タイトル:ニューワールドαマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/06 05:53

●オープニング本文


 とある街を包囲するUPC軍。この街が完全な包囲状態に陥ってから、既に三十時間以上が経過していた。
 横並びになった軍車両の中の一つ。その傍らにスーツ姿のヒイロと軍服姿の天笠の姿があった。
「‥‥というわけだ。出来れば穏便に収めたい。やれるか?」
「天笠君も丸くなったですねー。昔だったら問答無用で斬りかかってきたというのに」
「それは貴様らがあまりにも怪しすぎたからだ。敵か見方かというのも問題だが、どれほどの力を持っているかというのも脅威度を推し量る重要な要素だからな」
 白い吐き出しながら縮こまるヒイロ。少し昔の事を思い出し、遠い目で星空を見上げる。
「とりあえずその依頼、ネストリングでお引き受けするのですよー。少しだけ時間をいただきたいのです」
「それは構わないのだが‥‥ネストリングにだけ依頼するというわけにもいかなくてな。他にも傭兵を入れる事になっている。そっちはどいつもこいつもフリーでやってる、まあ一癖も二癖もありそうな連中でな」
 天笠の言葉に振り返るヒイロ。ネストリングも十分癖のある連中ばかりだが、天笠が言うのだからそれ以上なのだろう。
「今日日汚れ仕事をやりたがる傭兵も少ない。あえてまだこんな所まで出張って殲滅戦をやろうという連中は相場が決まっている」
「――戦争大好きっ子か、或いは他に生き方を知らない子か‥‥なるほど。確かにそれは厄介なのですよ」
「実際連中を説得して生かそうという考えは難しい。既に戦闘は開始しているし、連中の中には手馴れもいるからな。こっちも何人か死人が出ている」
「‥‥救済は難しいのかな」
「だから傭兵が呼ばれる。お前達みたいな汚れ仕事専門の連中がな」
「ネストリングはー、すでに汚れ仕事専門ではなくー、猫を探したりー、クリスマスツリーを探したりしているといわれています」
 どや顔のヒイロに困惑する天笠。と、そこへ一人の少年が駆け寄ってきた。
「社長! くっそさみーんだけど、ここどこ!? 雪降ってきたんだけど!」
「世界のどこかです。火星かもしれません。そんな事より、ヒイロは雪が降ると嬉しくなってしまうといわれています! わふふーん!」
 雪の中を駆け回るヒイロをハイライトのない目で見つめる一登。そこへ天笠が声をかける。
「作戦内容は把握しているか?」
「え? あ、ああ‥‥えっと、まだ抵抗を続けている親バグア組織の説得、だろ?」
 戦争はとっくに終わっている。人類の勝利とバグアの敗退、それは既に確定している事実だ。
 だがしかし、まだこの世界には戦争が終わって欲しくない、終わってもらっては困るという連中が蔓延っているのも事実である。
「連中を支配していたバグアは既に始末した。だが数名の強化人間と共にこの町に閉じこもり、抵抗を続けている」
「抵抗って、あんたらが銃を持って近づくからじゃないの?」
「そうかもしれんし、そうではないかもしれん。連中はバグアに支配される事を受け入れていた節がある。それは要するに人類を見捨てたという事でもある」
 そんな彼らだからこそ、一度は人を裏切り世界を裏切った自覚がある彼らだからこそ、今人を信じられずにいるのかもしれない。
「連中をブチ殺すのは簡単だ。お前達なら造作もないだろう。実際、お前の社長達はそう言うことをずっと繰り返してきたんだからな」
「え‥‥?」
 口を開けて上を向いているヒイロを見やる一登。とてもじゃないが、そんな風には見えなかった。
 しかしそういう事があったという事実は知っている。だから受け入れられるし、動揺もない。
「どうするのかはお前の社長に聞け。あのブラッド・ルイスの小娘にな」
 一登の肩を叩き立ち去る天笠。少年は頬を掻き、ヒイロの傍に向かった。
「んで、俺はどうすりゃいいんだ?」
「わふふーん! よくぞ聞いてくれました!」
 咳払いを一つ。ヒイロは凛々しい瞳で一登を指差した。
「カズ君! 君は親バグアの人達を説得し、武装解除させてあげてください!」
 殺して来いという命令ではなかった事に安堵する。その一方で任務の難しさは身に染みていた。
「誰も殺さずに、か‥‥」
「勿論それはそうだけど。でもね、どうしても駄目な時は――殺す事も躊躇しちゃいけないよ」
 ごくりと生唾を飲み込む一登。ヒイロは真剣な表情で続ける。
「私達の力は生かす事も殺す事も出来る。でもね、生かす事は凄く難しいんだ。どこまで生かす事が出来るか。どこまで殺さない事が出来るか。その限界は自分の命を天秤にかけて、君自身の判断で決めなさい」
「お、俺一人でやるのか?」
「大丈夫なのですよー。ばっちり助っ人は募集しておいたのです! 相手の中には強敵も混じっているそうですが、これも良い経験になるでしょう」
 激しく不安に襲われる一登。ヒイロはそんな少年の背中を叩きサムズアップする。
「今のカズ君ならだいじょーぶなのですよー! 君の思うように、自分の気持ちを信じてやってみるのです!」
「お、おう‥‥」
 その時、街中の方から無数の銃声が聞こえて来た。二人も直ぐに反応し車両の影から顔を出す。
「誰か戦ってるのか!?」
「我慢できずに突っ込んでる子がいるみたいだね。このままだとややこしい事になっちゃうかも」
「止めて来る!」
 飛び出そうとする一登。ヒイロはその腕をつかんで制止する。
「カズ君、忘れないで。君が思っている正義が、君の善意が、誰かにとってもそうであるとは限らないという事を」
「どういう意味だ?」
「自分の優しさが通じない人に出会った時、そういう時に対する心構えを忘れないでって事だよ」
 意味深な言葉に眉を潜める一登。ヒイロは笑顔で手を放した。
「いってらっしゃい、一登君」
「‥‥なんかよくわかんねーけど‥‥行ってくる!」
 駆け出し夜の街に消えていく一登。ヒイロはコートのポケットに両手を突っ込んだまま、その背中を見送っていた。

●参加者一覧

鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
茅ヶ崎 ニア(gc6296
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

 雪の振る街の中、銃声と剣戟の音が響き渡っている。
 親バグア組織側は車両等で形成したバリケードの後方より銃器で支援射撃。前衛は強化人間二名に任せる布陣を敷く。
 一方先行していた能力者三名はAAとPNを前衛に後方からJGが援護射撃を行なうという連携で対峙している。
 強化人間は強力な個体だが、対峙する三名も腕の立つ能力者だ。戦闘は激化し、しかし拮抗を保っている。
「おい雪村、こいつら結構ヤルぜ! 一般戦闘員の連携も取れてやがる!」
「まともに相手をすると時間を食うかも知れんな。ま‥‥それはそれで面白い」
「ケッ、物好きが!」
 大剣を構え走り出すAA。それに反応し強化人間が槍を繰り出した――正にその時。
「双方、武器を収めて下さい!」
 強化人間と能力者の間に那月 ケイ(gc4469)が割り込んでいた。剣と盾でそれぞれの攻撃を防ぎ、弾き返したのだ。
「何しやがる!」
「俺達はUPC軍天笠大尉の依頼を受けた傭兵です。組織の方と話し合いに来ました。大尉はこれ以上の攻撃は望んでいません」
 ネストリングの依頼でやってきた傭兵達は先行する能力者三名と組織の間に入るようにして足を止める。
「どどどどーなってるんです? 何やら邪魔をされているような!」
 ガトリングを担いだJGが目を白黒させる。ケイはそんな彼らに改めて告げた。
「お願いします、彼等と話す時間を下さい。説得して武装解除が無理なら邪魔はしません」
「なんだあ? おい、誰か聞いてるか?」
 AAの言葉に首を横に振る二人。
「どこのどいつかしらねーが、人の仕事に割り込んでおいてそりゃないんじゃないの?」
「確かにそうかもしれません。それでも‥‥続けるつもりなら全力で止めます」
 睨み合う二人。そのケイの背後から二名の強化人間が襲いかかろうとしていた。
 咄嗟に間に入った鐘依 透(ga6282)と時枝・悠(ga8810)が受け止めるが、強化人間側は構わず攻撃を継続する。
「まいったな。聞く耳持たずか」
「時枝さん、攻撃は‥‥!」
「わかってるよ。適当にやり過ごす」
 強化人間は手を抜いて相手を出来る強さではなかったが、そこは図抜けた力を持つ二人。上手く相手の攻撃だけを無効化し続けている。
「こいつら‥‥やめさせようとしているのにどうして!?」
「戦う事しか知らないモノは命尽きるまで戦い続けるだけ。言葉だけで変えられるほど世界は優しくない」
 驚く一登に語りかけるレインウォーカー(gc2524)。能力者側は戦闘を中断しているが、強化人間に停戦の気配は見られない。
「さて、こうなってしまうと厄介だねぇ。どうしようか、ルキア?」
「話になる奴を探すしかないカナ。組織である以上纏めてる人もいるだろうし」
 肩を竦める夢守 ルキア(gb9436)。そうして自らの得物をレインウォーカーへと手渡した。
「任せた」
「ど、どうする気?」
「あは。交渉である以上は礼儀だよね。周りが武装した中じゃ、意味なんてないケド」
 一登にそう答え歩き出すルキア。一登もその様子を見つめ、レインウォーカーに薙刀を押し付ける。
「行くのかぁ?」
「うん」
「そうか。お前の想い、正義がどこまで変えられるのか‥‥見届けさせてもらうよぉ」

「待ってくれ! 俺達の話を聞いてくれ!」
 強化人間に呼びかけるケイ。しかし二名は攻撃の手を緩めず襲ってくる。
「話す必要は、ない」
「侵入者を排除する、我らの役目」
「もう組織を守る命令に意味はない。戦う必要はない筈‥‥!」
 透の言葉に無表情に首を傾げるレイピア。
「必要? 意味?」
「バグアがいなくなっても組織を守っているのには理由があるはずだ。それを教えてくれ!」
 もし彼らが組織の人間を守る為に戦っているのだとしたら‥‥その事情には酌量の余地もあるだろう。
 ケイの胸の中には淡い期待があった。しかし彼らの回答がそれに沿う事はなかった。
「理由なんてない。我らの役目、ただそれだけ」
 機械的に答え剣を繰り出すレイピア。透は突きを交わして持ち堪えているが、やはり攻撃は止まらない。
「さっきから何やってんだお前ら?」
「見てわからんのか。せっせと説得をしているんだ」
「ボクらの依頼人は可能な限り穏便に事を収めたいって事なんでねぇ。武器を振るうだけじゃダメなのさぁ」
 悠とレインウォーカーの答えに首を捻るAA。
「話にならねぇのは明らかだろが。殺しが嫌ならとっとと代われってんだよ」
「強化人間が説得で増援が邪魔で私達が悪役で‥‥なんだかよくわかりませんん!」
 涙目でガトリングを構えるJG。強化人間に照準を定める。
「任務なので、とりあえずぶっ放そうと思いますう!」
 喚きながら引き金を引く。轟音と共に乱射されるガトリングの弾丸、それをケイが盾を構えて防御する。
「危ないので射線上に入らないでくださいぃ!」
「いいぞマトイ、撃っちまえ撃っちまえ!」
 剣を手にAAが走り出す。その前にレインウォーカーが入り刃を受け止めた。
「まだ説得は終わってないんだぁ。もう少し待ってもらうよぉ」
「チッ、ウゼエな‥‥! 雪村ァ、手ぇ貸しやがれ!」
 PNはAAの声に応じず観戦を決め込んでいる。JGは混乱した様子で攻撃を継続。
「邪魔しないでくださいよう。怒られちゃうんですようぅ」
「ちょ、ちょっと待って‥‥危ないから!」
 叫ぶケイと泣くJG。会話は噛み合わないままであった。

「話をしたい。私は傭兵のルキア、組織を纏めているのは誰かな?」
 両手を挙げてバリケードに近づくルキア。そこに数名の兵士が集まり銃を向ける。
「――きみ達の要求はなぁに? コッチは投降して欲しい、個人的に、きみ達の話を聞きたい。個人を、セカイを知るのが私の望み」
「貴様ら能力者と話す言葉などない!」
「そうは言うケド、逃げ切れると思う? 顔だって割れてしまってる。軍も直ぐに追い付くだろう」
 状況が劣勢そのものである事は彼らも理解している。二の句に困窮している兵士達に一登が叫ぶ。
「俺達はあんたらを助けに来たんだ!」
「なんだと? そんな事できる物か!」
「だからこうして、交渉に来た。簡単に殺したくない」
 どよめきが広がる。ルキアはそこに言葉を続ける。
「生きたいって、思うから。だから、バグアに従うしかなかったのかな、って。私でもそうする。苦しかったね。でも、もういいんだよ」
「誰もがあんたらを許すとは言わない。でも、少なくとも俺達は話を聞くよ。外にいる偉い軍人さんもそうだ」
「‥‥だめだ、出来ない」
 それでも首を横に振る兵士。覆面を剥ぎ、銃口を下ろす。
「今更どの面下げて許して貰えっていうんだ。俺達はもう全員ここで死ぬ覚悟は出来ている」
「自分の意志、だとしても。生きたいと言う思いに、罪なんてないよ、きみ達は、確かなソンザイ。きみ達が認めないなら、私が認める。投降して、生きる望みにかけて」
「それでもだめなんだ。あの二人の強化人間が裏切りを許さない。あいつらがいる限り、俺達はここから抜け出せないんだ」
 これまでも逃亡者は出たという。しかしその度に二名の強化人間が命を奪い、人々を縛ってきた。
「成程ね。もうやめたかったケド、やめるにやめられなかったんだ」
「あの二人さえ居なくなれば、俺達も‥‥」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! それって‥‥!」
 息を呑む一登。要するにそれは、あの二人を殺せば全てが丸く収まるという事である。
 少年はヒイロの言葉を思い出していた。一登はあの二人の強化人間も殺したくはない。だが、それを犠牲にしなければより多くの人が死ぬ事になるのだ――。

 説得の結果を伝える為、ルキアと一登は混戦の中へ戻って来た。しかし一登は口を開けずに居た。
「彼らは多分説得に応じてくれるよ。ただ、その二人の強化人間は始末しないと駄目カナ」
 言い出せない一登に代わりルキアが告げる。ルキアが説明している間、一登は黙る事しか出来なかった。
「成程なぁ。そういう事なら仕方ないかぁ」
「‥‥やれやれ。どうしてもっと楽に生きられんのかね、誰も彼も」
 頷くレインウォーカー。悠は溜息を一つ、剣を構え直す。
「不本意ですが‥‥止むを得ませんか」
 目を瞑り気持を切り替える透。再び開いた瞳には強い決意が宿っている。
「おいっ、あいつらは俺達の獲物だぞ!」
「そっちこそ攻撃をやめてくれるかなぁ?」
 AAと交戦を続けるレインウォーカー。ケイは防御しながらJGに近づき、押さえ込んでいる。
「お、落ち着いてください!」
「私は冷静ですぅー!」
 こうしてケイとレインウォーカーが邪魔な能力者を妨害している間、悠と透はそれぞれ二名の強化人間へ攻撃を開始する。
「まっ――!」
 一登が声をあげようとした瞬間、透と悠が斬撃を放った。二人の強力な一撃は容易く二名の強化人間を切り裂き、地に沈めるだけの威力を持っていた。
 勝負は一瞬で終わった。凌ぐのは苦労したが‥‥倒す気になってしまえば呆気ないものだ。
「げっ、マジか‥‥! 瞬殺かよ!」
「ふざけて手を出すのもそれくらいにすべきだな。火傷では済まなくなるぜ」
 PNの声に飛び退くAA。レインウォーカーも刃を収め、ケイもJGを放した。
「お前達、強くて良かったな」
「‥‥どういう意味ですか?」
 埃を払うケイ。PNの男は低く笑う。
「仲間に雑魚がいたらあんなに持つまい。結果だけ見れば奴らをさっさと始末するのが正解だった。お前らの努力は最初から見当外れだったわけだ」
「うるせえぞ。いきなり殺しましたじゃコッチは金貰えねーんだよ。ふざけんな馬鹿死ね」
 悠の言葉に肩を竦める男。そうして笑顔で言った。
「見事な腕前だった。いつか‥‥またご一緒したいね」
 三人の能力者は立ち去った。残されたのは疲れた傭兵達と強化人間の死体が二つ。
「目を逸らさずに見ておけよ、風間。これがお前の正義が通じない現実だ」
 一登の肩を叩くレインウォーカー。少年は暫く立ち尽くし、流れる血を見つめていた。

「僕らは貴方達が過酷な選択をしなければならない時に助けになれませんでした。まずはそれを謝ります‥‥。すみません‥‥無力で、ごめんなさい‥‥」
 親バグア兵達に頭を下げる透。足枷となっていた強化人間から解き放たれ、彼らの態度も軟化を見せた。
「でも、貴方達を出来れば助けたいと、これ以上血を流さずに済ませたいと思う気持ちは本当です‥‥。今更かもしれません‥‥でも、僕らも出来る限り上に働きかけます。生きる為に賭けてみては、くれませんか?」
 銃を捨て投降する兵士達。傭兵達に連行された先で彼らを待っていたのは意外な物だった。
「へい、お待ち! 暖かい料理が出来てるよー!」
 茅ヶ崎 ニア(gc6296)が差し出したスープを呆けた顔で受け取る親バグア組織の面々。既にそこではUPCの軍人達が食事を始めており、何やら賑やかな雰囲気である。
「こ、これは‥‥?」
「32時間も睨み合いしてたんだからお腹空いてるでしょう? どうぞ。温まりますよ」
 優しく微笑むニア。組織の面々は久々の食事にありつき、中には泣き出す者もいた。
「はいはーい、給食をはじめまーす! ここに来た人から並んでくださーい!」
 食事を渡すのはニアだけではない。UPCの軍人達も手を貸していた。
 軍人と親バグア組織、その二つが今は同じスープを飲んでいる。それは少しだけ奇妙な、とても暖かい光景だった。
「皆さん嬉しそうですね。彼らにはこれから作られていく新しい世界に生きて欲しいです。それが出来なかった人達の分まで」
 スープを飲むケイ。透はその言葉に頷く。
「生き残った人達を何とかしてもらえるよう、頼んでみましょう‥‥」
「まあデモ、成功と言えるんじゃないかな?」
「そうだねぇ。おつかれルキア。ま、全て思い通りとは行かなかったけど」
 肩を並べ遠巻きに一登を見るレインウォーカーとルキア。一登はニアからスープを受け取り頷いている。
「ほら一登、しゃきっとしな! 君はやるべき事をやってきたんでしょ?」
「ニアねーちゃん‥‥俺」
 拳を握り締める。思い出すのは親バグア組織の彼らの笑顔だ。彼らは言った。強化人間を殺してくれてありがとう、と。
 実際一登も心の中でそう思っていたのだ。あの二人を犠牲にするのが一番で、死んでくれて良かったと。そう考えてしまった。
「人を殺して‥‥助けられなくてありがとうだなんて、そんなのってあるかよォッ!」
 泣きながら叫ぶ一登。ニアは少年の頭をそっと撫でた。
「少年は頑張ったじゃない。元気出せ、男の子」
「でも‥‥」
「ところがどっこい、あの二人は生きてるぞ」
 背後からの声に飛び退く一登。そこには悠の姿が。
「頼まれて加減はしたよ。瀕死だろうが、そこまでやらなきゃ止まらなかったしな」
「え?」
「死んだ事にしといた方があいつら安心して投降できるだろ。ま‥‥生かしたところで結果は変わらんだろうけど」
 強化人間の命は保証できない。だが生きていれば可能性はゼロではない。最後まで諦めたくないと、透とケイに頼まれたのだ。
「しかし何だ、ネストリング所属って言うからてっきりもっとアレな奴かと思ったが‥‥はっはっは」
 無表情に笑いながら立ち去る悠。一登は顔を真っ赤にして俯いていた。
「見なよルキア。真相を知った少年の恥ずかしい姿だぁ」
「レインが厳しい事言っていじめるからでしょ?」
「心外だなぁ。ボクはただ見守っているだけさぁ。風間がどうなるのか楽しみじゃないかぁ」
「あーあ。気に入られちゃって、カワイソー」
 皮肉交じりに談笑するレインウォーカーとルキア。二人の話に苦笑しつつ、ケイはスープを口にする。
「そういえば、あの傭兵‥‥」
 PNの男。一登はろくに見ていなかったが、両手両足に爪をつけていた。
「どこかで聞いたような人だったな」
「ほら一登、わかったら気持を切り替える!」
「う、うるせー! 大人なんか嫌いだー!」
 ダッシュで逃走する一登を笑いながら見送るニア。腰に手を当て一息つく。
「腹が減っては戦はできぬ。そして少年に試練は付き物‥‥か。でもね、スパルタも度が過ぎると考えものよ?」
 振り返るニア。そこにはヒイロがスープを飲みながら立っている。
「あんた今何考えてんの? ヒイロ」
「ニアちゃんのお陰でみんなあったかい気持ちになっています。これなら交渉も上手くゆくでしょう」
 スープを飲み干し笑顔のヒイロ。ニアは腕を組み歩み寄る。
「ヒイロはただ一登君に学んで欲しいだけです。現実の過酷さと、それと優しさも。料理を作ってあげるなんて、ヒイロには思いつかないやり方でした。はなまるだと言えるでしょう」
「そりゃどーも。でもあんたがこっそり何回もおかわりしてるのは見逃さないわよ」
「ヒイロは、人の優しさと言うものを‥‥きゃいん!」
 首根っこを掴まれ引き摺られるヒイロ。長時間に及んだ作戦は緩やかに終了し、雪の降る町には穏やかな人々の声が響いた。
 傭兵達は軍人からも組織の人間からも感謝され、暖かい気持ちで帰路に着くのであった‥‥。