タイトル:弱者のプライドはマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/18 07:04

●オープニング本文


「‥‥はうー、帰ってきたらカシェル先輩も居ないし暇ですよぅ」
 主の居ないカシェル・ミュラーの部屋の中、ヒイロはソファの上にうつ伏せに寝転がり足をじたばたさせていた。
 先輩傭兵であるカシェルは依頼か何かで出かけているのか、暫く部屋に戻っていなかった。
 テーブルの上には『直ぐ戻るから大人しく待っている事』と書かれた先輩からのメモが転がっているが、暇を持て余したアホの子は居ても立ってもいられない。
 ごろごろとソファの上を転がりながらカシェルが読んでいた小難しい小説を眺め、うんざりした様子のヒイロ。そこへ扉を叩く音が聞こえてきた。
「はいはーい、今出るですよーう」
 スナック菓子の袋を片手に玄関へ向かうヒイロ。べたべたした手で扉を開くと、そこには見覚えのある顔が並んでいた。
「よう、ヒイロ。元気してたか?」
「あ、自販機蹴ってたおじさん」
「‥‥そういえば名乗った事無かったかもな。俺の名前はデューイだ。デューイ『お兄さん』な」
 お兄さんの部分にアクセントを置きデューイはヒイロの頭をわしわしと撫で回した。その間もヒイロは口にお菓子を放り込んでいる。
「カシェルはまだ依頼か。とりあえずヒイロ、お前に一つ仕事を持ってきたんだが――おい、食うのを止めろ」
「ヒイロ今ごろごろしてる所ですよう。ヒイロは決めたのです。焦らずじっくり、強くなれば良いのです」
 指をぺろぺろと舐めながら笑うヒイロ。過去の経験は本当に彼女の中で生かされているのだろうか――。
「ところでこっちの人は誰ですか? 何かどこかでみた気はするですが‥‥」
 そう、来客は一人ではなかった。デューイの隣には白いドレスを纏った少女が一人、腕を組んで立っていたのである。
「ふ‥‥っ! 久しぶりですわね、ヒイロさん。相変わらず間抜けな顔ですこと」
「‥‥? だれですか?」
「がくーっ!? こ、このわたくしを覚えていないって言うの!?」
 芸人のようなリアクションの後、少女はヒイロの肩を激しく揺さぶった。ヒイロはただ呆然としたままガクガクしている。
「こいつは九頭龍 斬子っつってな。ほれ、お前を前に預けた所の新人で‥‥」
 そうしてデューイは経緯を説明し始めた。
 ヒイロは今ではカシェルの部屋に入り浸っているが、依頼で彼と縁がある前は別の兵舎に顔を出していた。
 しかしそこではヒイロは受け入れられず、あちこちたらい回しにされて今に至るのだ。斬子とヒイロが会ったのはそのたらい回しの時期の事だ。
「ほへぇ。そういえばそんなこともあったですよぅ」
「おーっほほほ! まあ、仕方ありませんわね! ヒイロさんの小さなお脳では私を忘れてしまっても仕方ありませんわね!」
 高笑いする斬子だが、その横顔はどこか寂しげだ。
「今日はライバルであるヒイロさんに挑戦状を持ってきたのですわ! さあ、わたくしと勝負なさい!」
「やです」
「がくーっ!? ど、どうして!? ふ、ふん‥‥怖気づいたのね、そうなのね? まあ落ちこぼれのヒイロさんじゃ仕方ないわね!」
「むー‥‥! ヒイロは落ちこぼれじゃないですよぅ‥‥もぐもぐ」
「まず食べるのをお止めになったらどう!? とにかく勝負ですわ! 良くって!? 逃げたりしたら承知しませんわよ!」
 ヒイロの顔面にプリントをねじ込み、斬子は高笑いしつつ走り去っていった。男は腕を組んだままそれを見送る。
「‥‥まあ、付き合ってやってくれるか? あいつもたらい回しというか友達いないというか――」
「むかーっ!! ヒイロもいい加減怒ったです! ヒイロは怒ったのですーっ!! ぎゃふんと言わせるのです! 言わせるのですー!」
 一気にお菓子を口に流し込みモグモグしつつ地団太踏むヒイロ。そのまま部屋に引っ込む少女を見送り、男は溜息を漏らした。
「――まあ、いっか。めんどくせぇし、後はどうとでもなるだろ‥‥」
 煙草を咥え立ち去る男。こうして今日もまた、一つの騒動が幕を開けるのであった――。

●参加者一覧

ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
遠見 エリス(gb4231
15歳・♀・FC
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
ブラン・シュネージュ(gb9660
16歳・♀・JG
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD

●リプレイ本文

●作戦開始
 キメラに制圧されてしまった町の入り口、傭兵達はずらりと並んでいた。
 これから東西に分かれ、二班体制で作戦に臨むのだが‥‥。
「おーっほほほ! 良く逃げずに来ましたわねぇ、ヒイロさん!」
「がるるーっ! 絶対泣かしてやるです、縦ロールがぁ!」
 早速アホの子二名は睨み合いの様相だ。やれやれと言う空気で傭兵達が見守る中、争いはもう一つ勃発しようとしていた。
「あたくし達も勝負ですわ! 嫌とは言わせませんわよ!」
 びしりと指差しつつ宣戦布告したのは遠見 エリス(gb4231)だ。勝手にライバル認定したブラン・シュネージュ(gb9660)に絡む気満々である。
 先ほどから斬子を見ていて妙な既視感を覚えていたのだが、ブランはその理由に納得する。今正に、自分に勝負を挑む縦ロールが一人。
「ああ、千佳さんに似てるんですわね」
「千佳じゃなくてエリスですわ」
 即座に訂正するエリス。しかしブランはわざとなのか、まるで言い直す気配がない。
「キメラの掃討に市民の救出。千佳さんの遊びにつき合っている暇はないのですが‥‥」
「エリスですわ」
「‥‥勝負を挑まれたとあっては退くわけにはまいりませんわ」
「そうですわね。それとエリスです」
 静かに睨み合う二人のツンデレ。アホの子二人と同時に踵を返すと、四人はさっさと東西に分かれて移動して行った。
「ライバルですか‥‥。うん、青春ですね」
「ふーんふんふふふん、仲良く喧嘩しな、と」
 しかし大人の男である米本 剛(gb0843)と上杉・浩一(ga8766)からすればやはり子供の喧嘩なのだろう。特に心配する様子もない。剛に至っては向上心に感心するくらいである。
 そうして何とも言えない雰囲気のまま二手に分かれ、予定通り作戦行動を開始するのであった。

●東のアホ
「今日のヒイロは出来る女ですよー!」
 敵も見えない早々に覚醒し、犬のような耳と尻尾を出現させるヒイロ。張り切る様子にベーオウルフ(ga3640)は溜息混じりに言う。
「相変わらずだな」
「あ、べお君! この間はありがとうなのです!」
 何か今奇妙な呼び名が聞こえた気がしたが、気にするだけ無駄なので会話を継続する。
「そういえばヒイロって幾つなんだ?」
「う? 十四歳ですよ?」
 無言で遠い目をするベーオウルフ。その横でAU−KVに跨っているのは巳沢 涼(gc3648)だ。
 ヒイロが無茶をしないか心配な彼は先ほど斬子とヒイロに声をかけたのだが、二人とも無視して歩いて行ってしまった。
「悪のボスもよろしくですよう!」
「人聞きが悪いな。あれはあくまで設定だからな? ちゃんとわかってるか?」
「大丈夫、ヒイロはお口にチャックなのですよぅ」
 本当にわかっているのかとても心配な顔だった。
「期待させて頂きますよ、オオガミさん?」
 ヒイロの自称を純粋に信じる武人、剛が優しく微笑む。ヒイロは何故かその体にしがみつき、暫く離れなかった。
 奇妙な状況はさて置き、ある程度進んだ所で涼は周囲を眺め、AU−KVのエンジンを唸らせる。
「さぁ〜て、キメラちゃんは気付いてくれるかねぇ」
 地鳴りにも似た低い音が静まり返った町に響き渡る。ヒイロは耳を押さえておろおろしていた。
「あ! キメラがいたですよ!」
 しばらくすると音に気づいたのか、狼が一匹姿を見せた。ヒイロは即座に両手を振り回し襲い掛かるが、噛み付かれてしまう。
「ぎにゃー!? すごく痛いのですー!?」
 と喚くヒイロだが、どう見ても大したキメラには見えない。ブランがヒイロに噛み付いた狼を撃つと、ヒイロは泣きながら飛びついて来た。
「良く考えたらヒイロ、ろくに戦った事なかったですようぅ!」
「なんでそれで勝負を受けたんだ!?」
 思わずツッコむノリのいい男、涼。子供のように泣きじゃくるヒイロの横、ベーオウルフが前に出た。
 普段とは異なりナックルを装備した彼は狼キメラに果敢に殴りかかった。最初は見ているだけだったヒイロも立ち上がり、一緒に攻撃に参加する。
 無言で戦うベーオウルフだったが、そこからヒイロなりに何かを学習しようと必死なようだ。
「――っと、少し数が増えてきましたね」
 先ほどの狼を口火に次々にキメラが姿を現し四人を取り囲む。剛はインフェルノを構え、殿を担当する。
 彼にとっては容易い相手なのか、大斧を軽く振るって狼を薙ぎ払って行く。ブランは小銃「S−01」に持ち替え、制圧射撃で敵を寄せ付けない。
「はあはあ‥‥! や、やっと追い詰めたですよ〜‥‥って、あぁっ!?」
 ボロボロになりながら瀕死に追い込んだキメラが目の前でブランにトドメを刺されてしまう。泣きながら駆け寄るヒイロを片手で押し返し、ブランは攻撃を継続中。
「知りませんわ、スコアが欲しければ根性でどうにかなさい!」
「ヒイロだってやれば出来るんですよ〜!」
 敵に突っ込んでいくヒイロが邪魔で射撃が出来ず銃口を下げるブラン。案の定返り討ちにされるヒイロをフォローし、剛は苦笑いだ。
「ああもうっ! 世話が焼けますわね!」
 何だかんだ言いつつ援護射撃でヒイロを助けるブラン。涼とベーオウルフが残った敵を蹴散らし、一先ず第一陣は殲滅完了した。が‥‥。
「ヒイロ、一匹もやっつけられなかったですよぅ」
 撃破0匹のヒイロが膝をついてガックリしている。涼とベーオウルフは顔を見合わせ、小さく息をついた。
「わ、わたくしのせいじゃありませんわよ! ヒイロがもたもたしているからですわ!」
「わーん! ブランちゃんのいじわるー!」
 ブランに向かっていくが避けられて転ぶヒイロ。東班の戦いはまだまだ続く‥‥。

●西のアホ
「さあ、わたくしの勝利の為に精々戦うのがよろしくってよー!」
 作戦開始と同時に高笑いしているのは斬子だ。その隣、エリスはなにやら不穏な表情である。
 それもそのはず、二人は本当に良く似ているのだ。キャラ被りという現実を目の前に、エリスとしては引き下がるわけにはいかない。
「ふん、あなたの為に戦うなんて真っ平御免ですわ」
「あーら、貴女にはわたくしのお膳立てがお似合いでしてよ。『千佳さん』、でしたっけ?」
「エリスですわ! なんであなたまで!?」
「だって連れが連呼してたじゃない」
 あっけらかんと言う斬子。頭を抱えるエリスの中、ブランへの対抗心がより強まった様子だ。
 二人の睨み合いに完全に置いてけぼりの西班メンバー。クレミア・ストレイカー(gb7450)は銃を手にぼんやりと記憶を遡っていた。
 実は彼女はヒイロと斬子の両名に『勝負を引き分けにしないか』と持ちかけていたのだ。
 確かにそれは両方傷つかず、そして作戦に落ち着きも与えるだろう。ある意味最高の解決手段だったのだが、二人の答えは『NO』だった。
 それどころか実際に現場に来てみれば別の傭兵と斬子は睨み合っている始末。これはもう引き分けでは収まらないだろう。
「言っておきますけど、わたくしは手加減なんてしませんからね」
 クレミアの視線に気づいたのか、斬子がそっぽを向きながら言う。まあ、別段それはそれで関係ないとも言えるのだが。
「なんかよく分からんが競い合うことになっとるようだな」
 本当によく分からん状態に浩一がごちる。その隣、最上 憐 (gb0002)が諭すように語る。
「‥‥ん。斬子は。後方で。力を温存して。足止めは。任せて。トドメはお願い」
 真打ちは最後に出て来るモノだ、と付け加える少女。彼女の目的は斬子を勝たせる事ではなく、無事にこの依頼を果たす事だ。
「殊勝な心がけね。ふふん、まあ任せておきなさい」
 自分がまさかこの小さな少女の掌の上だとは思わぬ斬子、素直に提案を受け入れる‥‥。
「‥‥ん。照明銃を。使う。たまやー。かぎやー」
 敵を誘き寄せる作戦の為、憐が照明弾を打ち上げる。その隣でクレミアはブブゼラを取り出した。
「私はこういう鳴り物を持ってきたけど‥‥」
「‥‥なんでブブゼラですの?」
 ボールを追いかけたくなる音色が町に響き渡る。とりあえず音が出ればなんでもいいのだ。
 音と光に釣られてか、狼キメラが続々と姿を現した。意気込む斬子だが、先ほどの会話を思い出してか踏みとどまる。
「‥‥ん。見付けた。先制する。突撃。一気に。行く」
 先行するのは隣だ。残像斬を発動し、群がる狼に次々にカウンターを叩き込んでいく。しかし倒すのが目的ではなく、狙いは狼の足だ。
「まるで七面鳥撃ちですわねっ!」
 お膳立てをしてくれていると勘違いしている斬子は意気揚々と狼を叩き潰していく。しかし横から割り込んできたエリスが狼を倒してしまった。
「頂きますわっ!」
「ちょっと、それはわたくしの獲物‥‥!」
「何か文句がおあり?」
「文句大有り‥‥ていうか貴女、どうしてさっきからわたくしにピッタリくっついてるんですの!?」
「その傲慢な態度が『死角』になるのよ!」
 さて、説明しよう――。
 次々に敵を倒していくエリスの戦いに斬子が追いつけない理由、それは彼女の背に何故かクレミアがくっついているからだ。
 別に縋り付いているわけではないが、背後に立って斬子の獲物を撃ち抜いていく。我慢しきれず斬子が振り返れば、
「敵に背を見せることは戦う者としての最大の油断――違うかしら?」
 と、ちょっと尤もな事を真顔で言ってくる。声にならない声をあげ斧を振り回す斬子を遠巻きに眺め、浩一は刀を振るい一言。
「‥‥ついていくのがやっとだぞ」
 それはやや彼が想定した意味合いとは異なる。しかし、嫌でも戦いは続くのだ――。

●選択
 東西の班が町の中心で合流する頃、何故か疲れた様子の彼らの姿があった。
「‥‥そっちも大変だったみたいだな」
「‥‥ああ」
 涼と浩一は疲れた様子で頷きあう。ライバル達は今も不毛なやりとりを続けているのだ。
 そんな時であった。民家の上にこれまでの数倍の大きさの狼が現れ、空に吼えたのだ。
 遠吠えに応じるように生き残った狼達がぞろぞろと集まってくる。群れのボスと呼ぶに相応しい巨躯は飛び降り、彼らの前に着地した。
「なんかでっかいの出たですーっ!?」
「‥‥ん。狼キメラは。美味しいのかな。豚。猪。熊。牛キメラとかは。美味しかったけど」
「此処で前に出なければ武人の名折れ‥‥と言うヤツですな」
 驚くヒイロとは対照的に落ち着いた様子で憐と剛が前に出る。
「また依頼後はカレーでも食べに行きましょうか?」
「‥‥ん。カレー。楽しみ」
 狼が吼える。しかしそれに怯む事無く、剛は小さく息を吸い、雄叫びを上げた。
「おぉぉぉぉ! 我流――四縛封!」
 仁王咆哮で注意を引き付け、ボスの動きを奪う。近づくキメラは憐が残像斬で迎え撃つ構えだ。
「‥‥ん。外れ。それは。実は。残像。ばいばい」
 大型キメラとの戦いの最中、何故か民家からひょっこり顔を出す子供の姿があった。涼がそれに気づき、狼を爪で切りつけながら声を上げる。
「民間人が居る! 誰かフォロー出来るか!?」
 近くにたまたまいたのはヒイロであった。慌てて子供に駆け寄るが、その背中に狼が襲い掛かった。
「浩一君!?」
 その攻撃を庇い、浩一が狼を撃退する。噛み付かれたようだが、大した怪我ではない。
「大丈夫だ、DFはこういうのも仕事なんでな。それよりその子を‥‥」
「ま、まだ家の中に怪我してるお父さんがいるって!」
 子供から話を聞いたヒイロが慌てた様子で言う。おろおろするヒイロの手を引き、ベーオウルフが民家に入っていく。
「ヒイロは怪我の応急手当の方法を知っているか?」
「知らないですよぅ」
「ならやりながら覚えろ。今この命を助けられるのは俺達だけだ」
 力強い言葉に手を握り返し、ヒイロは戸惑いながらも頷く。こうして怪我人の手当てが進む頃‥‥。
「スタングレネード、行きますわよ! 隠れて!」
 エリスの閃光手榴弾を切欠に傭兵達は一気に攻勢に出ようとしていた。
 浩一が足元を斬り付け、涼が背後に回りこみ竜の咆哮を纏った一撃でボスを吹き飛ばす。その隙に浩一の合図によりクレミアは影撃ちをで急所を狙う。
「‥‥いまだ、撃ちぬけ!」
「OK! いくわよ!」
 更に続き、エリスとブランが両側面から攻撃を仕掛ける。
「ド迫力でブチ抜きますわっ!」
 貫通弾を使用したブランの会心の一撃が命中し、怯んだ所へエリスが迅雷で突っ込み、カデンサを突き刺す。
「これはおまけですわ!」
 一瞬でテンペストに持ち替えたエリスは突き刺した槍を押し込むように殴りつけた。ボスは悲鳴を上げながらどさりと倒れ、それ以上動く事はなかった。
「‥‥ヒイロさんは? ヒイロさんはどこですの?」
 途中から戦闘に身が入っていなかった斬子はヒイロが気になっていたようだ。だが彼女はベーオウルフと共に直ぐに姿を現した。
 傷ついた男性は応急処置も上手く行き、今は落ち着いている。ヒイロは勝負を忘れやり遂げた表情で笑うのであった。

●矜持
「引き分けにしましょう」
 戦闘終了後、要救助者を病院へ送った後斬子が言った。ヒイロはきょとんとした目で斬子を見ている。
「でも、ヒイロ一匹もやっつけてないですよ?」
「今回は邪魔も入ったし、それに貴女は人命救助でしょう? こんなの勝負になりませんわ。その代わり、次は容赦しませんわよ」
 見詰め合う二人を眺め、エリスとブランも何やら神妙な面持ちだ。別に諭されたわけではないが、争うのも馬鹿馬鹿しい。
「まあ、今回は二人に免じて‥‥ね、千佳さん」
「そうですわね。それとエリスですわ」
 ヒイロと斬子とは異なり、こちらはまた睨み合いが始まったようだ。というよりはエリスがあしらわれているようにも見えるが。
「さて、皆さんもご一緒にどうですか? 美味しいカレーの店を知っているんです。代金は自分が持ちますよ」
「ほんとですか! ヒイロおなかぺこぺこです!」
「‥‥ん。カレー」
 剛の提案に目を輝かせる憐。皆で一緒にカレーを食べる事になったようだ。
「で、いつまでついてくるんですの?」
「‥‥さあ?」
 斬子とその背後を歩くクレミアも。
「べお君と涼君も行くですよー!」
 手を繋いで走り出すヒイロも、皆が笑顔だった。
「スピードとパワーか。意外とやるかもしらんな」
 斬子とヒイロを見やり、浩一は呟く。願わくば、二人が友として仲間として、いつか手を取り合えますように――。
 こうして和やかなムードの中、騒がしい依頼は何とか決着するのであった。
「で、結局貴女、エリス? それとも千佳?」
「だから、エリスですわ!」
 首を傾げる斬子に素早く返すエリス。めでたしめでたし。