タイトル:ブラッディ・メアリーマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/27 08:20

●オープニング本文


「草壁詠子と九頭竜玲子が出会ったのは約四年前。それから二人は草壁がMIAになるまで二年間、同じ部隊で戦った‥‥」
 草壁率いる部隊はいつしか『デストラクト』と呼ばれるようになる。玲子は草壁の片腕として、様々な戦場を渡り歩いた。
「士官学校卒で将官クラスにも受けが良かった九頭竜少尉が草壁の下に配属されたのは、最初から監視が目的だった」
 絵に書いたようなエリート士官候補生であった玲子。その成績は全てにおいて図抜けていた。
 生身での戦闘は言わずもがな、KV戦闘においても彼女は非常に優秀であった。そして何より、その性格は冷徹の一言に尽きる物だった。
 勝利の為に手段を選ばず、上官の命令に黙って従うだけの玲子はしばしば機械に譬えられた。奇しくもそれは彼女が苦手とする物もであった。
「九頭竜少尉が変わったのは、草壁大尉に出会ったから」
 草壁は玲子とは正反対に問題児であった。
 懲罰ギリギリの事を呼吸するように繰り返す。正義か悪かと問えば、間違いなくそれは邪悪であったが。
「でも、彼女には生が付き纏った」
 絶望的な戦場でも草壁は生き残った。ありとあらゆる敵味方を犠牲にして。
 生きる事を誰よりも楽しみ、貪欲にそれを欲していた。しかし己の死すら楽しみに変えていた草壁の本音を理解した者はいなかった。
「九頭竜少尉を除いて‥‥」

 ぼろぼろに戦い抜いて迎えた朝日。傷だらけの玲子は同じく傷だらけの草壁と共に塹壕でそれを見ていた。
「フ‥‥また死に損なったか」
「死に損なったわけではない。沢山の仲間を犠牲にして無理矢理生き残ったんだ」
「そうだったな。君の立案する作戦にはいつも助けられるよ、玲子」
 銃を抱きかかえて俯く玲子。草壁は帽子を目深に被り眩しい光を遮った。
「随分死んだな。また随分死んだ。いい奴も悪い奴も死んだ。だが私はそれが心地よい」
「狂人め。部下の死体を見て笑うお前の顔を世界中に放送したいよ」
「ははは、それはいいな。ファンが出来てしまう」
 どんな時でも笑う女だった。それがいつしか、どろどろと渦巻く心の扉を開けていく。
「何故笑っていられる。こんなの勝利でもなんでもない。皆死んだ。皆死んでしまった‥‥結果たまたま勝ったように見えるだけだ」
「だが勝利だ。功績になる」
「ふざけるな! 何が勝利だ! 私は‥‥私がしたかった事は! 私が望んだ未来はッ!」
 泣きながら立ち上がる玲子。その頭を掴み草壁は強引に塹壕に押し込んだ。
 目を見開く玲子。草壁はどさくさに紛れ玲子の唇を自らの唇で塞いでいた。困惑し固まる玲子に草壁は笑いかける。
「君は本当に世間知らずのお嬢様だな」
「貴様、何を‥‥!」
「生きるも死ぬも泡沫の夢さ。感情を揺さぶる為のスパイスに過ぎない。他人の命も自分の命も‥‥いつか消えるのなら、遅いか速いかだ」
「狂っている‥‥貴様は狂っている!」
「そりゃあそうだ。それともなんだ? 戦場にまっとうな人間がいるとでも言うのか?」
 唾を溜め、吐き出す草壁。まるで子供のように、いつでも自由に。
「君の口の中、ジャリジャリしてるな」
 その狂気は何故か心地良く、部隊の人間へと感染していった――。

「結局草壁隊で生き残ったのは四人。草壁詠子、九頭竜玲子、ビアンカ・ランチア、天笠総一郎‥‥でも、草壁は殺された。UPCの命令を受けた九頭竜少尉の手で‥‥」
 空母の一室で報告書を閉じる大和。憂鬱げに溜息を漏らす。
「それが九頭竜隊長の転落人生の始まり‥‥エリート士官の末路、かぁ」
 玲子はいつでも笑っていた。新人の自分にも優しく接し、まるで妹のように大切にしてくれた。
 細くしなやかな、しかし傷だらけの指が頭を撫でる感触を思い出す。自らの前髪を弄り、大和は塞ぎこむように頭を下げた。
「隊長が草壁と同じだなんて、私には思えないよ‥‥フラヴィ」



「何故だイヒマエラ! 何故草壁にティターンを渡した!?」
 格納庫で喚くゼプレムにイヒマエラは辟易した様子で耳を塞ぐ。
「アレは元々うちの司令が使ってた物だ。今となっては私のなんだから好きにさせろよ」
「納得が行かん! あのような流れの傭兵風情に! バグアの誇りすら持たぬ戦争の犬が!」
「まー、草壁はバグアの為には戦ってないだろうな。あいつは単純に戦争厨なんだろ」
「俺には力が必要なのだ! 部下の仇を討ち、奴らを宇宙へ帰す為の力がッ!!」
 耳を小指でほじくるイヒマエラ。ゼプレムはバグアの見本の様な男で、傲慢でプライドが高い。だが武人気質で部下には厳しくも優しく、何気に人望もあったりした。
 それが敗戦に続く敗戦で殆どの腹心を失い、逃げ場も無く足踏みする毎日。焦りはピークに達しようとしているのだろう。
「先の戦闘で俺はまた部下を死なせた。このままではバグア武人の面汚しよ!」
「だから新しいタロスやっただろ? カスタムもしてやったんだから、それでいけって」
「ぐぬぬう! もう良い、貴様には頼らん!」
 欠伸するイヒマエラ残し大股で去るゼプレム。それと入れ違いに草壁が現れる。
「今日も荒れているな、彼は」
「部下が死んだそうだ」
「へえ。それはお優しい」
「お前は部下が死んだくらいじゃ何も感じないんだろうね」
 コートのポケットに手を突っ込んだまま優しく微笑む草壁。イヒマエラは苦笑する。
「時間かかったけど要望通りに改造したよ。これが今回の報酬でいいね?」
「十全だ。感謝するよ」
「ゼプレムは宇宙に逃げ出す計画を前倒しにするつもりだろうけど、多分間に合わない。あっちはあっちでやるっていうのが元々の話だからほっといてもいいんだけどね、かわいそうだから手を貸してやってくれるか?」
「仰せのままに」
 真紅に塗装されたティターンの前に佇む草壁。そうして静かに呟く。
「この子の名前はブラッディ・メアリーだ」
「はあ?」
「機体には必ず名をつけるようにしている。この子は三代目だ」
「そいつはロマンチストなことで」
「感傷的にもなるさ。自分の棺桶になるものだからね」
 黙って横顔を見るイヒマエラ。やはり草壁は思った通り――この戦場で死ぬつもりなのだ。
 誰の助けもない見捨てられた戦場。草壁はそこでただ死ぬ為に、死に場所を探す為だけに戦っている。
「‥‥草壁。負け戦は楽しいかい?」
「ああ、楽しいね。生き残るのには、もう飽きてしまったよ」
 どこか寂しげに笑う草壁。イヒマエラはそんな変人を気に入りつつある自分を自覚していた‥‥。 

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
皆守 京子(gc6698
28歳・♀・EP
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 ニュージーランドに陣取るバグアの拠点の一つ、オークランド基地。そこへ傭兵達は強襲を仕掛けに走っていた。
『既に周囲の基地への陽動作戦は展開しています。速やかにオークランド基地のBFを破壊してください』
 通信機から聞こえる声は洋上の空母にいるオペレーター、フラヴィ・ベナールの物だ。
 このニュージーランドにおける作戦に、UPCが投入できる戦力は限られている。陽動は予定通りのようだが、それも長くは持たないだろう。
「陽動でどれだけ時間を稼げるか分かりません、敵が少ない内に急いで事を済ませましょう」
「‥‥恐らくこの作戦、時間との勝負になるだろう。速やかに目標を達成出来なければ、敵に囲まれる事にもなりかねない」
 皆守 京子(gc6698)の言葉にそう返すリヴァル・クロウ(gb2337)。
 正直な所、UPCの陽動にどれ程の効果があるのかはわからない。九頭竜小隊‥‥否、九頭竜玲子が置かれている状況を考え見ても、何が起きてもおかしくはない。リヴァルはそう考えていた。
「陽動‥‥ちゃんと、してくれますよね?」
 不安げに呟くティナ・アブソリュート(gc4189)。この作戦の裏に隠された不穏な気配、それがただの杞憂であれば良いのだが。
「ここはニュージーランドの要所なんだろ? 草壁一党の抵抗も激しくなってくる頃合だよな」
 ぼんやりと呟く地堂球基(ga1094)。京子はその言葉に先日出会った草壁の姿を思い出した。
「草壁詠子‥‥あの人が出てくるんでしょうか。だとしたら、私は‥‥」
 正直な所、草壁とは戦いたくないという想いがあった。敵であるという事実は決して変わらず、戦いは避けられないと理解もしているのだが‥‥。
「そうだなぁ。道化よりきゅーちゃんへ。草壁への伝言があるなら預かるよぉ。あいつを見つけたら、ほっとくわけにはいかなくてねぇ」
 レインウォーカー(gc2524)の問いに考え込む玲子。そしてゆっくりと首を横に振った。
「あいつに何か言えるような立場じゃないさ、私は。だからもう、ただ戦うしかないんだ。あいつは草壁詠子ではないのだからな‥‥」
「そうかぁ。まあ、お前の行動はお前自身の意思で選びな。お前なら出来るだろ、九頭竜玲子」
 穏やかな笑みを浮かべる玲子。リヴァルはそんな玲子に声をかける。
「何を以て間違いと言うのかは判断する人間の主観によって異なる。だが、最も犯してはならない間違い‥‥それは後悔を残す事だ」
 どうすれば良かったのかなんて、ただの結果論に過ぎない。だが確かにあの時、あの場所で、自分の本当の心の声を聞いた筈だ。
 今更になって感傷に浸った所で意味はない。振り返った時に見えるモノは、いつだって瞬間瞬間に切り取った自らの判断でしかない。
「だからこそ、今やるべき事をやれ。俺のようには、決してなるな」
「私ももう大人だよ。自分の心は‥‥誰よりもよく理解しているさ」
 大地を駆け抜け、オークランド基地を臨む傭兵達。その施設は軍事基地というよりはロケットの発射場のようである。
「見つけたのです! 改造されたBFが六機‥‥それと改造前の物が四機って所ですか。随分大所帯なのですね」
 ロータス・クイーンでBFを確認するヨダカ(gc2990)。多数の大型艦が並ぶ理由はある程度推測が可能だ。
「宇宙脱出も念頭においてるらしいな。逃がすと色々不都合そうだ」
「他人様の星に土足で上がり込み、荒らし放題荒らした挙句、旗色が悪くなったら遁走とは。いやはや‥‥随分と不甲斐無い話ですね。同情を禁じえません」
 球基の言葉に頷く飯島 修司(ga7951)。そうして顔を挙げ、鋭く敵を睨み付ける。
「ですが、事ここに至ってはいそうですか、と逃がすとでも? 甘いですな‥‥」
「無理に完全破壊しなくてもいいんだ。動力部、推進部、増設ブースター‥‥どれを破壊しても、脱出計画は頓挫する」
 冷静に語る鳳覚羅(gb3095)。彼の言う通り、まともに全て破壊していては時間がない。ならばスマートに最低限の結果を得るまでだ。
「島国で大きな魚退治です‥‥白い雲ふわふわー」
 周囲のシリアスな会話など露知らず、またもやマイペースなミルヒ(gc7084)。と、そこへプロトン砲が飛来し咄嗟に回避を行なう。
「現れたな‥‥人間共! これ以上貴様らの好きにはさせんぞぉおお!!」
 肩からプロトン砲を発射しながら迫るゼプレム機。それに彼の部下が登場したゴーレム隊が続く。
「派手な機体ですね‥‥あれが指揮官機ですか。先陣を切って突っ込んでくるとは勇猛果敢な事なのです」
「‥‥私の運が悪いのか? ああいう暑苦しそうな類のバグアとよく当たるような気がするのだが‥‥」
 眉間を揉みながら溜息を零すイレーネ・V・ノイエ(ga4317)。ヨダカは淡々と敵情報を味方と共有していく。
「――っと。もう一機、別方向から接近。これは‥‥ティターンですか!」
 低空飛行で基地に接近する真紅のティターン。それはゼプレム達と合流するようにして傭兵達の前に立ち塞がる。
「貴様、草壁か! ええい、一体何をしに来たのだ!?」
「イヒマエラからの餞だ。貴殿に力を貸すようにと言われている」
「貴様の助力など必要ないわぁ! 我らゼプレム隊だけで、こやつらの相手など十分すぎる!!」
「フフフ‥‥そうか? だがあまり彼らを侮らない方が良い。まあ貴殿がそのつもりなら、私は私で楽しませて貰おう」
 聞こえる敵の声。何人かの傭兵はそれに覚えがあった。
「その声、デストラクトの草壁か」
「如何にも」
 問いかけるリヴァルの声に涼しげに応える草壁。そこからは敵意も気迫も感じられないのだが、迂闊な接近を躊躇させる何かがあった。
「こんにちは。真っ赤なスカートが可愛い機体ですね。チャームポイントや得意技はなんですか?」
「チャームポイントか‥‥やはり袴かな? 得意技は高速移動と、凄い剣術だよ」
 普通に質問したミルヒに普通に答える草壁。前回もそうだったが、不思議と不思議が出会うと更なる不思議が展開してしまうのだ。
「また会えて嬉しいよ、草壁」
「君は‥‥そうか、そうなのだな。私に勝つと、そう口走った事の責任を全うしに来たというわけだ。フフフ‥‥嬉しいよ」
 両腕を左右に広げるティターン。武器すら手にしないその様子は異様ではあるが‥‥ここで時間を取られるわけにはいかない。
「こいつの相手はボクがする。BFの方は任せるよぉ」
「手を貸そう。俺の推測が正しければ‥‥この女、一人でどうにか出来るような相手ではない」
 レインウォーカーと並ぶリヴァル。草壁は何をするでもなくその様子を眺めている。
「躊躇っている場合じゃないのですよ! こいつらを突破して、BFを破壊するのです!」
 ヨダカの声で動き出すKV達。それを阻止しようとゼプレム隊も動き出す。
「やらせんと言っている!」
 そんなゼプレム機へ接近し、攻撃を仕掛けるのは覚羅だ。互いの持った斧を激突させ、激しく競り合う。
「宇宙で戦っている仲間の為にも、バグアのこの計画‥‥成功させるわけにはいかないね」
「おのれ‥‥下等生物風情が!」
 斧を振り上げるゼプレム。そこへ彼方より銃弾が飛来し、タロスの肩を撃ち抜いた。
「ぐぬぅう!? 何事だ!?」
 動き出した傭兵達の最後尾、狙撃銃を構えるイレーネのコロナの姿があった。ゼプレム機の姿を捉え、リロードしながら銃を構え直す。
「相手にはやや不満があるが‥‥まあ良い。貴公を撃滅するのが、今回の仕事だ」
 ゼプレムと草壁、二人の強敵を抑え、その間に残りの傭兵達はBFへと向かう。だかその前方には多数の敵が待ち構えている。
 緑色に塗装されたゼプレム隊のゴーレムは有人機で動きも鋭い。無人機ゴーレムは損傷が激しいが、数だけはかなりの物だ。
「まともに相手をしていたら時間がありませんね‥‥!」
 走りながらマシンガンでゴーレムを攻撃するティナ。その隣をレーザーガンを撃ちながら京子が走る。
「迅速に破壊しないと、デストラクトが来るかもしれません。草壁さん指揮下で揃ってしまったら‥‥考えるだけ憂鬱ですし」
 そんな二機を追い越し、ゼプレム隊のゴーレムに槍を突き刺すミルヒ。
「かぼちゃみたいな色ですね‥‥」
 謎のコメントに戦慄する友軍。修司は邪魔するゴーレムを薙ぎ払い、BFへ到達。大きく跳躍し、ブースターをディフェンダーで両断した。
「‥‥流石だな」
「BFの破壊は任せてしまっても良さそうなのですよ。それより、群がる雑魚を蹴散らした方が早そうです」
 玲子の呟きに頷くヨダカ。九頭竜小隊四機、それから球基、京子、ティナ、ミルヒの四機で周囲のゴーレムに対応する。
「なんだ? じゃあ周りに居る連中を倒せばいいってわけか?」
「任せて下さい! もはや足止めのプロと言っても過言ではない私が相手です!」
「飯島さんに注意が向いている今なら、有人機の隙もつける筈です‥‥!」
 京子とティナはBFを防衛しようとしているゴーレム隊に果敢に攻撃を仕掛ける。九頭竜隊はその援護をする形だ。
「何やってんだ大和!? ボサっとしてんじゃねえぞ!」
 そんな中、大和機だけは動きが鈍い。新兵だからというより、集中出来ていない様子だ。
「外、どうかしたのですか?」
「‥‥大和が駄目そうだ。ヨダカ、お前の方で面倒見てやってくれ」
「そ、外山先輩‥‥あの、自分は‥‥っ」
「いいから少し下がってろ!」
 突撃しゴーレムと格闘戦を演じる外山。残された大和機にヨダカは肩を並べる。
「援護射撃をして、相手の足を止めるのです。くれぐれも味方に当てないように注意するのですよ?」
「‥‥わかりました」
 やはり煮え切らない態度の大和。その視線の先では玲子のフェニックスがゼプレム隊と刃を交えているのであった‥‥。

「何を以って己を証明するのか‥‥お前はそう言ったなぁ」
 草壁のティターンを見つめるレインウォーカー。草壁は黙って笑みを浮かべている。
「ボクの意思とこの身体に刻まれた傷痕‥‥レインウォーカーとして、ヒース・R・ウォーカーとして戦い生き続けた証。これがボクの存在証明だ」
「傷痕、か‥‥成程、それが君の答えか」
 目を瞑り、ネクタイを緩め胸元を肌蹴させる草壁。そうして首を横に振る。
「私の身体に傷はない。ありはしたが、まっさらにしてしまった。成程、その時に草壁詠子は消えたのかもしれんな」
 笑みを返すレインウォーカー。そして草壁へハンドガンを突きつける。
「自称道化、レインウォーカー。愛機はペインブラッド改、リストレイン。ボクは名乗ったぞ、草壁。お前はどうする?」
 ティターンは腰から下げた二刀に手を伸ばし、ゆっくりと引き抜く。
「デストラクト隊隊長、草壁詠子。愛機はティターン改、ブラッディ・メアリー。君の身体に私の愛を刻み足すとしよう」
「‥‥本当に、面白い女。さぁ、始めようか。愉しい殺し合いを」
 駆け出すペインブラッド。正面にハンドガンを構え、ファランクスと同時に発砲しながら接近を試みる。草壁は二刀を十字に構え防御しながらゆっくりと歩いてこれに応じた。
 素早く間合いを詰め、錬機刀を振るう。光の瞬きが空を斬るが、草壁はこれを最低限の動作で回避する。
 というより、まるでレインウォーカーの方が間合いを見誤ったかのようだった。そんな筈はないのだが、不思議と刃は空振りとなる。
「何‥‥?」
 続け、連続攻撃を繰り出すレインウォーカー。草壁は反撃せず、その連撃を次々にかわしていく。
「この私に白兵戦を挑むその思い切りの良さ‥‥これが君の輝きか」
 片方の刃を軽く振るう草壁。避けようとしたレインウォーカーだが、また間合いを読み違えたのか、斬撃を食らってしまう。
「そんな若葉を摘み取るのは‥‥悲しくも心地良い物だよ」
「――後ろに飛べ、レインウォーカー!」
 リヴァルの声に目を見開き、咄嗟に背後に跳ぶレインウォーカー。それと同時にリヴァルはチェーンガンを放つ。
「‥‥どういう事だぁ? あのくらいの攻撃、ボクなら問題なく避けられたはず‥‥」
「草壁のティターンをよく見ろ。恐らくあれが答えだ」
 チェーンガンを回避する草壁。しかしその挙動はかなり奇妙だ。
 両足を動かさず、その場に立ったままに見える。だがしっかりと前後左右に動き、攻撃を回避しているのだ。
「私はこれを、縮地スラスターと呼んでいるよ。格好いいだろう?」
 腰から提げた袴のような無数のユニット。これが僅かに光を放ち、縦横無尽の機動を実現している。
 止まっているように見えて実は動いている。或いは、動いているように見えて実は止まっている。これが白兵戦の中では脅威なのだ。
「上等じゃないか。そうとわかっているのなら、そう理解して動くまでさぁ」
 あくまでも近接戦闘で決着をつけようとするレインウォーカー。リヴァルはこの状況に危険を感じていた。
 正直、草壁機の機動はざっと見ただけでもデタラメもいい所だ。更に装備から見ても、あれは近接戦闘特化機だと推測出来る。
 草壁はただのゴーレムでも複数の傭兵と渡り合った実力者だ。その脅威度はリヴァルにも測りきれない。
「援護は任せるよぉ。あいつが強いのはわかってるけど‥‥戦わないわけにはいかないんでねぇ」
「相談は済んだかい? では、そろそろ私もギアをあげさせて貰おう」
 低く構え、一気に前進する草壁機。伸びるような独特の超加速の後、二機の間に一瞬で踏み込む。
「速い――!?」
 渦巻くような刃の軌跡。回転しながら同時に放った斬撃は二機のKVを切り裂いている。
 二人とも防御しようと構えているのだが、傷はその内側に滑り込むようにつけられている。
 チェーンガンを突き出し引き金を引くリヴァル。しかし草壁はそれを容易く回避してしまう。
「点では‥‥ならば、面で抑える!」
 ミサイルポッドを展開し一斉発射するリヴァル。次々に舞い上がる爆炎を避け、草壁が滑走路を滑るようにして後退する。
 すかさず回り込むように接近し、錬機刀を振るうレインウォーカー。草壁は刀の柄でペインブラッドの腕を打って防ぎ、続け顎を蹴り上げる。
「縮地剣――月影」
 蹴り上げた脚を地に着き、斬りつけると同時に脇を抜ける。すかさず反転、回転しながら背面をもう片方の刃で斬りつけた。
「我ながら素晴らしい剣の冴えだ」
 笑みを浮かべる草壁。レインウォーカーは振り返り、ファランクスとハンドガンで攻撃を仕掛ける‥‥。

 一方、ゼプレムと交戦する覚羅とイレーネ。ゼプレムは破壊力の高い斧を使い、果敢に覚羅に猛攻を加える。
「ええい、これ以上草壁にでかい顔をさせてたまるか! 貴様らはこの俺が倒す!」
「草壁? 俺に言わせれば‥‥敵も味方もすべてを巻き込みながら戦場に駆り立てて何れ自滅しそうな輩より、君みたいに無駄に統率力も力もある存在が宇宙に上がって再起を目指されるほうが後々面倒なんだよ」
 実際ゼプレムは強い。攻撃力では覚羅と互角と言った所だが、向こうはタロス特有の回復能力に加え頑強さに優れている。まともに殴り合えば先に倒れるのは覚羅の方だろう。
 故に一度後方に跳び、スラスターライフルを構える。ゼプレムは斧を盾にし、スラスターライフルの攻撃を受け止める。
「ぐぬぅ‥‥卑怯な‥‥ぐおっ!?」
 頭部にイレーネの狙撃を受け仰け反るタロス。ゼプレムが回避を行なわないのは、彼のタロスが機動力を犠牲に装甲を強化しているから、という理由だけではない。
 彼の背後にはBFが何機もあり、そしてそれを守るのが彼の役目である。二人は回り込むように移動しながら戦い、BFを背にさせる状況を作ったのだ。
「避けたくても避けられまい。まあ、別に私としては避けてもらっても構わないのだがな」
「このBFは俺達の希望だ‥‥! これまで死んで行った部下達の為にも、残された戦力を無駄死にさせるわけにはいかん!!」
「お前達に逃げ場なんてないのですよ。何故ならここがお前達の墓場だからなのです!」
 ヴィジョンアイでゼプレムを捉えるヨダカ。ゼプレム機は急ごしらえの改造機だ。弱点と呼べる場所は幾らでもある。
「お前が本当に指揮官であるなら部下を全員使い潰してでも生きて残るべきです。お前もジハイドの6と同じように、『戦士の誇り』とやらを抱いて自滅するがいいです」
「意地も誇りも失った武人に何の価値があるというのだ! 俺を信じた部下の為に、俺は最後まで戦い抜くッ!!」
「‥‥立派だね。君は正に草壁とは正反対のバグアだと言えるだろうね」
 銃を下ろす覚羅。そうしてゆっくりと語り始める。
「俺達が来なければ、君達の計画は上手く行っていたんだろうね。でもどうして、これまで放置されていたニュージーランドに急に俺達がやってきたと思う?」
「‥‥どういう意味だ?」
 眉を潜めるゼプレム。覚羅はそこで真実を告げる。
「知ってるかい? 君達がこの地にいると情報をリークしたのは草壁だよ。草壁が俺達をわざわざここに呼び出したんだ」
「な‥‥なんだとぉ!?」
 叫び声を上げるゼプレム。そうして戦闘中の草壁機に目を向ける。
「どういう事だ!? 今の話は本当なのか!? 答えろ、草壁!」
 それに対し草壁は攻撃をやり過ごし後退。そこで停止する。
「どうした? 何故黙っている?」
「‥‥フフフ」
 両腕を広げる真紅のティターン。そこから笑い声が響き渡った。
「ハハハハハハハ!」
「何がおかしい!?」
「フフフ。いやすまない。本当に申し訳ないと思っているんだ‥‥ゼプレム」
「では貴様、本当に‥‥!?」
「ああ。仲間とバグア全体の事を想い、必死に孤軍奮闘する君の様‥‥実に美しかったよ。だが、展開が冗長過ぎてね。そろそろ盛り上げないと飽きてしまうよ」
 愕然とするゼプレム。草壁はそんな男に柔らかく微笑む。
「希望を信じて戦う君が絶望しながら散るその瞬間を見たいのだ。だから――死んでくれないか?」
「草壁‥‥‥貴様ぁあああああッ!!」
 怒号を上げるゼプレム。だがそこへイレーネの銃弾が直撃する。
「ぐ、おぉ‥‥!」
「最後の最後で味方に裏切られるとはね‥‥」
 接近し斧を叩き付ける覚羅。冷静さを失ったゼプレムの動きは明らかに劣化している。
「どうした? 動きにキレがなくなっているよ‥‥!」
 一気に優勢になった覚羅は猛攻を仕掛ける。ゼプレムは防戦一方で、ただやられるがままという状態だ。

 草壁とゼプレムのやりとりはBF攻撃班にも聞こえていた。大和は理解出来ない草壁の言動に動揺を隠せない。
「な、何? なんなんですか、あの人‥‥?」
「なんでもかんでも道連れに皆殺し‥‥だからデストラクト、ですか」
 ぽつりと呟くヨダカ。京子は戦いながら草壁の事を考える。今の草壁は以前出会った時からは考えられない程禍々しい。
 あの時の草壁と今の草壁、そのどちらも本当であるという事があれの狂気なのだ。嘘はどこにもない。ただ、きっちりと矛盾しているだけ。
「‥‥今は目の前の事に集中しましょう。相手は隙だらけです」
 動揺はゼプレム隊にも走っている。戦局は正に混乱の一言、この好機をみすみす逃す手はない。
 八基のブースターをふかし、一気に加速する京子。余所見しているゼプレム隊のゴーレムに突っ込み、損傷箇所にショットガンの銃口を捻じ込む。
「相手が手負いなら、私にだって‥‥!」
 引き金を引くと同時、ゴーレムの肩が吹っ飛ぶ。すかさずディフェンダーを手にし、ゴーレムの胸に突き刺した。
「余所見しているのが悪いんですよ」
 刃を引き抜き後退。他の機体をアサルトライフルで攻撃する京子。ティナはそれに続き、左右の手にそれぞれ機槍を持って突撃する。
 破損している無人機を次々に突撃で粉砕し、ゼプレム隊に槍を叩き込む。そうして斧を片方の槍で弾き上げ、もう片方の槍をコックピットへと突き立てた。
「草壁さんのお陰で、相当動揺しているみたいですね‥‥」
 笑う草壁。その狂気性を鑑みれば、何故彼女が玲子に殺される事になったのか、推測するのは容易い。だからこそ今、ティナの脳裏にはリヴァルの言葉が過ぎっていた。
 存在してはならない部隊、デストラクト。その隊長である草壁と、それを殺した玲子。その因縁が今もUPCに残っているとしたら‥‥。
「死ぬのは‥‥駄目な事です」
 ぽつりと呟くミルヒ。別に誰に言うというわけでもないのだが、口から出てしまった言葉だった。
 自らも含め、何もかもを死に巻き込もうと言う草壁。それはミルヒの考え、戦う理由とは正反対に位置している。
「私には何もありません。でも、死んでしまったらもっと何もありません。本当にからっぽになってしまうんです‥‥だから」
 近くのゴーレムに機槍を突き刺し、倒れたゴーレムに槍を刺したまま機関砲に持ち替える。そうして他のゴーレムに次々に攻撃を仕掛けていく。
「だから‥‥死ぬのは、駄目な事なんです」
「‥‥そうだ。私達は生きる為に戦っている。草壁の言葉なんて気にする必要はない! 作戦に集中しろ!」
 叫び声を上げる玲子。外山は冷や汗を流しながら頷く。
「ヤベェヤベェとは思ってたが‥‥あいつはマジでヤベェ。係わり合いにならねーのが一番だぜ」
「ニュージーランドの連中も哀れだな。こんな筈ではなかったろうに」
 溜息混じりに呟く中里。球基は淡々とスナイパーライフルでゴーレムを狙撃しつつ語る。
「正直、俺は草壁とUPCの因縁とかには興味ないんだよな。過去の事なんかどうだっていいだろ? 大事なのは未来なんじゃないのか?」
 混乱しているゴーレム隊は警戒が甘く、七面鳥撃ちも良い所だ。球基は引き金を引き続ける。
「草壁が同士討ち? してくれるなら丁度良いじゃねぇか。せいぜい平穏の為に利用させて貰うさ」
 戦場を眺める球基。その視線の先では修司のディアブロが基地を走り回っていた。
 並んだBFの隣を走りながら機関砲を連射する修司。BFのブースターが次々に炎を上げ爆発して行く。
「がら空きですな。それにしても‥‥」
 もし草壁が襲ってきた時、言おうと思っていた言葉があった。それで説得出来るかもしれないとは思っていたが、まさかそれを地で行くとは。
「お陰で、助けられてしまいましたな」
「ゼ、ゼプレム様‥‥BFが!」
 振り返るゼプレム。その背後で爆発が起こった。
 並んでいた無数のビッグフィッシュはその全てが破壊され、黒煙を巻き上げながら炎に包まれている。その紅蓮の中を修司のディアブロがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「ば、馬鹿な‥‥あれだけの数のBFを‥‥こんな短時間で、だと!?」
「ゼプレム様‥‥ぐああっ!?」
 最後のゼプレム隊も球基にライフルで貫かれ倒れた。最早ゴーレム隊は全滅、この場にはゼプレムと草壁しかいない。
「取るに足らん星の原生生物、でしたか。その考えこそが貴方がたの敗因だと‥‥いや、失敬。寄生虫程度の理性では理解出来ないようですな」
「なんだと‥‥?」
「何故敗北したのか理解出来ないまま果てるのも、幸せやもしれませんな」
「貴様ぁあああ!!」
 修司の言葉に絶叫するゼプレム。その背後にリミッターを解除した覚羅の機体が立って居る。
 旋回するようにして斧を振るい、横一閃にゼプレム機を斬り付ける覚羅。無防備だったタロスは両断され、ずるりと上半身が零れ落ちる。
「最後の最後まで翻弄され実力を発揮出来ない、か‥‥君は哀れだね」
「お、俺は‥‥バグアは‥‥!」
 次の瞬間爆発し炎上するゼプレムのタロス。破壊された残骸を見下ろし、修司は呟いた。
「‥‥くたばれ、寄生虫」
「さてと。こっちは片付いたわけだが」
 ライフルを肩にかけながら目を向ける球基。視線の先では草壁がレインウォーカー、リヴァルの二人と対峙している。
「素晴らしい手腕だな‥‥だが、状況は最初から君達に不利なようだ」
 呟く草壁。その言葉の意味をヨダカが把握する。
「周囲に敵影! 囲まれているのです!」
「陽動に引っ掛かっていた敵戦力か? 馬鹿な‥‥早すぎる!」
 冷や汗を流す玲子。作戦はほぼ完璧に推移し、草壁以外の敵を早期に撃破する事が出来た。後は離脱するだけの筈だった。
「ゴーレムがざっと二十! タートルワームが八! それとは別に‥‥紅いゴーレムが三機、デストラクトなのです!」
「お、おいおいどうなってんだ、多すぎだろ!? 他の部隊はどうなったんだよ!?」
「‥‥駄目だ、通信が通じない。ジャミングでもかかっているのか?」
 困惑する外山と中里。一つ確かなのは、完全に敵に囲まれてしまったという事実だ。
「直ちに離脱する! ヨダカ、敵の数が少ない場所へ誘導してくれ!」
「全員で脱出するのです! お前らにくれてやる道連れなんて一人も居ないのですよ!」
 反転しながら叫ぶ玲子。それに続き傭兵達も離脱を開始する。
「これ、全部敵ですか‥‥!? ここまで来て人死には御免ですよ‥‥!」
「落ち着いて包囲網の薄い所から脱出するんだよ」
 走る京子と球基。そこへ四方八方から光線が飛んでくる。
「草壁詠子‥‥もう少しゆっくりと話してみたかったのだがな。目的は達した‥‥惜しいが引くぞ」
「俺が突破口を開きます! デストラクトが来る前に離脱を!」
 敵陣へ突撃する覚羅。イレーネは狙撃で援護しつつその後を追う。
「限界だレインウォーカー、引くぞ!」
「‥‥仕方ないかぁ」
 反転し走り出すリヴァル。レインウォーカーもそれに続くが、草壁は二機を追撃してくる。
「フフフ。どうした、もう少し遊んでいかないか?」
「今はお前に構っている場合ではない‥‥! 此処でやらせるわけにはいかないのでな!」
 振り返りながらチェーンガンを撃つリヴァル。草壁は並走しながらそれを回避し、レインウォーカーへと襲い掛かる。
「くっ、持ってくれよ‥‥リストレイン」
 ダメージを受けながら走るレインウォーカー。草壁が鋭く一撃を与えようとした時、レインウォーカーの背後からリヴァル機が現れた。
 リヴァルはレインウォーカーと草壁の真上を飛び越えながらミサイルポットを発射しチェーンガンを降り注がせる。その攻撃に草壁が怯んだ瞬間、レインウォーカーは鎌に草壁を引っ掛け、自らに押し当てながら真雷光破を放った。
「‥‥よし、今の内に離脱する!」
「助かったよぉ、リヴァル」
 二機は加速し、一気に草壁から距離を開く。そうして立ち塞がる敵を薙ぎ払いながら味方に合流を果たした。
 周囲からの猛攻に何とか耐え、包囲網が完成しきる前に突破した傭兵達。傷付きながらも何とか戦域を離脱する事に成功するのであった‥‥。



「通信機が故障しただぁ!? ざっけんじゃねえ、こっちは死にかけたんだぞ!?」
 空母に帰還した傭兵達。外山は甲板でフラヴィに食って掛かっている。
「第一陽動はどうしたんだよ!?」
「予想外に敵の攻撃が激しかった為、陽動部隊は引き上げさせました。デストラクト隊もいましたしね」
「引き上げさせましたじゃねえんだよ! それがてめぇらの仕事だろーがッ!?」
「そ、外山先輩落ち着いて‥‥!」
 大和に抑えられる外山。感情的になってはいるが彼の言葉は正しく、下手をしたら全滅していてもおかしくなかった。
「何やら腑に落ちませんな」
「ああ。無事だったから良かったが、作戦遂行がもう少し遅かったら‥‥どうなっていたか」
 修司の言葉に頷くリヴァル。これは偶然か、或いは意図された危機なのか‥‥。
「はあ‥‥何であの状況で生きて帰れたのか不思議です、私」
「死ななくて、良かったですね」
「え、あ、うん‥‥」
 ガックリと項垂れる京子。その肩をなぜかミルヒが叩いた。
「まあ、これで彼らが宇宙に離脱するのは難しくなったんじゃないかな」
「それは喜ばしい事なんだけどなぁ。こいつは機体の整備しがいがありすぎるよ」
 苦笑する覚羅。球基は頭の後ろで手を組みながらボロボロに被弾した愛機を眺めていた。
「草壁は生き残ったか。であれば、また会う事もあるかもしれんな‥‥」
 煙草に火をつけるイレーネ。その脇を通りティナは玲子に駆け寄る。
「玲子さん‥‥怪我とかしてませんよね?」
「ん? ああ、見ての通りだ。機体は手ひどくやられてしまったがな」
 笑いかける玲子。それから玲子は首をかしげ、ティナを手招きする。
「どうした? 何故そんなちょっと距離のあるところから話しかける?」
「あ、いえ‥‥玲子さんが無事ならそれでいいんです! それでは‥‥っ!」
 とてとてと走り去るティナ。玲子はそれを不思議そうに見送るのであった。

 こうしてオークランド基地攻略作戦は成功した。但し、無事に‥‥と言えるのかどうかは些か疑問ではあるが。
 かくして残るニュージーランドの拠点はクライストチャーチのみとなった。次なる作戦へ向け、傭兵達を乗せた空母は移動を開始するのであった。