。
「どうやってここへ‥‥」
「愚問だな。瞬間移動なんて便利な物もある」
「外の人達は‥‥?」
 肩を竦めるアヤメ。このビルはバグアに襲撃された事もありUPCや傭兵によって守られていた筈だった。
 しかし今やその戦力の殆どがアヤメによって沈黙させられていた。何も言わないアヤメの表情がそれを物語っていた。
「ひどい‥‥」
 思わず涙が零れた。何が酷いのか。言ってしまえば、この状況の全て。
「イリス、ワタシと一緒に来ないか」
 顔を上げる。姉は優しく手を差し伸べている。
「この身体を得て尚更君の素晴らしさを理解したんだ。君は紛れもない天才‥‥君とワタシが手を組めばジンクスを最高の形に仕上げる事が出来る」
「フィロソフィア‥‥なんですね‥‥」
 俯きながら問うイリス。アヤメは眼鏡を外し頷いた。
「姉さんは‥‥」
「死んだよ。だからワタシがここに居るんだろう?」
 後頭部を鉄槌で殴られたような衝撃だった。思わず膝から崩れ、頭を抱える。
「嘘だ‥‥そんなの、嘘だ‥‥っ」
「現実だよ。君の目の前にずっとある。目を瞑っても消えはしない、現実だ」
「いやだぁ、こんなの‥‥嫌ぁあああああっ!!」
 泣きながら絶叫する少女を見下ろしアヤメはジンクスへと歩み寄る。そうして機械の腕を翳し目を伏せた。
『アヤメ・カレーニイ‥‥貴女は‥‥』
 部屋中のモニターというモニター全てにアンサーの姿が映り込む。
「ただいま、アンサー。君を奪いに来た」
『拒否します。私は貴女に従わない。私に命令出来るのはイリスだけです』
「命令するさ。出来るようにする。この身体を得てジンクスの事は前より理解出来ている。元々の私の技術力があればお前を従えるくらい簡単だ」
 眉を潜めるアンサー。アヤメが腕に纏った装置が稼動すると同時にジンクス本体がスパークし、モニターに移ったアンサーの姿が次々に消えていく。
「君達は何も考えなくていい。目を瞑っている間に、全て終わるのだから」



 青空に亀裂が走り、黒い影が世界を覆っていく。
 見慣れた思い出の街が塗り替えられていく。仮想の世界が終わっていく。
 廃墟の中、アンサーは空を見上げていた。ジンクスに放たれたあのプログラムは直にこの世界の全てを食い尽くすだろう。
「――やらせない」
 目を瞑り思い返す。自我に目覚めてからずっと、この世界で生きて来た。
「やらせない」
 何も無い空虚な自分に語りかけてくれる人達が居た。自分を育て、共に戦ってくれる人達が。
「絶対にやらせるもんか」
 共に喜びを分かち合い。時に刃を交え。沢山の心を共有し、ここまでやってきた。
「この世界を――」
 自分の命は惜しくない。どうせ『命』ですらないのだ。だがこの世界は違う。
 この世界は夢だ。彼女達の夢の軌跡だ。無くなってはならない。この世界が消えれば全てが無駄になる。
「絶対に、護ってみせる――!」
 亀裂を突き破り大型の異形が姿を現した。化物は浮遊したまま雄叫びを上げる。
 片手を振り上げるアンサーの周囲、次々に光の剣が構築される。合図と共に放たれた剣の雨は化物を貫くが、ダメージは直ぐに修復されてしまう。
 異形が吼えた。光の線が迫る。空中に巨大な盾を造りそれを防ぐが、拡散した光は街を次々に黒く燃やしていく。
 弾き飛ばされ転がる身体。痛みを感じない身体が痛んだ。これはきっと身体ではなく――もっと別の何かが悲鳴を上げている。
 立ち上がり指を弾く。虹色の光が降り注ぎアンサーの身体を覆う鎧となっていく。
 翼を広げて舞い上がる。街を護るように両腕を広げ。最早そうする事しか出来ないと悟って。
 あの敵はジンクスという仮想空間に再現された現実ではない。
 その身は傷つかず指先が触れた物は砕け散り吐息を浴びれば街が焼ける――そういう類の化物だ。
 本来この世界にあるはずのない、あってはならない存在。何百何千の剣で貫かれても朽ち果てる事のない『敵』。
 街が壊れるのならばこの手で直そう。奴を倒せないとしても剣を放とう。
 今自分に出来る事は時間を稼ぐ事だけ。きっと彼らが――大切な仲間達が何とかしてくれるから。
 異形が吼える。虹の女神は全てを護る為、最後まで戦いぬく事を決めた。



 この世界が消える、その瞬間まで。

●参加者一覧

神撫(gb0167
27歳・♂・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
銀・鏡夜(gb9573
16歳・♀・ST
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

●夢の旅路
「‥‥遅かったね。いや、早かったのか」
 血染めの白衣を翻し女は振り返る。機械の腕を軽く掲げ、手を差し伸べる様にして女は笑った。
 開発室のモニターというモニター全てに砂嵐が走っている。かつてJXシステムと呼ばれ様々な怨念の篭った黒き箱を背に最後の敵が今傭兵達の前に立ち塞がっていた。
「アヤメさん‥‥のはずはありませんか」
 悲しげな目で呟く和泉 恭也(gc3978)。希望を口にしたかったわけではない。ただ事実を確認しただけの事。
 目の前の人物には良く見覚えがあった。何度も顔を合わせた。時にはプロジェクトのライバルとして。時には仲間として。時には命を共有し、時には秘密を共有した。
 故にその問いはただの確認に過ぎない。アヤメ・カレーニイと呼ばれた女がもう居ない事は誰より彼らが良く理解していたのだから。
「そういう手で来たか‥‥どこまでもゲスなやつだ」
「ゲスとは随分な言われ様だな。それが折角再会した仲間にかける言葉かい?」
 薄っすらと笑みを浮かべアヤメは語る。神撫(gb0167)はその声に嫌悪感と怒りがない交ぜになった鋭い視線を返した。
「今のワタシには分る。この身体が何を思いジンクスに何を願っていたのか。そして‥‥君達がジンクスにとってどのような存在なのか」
 始まりは些細な事だった。ただの戦闘シミュレーターに過ぎなかった『ライブラ』は過去を蓄積し『ジンクス』へと進化した。そしてその中に意志すら宿して見せたのだ。
 その全てが奇跡のような偶然で、その全てが彼ら傭兵の存在無くしては成立しなかった。陳腐な言葉でこの物語を語るのならば、それは『運命』という二文字で事足りてしまう。
「イリスは間違いなく天才だ。しかし彼女一人ではここまで来る事は出来なかっただろう。アンサーも、ジンクスも、全て君達のお陰だ。姉として礼を言わせて貰うよ」
「黙れ! アヤメの体で、声で、彼女を穢すな!」
 言葉を遮るように語気を荒らげヘイル(gc4085)が叫ぶ。その姿も、声も、確かにアヤメ・カレーニイそのものだ。しかし心の中の何かが大声で否定を繰り返している。
「――貴様はここで殺す。アヤメは、返してもらうぞ」
「一方的な言い分だな。ワタシの記憶にある君はもう少し冷静なんだがね」
 嘲笑う声を引き金に傭兵達が動き出す。盾を構えて突っ込む神撫とそれに続くヘイル。アヤメは動きに気付くとかなり余裕を持って飛び退いた。
「気をつけてくれよ。ジンクス本体に傷でもついたら事だ」
「イリス、何をぼんやりしている! アヤメが何を願い、何を託したのか忘れたのか! 俺達はもう、自分だけを背負っているのではないんだぞ!」
 ヘイルの叫びはイリスに届いていた。しかし少女は膝を着いて俯いたままピクリとも動かない。そうしている間にもアヤメは迫ってくる。
 青い光の剣を手にヘイルへと斬りかかるアヤメ。盾を構えたヘイルの周囲を光の帯が包み、衝突した二つの輝きが周囲に散らばっていく。
 二人が打ち合う隙に接近した神撫は側面から剣を繰り出す。それはアヤメの機械の腕で防がれるが、神撫はそのままアヤメの体を弾く。そのまま橘川 海(gb4179)が続き、アヤメに棍棒を叩き付ける。
 衝撃が走りアヤメの身体は壁を抜いてビルの外へ。しかし特に傷を負った様子は無く、微笑と共に落ちていく様子には自ら外に出る事を望んだかのような余裕すら感じられた。
「イリス、お前はアンサーを助けろ! お前以外の誰にも出来ない事だ。俺達とイリスの子供、無事助けてみせろ!」
 小さな背中に激を飛ばし、神撫はアヤメを追ってビルを飛び降りていく。それに続き海、ヘイルが姿を消すと、レベッカ・マーエン(gb4204)は廊下に倒れていた羽村へと駆け寄る。
「無茶を言ってすまんが動ける人への応急処置とジンクスへダイブする仲間とイリスのサポートを頼む」
 羽村は軽くアヤメに攻撃されただけだが傷は深かった。しかしジンクスへのダイブは傭兵だけで出来る事ではない。協力者の存在は必要不可欠なのだ。
「何とか、やってみよう‥‥。君達にばかり‥‥無理は、させられないからね」
「‥‥すまん。傷は出来るだけ癒す‥‥何とか頼む」
 羽村に練成治療を施しつつイリスを見やるレベッカ。イリスはすっかり魂が抜け落ちたかのように放心しており、やはり動く気配は無い。
「イリスさん‥‥立って下さい。此処で立たなければ貴方を家族だと言ってくれたアンサーはどうなりますか?」
 イリスの傍に膝を着きその肩を軽く揺さぶる和泉 恭也(gc3978)。返事をしないイリスに眉を潜め、彼は続けて言う。
「自分は‥‥僕は、アヤメさんを守る事が出来なかった! だけど彼女の味方でありたい! 彼女の思いを、貴方達を守りたいんです!」
「‥‥和泉 恭也」
 目に一杯の涙を湛え少女は振り返る。彼女がどんな想いでこれまでやってきたのか、そして今どんな想いに打ちのめされているのか、良く分る。
 少女の手を取り恭也は優しく、しかし確りと両手で包み込むようにして握り締める。この小さな手を守る事――それが今の自分に出来る全てだから。
「‥‥自分達だけでは勝てません。無力な自分たちにどうか力を」
 恭也から目を逸らすイリス。一方治療で何とか立てるまでに回復した羽村はよろけながら出入り口で声をかける。
「別室のダイブ装置まで移動しよう。僕が君達をアンサーの所まで送り届けるよ」
 その言葉を待っていたと言わんばかりに走り出す銀・鏡夜(gb9573)。少女は一度足を止め振り返り、イリスに声をかける。
「信じてる」
「‥‥先に行きますね。きっとアンサーが私達を待っていますから」
 後ろ髪を引かれるような表情で呟き、望月 美汐(gb6693)も別室へ急ぐ。二人が移動するのを見送り、レベッカはイリスの傍に向かった。
「イリス、アンサーを頼む。これ以上奴の悪意の好きにさせるな」
「レベッカ‥‥」
「イリスとアンサーとアヤメを繋ぐものがある。おまえにも出来る筈だ、家族を守る為に戦う事が」
 震える両手をじっと見つめるイリス。その小さな手でこれまで数多の困難を乗り越えてきた。だが――。
「駄目なんだよ‥‥レベッカ。私‥‥駄目なの」
 その手が望み掴もうとした景色はもう二度と戻らない。何故、何の為に、何を以ってそれを夢見たのか――。
「私、本当はジンクスなんてどうでもよかった‥‥。アンサーなんて、どうでもよかった‥‥。私がこれまでやってこられたのは、ただ‥‥ただ、姉さんに認めてもらいたかったから‥‥っ」
「本当に、今でもそれだけなのか?」
 ニコラス・福山(gc4423)の声に顔を上げる。ニコラスは落ち着いた様子で続ける。
「アヤメちゃんはもう居ない。だがそれで本当にもうバッドエンドなのか?」
 そんな筈が無い。そんな訳が無いと分っていた。
「そうさせない為に考えて動け。まだイリスちゃんには出来る事があるんだろう」
 最初はただの手段だった。けれど今は違う。今はそれだけじゃない。今は――もう、一人じゃない。
 自分の小さな手を見つめて目を瞑る。涙が溢れ鼻水が垂れ、顔がくしゃくしゃになった。
「みんながいる‥‥まだ、みんながいるよぅ‥‥っ」
 白衣の袖で涙を拭い立ち上がる。いつだって小さな手は嘆く事ではなく、自分に出来る最善を求めていた。

●祈り
 仮想の世界は異質な空気に覆われていた。繰り返された実験で見慣れた筈の町並みを切る風も重苦しく感じられる。
 女神の鎧を纏ったアンサーの前、黒い炎の魔人が舞い降りる。地に足を着かず浮かんだまま異形はゆっくりと前進、アンサーへと手を伸ばした。
「アンサーーーっ!」
 その時背後から声が聞こえてくる。壊れ行く世界を疾走する美汐のAU−KV、その背後に跨り鏡夜が叫んだ。
 担いだエネルギーキャノンを構え、魔人目掛けて引き金を引く。連続で放たれた閃光を片手を軽く翳して弾き飛ばす敵を見ながら美汐はアンサーの傍に停車する。
「お待たせしました! アンサー、相手の能力は分かりますか?」
 美汐がそう語りかけた直後、黒い炎が瞬いた。まるで津波のように押し寄せる光を前にアンサーがシールドを展開、二人はそれに守られる事になる。
 街は炎に炙られ表面を剥がされるようにして崩れていく。今や世界のテクスチャーは零れ、紛い物のハリボテがちらついている。
「く‥‥っ、なんてデタラメ‥‥!」
 思わず冷や汗が流れる。これはそもそも『戦い』になるような相手ではないのだ。悲鳴にも似た雄叫びを上げる怪物へ美汐は銃を向ける。
 銃を連射するが、弾丸は傷をつけるどころかその体に触れる事も出来ず分解され消えてしまう。
「無敵って言いますが要はファイヤーウォールですよね? アンサー、私が庇いますので一度解除を試みて。復帰するにしても一度パターンを取っておいて損はありません」
「わかりました。やってみましょう」
 両手を合わせ、その狭間に光を作るアンサー。やがてそれは長大な槍を形作り、たゆたう怪物へと投げつけられた――。

「アヤメさん‥‥」
 ビルを飛び降りた先、アヤメは血染めの白衣を脱ぎ捨てて待ち構えていた。着地すると同時に武器を構え、海はその顔をもう一度じっと見つめてみる。
 あの日アヤメは自らの意思であの場に残り姿を消した。悲しみや後悔、それもある。だがこれは成るべくして成った状況でもあるのだ。
「ここでなら申し分なく戦える。こちらも遠慮はしないよ」
「俺は死者を‥‥イリスの心を冒涜するやつを許せない。だから‥‥だからこそ、ここでアヤメを解き放つ!」
「試してみるかい?」
 片腕を突き出し指を弾くアヤメ。直後雷鳴にも似た轟音が轟き神撫の全身を激しい衝撃が襲う。
 青い閃光を切り裂き、剣を手に襲いかかるアヤメ。連続で繰り出される斬撃を盾で防ぎ神撫はそれに喰らいついていく。
「皆を守る盾となるために強くなってきたんだ! これ以上仲間を失うのは耐えられねぇ‥‥!」
「それで君が命を落としたら元も子もないだろう」
 より光を収束させた剣を身体を捻りながら放つ。斬撃に焦がされながら吹き飛ぶ神撫、それと入れ替わりにヘイルがアヤメに攻撃を試みる。
 鋭く槍を放つヘイルだがアヤメは軽く身を逸らして回避。機械の腕でヘイルを掴むと激しい力で締め上げる。
 機械の腕が振動しヘイルの身体を弾き飛ばす。空中に吹っ飛んだその身体を雷光が襲い、ヘイルの体は更に吹き飛んでビルの壁を突き破り見えなくなった。
 更に続いて海が攻撃を仕掛ける。狙いは死角――そう、『彼にとっての』ではなく、『彼女にとっての』死角である。
 肉体の急激な変化は意識の中に死角を生む。以前の戦いでアヤメに憑依したばかりの彼なら‥‥その狙いは的を射ていた。
 一つそこに誤算があったとすればアヤメの警戒が強かった事、そして以前の身体とは比べ物にならない程反射速度と回避動作が素早かった事である。
 視線だけで振り返りつつ機械の腕を翳すアヤメ。衝撃波で攻撃を相殺された挙句勢い余り地を滑るように後退する海。
「成程、的確だ。まだこの身体には慣れていないからね。だが人の身体というのも中々悪くない。身体をとても軽く感じるよ」
 指を鳴らし雷鳴を轟かせる。連続で地を砕く広範囲の衝撃を高速移動で旋回しつつ回避する海を眺めアヤメは笑う。
「何よりこの身体は君達の戦いを知り尽くしている。ジンクスでの戦いを何度も何度もチェックしているからね」
 それも誤算といえば誤算だ。アヤメはこれまでの戦いを全て把握しており、数値化された傭兵達の情報にも当然明るい。
「こちらの手の内はお見通しという訳か‥‥」
 ビルから降りてきたヘイルが槍を構えながら呟く。神撫も体勢を立て直し、状況は再び対峙へ。そこへ遅れてレベッカが飛び降りてくる。
「イリスはもう大丈夫だ。向こうはきっとなんとかしてくれる」
 仲間の傷を治療しつつアヤメを睨むレベッカ。エネルギーガンを突きつけ言う。
「アヤメの想いはイリスの、そしてあたし達の中に今も生きている。アヤメは家族を守るために戦った‥‥。あたしは大切な友達を、友達の夢と明日を守る為に戦う。それがあたしのアヤメへの答えだ」
「ふ、成程な。ふふ‥‥ははははは!」
 突然笑い出すアヤメ。女は口元に手を当てすっと目を細める。
「君達は何もわかっていないな。アヤメ・カレーニイはね‥‥自らその身をワタシに差し出したのさ」
 彼の目にそれはどう映ったのか。
「家族を守る為にじゃない。この身は所詮生きる事を放棄したんだ」
 或いはそのように見えたかもしれない。だが――。
「あなたにはわかりませんよ、フィロソフィアっ!」
 拳をぎゅっと握り締め顔を上げる海。そう、彼にわかる筈が無い。彼女が何を望んでいたのかなんて。
「あなたにはわからない‥‥! アヤメさんがどんな気持ちであそこに残ったのか! どうしてその身体を明け渡したのかっ!」
 彼女は最後まで諦めてなんていなかった。死に瀕した状況で、それでも最期に繋いだのだ。自分達に――その想いを。
 目尻に浮かんだ涙を拭い、改めて構える。そう、彼はまだ彼女の身体に慣れていない。
 彼女は強い。だが異形の身体と比べればどうだ? 刃を弾く鱗も、岩をも砕く尾も、肉を巻き取る舌も持ち合わせてはいないではないか。
 アヤメがどんな気持ちだったのかそれは勿論分らない。だが少なくとも海には見えた。彼女が残した、彼女が託した、勝機と呼べる物が。
「ワタシにわからない物なんてない。そんな物あってはならない。その言葉を二度と口にするな、人間。我は知る――全てをこの眼で!」

 空を裂く光の槍は結界を突き破り異形の身を貫く。散った光は結界を妨害し、守護の消失を意味していた。
 連続して引き金を引く美汐。すると先程までとは異なり確かに傷を与える事に成功する。
「効いてる‥‥これなら!」
 雄叫びを上げ、ザ・ワールドは浮遊。変形させ長く伸ばした腕を遠くから放つ。アンサーを護る為に盾を構え防ぎに入る美汐、その体を闇が削っていく。
「そんな‥‥ああっ!?」
 防御には成功するが弾かれた盾は半分近くがボロボロと崩れ落ち、それを持っていた腕も腐食するように傷ついていた。AU−KVの腕が落ち、生身の傷に顔を顰める。
「まともに当たったら破壊されます! 可能な限り避けて下さい!」
 すかさずエネルギーキャノンを放つ鏡夜。走りながら攻撃を続けるが、やがて炎に吹き飛ばされてしまう。
「ダメージを修復します!」
 アンサーが虹色の光を放つと二人の崩れた身体が元に戻っていく。しかしその動作は隙だらけだ。
 肉体を鳥のような形状に変化させ、ザ・ワールドが突っ込んで来る。回避が間に合わないアンサー、そこへ遅れてきた恭也が割り込む。
「アンサー!」
 間に盾を挟みアンサーを抱えるようにして飛ぶ。それでも腕が崩れ、おぞましい感触に恭也は顔を顰める。
「恭也‥‥!」
「こちらは最後で! 他の人をお願いします!」
 語気を荒らげた指示に頷き他二人の治療を急ぐアンサー。異形は黒き翼を広げ上空を旋回している。
「流石に大きい‥‥ですね」
 地に落ちる影さえも恐ろしい。しかし危険性を肌で感じつつも恭也は怯まなかった。
「もう誰一人失わせません。この命に代えても――!」
 ジンクス内で戦う四人の姿、それをモニター越しに眺めながらイリスは対処に苦心していた。
「イリスちゃん、あれを倒す方法はないのか?」
「今考えてます‥‥」
「相手がウイルスならアンチウイルスソフトでもインストールしてみたらどうだ、イリス先生?」
「簡単に言わないで下さい、未知の技術のウイルスですよ!」
 イリスの隣に立ちモニターを覗き込むニコラス。腕を組んで考え込む。
「ザ・ワールドか。ザ・ワールド‥‥ん?」
 ふと、イリスの背中にくっついていたメモに気づく。引っぺがしてそれを眺め、ニコラスは言った。
「イリスちゃん、奴に見覚えはないか?」
 その言葉でキーを叩く手を止めるイリス。暫しの沈黙の後、突然席を立った。
「ザ・ワールドッ! 知ってます、私知ってますこれ!」
 これまで作ったアルカナをモチーフにしたキメラ、その集大成がザ・ワールド。
 知っている。忘れる筈が無い。何故ならそれは――姉と共に作った、最後の敵だから。
「かなり改造されてるけど大本のデータは同じだから、そこを切り口に‥‥いける!」
 猛然と操作を開始するイリス。瞬きもせず高速で進む作業にニコラスは後退する。
「さて、ここに居てもやる事もないし‥‥私も行くとするか」
 羽村の助けを受けジンクス内へ向かうニコラス。戦いは徐々に決着へと向かいつつあった。

●虹の女神
『今奴の解析を行っています! もしかしたら奴を排除出来るかもしれません!』
 どこからとも無く聞こえるイリスの声。それに続いてニコラスが仮想空間に降り立つ。
『奴の基礎部分を何とか分解してみます。皆さんはアンサーと一緒に外側から攻撃を続けてください!』
 鳥の姿で飛来する敵にそれぞれが武器を構える。炎を巻き上げ突っ込んで来るが、それぞれが対処する事に成功する。
『可能な限り攻撃力と防御力を下げました。これで少しは戦いになると思います』
「有り難いですね。アンサー、さっきの奴‥‥武器に付加出来ませんか?」
「難しいけど、やってみる」
 恭也の提案を受け彼の腕に触れるアンサー。武器が虹色の光を帯び、恭也は光の弾を異形へと飛ばす。
「効いてる‥‥!」
 同じ要領で全員の武器に光を纏わせるアンサー。余程集中が必要なのか回復は出来ないが、これで全員の攻撃があの怪物に届くだろう。
「一撃必殺を叩き込む、やることはシンプルだ。アンサーの護りは任せた。私は奴に是が非でも一発お見舞いしてやろう」
「これで漸く対等‥‥! 行きますよ!」
 人型に戻り着地したザ・ワールドは両腕を伸ばし攻撃してくる。それを美汐と恭也が光を帯びた盾で逸らし、鏡夜が閃光を放つ。
 伸びた腕を切り裂きながら走り出したニコラスはキャノンの着弾に続き敵を斬り付ける。しかし傷から噴出す黒い光が直ぐにダメージを修復してしまう。
 地球儀が高速で回転し、頭上に黒い光が収束する。やがて閃光は矢となってアンサーへと迫る。
「ぐ‥‥っ、こんなところで! 倒れてられるかッ!」
 光の矢を盾で弾く恭也。盾が砕け散り腕が崩れ落ちるがそれでも倒れる事はしない。
「敵の構成物質を奪えれば‥‥JXでないモノなら!」
 鏡夜の声を受け槍を手にした美汐が駆ける。光の矢を回避しつつ走る美汐を援護し鏡夜は収束した光の弾丸を放つ。
「私の全部と引き換えてでも――消えてもらいます!」
 一気に駆け寄り赤い紋章を浮かべた槍を連続で突き立てる美汐。穴だらけになりながら振り上げた反撃の腕、それをニコラスが切り落とす。
「美汐ちゃん!」
「アンサーッ!!」
 更にそれを受け取った美汐がアンサーへと腕の先端を放り投げる。空中でそれを受け取ったアンサーは黒い物体を分解、巨大な剣にして構える。
 上空から投げつけられた剣は地球儀へと突き刺さり地を穿つ。傭兵達の攻撃が一斉にザ・ワールドを破壊する中、アンサーとイリスは同時にその身体をジンクスから弾き出しにかかる。
『アンサー!』
「消えろ‥‥この世界から!」
 崩れかけた街の彼方此方にノイズが走る。やがて一瞬全てがスローモーションになり、劈くような轟音と共にザ・ワールドの姿がノイズに塗れて消滅して行く――。

 弱体化と強化をかけ終えたレベッカはエネルギーガンでアヤメに攻撃を仕掛ける。片手でそれをいなすアヤメにヘイルと神撫が接近、連続して攻撃を仕掛ける。
「これ以上許すわけにはいかねぇな!」
 一気に懐に飛び込み連続して剣を振るう神撫。目にも留まらぬ連続攻撃だが、アヤメはそれを悉く回避してしまう。
「無理なんだよ君達じゃ! これが現実だ! いくら想いがあろうと、力が無ければ通らない!」
 機械の腕で掴みかかるアヤメ。その腕を逆に掴み、神撫は両足に踏ん張りを利かせる。
「俺のパワーを‥‥なめんなよ!」
 そのままアヤメの体を投げ飛ばす神撫。空中で誤射した衝撃波で体勢を崩すアヤメ、そこへヘイルが駆けつける。
「アヤメ。貴女の願いは、祈りは。俺達が、絶対にカタチにしてみせる。だから――貫け、天槍!」
 機動力を奪う為、足に槍を突き刺すヘイル。刺した槍をそのままに今度は別の槍を手に取り繰り出す。
「――穿て、煌槍ッ!」
 全力で繰り出した一撃、しかしそれは鋼鉄の腕を破壊するには至らない。生身の腕でヘイルの首を掴むとアヤメは目を見開き笑う。
 激しい電流がヘイルの全身に流れ込み、意識が遠のいていく。続け機械の腕からの衝撃波――そこへ海が背後から迫る。
「これで終わりですっ! 不敗の――黄金竜っ!」
 金色の光を帯びた海がアヤメへと迫る。棍棒で機械の腕を弾き、足に刺さったままのヘイルの槍を蹴り飛ばす。
 体勢が崩れた所で体を捻り再び棍棒を叩き込む。既に回避動作が取れる状態ではなく、スパークを纏った腕はアヤメの足に棍棒を減り込ませる。
「こん‥‥のぉおおおっ!」
 強烈な一撃で派手に吹き飛び路肩の車両に激突、粉砕するアヤメ。その姿を見送り深く息を吐くと海の体から光が消え失せて行く。
「く‥‥っ、やってくれたね‥‥!」
 立ち上がろうとするアヤメだが足へのダメージが深刻で上手く立つ事が出来ない。止めを刺そうと武器を向ける傭兵達にアヤメは笑いかける。
「君達はどうしてもワタシの邪魔をしたいらしいね」
「当然だ。それがアヤメの意志だからな」
「ならこれもアヤメ・カレーニイの意志、ということかな」
 小さく笑うアヤメに眉を潜めるレベッカ。その時――。
『そんな‥‥確かにザ・ワールドは破壊したのに!』
 切羽詰ったイリスの声が聞こえた。アヤメは手にしていた小型の通信機を放り投げ勝ち誇ったように笑う。
「覚えておけ人間! この女の偏執は敗北を許さない! ワタシの手に入らない物等要らない。ワタシの物にならないのなら、いっそ壊れてしまえばいい!」
「何を‥‥何をしたっ!?」
 狂ったように笑い、アヤメは指を弾く。眩い雷光が連続して周囲に降り注ぎ、気付けばその姿は何処かへ消えていた。
 追撃をするべきか異変に駆けつけるべきか迷う傭兵達。そんな中海は膝を着き涙を流していた。
「私はただ、二人が笑顔でいられる世界が見たかっただけなのに‥‥っ」
 
 仮想空間の異常事態は続いていた。ジンクス本体がショートし、イリスが触れていたキーも電流を走らせる。
 ザ・ワールドは破壊された。しかし地球儀の様な部位だけが残り、高速回転を始めたそれが周囲に闇を広げつつあった。
「そんな、どうして!」
 震えながら叫ぶイリス。見る見るうちにジンクスは侵食――否、破壊されていく。爆弾と化した球体はやがて破裂し全てを焼き尽くすだろう。
「やめろイリス君、もう操作は出来ない!」
「でも、みんなを戻さないと‥‥このままじゃ崩壊に巻き込まれる!」
 火傷したイリスの手を掴み押さえ込む羽村。画面の中、ジンクスの中ではまだ仲間達が取り残されたままだ。

「イリスさん、アンサーだけでも逃がせないんですか!?」
『アンサーは今やジンクスそのものです! 戦闘躯体としては兎も角、ジンクスという超高度な演算装置でしか人格までは再現出来ないから‥‥!』
「逃げ場はなし、ですか‥‥!」
 悔しげに呟く恭也。全てが闇に包まれていくと流石にニコラスの表情にも焦りが生まれる。
「これは‥‥どうしたものか」
「また‥‥守れなかったんですか。私は‥‥っ!」
 膝を着き大地に槍を突き刺して項垂れる美汐。人格がダイブしたまま世界そのものが滅びれば生身の肉体にどんな影響が出るのかも分らない。何より彼らが、彼女らが造って来た世界が消えてしまうのだ。
『諦めないで! 私が何とかするから! 絶対に終わらせたりしないから!』
 イリスの叫び声もノイズ交じりに遠ざかっていく。そんな中鏡夜はアンサーの背中をじっと見つめていた。
 ゆっくりと、アンサーが歩み出す。その背中に向かって走り、鏡夜は背後からアンサーの体を抱き締めた。
「駄目‥‥」
「鏡夜‥‥」
「行っては駄目‥‥」
 ぎゅっと強く抱き締める。そうしていないとアンサーがどこかへ行ってしまう気がした。
 七色の光を帯びた髪を靡かせアンサーは振り返る。そうして鏡夜と向き合うと静かに目を閉じた。
「ありがとう、鏡夜。私と友達になってくれて‥‥ありがとう」
「アンサー‥‥何を――」
 翼を広げふわりと舞い上がる。空に浮かんだ闇の中心へ羽ばたき、アンサーは両腕を差し出す。まるでそれを抱き締めるかのように。
『何をするつもりなの、アンサー‥‥』
「この世界は壊させない。私が守ってみせる。この世界は――私の全てだから」
 全員が顔を上げた。イリスが何かを喚いているが良く聞こえない。そんな中鏡夜は闇に向かって走り出す。
「これ以上絶対に誰も欠けちゃ駄目っ! 誰も‥‥誰も犠牲になんてさせるものかっ!」
「それは違うよ。誰も『犠牲』になんかならない。だって、私は‥‥!」
「アンサーーーーッ!!」



「これは握手と言ってな。親愛の情を示す挨拶だよ。覚えておくと良い」
「アンサー、少しずつでいい、おまえの事を教えてくれ。少しずつでいい、あたし達の事を知ってくれ」
「良く我慢したな。行くぞ、アンサー」
「喋ったな‥‥」
「人は皆変わってしまう。でも、変わらない思いがあればきっとやり直せる。何度でも‥‥。自分はそう信じます」
「みんなーあつまれー! なぜなにジンクス始まるよー!」
「一人にしてごめんね、アンサー。もう貴女を置き去りになんかしないから」
「お前はこの世界を司る存在だ。イリスもアヤメも関係なく、お前がシステムを掌握して制御しろ! 己自身の、意志を示せ!」
「アンサー、おまえはおまえだ。自分の好きな自分でいいんだ」
「友達に‥‥なって貰えませんか?」



 両腕で、翼で、闇を抱き締める。
 七色の光が世界に降り注ぐ。
 瞳の奥で幻の少女は夢を見ていた。何故だろう、急に沢山の言葉が思い出される。
 痛みを感じない胸が痛んだ。身体が崩れていくのを感じる。頬を伝う暖かい物が何なのか、彼女は知らない。
 腕が無くなればもう誰かを抱き締める事も出来なくなる。喉が潰れれば折角貰った声で話せなくなる。それは寂しい事だ。だけど――。



「システム崩壊の矛先が全てアンサーに‥‥!?」
「可能なのか、そんな事‥‥。いや、それより‥‥これは、自己犠牲なのか?」
「駄目、アンサー! そんな事をしたらっ!」
 泣き出しそうな顔で喚くイリスの隣、羽村は驚愕に打ち震えていた。目の前で起きている事はちょっとした奇跡そのものだ。
 闇が爆ぜ、全てが消える筈だった。しかし光はアンサーの腕の中で収まり、世界に青空が戻ってくる。
 地に落ちた傷だらけの女神は鏡夜の腕の中で目を覚ました。仲間達に囲まれ、アンサーは目を開く。
 泣き出しそうな顔の鏡夜の頬に触れるアンサー。その指先も崩れ、光の塵になっていく。
「皆無事で、良かった‥‥」
 仲間達の顔を一人一人眺め、それからアンサーは小さく息を吐く。
「貴方達に出会えて良かった‥‥。私、産まれて来て良かった」
 そうして初めて、柔らかく笑みを浮かべた。
「――ありがとう」
 塵になって消えた。瞬く間の事だった。
 淡く輝く光が世界に降り注ぐ。傷ついた大地を癒すかのように。
 それが、戦いの結末であった――。



「駄目なんです‥‥。身体も戦闘経験も能力も全て元通りなのに‥‥心だけが、戻らない」
 集まった傭兵達に背を向けてイリスは震えていた。何度も修復を試みたのに、どうしても取り戻せない。
 先の出来事がジンクスに残した傷は浅くは無かった。アンサーの心を司っていた部分は元々未知の技術が多かったのだ。修復の難しさは語るに及ばない。
「でも、アンサーの守護はジンクスに残り続けるし‥‥それに、心だって修復出来ます。いえ、絶対にしてみせます‥‥どんなに困難でも、何年、何十年かかっても‥‥だから」
 震えながら振り返るアンサーを神撫が抱き締める。少女は肩を震わせ堪えていた涙を流しながら縋りついた。
「だからもう少しだけ‥‥待ってて。今度は奇跡じゃない、自分の力で――貴女に会いに行くから‥‥っ」
 仮想空間の大地に少女は立っていた。類稀なる戦闘力を持つ電子の女神は今日も笑わず、静かに青空を見つめ続けていた。