タイトル:ドミニカアフター3マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/05 08:17

●オープニング本文


『ドミニカ、こっちにはいつ帰って来るんだい? 戦争はもう終わったんだろう?』
 ドミニカ・オルグレン、二十歳。クラスはエレクトロリンカー。現在は傭兵組織ネストリングに所属している能力者だ。
 住まいはLHの隅っこの方にあるアパート。狭いがボロくもないアパートをきちんと片付け、きれいに一人暮らしをしていたりする。
 そんな彼女の最近の悩みは、故郷から度々帰郷するようにと催促の電話が掛かってくる事で、今正に自室でその対応に追われていた。
「だから、まだ色々やる事があるから帰れないって何度も言ってるでしょ?」
『やることってなによ。あなたそう言ってばっかりで全然帰ってこないじゃない』
「そもそもなんで帰らなきゃいけないのよ‥‥」
『別に本当にやる事があるならいいのよ? でもどうせあなたの事だから、戦争が終わってお払い箱になってるんじゃないの?』
「失礼ねー! 今でも引っ張りだこよ!」
 と、受話器に叫びながら内心では正にその通りだと考えている自分が居た。
 戦争は終わったのだ。まだ能力者の存在は必要とされているが、それは一部の優秀な者が残ればそれで済む話。自分のようにハンパで未熟な能力者が一人二人居たところで世の中は何も変わらないだろう。
『ならいいんだけどねえ。仕事も無くて行くところもないんじゃかわいそうでしょう? こっちに帰ってくればいいじゃないのよ』
「帰ったって私のする事なんてないでしょ」
『何言ってんの、オルグレン農園はいつでも人手を募集してるわよ。あなたも小さい頃はつきっきりでお手伝いしてくれたじゃないの』
 冷や汗を流しながら回想するドミニカ。確かに子供の頃は実家の農園が世界の全てだったし、そこで生きるのが当たり前だった。
 麦藁帽子を被り、白いワンピースにサンダルだけで果てしない大地を走っていた幼い頃。あの頃は‥‥なんとまあ愛らしい少女だった事か。
「あれ‥‥? なんか私の可愛さって年々劣化してない‥‥? おかしいなあ‥‥」
『何ぼそぼそいってるの。とにかく、早くこっちに帰ってきなさい。それで結婚しちゃえばいいのよ』
「結婚!? なんでそうなるのよ!?」
『だってあなたどうせ貰ってくれる男の人なんていないんでしょう? 農園を継ぐ男手も欲しいし、丁度いいじゃない』
「農園存続のためだけに娘を差し出すな!」
『違うわよ、うちがお婿さんを貰うの。大きい声じゃ言えないんだけどね、あんた見てくれだけはいいから、お見合いの話もいっぱいあるのよ』
「嫌よ見ず知らずの男と結婚するなんて‥‥結婚っていうのは好きな人とするもんなの!」
『何少女みたいな事言ってるのよ。今は若いからいいけどね、すぐに行き遅れるわよ? 第一誰か結婚相手のアテはあるの?』
「あんな果てしなくオリーブ畑しかないようなド田舎に好き好んでくる男がいるかボケーッ!!」
 怒鳴りつけながら受話器を置くドミニカ。肩で息をしながらゆっくりとソファに移動し、頭を抱えるのであった。



「それで、ドミニカちゃんはなぜ土下座しているですか?」
 後日、ネストリングの事務所にてヒイロは屈んで首を傾げていた。目の前には美しいDOGEZAを決めたドミニカがいる。
「お願いします社長。一日だけ私に社長を譲ってください」
「ヒイロしってる。いちにちしゃちょう!」
「ドヤらないでくれる? あのね‥‥実はかくかくじかじかで‥‥」
「ふむふむ。つまり、自分はLHで会社を興した社長だから、故郷には帰れないと嘘をついてしまったのですね」
 あんまり電話がしつこいもので、口からでまかせで言ってしまったのだ。今は後悔していた。
「まあ社長を代わって上げるのは可能ですが、他にどんな嘘をついたですか?」
「えーと‥‥。私は優秀な能力者で、皆にひっぱりだこで、優秀な能力者達を束ねるリーダーで、イケメンで高学歴で優しい、結婚を前提にお付き合いしている彼氏が居て‥‥」
「ドミニカちゃん。私、嘘を吐くのは良くないと思うな。それに嘘を吐く時は少し本当の事を混ぜておかないとすぐばれてしまうよ」
「真顔で心配するんじゃねーッ!! うっさいなーもー! わかってますよーバカですよーちくしょー!」
 泣きながらヒイロの襟首をつかんで揺さぶるドミニカ。一登とキラはすっかり呆れた様子だ。
「セルマ〜あんただけでも協力してちょうだいよ〜。友達でしょ〜‥‥」
「う、うむ‥‥。しかしな、私は演技というのが苦手で‥‥恐らくボロを出してしまうだろう」
「右に同じです。無能な人間を‥‥プッ! 有能な風に見る演技なんて‥‥ククッ! 無理です‥‥」
「キラァアアアッ!! 先輩に向かってその態度ーッ!!」
 地面を叩きながら泣き喚くドミニカ。キラは無表情のままスーっと移動し、そのまま事務所から出て行った。
「うぅぅ‥‥なんでこうなったのよ‥‥。私だって一時はあのブラッド・ルイスの私設部隊にいたのよ‥‥超がつくエリート傭兵の一人だったのよ‥‥」
「それはほら、ブラッド君はドミニカちゃんを最初から殺す気だったから!」
「いい笑顔で捨て駒とか言うなあああ! ヒイロのばかーっ!! あんたちょっとそういうとこ怖いから直しなさいよー!」
「つーかさ。ドミニカねーちゃんが社長だとして、ルリララはどうすんだよ」
 一登の一言で衝撃が走った。
 ルリララというのは元強化人間の少女で、現在はネストリングで生活している所謂客人である。
 その監視と保護はUPCから委託された正式な依頼であり、決して軽視できるような内容ではない。
「カズ、ちょっとルリララ呼んできなさい」
 ドミニカの指示でルリララをつれてくる一登。ドミニカは笑顔でその首に首輪をつけた。
「これで、私が捕まえた強化人間で取調べ中だと誤魔化す」
「‥‥ねえ、ボク寝てたの起こされたのに、こういう場合はどうしたらいいの? 怒っていいの?」
 瞼を擦りながら呟くルリララ。そんなこんなでぎゃーぎゃー騒いでいるとどんどん時間が過ぎていく。
「仕方ないですねー、ヒイロ達が協力してあげるですよ。それで、ご両親はいつごろくるですか?」
「明日」
「あし‥‥わふぅーッ!? 明日ですかーッ!?」
「うん‥‥ごめん‥‥」
「あわわわ用意しなくてはー! みんな、ドミニカ新社長の為に一肌脱ぐですよー!」
 こうしてネストリングは一日だけドミニカのものになるのであった。

 ドタバタ騒ぎの事務所を出たドミニカは一人肩を落としながら道を歩く。
「私だって‥‥そりゃ、もっと色々な人の役に立ちたかったわよ‥‥」
 恋だってしたかった。ちゃんと結婚相手だって探したかった。
 でもこの島にやってきてから起きた色々な事件がそうさせてくれなかったのだ。
 結局ブラッドを倒すために積み重ねた時間は何の意味もなく、奴のたくらみに利用されただけだった。
「私‥‥何のために傭兵になったんだっけ」
 足元に転がる路傍の石を見下ろし、ドミニカは情けなく溜息を零した。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
崔 南斗(ga4407
36歳・♂・JG
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
茅ヶ崎 ニア(gc6296
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

「ドミニカさんは‥‥この度の社長ご就任、おめでとう御座います、ね‥‥」
 恭しく頭を下げるキア・ブロッサム(gb1240)の前、社長席でドミニカは死んだ魚のような目をしていた。
 いよいよ問題の依頼当日。急ごしらえの準備なのは全員同じ事で、ドミニカもいまいち腹が決まっていなかったりする。
「久しぶりに会ったと思ったら、あんたも相変わらずね‥‥」
「それは此方の台詞ですよ‥‥」
 肩を竦めるキア。ドミニカは小さくなったままぐぬぬとなっている。
「それにしてもよ、この嘘はねえだろ‥‥」
「なんだか昔の事を思い出すな。懐かしい気分だ」
「ブラッド・ルイス瞬殺は無理でしょー! 馬鹿も度が過ぎると致死量に‥‥ってもう遅いか」
 横並びに巳沢 涼(gc3648)、上杉・浩一(ga8766)、茅ヶ崎 ニア(gc6296)が三者三様の反応を示す。涼は呆れ、浩一は過去を懐かしみ、ニアは爆笑している。ドミニカは赤くなってぷるぷるしていた。
「しょうもない嘘を吐くからそうなると‥‥」
「ちくしょう! あんた達私をバカにしに来たのか手伝いに来たのかハッキリしなさいよねー!」
「別にどちらでもないな‥‥見に来ただけかもしれん」
 消しゴムを投げつけるドミニカ。藤村 瑠亥(ga3862)は同じ姿勢のままスっと動いてそれを回避した。
「ま、まあまあ‥‥ちゃんと準備はしたんだし大丈夫だよ。会社もまともに見えるようにしたし」
「それはー、普段はまともな会社に見えないということでしょうかー?」
「いや、そういう訳じゃないがっ」
 ヒイロの視線に慌てる崔 南斗(ga4407)。普段まともかは別として、事務所内も綺麗に片付け整理整頓した為、ぱっと見は随分ましになったように思える。
「ま、しゃーない。ドレミの悲しい嘘に付き合ってあげますか」
「ドミニカちゃんがいなくなるのは嫌だしな。ところで俺の服装、どっか変な所ないよな?」
 頭の後ろで手を組み笑うニア。その横で涼が慣れないスーツに緊張していると、キアが歩み寄りネクタイを直した。
「大丈夫、スーツも似合っていますよ‥‥」
「こらそこー! 近いわッ!」
 麻雀の牌を投げつけるドミニカ。キアはそれを受け取り投げ返しながら訊いた。
「ところで‥‥貴女自身、此処に残る理由はおありなのですか?」
「へぶぅ! の、残る理由?」
 額をなでるドミニカ。キアは真顔で向き合う。
「必要とされるから‥‥そんな方もいるのでしょう。けれど多くの者が今まで此処に居た訳‥‥それは誰かに頼られたからではなく、己が理由の為だった。私はそう思いますね‥‥」
 旧ネストリングのメンバーは特にそうであったと言えるだろう。
 組織の為でも人類の為でもなく、自分の為に戦っていた。理由は様々だったが、自分の価値や目的地について彼らは確かな物を持っていた。
「そりゃ、わかってるけどさ」
 どんどん自分の道を進んでいく仲間達。取り残されたような気持ちになって、ただこの場所にすがり付いているだけなのかもしれない。
「他に道がある分、迷うのやも知れませんけれど、ね」
「おっと、そろそろご両親が来る時間だ。迎えに行かないと」
 時計を確認した南斗の声で全員が慌て出す。こうしてドミニカの一日社長が始まるのであった。

 港まで車で迎えにやってきた南斗と浩一。ドミニカの両親は二人を見て頭を下げた。
「わざわざお出迎えありがとうございますね」
「いえいえ、リムジンでなくてすみません。安全と機動性重視なもので。ささ、どうぞこちらへ」
 両親を後部座席に乗せ、南斗が運転、浩一が助手席に座って事務所を目指す。
「あんたらがウチの娘の社員なのかい? 若い娘がこき使ってすまねえな」
「仕事ですから。それに社長は俺達にとって一緒に事件を解決した仲間であり、恩人なんです」
 小麦色の肌のいかつい筋肉親父に対応する浩一。南斗も運転しつつフォローする。
「社長はいつも皆の事を気にかけつつ全力で仕事をされています。歳は関係ありませんよ」
「そうか? あの世間知らずなドミニカが立派になったなあ」
「‥‥そういえば、社長はどのようなお子さんだったんですか?」
 浩一の質問に親父は腕を組み、ニカっと笑う。
「何事も一生懸命だが、ちょいとドジなところがあってな。花火で遊んでオリーブ畑を燃やした事もあった」
「昔からド‥‥真面目なお子さんだったんですね」
 そんな世間話をしつつ事務所に到着する車。そこでは傭兵達が並んでお出迎えに来ている。
「ネストリングへようこそ‥‥」
「はじめまして。私は社長秘書の茅ヶ崎ニアと申します。こっちは美人受付嬢のキア・ブロッサム、そしてこちらが‥‥」
「は、はは初めまして! む‥‥娘さんとお付き合いさせて頂いております、今日はよ‥‥よくお越し下さいました!」

 ――両親到着五分前。

「そろそろ来るけど、巳沢さん大丈夫?」
「高学歴でもイケメンでもないが、まぁ二年前に似たような事やったからな。安心しとけ!」
 サムズアップし爽やかな笑みを浮かべていた涼。

「これは‥‥」
「めっちゃ緊張してる‥‥」
 超小声で呟くキアとニア。二人に挟まれた涼はガチガチな様子で両親と握手を交わしている。
「遠路遥々ようこそいらっしゃいました‥‥。何分急な事で大したお持て成しも出来ませんが、ゆっくりして行って下さい」
 キラキラした笑顔で前に出るキア。ニアは見えないところでサムスアップした。
「事務所はこちらになります」
「わはは! 美人に案内されるのはいい気分だなあ!」
 事務所に入っていくキアと両親。南斗と浩一は胸を撫で下ろし、ニアは涼の背中をばしばし叩いた。
「しっかりしろ彼氏! 大丈夫結構様になってるって!」
「頑張るんだ巳沢さん。俺はこのまま失礼するが」
「ちょっと待て、上杉さんどこ行くんだ!? 汚いぞ!」
「わかってくれ。ボロを出さない為なんだ‥‥」
 走り去る浩一。涼はそれを呆然と見送った。
「巳沢君、まだ終わりじゃないぞ! 事務所へ行かないと!」
 そして涼はニアと南斗に捕まってずるずる引き摺られていった。

 両親を事務所へ案内するキア。その進行上に段ボール箱に入ったヒイロが待ち構えている。
「きゅーん。誰か拾って欲しいのですよー。ヒイロは悪党の小娘なのでひどい仕打ちをうけています‥‥きゃいん!」
 キアは静かに加速しヒイロの入った箱を廊下の隅に蹴っ飛ばした。
「何かの鳴き声が聞こえたような‥‥」
「あら‥‥何か御座いました?」
 笑顔で事務所に入るキア達。ドミニカはブラインドの隙間から街を見下ろしている。
「‥‥社長、ご両親をお連れしました」
「ご苦労、下がって良い! パパ、ママ、久しぶりね!」
 両親に駆け寄るドミニカ。親父はドミニカを粉砕する勢いで抱き締め、母は事務所を眺めている。
「あなた本当に社長なんてやってるの?」
「ほ、本当に決まってるでしょ。茅ヶ崎君、今日のスケジュールは?」
 そこへズラーっと事務所入りするニア、涼、南斗。ニアは手帳を取り出し咳払いする。
「本日のご予定は午前に孤児院の訪問、午後に強化人間更生進捗確認、夜には婚約者の巳沢様とディナーの御予定となっております」
「なんだか難しい事をしているのねぇ」
「社会に貢献する崇高な仕事ですから。社長に救われた人も沢山居ます。例えば彼女」
 冷蔵庫を開けて牛乳を一気飲みしていたルリララを指差すニア。
「彼女は元強化人間ですが、ご覧の通り人間社会に慣れて来たようです。これも社長のご尽力の賜物ですね」
 手を振るルリララ。そしてニアは廊下からヒイロの首根っこを掴んで持ってくる。
「これは父親の所業によって迫害を受けていた少女です。今では頼もしい仲間になりました」
「ヒイロは拾われっこだといわれています。でゅふふ‥‥」
 そしてヒイロをポイっと投げ捨て、涼の傍に立つニア。
「彼は筋肉質でちょっぴりワイルド、素敵な婚約者です。社長とお似合いだと思います」
「失礼ですけど、うちの娘のどこがよかったんですか?」
「馴れ初めですか。それは‥‥」
 咳払いし背筋を正す涼。そうして真っ直ぐに両親を見て答えた。
「依頼で出会って色々あって気付いたら、ですね。娘さんとは色々ありました。巨大ロボと生身で戦った事もあれば、記憶を失った友達を献身的に介護した事もありました。そういう娘さんの色々な面を見て、とても可愛いなと思ったんです」
 母は涼を見て笑顔を浮かべる。そうしてドミニカに言った。
「あなたには勿体無い、真面目な人じゃないか」
「で、彼氏とはどこまで行ってんだ? 子供は何人作るんだ?」
「な、何言い出してんのよバカ親父!」
「今はまだ学生の身ですから、娘さんとは節度を持ったお付き合いをしておりまして‥‥!」
 両親の言葉に慌てるドミニカと涼。事務所内も和やかな空気になり、緊張も徐々に解けていった。
 それから傭兵達はいかにドミニカが活躍したか、誇張しつつも両親に話し聞かせたのであった。

 時間はあっという間に過ぎ、両親も帰る事になった。南斗がまた車を出し、今度はキアが見送りについていく流れだ。
「あなたがここに残りたい理由はわかったわ。でも、本当に帰らないのね?」
「ドミニカもこっちの学校に通いたいそうなので、社長業の合間に勉強中なんです。ずっと勉強したいと言ってましたから」
 涼の言葉に微笑む母親。そして涼は言った。
「それが終わったら、いずれは一緒に式を挙げたいと思っています」
 一番驚いているのがドミニカだったりする。親父は涼の肩を叩き、母は手を取って言った。
「そいつはありがたいが、自分の未来を決め付ける必要はないぜ」
「本当にやりたい事があるのならそれを一生懸命頑張りなさい。それが大人になるという事なのよ」
 車に乗って去っていく両親。ドミニカはその涼に向けられたその言葉に複雑な表情を浮かべていた。

「わざわざ見送ってくれてありがとう」
 港へ車で両親を送ったキアと南斗。キアは頭を下げる母親に応じながら告げた。
「私達は数多の戦場と敵‥‥その中を駆け抜けてきました。そんな中で手放せぬ物、離れたくない方‥‥社長の周りに今居る方々は、それをあの子に感じている者達です」
 ゆっくりと頭を上げ笑ってみせる。
「大丈夫です‥‥実際あの子は強いですから。ブラッド・ルイス‥‥仕留めましたのが誰やら忘れましたけれど、切欠は彼女と仲間‥‥かな」
「良かったわ。あの子にあなたのような友達がいて」

 両親が帰った後、傭兵達は事務所で一息吐いていた。何とか今日は乗り切ったが、ドミニカの表情は優れない。
「みんな、変な事に巻き込んじゃってごめん‥‥」
「それはいいが、お前はこれからどうしたいんだ?」
「うわっ! あんたいたの‥‥」
「壁際にな。お前もわかっているんだろう。全ては自分次第だと」
 壁に背を預けたまま語る瑠亥。
「やりたい理由がなければやめればいいと。なぜ続けるのか、何をしたいのか、それが見つからないならそれこそ農家でも継げばいい。安寧はいいものだと」
 ズバリとした瑠亥の言葉だがそれは真実で全員が思っていた事でもある。
「それが嫌だと、なすべき事があるんだと言えるなら続ければいい。お節介も多いのだし、胸を張って親にそう言ってやれ。はっきりしないから不安がるんだと」
「何故傭兵になったのか。今何故傭兵でいるのか‥‥改めて探すのもありだぞ。俺とてそれを見つけるまでかなりかかったからな」
「上杉さん、居たの!?」
「さっきからな。思えば色んな子に訊いてきたが君にはまだだったな。君は何故、傭兵になった?」
 考え込むドミニカ。だが考えれば考えるほど自分には何もないと気付いてしまう。
「農園が嫌いじゃないなら、各地で農園の復旧を助けるっていう折衷案もあるわよ? 経験を生かしつつ果樹園を蘇らせたいって思わない?」
「それはいい考えだと思うけど‥‥」
 ネクタイを緩めながら語りかけるニア。ドミニカの肩を叩く。
「料理が得意なら戦災地の炊き出しや飲食店再建の手伝いだって出来る。何やるにしても私は手伝うよ」
「そう卑屈にならずとも依頼ではドミニカの回復で助かった者も多いだろうと」
「藤村‥‥」
「まあ俺は回復してもらった事はないがな」
「ちっくしょー!」
 泣きながら走り去るドミニカ。瑠亥は首を傾げている。
「‥‥俺のせいか?」
「だけではないと思いますけれど」
 苦笑を浮かべるキア。そして涼へと歩み寄る。
「貴方は追いかけなくて宜しいのですか‥‥?」
「お、おう」
「嘘で固められた喜劇でも‥‥一つ位真実にしても良いのではありません‥‥?」
 振り返る涼。そこでは仲間達がそれぞれの笑顔で背を押している。
「俺も腹を括るか‥‥行って来るぜ!」
 事務所を飛び出す涼。そこでヒイロは思い出したように言った。
「ところで浩一君はなぜボロボロですか?」
「色々あってな」
「何で本筋に関係ないところでそんなに?」
 ヒイロとニアの視線から逃れ、男はさりげなく腰を叩いた。

「どうせ私なんて‥‥」
「まあまあ‥‥。そうだ、君に渡しておきたい物があったんだった」
 道端で膝を抱えるドミニカ。追いついた南斗は自らの腕に巻いていた首輪をドミニカに渡した。
「俺は何も守れなかった。しょっちゅう無力感に苛まれるよ。でもでも蹲ってるとビリーやメルに怒られる気がしてな」
「これ、ビリーの?」
「関ってきた皆が今のネストリングを作ったと思う。一人だけで成せる事なんてたかが知れてるが、それでも自分に出来る事はあったしこれからもあると信じて進もうと思ってるよ。どんな形でもね」
 頷きながら語る南斗。そして振り返りながら告げる。
「これからのネストリングにドミニカさんは必要だと思う。でも一番大事なのは君自身が納得の行く生き方を見つける事だよ」
 視線の先には駆け寄る涼の姿が。ドミニカは背を押されそこへ歩いていく。
「涼‥‥」
「ドミニカちゃん」
 咳払いする涼。そうして空を見上げる。
「きょ、今日は‥‥月が綺麗だな」
「そうね?」
 同じく空を見るドミニカ。涼は頭をわしわしと掻き、言葉を続ける。
「え〜と、味噌汁が飲みたいな〜とか」
「飲めば?」
「いや、君が作った味噌汁が飲みたいんだよ」
 怪訝な顔をするドミニカ。それからきょとんと目を丸くする。
「家族で麻雀するのが夢なんだが‥‥今日の話、本当にしてみる気はないか?」
「それって告白?」
「の、つもり‥‥」

 自分の居場所もそこにいる理由も、誰かに決められるものじゃないから。
 大切な事が気持ちだというのなら、成程。確かに彼らの言う通り、彼女は此処に居る理由があったのだ。

「――よろしくお願いします!」

 手を握り締めて笑うドミニカ。赤らめたその頬に涙が伝い、この騒動に幕を下ろすのであった。