タイトル:朝比奈アフター2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/08 09:14

●オープニング本文


 ――奉竜殿。そこはかつて刀狩りと呼ばれたバグアが、各地で収集した財宝を収めていた宝物庫である。
 日本の五重の塔をモチーフに、彼が気に入った世界各地の建造物のパーツをちりばめたような外見の巨大な塔である。
 塔の周辺には無数の武者キメラが配置されており、更に塔の中には竜のキメラが待ち構えているという話を、朝比奈夏流は聞いていた。だが‥‥。
「お前‥‥まさか、ブラッドか?」
 塔の扉を開け放った朝比奈の前、倒れている竜の姿がある。そしてその傍らには黄金の西洋剣を手にした男が立つ。
 朝比奈は彼を知っていた。その名はブラッド・ルイス。朝比奈は彼と少なくない因縁を結んでいた。まさかここで見間違う筈はない。だが。
「ブラッドは死んだ筈だぜ。てめえ、誰だ?」
 刀を突きつける朝比奈。それに対し男はゆっくりと笑みを浮かべる。
「薄々感づいてるんだろ? この身体をどうこうする権利がある奴は、この星にたった一人しかいねえよ」
 眉を潜める朝比奈。こんな風に笑うブラッドの姿を見た事はない。まるで人が変わったように、彼は語る。
「苦労したんだぜぇ? あれこれ面倒くせぇ手順を踏んでよ。ま、今となっちゃそれも楽しい楽しいゲームみたいなもんだったがな」
「だから、誰だてめえ」
「おい、もう少し会話って奴を楽しませてくれよ。いやね、言語なんてモンを頼りにしているお前らをバカにしてたんだ。だけどまあ、実際に話してみるとこいつはご機嫌だぜ。無駄を嗜むっていうのも、中々に悪くない」
 眼鏡を中指で押し上げ目を瞑る。そうして両腕を広げ笑いかけた。
「改めましてぇ、朝比奈君! 俺の名前はミュウ。『供給源』と呼んでくれて構わないんだぜ、諸君!」
 高笑いするミュウ。当然、それがミュウであると。供給源であると、朝比奈はわかっていた。だが‥‥。
「そうかよ、ブラッド・ルイス‥‥。お前のやってきた事は‥‥結局こういう事じゃねえか」
「あー、ブラッドを責めないでやってくれ。これはな、契約なんだ。あいつは俺の力を借りる。で、あいつが死んだらその身体は俺が貰う。そういう約束なんだよ」
 葉巻を取り出し火をつける。ミュウは肩を揺らし、けたけたと笑い続けた。
「俺個人としては? ブラッドが? 一人でどこまでやれるのか、楽しみにしてたんだがね。いやぁー、あいつは面白い奴だった。最高の道化だったね」
 かつて、世界を変えようとした男が居た。
 永遠の平和を、理想郷を、本気で追い求めた男が居た。
 夢を思い描き、理想を思い描き、それに辿り着こうとして全てを投げ捨て。
 あらゆる人間性を放棄し。あらゆる邪悪に手を染め。それでも正しさを求めた男が居た。
「人類の恒久的平和だとよ。ハッ、笑かしてくれるよなオイ。無理に決まってんだろーが! ぎゃはははは!」
 それでも夢を見たいのなら、対価を支払わねばならない。力を得る為に、邪悪と手を組まねばならない。
 そう、これこそが契約。ブラッドが見た夢の続き。供給源はただ、約束を果たしたに過ぎない。
「ま、それでも俺は奴との約束を守り続けるぜ。俺はこれでもブラッドが好きだったんだ。あいつの理想の答えを、ちょっくら見つけてやろうと思ってね」
「それ以上ほざくんじゃねえ。てめえが誰で、何をしようが別に構わないがな。そのガワが存続しているのは許せねえんだよ」
 朝比奈にとってブラッドは友であった。ブラッドは自らの娘に討たれた。それが結末ならば別にそれで構わない。自業自得だ。だが――。
「お前がまだ生きてるってだけで、全部終わらねえんだよ! あいつの決意を、覚悟を! これ以上穢すんじゃねえ!」
 刀を手に駆け寄る朝比奈。笑いながら肩を竦めるミュウ、そんな二人の間に衝撃が走る。
 床を貫き出現する巨大な竜が二人を別つ。瓦礫を薙ぎ払いながら足を止める朝比奈へ竜は咆哮を浴びせた。
「おっと、まだ居やがったのか。そいつの相手は任せるぜー、朝比奈君。俺は使えそうなお宝を物色させてもらうわ」
「てめえ‥‥くそっ、待ちやがれ! ここに何しに来たんだよ!?」
「は? だから、ツケを払ってもらいに来たんだよ。イスルギには色々と代金を払ってもらう謂れがあるんでね。俺はな、金が大好きなのよ、金が」
 にやりと笑い、投げキッスを残して跳躍するミュウ。そうして崩れかけた階段を登っていく。
「んじゃーな、朝比奈君。また会いましょー、ちゅっちゅ!」
「くっそうぜぇええ!! 待ちやがれ‥‥どわっ!」
 巨竜の一撃に弾かれる朝比奈。塔に収まりきっていないのか、彼方此方を崩しながら竜は暴れ続ける。
「こいつをほっとくってわけにもいかねーしな‥‥さて、どうしたもんかね‥‥!」
 刀を構え直す朝比奈。巨体を揺らす双頭の竜は咆哮と共に傭兵達へと襲い掛かるのであった。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

「あれがブラッド・ルイス‥‥今はヨリシロになってるのか。ちょいちょい話には聞いてるが」
「資料で見たブラッドとは随分性格が違うですね」
 立ち去ったミュウを見送り呟く六堂源治(ga8154)とヨダカ(gc2990)。その目の前に地下から竜が這い出して来る。
「供給源‥‥確かにあの時斃した筈だが」
 銃を抜きながら思案するイレーネ・V・ノイエ(ga4317)。そう、あのバグアは以前彼女達の手により打倒されている。
 あの時は死体がどうなったのかまでは確認しなかったが、手応えはあった。少なくとも生きているとは思えなかったのだが‥‥。
「やはり、闘争後に止めを刺す行為を怠ると後に響くと言う好例、か?」
「んー、まだ何ともな‥‥あいつに直接確認してみるしかないんじゃないか」
 イレーネの隣で首を擡げる朝比奈。藤村 瑠亥(ga3862)は仲間達から一歩前に出て首だけで振り返る。
「俺はミュウを追う。その疑問も含め、今のあれについて知っておく必要があるだろう。こいつはジャスティスマスクと他の者達に任せるよと」
「おい藤村さん、何か言ったか?」
「そうですね。藤村さんならきっと何とかしてくれるでしょう」
「こっちの事は俺達に任せときな」
 壁を蹴り、途切れた階段へと飛び移る瑠亥の背中を見送るイスネグ・サエレ(gc4810)と源治。朝比奈だけは引き攣った笑みを浮かべている。
「つーか、一人で行かせて良かったのか? 誰も心配してないとか藤村さんかわいそうに」
「まあ、何とかするだろ。一緒に肩並べて戦った事は殆どねぇが、任せた戦いでしくじった所は見た事がないッスよ」
 朝比奈の声に頷く源治。それから少し考えて顔をあげる。
「いや、一回くらいあったかな?」
 微妙に不安な注釈を加えつつ構える源治。そこへ上半身だけで這い出してきた竜が雄叫びを上げる。
「竜退治して財宝ゲットだぜ! あ、それとたまには止めを刺してみたいです」
「別に構わないが‥‥」
「多分、速攻で終わっちまうッスよ?」
 月読井草(gc4439)の声に応じるイレーネと源治。竜は左右の頭からそれぞれ炎と冷気を帯びたブレスを吐き出す。威力はかなりのもので、一瞬で景観が様変わりしてしまう。
「おー、これは厳しいな‥‥動きを止めたいところだ」
「それについてはあたしに考えがあるぜ!」
 イスネグの言葉に拳を掲げる井草。そうして朝比奈に身振り手振り説明する。
「ホントにそんな上手く行くかぁ?」
「行くって。こういう敵には定番だろー」
 訝しげな様子の朝比奈。井草は二人で剣を手に竜を見上げる。
「よーし、行くぞ朝比奈! それとくれぐれも止めはあたしに回す事」
「へーいへい、気が向いたらな」

「哀れだなブラッド。それが、正義を目指した成れの果てか」
 ミュウを追い上層に向かった瑠亥。ブラッド・ルイスであった男はそこで葉巻に火をつけていた。
 この男とはそれなりに長い付き合いであった。その最期には刃を交え、終わりを見た仲だ。それがまさかこんな所で再会を果たそうとは。
「そう言ってやるなよ。あいつだって一生懸命だったろ? それが実を結ぶかどうかは別問題だけどよ‥‥ぎゃはは!」
 無言で刃に手を伸ばす瑠亥。ミュウは眉を潜め、これ見よがしに肩を竦める。
「おいおい、よしとけよしとけ。お前の事はよーく知ってるが、一人で俺と戦ったら死ぬしかないぜー?」
「殺しあうつもりはないと。骨董品探しのついでだ、少し遊んでいけ」
 荷物を降ろし適当な剣を手に取るミュウ。手の中でそれを回しながら構える。
「ちょっとしたゲームだ。先に相手に一撃当てた方が勝ち‥‥で、どうだ」
「いいねぇ。だけど俺を付き合わせるには餌が弱い。相手を無理なゲームを持ちかける時は、対価ってもんが必要だぜ?」
 楽しげに笑うミュウ。そうして剣を突きつける。
「俺が勝ったらお前の身体はヨリシロにさせて貰おうか。あー、刀狩りらしく武器を貰うってのもいいな」
「ヨロシロはもう十分な物があるだろうと」
「ところがどっこい一人じゃ足りなくてねぇ。まあこっちの事情はいいんだ、やるなら始めようぜ」
 先の言葉は気になったが、今はこの勝負の方が重要だ。今のミュウがどれ程の力なのか、それを見定めておけば今後に繋がる。
 口笛交じりに悠々と歩くミュウ。瑠亥はそこへ音もなく駆け出すのであった。

「悪龍退治か‥‥中々に心躍る展開だな」
 銃を構えるイレーネ。先に雑兵キメラを倒そうと思ったが、暴れる竜に巻き込まれて向こうはどうもそれどころではなさそうだ。
 別に遠慮してやる必要もないので、ガンガン頭を撃ち抜いて撃破する。
「この竜、今までどうやってここにいたんだ? 明らかにはみ出してるし‥‥」
 杖の超機械を振りながら竜を眺めるイスネグ。一方、竜には井草と朝比奈が同時に駆け寄り、竜の周りを逆方向に走り出した。
「ったく、こんなの上手く行くのかよ‥‥」
 竜はそれぞれの頭で二人を追いかけるようにブレスを放出。二人はこれに対して只管に走り続けた。
「頭が二つあるのが運の尽き! どっちの首でどっちを追いかけたらいいか混乱するがいい!」
 走る井草。結局ぐるっと回って朝比奈と擦れ違いつつ、お互いへ向けられた攻撃を回避。二週目に入った。
「おい、全然こんがらがる気配がないじゃねえか」
「ぐッ! し、静まれ‥‥あたしの右腕ッ!」
「人の話聞けや」
 そんな二人の様子に呆れながら咳払いするヨダカ。
「仕方ないですね〜。一応やろうとしている事はわかったので、手伝ってあげるのですよ」
 胸の前で手を組むヨダカ。そうしてスキルを乗せた歌を歌い始める。
「歌うのは結構久しぶりですね〜。さあ、ヨダカの歌を聴くのです!」
 相変わらず竜の周りをグルグルしている井草と朝比奈。そこへヨダカのほしくずの唄が加わり、竜の首の動きが段々おかしくなってくる。
「おぉー、こんがらがった」
 遠目に見て拍手するイスネグ。竜が混乱した機を見逃さず、傭兵達は一気に勝負を決めにかかる。
「まずは尻尾からだー! ちぇすとー!」
 竜の尻尾を切りつける井草。イレーネは銃弾を連射、制圧射撃で更に動きを制限しにかかる。
「出し惜しみは無しだ。全力で行かせて貰うッスよ!」
 駆け寄り跳躍する源治。そうしてこんがらがっている竜の首を鋭く斬りつける。言葉通り渾身の一撃は肉を引き裂き血飛沫を撒き散らした。
「うわー! 源治、やめるんだ! 終わっちゃうだろー!」
「お、おう‥‥? 悪かったッスね?」
 地団駄踏む井草に冷や汗を流す井草。源治の攻撃を受け、竜は早くもグロッキー状態だ。
「この勝負、あたしが決める! イスネグー、魂の共有だー!」
「錬力が欲しい? いいですとも!」
 剣を掲げる井草の声に反応するイスネグ。イスネグから放たれた光が井草の掲げた剣に繋がり、輝きを増していく。
「何でも良いから早くしてくれ」
 その間に竜の目を打ち抜くイレーネ。朝比奈は隅っこで煙草を吸いながら様子を見ている。
「たのむ! あたしの右手よ‥‥動いてよね!」
 輝く刃を手に跳躍する井草。そうして連続攻撃で竜の首を二つとも斬り落とし、くるくる回転しながら着地するのであった。
「決まったー! 皆、ありがとー! ありがとー!」
 拍手するイスネグ。刃を収めながら苦笑する源治の肩を朝比奈がポンと叩くのであった。
「‥‥デカくて強そうではあったが、俺達を相手にするには少々力不足だったッスね」
「まあ、イスルギ本人とかと比べちゃうとな」
 腕組み苦笑する朝比奈。一方、ヨダカは超機械で風を起こし各地についた炎をちまちま消していたりする。
「まったく、何を考えてるですかね、ホントに。壊したら自分も下敷きになるとか‥‥分かってないですよね」
 溜息混じりに呟くヨダカ。この塔を作った人物の事だ、どうせ細かい事は考えていなかったのだろう。
「塔は一先ず大丈夫そうですね。私達も藤村さんを追いましょう」
 イスネグの提案で動き出す傭兵達。巨大なキメラの亡骸を踏み超え、上の階へと続く階段を登るのであった。

 ――上層。ミュウと対峙する瑠亥は高速機動戦を繰り広げていた。
 ヨリシロとなったブラッド・ルイスは瑠亥と互角の機動力を持つ戦士であった。今はその頃よりも機動力が増しているように感じる。
 何より、ミュウはその身体に常に紫電を纏っている。これが炸裂するように輝いた時、ほんの瞬く間だけ異常に機動力が跳ね上がるのだ。
 素人目にはただの瞬間移動だが、瑠亥はこれを観察に徹する事でやり過ごしていた。光の軌跡を追うような神経質なやり取りに時間の感覚が薄れていく。
 屋内の空間を飛び回る二つの影、擦れ違い様に刃を交えるが、それがお互いに届く事は無い。そうしているうちに気付けば仲間達が駆けつけていた。
「藤村、苦戦中ッスか? 加勢が必要なら手を貸すが」
 太刀の柄を指先で鳴らす源治。戦闘中だった二つの影は距離を取り、ピタリと停止する。
「もう終わったのか。早かったなと」
「へっへーん、最後決めたのはあたしだよー!」
「ああ。だからむしろ遅かったんじゃね」
 胸を張る井草の頭をぐりぐりする朝比奈。ミュウは腕時計を確認し、前髪をかきあげる。
「タイムアップか。中々頑張ったんじゃないの、君達」
「ブラッド・ルイス‥‥今はミュウでしたか」
 じっと男を見つめるイスネグ。探していた顔なじみとの対面だが、素直に喜べる状況ではない。
「供給源‥‥その名に違わず宿敵を供給してくれる、か。一つ訊きたい。貴公はあの日、確かに斃した筈だが?」
 銃を向けるイレーネ。ミュウはそれにあっさりと同意する。
「ああ。だから俺はミュウであってミュウではないのよ。お前らが殺したミュウとは別のミュウってわけだ」
 眉を潜めるイレーネ。どうやら一筋縄ではない裏がありそうではあるが、ミュウはそれ以上話すつもりがないらしい。
「ブラッド・ルイス‥‥正義の味方なんて言う幻想を追いかけた結末がこれですか? 随分と間抜けなオチなのです」
「だからそういってやるなって。少なくともあいつは本気だったし、俺もそれなりに考えちゃいるんだぜ?」
 へらへらと笑うミュウにヨダカは腕を振るい声を上げる。
「正義の味方は所詮幻想なのです。絶滅と洗脳と冷戦以外に世界平和の術があるなら、言ってみるがいいのですよ!」
「三つも手段が上がるならむしろ簡単な理想じゃねえか。俺なら三つとも実現出来るわけだしな。夢は終わらないぜ?」
「死者の夢を自分の物の様に語るんじゃねーですよ! 灰は灰に、幻想は幻想に帰るがいいのです!」
 超機械を振るうヨダカだが、その一撃を瞬く間に回避するミュウ。そうして眼鏡のブリッジを中指で押し上げ笑う。
「ブラッドの奴も嫌われたモンだなー。ま、そう焦んなよ。俺はもう帰っから」
 背を向けるミュウ。指を弾くと雷鳴が轟き、塔の壁に巨大な穴が開いた。
「じゃーな♪ お互い生きてたらまた会う事もあるでしょ。それまで御元気で!」
 飛び降りる影を追いかけ、壁際で止まる朝比奈。少し考えた後、踏み止まって剣を収めた。
「‥‥賢明だなと。まともに走っても追いつけるのは俺くらいだ」
 風のように走り去るミュウを見送る瑠亥。そうしてぽつりと呟いた。
「それに‥‥決着は、ここなどでつくものではないのだから、な」

「竜退治完了、か。妹への土産話にはうってつけだな」
 煙草に火を点け紫煙を吐き出すイレーネ。今回もいつも通りの戦いではあったが、少しだけその胸に熱意が宿る。
 一度は見失った斃すべき敵、それが再び目の前に現れたのだ。形はどうあれ、またあれを殺してみるのも良いだろう。
「やはりこうなってしまいましたか。ヒイロ先輩‥‥」
「ブラッドは、自身をヒオヒオに再殺させる所まで計算していたのですかね?」
「だとしても、そんな事にはしたくないですね。もう二度と、あんな事は」
 ぼんやりした様子で広がる景色を眺めるイスネグ。ヨダカはそんな横顔を一瞥し、小さく息を吐いた。
「なーなー朝比奈、ジャスティスマスクのサインくれよ」
「いいか月読? 何度も言っているが、俺はそんな奴は知らない。だから俺にその話をするな」
「そんなつれない事を言ってやるなと、ジャスティスマスク」
「無表情に人の肩叩きながら何言ってんだ藤村さんよぉ‥‥」
 ぴくぴくと眉を震わせる朝比奈。井草は頭を掴まれぷらーんとなったまま喋る。
「近所のジャリとママ友に頼まれてんだよ。意外と人気あったんだな〜」
「どんだけマイナーなファンなんだ? ご当地戦隊ってレベルじゃねーぞ」
「そんなつれない事を言ってやるなと、ジャスティスマスク」
「お前はなんで二回言ったんだ? 喧嘩か? 喧嘩売ってるのか?」
 そんな喧騒を背景に源治は屈んで一振りの剣を眺めている。奉竜殿の中には大量の武器や骨董品が保管されており、そのどれもがバグアの技術で作られたショーケースに納められていた。
「仮に塔が崩れたとしても、宝は壊れなかったわけだ」
 そこへ背後から歩み寄るイレーネ。源治は優しい目でそれらを眺めている。
「‥‥何を見ている?」
「いや。ブガイとかイスルギの武器ってのは、ここに保管してあったんだろうなと思ってな」
 思い返せば長いような短いような、そんな戦いだった。
 彼らは間違いなくバグアであったが、良くも悪くもらしくなく、源治にとって彼らは好敵手という呼び方が相応しかった。
 最期の最期まで真っ直ぐであった刀狩りの事を思い返し、自然と笑みが浮かぶ。
「あいつらの事は、どうにも嫌いになれなかったな」
「相当に変わった連中だったからな‥‥私はあまり好きではなかったが。暑苦しいというか」
「そうッスね。変わった奴等だったッスよ」
 刀狩りが残した村を経て、この奉竜殿へと至る。道中邪魔は入ったが、これで漸く終わったと言えるだろう。
 集めた物と集めた人への扱いを見れば、あのバグアがどんな気持ちでここに居たのかが何と無くわかる。
 結局の所それは異端だ。故に人類に敗北すべくして敗北したのかもしれない。そんな変わり者の生き様を、源治は最期まで見届けたのだ。
「さーてと。俺もちっと探し物をするかねー」
 歩き出す朝比奈。井草はその背中に問いかける。
「お宝探しかー?」
「おう。過去に忘れた青春という名の宝物を探しに行くのよ」
 サムズアップする朝比奈。こうして奉竜殿での戦いは幕を降ろすのであった。

 その後、UPCに押収された貴重な品々は美術館に寄与される事になった。
 全ての安全性が確認されたのなら、誰でも見る事が出来るようになるだろう。
 そしてそれは、恐らくそう遠くない未来に実現する。刀狩りの物語は、こうして真の決着を得たのであった‥‥。