タイトル:【竜宮LP】幻獣の塒マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/28 08:16

●オープニング本文


 ――人が闇を恐れるのは、そこに何かが潜んでいると想像するからである。

 人の体内を走る血管の様に、『そこ』の内部は入り組んでいた。
 四方八方に広がる通路は薄暗く、続く道の先は暗闇しか見えず、人の本能に根付く闇への恐怖を目覚めさせる。
 時折、遠くから届く爆発音と振動が、君達の不安を掻き立てる。
 その薄暗がりの中、白衣を身に纏った少年が酷薄な笑みを浮かべていた。
 白衣を翻し振り返る少年の視線の先には、巨大なキメラプラントが広がる。

「さぁ‥‥歓迎してあげるよ。僕の可愛いこの子たちがねぇ」

 ――だが、闇を恐れてはいけない。例えそこに何が潜んでいようとも。

●紫電の獣
「すまんなーカシェル君、これも大人の事情なんだ。俺は君達のチームを放置して先に進むよ、っと」
 竜宮城内部での戦いが本格的に始まり、各地で敵勢力との戦闘が繰り広げられる中デューイ・グラジオラスは銃を手に小さく呟いた。
 突入チームは幾つかに分かれ、今はそれぞれの目標に向かって進撃しているはずだ。
 今回の竜宮攻城戦に後輩の傭兵を誘った彼もまた、一つの任務を帯びてこの地に降り立ったのである。
「庶務五課、環境対策室‥‥ねぇ」
 小さくぼやき男は思案する。今回彼に言い渡された仕事は別部隊の護衛――及びその突破口を切り開く事だ。
「またわけのわからん所からの依頼だな。人の事は言えないが、あんたも良くこんな胡散臭い仕事を選んだもんだな?」
 男は近くに居た傭兵に声をかけた。ここに至るまで既に何度かキメラとの戦闘を突破している彼らだが、お目当ての場所はまだ遠いように思える。
 奥に進めば進む程警備は厳しくなり、竜宮という幻想的な名からは程遠い無機質な世界へと変貌していく。
「ま、俺達の仕事は向こうのチームのお膳立てだ。胡散臭い仕事だが、やる事は戦うだけだから気楽なもんだよなぁ」
 男は傭兵に向かって軽く肩を竦めて見せる。こうしてデューイを含んだ傭兵達の部隊と別働隊は共に竜宮の奥深くへと進んで行った。
 明らかに違和感を感じとれる程景色が一変したのはそれから暫く進んでからの事だった。
 狭い通路から開けた場所へ出ると、そこが他の通路からも続いている合流地点である事が分る。
 どこかの浸水の影響なのか、その広場には海水が流れ込んでいた。くるぶし程度まで溜まった水を爪先で蹴り、デューイは足を止める。
「‥‥どうやら当たりかね。ちょっとヤバそうなのがいるぜ」
 足を止めた傭兵達の前、深部へ続くたった一つの扉の前に腰を落とす大型の獣の姿があった。
 一見すると鹿のようにも馬のようにも見える、しかし明らかに他のキメラとは違う鋭い雰囲気を持つ敵――。それは傭兵達を捉えると静かに立ち上がり嘶いた。
 黄金の毛並みを持つ獣はその角から紫電を迸らせる。轟音と衝撃が広がる中、デューイは銃を抜いて声を上げた。
「こいつの相手は俺達の仕事だ! あんたらはさっさと先に行けっ!」
 同じく武器を構える傭兵達の横を別働隊が先へ進んでいく。デューイは苦笑を浮かべ、傭兵の一人へと声をかけた。
「俺達の仕事はどうやらこいつのおもりになりそうだな。ま、あんたもこっちの班になったのが運の尽きだと思って、付き合ってくれや」
 防衛のキメラは一体ではない。そのどれもが恐らくは危険なキメラだろう。
「微妙に見覚えのある奴が混じってるが‥‥まあいい。仕事だからな、やれと言われればやるだけさ」
 例え相手がどれだけ強力だったとしても絶望はしない。己の力量と相談し――ただ、強敵へと挑むだけだ。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
福山 珠洲(gc4526
21歳・♀・FT
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA

●リプレイ本文


●見敵
 彼らの役割は足止め、そして殲滅である。別働隊が先に進んだ今、やるべき事は一つだ。
 別働隊が進んだ扉へと敵の注意が向いた瞬間、前に出たのはキリル・シューキン(gb2765)だ。彼はSMGを構え、敵陣目掛けて掃射する。
「ターミネーター‥‥さて、初めて使うがどんなものか‥‥ッ!」
 キリルの制圧射撃に合わせ和泉譜琶(gc1967)も同じく矢を放つ。二人の作った弾幕は敵の動きを阻害し味方の初動を助ける事に成功した。
 短い打ち合わせにより彼らはそれぞれが戦うべき敵へと走り出した。しかし先の制圧射撃をかわした敵が一体。
 同時に重ねるように放った制圧射撃故回避は至難。しかし黒翼の天使はひらりと身をかわし既に反撃の態勢に入っていた。
 狙われたのはヒューイ・焔(ga8434)。矢は素早く放たれ彼を狙うが、事前に警戒していた遠石 一千風(ga3970)が妨害に入る。
「不気味な竜宮城で厳しい歓迎ね」
 放たれた矢を刀で弾く一千風。攻撃はヒューイには及ばなかった。
「おっと、悪いな」
「私達はあの天使キメラを。それにしてもこの足下は――」
 踝程度までに溜まった海水に覆われた戦場。跳ねる飛沫に一握の不安が残る。
 二人がメサイアへと向かった頃、初動で動きを阻害されたバリアロドスへリュドレイク(ga8720)と加賀・忍(gb7519)が接近していた。
 スキルを発動し急接近した二人がそれぞれ斬撃を放つが、手応えは酷く鈍い。
「‥‥硬いわね」
「しかし、皆さんの邪魔をさせるわけには」
 動きの止まった巨人へ連続で攻撃を続けるがやはり致命傷には程遠い。二人は一度距離を置き、ヒット&アウェイを心がける。
 しかしここに居るのは大型のキメラだけではない。浮遊するエイキメラがそれぞれ傭兵へと襲いかかろうと迫ってくる。それを切り払ったのは福山 珠洲(gc4526)とエシック・ランカスター(gc4778)だ。
「ただ浮いているだけなんて、良い的ですよ」
 ソニックブームを放つ珠洲の隣、エイを両断しながらエシックは周囲を見渡す。
「手数は限られていますからうまく動かないと。しかしこれは‥‥」
 見ればエイキメラは想定していたよりも随分と少ない。どうやら別部隊の陽動が成功した影響で配置数が少ないようだ。
 これならば直ぐに処理して味方を加勢する事が出来るだろう。二人は果敢にエイを迎撃する。
 それぞれが戦闘する中、中心で麒麟は静かに敵を見据えていた。幻獣と対峙するのは須佐 武流(ga1461)である。
「お前の相手は――この俺だ!」
 武流と麒麟は睨み合いを終え互いに走り出す。竜宮奥深くでまた一つ、傭兵達の戦いが幕を開けた。

●雷電
「今回はただで倒れる敵さんじゃないと思うので、援護します! 那月さん、サクッといっちゃってください!」
「ありがとう、助かる! 皆、頼むぞ!」
 譜琶の援護射撃を受けながら那月 ケイ(gc4469)がメサイアに練成弱体を施し、同時に味方を強化する。
「おぉ、ちょっとかっこいいぞ那月君」
 隣に居たデューイが他人事の様に笑うとケイは冷や汗を流しながら苦笑した。
「今日の俺は、とびきり機嫌が悪いぞ!」
 ヒューイは番天印で天使を攻撃するが、弾丸は命中しない。軽やかに回避を続け矢を構え直すキメラへ一千風が接近する。
 懐から繰り出す攻撃、しかしそれも当たらない。一歩を身を引き天使は一千風へ矢を向ける。
「早い‥‥っ」
 矢には洗脳の効果がある。絶対に当たるわけには行かない攻撃だ。
 一千風は刃を軸に逆立ちするようにして至近距離で放たれた矢を回避する。空白から刃を抜き、縦に回転し天使を蹴り飛ばす。
 後退しながら天使は次の矢を構える。今度は避けられないと歯を食いしばる一千風、そこへ譜琶の矢が飛来する。
 矢と矢は衝突。譜琶の矢は力負けするも軌道を逸らすに十分、一千風は間一髪身をかわす。
「今です! 袋叩きなのですー!」
 譜琶の合図を受けヒューイは腕輪を付け替え、銃口を天使へ。
「次のは簡単にかわさせねぇぞ。食らえっ!」
 放たれた弾丸は次々に天使を貫いていく。翼を撃たれよろけるメサイアへ駆け寄り、一千風は刃を翻した。
「これなら、どうだっ」
 一瞬で放たれた二つの斬撃が黒翼へ刻まれ、メサイアは弓を落とし、飛沫を上げて倒れるのであった。

 一方巨人と対峙する傭兵達。盾を構える強固な姿は正に不動、三人で攻め続けるも倒すには及ばない。
「‥‥さすがに硬いな。ならばとっておきだ――!」
 キリルは貫通弾を使用しSMGを構える。狙いは巨人の頭部だ。
「人の形をしているなら、自ずと弱い所も人に似る――違うか?」
 彼の狙いは正しかった。いくら攻撃しても効果が見えなかった巨人が初めて銃弾に怯んだのだ。
 キリルの攻撃に合わせ、リュドレイクが巨人を斬り付ける。しかしまだだ。まだ足りない。
 忍は一度巨人に背を向け走り出す。そのまま壁を駆け上がるように蹴り跳躍、巨人の頭を回転しながら強く斬り付けた。
「これでもまだ倒れない‥‥相手にとって不足は無いわね」
 巨人は腕を振り、リュドレイクを弾き飛ばす。続けて両肩から次々に黒い液体を放った。
 液は黒い酸を孕んだ煙へと変貌、傭兵達へ襲い掛かると同時に視界を奪った。次の瞬間、轟く雷鳴――。
 紫電を認識した刹那、電撃が広範囲に放たれていた。傭兵のほぼ全員がその一撃を受け、足が止まってしまう。
「っく、身体が痺れて‥‥」
「リュドレイク!」
 キリルの声に反応するより早くリュドレイクを巨人の拳が襲った。直撃を受け派手に吹き飛び、飛沫を巻き上げた。

 僅かに時を戻した麒麟と武流。二つの影は高速戦闘を続けていた。
 紫電を帯びた麒麟は武流の攻撃をかわし、武流もまた麒麟の攻撃を避け続ける。武流は一人で麒麟の押さえ込みに成功していた。
 麒麟の放つ電撃も角の一撃も、武流の蹴りも互いに決定打には及ばない。海水に足を取られているとは思えない見事な戦いであった。
 だが麒麟とていつまでもそうしているわけには行かない。全身の紫電を角へと集中、バリアロドスの黒煙に合わせて放出したのだ。
 苛烈な一撃は海水を媒介に全体へ広がっていく。武流も例外ではなく、身体の痺れに遅れを取ってしまう。
 刃のような角を振り下ろす攻撃は初めて武流を傷つける。強烈な攻撃に膝を着いてしまいそうな程だ。
「ちょこまかとすばしっこい野郎だな‥‥。身体がまともに動けば‥‥っ」
 続けて攻撃を仕掛ける麒麟、それを妨害したのはヒューイの弾丸だ。メサイアの撃破に成功した彼と一千風が武流の加勢に入る。
「おまたせしました」
 一千風は麒麟へ斬りかかるが素早く身を引かれてしまう。高速で周囲を駆け抜ける麒麟にヒューイの攻撃は当たらない。
「くそ、狙いが上手く‥‥!」
 三人が麒麟と戦う頃、ケイは倒れたリュドレイクへ駆け寄り治療を施していた。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、何とか‥‥少し油断しました」
 治療しつつケイは麒麟へ目を向ける。彼は麒麟が広範囲に電撃を放った時の動きをしっかり確認していた。
 全身の帯電が角に収束、そして一気に放つ――であれば、あの厄介な放電の媒介は角に違いない。
「譜琶さん、角だ! あれを折れば放電を止められる!」
「角ですか? 分りました、えっと‥‥皆さーん!」
 譜琶が両手を振って仲間にサインを送る。治療を終え、ケイもシャドウオーブを構え立ち上がるのであった。

●殲滅
「余所見は、いけませんよッ」
 大斧でエイを叩き斬りエシックが振り返る。雑魚の掃除は粗方終了した所だ。
「この痺れが厄介ですね」
 彼は既に珠洲にキュアを施し、麻痺状態から回復させている。
 自力で麻痺を破っている者も居るが、完全にこれが消えなければ攻勢には移れないだろう。エシックは状況を好転させる為に走る。
 一方珠洲は武器を拳銃に持ち替えていた。強敵が残った今の状況、不用意に動けば仇となる。
 強敵と冷静に己の力量を照らし合わせ行動する事、それは逃避ではなく強さだ。彼女は援護に徹する事を決め、エシックとは別に走りだした。

 巨人と戦う忍とキリル。鈍重な巨人の攻撃を思うようにかわせず苦しむ所へエシックが駆けつけキュアを施す。
「大丈夫ですか? さあ、終りが見えてきました。最後まで確実に。帰還するまでが任務ですよ」
 強固な守りを誇る巨人を前に彼は笑みを浮かべる。攻勢に移る三人の先頭、エシックは巨人に正面から斧を叩き込む。
 彼の攻撃は強固な守りを穿ち、巨人の攻略に光明が差し込んだ。これを機にと三人は一気に畳み掛ける。

 麒麟の放つ電撃は普段の一千風ならかわせた筈。しかし今は思うように動けず苦しい戦いを強いられていた。
「ああっ、でも、まだ‥‥!」
 ケイが麒麟の練成弱体をかけ、自力で痺れから復帰したヒューイと武流が角を折りに向かう。
「無理せず少し休んでな」
「その角‥‥折らせて貰う!」
 二人の猛攻を掻い潜る麒麟。素早さは一向に衰える気配もない。
 動きを止めようと弓を構える譜琶だが、早すぎて当たる気がしない。そこへデューイが横に並び二丁拳銃を構えた。
「イケメン二人、下がれ! 譜琶ちゃんとおじさんが足を止める!」
 ウィンクするデューイに譜琶は苦笑を一つ。二人は一斉に攻撃を放ち麒麟の足止めに掛かる。
 動きが止まった麒麟へ駆け寄る武流。麒麟は角を振り下ろすが、彼はその頭の上に逆立ちしてみせる。
「どうした? 見切られたのが‥‥そんなに驚きか!?」
 そこから二発連続で放った蹴りが見事角を圧し折った。飛び退く武流に続き、ヒューイが番天印を構える。
「避けられるもんなら避けてみやがれ!」
 スキルを使い放たれた強烈な弾丸が怯んだ麒麟を貫く。悲鳴にも似た嘶きは大きなダメージの証拠であった。

 立ち上る黒煙を突き抜け忍は巨人の足を斬り付ける。スキルを使い一撃離脱を繰り返す彼女に巨人は翻弄されていた。
 キリルは頭部を狙いSMGの弾丸を連射する。それに合わせ煙を掻い潜り、回復したリュドレイクが鬼蛍を翻す。
「防御には自信がありそうですが、この一撃なら――」
 刃が煌き、巨人は防御もままならない。膝を着いた巨人へエシックが竜斬斧を下段から大きく繰り出す。
 一撃では倒れない。続けて彼は大斧を一発、二発と叩き込む。強烈な猛攻に巨人の盾は拉げ、機械の装甲は崩れていく。だがまだ倒れない。
「ならば私は――」
 迅雷で接近し砕けた装甲に刃を突き刺し、忍は目を瞑る。
「――踏み躙るのみ」
 円を描く様に回転させた斬撃が巨人を切り裂く。
「いい経験をさせてもらったわ。これでまた‥‥私は強くなる」
 背を向け刃を収めると同時に巨体は水飛沫を上げて倒れた。降り注ぐ僅かな雨は彼女達に決着を告げていた。

 一方、角を折られた麒麟は全身に紫電を纏い突撃を開始していた。狙いは一千風だ。
 正に電光石火の一撃はよろけた彼女へ真っ直ぐに迫る。その時珠洲が銃を放ちながら彼女に駆け寄り、進路を逸らして盾で攻撃を防いだ。
 後方から全体を見ていた珠洲だから直ぐに反応出来た。同時に敵の狙いも分っている。
「避けろ! 奴の狙いは後衛だ!」
 進路を逸らせたのも、麒麟にとって一千風は進路上に居ただけだと気付いたからだ。珠洲の声を受け、しかし譜琶にはどうにもならない。
「譜琶さん、危ないっ!」
 閃光を前に飛び出したのはケイだ。譜琶を抱き、そのまま跳ぶ様に回避を計る。
「那月君!」
 轟音の後、デューイが叫ぶ。見れば二人とも何とか無事だったようだ。
「な、那月さん‥‥ありがとうございます」
「いてて、こいつがなかったら危なかったな‥‥」
 焼け付いた盾を下ろしながらケイが笑う。二人は無事だが麒麟もまた健在だ。
「戻ってくるぞ!」
 Uターンして迫る麒麟。珠洲が声を上げるとヒューイと武流が並んで待ち構える。
 紫電を迸らせながら迫る麒麟。二人は同時に走り出し、そして擦れ違った。互いに足を止め、そして息を吐く。
「‥‥厄介な依頼だったよ」
「土産もねぇ竜宮城なんて御免だぜ。尤も――」
 剣についた血を払い、ヒューイは刃を収める。武流は振り返り、倒れる麒麟を眺め言葉を続ける。
「竜宮城自体、人の入っていいものじゃねぇのかもな」
 戦場に静寂が戻った。全ての敵を殲滅し、傭兵達は漸く一息。一先ずの任務が終了したのであった。

●任務
 それから彼らは付近のキメラを掃討。先に進んだ別働隊の安全を確保し、彼らの帰りを待つ事になった。
 一本道である以上別働隊を追うにはここを通る必要がある。ここに残るのが得策だろう。
 それぞれ疲労や怪我もあったが、ケイの治療もあり十分に休息は取れた。それぞれ次の戦いに備える準備は万全だろう。
「いやあ、重傷者や死人が出なくて本当に良かった」
 ほぼろくに働いていないデューイが笑いながらそんな事を言う。
「さて、悪いが俺は次の仕事に向かうぜ。安全だとは言い切れないが、この辺の敵は片付いた。後はあんたらに任せるよ」
 すっかり海水で湿気た煙草に眉を潜め、男は背を向ける。数歩進み、それから振り返って言った。
「また別の所で会ったら宜しくな。どうせこのまま竜宮攻城の別作戦に参加する奴もいるんだろ?」
 ヒラヒラと手を振り男は去っていく。傭兵達は互いに顔を見合わせ、飄々としたその背中に苦笑を浮かべるのであった。

 竜宮での戦いはまだ続く。これはそのほんの一幕に過ぎないのだから――。