●オープニング本文

「これは‥‥一体どういう事だ、キング！？」
　最前線にあった要塞の陥落から全ての崩壊が始まった。
　UPC軍は要塞から民間人を解放した後、同様にバグア支配下にあった人々を続々と開放しつつあった。
　既に更に二つの拠点が落とされ、残り僅かとなった兵力を集めて最後の要塞に閉じこもったはいいものの、全ての終わりは時間の問題に思えた。
「既にバグア本星は撤退を決定しています。我々に送られる補給もありません。元より孤軍奮闘、無謀な戦いだったのよ」
「だからこそ人間共を使い兵力を蓄えねばならぬこの大事な時期に‥‥キング！　貴様は何をしていた！？」
　キングと呼ばれた長髪の強化人間の前、異形の怪物が腕を組んで立っていた。
　その身体は赤い結晶で構築されており、形状はまるで竜のようである。結晶の内側では鼓動に合わせ炎のような光が脈打っている。
「なんとか敵を排除しようとしたのですが、兵力差が大きく‥‥」
「兵力差など承知の上だ！　それでも奴らが攻め切れずにいたのはこちらに人質がいたからだろう！　貴様の失態のツケは大きいぞ、キング！」
「そう言われましても‥‥相手が強いんだから仕方ないでしょう？」
「話には聞いているが‥‥。小癪な人間共め。確かマントと仮面を纏った能力者の集団がいるそうだな」
「UPC軍と連携して動いているようです。非常に戦闘力の高い個体がいくつか混じっている上、同じ人間の形をした強化人間を殺す事に全く躊躇いがありません」
「人間は同族殺しを忌み嫌う。だからこそ人質が有効だったというのに‥‥」
　腕を組み考え込む岩竜。キングは咳払いを一つ、いけしゃあしゃあと進言する。
「ヴルナック様。そろそろ諦めて撤退してはどうかしら？　今ならヴルナック様だけなら逃げられますよ？」
「馬鹿な！　バグアが撤退する等私は認めん！　これまでの長きに渡る戦を全て勝利で飾ってきたというのだぞ！」
「ですよね‥‥でも、ここが落とされるのも時間の問題だと思いますよ」
「その時はなだれ込んできた人間共をこの私が蹂躙してくれるのみよ」
　バグアというのは多くがそうだが、己の力に絶大な自信を持っている。
　だがキングはそうではない。己の身分は弁えているし、人間達が持っている力も理解している。
「帰る場所を失い彷徨っていた貴様を拾ってやった恩、存分に返せよ‥‥キング」
「って言われても私、どこから来たのか覚えてないんだけどね。リューグージョーってのに行こうとしてたとこまでしか記憶にないし」
「大方人間の部隊と交戦したのだろう。貴様もいい加減本気を出せ。私が拾ったばかりの貴様はもっと鋭い刃であったぞ」
　頬を掻くキング。確かにまあ、自分は元々そういう強化人間だったのかもしれないとは思う。
　ヴルナックに拾われてからはそりゃあ人間を相手に大活躍したものだ。一体何人の敵を斬り殺したかなんて数え切れない。
　けれどあれから色々あった。囚われている人々と少しずつ近づく度、自分の中の眠っていた記憶が目覚めていく気がした。
　キングは確かに何かを守りたくて戦士になったのだ。どこか遠い場所で、今はもうない場所で、誰かを守りたくて身を捧げた。
　その結果心と記憶を失いバグアの尖兵と成り果てても、その根本にある願いとは他者の救済に他ならない。
「私もそろそろ覚悟を決めるわ」
　故に、己の身はあまり興味がなかった。死ぬならどうせそこまでの命だ。
　それよりももっと大切な事がある。誰かを守り、活かし、そして未来を繋ぐ事。

「――君は、どんな永遠を望むんだい？」

　記憶の奥底で、美しいドレスを着た誰かが笑っていた。



　夜の廃墟で続いていた戦闘も終わりつつあった。最後の強化人間が斬り殺され、その影で仮面の人物が刃を収める。
「‥‥噂は本当だったんだな。ヒイロ・オオガミ」
　ゆっくりと振り返る少女。その視線の先には両手両足に爪を装備したペネトレーターが立っていた。
「膠着している各地の戦場に降り立ち、独断で状況を打開する暗殺部隊‥‥確か『ブラッド』とかいうチームだったか」
「わっふー。別に隠しているつもりはなかったのですがー」
　血のついた仮面を外すヒイロ。緩い笑顔も束の間、射抜くような視線を向ける。
「この世界にはまだ汚れ役、悪党が必要だからね」
「子供達にあれを救え、あれを守れと言ったその口から出る言葉か？　正義の道とやらはどうした」
「これが私なりの正義なんだよ。理想を掲げる事は絶対にやめない。でも現実からも目は逸らさない」
　救える可能性があるのならば救う。だが救えないのであれば殺す。これ以上犠牲が出る前に、速やかに。
「軍部の人間では速やかに動けない問題も多い。そういう時にブラッドの名前は都合がいいのよ」
　ヒイロの隣に立つ仮面を着けた人物。手元で槍をくるりと回し仮面を外す。
「お前は天笠隊の‥‥」
「軍の命令じゃ動けない事もあるからね。今はチーム・ブラッドの一人、名前のない能力者って所」
「そういう仕組みか。それでヒイロは他の仲間に知られないように行動していたってわけだ」
「優しさだけじゃ片付かない事は凄く多いよ。でもね、カズ君達にはもう少しの間だけ、優しい世界を信じさせてあげたいんだ」
　死体に手を合わせながら呟くヒイロ。それから男へ目を向ける。
「よかったら君にもネストリングに入ってほしいな。旧ネストリングの一人として」
　男の名は雪村。嘗てはブラッドの理想に恭順した一人であった。
「君凄く強いんでしょ？　セルマちゃんが言ってたよ」
「‥‥力があったところで何の意味もない。俺はその事をつくづく思い知らされた」
　ネストリングでの日々は、正義を信じて戦った日々はなんだったのか。
　今や元ネストリングというだけで後ろ指を差され信用もされない。誰とも組めなくなり、荒くれ者の中に身を落としてしまった。
「正義とは何なのか。力とは何なのか。俺はそれを知りたい。答えを得るまで戦い続ける。それがブラッドへの恩返しだ」
「だからってネストリングの悪口を言った人をぶっとばすのはよくないよ？」
　以前のニュージーランドでの戦い。雪村が組んでいた二人は、ネストリングが作戦に参加する事に難色を示していた。
　結局行動を開始してもネストリングの過去についてねちねち言っていた挙句、雪村が元ネストリングだと知ると喧嘩を吹っかけてきたのだ。
「俺は返り討ちにしただけだ」
　笑いながら背を向ける雪村。そしてヒイロに告げる。
「俺達も作戦に同行する。お前の狙いは読めるが、協力はしないぞ」
「それはあえて悪者役をやってくれるって事かな？」
「違うな。何かを救う事は口にするほど容易くはない。それを教えてやるだけさ。俺は本気で行くからな、ヒイロ」
　立ち去る雪村を見送るヒイロ。UPCの部隊が近づいている事を察知し、仮面を被り闇へと姿を消すのであった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

　城の正面を警備していた強化人間の一人が目を擦る。その視線の先、一対の奇妙な人影があった。
　その正体は時枝・悠（ga8810）に肩車されたヒイロである。二人共真顔で正面から近づいてくる。
「お、おいなんだお前ら！　それ以上近づくな！」
　無視して接近する二人。強化人間はたじろぎながら後退する。
「お、応援とゴーレムを呼べ！　不審者だ！」
「何の騒ぎだ！」
「それがその、変な奴が‥‥」
　変な奴としか言いようのない人物に現場の指揮官も困惑している。
「大分集まってきたな」
「ヒイロの作戦通りなのです」
　悠から飛び降りるヒイロ。そこに強化人間達が一斉に銃を向ける。
「なんだかよくわからんが捕らえろ！　人質に使えるかもしれん！」
「戦うというのならー仕方ないのですよー。説得はー」
「物理でしよう」
　同時に得物を構える二人。ヒイロは跳躍、悠は駆け寄り剣を思い切り大地へと叩き付けた。
　周囲に広がる十字の衝撃が無数の敵を同時に薙ぎ払う。人が次々と宙を舞い、一瞬で場が片付いてしまった。
「なんだこいつ！？　か、かくなる上は‥‥！」
　悠は倒れた強化人間達に囲まれた状態にある。指揮官はそれを見て懐からスイッチの様なものを取り出した。
　それを背後からヒイロが奪い、ついでに気絶させる。そしてスイッチを悠へ投げ渡した。
「スイッチ式とは古典的だな。まあ他の連中にも教えてやろう」
「とは言え特殊な装置なのでヒイロ達にはよくわからんのですが」
　次の瞬間、けたたましい警報の音が鳴り響いた。正面からの侵入者に警備が壊滅させられた事が伝わり、ゴーレムと更なる増援が次々と飛び出してくる。
「騒がしくなってきたな」
「ゴーレムが三機‥‥四機ですか」
「あんなもんでかいだけの的だ。ちょこまかと逃げ回られるのに比べれば大分マシじゃね」
　腕を回しながら歩き出す悠。それにヒイロがにこにこしながらついていく。
「いつも通りだ。気張らずに行こうか」
　走り出す悠。強化人間の銃撃は無視して薙ぎ払い、ゴーレムへと狙いを定める。
　そこへ城の銃座からの攻撃が降り注ぐ。強化人間の銃ではダメージにもならないが、銃座の火力は侮れない物だ。
「悠ちゃん、ゴーレムを盾に！」
　走り回りゴーレムの攻撃を回避するヒイロ。剣をかわしその上に乗ると跳躍、ゴーレムのカメラにペイント弾を撃ち込む。
　おろおろしているゴーレムのコックピットに銃を連射する悠。横から別のゴーレムが近づくが、ヒイロがスキルで片足をふっとばし転倒させ、悠が飛び乗り剣を叩き付けた。
「ゴーレムなんざ何年前に通った道だと思ってんだ。タロスくらい持ってこいっての」
「隊長！　ゴーレムが翻弄されています！」
「ええい、もっと機銃で援護せんか！」
　と、遠巻きに戦闘を見ていた城壁の強化人間を背後から撃つイレーネ・Ｖ・ノイエ（ga4317）。銃を収め溜息を一つ。
「暗殺はやはり性には合わぬな」
　殆どの警備が外に出張っている間城壁の上にある銃座まで移動するのはかなり楽だった。何せ外の騒ぎが大きすぎるし、敵の動揺も激しい。
「派手にやっているな。早く混ぜて貰いたいところだが‥‥どれ」
　銃座を弄るイレーネ。別段バグアでなければ使えないわけではなく、普通に引き金を引くだけで良い様子だ。
「ほう。ガトリング砲か‥‥私の闘争にお誂え向きの兵器ではないか」
　銃座を動かし背後からゴーレムを撃ちまくるイレーネ。これで更に現場が混乱していく。
「ど、どこを狙っている馬鹿野郎！？」
「おお。効いている効いている‥‥普通に考えれば生身で戦う相手ではないのだろうが‥‥一度戦ってみたかったのだ」
　城から出たばかりの増援の兵士を銃座で薙ぎ払うイレーネ。
「こういうのも案外悪くない。やはり戦争が、闘争こそが自分の性にはあっている」
　銃座に慌てて接近して来た敵兵を銃を抜き早撃ちで倒しつつ笑みを浮かべるのであった。

　一方その頃城内にある中庭。通路を忙しく行き来する敵兵の足音に紛れ、枯れた噴水の排水溝が開いた。
　ゆっくり顔を覗かせたのはトゥリム（gc6022）だ。手で合図するとそれを担いでいたヴァナシェ（gc8002）と一緒に外に這い出し、ヴァナシェは続くメンバーを引き上げる。
「凄い騒ぎですけど‥‥外はどうなってるんでしょう？」
「三人が心配だけど、俺達は俺達のやるべき事をしよう」
　不安そうな那月　ケイ（gc4469）に声をかけるヴァナシェ。が、他の面子はあまり心配はしていないようだ。
「まあ、大丈夫だろう‥‥多分」
「ちょっとコンビニ行って来る、くらいの感じだったな！」
　頬を掻く上杉・浩一（ga8766）。月読井草（gc4439）はむふーっと息を吐く。
「では‥‥ここからは予定通り別行動を取ります。僕達はヴルナックを‥‥」
「人質解放は僕達にお任せを」
　茂みに隠れつつ目配せする鐘依 透（ga6282）。トゥリムは暗視スコープを装備し救出班を手引きする。
「場所は把握しています。僕がそこまで案内しましょう」
「宜しく頼むぜ、トゥリム！」
　救出班にはトゥリムとヴァナシェ、そこに一登とキラが加わる。透、浩一、ケイ、井草、そこにセルマを加えヴルナックを目指す。

「可能な限り交戦は避け、最短距離を突っ切りましょう‥‥！」
　先頭を走りながら敵を薙ぎ払い進む透。大体通りすがりつつ後ろのAA達が一回ずつくらい叩けば倒せない敵はいない。
「ボスがいるのは城の玉座と相場が決まっておるもんだ。こういう城なら指揮を出せる場所なぞだいたい決まっておる」
「どけどけー！　邪魔する奴は吹っ飛ばすぞー！」
　キメラを蹴散らしながら走る浩一と井草。ケイは複雑な表情だ。
「いつもこんな感じなんですか？」
「大体こんなノリだが‥‥まあ、見ての通り腕は立つんだよ、彼らは」
　城内の警備は正直甘かった。外に敵がひきつけられているというのもあるが、玉座まで警備らしい警備はなかったと言える。
「少しだけ引っ掛かりますね。罠じゃなければいいんですけど」
　呟くケイ。そうこうしているうちに一行は城の最上階、玉座へと辿り着いた。そこにはヴルナックが座っており、多数の敵兵、そしてキングが護衛についている。
「来たか‥‥小賢しい人間共め！」
　炎を宿した鉱石の身体を震わせ玉座から立ち上がるヴルナック。その巨体を井草はじっと見つめる。
「なんか刀狩りを思い出すなぁ」
「刀狩り‥‥あの忌々しいイスルギの事か」
「あれ？　やっぱ仲間かなんかなの？」
「奴は圧倒的な力を持つ輝竜のヨリシロを得ながら人間の文化とやらに傾倒した落伍者よ。一緒くたにされては困るな」
「やっぱり似てるのは外見だけで中身は全然だね。あいつはお前なんかよりずっと強そうだったし、面白い奴だったよ」
　肩を竦める井草。ヴルナックは鼻を鳴らし腕を振り下ろす。
「我が精鋭よ！　侵入者を抹殺せよ！」
　キングの他に強化人間は五名。それもここまでの相手とは違い、戦闘力の高い個体が揃っている。六体の強化人間はヴルナックの命令に従い武器を手に前に出た。
「おいおい、偉そうな事言っといてお前達やっておしまいなさいっていうのは、ちょっとかっこ悪いんじゃないの？」
「フン！　勝てば良いのだよ、勝てば！」
　井草のブーイングを物ともしないヴルナック。キングは二刀を抜いて傭兵達を見つめる。
「良くここまで来たわね。ヴルナック様の一番槍であるこの私が相手をしてあげるわ」
　眉を潜める透。ケイは周囲を気にしつつ緊張に冷や汗を流す。
「手加減無用！　悔いのないよう、全力でかかって来なさい！」
　ヴルナックに背を向けたまま一瞬だけ微笑むキング。それから表情を一変させ鋭い眼差しで傭兵達に切っ先を向けた。

「‥‥こっちです」
　一方、トゥリムの誘導で警備を掻い潜り人質を探す四人。ヴァナシェは最後尾につき、大人しく誘導に従っている。
　というのはトゥリムの警戒が上手いのもあるが、ヴァナシェ以外は子供三人で体格も小柄、さっと身を隠すには事欠かさない。
「こういう時図体が大きいのは考え物だね‥‥」
「小さいのはそれはそれで困る時もあります。さっきみたいに排水溝から出られないとか」
　四人は問題なく人質が捕まっている部屋にまで辿り着いた。部屋の前には護衛が二人いたが、サプレッサーをつけた銃でトゥリムが速やかに始末した。
「中の様子はどうです？」
「これは‥‥」
　少しだけ扉を開けて内部の様子を確認するヴァナシェ。そこには一箇所に纏められた人質と、それを囲む多数の敵の姿があった。



　キングは以前遭遇した時よりも更に力を高めていた。というより前回はかなり加減をしていたのだろう。
　ヴルナックの近衛兵の力も簡易強化人間とは比べ物にならないレベルで、統率の取れた動きで後衛と前衛に別れ傭兵達へと襲い掛かった。
「くっ、どうする‥‥！」
　強化人間の攻撃を受け流しながら考えるケイ。キングは透と刃を交えており、浩一、井草、セルマもそれぞれ強化人間と戦っている。
　状況は決して劣勢ではない。強引にひっくり返す事も彼らなら可能であったが、問題はキングの存在だ。
　彼らはキングを救いたいという少なからぬ想いを抱いている。だがその事を悟られるような事があればヴルナックはキングを使い捨てるだろう。
「フン、どうした？　動きが鈍いぞ。やはり同族相手には本気を出せんか。その甘さが貴様ら人間の弱さなのだよ！」
　幸いヴルナックは傲慢な性格だ。傭兵達の意図を直ぐ察するようなタイプではないが、露骨な動きをすればどうなるかはわからない。
「キング、さっさとそいつらを始末しろ！　目障りだ！」
　二刀を鋭く繰り出し透を襲うキング。透は全て攻撃を捌いているが、キングの力は油断できるようなものではない。
「キングさん‥‥」
「本気で来なさい！　私は手加減して勝てるような相手じゃないわよ！」
　刃をかわしながら背後に跳ぶ透。ヴルナックはにやりと笑い、口を開いて炎を放出する。
「うわっちゃっちゃー！？　あいつ、味方ごと攻撃しやがった！？」
　炎の波が広範囲を焼き尽くす。キングと透はかわしたが、強化人間に張り付かれていた残りの傭兵達は敵もろとも炎にまかれてしまった。
「卑劣な‥‥！」
「皆さん、大丈夫ですか！？」
「一張羅が焦げたがとりあえず無事だ。しかしこのままではいかんな‥‥」
　炎を振り払うセルマ。ケイの呼びかけに浩一は活性化しつつ眉間に皺を寄せ、井草はその辺を転がり回っている。
「んにゃろー！　好き勝手しやがって！」
　涙目で剣を振り回す井草。井草、ケイは練成治療を持ち、浩一とセルマは活性化を持っている。戦闘継続力はかなり高いので、これくらいなんて事はないが。
「こいつらここまでの雑魚とは強さが違いすぎるよ！」
「だがまともに相手をしていてはヴルナックの的だぞ」
「まいったな。このバグア‥‥強い」
　それぞれの反応に高笑いするヴルナック。更に口を開き、小分けにした火炎弾を連射してくる。
「ヴルナックを先に倒すしかないのか‥‥でも‥‥っ」
　火炎弾を盾で受けながら考えるケイ。ヴルナックに突っ込んでみるのもありだが、強敵と強化人間多数に挟み撃ちにされる事になる。
「私達を倒さずにヴルナック様のところまでいけるなんて考えない事ね」
　剣を構え立ち塞がるキング。その頬に汗が伝う。目では明らかに自分を倒せと訴えかけていた。
「僕は‥‥」
　剣を握り締める透。きつく目を瞑り、そして改めて得物を構え直すのであった。

　一方人質救出班も打つ手に困窮していた。人質の警備は明らかに前回とは規模が違いすぎる。
「やべー、これまで何回も人質救助し過ぎたかな‥‥」
　一登のぼやきはその通りで、敵もいい加減こちらが人質救助を狙っているのはわかっている。ヴルナックが近衛兵を使っているのもその為だ。
「突っ込めば人質を全て守りながら戦うのは無理です。多少の犠牲は覚悟しなくては」
「それはダメだ！　彼らは何の罪もないただの一般人なんだ。これまで辛い思いを耐え凌いで来て漸く巡ってきたチャンスなんだ。犠牲にはしたくない‥‥！」
　キラの肩を掴むヴァナシェ。キラはそんな彼女を真っ直ぐに見つめる。
「もし私達が時枝さんや鐘依さんの様に敵を圧倒する図抜けた力があったなら、多少の無理は通るでしょう。ですが私達にそんな力はないんです」
　俯いて手を放すヴァナシェ。悔しいがそれは現実だ。部屋の中にいる多数の敵も、ただ戦うだけなら勝つ事は可能だろう。だが全く犠牲を出さずに速攻で始末するには力が足りていないのだ。
「数人でしたら護衛する自信はありますけど、あれだけの人数ですからね」
　倒した敵の死体を途中の部屋に放り込んできたトゥリム。ヴァナシェは少し考えた後顔を上げる。
「確かに俺の力では犠牲を出さずに敵を倒す事は不可能かもしれない。けど、俺にもまだ賭けられる物が残ってる。この俺の命だ」
　自らの胸に手を当て頷くヴァナシェ。そして仲間達を見渡し言った。
「俺が囮になる。彼らの相手は俺がするよ。その間にきみ達は人質を逃がすんだ」
「‥‥まあ、悪くない手です。全員とは言わずとも敵をある程度部屋から連れ出すことが出来れば、残りは僕達で何とかできます」
「正気ですか？」
「大丈夫、俺は必ず生きて帰るよ。仮にここで死ぬ事になっても、未来の人達の為に捨石となれれば俺は本望だ」
　別に遊び半分の偽善で彼女はここにいるわけではない。死なせたくないという気持ちを偽善ではないと否定するのは難しいと彼女も理解している。だがそこに賭ける思いは伊達ではないのだ。
「わかった。だったら俺もヴァナシェねーちゃんと一緒に囮になるよ」
　手を上げる一登。ヴァナシェは首を横に振る。
「駄目だ、危険すぎるよ！　きみの様な子供がそんな事‥‥！」
「俺だって誰も死なせたくないって気持ちは一緒だ。それにな、誰かを助ける為に自分が犠牲になってもいいなんて、そんなのは間違ってる」
　真っ直ぐヴァナシェを睨む一登。そして拳を握り締めた。
「キングもヒイロもねーちゃんもそうだ。俺はそんなやり方認めない。そういう手段を選ぶ奴がいるなら、俺がついてって生かしてやる！」
　一歩も引かない一登にたじろぐヴァナシェ。トゥリムはその様子に僅かに笑みを浮かべる。
「どうやら簡単に死ぬわけにはいかなくなってしまいましたね。命を粗末にするのはダメですよ？」
「いや、俺は元々死ぬ気はないんだけど‥‥まいったなあ」
「ともあれここは二手に別れましょう。人質は僕とキラさんで救出します。いいですか、キラさん？」
　トゥリムの声に呆れた様子で頷くキラ。トゥリム、キラの二人は途中にあった部屋に身を隠し、その間にヴァナシェと一登が人質の居る部屋へ飛び込む事になった。
「どりゃあー！　助けに来たぜ‥‥ってうおわ！？」
　いきなり多数の銃撃を受け慌てて飛び退く一登。飛び掛るキメラに応戦しつつヴァナシェは声をかける。
「こっちだ！　急いで！」
「うわうわうわ、無理無理多すぎ！」
　部屋の扉を突き破り走ってくるキメラ達。その後に兵士が二人を追いかけて去って行くのを確認し、トゥリムとキラは部屋を出る。
「さて、僕達も行きましょうか」
　人質の部屋の前まで移動し閃光手榴弾を投げ込むトゥリム。そのまま目を閉じ耳をふさいで座り込む。
「人質には少々申し訳ないですが‥‥」
　すぐさま武器を手に飛び込む。敵の数は大幅に減り、残った者も突然の閃光手榴弾に訳がわからず動けなくなっている。
　キラは二丁の拳銃を連射し敵兵の武器を撃ち抜く。その間に接近したトゥリムが盾で殴り倒し、銃を奪われ怯んでいる敵を次々に撃ち抜いた。
「楽勝でしたが二人は大丈夫でしょうか」
「一登はあれで逃げ回るのは得意だけど‥‥今は彼らを逃がす事が先決」
「ですね。早く逃がして他の援護に向かいましょう」
　人質を拘束していた鎖を撃ち抜くトゥリム。突然の事でぽかーんとしている人質に事情を説明し、彼らを誘導し移動開始するのであった。

「どうした！？　やられるがままか！？」
　炎で傭兵達を攻撃しながら高笑いするヴルナック。状況は拮抗が続き、一向に光明は見えない。
　そんな時だ。傭兵達の背後からガトリングによる攻撃が飛来し敵兵を次々に薙ぎ払った。敵がこれに怯んで下がると同時に一つの影が透の代わりにキングへと襲い掛かった。
「雪村さん‥‥！」
　素早くキングを引き裂く雪村の爪。流れるような動きで手足を繰り出しキングを圧倒する。
「や、やっと追いつきましたぁ〜‥‥！」
「へっ、俺達も混ぜろってんだよ！」
　顎鬚を弄りながら笑う男。敵兵へ大剣を叩き付け道を切り開く。
「しょうがねえから雑魚の相手はしてやる！　さっさと行け！」
「‥‥すみません！　ここは頼みます！」
　男に頭を下げるケイ。一方雪村も振り返り視線だけで透に合図した。


「――えーと、それってつまり敵を助けたいって事ですかぁ？」
　話は作戦開始前に遡る。傭兵達は雪村ら三人を呼び出し説得に当たっていた。
「はい‥‥ですから、キングさんの内通がバレないように協力して欲しいんです」
「かーっ、これだから良い子ちゃんは嫌なんだよ！　敵の親玉叩きながら人助けなんぞ無理に決まってんだろ！」
　頭を下げる徹。その横でケイは拳を握り締める。
「確かにそうかもしれません。救う事の難しさはこの数年で嫌って程思い知りましたから‥‥」
　分かり合う事は難しい。生きる事はもっと難しい。
　人は憎しみや怒り、その代価を死に求めたがる。それは何よりも安定した、確実な結末だからだ。
「だけど‥‥納得出来るまで諦めない事くらいは許されるんじゃないかって、俺はそう思ってるんです」
「頭を下げて解決するなら安い物です。お金で解決するなら幾らでも払います‥‥諦めるのはそれからでも遅くないと思うんです」
　透の言葉に顔を見合わせる男と女。そして女は二人を見つめて言った。
「でもね、キングは既に沢山の人を殺しているんですよ？　仮に今彼を救った所で、その死は避けられないかもしれない。それに彼に大切な人を奪われた人達の気持ちはどうなるの？　そういうの全部ちゃんと、君達は受け入れられるの？」
　女は分かっていて言った。その責任を全て彼らが果たすのは無理だと。
　救いたいから救う。そんな身勝手が許されて、しかも上手く行くのなら誰だってそうする。でも世の中はそういう風には出来ていない。
「確かに俺は、人を救う事の責任なんて取れないかもしれない。だけど今目の前で悲しむ人がいるのなら、それを見過ごす事は出来ない」
　力強く語るヴァナシェ。キングにはその命を望んでいる人達がいる。そんな人達を泣かせるわけにはいかない。
「それに彼を救う事でこれから更に救われる人が出るかもしれない。敵も戦闘を止めてくれるかもしれない」
「まぁ、キングさえ引き込んでしまえば残りの強化人間が自爆するとかは防げるかもしれないしな」
　腕を組んだままそう語る悠。井草は手を挙げ笑う。
「あたしもキングは助けてやりたいな。キャロルや他の連中は助けられなかったけど、最後の一人ぐらいはさ」
「僕達は結局、どんな時も罪を重ねて生きてきました‥‥。手を汚さない、正しいままで生きる事は出来ないんです‥‥」
　掌を見つめそっと握り締める透。そして顔を上げて言った。
「だから今一瞬一瞬に、目の前にある事に本気でぶつかるしかないんです。例えそれで未来に裏切られたとしても、僕達は‥‥」
「人助け云々は正直どっちでもいい。私はただ闘争が出来ればそれで良いのでな」
「僕も人助けというつもりはありませんけど、バグアにも話の分かる人はいると思いますよ」
　どうでもよさそうに肩を竦めるイレーネ。トゥリムはその横で小さく頷いた。
「君達も、そんな感じで大丈夫か？」
「私一人だけ駄目と言った所で無駄なんでしょう？」
　浩一の声に溜息を返すキラ。浩一はその肩をぽんと叩くのであった。


「ちっ！　人間共が群がりおって！」
　ヴルナックの火炎弾を盾で防ぐケイ。井草と浩一はその左右から飛び出し襲い掛かる。
「大事な大事なキメラプラントを壊したのは誰だい？　‥‥あたしだよ！　お前もぶっ壊しちゃる！」
　ソニックブームを放つ井草。浩一は銃で攻撃し、二人とは別方向から囲い込むように透が回り込む。
　背後から斬りつける透。尾でそれを薙ぎ払うが透は捕らえられない。そこへ正面から斬りかかったケイだが、剣は岩の身体に刺さらない。
「小賢しい！」
　振り返り拳を繰り出すヴルナック。その攻撃を次々に盾で受けやり過ごす間にAA二人と透が攻撃を続ける。
　AAクラスの火力ならヴルナックを傷つける事は可能だが、それでも大打撃には至らない。
「この感じ、刀狩りを思い出すなぁ！」
「固いですがこれくらいの攻撃なら俺が捌ききれます！　三人は攻撃を！」
「人間風情が舐めるなぁ！」
　ケイに炎を吹きかけるヴルナック。その間に飛び出した浩一は正面からヴルナックの口へ刃を捻じ込んだ。
「ぐおぉっ！？」
「いつもと変わらん、受けて斬る。それだけだ」
　更に身体を斬りつける浩一。入れ違いで飛び込んだ透が顎を蹴り上げ、井草が足にソニックブームを当て、透と浩一で同時に胸を攻撃。ヴルナックをダウンさせる。
「きっ、貴様らぁ〜！　今まで加減していたのか！」
「すまんな、こう見えて嘘つきの集団の中で戦ってきた男だ」
　歯軋りするヴルナック。近衛兵もセルマ、レミントン、マトイの三人が片付けつつある。そしてキングは雪村一人に完全に封殺されている。
「何をしているキング！　私を援護しないか！」
「そう言われてもねボス、こいつガチ勢なのよねぇ！」
　ヴルナックは目を見開きながら立ち上がる。そうして懐からスイッチを取り出した。
「使えん人形共が！　もういい、仲良く纏めて吹き飛ぶが良い！」
　強化人間を一斉爆破すれば、無事で済むのは頑丈なヴルナックとケイくらいのものだろう。しかしスイッチを取り出そうとした瞬間透が駆け寄り、そのスイッチを一刀両断してしまった。
「‥‥スイッチ式だというのは、聞いていましたからね」
「ぐ、き、貴様ら‥‥どこまでもこの私をコケにしおって‥‥ぐおぉ！？」
　と、そこで突然仰け反るヴルナック。見れば背後から悠とイレーネが現れ引き金を引いていた。
「うーす。まだやってたか」
「表は大体片付けてきた。後はUPCが何とかするだろう」
　ふっと笑みを浮かべるイレーネ。それからヴルナックを見やる。
「だが‥‥この状況、私は外で煙草でも吸っているべきだったか？」
　わなわなと震えるヴルナックだが、誰がどう見ても劣勢である。近衛兵は倒されキングも雪村が抑えている。自爆も出来ない。八方塞がりだ。
「お気の毒にねぇ。まぁ地球に住んだ家賃だと思って諦める事だね」
「まあなんだ‥‥すまん」
「ふ‥‥ふざけるなあああ！！」
　井草と浩一の言葉に飛び掛るヴルナック。その攻撃をケイが受け止め、二人は同時に反撃を加える。狙いは徹底して足だ。
　透は跳躍し上から斬撃を飛ばしヴルナックの目を狙う。そのまま背後に着地すると素早く連続で斬り付けた。
　続け正面からセルマ、レミントンが両断剣・絶で胸を砕き、イレーネがそこに強襲弾を連打。苦し紛れの攻撃をケイが弾き、悠が亀裂に蹴りを入れて粉砕する。
「力で語ろうか。言葉じゃ響かないタイプだろ？」
　光を纏った悠が舞い踊るように次々に斬撃を繰り出し圧倒する。その全身に亀裂が広がり、攻撃の切れ目に透が突撃。そのままヴルナックの胸を貫き、胴体を完全に粉砕してしまった。
「そんな‥‥馬鹿なあああっ！？」
　粉々になり動かなくなるヴルナック。悠はそれをじーっと見つめる。
「酷いイジメを見た」
「これで終わりか？　これまでの敵と比べると呆気ないな‥‥」
　不満げに呟くイレーネに冷や汗を流しつつ、ケイは雪村の元へ向かった。
「雪村さん、ありがとうございました。最初から俺達を助ける‥‥キ、キングさーん！？」
　キングは床に転がり、血を流してぴくぴくしていた。
「キングさん、しっかりしてください！　雪村さんやりすぎですよ！」
「知らん。後は勝手にしろ」
　慌てて練成治療を施すケイ。雪村は笑いながら背を向け立ち去るのであった。



「気がつきましたか」
「俺は‥‥」
　城の外に作ったUPC軍のキャンプ。人質達が休んでいるそこでヴァナシェは目を覚ました。
「トゥリム君‥‥作戦はどうなったんだ？」
「ヴルナックは倒しました。キングさんも無事で、彼の命令で敵は降伏したようです」
「そうか‥‥」
　ほっとして倒れこむヴァナシェ。そこへヒイロが顔を出した。
「カズ君も無事ですよ。ヴァナシェちゃんも傷は手当しましたが、もう少し休んでください」
「ああ、ありがとう。これでもうきみ達も望まない戦いをしなくて済むかな？」
　目を丸くするヒイロ。それからヴァナシェの手を取り頷いた。
「すまなかった。俺がもっと強ければ、もっと努力すればきみ達にそんな事をさせずに済んだのに」
「もしそう思うなら、これからも誰かを助けてあげて下さい。その人達がまた誰かを助けて、いつか優しい未来が来ると思うから」
　頷くヴァナシェを残し立ち去るヒイロ。トゥリムは微かに笑みを浮かべて言った。
「全く無茶をして‥‥お水でも飲みますか？」
「うっ、ご、ごめん‥‥」

「無事でよかったなー、キング！」
「ええ。本当に何から何まで世話になっちゃったわねぇ」
　笑う井草。治療を受けたキングは申し訳無さそうに笑った。
「気にしないで下さい。キングさんに死んで欲しくない‥‥自分がそう思っただけですから」
　透の言葉に深く頭を下げるキング。高峰はそんな彼に手錠をかけた。
「彼の身柄は軍で預かるわ。どうなるかはわからないけど、一応やれる事はやるつもり。安心して、この手錠がついてる間はとりあえずうちの管轄だから」
「キングさんの事、宜しくお願いします！」
　ケイに笑顔を返す高峰。そこで浩一へ目を向け。
「何か？」
「いや‥‥別にコスプレしてないのが残念なわけではないぞ」
　目を逸らす浩一。そうしている間にキングは連衡されていく。
「それじゃあ、私は部下の面倒も見なきゃいけないから」
「キング、また会えるよな！」
「ええ。きっといつかまた！　本当にありがとう、みんな！」
　笑顔で立ち去るキング。井草はいつまでも手を振り見送った。
「‥‥これで少しはドールズも報われるかな？」
　しんみりと呟く井草。透はその隣で微笑むのであった。
「雪村さん達も協力してくれてありがとうございました」
　頭を下げるケイを一瞥し雪村は僅かに口元を緩める。
「今回は幸運だっただけだ。次も上手く行くとは限らないぞ」
「だとしても、俺はまた同じ事をすると思います。諦めが悪いっていうか、わかった顔して納得出来る程大人じゃないんで」
　姿勢は低いがケイは決して雪村に負けてはいなかった。その様子に男は背を向ける。
「好きにしろ。いつか絶望するその日までな」
　雪村に続き頭を下げ走り去るマトイ。レミントンは軽く手を挙げ肩を怒らせ歩いて行く。その様子をケイは苦笑と共に見送った。
「ふう。なんというか‥‥ゴーレムも思ったほどではなかったな。頼みの綱のヴルナックも大した輩ではなかったし‥‥このまま世の中が平和になっては肩身が狭くなるな」
　少し離れた場所で煙草を吸うイレーネ。その背後ににゅっとヒイロが顔を出す。
「そんなイレーネちゃんはネストリングに入ってくれれば、結構やばめの戦場にいつでも送り出してあげるのですよー‥‥でゅふふ」
「戦争戦争言っている危険人物だがいいのか？　貴公らの言い分は平和やら正義ではなかったか」
「それだけでは丸く収まらない事も多いので、物理説得要員は大事なのです！」
　引っ付いてくるヒイロに困惑するイレーネ。こうして無事、依頼は犠牲を出さずに完了したのであった。

　後にキングがどうなったのか。彼の部下がどうなったのか、それを傭兵達が知る術はない。
　だがキングが人類に与えた貢献、そして自我を殆ど持たない強化人間達の事を考えれば、ただ首を落として済む世の中ではないのも確かだ。
　それより何より。今この瞬間を彼が生き延びた事で、少なくとも産まれる笑顔があったのだ。
「‥‥キングおじちゃん！」
　軍の施設に保護された人々の中、少女が彼の名前を呼んで駆け寄る。男は笑顔で少女を受け止め抱き上げた。
　未来の事はわからない。一瞬先すら闇。それでも彼らは、目の前にある光を選択して行く‥‥。
「――ただいま、みんな！」