●リプレイ本文
●作戦開始
「さて、精々くたばらないように暴れようぜ、同業さんよ。死んじまったら元も子もねえからな」
木々の陰から傭兵達が立ち上がる。デューイは安物の煙草を踏み消し、銃とナイフを取り出す。
「出来るだけ注意を引き、敵の戦力を誘き出すか」
白鐘剣一郎(
ga0184)はデューイとは正反対に凛々しい様子で状況を再確認する。
刀を手に敵を見据える剣一郎だったが、ふとその横顔が怪訝さに歪む。敵の強化人間、どうにも奇妙な様子である。
「‥‥チャイナ? まぁ外見はどうあれ、強化人間は須らく強敵と見て間違いない。十二分の注意を以って当たろう」
「え‥‥? チャイナドレスくらい普通ですよ?」
というのはエネルギーガンを携えた夕凪 春花(
ga3152)の言葉だ。仮称『チャイナ』は大あくびしながら眠たげにしている。
春花は今回、クラスチェンジ直後という事もあり新たな戦い方を模索しに来たという個人的な理由もある。
「救出班が無事任務を達成する為にもせいぜい派手に暴れて敵を引きつける必要がありますね」
「こちらがどれだけ敵を引きずり出せるかが重要か‥‥」
榊 刑部(
ga7524)に続き、イレイズ・バークライド(
gc4038)が呟く。
今回の依頼はただ敵を倒すだけが目的ではない。なるべく派手に戦い敵を引きずり出し、突入班の負担を軽減しなければならないのだ。
「慢心は禁物ですけれど、今回集まったメンバーならば必ずやり遂げられると思います。私も微力ながら最善を尽くさせて頂きましょう」
「ははは! 固いなぁ、そんなに真面目にやらなくたって何とかなるって。張り切り過ぎて死ぬなよ、兄ちゃん」
真剣な様子の刑部の背中をばしばし叩き、デューイはへらへらと笑っている。何故こうも緊張感なく居られるのか‥‥。
「こちらが上手くやれば後は救出側次第‥‥。行きましょう。お喋りはそこまでです」
鳴神 伊織(
ga0421)の合図で傭兵達は一斉に飛び出した。手始めに近場にいたリザードマンを撃破し、その死体を乗り越えて姿を晒す。
「――ほお〜? 普通そんなに正々堂々と突っ込んで来るものアルか?」
退屈そうにしていたチャイナ娘、レイ・トゥー。レイは大きな棍棒を片手にニヤニヤしながら傭兵の一団を眺める。
「‥‥十人? たった十人アルか? 気合入ってるアルな〜‥‥。そんな人数で敵陣に突撃して来るとは」
ぞろぞろとリザードマンが集まり、レイの前に三人の軍服の強化人間が並ぶ。指先で髪を弄り、チャイナ娘は言った。
「死にに来たアルか? それとも――ナメられてるアルか?」
口調は明るいが、そこには静かな怒りのような物が感じられた。それぞれが武器を手に正面から激突する。
陽動作戦の火蓋が今、切って落とされた――。
●その身を代価に
「それでは派手に――参りましょうか!」
アラスカ454を構え、櫻小路・なでしこ(
ga3607)が声を上げる。それに応じ、六堂源治(
ga8154)太刀を手に前に出る。
「大暴れね‥‥。嫌いじゃないッスよ。派手に踊ってやろうじゃないッスか!」
戦闘が始まった。まずはぞろぞろと迫ってくるリザードマンの第一陣との戦いである。
幸い、さほど苦戦するような物ではない。連携を重視した動きで互いをカバーしつつ周囲を取り囲む敵と傭兵達は戦い続ける。
「なるほど、最初から自分で前に出るタイプではないらしい」
リザードマンの一体を両断しつつ剣一郎は横目でレイを睨む。警戒は怠らないが、レイは向かってくる気配すらない。
「ならば先に手下を叩けるだけ叩こう。行くぞ!」
剣一郎の声に応じるまでもなく、加賀・忍(
gb7519)はリザードマンの殲滅に従事していた。
彼女は次々に襲いかかってくる敵に恐れ戸惑うどころか高揚感さえ感じていた。只管に敵を斬り、掌に返る感触のなんと心地良い事か。
「うじゃうじゃうじゃうじゃ‥‥めんどくせーなぁ。ま、危なくねー程度に頑張るかね」
ガトリングシールドでリザードマンを蜂の巣にしつつ、アローン(
gc0432)は忍と正反対にだるそうな様子だ。
「しかし多いな‥‥っと、おい兄ちゃん! 次が来てるぞ!」
デューイの声に振り返ると、ビッグフィッシュより続々とリザードマンが出現し続けている。アローンはうんざりしつつ一言。
「やれやれ、やっぱり数ってのが一番恐ろしいねぇ、ほんと――」
十の敵を倒しきらぬ内に早くもまた十の敵が現れる――。アローンはガトリングで制圧射撃を行い、右から左へ敵を貫いていく。
「それぞれ孤立せぬように連携を! 死角を作らず、互いの位置を意識して下さい!」
迫る敵を次々に薙ぎ払いながら伊織が声を上げる。剣一郎と背中合わせに陣取り、敵の集中攻撃をまるで寄せ付けない。
「流石、勉強になるっスねぇ――っと、俺も負けてられないな!」
二人の姿を横目に源治が笑う。もっとじっくりと先輩の剣術を拝見したい所だが――彼には彼の仕事がある。
傍観を決め込んでいたDスケイルが動き出したのだ。最前列に陣取っていた伊織と剣一郎に迫るDスケイルを迎え撃つ為に前に出る。
「‥‥奴らの相手は俺達の仕事だ。狩るぞ」
「ええ、行きましょうか」
イレイズと刑部が源治の両脇に並び、三人は一斉にそれぞれの相手と戦闘を開始する。
「ったく、俺も若いつもりだったがもう歳かねぇ‥‥!」
拳銃を連射しつつデューイが苦笑する。その背後に迫っていたリザードマンを撃ち抜き、春花が声をかける。
「デューイさん、大丈夫ですかー!?」
「たはー、助かったよお嬢ちゃん‥‥! 今度お兄さんとデートしない?」
きょとんとする春花にウィンクし、デューイは振り返りざま短刀を滑らせる。怯んだそのリザードマンの額を撃ち抜いたのはなでしこの一撃だ。
「もう、ちゃんと頑張ってくださいね?」
「‥‥お兄さん、真面目に頑張っちゃおうかなぁ」
男も振り回されるような大型のライフルを派手に撃ちまくるなでしこの笑顔はデューイには眩しすぎたようだ。
次々と出現するリザードマン。既に出現数は軽く三十を超えている。一体一体は脆く、鈍く、しかし力は強い。まるで使い捨ての弾丸のようだ。
「これではキリがありませんね‥‥。私が『埒を明け』ます。お二人は予定通り強化人間の方を」
「お? やあっとうちらの出番かいな!」
犬彦・ハルトゼーカー(
gc3817)拳銃「キャンサー」を片手に笑う。伊織は猛撃を発動、敵の包囲へと突き進んでいく。
「今だ、行け!」
「折角の花道だ。行くぞ、犬彦」
剣一郎と犬彦の二名は伊織が作った隙をついてリザードマンの群れを抜け、レイの元へと辿り着く。
Dスケイルは完全に刑部、源治、イレイズが抑えているのだ。レイを守る壁はもう存在しない。
「見たところ、お前が此処の責任者か」
「あれだけ居て良くフツーに抜けてくるアルね‥‥。ふん、ちょっとかっこいいアル」
月詠の切っ先を向ける剣一郎の威圧感は鋭く重い。しかしレイは飄々とした様子で構える気配すらない。
「ヘイ! チャイナガール、うちとお喋りせぇへんか?」
と、そこで犬彦がビシリとレイを指差しつつそんな事を言い出した。それに対しレイは、
「別にいいアルよ、犬ガール」
と、あっさりと答える。それから片手で重そうな棍をくるくると回し、両手で構えた。
「しかしそっちのイケメンは待ってくれそうにないアル。戦場のお喋りは戦いながら‥‥って事アルかね?」
ニヤリと笑うレイだったが、犬彦はごそごそとどこからともなくブブゼラを取り出していた。
「この伝家の宝刀、ブブゼラのさびにしてくれるわーッ!」
と、思い切り息を吸ってからブブゼラの音色を鳴り響かせた。レイは思わず両耳を手で塞いでいたが、隣に立って居る剣一郎はご愁傷様としか言えない。
勿論犬彦とて色々考えがあっての行動だ。レイが逃げ出す可能性を考慮し、こうして色々と気を引いているのである。実際レイは犬彦を見て唖然としているので、ある意味それは成功とも言えた。
「‥‥ぶはははっ! お、お前‥‥ちゃんと真面目に戦うつもりアルか!?」
神妙な面持ちから一転、レイは腹を抱えて笑い出した。一生懸命ブブゼラを吹く犬彦、爆笑するレイ‥‥。非常に奇妙な光景である。
「あーあ、なんか白けたアル。レイはお前らと戦うの飽きたアル」
チャイナ娘は棍を下ろしそんな事を言い出す。慌てて犬彦は銃を構えるが、レイは首を擡げ笑った。
「――お前ら、何を狙ってるアルか? さっきから見てるだけのレイを気にしてビッグフィッシュに入ろうともしない」
緩んだ空気から一変、緊張が走る。レイは肩に棍を乗せ言葉を続ける。
「十人で突っ込んで来るのも妙な話アル。確かにここの警備はレイたちだけアルが、中には当然大量のキメラ‥‥それももっと強いのが待っている。少し迂闊過ぎるアルねぇ?」
笑うレイへ剣一郎が襲い掛かった。『感づかれた』のだとしたら、もうふざけている猶予は無い。強烈な一撃を受け、レイは一度後退する。
「そう怖い顔するなアル。折角のイケメンが台無しネ」
「油断大敵――だが、この程度に遅れを取る訳にも行くまい」
犬彦も気持ちを切り替え、戦闘に参加する。例え不慣れな得物を使っていたとしても『本番』なのだ、戸惑っている余裕はない――。
一方、Dスケイルとの戦いもそれぞれ佳境を迎えていた。
途中リザードマンの邪魔が何度か入るが、対応班のフォローが良く一対一の構図は今だ崩れず継続されている。
「皆さん、これで‥‥! 頑張って下さい!」
やや前に出る春花をアローンとなでしこが援護し、春花は拡張練成治療を発動する。同時にDスケイルを対応する三人に練成強化を施した。
「助かります‥‥。さあ、私と下手なダンスに興じて頂きますよ。私としても美しい女性以外とは不本意ですがね――」
Dスケイルが仲間へ向かわないように抑えていた刑部が反撃に乗り出した。
急所狙いの力を込めた一撃をDスケイルもまた良く防いでいた。
仲間の支援がある分、刑部は優勢だ。繰り返しの攻防の中、一瞬の隙を突いて側面に回り混み、その首筋へと刃を向ける。
「――そこですッ!」
首を深く斬り付けられ怯むDスケイル。チャンスは今しかないと刑部は歯を食いしばり、その固い鱗の継ぎ目へ刃をねじ込んだ。
声を上げ、刃を真横に抉るように滑らせる――。Dスケイルは傷口を押さえながらよろめき、やがて大地に倒れこんだ。
源治の戦いは常に前に踏み込む剣士らしい逞しい動きを基本としている。しかし敵の隙を突き、攻撃を封じる冷静さも忘れない。
アサルトライフルによる攻撃を封じる為にぴったりと張り付き、白兵戦での攻防を続ける。
大剣を敵が手にした瞬間、狙っていたかのようにDスケイルの手首を打ち、得物を落とさせる。
後退――アサルトライフルを構える得物へ、獅子牡丹を構え、斬撃を繰り出した。
「『一閃』――!!」
強烈な衝撃波は大地を抉りDスケイルの鱗ごと吹き飛ばしていく。よろける敵が顔を上げた時、そこには刃を振り上げる源治の姿があった。
「そこそこやるが――俺達を相手するにゃ、少々力不足かも知れないッスね」
『斬』――そんな音が聞こえそうだった。Dスケイルに袈裟に斬り込み止めを刺す。比較的余力を残し、源治は刃についた鮮血を振り払った。
残ったイレイズも、Dスケイルとの戦いは決着を迎えようとしている。
銃撃を回避しつつ側面へ入り回し蹴りを放つ。大剣は刀で滑らせ、回避と同時に反撃――。流れるような動きはイレイズの優勢に見える。
しかしDスケイルも中々倒れる気配がない。頑丈な鱗で守られた強化人間は『出来損ない』でも十分すぎる頑丈さだ。
「手を貸しましょうか?」
「こいつら妙に固いッスからねぇ」
「――ふん」
Dスケイル先に撃破した二人が駆けつけ、イレイズは片目を瞑って息をつく。そうして同時に攻撃を放ち、最期のDスケイルもまた倒れるのであった。
「斬っても斬っても増え続けて、楽しいものね」
迅雷で敵の中を駆け抜ける忍。彼女も既に何体の敵を葬ったのか把握しきれて居ないだろう。
「いくらなんでも、多すぎますね‥‥!」
なでしこも敵を撃ち抜き、思わずごちる。その横顔には疲れの色が見てとれた。
「天都神影流――斬鋼閃!」
鋭い剣一郎の一撃がレイを貫き、その戦いも決着を迎えようとしていた。レイは傷口を庇い、力なく笑う。
「お前どういうことなの‥‥? バグアより強くねーアルか?」
「さすがは強化人間と言いたい所だが、余りまともにやる気はないようだな」
「レイは必死にやってるアルよ‥‥ったく、貧乏くじアル」
背を向け逃げの態度を見せるレイ。そこへ犬彦が叫びつつ銃を連射した。
「ちょい、ちょい、ちょい、まてーい!」
「へぶぅ!?」
動きを制限されたレイは顔面から転んでしまう。それから振り返ると犬彦を睨んだ。
「お前さっきから何やってるアル!? 全く――本当に、貧乏くじアル!」
その時、巨大な影が降りた。真上からやってきたのは巨大な鳥のキメラだった。鳥はレイを嘴で咥えると、強風と共に舞い上がる。
「ま、精々陽動頑張るアルよ。レイは名誉の負傷、撤退するアル」
「こらー、待たんかーい! この、チャイナガール!」
「お前面白くて結構好きだったアルよ。またどこかで――犬ガール♪」
鳥は羽ばたき、急加速するとあっという間に見えなくなってしまった。バンバン銃を撃つ犬彦だが、剣一郎は追う必要は無いと判断し踵を返した。
強敵が居なくなり、残すはリザードマンの処理のみ。そしてそこからが本当の戦いの始まりでもあった。
●終わりと始まり
長い長い、本当に長い戦いが続いた。彼らが撤退の頃合を見たのは既に敵の死体で山が出来る頃だった。
「まとめて吹き飛びなさい――!」
去り際、伊織と源治が十字斬を放つ。盛大に吹っ飛ぶ敵を背に、そそくさと傭兵達は逃げ出した。
「初めて使ったッスけど、派手なスキルっすね〜」
「もっと奴らを切り刻みたかったのに‥‥」
「お嬢ちゃん、それ正気か‥‥?」
源治に続き忍とデューイが汗だくで走る。追って来る敵をなでしことアローンが制圧し、ジャングルの中へ隠れる事に成功した。
「何だ、バグアも戦闘狂とか復讐したがりばっかじゃねえんだな、安心したっつーかなんつーか‥‥」
ガトリングを下ろし、息も絶え絶えにアローンが呟く。春花は最後の練成治療を施しつつぐったりした様子だ。
「全員無事ですね。ここまでやれば、十分――」
と、伊織が言おうとしたその時だった。突入班からの通信が入り、場の空気が凍りついた。
『新しい敵戦力! バグアと、とんでもないキメラだ!』
騒がしい通信は、要するに援軍要請である。デューイは木に背を預け、呆れた様子で呟いた。
「――で、どうするかい? 俺達は、よ」
既に限界は近い。だが仲間が助けを待っているかもしれない。傭兵達はそこでそれぞれの選択を迫られるのであった――。