タイトル:クライストチャーチ決戦マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: イベント
難易度: やや難
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/14 06:42

●オープニング本文


「マグ・メルとか言ったか。浮遊する機動要塞‥‥それと同型の基地だと考えるのが妥当だろう」
 クライストチャーチ攻略作戦。それはニュージーランドでの戦いの最後の舞台であった。
 UPC軍の天笠中尉から説明を受けるヒイロとカシェル。二人は色々あって、この依頼に参加する事になった。
「確かにマグ・メルそっくりですね」
 カシェルの参加理由はクライストチャーチ基地が浮遊している事にある。
 彼はこの作戦の少し前、同じ様な機動要塞に突入した経験があった。そしてこの要塞は恐らくそのマグ・メルと同型であると推測されている。
「連中はもしかしたらこの要塞ごと宇宙に逃げるつもりかもしれん」
 カシェルが見たマグ・メルは正直な所戦闘用ではなかった。テスラというバグアが作った、自然環境保護用の実験施設であった。
 しかし今度のこれは違う。文字通り巨大な戦闘要塞である。テスラの物と違い、大気圏外への離脱も可能かもしれない。
「何故マグ・メルと同型艦がここにあるのか疑問ですが‥‥」
「テスラは元々他のバグアと一緒に戦闘要塞の研究をしていたそうよ。だから、彼女の同志がここにいるんじゃないかしら?」
 ひょっこりと顔を出すグラティス。彼女こそカシェルの直接の依頼人である。
 マグ・メルを兵器転用される事をテスラは望まなかった。そんな彼女の為に、この要塞の存在を許すわけにはいかない。
「だが、ここでの戦いにUPC軍は多く戦力を割く事が出来ない。宇宙では決戦が迫っているからな。そこでお前らの出番だ」
 ヒイロを見やる天笠。彼がヒイロの直接の依頼人である。
「お前達ネストリングには内部突入部隊の一つとして参加してもらう。ブラッドの件以来の大仕事になるな」
 この仕事をこなす事には意味がある。
 新しいネストリングが真バグアの思想を継いで居ないという事、そしてその実力が十分であると言う事を示すにはうってつけの場なのだ。
「無論、我々天笠隊も突入する。だがサイズの問題もあり、人手は足りていない状況だ」
「問題ないのですよ。少人数でもバッチリ依頼はこなしてみせるのです。その代わり、お給料は弾んで欲しいのですよー♪」
 扇子を広げ笑うヒイロ。天笠はそんなヒイロの頭を小突く。
「そういう事は結果を出してから言ってもらおうか。簡単な仕事ではないぞ」
「んー。でも、これまでも色々と乗り越えてきたですし‥‥」
 振り返るヒイロ。そこにはネストリングの風間一登、助っ人の朝比奈夏流の姿がある。
 更には車椅子に乗った九頭竜斬子。彼女を支えるドミニカ・オルグレン。そして旧ネストリング勢よりセルマ・ピアースを初めとした傭兵達の姿もある。
「それに、ヒイロがちゃんとできるってところ、見せてあげたいんです」
 ヒイロの笑顔にサムズアップを返すドミニカ。彼女は彼女なりの戦いをし、その結果がここにある。
 ドミニカは廃人同然になった斬子に毎日語りかけ、そして新しいネストリングを支える為に旧ネストリングの戦力をかき集めていたのだ。
「私なりに色々考えたんだけどさ。やっぱりヒイロも斬子も仲間だから、知らん振りってのは違うと思うのよね」
 照れ笑いするドミニカ。カシェルと朝比奈は顔を見合わせ肩を竦めている。
「まー、旧の連中集めたのはあの前髪野郎だけどさ。ちなみにここに来たいって言ったのは斬子本人だかんね。私は反対したのよ?」
「くず子が?」
 車椅子に乗ったままの斬子と見詰め合うヒイロ。ヒイロは優しく微笑み、斬子の頬を撫でる。
「そっか‥‥。ありがとう、向き合ってくれて。君は私を恨んでもいいのに」
 返事は無く斬子は俯く。ドミニカは頬を掻き、斬子の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「安心して、斬子の事は後方で私が面倒見とくから、絶対危険には晒さないって約束する!」
「是非お願いするのですよー!」
 ハイタッチする二人。その様子をセルマは腕を組んで見ている。
「新ネストリング、か。まだ逃げずに踏ん張っている子がいる以上、責任から逃れる事は出来ないだろうな」
「あんたらもネストリングなの? なんか皆強そうだな‥‥」
「お前みたいな新入りとは違うからな。ベテランよ、ベテラン」
 一登の頭を撫で回す朝比奈。騒がしくなってきた場をカシェルが手を叩いて纏める。
「それじゃあ、それぞれが何を担当するのか相談しましょう。相手は待ってくれませんからね、急がなければ」
「ちょっと待ってくれる? あともう一勢力、参加するんだけど」
 グラティスの声とほぼ同時、小柄な少女が走ってくる。白衣の裾をはためかせ、肩で息をしながら少女は足を止める。
「すみません、遅くなりました‥‥!」
 黒いロングコートで全身をすっぽりと覆った人物をお供に連れた金髪の少女。伊達メガネのズレを直し、胸に手を当て告げる。
「今回の作戦に参加させていただく事になりました、イリス・カレーニイです。皆さん、宜しくお願いします」



 浮遊を開始したクライストチャーチ基地。その指揮所ではイヒマエラがぼんやりと外の景色を眺めている。
「それで、本当にこの要塞で宇宙まで単独離脱が可能なのですか?」
「いや、多分無理」
 あっさりとした答えに困惑するペイルヘッジ。
「ブースターをてんこ盛りにして重力制御で浮いてるけど、ちゃんと宇宙まで行けるかどうか‥‥ぶっつけ本番の上に未完成だからね」
「出来なかったでは困ります。この地の残存戦力だけでも宇宙に持ち帰らねば」
「そう思うならこの基地がぶっ壊されないように精々守ってくれ。尤も、テスラのマグ・メルを奪えなかったあんたらに言った所で無意味かもしれないがね」
 無言で視線を逸らすペイルヘッジ。イヒマエラは煙草を吸いながら椅子にどっかりと座る。
「UPC軍は草壁がなんとかするだろうから、問題は傭兵だね」
「私とグェド‥‥いえ、ジライヤが防衛につきます。基地の方は何とかしてください。持ち帰りたい物もあるのです」
「持ち帰りたい物?」
「ええ、まあ。貴女には関係の無い事です。言われた通りにしていれば問題ありません」
 踵を返し立ち去るペイルヘッジ。残されたイヒマエラは目を細め、自虐的な笑みを浮かべる。
「結局また一人か。ま、それも科学者の末路には相応しいか」
 やれる事はやった。時間も予算も人手も足りない。
 それでもやり遂げたのは意地だ。この要塞を作り上げた人間として。テスラというライバルに負けない為にも。
「何が地球環境の保護だ。要塞は要塞、兵器は兵器だろうに。それでお前が死んでたら‥‥意味ないだろよ、テスラ」
 溜息交じりの声で呟く嘗ての友の名。ゆっくりと目を瞑り、イヒマエラは最期の時を刻む音に耳を傾けていた。

●参加者一覧

/ 須佐 武流(ga1461) / 終夜・無月(ga3084) / 崔 南斗(ga4407) / アルヴァイム(ga5051) / 鐘依 透(ga6282) / 上杉・浩一(ga8766) / 時枝・悠(ga8810) / キア・ブロッサム(gb1240) / 緋桜(gb2184) / リヴァル・クロウ(gb2337) / ニナ・フォイエル(gb4277) / 加賀・忍(gb7519) / 館山 西土朗(gb8573) / 御堂 飛鳥(gb9655) / 樹・籐子(gc0214) / 南 十星(gc1722) / ラナ・ヴェクサー(gc1748) / 巳沢 涼(gc3648) / ミリハナク(gc4008) / 月読井草(gc4439) / ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751) / 茅ヶ崎 ニア(gc6296) / 皆守 京子(gc6698) / ミルヒ(gc7084) / 村雨 紫狼(gc7632

●リプレイ本文

 空に聳える要塞、マグ・メル2。嘗てクライストチャーチ基地であったそれがこの地で破壊すべき最後の目標である。
「目標確認! あれがマグ・メル2かぁ‥‥凄い大きさねー!」
 感嘆の声を漏らす御堂 飛鳥(gb9655)。浮遊するマグ・メルへ突入する為には相応の足が必須。傭兵達が組織したKV隊の中でも特にクノスペ隊は重要な役割を担っている。
「というか、よく判らなくてややっこしい要塞攻略戦よねー。まあ、こういうバックアップは得意分野だから頑張るけどー」
「クノスペ乗りはある程度纏まった方が良いかしら? バラバラに上陸すると逸れそうですわね」
 各々感想を口にする樹・籐子(gc0214)とニナ・フォイエル(gb4277)。崔 南斗(ga4407)はその言葉に同意する。
「そうだな。なるべく生身班が纏まって行動しやすいようにした方が良いだろう」
「と、そんな話をしている間に奴さんやる気だぞ。多数のワームの出撃と迎撃装置の稼動を感知した」
 ピュアホワイト内で計器を確認する館山 西土朗(gb8573)。マグ・メルは全ての迎撃装備と防衛戦力を放ち、傭兵達を迎え受ける。
「うわっ、ちょっとちょっと!? 迎撃凄すぎ! 全然近づける気がしないんだけどー!?」
「こっちも戦える装備では来てるけどー、やられちゃうと中の人が大変なのよねー?」
 次々に飛んで来る光線やらミサイルやらに大慌ての飛鳥。籐子の言う通り、戦えないわけではないが出来れば安全に人員を送り届けたい所である。
「問題ない。突破口は俺達が切り開く。諸兄らは予定通り降下、突入に専念してくれ」
 クノスペ隊から先行する傭兵のKV達。リヴァル・クロウ(gb2337)はHWの部隊へと突っ込んでいく。
「ずるいですわよ、一人で先行するなんて。私も今は大暴れしたい気分ですの」
「実は私もそうです。別に暴れたいわけではありませんが、これもお友達の為ですから」
 リヴァルに並ぶミリハナク(gc4008)。そのやや後方にミルヒ(gc7084)がつく。
「玲子ちゃん達の為にも、せめてこの基地は破壊してみせます。敵は多いですが、デストラクトと比べればなんて事ありません」
 余裕の笑みを見せる皆守 京子(gc6698)。彼らは先ずマグ・メル周辺を飛び交うHWの対処を行なう。
 リヴァルとミルヒは一斉にミサイルを発射。マルチロックで多数のHWを巻き込み爆破していく。
「じゃんじゃん撃ちますよ。天はミサイルキャリアーなのです」
「随分と賑やかだな‥‥お祭り騒ぎって所か」
 爆炎を掻い潜り突撃する時枝・悠(ga8810)。レーザーガンで擦れ違い様ワームを撃墜し、旋回しながらコンテナミサイルを放出する。
「こんな要塞どうでもいいが、賑やかしくらいにはなるだろ」
「八つ当たりですわー! やーつーあーたーりー! 一匹残らずぶっ潰してやりますわー!」
 なんとも言えない無表情さで叫ぶミリハナク。マグ・メルへと突っ込み、超大型対艦誘導弾「燭陰」を発射する。
 燭陰はクノスペ隊の降下予定地点付近で炸裂。巨大な炎が吹き上がり、地表に列挙していた大量のキメラを一瞬で焼き尽くした。
「んー、さすがに一発じゃ要塞は壊れそうもないですわねー、サイズ的に」
「うおっ、なんかすげえ事になってんな‥‥!? 何か一部、連携とか無視して暴れてる人がいらっしゃるような気が‥‥」
 冷や汗を流す村雨 紫狼(gc7632)。彼はちゃんとクノスペ隊を護衛し戦っているのだが、どう考えても突っ込みすぎの奴らがいる。それで特に問題ないのだから、それはそれですごい。
「しかし、元から破損してるワームが多いな‥‥敵さんもジリ貧っつーか、足掻いてるって事か‥‥」
 ガトリングでワームを撃ち落し、墜落する機体を見送る紫狼。
「何でやられるのがわかってるのに来るかね。このまま地球から出てってくれりゃ、潰しあう事もねーんだがなぁ」
 一方、そんな空戦班の活躍にゆっくりついていくアルヴァイム(ga5051)。HWはすっかり進路から消えたが、まだ迎撃塔等がマグ・メルには残っている。
「流石ですね。これなら楽に着陸出来そうです。HWはあちらに任せ着陸しましょう。迎撃塔はまだ残っていますので、各自対応を」
「砲塔を破壊しながら着陸すればいいのかしら?」
「運ぶだけの簡単なお仕事って聞いてたんだけどなぁ。おっかしいなぁー!」
 アルヴァイムに続きマグ・メルへと向かうニナや飛鳥達クノスペ隊。進路を遮るHWは友軍機が撃破するが、マグ・メルが多数搭載した迎撃塔はまだ山程残っている。
 各地から発射される光線をかわしながら突入するクノスペ隊。アルヴァイムは先行し、砲塔を破壊しながら旋回する。
「よし、今だ! 降下開始!」
 ラージフレアを使用しつつ効果を行なう南斗。ニナは周囲に煙幕を張り、クノスペ隊の降下を支援する。
 マグ・メル表層は元クライストチャーチ基地そのものである。故に滑走路や、それに及ばずとも整地は幾らでもある。
 クノスペ隊は多少の被弾はあったが、無事に着陸を終えた。そしてコンテナから内部突入を行なう傭兵達を解放する。
「マグ・メルの同型艦‥‥使う人と使い方が違うだけでこんなに変わるものなんですね」
「うんうん、全然違うなー! クリア後二週目‥‥いや、ボーナスステージかな?」
 周囲を眺める鐘依 透(ga6282)と月読井草(gc4439)。そんな彼らを出迎えるのは大量に迫るキメラの群れ、そして地上戦力であるゴーレムやTWである。
「なにやら手厚い歓迎ですね」
「流石に数が多いか‥‥」
 二丁の銃を構える南 十星(gc1722)。険しい表情のカシェルに続き、ネトリング勢力が文字通り転がり出てくる。
「ぎにゃー! 一杯揺れて大変でした!」
 床に転がり死んだ魚のような目のヒイロ。全ての生身戦力が揃い、徒党を組んで敵と対峙する。
「よーし皆、ゴーゴー! ムーブムーブ! 奴らに引導を渡してやれ!」
「わふー! ヒイロリング突撃ー! 皆やっつけろー!」
 剣を手に真っ先に突撃する井草とヒイロ。そんな二人を追い抜き、近づきキメラ達を傭兵達がそれぞれ駆逐していく。
 特に目覚しい勢いなのが終夜・無月(ga3084)。近づいた固体から順番に叩き斬られ、彼が通過した後には血肉の道が出来ている。
 立ち塞がるゴーレムに飛び掛り一撃で首を刎ね飛ばし、着地と同時に足を斬りおとす。倒れるゴーレムに巻き込まれ、更にキメラが潰れていく。
「わふふーん!」
「何でお前がどや顔なんだよ」
「社員だから‥‥」
 朝比奈に頭を掴まれもがくヒイロ。そんなヒイロ達も負けじとキメラを撃破していく。無月はそんな彼らの戦いぶりを微笑ましく見つめていた。
 新旧ネストリング戦力が集結しヒイロと共に戦う‥‥それを無月はずっと待ち望んでいた。
 漸く今、ネストリングは一つになった。そんな彼らの未来を切り開く為、無月は容赦なく敵を屠って行く。
「凄まじいな‥‥お陰でこっちは大分楽を出来そうだ」
「ああ。もう雑魚は全部あいつ一人でいいんじゃねぇか?」
 やや後方からまったりついていく上杉・浩一(ga8766)と須佐 武流(ga1461)。取りこぼした敵をテキトーに始末している。
「そういや終夜さん、機体はどうしたんだ?」
 ぽつりと問う浩一。無月はクノスペではなく自前のKVでやってきたのだが、今は降りているわけで。
 無月が指差す先、そこには彼の機体が立っていた。しかも動いている。
「うおーっすげぇーっ! カッチョイイー! なんか超強そうだしよー!」
 そのKVからは少年の声がしている。
「一登に預けて来ました」
「‥‥預ける相手間違ってねぇか?」
 そんな話をしていると、遠くからプロトン砲が飛んで来る。こちらへ接近しているTWからの物だ。
「うおっ!? 流石にあれは当たったらやばいぞ!?」
 慌てて敵を見上げる巳沢 涼(gc3648)。更にそのまま視線を上げると、上空から接近してくる一機のKVが見える。
「この瞬間を待っていたんだ!」
 低空飛行から人型に変形し、空中を舞うスカイセイバー。ドゥ・ヤフーリヴァは側面からTWを斬りつけ、そのまま地上へ着地する。
「突入班はそのまま内部へ。こちらは陣を組み防衛戦を行ないます。帰りの足がなくなっては困りますからね」
 アルヴァイムの指示で陣形を組み、接近するキメラやゴーレムを迎撃するクノスペ隊。ドゥも地上でゴレームとの交戦を続ける。
「私、自衛力は殆どないんだけど‥‥割に合わないー」
「近づく敵を倒せば宜しいのでしょう? クラッシュファングしかありませんけど」
「皆、必ず帰って来い! 俺も頑張るからな!」
 手を振りながら走り去るヒイロを見送る南斗。クノスペ隊はこうして地上に残り、敵の相手を務めるのであった。

「ったく、こんなもん作りやがって! 片っ端からぶっ壊してやる!」
 マグ・メルへと突入した傭兵達。そんな彼らをキメラだけではなく、バグア兵や強化人間が待ち受ける。
「邪魔だ!」
 槍を手に突撃する涼。バグアはその一撃を受け止めるが、涼の背中にはヒイロがくっついていた。
 ヒイロはバグアの背後に飛び降り連続で拳を繰り出し、涼と同時にフィニッシュブローを放つ。
「わふーん。ヒイロリングの敵じゃないのですよ!」
「俺達のコンビネーションを舐めんなよ!」
 付き合いの長い者達の連携は上等で、強化人間も物ともしない。特に涼は連携の起点を作り出し、戦況を優位に展開させる。
「ヒイロさん、強くなりましたね。心も体も。まぁ、一部は成長してないみたいですが」
 十星の言葉に無い胸を張るヒイロ。緋桜(gb2184)は道中を眺め、なにやら考え込んでいる。
「テスラは死にましたが、これは正しくマグ・メル。まさか私の生涯の中で二度も空飛ぶ大地に立つ事になろうとは、思いもよりませんでしたが‥‥」
「マグ・メルがミュージアムと同型なら重要部分も同じ場所にある筈です。そこを目指しましょう」
「そうですね。ご案内しましょう」
 茅ヶ崎 ニア(gc6296)の言葉に頷く十星。傭兵達は順調に中枢へと歩みを進めるが、そこへ他とは毛色の違うバグアが現れる。
「ノォ〜ウ‥‥! ペイルヘッジの奴何処へ行ってしまったデース! 広すぎてすっかり迷子デース!」
「あれは‥‥ジライヤ?」
 少し驚いた様子のラナ・ヴェクサー(gc1748)。ジライヤは傭兵達に気付き、慌てた様子で飛び退く。
「ゲゲェー!? 何故ここに居るデース!?」
「貴方こそ、情けない声を出して何してるの?」
 刀の峰で肩を叩きながら問いかける加賀・忍(gb7519)。ジライヤは咳払いし、ビーム刀を抜く。
「侵入者を探していたのデース。決して迷子ではなく!」
「‥‥迷子だったんですね」
 ぽつりと呟くキア・ブロッサム(gb1240)。忍は容赦なくジライヤへと襲い掛かり刃を叩き付ける。
「この要塞の事はどうでもいいけど、貴方の事に関しては別よ。この僥倖‥‥逃がす手はないわ!」
「何で拙者こんなに追いかけられるのか身に覚えがないデースが‥‥!」
「あれの相手は私達が‥‥皆さんは中枢へ向かってください」
 銃を抜き走り出すキア、それにラナが続く。三人はジライヤと戦闘を開始、それ以外の傭兵はキアの言う通り中枢へと向かう。
 中枢へと続くエレベーターに乗り込む傭兵達。構造がテスラのマグ・メルと同一であれば、これで敵司令が居る場所までいけるはずだ。
 扉が開くとそこには広い空間が広がっていた。このマグ・メルの指揮所、或いは制御室とも呼ぶべき場所である。
「もう来たか‥‥想像以上の速さだったな」
 煙草の吸殻を灰皿に捻じ込み立ち上がるイヒマエラ。この場には彼女だけではなく、護衛と思しきバグアが複数待ち構えている。
「大ボス様のご登場ってか」
「あれがこのマグ・メルの司令官ですか。テスラとは随分趣が違いますが‥‥此度の目的は破壊。遠慮なく行かせて頂きます」
 構える武流と緋桜。イヒマエラは眼鏡を中指で押し上げ微笑む。
「最早この戦争、勝ちで終われるとは私だって思っちゃいないさ。けどね、ただ負けてやるっていうのも癪なのさ」
 白衣をはためかせ、太股のホルスターから二丁の光線銃を抜く。指先でそれを回し、胸の前で交差させた腕で構える。
「私は草壁ほど狂っちゃいないからね。一応、生って奴に縋りつかせて貰うよ」

 一方、マグ・メル外部。こちらでは上昇を続けるマグ・メルのブースターを破壊する作戦が展開されていた。
「上昇速度はかなりゆっくりだから時間が押し迫ってるってわけじゃないが、破壊しないわけにもいかんからな。砲台、プラントの破壊と平行してブースターにも対処してくれ」
 戦域全体を観察し続ける西土朗。HWは粗方排除したが、それでもまだ増援が現れ続けている。
「かなりの数のプラントがありますね。手分けして対処しないとキリがありません」
 迎撃塔の攻撃を回避しながらマグ・メルへ接近しディスクスケルラでプラントを兼ねた塔を破壊する京子。空中戦力の排除は順調だが、マグ・メル地表に残ったワームからの攻撃もある。
「地上の敵戦力が多い。俺は降下し、対空施設の破壊とクノスペの護衛に移る」
「了解ですわー。どうせブースター破壊の人手は足りてますから、気兼ねなくどうぞ」
 人型に変形しつつマグ・メルへ取り付くリヴァル。チェーンガンで塔を破壊し、クノスペに攻撃を加えるゴーレムへ側面から剣で襲い掛かる。
「アルヴァイム、状況は?」
「ブースターは急ごしらえなのか脆いですね。それ程破壊の為に火力は要求しないでしょう。突入班も、順調に敵司令まで辿り着いた様子で」
 クノスペ達を背に構えるリヴァル。そんな地上の様子を端目に捉え、ミリハナクはマグ・メルの周囲を旋回する。
「んー、どの程度壊したら落ちるかしらねぇ。自力でああいうデカブツを破壊できたら楽しいんでしょうが」
「幾らなんでもそれは難しいと思いますよ。サイズ的に」
「火力がまだ足りませんわね‥‥サイズ的に」
「もう少し小さければ落とせるんですか‥‥?」
 ミリハナクとミルヒの会話に苦笑する京子。三機は協力して接近する敵を撃破しつつマグ・メルを挟むように移動する。
「宇宙へ上がるにはかなり時間がかかるとの事ですが、やはり早めに宇宙への脱出といった可能性を削いでおきたいところですね」
「一箇所ずつ破壊すると中の連中が迷惑するかもしれない。対角線上のブースターを同時に潰すぞ」
 悠も合流し、傭兵達は二手に別れマグ・メルの外周を飛行する。迎撃を掻い潜りながらブースターへ攻撃を仕掛け、同時に破壊を行なっていく。
「要塞自体は重力制御で飛行しているんでしょうから、いきなり傾いて墜落する事もないでしょうけど」
 呟く京子。そのまま二つの班に分かれ、外周をぐるりと一周するようにブースターを破壊しにかかる。
 京子の言う通り、飛行自体はブースターに頼っているものではない。尚且つ同時破壊のタイミングも完璧だった為、揺れらしい揺れは起こらなかった。
「あらー、中々に順調なんじゃないー?」
「とりあえず宇宙に投げ出される心配はしなくても良さそうだな」
 マグ・メル上で交戦するクノスペ隊。籐子の言葉に頷く南斗だが、地上の戦力はやはり多く劣勢は続いていた。
「よっしゃあ! 後はクノスペを護衛するだけだ! 行くぜ、ダイバァァァアーッド!!」
 地上に降り立った紫狼は二刀を構えポーズを取る。そのまま加速し背後からゴーレムに斬りかかった。
「格闘マシンのダイバードには、やっぱりブースター破壊よりこっちの方があってるぜ!」
「内部へ向かいたい所だけど、地上の敵が多いからね‥‥何とか片付けないと」
 ツインブレイドで紫狼に続きゴーレムを切り裂くドゥ。二機は爆発するゴーレムを背に構え直す。
「護衛はリヴァルさんで十分なようだから、僕達はオフェンスを。このままプラントとワームを破壊する」
「了解だぜ! よっしゃあ、ダイバード!進撃だぁあああ!」
 二機は連携しゴーレムを撃破、塔を破壊していく。マグ・メル自体の広さが広さである為、突入班を待っているクノスペ隊では対処出来ない敵は彼らの担当だ。
 接近するキメラの群れをロケット弾で吹っ飛ばすニナ。籐子はチェーンガンを、飛鳥はハンドマシンガンでリヴァルを援護する。
 TWやゴーレム等の大物は専ら彼の相手だ。攻撃をディフェンダーで受け仲間を庇いつつ敵を撃破して行く。
「くそー、多分このKVめちゃくちゃ強いんだと思うけど、全然上手く使えねぇー!」
「だ、大丈夫か? 無理するなよ?」
 ふらふらした動きの無月の機体。留守番を任された一登だが、あまり役に立っているとは言えない。
「かなり頑丈だから、やられる事は無いと思うけど‥‥改造されすぎててわけわかんねーよ、無月兄ちゃん!」
 冷や汗を流す南斗。とりあえず無事そうなので、多少ほっといても大丈夫だろう。
 そうこうしている間に空戦班はマグ・メル外周を半周し、増設ブースターの破壊を完了しようとしていた。
「こいつで最後っと‥‥楽勝だな。弱い者イジメだ」
「これで終わりなんて退屈ですわー。さっさと機械融合して、超強力要塞に変身しないかしらねぇ」
 悠とミリハナクはそれぞれの感想を述べる。ミルヒは無表情だが、京子は不吉な言葉になんとも言えない表情だ。
「さてと。大体空の敵は片付けた事だし、地上を手伝ってやるか」
「そうですね。リヴァルさん、これからそちらへ向かいます!」
 それぞれマグ・メル地上を目指す空戦隊。着陸し人型へ変形すると地上の敵との交戦を開始する。
「マグ・メルは徐々に降下を開始している。後は中の連中だな」
 マグ・メル外周を飛びながら呟く西土朗。外周のプラントや発着口は既に破壊完了。地上に関しても四機が増援に入った事により、状況は一気に優勢に傾くだろう。
 となれば、残りは内部の問題。マグ・メルそのものの機能を停止させればこちらの勝利となる‥‥。

 マグ・メル内部。道中でジライヤと遭遇した三名は彼の敵と戦いながら移動を続けていた。
 逃げるジライヤが戦場に選んだのはやはりある程度の広さが確保された場所、格納庫であった。
「全く以ってしつこいデース!」
「それは貴方がしぶといからでしょ? もう残っているのは貴方だけ。ここらで決着をつけましょう」
 刃を構える忍。彼女の言う通り、ジライヤは最早一人だ。彼が味方していたバグアも既にこの世には存在しない。
「‥‥お久しぶり、ですね。シルバリーも供給源も死んだ‥‥でも、そう考えると長い付き合いになります」
「私は何気に直接お会いするのは初めて、かな?」
 忍同様武器を構えるラナとキア。供給源関連からネストリング、そしてマグ・メルまで続いた戦いも、ある意味このバグアが最後となる。
「それにしても‥‥雇い主に恵まれませんね、貴方は」
 くすりと微笑むキア。ラナの表情にも憎しみと呼べるような物はない。
 それもその筈、このひょうきんなバグアは他のバグアと比べると随分『まし』な類である。大分鬱陶しくはあるが、外道という程ではなく。
「より稼ぐに必要な事‥‥それは力でも策でもなく‥‥確り支払って頂ける主を選ぶ事、かな」
「それは本当に同意デース‥‥結局あいつらは好き勝手やって好き勝手に死んじまったデース。拙者、損しただけ!」
 だからこれくらいの会話をする余裕はある。忍もジライヤが憎いというのではなく、ただ決着をつけたいだけなのだ。
「バーット‥‥それは拙者の所為ではないのデース。拙者の‥‥俺の本当の役割は、人間に近すぎるバグアの監視だったからな」
 モノアイの色が変わり、構えから隙が消える。張り詰めた空気は彼の本気を示していた。
「だが、俺が『処刑』する前にお前達が始末してくれたからな。結果的には楽をさせてもらったとも言える」
「でしたら、その帳尻はここらで合わせなければいけないでしょう?」
「その通りだな。お前達がどこまでも追ってくるというのなら、ここでその因縁、断ち切らせてもらう」
 スラスターを展開し瞳を輝かせるジライヤ。そして傭兵達へと駆け出すのであった。

 中枢ではイヒマエラとその護衛のバグア達との戦闘が開始されていた。イヒマエラは二丁の光線銃を連射し、傭兵達の接近を許さない。
 次々に飛んで来る光線を走って回避しながら矢を放つ武流。まずはイヒマエラの前に護衛のバグアを始末する考えだ。
「テスラ、貴女の思いを継いだ者として必ず止めて見せます」
「地球の為に一肌脱ぐとしましょうか!」
 銃を構える十星とニア。二人は制圧射撃を仕掛け、バグア兵の動きを制限する。
 すかさず飛び込み斬りかかる透。イヒマエラの光線もバグア兵の迎撃も物ともせず掻い潜り、擦れ違い様の一撃でバグア兵を撃破する。
「相手はバグアだけど、こっちの方が人数は上だ! 一気に殲滅するぞ!」
 ヒイロの掛け声で突撃するネストリング。天笠隊もいる為、人数的には傭兵側が圧倒的に有利だ。
 多数のバグアと能力者が入り乱れる乱戦へと発展した決戦の中、浩一は味方の位置を確認しながら走る。
「若い人達が新たな一歩を踏み出す為の戦だ。俺の夢の為にも、ヒイロさんには生きていて貰わねばな」
 今のヒイロは以前とは違う。それは傍で見てきた浩一が一番理解している事だ。
 彼女は成長した。そして今、ネストリングのシンボルとして機能し始めている。駆け出した夢、それをここで終わらせるわけには行かない。
「新ネストリングと仲間を守るんだ。もう直ぐ戦争も終わる。最後の最後にこんな所で仲間が死ぬなんて御免だからな」
 浩一に並走する涼。二人は頷き合い目前のバグアへ襲い掛かる。
「ヒイロさんの夢は‥‥!」
「俺達が守る!」
 涼がSMGで攻撃し、浩一が飛び込んで一撃を加える。すかさず涼が槍を手に高速移動で突撃し、二人同時にバグアを攻撃して吹っ飛ばした。
「雑魚に用はねぇ! 退きやがれ!」
 群がるバグア兵の中へ飛び込み、残像斬を使い纏めて吹き飛ばす武流。そのまま真っ直ぐイヒマエラへと向かう。
 イヒマエラは知覚銃で武流を迎撃。更に反対側から透が迫るが、左右に伸ばした銃を連射し対応する。
「イヒマエラさん‥‥この要塞を止める気はありませんか! 僕は‥‥この要塞にこれ以上戦争はさせたくない。テスラさんの意思を、絶対に無駄にしたくないんです!」
「テスラの‥‥そうか、お前達が!」
 空に舞い、二人の攻撃をかわすイヒマエラ。空中で回転し天井に足を着き、跳びながら銃を連射する。
「テスラはマグ・メルを戦争の道具にされたくないって、そう言って自ら海に沈めたんだ! 科学はそれを使う者の鏡なんだ! その事を忘れて兵器を造り力を振るうものは報いを受ける事になる! それを分かるんだよイヒマエラ!」
 乱戦の中、味方を回復しながら叫ぶ井草。しかしイヒマエラは嘲笑を一つ。
「兵器は兵器だろうが。あのバカはわけのわからない妄想にとりつかれて私を裏切ったんだよ。あんな奴知った事か!」
 バグア兵の胴体を真っ二つに切り裂きイヒマエラへ向かう無月。イヒマエラは武流、透、無月という強者三人に囲まれながらも舞い踊るように回避し、銃撃を繰り出していく。
「貴女はマグ・メルをどうするつもりなんです? 貴方の意思はそこにあるんですか!」
「意思‥‥だって?」
 透の声に目を細めるイヒマエラ。
 そんな物はない。なぜなら彼女の夢はとっくの昔に終わってしまっているからだ。
 最初は確かにテスラとも同じ道を歩いていた。けれどこの地が見放され、テスラも去り、統治者であった者も去り、自分だけが残された。
 敗残兵を受け入れているうちにやりたかった事は失われ、やらなければいけない事ばかりに雁字搦めにされていた。
「私の意思‥‥そんなもの‥‥」
 何も無い。ある筈も無い。けれども本当は諦めきれなくて。だから、草壁の全てを受け入れた態度に魅力を感じていたのかもしれない。
 考え込んでいたのは本当に一瞬だ。だが隙としては十分であった。惜しむらくは彼女が戦士ではなく、所詮科学者であったという事。
 連続で真空の斬撃を放つ透。咄嗟にそれを回避したが、緋桜の銃弾に当たってしまう。続け緋桜本人が繰り出した斬撃は銃を交差させ防いだが、そこへ武流が飛び込んでくる。
 すかさず銃口を向けるイヒマエラ。しかしそこに既に武流の姿は無く、彼は何処に居るのかと言えば、いつの間にかイヒマエラの頭上に居たのだ。
「どうした、勢いなさ過ぎるぜ?」
 一瞬で回避し跳躍。イヒマエラの頭に片手をついて回転し背後に着地したのだ。そして振り返り回し蹴りを放つ。
「俺の嵐が‥‥吹き荒れるぜ!」
 更に空中で回転しもう一撃。背中に強打を受けたイヒマエラは前のめりに吹っ飛ぶ。
「ぐあ‥‥ッ!?」
 血を吐き倒れるイヒマエラ。手から離れた銃へ倒れたまま腕を伸ばすが、その先には剣を手にした無月が待ち構えている。
「‥‥ここまで、か。ち‥‥っ、まあ、頑張った方、だろ‥‥」
 何を頑張ったというのか。自分でもよく判らない。結局意地を張り通した先に訪れた、当たり前の結末だったのに――。

 格納庫でジライヤと交戦する三人。本気を出したジライヤはスラスターから白銀の霧を周囲に噴出しその中へ姿を消す。
「その技の対策は既に万全です‥‥」
 超機械の扇を開くキア。竜巻でこの霧を吹き飛ばす事が出来るのは過去の戦いで実証済み。しかしそこに既にジライヤの姿は無い。
「上‥‥!」
 何時の間に跳躍したのか、上から遅いかかるジライヤ。キアは銃で迎撃しながら飛び退き距離を取る。
 ラナと共に銃を連射するキア。しかしジライヤは尋常ならざる速度で駆け回り照準を合わせさせない。
 忍は迅雷で距離を詰め刃を繰り出すが、ジライヤは容易く回避する。そのまま忍を蹴飛ばし、空を舞いながらラナへと手裏剣を投擲する。
 次々に飛来する刃をかわしながら駆けるラナ。空中でジライヤと刃を交えるが、有効打には届かない。
「お前達の力は認めているが、俺には及ばない。たった三人で何が出来る」
「確かに、一対一なら勝ち目はないわね。でも‥‥こっちは三人がかり。意味はそこにある」
 構え直す忍。三人はジライヤを囲み集中を高めていく。
「貴方に恨みはありませんが‥‥私は仲間の為に拳を振るうのみです」
 構えるラナに微笑むキア。忍は静かに息を吐き、ゆっくりと、しかし確かに剣を握り締める。
 心に浮かぶ言葉は感謝。一人では掴めない勝利を掴む為、彼女が戦いの中で辿り得た答え。
 ジライヤという敵は彼女にとって超えるべき壁。人格やその所業が問題ではないのだ。
 力を追い求めた先に彼が立っていた。何度も刃を交え、敗北を知り、それを超える為に新しい力を追い求めた。
 今こそ、その答えを確かめる時――。
「ジライヤ‥‥勝負!」
 駆け出す忍。繰り出す一撃をジライヤは背後に跳んで回避する。その回避先へ回り混み、ラナが低い姿勢から爪を振るう。
 怒涛の連続攻撃は蒼い光の軌跡を残しジライヤを追う。それをかわし、刃で防ぐジライヤ。しかしラナは更に爪を繰り出し遂にジライヤの身体を捉えた。
 爪が切り裂いたのはジライヤの腰、その左右に装備されているスラスターである。距離を取ろうとするジライヤだが、ラナがつけた傷にキアの放った銃弾が直撃。スラスターが小さく爆発を起こした。
「ち――ッ!」
 拳銃の銃口を吹くキア。そうして視線でジライヤに背後を確認するように促す。
 ゆっくりと、間延びした意識の中で振り返るジライヤ。そこには既に攻撃を繰り出している忍の姿があった。
 下段から繰り出した一撃でジライヤの足を斬りつける忍。すかさず刃を翻し、身体を捻りながら横一閃に斬撃を放った。
 スラスターと足が無事なら一気に距離を取り仕切り直しを図る事は容易。しかし片足と片側のスラスターを破損した今、無理なクイックブーストは転倒に繋がるだろう。そしてその転倒を見逃すほど二人は甘くない。
 故に、真正面から刃で受け止めるしかない。忍はありったけの力を振り絞り正面からジライヤへ打ち込んでいく。
 油断はない。この時の想定は何度も重ねてきた。難しくはない。ただ何度もこいつを取り逃がした時の記憶を蘇らせるだけ。
 集中し、ジライヤの動きについていく。力任せにの中に経験を織り交ぜて、信頼と答えに手を伸ばすのみ――。
 鋭く繰り出した突きがジライヤの身体を貫く。すかさずありったけの力を込め、横へ振り抜いた。ジライヤは仰け反り、数歩後退し膝を着く。
「ついに‥‥追いつかれたか」
「‥‥ええ。捕まえたわよ、ジライヤ」
 止めの一撃を振り上げる忍。ジライヤには怒りも憎しみもない。ただ自身に訪れた終焉を、ありのままに受け入れていた。
 首を落とされ倒れる機械の身体。忍は何処か名残惜しそうにその亡骸を一瞥し刃を納めた。
「満足‥‥されました‥‥?」
 キアの言葉に頷く忍。目を瞑ったまま微笑む。
「ええ。連帯出来て満足よ」
「私は満足というか‥‥これで、多少休めるかな‥‥という、感じ‥‥かな?」
 乱れた髪を梳きながら苦笑するラナ。キアはそんなラナの髪先に指を通し微笑む。
「これからどうなるかは解かりませんが‥‥まだ終わりではありませんよ。無事に帰ったら、そうですね‥‥たまには互いの健闘を讃え合うのも良いでしょう」
 歩き出すキア。そこで思い出したように振り返り問う。
「興味本位の余談なのですが‥‥加賀さん。貴女は何故戦うのですか?」
「何故‥‥」
 きょとんとした顔の加賀。それから何故か笑い、二人の肩を叩いて先に行くのであった。
「な、なんですか?」
「‥‥やはり不思議な方、ね」

 イヒマエラやバグア兵を粗方片付けた傭兵達は制御室や動力部の破壊活動に専念していた。
 そんな中。血を流しながら倒れたイヒマエラは無気力げに傭兵達の様子を眺めている。受けた傷は致命傷で、放っておけば絶命するだろう。
「この傷で中々死なないってのは、バグアの身体様様だけど‥‥ね」
 自嘲の笑みを浮かべるイヒマエラ。その傍に何人かの傭兵が足を止める。
「テスラさんとは‥‥同士、だったんですよね?」
「‥‥ああ。とはいえ、私は元々兵器開発が領分。あいつは自分の楽園を作る為‥‥私を利用しただけさ」
 透の言葉に目を瞑るイヒマエラ。この地を立ち去る日、テスラはイヒマエラに手を差し伸べた。しかし所詮二人の生きる世界は違いすぎた。
「あんな夢で出来た泥舟、私には怖くて乗れないよ。それで、テスラは‥‥あいつは、満足していたのか?」
「バグアに使いたい言葉ではありませんが、テスラは‥‥立派でしたよ」
 緋桜の声を聞きながら笑うイヒマエラ。ぼんやりと天井を仰ぎ見ながら呟く。
「立派、か‥‥。人間に認められて死ぬ‥‥それは、あいつにとっちゃ‥‥これ以上なく、幸福だったろう‥‥ね‥‥」
 低く笑い声を上げ、そのままイヒマエラは動かなくなった。屈んで亡骸の前で手をあわせる井草、そこへカシェルが声をかける。
「皆さん、脱出しますよ! 制御装置を破壊したので、このままだと要塞は落下を始める筈です!」
「おー、今行くよー! よっしゃ、撤収撤収ー! 走れ走れー!」

「突入班より連絡がありました。マグ・メルの破壊に成功、これより脱出に移行するそうです」
 マグ・メル地上ではKV隊が戦闘を続けていた。ビームアクスでゴーレムの胴体を両断し、足元の残骸に加えながら悠が顔を上げる。
「ん、脱出か。そろそろ弱い者イジメにも飽きた頃だ‥‥丁度いい」
「出来るだけ早くしてくれると嬉しいねぇ‥‥流石に敵の数が多すぎらぁ!」
 傷だらけの機体で戦いながら声を上げる紫狼。ここの敵戦力はそのままクライストチャーチ基地の戦力そのものである。数で言えば傭兵達はかなりの劣勢にあると言え、それは長期戦になるにつれ明白化してくる。
「おい、まずいぞ! お前らの居るその要塞、少しずつ降下を始めてる! 降下速度はどんどん速くなってるぞ!」
 西土朗が慌てた声で連絡する。マグ・メルはゆっくりと自由落下を開始しており、墜落までの予想時間は‥‥。
「残り八分程度ですか」
「‥‥それって、結構やばいんじゃないのー?」
「念の為確認したいんだけどさ。あたし達って全員帰って来るまで逃げちゃダメなんだよね?」
「当然ですわ。その為に来たのですから」
 ニナのしれっとした声に頭を抱える飛鳥。機体も既に限界、状況は切羽詰ってきた。
「やっぱり割に合ってないー! おかしいよー!」
「可能な限り脱出口にKVを寄せておきましょう。アルヴァイムさん、合流予定ポイントは?」
「お姉ちゃんもそろそろお迎えに行こうかしらねー。皆そろそろ帰って来るだろうしー」
 歩き出すニナに慌ててついていく飛鳥。籐子はそんな彼女達とは少し違った方向へ移動していく。
 一方、交戦中のKV隊。リヴァルはチェーンガンをぶっ放しながら周囲を確認する。
「残り七分か‥‥俺達も脱出の準備を進めて置くぞ」
「ミリハナクさん、帰りますよ?」
「暴れたりないですわー! まだ帰りたくないでーすーわー!」
 ゴーレムの頭にすがり付いてかじかじしている竜牙をミルヒが掴んで引っ張っていく。
「そんな子供じゃないんですから」
「全然楽しくないですわー! 不完全燃焼ですわー!」
「二人とも、結構余裕ありますね‥‥」
 ネクタイを緩めながら汗だくで苦笑する京子。そこへ突入班が次々に脱出してくる。
「急いで下さい! 残り四分!」
 一部傭兵が乗り捨て状態にしていたKVを護衛しながら叫ぶドゥ。傭兵達はどっとクノスペや自分のKVに乗り込んでいく。
「おーい! ちょっと待て、誰がどれに乗るんだ!? っていうか全員いるのか!?」
「特にそういうの決めてないから、好きなのに乗ってください!」
「何で決めてねーんだよ!? やっべー、全員いるよな!? いるって体で行くぞ!」
 慌ててクノスペに乗り込むヒイロと朝比奈。南斗はその様子にハラハラしながら時計を睨む。
「残り三分‥‥脱出するぞ!」
 次々に飛び立つKV。無数の軌跡を残しマグ・メルから離れる鳥達が空へ舞い上がった頃、マグ・メルの落下速度はぐんと加速する。
 あっという間に落下し、海面に叩きつけられる。各所で爆発が起こり、空中要塞マグ・メル2は夕焼けと共に海へと沈むのであった。
「知人の意思に反しても空へ飛翔した要塞か‥‥心情は察するが‥‥同じ結末を辿った、ね」
 空を舞いながら呟くドゥ。浩一はぎゅうぎゅう詰めのコンテナの中、ヒイロを膝の上に乗せて溜息を吐いている。
「終わったか‥‥」
「いない人はいませんかー! いない人は手を挙げてください!」
 真顔で通信機に叫んでいるヒイロ。その頭を撫で浩一は目を瞑るのであった。



 こうしてマグ・メル2は海へと消え去り、ニュージーランドでの戦いは幕を下ろした。
 マグ・メルを初めとした幾つかの因縁も海の藻屑と消え、空には夜がやってくる。
 幾つかの戦いと物語の節目。戦士達は帰り道、それに想いを馳せていたのだが‥‥。
「‥‥こちら天笠だ。悪いが余力のある機体はこのまま指定したポイントへ向かって欲しい」
「どうかしたんですか?」
「別所で戦っていた九頭竜隊が全滅したらしい」
「えっ、ええっ!?」
 慌てる京子。しかし天笠は苦笑する。
「安心しろ、命は無事だ。だが機体が無くて帰りの足がないらしい」
「要するに、お迎えに行けばいいんですね」
 頷き飛んでいくミルヒ。何機かのKVは夜空の下、追加の依頼の為に飛んでいく。
 そして何機かは待つべき人達の所へ。それが彼らの戦いのそれぞれの結末‥‥否。一つの区切り、であった。

 クライストチャーチ攻略戦――完了。