タイトル:ニューワールド2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/11 08:19

●オープニング本文


バグア緩衝地帯にある山岳部。そこにはバグアが作ったキメラプラントと要塞が未だに健在であった。
 その山岳部の麓にある廃墟となった街。日の光の差し込まぬ夜の街を一登とキラは歩いていた。
「お前さー、いつまで仏頂面してんだよ?」
 頭の後ろで手を組みながら歩く一登。一方キラはいつにも増して不機嫌そうな様子である。
「仕方ないだろ、仕事なんだからさ。文句があるならヒイロに言えよな」
 じろりと一登を一瞥するキラ。月明かりを頼りに歩きながら目を細め、少し前の事を回想する。

「ネストリング‥‥?」
「そう、ネストリング。君も噂には聞いた事があるんじゃないかな?」
 LHにあるカフェでキラはとある青年と会っていた。前髪が長く胡散臭い喋りの彼は、キラの馴染みの情報屋であった。
 彼は様々な傭兵の間を取り持ちながら情報や仕事を請け負わせるプロで、キラも何度も世話になった仲である。
「バグアと人類の管理された戦争を続けようとした鬼才、ブラッド・ルイスが生んだ組織さ」
「でも確か自分の部下に殺されたんじゃなかった?」
「そう。で、そのブラッドを殺した娘が新しく社長に就任してる」
 コーヒーを飲みながら話を聞き流す。正直あまり興味のない話題だ。
「それがなんだって?」
「彼らの成り立ちは非常に複雑でね。まあ、有体に言えば疑われているというか‥‥親バグアかもしれないって噂なのさ」
 そこで手が止まった。顔を上げたキラは真っ直ぐに青年を見つめている。
「君にはネストリングの調査を依頼したい。これはUPCからの正式な依頼だ。ネストリングとヒイロ・オオガミの詳細はここに」
 取り出した茶封筒を差し出す青年。そうして伝票を持って立ち上がる。
「ネストリングへ潜入する手続きはこっちでやっておくよ。ヒイロちゃんはお人好しだから、直ぐに君を仲間に入れるだろうさ」
 立ち去る男を見送り封筒を開くキラ。そこで彼女が目にしたのはヒイロの悲惨な過去だった。
 周りから疑われ、今も後ろ指指される事は何度もあるだろう。客が殆ど来ない事務所は、悪い噂が広まっているからかもしれない。
 それでもヒイロは諦めていなかった。真っ直ぐに歩いていくその姿が、なんだかキラにはとても腹立たしかった。

「‥‥キラ。おいキラ!」
 一登の声に驚いて銃を構える。しかし逆に驚いたのは一登の方だ。
「おい危ねぇな! 味方に銃を向けるんじゃねえよ!」
「あ‥‥ごめん」
 口元を押えながら目を逸らすキラ。その顔色があまりに悪いものだから一登は心配する。
「どうした? 俺、なんかカンに触る事言ったか?」
「‥‥別に、なんでもないから」

 ――やめろ! 味方に銃を向けるんじゃない! 俺達は仲間だろ!?

 耳の奥で聞こえた声にきつく目を瞑る。吐き気を堪えている間に一登はとある民家に入った。
 窓には目張りがしており、小さなランプの明かりが漏れないようになっていた。そこで待っていたのは長身の男である。
 やや筋肉質だが細身な体つきで、顔立ちは整った方だろう。長い髪を揺らしながら振り返った男は二人を見て目を丸くした。
「あらやだ。可愛い傭兵さんだこと。はじめまして。アタシは強化人間のキングって言うの。よろしくね」
 背筋がざわつくのが分かった。だがキラに対し一登は平然と握手を交わしている。
「なんでオネェ口調なの?」
「なんでって‥‥なんでかしらねぇ? あ! 飴ちゃんいるかしら?」
「いやいらないけど‥‥それより今回の仕事について話をしようよ」
「あらそう? 飴ちゃん美味しいんだけど‥‥そうそう、話をするなら外で待機してる子も一緒にいらっしゃいな。取って食いはしないわよ」
 キングの声に扉が開き、セルマが顔を出す。そのまま部屋に入り肩を竦めた。
「気配は消したつもりだったんだがな」
「子供二人だけ送ってくるはずないでしょ? もう、信用ないのねぇアタシ」
「失礼をした。一応仲間の安全を確保するのも私の役目なものでな。無礼は詫びよう」
「そんなバカ正直に謝らなくたっていいのよ。どうせアタシは敵なんだからね」
 にっこりと微笑むキング。それがキラの心をどうにも苛立たせるのであった。

「人間に味方する強化人間?」
 ネストリングでその話を聞いた時、キラの表情は‥‥ちょっとすごい事になっていた。
「うわふーん。そうなのですよーう。三人はその強化人間さんと合流して、囚われた民間人の皆さんを解放してほしいのです」
 要塞では現在も多数の人間が労働を強いられているという。それは人質代わりでもあり、UPCが攻めあぐねる原因でもあった。
「社長、その強化人間というのは?」
「人間を逃がすために協力してくれるそうなのです。詳しい話は直接本人から聞いてね!」
「いえ、ですが‥‥」
「聞いてね!」
 笑顔でがっしりと肩を掴まれてしまった。思えばそれが運の尽きだったか‥‥。

「作戦開始は明日。アタシが裏口からあなた達を引き入れるから、プラントの破壊と民間人の開放に動いてちょうだい」
「貴殿はどうするつもりだ?」
「アタシも協力したいのは山々なんだけどぉ、強化人間だから‥‥ボスにバレると多分自爆装置とかでドカンとやられるのよね」
 溜息を漏らすキング。一登がそこで手を挙げた。
「あのさ、なんでそこまで危険を冒して人間を助けたいんだ?」
「うーん? だってかわいそうじゃない? 土と岩しかない暗い地下室に閉じ込められて‥‥皆恋だって青春だってしたかったろうし、女の子はお洒落もしたかっただろうし‥‥」
「そんな理由かよ‥‥すげぇな」
「変わってるとは良く言われるわねぇ。なんかナンバーズだか番号つきだとか、十三番だとか言われるけど、アタシは自分の出自はさっぱり」
 肩を竦め笑うキング。それから申し訳無さそうに言った。
「アタシは出来るだけ登場を遅らせるけど、あなた達とも戦わなきゃいけないの。まだボスを倒す算段がついてないからね」
「そしたら俺達はどうすればいいんだ?」
「アタシは手加減するから、頃合を見て逃げてちょうだい。アタシを負傷させてくれれば、取り逃がした説得力も出るわ」
「味方だって分かってて怪我させるのか‥‥気が重いなあ」
 溜息を漏らす一登。キングは笑顔でその頭を撫でた。
「大丈夫よ。オネェは痛みに強いんだから!」
 笑うセルマとツッコむ一登。そこから少し離れた所でキラはキングを見ていた。
 キング。ナンバーズと呼ばれた強化人間。十三番目、そしてオネェ。

 それが彼女達の、今回の協力者であった。

●参加者一覧

時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
ヴァナシェ(gc8002
21歳・♀・DF

●リプレイ本文

 約束の時間になると裏口を見張っていた強化人間が施設内に入っていくのが見えた。
 元々裏口の存在自体が隠されているので警備自体も甘いが、キングが何か手を打ったのだろう。
「偉いぞキング。バグアの映画監督もそうだけどオネェには何かと縁があるなー」
「人間に味方する強化人間とは変わり者だねぇ。まぁ、ボクも他人の事は言えないけどさぁ」
 頷きながら語る月読井草(gc4439)とレインウォーカー(gc2524)。いざ作戦開始という時、巳沢 涼(gc3648)が仲間達に声をかけた。
「今回の戦闘、キング以外の強化人間も殺さないようにしないか? その方が自然だろ?」
「俺は元よりそのつもりだよ。不殺は俺のやり方だからね。勿論、皆に強いるつもりはないけど」
 同意しつつ振り返るヴァナシェ(gc8002)。他の傭兵もこれといって殺したがる理由はなかったりする。
「私は降伏勧告するつもりだったしね」
「強化人間殲滅よりプラント破壊や人質解放を優先している、っていうスタンスでいいんじゃないかなぁ?」
「異議なし。そもそも殲滅は目標に含まれてないしな」
 夢守 ルキア(gb9436)、レインウォーカーに続き時枝・悠(ga8810)も同意する。これはヴァナシェ的にも嬉しいようで、笑顔で握り拳を作った。
「これは絶対に失敗出来ないね。一人の死者も出さず、全員で帰還しよう!」
「へへっ、人助けっていいよな! やる気出てきたぜ!」
 盛り上がる一登。だがキラだけは方針に乗り気ではない様子だ。
「視線じゃ人は殺せねーと思うぞ、多分」
 こっそり声をかける悠。キラは悠を一瞥し、何も言わずに銃を握り締めていた。

 作戦が始まった。傭兵達は無人の裏口から侵入、地下エリアを目指す。
「カズ、あんま俺達から離れるなよ」
「え? どういう事?」
「どうってわけじゃないが‥‥嫌な予感がするんだよな」
 直接確かめたわけではないが、キングは恐らく涼が嘗て戦った『シリーズ』の一体だろう。
 過去の凄惨な事件を思えば警戒もするという物。無論、不安要素はそれだけではないが‥‥。
 地下には広大なスペースが広がっている。その入り口にある管理所には強化人間が待機していた。
「まだバレてないんだ。監視カメラが止まってるのかな?」
「どうする、ルキア?」
「んー‥‥とりあえず占拠しよっか」
 頷きあい走り出すルキアとレインウォーカー。司令室の窓からルキアが閃光手榴弾を投げ込み、突入したレインウォーカーが峰打ちで兵士を気絶させた。
「救出班は先行して。恐らく敵は状態のわからない此処を狙うと思う」
 監視カメラに笑顔で手を振るレインウォーカー。ルキアがそのカメラを撃ち抜くと、漸く基地内に警報が鳴り響いた。
「私達は敵を足止めしてから施設破壊に向かう」
「お? じゃあここで敵をやっつければいいんだな?」
「そういう事。護衛ヨロシク」
 剣を掲げる井草。一登は少し不安そうに三人を見る。
「三人だけで大丈夫か?」
「任せなぁ。ボクとルキアのコンビは最強なのさぁ」
「おい、あたしもいるぞ!」
 ぴょこぴょこ跳ねる井草。ヴァナシェはその様子に苦笑して頷く。
「わかった、ここは任せるよ。だけどくれぐれも気をつけてね」

 こうして施設破壊班を残し、残りは人質の救出へ向かった。
 アラートが鳴り響く中、施設の壁にあったシャッターが彼方此方で開き、そこからキメラが放たれている。
「無用な戦闘は避けるぞ。一気に人質の所まで駆け抜ける」
 と言いながら走る悠。前方にキメラが居たので銃を撃つと、キメラは木っ端微塵になった。
「‥‥今のは戦闘に入らないんだな」
「貴女的に今のは不殺に入らないんですか?」
「えーと‥‥動く岩の塊は‥‥」
 呆然とする一登、そしてキラの問い掛けに本気で悩むヴァナシェであった。
 人質に関して発見するのはそう難しくなかった。というのも向こうの方から傭兵達を呼びに来たからである。
「皆さんを助けに来ました‥‥って、あれ?」
 逃げる気満々で纏まっている人質達にきょとんとするヴァナシェ。
「キングさんから話は聞いてるよ。あんた達についていけばいいんだろう?」
「その通りです。皆さん落ち着いて‥‥ますね」
 人質は出来るだけ纏まって逃げる準備を終えていた。いつでも脱出可能な様子である。
「キングおじちゃんがね、みんな必ず助かるから、いい子に言う事聞きなさいって」
 小さな少女がヴァナシェを見上げる。その頭を撫でヴァナシェは笑顔を作った。
「勿論だよ。もう苦しい思いをする必要は無いんだ。必ず俺達が自由にしてあげるからね」
「しかし数が多いな。これをぞろぞろ連れて歩くのは危険かもな」
「俺が先行してゲートを開放しておく。時枝さん達は皆を護衛しながらついてきてくれ」
 涼はそう言って一登にSMGを差し出す。
「これで弾ばら撒いてろ、敵さんを近寄らせない様にな」
「お、おう。気をつけろよ、涼兄」
 走り出す涼。悠はそれを見届け声を上げる。
「逸れないようにグループを作って移動するぞ。そんだけ纏まってるんだ、勝手に自分達で作れるだろ。女子供を置いてくなよ」
「皆さんは必ず俺達が守りますから、落ち着いて行動してください!」

 陽動作戦は成功し、敵戦力の殆どが管理所に向かっていた。三人は管理所に立て篭もり銃撃をかわしつつ応戦していた。
「うおぉ、これ来すぎじゃねーか!?」
「時間稼ぎは大成功だと言えるだろうねぇ」
「すっかり囲まれてるケドねー」
 扉から身を乗り出し銃撃するルキア。敵は業を煮やしたのかキメラを強引に突撃させてくる。
 窓を突き破り飛び込むキメラ。井草はその頭に剣を突き刺し押さえ込む。
「無駄に固いし!」
「どんどん来てるねぇ。こういう時は‥‥」
「逃げるが勝ちって事で」
 閃光手榴弾を残して飛び出す三人。そのままプラントへ直進していく。
「足止め任されるよぉ」
「じゃあ色々ぶっ壊しとくよ!」
 反転し走り出すレインウォーカー。そこへ無数のキメラが飛び掛るが、斬撃の軌跡が瞬いた次の瞬間、キメラの方が切り裂かれていた。
「盛大な歓迎ありがとう。お礼に全員返り討ちにしてやるからかかってきなぁ」
 と、そこへ転がっているキメラへとルキアが銃撃を加える。
「まだ倒してないのにカッコつけないでくれるかな?」
「ボクはねぇ、ルキアが来る事も込みで動いてるんだよぉ」
 二人に走ってくる強化人間、数は三人。更にキメラが四体。
「固い岩も綻びを作れば脆く砕けるってねぇ。追撃よろしく、ルキア」
 その頃、井草はキメラプラントに攻撃しまくっていた。
「よーし、どっかんどっかんいくぞー! この装置は幾らしたんだ? んん〜? 言ってみろー!」
 こんなナリでもAA。剣を振り回せば精密機械なんてひとたまりもない。
「うわははー! 楽しくなってきたー! 被害総額が一番多い奴が勝ちな!」

 一方、人質移動中。流石に逃亡もバレたのか、敵が集まりだした。
 涼は敵を無視して突っ切っているのでそのまま残っている。悠は先頭に立ち、そんな敵の相手をしていた。
「手加減する方がめんどくせーな‥‥ったく」
 銃を連射する強化人間に駆け寄り蹴りを放つ。壁に減り込んだ敵から足を引っこ抜きつつ近づくキメラを銃で撃破した。その様子は人質の方が引いてる感じだ。
 そんな悠が先頭に立っているので問題は殿と側面。通路がただの一本道ではない以上その二つがポイントとなる。
 敵は殆ど回りこんで足止めしようとしているのでまだマシだが、行列の側面を守るのは中々にシビアだ。
 後方にはキラが残り、ヴァナシェと一登が側面防衛。近づくキメラを遠距離攻撃で撃退する。
「ふう、今の所怪我人はなしか‥‥」
「相手がノロマばっかりでツイてたな」
 そうして移動する人質に先行し正面ゲートへ向かう涼。敵の追撃を振り切りゲートに到着すると、そこにはキングが待ち構えていた。
「不埒三昧もここまでよ。この正面ゲートは私、キングが守るわ!」
 決めポーズを取るキングに若干親近感を覚えながらも涼は槍を構える。
「今相手をしてる暇はねーんだが‥‥?」
 と、そこでキングが構えたまま何か目配せしているのがわかった。そちらを向き、涼は納得する。
 走り出すキング。二刀を素早く繰り出す攻撃を受けながら涼は移動、壁際にある装置に手を伸ばす。
「こいつか!」
 素早くゲートを開放するが、重厚感のあるゲートが開くまで時間が掛かる。その間もキングは猛攻を仕掛けて来る。
「キング様、ご無事ですか!」
 そこへ駆けつける強化人間達。キングは背を向けたままひじょーにめんどくさそーな顔をした。
「ここは私が守るから手出し無用だと言ったはずよ?」
「は、しかし‥‥」
 背後に跳ぶ涼。そこへ敵兵の銃撃が降り注ぐ。キングは険しい表情で更に追撃を加える。
「悪く思わないで頂戴ね‥‥!」
 強烈な連続攻撃、しかし涼は耐えていた。盾と槍で身を守り一斉攻撃を防いでいる。
「昔の俺とは違うんでな!」
 竜の咆哮でキングを弾き返す涼。ゲートが四分の一程度開いた頃、遅れて悠が飛び込んで来た。
 入ってくるなり敵強化人間を蹴散らす悠。連射する弾丸をキングは壁を蹴って回転しながら跳躍、物陰に滑り込んでかわした。
「流石、頼りになるねぇ!」
「涼くーん」
 振り返って仰け反る涼。そこにはゲートの隙間から顔だけ突っ込んでいるヒイロが。
「ヒイロは小さいので滑り込むといわれています。セルマちゃんは胸がつっかえています」
 ちゅるりと入ってくるヒイロ。そこへ人質達を連れてヴァナシェが入ってくる。
「後ろは大丈夫なのですか?」
「たぶん。通路崩してきたからな」
 無表情にサムズアップする悠。その頃‥‥。

「なんか最短ルートが塞がってるんだけど‥‥」
「あはは、崩れてるねぇ」
「うおぉ敵いっぱいきてるぞー! なんか違う道探せ!!」
 施設破壊班は大量のキメラに追いまわされながら回れ右していた。

「何か申し訳ない事をした気がする」
「ともあれ今の内だ! 皆さん、外に軍が居ます! 急いで脱出してください!」
 半分程開いたゲートから次々に人が逃げ出していく。完全に開ききるまではまだ時間がありホールには人質が残っているが、そこへキングが姿を見せた。
「カズとキラちゃん、それからヒイロちゃんは人質の護衛を頼む! キングは俺達三人で!」
 涼の声に頷くヴァナシェと悠。余計な事は言えない状況、四人は無言で戦闘を開始した。
 意図してか涼へ襲い掛かるキング。涼が持ち堪えている間にヴァナシェがソニックブームを飛ばし、悠が銃撃を行なう。
 キングは攻撃を回避しながらも人質を気遣っているようで、決して人質を背にはしなかった。
「よーし、そろそろひっさつのいちげきできめてやるぜー」
 棒読みで剣を振り上げる悠。涼はペイント弾で目潰し‥‥。
「やべっ、銃をカズに貸したまんまだ!」
 と言っている間にヴァナシェが駆け寄り擦れ違い様に斬撃を放つ。そこへ悠が跳躍から刃を振り下ろし、強烈な一撃を放った。
 激しく斬り付けられたキングは血を流しながら地面に減り込んでいる。一応ぴくぴくしているので、生きてはいるだろう。
「すみません‥‥」
 誰にも聞こえないように呟き目を瞑るヴァナシェ。ゲートは開放され、人質達も無事に脱出したようだ。
「うぉーい! みんなー!」
 そこへ走ってくるレインウォーカー、ルキア、井草の三人。大量の敵に追われているが、仲間と合流すると反転して全員で武器を構えた。
「形勢逆転だね?」
「道が塞がってた時はビビったが、何とか逃げおおせたぞ!」
「バグアめ‥‥なんて卑劣な事を」
 真顔で呟く悠。合流した傭兵達にヒイロを加え、あっという間に追撃を退けてしまった。そこへUPC軍が更になだれ込んでいく。
「ぬははー、数の暴力を見よ! そしてキングは死んでる!?」
 さくっと監視カメラを破壊するルキア。井草はキングへと駆け寄った。
「あ〜、死ぬかと思ったわ」
「お前がキングか。初めまして、あたしは月読井草。あんたの前のナンバーズ達の事は良く知ってるよ」
 地面からキングを引っこ抜く井草。悠は冷や汗を流しつつそっぽ向いている。
「あんたの親って言うのかな、まぁ作ったやつも変わり者だったよ。良いか悪いかはともかくね」
「あらそうなの? 私自分の事にはとんと興味なくってね〜」
「皆変わり者で中には良い奴もいた。キングは良い奴の方だと嬉しいな」
「それを決めるのはあなた自身じゃないかしら? おチビさん」
 笑顔で井草の頭を撫でるキング。そこへルキアが練成治療を施す。
「あなた達もありがとうね。彼らの事、よろしくお願いするわ」
「キング君はこれからどうするつもり?」
「まだやる事があるからね、とりあえずはどこかに逃げおおせるわ。ボスは今不在だし」
「そのボスってのはどんな奴なんだ?」
「それはまた今度連絡するわ。あんまり長居して部下に目撃されても面倒だしね」
 井草の問いに肩を竦めるキング。傷を庇いながら傭兵達に背を向ける。
「それじゃ、縁があったらまた会いましょう」
 駆け出したキングの速度は戦闘中よりも早く、あっという間に見えなくなってしまった。

 要塞の正面ゲート前は既に制圧され、UPC軍が展開していた。人質達はそこで無事に保護されたようだ。
「良かった‥‥一人の怪我人も出ずに済んで」
 保護された人々を眺めるヴァナシェ。そこへ一人の少女が歩み寄る。
「おねえちゃん、キングおじちゃんは?」
 膝を着き少女と向き合うヴァナシェ。
「大丈夫、きっと無事だよ」
「でもキングおじちゃん、強化人間なんでしょ?」
 それはとても難しい問題だ。少女は不安そうに眉を潜める。
「キングおじちゃん‥‥死んじゃうの?」
 否定も肯定も今はまだ出来ない。ヴァナシェは少女の頭を撫でながら目を伏せるのであった。
「いやー、見事に作戦が成功してよかったのですよー!」
 扇子を広げるヒイロ。しかし傭兵達の雰囲気は少し微妙な感じだ。
「ドールズの生き残りかぁ。ツギハギめ、最後が13なのは何かの洒落か?」
「まあ、面白い人は好きだよ、うん」
「ルクス・ミュラーと同じタイプ‥‥なんだけどなぁ」
 井草、悠、涼の三人はそれぞれキングに思いを馳せている。彼がこの後どうなるのかは、まだわからない。
「キラちゃんはああいう強化人間を見るのは初めてでしょ?」
 ヒイロの問いに目を向けるキラ。睨まれながらもヒイロは笑顔で顔を寄せる。
「どう? 人助けって、いい気分でしょう?」
 無言で立ち去るキラを見送るヒイロ。一登は困ったように頭を掻いていた。
「ったく、なんなんだあいつ。でもよ社長、これからキングはどうなるんだ?」
「勿論、色々考えているのですよー」
「大人しく降伏してくれればいいのにね」
「色々やることがあるだろうさぁ」
 腰に手を当て微笑むレインウォーカー。ルキアは陥落した要塞を振り返り、小さく溜息を漏らすのであった。