タイトル:カシェルアフター2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/02 22:52

●オープニング本文


「へえ。それじゃあルリララは社会復帰できそうなのね」
「まだわかりませんけどね。しばらくネストリングが預かって‥‥まあ監視じゃないですけど。強化人間の社会復帰プログラムの一部としてやってみるそうですよ」
 マグ・メルが飛び立った後に残された傷だらけの森。そこに今は多くの環境保護団体の人々が出入りしはじめていた。
 森の近くには作業者用のキャンプが設置され、現場責任者のグラティスは暫くこのテントで生活を続けていた。
「強化人間にせよなんにせよ、真っ当な子もいるものね。殺さないで済むっていうならその方がいいんでしょう」
「僕ら能力者も似たようなものですよ。戦勝者かどうかってだけの話です」
「なるほどねえ。それにしても君のそのしわくちゃの老人みたいな物の言いようはなんなのかしらね」
 インスタントコーヒーを注いだマグカップを片手に微笑むグラティス。カシェルは机の上に広げていた手記を捲りながらペンを握る手を休めている。
「何だかんだで色々な事がありましたからね。そういう戦争の真実を知っている人間だからこそ、それを広める義務があるというか」
「この森の修復に携わってるのもその為?」
「はい。マグ・メル事件もそうですが、僕が関わってきた事件についてまとめた本でも出そうかと思いまして」
 カシェルが傭兵として活動した年数は決して長くはないが、それでも数々の事件を経験してきた。
 その中にはただ戦争があったと一括りに語るには難しい事も数多くあった。敵と味方、勝者と敗者という言葉だけでは語りきれない物語が。
「死んだ人の事を忘れない為に、戦争の真実を知ってもらう為に‥‥今僕に出来る事をしようと思うんです」
「戦争の真実、ねえ。今はまだそういう書物に対する検閲も厳しいんじゃないの?」
「でしょうね。場合によっては親バグアとかいって叩かれるかもしれませんが、まあ捕まらなければいいかなと」
 苦笑を浮かべるカシェル。グラティスはその前にコーヒーを注いだカップを滑らせる。
「安物バリバリのインスタントだけど、よろしければどうぞ」
「いただきます。まあ、グラティスさんのコーヒーって正直あんまりおいしくないんですけどね」
「いってくれるわねえ、少年」
「だって塩とか入れてくるし‥‥」
「安心しなさいよ、流石に毒は盛らないから‥‥っと。そうそう、ちょっといいかしら?」
 一度テントから出て行ったグラティスが戻ってくると、人数は一人から二人に増えていた。
 増えていたのはカシェルの見知らぬ女性であった。やたらと厚着で肌の露出が極端に少ない。まるで何かを隠すようなその様子が既にカシェルのセンサーに引っ掛かっている。
「あの‥‥厄介ごとですか?」
「失礼ねえ、出会い頭に女性に向かって‥‥。彼女、何日かここで働く事になった新人なの。面倒みてあげてくれる?」
「そうでしたか。僕はこのキャンプで労働兼家事兼研究員兼護衛を勤めています、カシェル・ミュラーと言います。貴女は‥‥?」
「あー、名前決めてなかったわ」
「えっ?」
 腕組み思案するグラティス。暫くそうして考えに耽った後、思い付いたように手を叩き。
「ズルフィ‥‥フィー‥‥フィーネ。その子の名前はフィーネにしましょう」
「しましょうってあんた‥‥絶対何かこの人厄介な類の人種ですよね‥‥」
「細かい事気にするんじゃないわよ、男の子でしょ?」
「あんたのその細かい事気にするなってセリフに何度押し切られたと思ってるんですか! もう騙されませんよ!」
 喚き散らすカシェルだがグラティスは涼しい顔をしている。そこへフィーネは歩み寄り、カシェルに握手を求めた。
「はじめまして。フィーネと申します。宜しくお願い致します」
「あ、はい。一緒に仕事をする日数は短いかもしれませんが、どうぞよろしく」
 しっかりと握り返す右手。手袋越しにもフィーネの手は冷たく、そしてなんだか硬かった。
「ところでカシェル‥‥さん。外に居たあのキメラは‥‥?」
「あー。クドリャフカの事かな? あれはえーと、僕らの仲間というか‥‥」
 全長2メートルを越す大型の狼キメラ、それがクドリャフカである。
 元々この森にいたキメラで、ルリララと共に行動していた。そのせいなのかどうなのか知性が非常に高く、人間に対しても友好的であった。
 最初は森に入る人間を威嚇していたのだが、カシェルがルリララから預かっていた笛を吹いて手なずけたという経緯がある。
「まだこの森には野生のキメラがいてね。数は少ないけど絶対安全ってわけでもない。だから森の中での作業にはクドリャフカがついてくるんだ。強いんだよ、彼」
「そうでしたか。私も以前と同じでしたらお力になれたのですが」
「えっ?」
 首を傾げるカシェル。グラティスは咳払いを一つ。
「そんなわけだから、明日からも作業をよろしくお願いするわね」
 頷くフィーネ。カシェルはジト目でグラティスを見つめるのであった。

●参加者一覧

崔 南斗(ga4407
36歳・♂・JG
緋桜(gb2184
20歳・♀・GD
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

 マグ・メル跡地での作業の為に集められた傭兵達。既に作業中の現場でカシェルは傭兵達に挨拶する。
「今日はわざわざお忙しい所ありがとうございます。是非宜しくお願いしますね」
「やぁカシェル、久しぶり‥‥というほどでもないな。女装して温泉に行った時に会ったし」
「その話はもうしないでくれるかな? お願いだから‥‥」
「カシェル‥‥そんな趣味が‥‥冗談よ冗談。怖い顔しないでくれる?」
 にやにやと笑う月読井草(gc4439)、そして真顔のグラティスを睨むカシェル。その視線をかわし、グラティスは傭兵達を眺める。
「お久しぶりですグラティス女史‥‥といっても殆ど初対面ですか。ヘイルです。フィーネも『初めまして』」
「お久しぶりです、ヘイル」
 ヘイル(gc4085)の気遣いを完全無視で握手するフィーネ。関係者が全員微妙な表情に変わる。
「ヘイルさん、フィーネさんとお知り合いなんですか?」
 突っ込みを入れるカシェル。焦るヘイルに望月 美汐(gb6693)がフォローを入れる。
「あら、ダメですよカシェルさん。女性の秘密は詮索する物じゃないですよ?」
「うーん‥‥それもそうですね。まあ、僕も言う程彼女を警戒しているわけではないので、関係者がいるのであればお任せしますよ」
 意外と聞き分けの良い様子にきょとんとする美汐。
「グラティスさんは破天荒ですが悪人ではありませんしね。お二人が事情を承知ならそれで良いでしょう」
「何といいますか‥‥カシェル様は厄介事に好かれていますから。このくらいでは動じないという事でしょうか」
 目を瞑り微笑む緋桜(gb2184)。実際、危ない橋を渡り続けてきたカシェルだ。人には言えないような事もしてきたわけで。
「やあやあ初めまして。あたしは月読井草だよ。よろしく〜」
「なんかフィーネさんに既視感あるような気がするんだが‥‥気のせいかな?」
 一方フィーネを囲む井草と崔 南斗(ga4407)。わたわたする美汐とヘイルを他所に井草は握手をしている。
「んん? 何か硬くてメタルな感触が‥‥随分冷やっこいけど、もしかして冷え性なのか?」
「月読さん、クドリャフカが待ってるよ」
「おー! もふもふさせてくれー!」
 カシェルが指差した先、行儀良く座っているクドリャフカに井草が駆け寄っていく。
「彼女が何者かなどは些細な話です。私達と彼女は志を同じくする仲間であり‥‥この地に希望という名の未来を齎す為に努力する友達なのですから‥‥」
 笑顔でフィーネに近づく御沙霧 茉静(gb4448)。そして冷たい手を取り頷く。
「この地に希望の光を灯す為に、一緒に頑張りましょう‥‥」
「流石カシェルが集めただけあって変わってるわねぇ。ま、この調子なら問題ないでしょう」
 腕を組み笑うグラティス。こうして傭兵達はそれぞれの役割分担を相談し、作業の準備を始めた。
「ところで‥‥彼女、どういう事です? 社会勉強の一環ですか? それとも何か問題でも?」
「社会勉強ね。どういうつもりか知らないけど、イリスに頼まれたのよ。事情はあの子に訊いてみるといいわ」
 こっそりとグラティスに声をかけるヘイル。しかしグラティスは詳しい事情を知らないようだ。
「そうでしたか。ところで今後連絡が必要になるかも知れないので、アドレスを教えて欲しいのですが」
「若い男に連絡先を訊かれるなんて、私も中々捨てたものじゃないわね‥‥冗談よ冗談。君達って真面目ねえ」
 こうしてジト目のヘイルと連絡先を交換するのであった。

 まずは森の安全確認をする事にしたカシェル、井草、南斗、緋桜の四名。クドリャフカを連れ、定期巡回のコースを歩く。
「森をこんなにして行っちまったが‥‥ここに居たバグアは他のやつらとは違ってたんだろうな。こいつやルリララの事を考えるとそんな気がする」
 井草を背中に乗せたクドリャフカを撫でながら歩く南斗。彼以外の三人はそのバグアと最後の戦いを行なった面子だ。言わんとする事はわかる。
「テスラは変わった奴だったなー。カシェルはよくよく変なバグアと縁があるよな」
「やはり厄介事に好かれる体質と見受けられますね。応援は‥‥しますよ?」
 井草と緋桜の言葉に苦笑するカシェル。井草はぽんと手を叩き。
「そういえばカシェル、本を書こうと思ってるんだって? 強くて可愛いあたしの活躍を書いてくれよな! 約束だぞ!」
「僕は‥‥出来ない約束はしない主義なんで‥‥」
「ははは。まあ、カシェルの執筆は俺も応援するよ。すぐには難しいかもしれないが、落ち着いたら心ある出版社がきっと出してくれるだろう。メルの遺した手帳も、役立つなら写しを送るよ」
「本当ですか? それは助かります。彼女の事も、書かないわけにはいけない事実ですからね」
 意気揚々とそんな事を語る一行を見た緋桜は遠くを見つめている。
「カシェル様も他の方々も、新たな目標を探し頑張っておられるのですね」
「緋桜さんはないんですか? これからやってみたい事とか、将来の夢とか」
「将来の夢、ですか‥‥」
 考え込む緋桜。戦争は確かに終わったが、バグアの残党や復興の仕事が残っている。そういう意味ではまだやるべき事が残っているのだが‥‥。
「手始めとして、甘えられる殿方の存在を‥‥ざっ、ざざざ‥‥戯言ですよ!?」
「え? 好きな人がいるんですか? よかったじゃないですか!」
「いえ、ですからまだ‥‥好き‥‥好きとかそういう‥‥」
「傭兵が人並の幸福を得てはいけないなんてルールはありませんよ。好きな人がいるのはいい事です」
 赤くなる緋桜に笑いかけるカシェル。井草はそれをじーっと見ている。
「カシェルがそれを言ってもあんまり説得力ないよな」
「僕はいいんです。まだ子供だし、甲斐性ないし」
 明るく話す仲間を眺め微笑む緋桜。自分も目標を探していかねばと、そんな事を思った。
「カシェルの甲斐性はさておき、人形師のこと刀狩りのことマグ・メルのこと、皆に伝えてくれよな。地球を好きになったテスラのこと、キャロルのような強化人間がいたことや、風変わりなバグアの映画監督ディレクターのこともな」
 思えばこれまで様々な敵と戦ってきた。どれも敵である事に間違いはなかったが、ただそれだけと言えるほど単純な相手でもなかった。
「人間もバグアも強い奴や活躍した奴の記録は放っといても残るけど、変わり者の事は誰かが記録しないとね」
「うん。僕もそう思う。戦争の真実はヒロイックじゃないし単純でもなかった。それを後世に伝えたいんだ」
 井草の言葉に微笑むカシェル。南斗はそんなカシェルの肩を叩く。
「辛い事があったら相談してくれ。あまり力になれる身じゃないが、出来る限りの協力はさせてもらうよ」
「いえ、これからも頼りにさせてもらいます」

 一方、資料を手にグラティスと森を歩く茉静。この森の生態、植物や昆虫の話を聞きながら探索を行なっている。
「それにしても熱心ね。この森についてそんなに調べてるのはカシェルと君くらいよ」
「私達はこの地をテスラさんから託されました。ですから‥‥この地にとって何が理想的で何が必要なのか‥‥学びたかったのです」
 今この森は壊れている。それを元通りにするためには、むやみやたらに植林をすればいいというわけではない。
 植物が元に戻り、そしてそこに命が戻ってようやく再生となる。それは知識なくては成せない事だ。
「テスラとの付き合いは短かったけどね、私も一応友達だったのよ。だから君達には感謝してるわ」
「彼女の想いを無駄にしたくないんです。私たちは確かにあの時‥‥分かり合えたのですから」
 テスラの行いは正しかったのか。自分達はどうだったのか。それは茉静にはわからない事だ。
 けれどテスラの願いを受け取った時、確かに感じたのだ。心は通じたのだと。
 茉静にとってこの場所はそれぞれの難しい立場を超えわかりあうという事を実現できた場所でもある。故に大事なのだろう。
「教えがいのある子は好きよ。それじゃあ、どんどん行きましょうか」
「はい‥‥お願いします」

 ムーンライトを構え鋭く繰り出すヘイル。彼はKVに搭乗し森の入り口で待機していた。
「何をしているのですか?」
「いや、光波が出ないかと思ってな‥‥」
 コックピットを開いたままで足元にいるフィーと会話するヘイル。美汐はAU−KVを装着しその隣に立っている。
「何かわからない事があれば気軽に呼んで下さいね」
「ありがとうございます。しかし、何をすればいいのか‥‥」
「えーっと‥‥じゃあ、私達のお手伝いをしてくれますか?」
 こうして二人について行く事になったフィーネ。
 ヘイルはKVで滅茶苦茶になった地面を掘り返したり、岩盤を砕いたり薙ぎ倒された大木を撤去したりと、現地スタッフだけではどうにもならなかった問題を次々に押し付けられる事になった。
 美汐はそれに続き、KVでは難しい細かい撤去作業の手伝いをする。やはり力仕事になると現地スタッフでは時間が掛かるので重宝される。
「これは‥‥意外と忙しいな」
「そうですね。こんなに泥まみれになるならフィー‥‥ネさんの格好ももう少し考えるべきでした」
 今日のような作業ならツナギの方が良かったかもしれない。普段はもっとゆったり目の服にしようか。色々と考えてしまう。
「美汐さん、私も手伝いましょうか?」
「はっ。えーと、手伝えるんですか?」
「イリスからは必要とあらばリミッターを解除しても良いと言われています。その判断も含めてのテストだと」
 少し考える美汐。確かに無制限ならば力仕事にはうってつけの人材なのだが。
「お願いします。私も誰かの役に立ちたいんです」
「そこまで言うのでしたら‥‥まあ、能力者が沢山居ますからあまり目立たないでしょうし」
 こうして作業に参加し始めたフィーネ。単純な膂力ならば美汐を上回るほどなので、作業は目覚しく捗るのであった。
「木の根は残してしまうと後の植林に悪影響を及ぼします。細かい上に力仕事ですが、徹底的にやりますよ」
「了解しました」
 大木を引き摺って他のスタッフの作業車に引き渡したり木の根を引っこ抜いたりと、二人は慌しく働く。
「いやー、すごいね! 流石能力者は頼りになるねー!」
「二人とも女なのに大したもんだよ。この辺は男集でも大変でねぇ。助かるよ」
 スタッフに礼を言われるフィーネを見つめ、美汐は優しく微笑むのであった。

 整地された場所には植林を進めていく。茉静、グラティスも合流し、植林組は木の苗を植えている。
「よーしクドリャフカ、穴を掘るぞ!」
 犬に乗りっぱなしの井草。茉静、南斗はグラティスの指示に従い作業を進める。
「この地の想い、テスラさんの想い‥‥貴方達に託します。どうか立派に育って下さいね‥‥」
 苗木に語りかける茉静。これは彼女にとっての一歩でもある。そして南斗にとっても‥‥。
「貴方も植林に興味があるの?」
「ええ。実はいずれミュージアムの跡地を墓地公園に出来ればいいと考えていまして‥‥」
「ミュージアムですか。あそこも基地が破壊されて滅茶苦茶ですもんね」
「俺が死んだ後も後世の人達に覚えておいてもらえるようにしたいんだ。彼女の思いが皆に伝わるように‥‥」
 微笑むグラティス。そして南斗の肩を叩く。
「私で良ければ力になるわよ。ここの仕事は何十年単位で続くけど、他の環境回復についても進めようと思ってるから」
「それはありがたいです。ここでの仕事も勉強になりますから」
 実は同世代の南斗とグラティス。和気藹々と苗木を植えつつ話をしている。
「この森だけでなく、この星全体に緑が増えてゆけば‥‥テスラさんも喜ぶでしょうね」
「いつか彼女が驚くくらい、この星全体を美しい姿に戻せたらいいですね」
 スコップを手に微笑むカシェル。茉静も笑顔でまだ頼り無い苗木を見つめるのであった。

 昼過ぎになり、やや遅い食事の時間になった。休憩に戻って来た傭兵達やスタッフは皆泥だらけである。
「あー腹減ったー。早く飯にしようぜー」
「月読さん、手を洗って‥‥」
 カシェルに連れて行かれる井草。キャンプでは既に食事の用意がされていた。
「あら。何やら珍しい物が出てるわね」
 エプロンをした緋桜はグラティスに味噌汁を差し出す。テーブルには和風、中華風の料理が並んでいる。
「たまにはこういうお食事の方が気分転換に良いかと」
「ジャパニーズミソスープね。ここの食事って大体パンだから、こういうのもいいわね」
 食べやすいように米はお握りにして渡す。後は各々スープ、大皿から好きな料理を小皿に取り分けて食べるビュッフェスタイルである。
「僕も和食を作れるようになった方がいいかなあ。最近バリエーションが広がらなくて‥‥よかったら教えてくれませんか?」
 完全に感想が間違っているカシェルと話す緋桜。ふと、何も食べていないフィーネを見つける。
「フィーネさんもどうぞ。それとも和食は苦手ですか?」
「えーっと、彼女は‥‥」
「ちょっとまだやる事があってな。仕事をしながらいただくよ」
 三人分受け取ってそそくさと出て行く美汐とヘイル。フィーネも引き摺られていった。
「どうかなさったのでしょうか?」
「色々事情があるんですよ、きっと」
 首を傾げる緋桜。カシェルはその隣でお握りを齧るのであった。

「やはり食事が出来ない身体というのは申し訳ないものですね」
「フィーネが気にする事じゃないさ。美味いから二人分食べるのも苦ではないしな」
 もりもりと料理を口にするヘイル。美汐、フィーネの三人でKVの傍に腰掛けている。
「それで、結局ここに何をしに来たんだ?」
「私が人間社会に適応できるかどうかのテストだと思います。イリスは私に自分の意思で自分の未来を選べるようになってほしいと言っていました」
「つまり色々やってみて、その中から選べるように選択肢を増やしたい‥‥という事でしょうか?」
 詳しい事はやはりイリスに聞いてみるしかない。そんな結論に至った。
 食後、三人は空を見上げていた。休憩時間の現場は静かでとてものどかである。
「そうだ。フィー‥‥ネにも教えておこうか」
「何をですか?」
「大切な歌だ。俺が嘗てある人から教わったものでな。フィーネにも覚えておいてもらいたい」
 そう前置きしてヘイルは歌い始めた。今は遠い想い出の中に響く、大切な歌を‥‥。

 傭兵達の作業は日が暮れるまで続いた。整地をし、キメラが現れては追い払い、苗を植えるの繰り返しである。
 それぞれの復興にかける想い。そして将来の目的や夢‥‥中には少し込み入った事情も含め、一日はあっという間に過ぎていくのであった‥‥。



「ところで、あそこにあるスピリットゴーストって‥‥」
「あたしのだよ。かっこいいだろ!」
「なんででっかいKVで来ちゃったんですか」
 夕焼け空の下佇むスピリットゴースト。それが活用される事は――なかった。
「またオチ担当か!」
 めでたしめでたし‥‥。