タイトル:【JX】自答への意志マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/04 14:02

●オープニング本文


●別れと共に
「それじゃ、そろそろ行くよ。見送りありがとう、イリス君」
 研究室の前に停まった一台のタクシーの前、元ライブラ研究室室長である羽村とイリスは向かい合っていた。
 冷たい季節は冬の訪れを感じさせる。思い返せば二人の出会いもまた冬の季節であった。
 誰一人味方の居なかったイリスの面倒を見て、時折夜中の研究室で彼女の相談に乗った。羽村は名残惜しそうに苦笑を浮かべる。
「室長‥‥やっぱり私、こんなの納得出来ません。どうして室長が異動になるんですか‥‥!」
「そりゃ責任者だからさ。伊達に室長を名乗っていたわけじゃないからね」
「‥‥羽村 誠、貴方は‥‥」
 項垂れるイリスの肩を何度か軽く叩き男は笑う。それから腰を落とし少女と目線を合わせた。
「心配しなくても異動先は結構良さそうな所さ。ま、気ままにやるとするよ。それより問題は君の方だ、イリス君」
 後ろ盾であった羽村を失い同時にライブラの計画が凍結されてしまったのだ。正に八方塞――この現状を打破しなければ一歩も前に進む事は出来ないだろう。
「まあでも、単なる凍結ってわけじゃないんだろうね。新しい室長の話は聞いているかい?」
「え? いえ、まだ何も‥‥」
「あ、そういえば君家出してたからね‥‥。ま、詳しい事は本人に聞いてみるといい。ライブラの凍結は、近々解除されるらしい」
「ほ、本当ですか!? し、しかしなんでまた‥‥?」
 羽村は首を横に振り『わからない』と返す。そうして小さく息を吐くとコートの裾を翻した。
「君のサポートはもう出来そうにないが、それでも君はやるんだろう?」
「‥‥はい。あの人に‥‥姉さんに伝えなきゃいけないんです。私の‥‥私達の、答えを」
 少女の答えに満足したかのように頷くと男はタクシーへと乗り込んだ。窓を開け羽村はイリスに一枚のディスクを手渡す。
「僕なりにライブラを調べた結果だ。個人的な推察に過ぎないが、少しでも君の未来が開かれる事を願ってるよ」
「室長‥‥」
 ディスクを握り締め涙ぐんでイリスは頷いた。少女は遠ざかっていくタクシーが見えなくなるまで風の中一人佇んでいた。
「――ありがとう。きっと‥‥必ず、貴方の気持ちに応えてみせます」
 別れを惜しんでいる間は無い。少女は白衣を翻し、彼女なりの戦場へと舞い戻るのであった。

●もう一度
 彼女の『研究』は秘密裏に、しかし長い時間をかけて進行していた。
 この研究室に来る以前より目的は明白であり、最終的な到達点はこれまで一度たりともブレた事はなかった。
 大切な人の、大切な理想を守る為。自分自身の在り方を示す為。理解してほしかった。興味を示してほしかった。だが今は――。
 薄暗い一人きりの研究室でイリスは椅子の上でカップを傾けていた。深く体重を預け、僅かに視線を伏せる。
 ライブラの研究が凍結してどれ程だろうか? 一つだけ点いたディスプレイの光に照らされ少女の瞳は憂鬱を映し出す。
 両親の説得にも、ライブラの問題点を洗い出すのにも時間が掛かった。ライブラは兎も角両親はずっと折り合いが悪いのだ、少女にとっては仕事よりも困難な事である。
「いつまた戻って来いと言われるやら‥‥。それに、どうしてあの人達は、私と姉さんを‥‥」
 独り言も思案も一度中断する。スイッチを切り替えて仕事と私情を割り切るくらいの事は出来なければやっていられない。
「足を止めるな。迷っている時間はない。進み続けなければ追いつけない。本当に出る杭なら――例え、打たれてでも‥‥」
 今はもう自分の為だけに研究を続けている訳ではない。これは戦いなのだ。
 これまで自分を支えてくれた人達。知らなくて良いと、興味が無いと思っていたこの世界の全て。
 手を差し伸べてくれる誰かや、自分の為に笑ってくれる誰かの為に――叶えたい夢があるのだ。
「‥‥困った時は人に頼る。それも賢い人間の生き方、ですかね?」
 ペットであり相棒である籠の中の白いうさぎを優しい目で見つめイリスは仕事を再開する。
「貴女のお披露目と行きましょうか。進化し続ける為に――ね、アンサー?」
 仮想空間の中、それはキメラを片足で踏みつけながら空を仰いでいた。
 幻想の空はいつでも蒼い。白銀の装甲を纏った少女は銀色の髪を風に靡かせ指にこびりついた血を掃う。
 イリスはその様子をモニター越しに眺め眺め、静かにメールを書き始めるのであった。

●参加者一覧

神撫(gb0167
27歳・♂・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
牧野・和輝(gc4042
26歳・♂・JG
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

●再会
 仮想空間内部に降り立ったヘイル(gc4085)。彼が真っ先に確認したのは自己の同一性であった。
 幻の世界に居る自分、現実の世界に居る自分‥‥その意識に相違が無いと理解し、彼は感嘆の息を吐く。
 自らの掌を何度か握り締めつつ彼が目線を向けた先、イリスとレベッカ・マーエン(gb4204)が今回の模擬戦について打ち合わせをしていた。
 今回は傭兵八名にアンサーを加えた九名を二つのチームに分け、模擬戦を行う手筈になっている。
「成程、では相手チームのリーダーを倒した方が勝利という事で‥‥」
「A班はニコラス、B班はあたしがリーダー‥‥というか、勝利条件になる。分け方は‥‥」
 そんな二人の横、話を聞いているのか居ないのか棒立ち状態のアンサーの姿が。ヘイルはそこへ近づき、まずイリスに声をかける。
「傭兵のヘイルだ。以後よろしくな」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
 握手を交わし、次に彼がそれを求めたのはアンサーだった。しかし彼女はきょとんとするばかりで手を取ろうとしない。
「‥‥これは握手と言ってな。親愛の情を示す挨拶だよ。覚えておくと良い」
 先程の二人の握手を思い出したのか、ぎこちなくアンサーも手を握る。一応握手は成立した様子だ。
「お久しぶりですね、イリスさん」
「‥‥お久しぶりです。相変わらずですね‥‥ナイトキラー」
 イリスに背後から抱きつく望月 美汐(gb6693)。不意打ちにイリスは戸惑っている。
「これがイリスさんの『答え』なんですね‥‥。育てていきましょう。ちゃんと届くように、ね」
 握手状態のまま中々手を離そうとしないアンサーを見やり、美汐が微笑む。そこへ和泉 恭也(gc3978)が近づき、同じくアンサーを見て言った。
「此処までの集大成といった感じですね。色々あったみたいですけど、無理はしていませんか?」
「え、ええ。これも皆さんのお陰です」
 以前と変わらぬ様子の一同、そして手を放さないアンサーに苦戦するヘイルを遠巻きに神撫(gb0167)は眺めていた。
「【EBA−00 アンサー】か‥‥。イリスなりの回答ってところか」
 何かが変わった訳ではないが、イリスの表情は以前より力に満ちているように見える。何か吹っ切れたのだろうか‥‥と、男は一人思案する。
 こうして挨拶もそこそこに模擬戦に向け班分けが行われる事になった。
 二つの班に分かれ、彼らは広場で対峙する。ぼんやりした様子のアンサーに目的を指示しているのは橘川 海(gb4179)だ。
「連携ってね、目的を同じにする人と、自然に生まれるものなんだよっ?」
 返事が無いので理解しているのか怪しいが、それでも海はアンサーの目を見て語りかけ続ける。
 機械を機械と思わず想いを込めて接する海。その指先が銀の髪に触れてもアンサーは静かに瞬きを繰り返すだけだ。
「イリスさん、アンサーへの指示をお願いしますね。リーダーユニットへ近づく物を迎撃、オフェンスはアンサー、サポートは私がします」
 美汐の声に既に安全な場所へ避難したイリスから声だけの返事が届く。準備万端な様子の中、ニコラス・福山(gc4423)は背後からアンサーを見ていた。
 家出娘イリスの事よりも今はアンサーの方が気になる相手。アンサーに興味津々な様子だ。
「‥‥こんなちんまい娘で大丈夫か? 強くなさそうだが」
 まあやってみれば分る事だ、と頷いて武器を構える。その隣では静かに様子を窺う牧野・和輝(gc4042)の姿が。
 頭を使うのは苦手な彼は先程から静観中。いよいよ模擬戦が開始する事になり、無言で弓を構えた。

●模擬戦
 戦いが始まり、それぞれの前衛が動き出した。
 和輝の放つ弓を斧で弾き、神撫が正面へ。ヘイルは回り込むように進行する。
 レベッカをリーダーとするB班の二人はA班リーダーのニコラスを倒すのが目的となる。
 走るヘイルの正面、アンサーがナイフを両手に構え迎撃に向かってくる。
 ヘイルはアンサーの攻撃を槍で受け流し前進。そこへすかさず駆けつけた海が妨害に入る。
「こっちは任せてっ!」
 海はヘイルの攻撃をいなす様にして対処、足を止める。そこへ和輝の矢が飛来し、続けてニコラスがエネルギーキャノンMk−IIを構える。
「‥‥こいつはあたると痛いぞ」
 小柄な体躯に似合わぬ大型の超機械から放たれる閃光は強烈だ。和輝とニコラスの攻撃に加え海の妨害があってヘイルは攻めに転じられない。
「さぁ、行きましょうかアンサー。今までのデータがあるなら私の動きも少しは分かりますよね?」
 アンサーと共に攻めに転じたのは美汐だ。行く先にはインフェルノを携えた神撫が立ち塞がる。
 レベッカの練成強化を受けた神撫は重い一撃を繰り出す。大振りな攻撃、それをあえて彼が繰り出したのには意図があった。
 当たれば大ダメージ必至の攻撃、しかしアンサーは顔色を変えずそこへ飛び込む。スライディング気味に脇を抜け、そのままレベッカへ向かっていくのだ。
 あえて大振りに放ち、見切れるかを試した神撫。とは言え容易に抜けられる筈ではないが――。
「アンサー、タイミングを合わせて‥‥ちょっと!?」
 神撫と交戦する美汐に見向きもせずアンサーはレベッカへ迫る。
「さて、まずは小手調べといったところでしょうか」
 レベッカの護衛についていた恭也が間に入り銃を構える。レベッカと共に迫るアンサーを迎撃するが、攻撃を防ぐ気配もない。
「無理な突出は厳禁ですよ?」
 繰り出されるナイフを恭也が盾で防ぐ。レベッカが練成弱体を施した所へ恭也が至近距離で銃を放つが、アンサーは怯まず前進。
「それ以上踏み込めば‥‥死にますよ?」
 キャンサーを構える恭也を盾の上から強引に突き飛ばし、ナイフを振り上げるアンサー。
 狙われたレベッカが盾を構える――より早く、背後から伸びた神撫の腕がアンサーを捉えた。そのまま組み伏せられ、身動きが取れなくなってしまう。
「うーん、これは‥‥」
 もがくアンサーに何とも言えない傭兵達の視線が注がれる。イリスが駆け寄り、一度目の模擬戦は中断となった。

 それから組み合わせを変え、何度か模擬戦を繰り返してみたのだが――。

「もう少し、連携を何とか出来ないのか‥‥?」
 冷や汗を流す和輝の前、アンサーは正座して小首を傾げている。
 目的がリーダーの撃破という事は理解している様子なのだが、『それ以外』がまるで分っていない。
 突っ込みすぎるか、リーダーの傍から動かないかの二択‥‥。アンサーが居る方が戦力的には有利なはずが、劣勢に陥ってしまう。
「イリスはアンサーをどういう方向に育てたいのかな?」
「そ、それは‥‥」
 神撫の一言でイリスは頭を抱えてしまう。男は苦笑し言葉を続ける。
「一対一での戦闘力は中々だと思うけど‥‥特に交戦記録がある相手の動きには良い反応だ」
「過去の記録から反映出来る部分は良いのですが、やはり考えて行動するのが‥‥」
 イリスはアンサーに命令するのを極力さけていた。
 過去のEBが行ったような連携行動、それもプログラムすれば簡単だ。しかし自分で考えて行うのはまだ難しいのだ。
「今回の模擬戦で、少しは理解してくれたと思いたいのですが」
 少女の視線の先、アンサーは正座状態で目をぱちくりさせている。聞いているのかは誰にもわからない。
 兎に角今はやってみるしかないと模擬戦が再開された。誰にも結果はわからない。全て手探りで進むしかないのだから。

●課題
「状況に応じて蓄積したデータをシステム内でシミュレート、結果を元に最適な行動を提示しサポートする人工知能を目指すか。とはいえまだ多くを学ぶ必要があるか」
 広場にあるベンチに腰掛けるイリスの隣、腕を組んで立つレベッカが言った。
 集団での模擬戦が進展せず、今アンサーは神撫と徒手空拳での模擬戦をしている所だ。
 身体能力では人間を遥かに凌駕する筈のアンサーが神撫に転ばされているのを見ると、イリスは何とも言えない気持ちになる。
「ま、まあ今回は課題が明確になって良かったとします‥‥」
「やって見せ、言って聞かせて、させて見て、褒めてやらねば人は動かじ――ですよ」
 アンサーとの組み手を終え、休みに来た美汐がイリスの頭を撫でながら言った。続け、ニコラスが白衣のポケットに手を入れながら眉を潜める。
「自立思考ねぇ‥‥。やはり言語野、あー会話が出来ないとな。感情とかはあるのか?」
「感情は無いと思います。私がそれを感じられないだけかもしれませんが」
 無表情に戦うアンサーを見ていると、どうしても感情と呼べる物は感じ取れない。今のままでは『自立思考』には程遠いだろう。
「会話は何とか出来るようにしたい所ですが‥‥ボイスの設定もありますので」
「課題は山積み、か。どうせだから羽でもつけて飛ばしてみたらどうだ。翼のついた敵なんぞ今時珍しくもないだろ」
 悪戯な笑みを浮かべイリスに語りかけるニコラス。真剣に翼についてイリスが考慮する一方、アンサーは地面の上に転がっていた。
「アンサーちゃん、やっぱりフェイントに弱いですね‥‥」
「挙動に対する反応が鋭いだけに面白い程引っかかっているな」
 アンサーを助け起こす海の隣、ヘイルがアンサーの欠点を語る。どうしても彼女の動きは直線的――機械的なのだ。
 自身の性能に依存したその戦い方は人間の持つ戦略には通用しない。力が強く身のこなしが素早いだけでは不十分だろう。
 彼らはアンサーに手取り足取り動きについて解説する。言葉が通じているかさえ不明だが、根気強く教えるしかない。
「まぁ人間と同じですよね。経験を重ねて、ゆっくりと魂を持った人になっていくのでしょう」
 恭也の言葉にヘイルはアンサーを見つめる。
 仮想空間にある意志と身体、それだけを見れば自分達とアンサーは変わらない‥‥そう思う。違いがあるとすれば、それは――。
「もう一度模擬戦をやらせてみたいそうだ。準備するぞ」
 近づいてきた和輝の言葉に頷き、準備を始める。何度目かの模擬戦、しかしアンサーに『魂』と呼べる物が宿る気配は微塵も見えなかった。

●反省会
「う〜ん、やっぱりあそこが敗因でしょうか?」
「‥‥だな。アンサーが邪魔でエネルギーガンが撃てなかったし」
 美汐の声にレベッカが溜息交じりに言う。模擬戦が終わり、一同は今日の纏めに入っていた。
「幸い時間はあります。一つ一つ経験していきましょう」
 正座するアンサーの頭を撫でる恭也。彼の言う通り、まだアンサーの教育は始まったばかりだ。今後好転して行けば良いのだが。
「父の研究に人とマシンとAIの三者の連携の基礎理論があってな。それには0条『人類に危害が及ぶのを見過ごしてはならない。これは1条に優先する』を含むロボット三原則をベースにした倫理思考を持たせる事から始まっている」
「それでフランケンシュタイン・コンプレックスが解決出来るなら、取り入れる価値はありそうですが、私はアンサーを‥‥」
 レベッカとイリスが何やら難しい話をしている横で海はアンサーの髪形を自分と同じにして笑っていた。
「えへ、でーきたっ♪」
 髪を結ぶ黒いリボンを触り、アンサーは首を傾げる。
「ノイズじゃないよ? 不要だからってデータ消したら、ダメだからねっ?」
 その言葉を理解したのかは不明だが、アンサーはリボンを解こうとはしなかった。
「アンサーちゃんは、能力者の甘さを殺すことで、本物の戦場に立つ能力者を生かさないといけないの」
 それはアンサーの将来に待つ辛い役割。もしかしたら心が無い方が楽なのかもしれない。
 しかし感情を知る事は強さにも繋がる。いつかそれが苦痛になると知るからこそ、海は心を与えたいと思った。
「そういえば『彼女』に名前は無いのか? あの躯体の名前では無く、思考している意思の『彼女』だ」
「それも『アンサー』です。躯体はバージョンアップすれば名前も変わるでしょうが」
 質問をしたヘイルは大人しいアンサーの様子を見て続ける。
「意識の芽生えというのは自己と他の明確な区別からだろうな。我思う、の『我』を教えてやるべきだと思うが‥‥」
 彼女がその名をただの記号ではないと理解出来るかどうか、それも今後次第だろう。
「最後に問いましょう。此処までの道程に後悔はありませんか? 行く道への戸惑いは?」
 恭也はイリスの隣に立ち、瞳を見て問いかける。少女は頷き、微笑んだ。
「自分で決めた道です。是非も無い」
「まぁ、行くと決めたのなら手伝うだけですけどね。貴方がそうであるように自分でそう決めましたから」
 貴方達二人と友達になりたいと思うから‥‥。恭也の言葉にイリスは少し驚き、それから感謝の言葉を返した。
「アンサー、少しずつでいい、おまえの事を教えてくれ。少しずつでいい、あたし達の事を知ってくれ」
 レベッカの言葉にアンサーは何も答えなかった。直後、美汐がアンサーとイリスを纏めて抱きしめる。
「お疲れ様。次を期待していますよ♪」
「こ、こちらこそ‥‥というか、貴女のそれは何とかならないんですか?」
 顔を赤らめるイリス。賑やかな様子を眺め、ニコラスが煙草を手に取ったその時だった。
「煙草は‥‥やめておいた方がいいぞ」
 隣に立った和輝の助言にニコラスは首を傾げる。和輝もまた、煙草が吸いたい様子で遠く空を眺めていた。
「何か問題でもあるのか?」
「問題というか‥‥まあ、問題だな」
 二人がそうしてたそがれる一方、イリスは神撫に家出の件を静かに諭されていた。アンサーはその間もずっと正座を続けていた。

 彼らの前には未開の道。誰も知らない困難が待ち受けている。
 少女は進む事を望む。例え物語の終着、夢の終わりが安息とは程遠かったとしても、今は――。