タイトル:心ノ聖域マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/17 06:16

●オープニング本文


「‥‥要するに、UPCとは別にあの森の問題を解決しろと?」
 アメリカ某所の大学。キャンパス内に収まるカフェの一画にて対面するカシェルとグラディスの姿があった。
 グラディスからの呼び出しがあったのは数日前。否、個人的な依頼、である。カシェルはLHから遥々ここまで一人でやってきたわけだが、グラディスはそんな彼をコーヒーでもてなしながら無茶を押し付けるのであった。
「そう。こういう事をお願い出来るのは、やっぱり傭兵しかいないじゃない?」
「それはそうですが‥‥。もしかしたら勘違いしていませんか? 僕ら傭兵は確かに自分で受ける依頼を選ぶ事が出来ますが、UPC軍の意向に真っ向から反対できるほどの権利は持ち合わせていないんですよ?」
 マグカップを片手に語るカシェル。グラディスも勿論その辺りは承知の上だ。
「別に真っ向から反対しているわけじゃないわ。ただ、横槍を入れて解決してしまえばいいのよ」

 こんな話になったのには、色々と訳がある。
 先日の依頼でカシェルは件の森に入り、そこで二体のバグアと遭遇した。
 偶然居合わせた面子が強力だった事もあり、割合あっさりと撃退してしまったのだが、そこは十二分に驚異的なバグア。UPCも放置するわけにはいかなくなった。
 あの森に何があるのかは未だ謎に包まれているが、バグアが出入りしている以上ワケアリなのは明白。キメラの巣窟である事も踏まえ、手っ取り早く爆撃してしまおうという案が飛び出したのである。

「だからさぁ、何があるにせよ全部燃やしちゃえばいいんだよ。そうすれば一々何があるのか? なんて気にする必要もないだろ?」
 時を遡り、先の依頼の報告時の事。カシェルは現場の指揮官である軍人の問い掛けに苦笑を浮かべていた。
 ロイド・バッシュ中尉。如何にも士官学校卒のお坊ちゃんですと言った小奇麗な外見で、やはり言動もどこか頼り無い。そんな男は一枚の写真を手に取る。
「ていうか、なんでお前ら現場で遊んでるんだよ? これ、本当に先住民なのか?」
 そこにはルリララと共に写真に写っている傭兵達の姿が。これを見る限りどうにも友好的そのものなのだが。
「その辺りも詳しい事は調査中でして‥‥」
「ハァ? お前さぁ、こっちは金出して調査やらせてんだよ。さっきからわかりませんだの調査中ですだの、そんな答えでいいと思ってんの?」
「いいとは思っていませんが、事実ですので」
 カシェルの言葉にこれ見よがしに肩を竦めるロイド。そうして前髪の先端を指に巻きながら机に腰を下ろす。
「まー、色々と文化的? 自然的? にも貴重な森らしくてさぁ。環境保護団体から抗議が殺到してるから、どうにも焼き払えないんだけどね」
 随分と立派な森だったから、そりゃそうだろう。ロイドはジト目で少年を睨み。
「だからこそ、僕の管轄下で問題が起こったら困るんだよね。だからお前達は早い所バグアをなんとかしてくれよな」
「えーと、まあ、引き続き頑張ります」
「バグアは絶対に倒せよ。森に居る住人も殺しちゃっていいからさ」
「それは流石にどうかと‥‥」
「だって親バグアなんだろ? こっちはもう危ないから出てけって散々通告してるんだ。なのにシカトぶっこいてるんだから敵なんだよ」
 どうやらUPCの方ではこの森の中に先住民? がいる事を把握していたらしい。それはカシェルの知らない事実だったが、まあ今更である。
「むしろ関係者が全員いなくなれば、後腐れなく焼き払えるんだけどねぇ」

 先行き不安な現場指揮官の言葉を思い返し、コーヒーを飲み干す。グラディスは相変わらず笑顔で無茶を言っている。
「問題が大きくなる前に、貴方達で例のバグアを倒してしまえばいいのよ」
「前回は面子に恵まれましたけど、あの二体強いですよ? 向こうも油断があったみたいだし」
「そこを何とかするのが能力者でしょう? ね、お願いよ」
「そう言われましても‥‥彼らが何なのか、何が目的なのか、どこにいるのか、全て不明なんですよ?」
「でもねぇ、そろそろUPCを抑えるのも限界っぽいのよね」
 まさかこいつが抗議していたのだろうか? とか考え冷や汗を流す。そうして溜息を吐いて立ち上がった。
「わかりました。出来るだけ頑張ってみます」
「あら、押しに弱いのね? 結局の所、貴方自身はどうしたいと思ってるの?」
「どうもこうも、依頼ですから」
「依頼だったら言われた通りにやるだけ? 随分ビジネスライクなのね」
 眉を潜めるカシェル。確かにその通りだが、別にそういうつもりはなかった。
 だが、いつからだろう? 戦う事そのものが目的になり、理由を見失ったのは?
 以前は人の形をした相手を斬る事にすら躊躇いがあった。けれど今は何かが麻痺してしまったのか、悲しさを感じる事すらない。
 何故戦うのか? 相手がバグアだから、敵だから、だ。そういう依頼だから、だ。その事実を直視すると、どうにも虚しくなってしまう。
「カシェル・ミュラー少年。君のハートの本当は、何処にあるのかしら?」
「なんですか、それ?」
「私が好きな映画の台詞よ」
 優しく笑みを浮かべるグラディス。カシェルはなんとも言えない顔で頭を掻くのであった。

 森の中で笛を吹くと、直ぐにルリララは狼と共に現れた。
「ボクを呼んだ?」
「あ、うん。本当に来るんだね」
「何さー? 信じてなかったの? 森の者は約束を破らないんだよ」
 キメラから飛び降りるルリララ。カシェルは腕を組み相談する。
「ルリララ、この間のバグア‥‥鉄の者の居場所ってわかる?」
「わかんない」
 がくり。転びそうになるが、気を取り直し。
「どっちの方向から来るかとかはわかるかい?」
「それはわかるよ。決まって同じ方向から来るんだ」
 地図と照らし合わせ、話を聞くカシェル。そうして大まかに二体のいるであろう場所を絞り込んでいく。
「確か、バグア支配下の町があったな。前線基地になってるって聞いたけど」
「鉄の者のところにいくつもりなの?」
 地図を収めて頷くカシェル。そこへルリララは駆け寄る。
「ボクも行く!」
「え、えぇ〜? 君は森を守るんじゃないの?」
「そうだけど、君達には貸しもあるし、あの二体はほっとけないよ。森を戦場にせず済むのなら、それが一番だし」
 確かにここで戦闘になればルリララは必ず劣勢に立たされる。あの連中は森への配慮なんて皆無なのだ。
「駄目だって言ってもついてくからね!」
「うん? 別に構わないよ」
 何故そんな風に答えたのかは自分でも疑問であったが。
「君はもう少し外の世界を知った方がいい。世界はこの森の中だけじゃないんだからね」
 この少女がどういう類の存在なのかは兎も角、戦力になる事は確かだ。強敵と戦うのに味方は一人でも多い方がいい‥‥そんな言い訳を自分にしつつ。
「とりあえず君は、お風呂に入って服を着替えた方がいいね」
 そんな風に提案するのであった。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
緋桜(gb2184
20歳・♀・GD
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
雨宮 ひまり(gc5274
15歳・♀・JG

●リプレイ本文

「カー君が不良になっちゃった‥‥」
 森の向こうにあるバグア領へと向かう傭兵達。その道中、雨宮 ひまり(gc5274)が俯きがちに呟いた。
「不良って‥‥なんか前にも言われたような。あれ? デジャヴ?」
「たまにカシェルはグレるからなー。ところでさ〜、カシェルも真面目な振りしてやるじゃないか」
 歩きながら肘でカシェルの脇腹を突く月読井草(gc4439)。
「やるって何をだい?」
「ルリルリのあの服だよ。大山脈の娘に胸がきついのを渡すなんて全く‥‥見なよ、大平原のひまりがしょんぼりしちゃってるぞ」
「いやあ、君も五十歩百歩なんじゃ‥‥」
「あー、そういう事言うんだ! カシェル君は女子の気持ちが全然わかってないと思います!」
 抗議する井草。その傍らでひまりはルリララに声をかける。
「ところで、今日はもふもふさん来てないの?」
「うん。カシェルがおいてこいって言うんだもん」
 頭の後ろで手を組みながら暢気に歩くルリララ。その様子を背後から六堂源治(ga8154)が眺めている。
「森の者か‥‥」
「ちなみにあれは何なのかと。良くわからん存在だが‥‥」
「悪い奴ではないんスよね。森の中で静かに暮らしたいだけみたいだし」
 藤村 瑠亥(ga3862)の質問に応じつつ、これまでの事を思い返してみる。
 ルリララは少なくとも今は自分達に敵意を向けていない。それなら源治にとっては戦うべき相手の分類からは外れている。
「可能な限り、俺達でこの一件‥‥何とかしてぇな」
 事が大きくなれば、再びルリララと戦う事にもなるかもしれない。彼女達の生活を脅かすというのは、そういう事なのだ。
「ま‥‥今はそれを気にしている時でもないわけだが」
 瑠亥の言葉通り、今は敵地で行動中だ。既に目当ての街は視界に入っている。
「見えてきましたね。ここから見た限りでは、普通の街のようですが」
 遠巻きに街を眺め呟く緋桜(gb2184)。傭兵達は進軍ペースをやや落とし、慎重に潜入を試みるのであった。

「やはり警備が厳しいですね」
 物陰に隠れながら通りを眺める緋桜。無人の街には無数の飛行する機械型キメラが巡回を続けている。
 更に道中には機関銃に足をつけたような形状のキメラが配置されており、見つからずに進むのは難しい。
「鉄の者がいっぱいだ! 全部やっつけてやる!」
「ちょっとカシェル‥‥その小娘を少し落ち着かせてくれる?」
 飛び出そうとするルリララの頭を抑える加賀・忍(gb7519)。じばたばしていたが、カシェルに引っ張られていった。
「奥に見えるのはビッグフィッシュでしょうか?」
「元々基地だったって感じではないし‥‥プラントごと来て、ここを根城にしているという事かしらね」
 緋桜の言葉に頷く忍。ちなみに付近には目当てのバグア二体の姿は見えない。
「問題はどうやってシュトラウトとバルガガンを見つけるかですが」
「プラントへ向かって突き進めばいいんじゃないッスかね? 連中も放置出来ないだろうから、そこを迎え撃つ」
「賛成ね。わかりやすくていいし、あの程度のキメラなら切捨てて終わりよ」
「‥‥いやまあ、そうなんですけど‥‥」
 源治と忍の言葉に冷や汗を流すカシェル。このメンバーなら正面突破で問題ない、というかむしろ効率良いくらいだろう。
「よーし。それじゃあ突撃と行きますか!」
 剣を手に飛び出す井草。傭兵達は一斉に物陰から出て敵集団へ向かう。
 まず弓を使い、ひまりとルリララが飛行タイプを撃ち落す。機銃を装備したキメラの迎撃はカシェルがある程度仲間を守り、守られる必要のないメンバーは一気に雪崩れ込んでいく。
 銃声と爆発音が鳴り響くが、結局あっさりとキメラは倒れてしまった。傭兵達はほぼ無傷である。
「まあ、ざっとこんなもんッスかね」
「このくらいのキメラで僕達を止めるのは無理でしょうけど‥‥少し哀れですね」
 刃を収める源治。カシェルはガラクタと化した塊を見やり苦笑を浮かべた。と、その時。
「――確かに。探索、警備用のキメラでは相手にもならんだろうさ」
 声に視線を上げると、建物の上に二体のバグア。片方は壁を駆け下り、もう片方は地面を粉砕しながら着地する。
「出たなー、鉄の者! 今日こそやっつけてやるからなー!」
「‥‥なぜあいつが人間と一緒にいるんだ? 本格的に裏切ったのか?」
「知らんよ。そういう事はテスラに訊いてくれ」
 ルリララの存在に困惑する二体。しかし直ぐに気を取り直し。
「前回は油断をしたが、今回はそうは行かぬ。『処刑人』として、二度の敗北は許されないのだ」
「お前達は両方バグアなのだろう? 争う事に意味があるのか?」
「バグアだからこそ、だ。人類の反攻が始まりつつある今になっても、テスラはマグ・メルを手放そうとしない」
「ルリララとか言ったか。お前からも言ってくれないか? 森と明け渡してくれれば、俺達の仕事は終わるんだ」
 瑠亥の質問に対しルリララへと語りかける二人。しかしルリララは話の内容が理解できていない。
「マグ・メルって何さ? テスラって誰?」
「ええい、埒があかん! テスラというのは、貴様を作ったバグアの事だろうが!」
「だから、バグアって何さ?」
 唇を尖らせるルリララ。シュトラウトは額を片手で押さえ、首を横に振る。
「話にならんな。やはり武力行使しかないと見える」
「よくわかんないけど、あの森に機械は似合わないよ。ここからいなくなれー!」
「‥‥やれやれだぜ。面倒な事になりやがった」
 剣を掲げ、タッチの違う顔で叫ぶ井草。バルガガンは巨大な両の拳を打ち鳴らす。
「行くぞ人間共。このシュトラウトがお相手しよう!」
 一気に疾走するシュトラウト。そこに合わせ、瑠亥が刃を打ち付ける。
「妹が取り逃がした相手‥‥代わりに俺が始末してしまうのも気は引けるがな、と」
 白と黒、二つのシルエットが左右の腕を繰り出し攻防を繰り広げる。超高速のやり取り、その側面からひまりが矢を放った。
 シュトラウトは隠し腕を展開しこれを防御。背中と腰のスラスターを展開し、蒼い奇跡を残して更に疾走する。
「速い!」
 傭兵達の周囲を旋回するシュトラウト。カシェルは走りながら舌打ちする。
「私はまだ二回の加速を残している‥‥その意味がわかるかね!?」
 ひまりはルリララと同時に矢を放つが、異常な機動でかわされる。そのまま耳を劈く様な爆音と共に真っ直ぐ二人へ突っ込んできた。
 四つの腕を一点に集中させた突撃。カシェルはひまりとルリララを庇いこの攻撃を受け、吹き飛ばされ‥‥否、轢かれて空を回転した。
「カシェルが飛んだー!?」
「カー君が飛ぶのはいつもの事だから」
「加速は異常だけど、機動は直線的よ。落ち着けば致命傷は避けられるわ!」
 走りながらひまりとルリララに声をかける忍。しかしシュトラウトは余りにも早すぎてまともに避ける事も困難だ。
 突撃を太刀で防ぐ忍だが、受けきれずに吹っ飛ばされる。更にシュトラウトは上半身を高速回転させ、独楽のように襲い掛かった。
「くそー! ボクだって上半身が回転すればなー!」
「え‥‥怖いと思うけど‥‥」

 一方、派手な爆発音が鳴り響くのはバルガガン班。緋桜は前転気味にビルの陰に飛び込み、ミサイルを回避する。
「これは‥‥正に全身武器庫と言った所でしょうか」
「げほげほ‥‥うー、これを三人で凌ぐっていうのは結構きついなー」
 文字通り転がり込む井草。二人は傷を癒しつつ、打開策を思案する。
 バルガガンは全身に高火力の遠距離武器を装備している。故にただ接近するだけでも高いリスクを伴うのだ。
「正面からは、まず無理でしょうね。しかし幸いにも障害物には事欠きません。隠れながら接近を試みるしかないでしょう」
「こうしてても埒が明かない。向こうの班に加勢に行かれても困っちまうからな。多少は無茶だが、突っ込むしかねぇ」
 刃を肩に乗せ頷く源治。様子を伺いつつ、飛び出す姿勢に移る。
「俺が切り込むから、二人は隠れながらついてくるといい。月読、回復アテにしてるッスよ」
「おー、任せとけー! こっちは源治を盾にしてコソコソいくさ!」
「それしかないのですが‥‥くれぐれも気をつけて下さいね」
 緋桜に笑顔を返し、飛び出す源治。バルガガンはそれを待ち伏せしていた。一斉にミサイルを連射し源治を狙う。
 源治は飛来するミサイルを両断。爆炎を突き破り、黒煙を纏って更に前進する。
「また会ったな。向こうのケリがつくまで、俺達と遊んでて貰うッスよ!」
「正面から来るか。悪いが手加減はしないぞ」
 腰を落とした姿勢で全身の火器を起動するバルガガン。機銃、ミサイル、ロケット砲の一斉攻撃が源治を襲う。
 流石にこれは防ぎ切れず、慌てて路地に飛び込んだ。するとバルガガンは両腕を合体させ、巨大な砲座へと変形する。
「隠れても無駄だぜ」
 収束する赤い光。これに危険を覚え、井草がソニックブームを放つ。
「させるかー!」
 更に緋桜が物陰から上半身だけを出し、小銃で攻撃。しかしバルガガンは二人の攻撃に全く怯まず、そのまま砲身を向けてきた。
 慌てて逃げる二人を追うように上半身をゆっくりと回転させながら光線を放つバルガガン。ビルが溶解、貫通した光は二人の頭上を突き抜ける。
「ビームは反則だろー、ビームはー!」
「くっ、何という熱量‥‥!」
 その隙に源治は飛び出し、通常状態に変形しているバルガガンへと飛び掛る。振り下ろした刃を機人は腕で受け止め、強引に突き飛ばした。
「接近すれば俺に勝てると思ったか?」
 両腕を展開し、砲撃モードの途中で変形を停止。すると両腕が赤い電撃を纏う。光を帯びた拳はアスファルトを引き剥がし、源治に衝撃を与える。
「源治ー、回復するぞー!」
 練成治療を施す井草。緋桜はその間道端に転がっていたドラム缶を持ち上げ、バルガガン目掛けて投擲した。
 片腕でドラム缶を薙ぎ払うバルガガン。その間に接近し緋桜は刃を繰り出す。しかし鋼鉄の身体に傷をつけられない。
「無駄だぜ。これでも頑丈さには自信があってね」
「いや、無駄じゃないッスよ!」
 緋桜に視線を向けた隙に襲い掛かる源治。光を纏い、力強く打ち込んだ。
 無数の軌跡がバルガガンの身体を切り裂く。しかし装甲に傷をつけてはいるが、致命傷には遠い。
「頑丈っすね‥‥だが」
 すかさず蹴りを放つ源治。バルガガンの足に食い込み、装甲が湾曲。自重もあるのだろう、膝を着く事になった。
「あいつほどじゃないッスね」
 振り下ろす強烈な一撃がバルガガンの頭に直撃。刃は深々と食い込み、爆発を起こすのであった。

 その頃、対シュトラウト戦。圧倒的な速度で一撃離脱を繰り返すシュトラウトに傭兵達は悪い流れを強いられている。
「無駄だ無駄だ! どう足掻いた所で私を止める事は出来んよ!」
 回転しながら突っ込むシュトラウト。カシェルは剣を投げ捨て両手で盾を構える。
「奴の動きを止めます。追撃は皆さんにお任せしますね」
「チャンスは一瞬あれば十分だ。頼むぞ」
 瑠亥の言葉に頷き走るカシェル。そこへシュトラウトが突撃する。
「無駄無駄! 無駄だ!」
「それは‥‥どうかな!」
 独楽のように回転するシュトラウトを盾で受け止め、強引に弾き返すカシェル。これにシュトラウトはバランスを崩し、更に瑠亥が進行方向に回り込む。
「だがそれでも‥‥無駄である!」
「本当に無駄かどうか‥‥試してみるか?」
 二対の刃を繰り出す瑠亥。シュトラウトは停止し、四つの腕でその連撃を弾く。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
 舞い散る火花。しかし次の瞬間、ぐんと瑠亥の動きが加速する。何時のかにか持ち替えた剣を両手で構え、地を蹴り迎撃網の中へと飛び込んだ。
 加速。シュトラウトの胸に剣を突き刺したまま、その身体ごと道端のビルへと突っ込んだ。舞い上がる砂埃、その中から瑠亥は離脱する。
「‥‥今だ!」
 待ち構えていたひまりとルリララが弓を構える。シュトラウトは離脱しようとするが、胸に瑠亥の剣が刺さったままで動けない。
「何だと!? 貴様ァ!」
 既に『溜め』は終わっている。ひまりは輝きを帯びた矢を放ち、その一撃がシュトラウトの頭を貫通する。
 更に連続して矢を撃ちまくる二人。これが全弾命中しシュトラウトの体中に突き刺さった。
「無駄な抵抗だったわね」
 駆け寄り一撃を放つ忍。太刀はシュトラウトの胴体ごと背後のビル壁を両断する。
 刃を収め言い放つ忍の一言。シュトラウトの下半身は地べたに転がり、全身がスパークし始める。
「ば、かな‥‥人間如きに、バグアであるこの私が‥‥。有り得ぬ‥‥アリエ‥‥ヌ‥‥ア‥‥ルルルル‥‥!」
 派手に爆発するシュトラウト。回転しながら飛んで来た剣を受け取り、瑠亥は小さく息を吐いた。
「シュトラウトがやられた‥‥?」
「そのようですね。残るは貴方様だけです」
 緋桜の言葉に後退するバルガガン。源治の攻撃を受け、既に彼も危険な状態にあった。
「仕方ねえな。俺まで死んだら恥だ。ここはとんずらさせてもらう」
 煙幕を展開し、更に足と背中にバーニアを展開する。そうして黒煙を巻き上げながらゆっくりと舞い上がり、空を飛んで撤退して行くのであった。
「げほごほ‥‥か、環境に悪そうなやつ」
「ここで仕留めたかったんスが‥‥まあ、あの様子なら暫くろくに動けないだろう」
 涙目の井草。源治は肩を刃で叩きながら小さくなるバルガガンを見送るのであった。

「このくらいでいいかしら」
 その後、傭兵達はBFまで進行。内部のキメラ工場を破壊し尽くしてしまった。
 これにより急ごしらえとは言え前線基地が一つ壊滅した、という事になってしまう。
「機械を斬るのは、何かこう‥‥私の欲している物と違うのよね。斬った気がしないというか‥‥」
 刃を収めながら呟く忍。シュトラウトを斬った時も、なんかこれは違うなーという感じだった。
「これで森は穏やかになるよ。皆、ありがとう!」
「そうだと良いのだがな‥‥」
 腕組み呟く瑠亥。はしゃぐルリララを見やり、ひまりは自分の胸をぺたぺたする。
 更に忍、そして緋桜を見やる。ひまりは光の宿らない目でカシェルを見た。
「カー君は胸のある人とない人、どっちが好きなの?」
「え!? ど、どっちって言われてもな〜‥‥」
「それはあたしも気になる所だな。なーなー、どっちなんだ?」
 カシェルをてしてしする井草。そんな騒ぎを眺め、おずおずと緋桜は手を挙げる。
「あの‥‥確かこの依頼は秘密なのですよね? 早めに引き上げた方が宜しいのでは?」
「あ、はい。そうですね」
 笑顔で頷くカシェル。ひまりと井草はその様子をじっと見つめ。
「やっぱりカシェルはでかい方がいいと見た」
「カー君‥‥」
「いや、君達は‥‥本当に余裕があるというかなんというか‥‥」
 
 こうしてシュトラウトを無事に撃破。プラントも沈黙させ、傭兵達は帰路に着くのであった‥‥。