タイトル:知識欲の代価マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/09 13:51

●オープニング本文


 初めまして、傭兵殿。
 顔も見せず、メールでの依頼で失礼します。こちらにも色々と事情があるのでご理解頂けると幸いです。
 さて、今回能力者の皆様に依頼したい用件というのは、ULTで製作中の能力者用訓練シミュレータのテストとなります。
 既に実戦を経験している能力者からすれば退屈な内容になると思いますが‥‥これもビジネスと割り切って下さい。私個人としても、ビジネスでなければ外部の傭兵にテストを任せる‥‥等と言う事は、絶対に有り得ない事なのですから。
 ‥‥では、本題に入りましょう。今回のテストは比較的難易度の低い実戦形式の内容となっております。具体的には既存データから構築した低能力のキメラデータと戦闘を行い、その完成度を問うと言う事になります。
 今回のシミュレータの内容は比較的戦闘経験の浅い能力者向けとなっておりますので、それに適した戦闘力の能力者であれば無難です。しかし全滅してテストそのものが失敗となっては話になりません。そうした状況を想定し、ある程度熟練した能力者に関しても募集をかけたいと考えています。
 依頼内容はただ仮想キメラの撃退だけですので、噂に名高い能力者殿であればまるで問題の無い事かと‥‥。良いお返事と結果に期待しています。

 ああ、それとこれはまるで実験内容とは関係の無い事で蛇足なのですが‥‥今回のテストには私も実際にシミュレータにて皆さんに同行し、装置内部にて自分の目や耳で状況を確認、記録したいと考えています。当然、外部の人間だけにテストさせるのでは不安要素が残りますから、私としては最大限の譲歩‥‥いえ、これは不必要な文章ですね。
 今回の依頼は依頼元、依頼人、実際にテストするシミュレータに関しても全て秘匿情報とさせて頂きます。よってそれらに対し説明をする事はありませんし、返答する義務もありません。これはあくまでビジネス‥‥。一流の傭兵は依頼内容以外には口も手も出さない物でしょう?
 尚、私は実際に皆様の前に顔を出す事はせず、シミュレータ内部でも仮想のアバターを使用させて頂きます。当たり前ですが戦闘能力は皆無ですので、キメラに対して何かが出来る事はありません。が‥‥何の問題も無い事でしょう? 能力者にとってたかが科学者一人守りながら戦う事など、造作も無い筈なのですから。

 追記:仮に、まず有り得ない事ですが何らかの偶然で私がキメラにやられてしまったとしても、別に問題はありません。ただすごく痛いだけで、ただ皆様を軽蔑するだけですから。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
牧野・和輝(gc4042
26歳・♂・JG
エメルト・ヴェンツェル(gc4185
25歳・♂・DF

●リプレイ本文

●シミュレータ起動
 仮想空間に広がっていた景色に黒瀬 レオ(gb9668)は複雑な様子だった。人気の無い廃墟‥‥そして実験。レオは思い出したくない過去を思い出す。エメルト・ヴェンツェル(gc4185)はそんなレオの様子を案じつつ、背後からそっと声をかけた。
「今日は宜しくお願いします、兵舎長――っと、どうかしましたか?」
「エメルトさん、その呼び方は恥ずかしいのでレオと呼んで欲しいと‥‥」
「そうでしたね、レオさん。顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
 心配そうなエメルトに勉めて明るく対応するレオだったが、思考を止めずには居られなかった。
(「これから傭兵育成の役に立つものならば、喜んで‥‥なんだけど」)
 シミュレーション、そして実験――廃墟。レオにとってはあまり歓迎出来ないシチュエーションだ。息苦しさにも似た居心地の悪さを感じる。
「‥‥本当に大丈夫ですか? もし何かあれば、直ぐに自分に言ってください」
「ありがとう、エメルトさん。でも本当に大丈夫だから」
 二人の背後では次々に仲間達が転送されてくる。それぞれが準備を進める中、一人明るい様子なのは八尾師 命(gb9785)だ。
「今回の依頼者さんは凄くビジネス重視ですね〜。何か理由でもあるのでしょうか〜?」
「自分以外の評価を恐れるのは三流の証なのダー。外部へテスト委託を迷っている時点で科学者として高が知れているな」
「技術者が自分の作った物に自信を持つのはいいんだけど‥‥。あのメールの文面も、あまり気持ちの良い内容とは言えなかったからね」
 興味津々な様子の命にレベッカ・マーエン(gb4204) と 神撫(gb0167)がそれぞれ応える。どちらにせよ、正体不明の依頼人に対する印象は決して良くはないだろう。
 そこに遅れて依頼人が転送されて来たのは正に噂をすればという流れであった。現れたのは十代くらいの少女で、鬱屈とした瞳で能力者達を眺めている。そうして『何か言いたい事でも?』と言わんばかりに小首を傾げて見せた。
「お、女の子だったんですね〜!」
「え? あ‥‥! え!? いえ、これは‥‥アバターです。後は‥‥わかりますね?」
 命に興味津々に眺められながらも冷静を繕い、大き目のサイズの白衣のポケットに手を突っ込んだ依頼人に歩み寄ったのは夢守 ルキア(gb9436)であった。吟味するように少女のを眺め、無邪気な笑顔で告げる。
「いきなりで悪いけど、シュミレータ内に放置されると困るし、帰る方法を教えてくれる? 馬鹿じゃないなら想定してるでしょ? 『確実な安全』なんて無いって。それはこの場所でも同じコトだよ」
「‥‥随分な言い方ですね能力者。私は依頼人ですよ?」
「『ビジネス』に感情はイラナイ‥‥そうでしょ? 安心して、仕事はきっちりこなすからサ」
 言葉として明らかにしたのはルキアだけだったが、他の仲間達も彼女を信じ切れずにいるのは同じである。正体不明の依頼人――疑うなと言う方が無理な相談である。ルキアの発言は決して的外れではなく、それが理解出来るからこそ依頼人はあえて彼女の要望に従った。
 依頼人は一同の目の前でキメラ殲滅後シミュレータが自動終了するように設定し、その場でそれぞれの講座に報酬を振り込んで見せる。それぞれが念入りに確認を終えると、依頼人は話を進めた。
「これで良いですか? さあ、テストを開始しましょうか。私は皆さんに代価を支払っているのです。後は‥‥わかりますね?」
 口癖なのか、ビシっと指差しながら依頼人は語るのだが外見の所為でいまいち締まらない。何とも微妙な空気の中、シミュレーションは開始されようとしていた。

●テスト開始
 戦闘エリアである廃墟のストリートを眺め、ロジー・ビィ(ga1031)は開始前に状況を確認する。乾いた風が吹きぬけ、ロジーの美しい銀髪が靡いた。
「道路が所々陥没しているのが気になりますが‥‥戦闘に大きく支障をきたす程でもありませんわね」
「本当に仮想空間かと疑いたくなるクオリティですね〜。まるで本物みたいですよ〜」
 無邪気に感激している命にロジーも釣られて微笑んでしまう。そんな二人に並び、風に吹かれながらルキアが呟く。
「何事もなければいいんだケドね。あの子も何しでかすかワカンナイし‥‥。さーて、どうなるかなー?」
 依頼人は現在は後方に待機している物の、テストが開始すればどう動くかは見当もつかない。その場合はそれなりの対応も必要とされるかもしれない――。ルキアはあらかじめ状況を想定する。
 暫くするとテスト開始を告げるアラートが鳴り響いた。空中に蛍光色の立体文字が浮かび上がり、『Caution』の羅列を作る。それが消えると正面、40メートル程離れた場所にキメラが一斉に現れた。
「――それでは、テスト開始。存分にその力を見せてください、能力者」
 依頼人はあくまでも上から目線である。それぞれが武器を構えたり覚醒を行う中、ロジーは挑発的に笑って見せた。
「あら、舐められては困りましてよ? 子供相手に少々大人気ないけど――ここは一つ、確りこなしてみせましょうか」
 ロジーは先陣を切り、走り出す。それに続くのは神撫だ。二人は素早くキメラまで駆け寄ると先制攻撃を仕掛ける。それぞれの刃がキメラを斬りつけ、悲鳴を上げさせる。その手応えはまるで本物さながらだ。
「あたしと神撫で注意を引き付けますわ。この隙に一体ずつ確実に倒して行きましょう」
「二人で3体か‥‥。ちょっときついが、やってやるさ。行きましょう、ロジーさん」
 二人がキメラ三体の注意を引き付けている隙にルキアが走り出し、フリーになっている一体に電波増幅を使用した一撃を叩き込んだ。反撃に繰り出された尾を盾でいなし、着かず離れずの位置をキープする。
 戦いながらもルキアは覚醒の気配を表に出さず、手の内を隠している様子である。それはこの依頼に対する疑念から来る行動だろう。余力を残しつつ立ち振る舞うルキアに迫るキメラ、それを背後から放たれた牧野・和輝(gc4042) の矢が捉えた。
「――いい速攻だ。援護する‥‥ん、如何した?」
 と、弓を構える和輝に依頼人が寄って来た。依頼人はじーっと和輝を見つめると、藪から棒に告げた。
「能力者、貴方‥‥。こんな遠距離から攻撃しては無傷で終わってしまうではないですか」
 当然だがそれがスナイパーの戦い方である。しかし依頼人は真顔でじっと和輝を見つめ続けた。嫌な汗をかきながらも和輝は再び弓を構える。しかし依頼人は和輝の片腕にくっつき、あろう事か攻撃を妨害して来たのだ。
「この、脳味噌ガキが‥‥っ! 大人しくしてろ!」
「あのキメラに遠距離攻撃に対処する能力はないんです! ‥‥後はわかりますね!?」
「わからんしあんたの事は如何でもいい‥‥っ」
 腕にくっついた依頼人を振りほどこうと和輝は腕を振り回すが、必死にくっついて中々離れない。シュールなその様子にレベッカ・マーエン(gb4204) は呆れた様子だ。
「‥‥和輝が捕まったのダー。まあ、今の内に敵の数を減らしておこう」
「だ、大丈夫でしょうか〜? えっと‥‥和輝様も依頼人様も‥‥」
「前衛を邪魔されるよりはいくらかマシなのダー‥‥。レオ! エメルト!」
 レベッカの合図で二人が走り出した。それぞれの武器にレベッカと命が練成強化を施し、二人の武器が淡く輝き始める。強化された剣を手に二人はロジーと神撫が引き付ける三体を抜け、ルキアがダメージを与えていたキメラへと襲い掛かる。ルキアは横目で二人が向かってくるのを確認し、バックステップしながらキメラの足を撃ち抜いた。
「レオ君、エメルト君――足は止めといたよ」
「はい! エメルトさん、先に仕掛けます! 続いてください!」
 レオは走りながらソニックブームを放ち、その影に続いてキメラへと迫る。ルキアと和輝に弱らされたキメラに真空波が直撃し、続いて連続攻撃が繰り出される。
「――紅蓮衝撃ッ! エメルトさん、止めを!」
 斬り上げから身体を捻り、空中からレオの一撃がキメラの顔を深く斬り付ける。レオの放ったまるで焔のような閃光を突き破り、エメルトが追撃を放つ。両断剣を発動した一撃は、文字通りキメラを真っ二つに切り捨てた。
「まずは一体‥‥!」
「温もりの通うモノとそうでないモノ――その差だね。最前線で命のやりとりしてる僕らに、『データ』が通用する筈がない」
 その頃和輝は漸く依頼人を引っぺがし、取り出した小銃を突きつけていた。目が完全にマジであり、依頼人は小動物のように震えている。
「いい加減にしろ‥‥。さもなくば――撃つぞ」
 和輝の一喝で去っていく小動物。しかし溜息混じりに銃を収める和輝の目に飛び込んできたのは全力疾走で前線へ向かう依頼人の姿であった。眩暈がする状況に和輝は慌てて依頼人を追いかける。
「ロジーさん、後ろ!」
 それに気づいた神撫が声を上げる。ロジーは自分の直ぐ後ろにまで迫りつつある少女に気づき、繰り出されたキメラの尾を回避の途中で強引に防御へと切り替え対応する。
「く‥‥っ! 全く、世話が焼けますわ――!」
 鈍い衝撃と共に腕に痛みが走った。再び繰り出されるキメラの爪――それをロジーは小太刀の一刀で受け流し、流し斬りでカウンターを決める。神撫はソニックブームを放ち、キメラを側面から攻撃する。その開けられた大口にロジーは刀を突き刺し、強引に頭部を内側から引き裂いた。
「ロジーさん、大丈夫? どうしてこんなところまで出てきたんだ。戦闘に巻き込まれたいの?」
 二人に駆け寄り、神撫はやや強い口調で少女に言った。ロジーは攻撃を受けきれず腕を負傷してしまっている。傷は決して重い物では無かったが、その滴る血は少女にとっては未体験の『リアル』であった。
「あ‥‥。その、もっと近くで戦闘を見たくて‥‥その‥‥」
 申し訳なさそうに口篭る依頼人。そこに和輝が追いつき、依頼人を羽交い絞めにした。
「このガキ‥‥。縛り上げてやろうか」
「気絶させちゃった方がいいんじゃないカナ? 正直邪魔。きみの安否は依頼外――っと」
 冷めた目で依頼人を見るルキアの背後、残されたキメラの一体が襲い掛かる。しかしルキアはキメラへと銃を向け、素早く銃撃を行った。ギリギリのカウンターに怯むキメラ――。ルキアは冷ややかな笑顔を浮かべる。
「――獲物を狙う攻撃の刹那、防御が甘くなる」
 笑顔の背後、機を見て飛び込んできた神撫が豪破斬撃を発動し、斧を叩き込む。崩れかけの大地が軋む程の一撃にキメラは血飛沫を上げながら動かなくなった。
「ラスト一匹ダー!」
 神撫とルキアは同時に攻撃し、キメラの足を狙う。キメラが転倒した瞬間、レベッカは電波増幅と練成強化を発動。エネルギーガンが輝き、キメラは派手に吹き飛んだ。瓦礫の山を吹き飛ばしながら倒れたキメラの背後、それを見下ろすレオとエメルトの姿があった。
「皆さん、怪我はないですか?」
 二人が最後の一体に止めを刺し、戻ってくる。ほぼ完全なる勝利であり、大怪我をした者は一人も居ない。レオの優しい笑顔がテストの終了を告げていた。

●ごめんなさい
「依頼人を縛り付けるなんて、酷いではありませ――ヒッ!?」
 終了後、真っ先に声を上げた依頼人。しかしそれは和輝の放った一発の銃弾によって遮られていた。勿論直撃はしていなかったが、弾丸は少女の頬を掠め背後の瓦礫に小気味良い音を響かせた。
「次は頭を狙ってやろう。どんな悲鳴を上げるか楽しみだな‥‥ヲイ?」
「止めはしないけど和輝君、もう『ビジネス』は終了だよ。それ、無駄弾だと思うケドなー」
「自分達の仕事は一般人を守る事です。それを撃つというのは‥‥」
 エメルトとルキアが各々の思考で阻止する中、ロジーの軽傷を治療した命は少女に歩み寄る。
「どうして、あんな危ない事をしてしまったんですか〜?」
「それは‥‥データではなく自分の身体でシミュレータの完成度を確かめたかったくて」
「結果、望むようなデータは取れましたか?」
 優しく諌めるレオの言葉。依頼人はすっかり小さくなってしまう。
「どうしても、良い物を作りたくて‥‥。私には、『これ』しかないんです。私には‥‥自分の研究しか」
「妄執、か。あたしの科学者としての矜持とは全く違うな。次を目指さない科学者に価値は無いのダー」
「確かにそう呼ばれても仕方のない事ですね。私は反省しています。後は‥‥わかりますか?」
 溜息混じりに肩を竦めるレベッカ。命は少女の頭を撫で、優しく諭す。
「仮想空間ならまだしも、現実で危ないことをしたら駄目ですよ〜? ね?」
 少女はこくりと頷き、ぽろりと涙を零した。零れた雫までがリアルに乾いたアスファルトに染み込み、滲んで行く。
「まあ全員無事だったんだし、依頼は大成功‥‥良かったんじゃないかな? でも、迷惑をかけてしまった人にはちゃんと『ごめんなさい』って伝えないとね」
「う、うぅ‥‥っ」
 神撫は微笑み、依頼人の肩を叩く。少しの間戸惑っていた様子だったが、依頼人はゆっくりと立ち上がると和輝とロジー、二人を交互に見やって言った。
「その‥‥ロジー・ビィ。怪我は‥‥現実世界には影響しませんから。その、後はわかりますね?」
「うーん‥‥? ふふ、ごめんなさいね。ちょっとわかりかねますわ」
 悪戯な笑みを浮かべるロジー。依頼人は暫くぷるぷると震えた後、傷ついたロジーの手を取って消え入りそうな声で呟いた。
「守ってくれて、ありがとう。ごめんなさい‥‥」
「――ええ。どういたしまして」
 暖かいロジーの声に依頼人は安堵したように笑顔を浮かべた。そうして振り返り和輝を見つめ――恐怖を思い出したのかロジーの背後に隠れてしまう。
「和輝さん、すっかり怯えられてしまっていますね」
 エメルトが口元に手をあて笑いながら茶化すと仲間達の間で微かに笑顔が広がった。和輝はその中心、特に表情を変えずにお決まりの答えを告げる。
「――如何でもいい」
「つ、次は遠距離攻撃にも対応したキメラを作って、貴方を撃退して見せます‥‥っ!」
 依頼人が震えた声で言うが、和輝は腕を組んだまま静かに目を閉じており無視の様相である。依頼人は悔しげに和輝を一瞥し、言った。
「‥‥でも、迷惑をかけて‥‥。本当に――」
 テストが終了し十分すぎる程の時間が経過してしまっていた。自動設定でシミュレータが停止し、現実世界へと引き戻されていく。結局生意気な依頼人の最後の言葉は――わからず終いだった。