タイトル:【火星】イカロスの翼3マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/28 08:20

●オープニング本文


「なんというか、随分と派手にやられましたねえ」
 月面基地に停泊しているベネトナシュの船内。そのKVハンガーでシン・クドウは立ち尽くしていた。
 彼の目の前には派手に損壊した愛機の天が修理を受けている。シン自身も包帯を巻いており、彼方此方を負傷している様子だった。
「コジマ少佐」
「クドウ君、怪我の具合はどうですか?」
 ベネトナシュの船長であるコジマ少佐の登場に敬礼を返すシン。姿勢を正したまま愛機を見つめる。
「自分は軍人で能力者です。この程度の負傷、どうという事はありません」
「そうですか。そうでしたねえ‥‥しかし一つしかない命、大切にしなければいけませんよ。特に若者はね」
 ウンウンと頷くコジマ。そうして帽子を目深に被った。
「例の銀色のカスタムHW‥‥君の機体ではどうにも追いつけないようですねえ」
 眉を潜めるシン。何を隠そう、この機体は例のHWに撃墜されたものだ。
 決戦後、例のHWは一度姿を消した。その間もシンは彼がどこへ向かったのか、それが頭の中に引っ掛かっていた。
 戦争はすっかり終わったとされているが、シンの中ではまだ何も終わってはいなかった。月面基地を拠点に仕事を続けていても、頭のどこかでいつもあの敵の事を考えていた。
「一度は見なくなったのですが、また現れたからにはもう一度交戦する事になるでしょうね」
「狙いは‥‥ネフライト計画の妨害でしょうか」
 ネフライト計画。それは手っ取り早く説明すると、月面に大型のレーザー砲を設置しようという計画である。
 バグア本星が残した膨大な数のデブリを処理する手段として開発に着手したものだが、最終的には火星移住を視野に入れている施設である。
「有力なバグアがいなくなったのにまだ邪魔をしてくる理由もよくわかりませんがねえ」
「恐らく意地ではないでしょうか」
「意地ですか?」
「奴は‥‥要するに人類が宇宙に進出する事を認めていないんですよ。だから宇宙にあがるにしても火星に行くにしても邪魔をしてくる」
 何時になく饒舌なシン。拳を握り締め、表情も熱を帯びている。
「もうバグアがどうとかは関係ないんです。だから奴は今、意地だけで動いている」
「意地‥‥執念ですか。確かにどれだけ撃退しても現れ此方に痛手を与えてくるあの動きは執念としか表現のしようがありませんね」
 銀色の流星、カスタムされたヘルメットワーム。
 それは圧倒的な戦力差である月部隊に何度も攻撃を仕掛け、そのつど撃退されども被害を残していた。
 シンもその戦闘に参加し撃墜された。あのHWとは何度か当たっているが、今の所全敗である。
「いよいよレーザー砲もすっかり完成しましたから、発射しようという段階に入っています。となれば、向こうもそろそろ仕掛けて来る頃合でしょう」
「俺が出ます。奴は俺が倒さなければいけない相手です」
「しかしねクドウ君、君の天では性能差がありすぎますよ。どうです? ここはいっそヴァダーナフあたりに乗り換えてみては?」
 首を横に振るシン。そして過去を懐かしむように愛機を見た。
「あいつは俺にとっての半身なんです。宇宙に上がる時も一緒でした。戦争が終わる時も一緒でした。だから最後まであいつと一緒に居たいんです」
「しかしあれは試作型の天を騙し騙し使っているものでしょう?」
「確かに性能は新型に比べれば劣ります。それでも俺は降りませんよ」
「降りろと命令したらどうです?」
「その時は‥‥軍人を辞めます」
 ハッキリと言い放ったシンにコジマは苦笑する。
「相手は強敵ですよ。機動力を生かした近接攻撃も脅威ですが‥‥」
「理解しています。奴の真骨頂は大火力の砲撃武器です。扱い辛い火力だろうと機動戦だろうと、それこそ零距離でも当ててくる」
「‥‥君は気付いているのですね。彼の事に」
「リェンにはまだ言っていません。動揺すると困りますから」
 肩を竦めるコジマ。そうして溜息混じりに言った。
「彼とは古い友人でした。お互いまだ隊長だなんて呼ばれる前からの付き合いです」
「‥‥少佐が?」
「彼は現場に拘る人間でした。私はご覧の通り無能ですが家柄だけはよかったもので、とんとん拍子に昇進できましたよ。殆ど彼の手柄でしたがね」
「それは‥‥」
「いいんですよ、事実ですからね。そして私は彼とと約束したんです。彼は現場で、私は上で軍をよくしていこうと」
 帽子を脱ぎシンと向き合うコジマ。いつになく真剣な様子で男は言った。
「不思議な縁ですね。私達四人は、まるで運命の悪戯の中にいるようです」
「‥‥そうですね。そう、俺も思います」
「クドウ君。君たちは戦争が終わった後どうするのか考えていますか?」
 首を横に振るシン。コダマは笑顔で言った。
「もし君達にその気があるのなら、ネフライト計画に参加してみてはどうでしょう? 空の壁を突き破った君達なら、きっとお似合いですよ」
「今はそんな事を考えている余裕はありません。奴を倒してから考えます」
「ははは、そうですねえ。ですが覚えておいてください。君達若者は過去の柵に縛られても仕方ないのです。羽ばたける所まで羽ばたいてこそ、その命の責任を果たせる‥‥私はそう思うのですよ」
 帽子を被り直し立ち去るコダマ。シンはその背中を無言で見送った。



「ヨルク様、出撃の準備が終わりました!」
 バグア艦の中、一人の男がHWの前に佇んでいる。その背後にバグアの作業員がよたよたと歩いてきた。
「全機可能な限りの整備を施してあります。ただ、いかんせん補給も絶えて久しいもので‥‥十分とは言い難いのですが」
「構わんよ。動けばそれでいい。奴らに一矢報いてやるくらいは出来るだろう」
 男は振り返り整備員を見た。この整備員を残し、他の人員は全て引き上げた後である。
「お前も他の連中と一緒に逃げればよかったものを」
「はあ。しかし自分はこの船の整備担当ですから」
「‥‥そうか。感謝するぞ。悪いがお前には一緒に死んでもらう。無論、ただでは死なせんがな」
「それにしてもヨルク様。なぜヨルク様はこれほどまでに人類に執着するのです? 別の惑星に行った方が良いと思うのですが」
 男は腕を組み思案する。それは本人にとっても疑問に思う事であった。
「そうだな。強いて言うのならば‥‥意地、か?」
「意地ですか?」
「奴らの壁として立ちふさがってやらねば気がすまないのだ。我ながら不思議だがな」
 それは執念だ。しかし彼は気付いていない。その気持ちは確かに歪んではいるが、一種の親心であるという事に。
「――出撃するぞ。無人機を私の後に続かせろ」
「了解です! ヨルク様、ご武運を!」
 銀色のHWに乗り込み男は宇宙に駆けて行く。何かにせかされるように、白い軌跡を描きながら‥‥。

●参加者一覧

イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

 敵襲の連絡を受け、傭兵達は母艦であるベネトナシュより発進する。月を背に闇を進む彼らの前方、HWの編隊が迫っていた。
「間違いない、奴だ」
「ったく、一体何なのよあいつ! 何度追い返しても襲ってくるんだから!」
 シンとリェンがそれぞれ感想を漏らす。敵は既に満身創痍。それでも真っ向から攻撃を挑んでくる。
「何故残留しているのでしょうか? 何かに対して執着や因縁があるのかも‥‥?」
「あんなのに好かれる理由あったっけ?」
 御鑑 藍(gc1485)の声に首を捻るリェン。だがその因縁に心当たりがある者も居た。
「シン、援護を頼む。ここで終わらせよう」
 眼鏡を外し愛機に乗り込んだリヴァル・クロウ(gb2337)。シンは頷き操縦桿を確かめるように握る。
「ああ。これは俺達の戦いだからな」
「そうだね。あの時始まった宇宙へ行く為の戦争‥‥僕はまだ、何も終わらせられていない」
 クローカ・ルイシコフ(gc7747)は銀色のHWを見据える。迷いと疑念を振り切るように、ただ戦闘に意識を集中させた。
「誰も彼も意地、みてぇでありやがるですね。だけどここらで引導を渡さねぇと、ですよ」
 そういいつつ、並走するシンの機体を眺めるシーヴ・王(ga5638)。
「シンとか言いやがりましたか。乗機に拘りやがる気持ちはシーヴもよく分かりやがるです」
 ふっと微笑みながら何度も何度も座ったシートを、そして操縦桿の感触を確かめてみる。
「鋼龍は‥‥ずっとシーヴと一緒だった、です。掛け替えのねぇ、相棒でありやがるですよ」
「‥‥ふっ。そんなポンコツでこんな所まで良く来たもんだ。大事な相棒を落とされないように気をつけろよ」
「ぬかしやがったですね。鋼龍の実力は自分の目で確かめやがるですよ。そっちこそ大事な相棒を棺桶にしないよう気をつけやがれです」
 ヨルクへの因縁、愛機へのプライド。そんなものは蚊帳の外においている感じの傭兵もいる。
「ヨルク? 誰それ? どこのどいつか知らんが、敵が強いのはいつもの事だし‥‥やる事は変わらん」
「同感だ。未だに世界には闘争が出来る場所がある‥‥私にはそれだけで十分だ。尤も、相手が素敵ならそれに越した事はないがな?」
 平常心そのもののルナフィリア・天剣(ga8313)。イレーネ・V・ノイエ(ga4317)は不敵な笑みを浮かべているが、これがデフォルトなので平常心だといえる。
『相手は手負いとは言え強敵よ。決して無理はせず、熱くなりすぎないようにね』
 母艦からの通信は中々難しい注文をしてくる。一部の人間にとってこの戦いは――熱くならないわけにはいかない戦なのだから。

 双方の距離が縮まり戦闘が開始された。ヨルクはHW隊のやや後方に位置し前進、傭兵側はヨルクとHWに二班に分かれて対処する構えだ。
「まずは邪魔なのから排除しやがる、です」
「悪いがちまちま相手をしてやる気はないんでな」
 HWごとヨルクをマルチロックするシーヴとルナフィリア。藍、クローカも敵を片っ端からロックし、一斉にトリガーを引いた。
 発射された膨大な数のミサイルが火を吹きながら跳んでいく。打ち出されたコンテナからもミサイルが次々と花開き、宇宙空間に弾幕を形成した。
 それに対しヨルクは主砲と副砲を同時展開、前進しながら連射する事でミサイルの迎撃を行なう。傭兵達は眩い火薬の光に目を細めた。
「おぉぅ‥‥どうなった?」
「天剣、上だ!」
 リヴァルの声に反応し操縦桿を引くルナフィリア。真上から降り注ぐフェザー砲をかわしつつ体勢を整える。
「いつ移動しやがったです!?」
 舌打ちするシーヴ。爆発の閃光に紛れ急上昇、そこからHW隊を囮に頭上に飛び込んだと言った所か。
「奴を押さえ込むぞ! このままでは布陣を崩され各個撃破される!」
 リヴァルの声に応答するルナフィリアとシーヴ。三機がヨルクへ向かった頃、HW対応班はそれを気にしつつHWの取りこぼしを狙う。
「出来るだけ早く、こちらを片付けないと‥‥シンさん、リェンさん!」
「了解! さっさと雑魚は片付けるわよ!」
 シンとリェンを率いてHWを攻撃する藍。ヨルクが妨害したとはいえ先のミサイル攻撃でHWはすっかり消耗しており、レーザーライフルは容易に装甲を貫いた。
「こんな連中の相手をしても面白い事はない。さっさと撃墜するというのは実に同感だ」
 旋回しながらフォビドゥンガンナーを放つイレーネ。それにスナイパーライフルの攻撃を合わせ、三方向からの攻撃でHWを撃破する。
 クローカは他のHW対応班が攻撃する側面に回り込み機銃で攻撃。スキルも使用し、的確に被弾箇所を攻撃して行く。
「僕は‥‥」
 敵をロックし引き金を引く、それは彼にとって馴染みの作業だ。だが何故だろう、今はそれをとても虚しく感じていた。

 一方ヨルク班。高速で飛行するヨルクのHWをリヴァルを先頭に編隊を組み追撃している。
「お前‥‥何だその機動性能」
「悔しいですが、鋼龍じゃまるで追いつける気がしねぇです‥‥!」
「無理に奴の土俵に乗ってやる必要はない。向こうが片付くまでは死角を潰し、あくまでも足を止める」
 シーヴはレーザー砲でヨルクを攻撃。当たり前のように回避してくるが、仲間と連携し囲い込む事に意味がある。
「FG01、02‥‥奴を射抜け」
 フォビドゥンガンナーを放ち、自身もライフルで攻撃するルナフィリア。纏わりつくFGを振り切り反転するヨルク。誘いに乗らない三人を無視しHW攻撃中の味方を狙うつもりのようだ。
 それに気付いたリヴァルは加速。機関砲を放ちながらヨルクを追撃する。
「あの時の声は君か。名を聞こう、OFの亡霊」
 笑みを浮かべるヨルク。縦に回転しながら飛行し、ピタリと反転し制止。そこからリヴァルへと突っ込んで来る。
 異常な動きにウィングエッジを合わせるも相手が一枚上手であった。擦れ違い様にブレードを受け機体を損傷してしまう。
「リヴァル、無茶しやがって」
 FGを一斉に放つルナフィリアとシーヴ。六機のFGの攻撃を掻い潜り、銀の機体は闇を優雅に泳ぐ。
「遠隔操縦兵器‥‥そんな物を貴様らが自在に操るようになるとはな」
 急減速しフェザー砲でFGを撃ち落すヨルク。三人の傭兵は包囲しつつ攻撃を繰り返すが、急旋回から急上昇でヨルクは囲いを抜けていく。
「貴様らが得た技術‥‥力。自惚れるなよ。それは貴様らの力ではない。所詮我らバグアが保護し、育ててやった付け焼刃に過ぎん」
「バグアの意地でありやがりますか。そういうのは嫌いじゃねぇですが‥‥」
「お前達に俺達の空を閉ざす権利など‥‥ありはしない!」
 回転しながらフェザー砲を乱射するヨルク。それが乱射とは思えぬ精度で傭兵達の機体を撃ち抜く。
「与えられた翼を我が物顔で羽ばたかせる貴様らに微笑む程、この宇宙は優しくはない」
「確かに俺達の翼は与えられた物だったかもしれない。だが俺達の未来は‥‥進化は。俺達が自分達で切り開いた物だ‥‥!」
 ヘルメットの中で微笑を浮かべるヨルク。再び傭兵達へ襲い掛かろうとしたその時、藍の放った閃光がその進路を塞いだ。
「リヴァルさん‥‥ご無事ですか!」
「退屈な闘争だった。漸く本番だ‥‥盛り上がっている所悪いが、混ぜて貰うぞ」
 笑いながらライフルを放つイレーネ。クローカはリヴァルを庇うように回り混みつつ機銃を連射する。
「待たせたね。向こうは片付けたよ」
 HWは壊滅。戦艦は残っているが‥‥どうやら攻撃能力を持たないのか、こちらに手出しする気配はない。
「攻勢に出やがるですよ! 各機一斉攻撃準備!」
 シーヴの掛け声で頷く傭兵達。ヨルクを取り囲み、全機による同時攻撃を仕掛ける。
「――今でありやがるです!」
 全ての機体がミサイルとFGを開放する。ヨルク機の周囲にまるで網のように放出されたミサイルが全方向から襲い掛かった。
 フェザー砲でミサイルを迎撃しながら飛び回るヨルクを大量のミサイルとFGが追跡する。ヨルクはしぶとくミサイルの追跡を異常な軌道でかわしていたが、傭兵達もそのまま追加攻撃に入り、その全てを避けきる事は不可能であった。
 更にリヴァルが放ったG放電装置が周囲のミサイルを巻き込みヨルクを飲み込む。その眩い輝きにリェンは目を細めた。
「や、やったか!?」
「おいこら、余計な事を言うな」
 冷や汗を流すルナフィリア。直後、光を突きぬけヨルクが飛び出してくる。
「藍!」
 だがリヴァルも前へ飛び出していた。藍は要請を受けミサイルを発射。リヴァルはミサイルを撃ち落すヨルクへ正面から突っ込み機関砲を放つ。
 真正面から迫るリヴァルへ主砲で応じるヨルク。リヴァルはVTORによる急上昇でそれを回避するが、更に加速したヨルクのアーム攻撃が一瞬で眼前に迫っていた。
 擦れ違い様、伸ばしたアームで弾かれるリヴァル機。回転しながら吹っ飛ぶ機体を一瞥し、ヨルクは他の傭兵に飛び込んでいく。
「‥‥クローカ避けろ! 狙われているぞ!」
 シンの叫び声は聞こえていたが、クローカは逃げなかった。むしろ人型に変形し真正面からヨルクを迎え撃つ構えだ。
「ちょっと! あんた前にそれでダメだったんでしょ!?」
「だからこそだよ。僕は同じ失敗は繰り返さない」
 リェンの声を聞きながら接近する敵を見つめるクローカ。
 この敵こそ宇宙への第一歩を阻んだ敵。それを倒さない事にはOF隊の戦いは終わらない。そして何より、クローカ自身の戦いが終わらないのだ。
 接近するヨルク機へクローカは切り離したコンテナミサイルを泳がせる。ヨルクがコンテナを見た瞬間、それは大爆発を起こした。
 仲間から見ればそれはクローカが自爆したかのようであった。自分の目の前でコンテナに収めたままのコンテナミサイルを爆発させたのだ。しかもヨルクは当たり前にそれを回避している。
「一体何を‥‥」
 そう呟きながら前進するヨルク機。黒煙を僅かに交わし進行するその機体に影が差した。
 それはクローカのラスヴィエートであった。左腕と左足が吹っ飛んでいる他各所にダメージが見られるが健在である。それがリニア砲を片腕で突きつけていたのだ。
「ヨルク‥‥いや、ロンベルク大尉。忘れたかい? 砲撃好きはあんただけじゃない」
 爆発の瞬間クローカは自らの盾の上に乗っていた。爆発に対し盾を起きその上に立つという曲芸染みた行動は、宇宙空間でなければまず実現不可能だったろう。
 それでも盾で防ぎきれなかった半身は吹っ飛んだ。だが吹っ飛びながらもクローカは前回回りこんだ敵の軌道を計算しつつ、ヨルクの移動先へ加速しつつ、リニア砲を構えていたのだ。
 側面からリニア砲の直撃を受けたヨルク機はきりもみ回転しながら吹っ飛ぶ。アームが片方損傷、増設ブースターもエラーを吐いている。
「クローカさん‥‥無事で良かった」
「貴公の全てを賭した攻撃‥‥確かに見届けたぞ」
「良くやったな。後は俺達に任せろ」
 ほっと胸を撫で下ろす藍、ニヤリと笑うイレーネ。最後にシンは笑いながらサムズアップした。
「全く、はらはらさせやがるです」
「折角作ったチャンスだ‥‥ここで仕留めるっ!」
 シーヴ、ルナフィリア共にFGと遠距離武器で包囲しつつ攻撃を加える。先ほどまでは当てる事すら難しかったが、今ならこれが非常に有効だ。
「傷があるのに加減をしてやる理由もないのでな。徹底的に弱味を突かせて貰う!」
 同じくFG、そしてスナイパーライフルで被弾箇所を狙うイレーネ。攻防の要である機動力を削がれたヨルクは防戦一方である。
 再び正面から接近するリヴァルをヨルクのフェザー砲が攻撃する。そのままリヴァルは変形し、ヨルクのアームにウィングエッジを合わせながら受け止める。
 すかさず変形した藍が雪村を振るい攻撃。残りのアームを切断し、二機は変形するとヨルクから離脱する。
「アームが‥‥ちっ、ブースターもイカれたか‥‥!」
「どうした? 鬼ごっこはお終いか?」
「行け、FG01! FG02!」
 イレーネ、ルナフィリア、そしてシーヴによるFGを交えた包囲攻撃。彼方此方から次々に攻撃が命中し、銀色の装甲を砕いていく。
 左右に腕を突き出しながら回転するイレーネ機。放たれたコロナの光刃が迫るが、ヨルクはブースターを爆発させながら回避する。
「限界、か‥‥」
「ちょっと、どこ行くつもりよ! 往生際の悪い!」
「お前に往生際の悪さを説かれるようでは、俺もヤキが回ったな‥‥」
 少しだけ優しい口調の声にはっとするリェン。ヨルクは限界に達した機体で反撃する為急上昇し、そして月を背にする傭兵達へ突っ込んでいく。
 最後の反撃に身構える傭兵達。その目の前でヨルクの機体は爆発した。元々無茶な作りの機体だったのだ。もうあの機動性に機体が耐えられなかったのだ。
 爆発し分解しながら吹っ飛んでいくヨルク機を見送る傭兵達。きらきらと光を纏って散るその姿は、まるで流れ星のようであった。
「最後の最後まで、意地を張りやがったですね」
「戦う事を諦めなかった‥‥あの人らしいさ」
 シーヴの声に目を瞑るシン。リヴァルは小さく息を吐く。
「例えこの空が何度俺達を絶望させようと、何度でも超えてみせる。これが‥‥俺達の結論だ」
「ここで留まる訳には行きませんものね。ここから先へ、まだ見ぬ未来へと進んで行きたいから」
 二人の会話を聞きながらクローカは流星を見ていた。
「そうか、そうだったんだね」
 クローカにとって戦争とは生きる事そのものであった。それは日常であり、良いも悪いもなかった。
 だが今はもう違う。戦いだけしかなかった彼はもう居ない。彼の傍には大切な仲間がおり、そして進むべき未来がある。
「大尉、宇宙を目指す為に僕は生き続けるよ。僕の戦争は‥‥とっくに終わっていたんだね」
「クローカ」
 声に振り返ると傍にシンの天があった。クローカは片腕でその手を取り微笑むのであった。
「残りはあの戦艦なわけだが」
 振り返り漂うバグア艦を見やるルナフィリア。
「試射もしてない状態で無茶を言ってすまないが、月面レーザー砲で敵艦を撃ってくれないかな? 何というか、ネフライト計画始動の景気づけになるかなって」
『中々無茶を言いますねぇ。まあいいでしょう。おじさんが何とかお願いしてみますよ』
 だがそれだけでは敵艦を破壊出来るかは不明だった為、傭兵達も同時に攻撃する事になった。
 月面から放たれるレーザーと共に無防備な敵艦へ各々攻撃する傭兵達。宇宙の未来を照らし出す光が今、バグアの残骸を射抜いて道を作っていく。
「キアランと隊長もこの光を見てるかな?」
「ああ‥‥見ているさ。この空に散った全ての戦士達が、な」
 リェンの言葉に頷くシン。数多輝く星の光に手を伸ばし、それを掴もうと握り締めるのであった。

 こうしてネフライト計画は次の段階へ進み、ヨルクという憂いは晴らされた。
 しかし果て無き宇宙への旅路は、まだ始まったばかりだ――。