タイトル:トライアル・フォーマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/25 08:43

●オープニング本文


「イリス君。イリス君。おーい、聞いてるかい?」
 背後からの声に背筋を震わせるイリス。きょとんとした顔で振り返ると、そこには同僚、羽村 誠の苦笑があった。
「誠ですか。私用で外出していると聞いていましたが、戻っていたのですね」
「出かけたのは三日も前だよ。相変わらず、熱心に研究を続けているみたいだね」
 イリスの作業を覗き込む羽村。一度は様々な事情で壊滅的状況に追いやられたジンクス研究開発室だが、今やすっかり元通りになっていた。
 この研究室の要であるジンクスシステムも数度の改造が行なわれ、以前より肥大化かつ効率化を図られている。
「暫く研究に専念したお陰で、色々と進展がありました。これを見て下さい」
 キーを高速で操作するイリス。モニターに表示されたのは無数の文字の羅列だ。一般人からすると意味不明な怪文だが、羽村には見覚えがあった。
「これはもしかして、アンサーかい?」
「はい。もうありえないくらい木っ端微塵に砕かれたアンサーのデータですが、大方サルベージが完了しました」
「えぇ!? す、すごいなそれは‥‥たった数ヶ月でかい?」
 羽村が仰天したのも無理は無い。それは口で言う程容易い事ではないからだ。
 そもそもジンクス内に散ったデータを回収するには幾つかの無理難題があった。
 ジンクスはその全域をイリスすら把握していないバグアの技術を骨子としている。である以上、探せる領域には限度があり。再現にも限度というものがあるはずなのだが。
「ですから、大方です。現状で可能な範囲は、という意味です。後は分かりますね?」
「つまり、手詰まりって事かい?」
「非常に不本意な表現をするのであれば、そう言う事になります」
 眼鏡のブリッジを中指で押し上げながらジト目で羽村を見るイリス。まあ、そりゃそうだろうと納得するのであった。
「というより、消えてしまったアンサーを再現するには、もう手元のやりくりだけでは追いつかないでしょう。これからはもっとオフェンシブな研究が必要になると思います」
「と、言うと?」
「積極的にバグアの研究施設に攻め込むとか」
 冷や汗を流す羽村。確かにこれ以上研究を進める‥‥というより失った物を補う為には、どうしてもそういう事になるのだが。
「い、いや〜‥‥それはどうだろうね。危険じゃないのかい?」
「いえ、アンサーシステムのテストも必要ですから、どちらにせよ何かしら狩りに行く必要があります」
 どこからか機械の塊を引っ張り出してくるイリス。何やら武器らしき物と接続されており、刃先がギラリと光っている。
「も、もうちょっと安全に事を進められないのかい?」
「既に安全は十分に考慮してきました。いいですか? バグアは今、地球の多くの戦域から撤退を開始し、人類とバグアの戦争は宇宙に主戦場を移しつつあります。これはチャンスです。地上に残されているバグアの研究施設を手付かずのままぶん取れるかもしれません」
 これが冗談なら良いのだが、この子は決してそういう冗談を言わない子である。この目は本当にそうすればいいと思っている目だ。
「ま、ま、まあ‥‥それをやるかどうかはともかく、とりあえず新型のテストでもしたらどうだい? 最近外に出てないだろう?」
「そうですね‥‥あのアンサーモドキと戦う時の為にも、試験は必要ですから‥‥」
 隈だらけの目でブツブツと独り言を始めるイリス。羽村はその横顔に深々と溜息を漏らした。

「それで、どうなのだ。あれの近況は」
 目を瞑り、数日前の記憶を回想する羽村。彼は古巣とも言えるとある大学の研究機関へ顔を出していた。
 そこで待っていたのは嘗ての恩師、カレーニイ博士である。イリスの父親であり、この研究機関に欠かせない頭脳でもある。
「特に変わりはありませんよ。危険な事は避けさせています。たまに戦場に飛び出す事もありますが、能力者のお陰でなんとか」
「やれやれ‥‥手間のかかる娘だ。尤も、教育に関しては使用人に任せきりだったのだ。その責は無論、私にもあるのだがな」
 額に手をあて溜息を漏らすカレーニイ。頭を振り、それから羽村に目を向ける。
「人工知能だかなんだか知らないが、手詰まりであれば親を頼りなさいと君からも言ってくれないかね?」
「はあ‥‥。ただ、あの子としては姉の置き土産でもありますから。自分の力で完成させたいのでしょう」
「その様な私情で動くとは、研究者として二流の証だ。我が血脈を受け継ぐ一人娘なのだから、もう少し賢い選択をしてもらいたいのだがね」
 とかなんとか言っているが、要するに娘が心配でしょうがないのだろう。そういう態度を取れないのは、もうずっと昔からなのだが。
「羽村。くれぐれもあれが愚かな真似をせぬよう、管理を怠らないでくれ」
「分っていますけど‥‥あれで行動力が凄まじいですからね。やると言い出したら、僕では止められませんよ」
「そこを止めるのが君の役割だろう。もしあれに何かあった時は‥‥分かっているね?」
「いや、分っていますけどそれはただの脅し‥‥いや分かりました分かりましたから!」

 回想を終え目を開くと、イリスがなにやらごつい剣を抱えてヨタヨタ歩いていた。
「イリス君、それ‥‥持とうか?」
「ふぬぬ‥‥っ! いえ、これくらい自分で運べ‥‥るにゃうっ!」
 転倒すると同時に奇声を上げるイリス。羽村はその様子を眺め、煙草を取り出し咥えるのであった。

●参加者一覧

橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
坂上 透(gc8191
10歳・♀・FC

●リプレイ本文

「お久しぶりですね、イリスさん。地道な作業お疲れ様でした」
 実験開始の準備を進める最中、望月 美汐(gb6693)がイリスに抱きつく。イリスは美汐の腕に包まれながらなんとも言えない表情だ。
「このやり取りも実に久しぶりですね」
「言われて見ると、なんだか随分お久しぶりですね。お元気でしたか?」
 美汐に頬擦りされているイリスの頭を撫でる和泉 恭也(gc3978)。他の面々もイリスを囲み思い思いに声をかけている。
「久しぶりだな、イリス。ちゃんと休んでいるか?」
「へぇーっ、これが新しいアンサーちゃんですか。触ってみてもいいですか?」
「アンサーの修復も進んでいるようだし、毎度の事ながら流石だな」
 恭也と共にイリスを撫でるヘイル(gc4085)。橘川 海(gb4179)とレベッカ・マーエン(gb4204)は新兵器に興味が向いている様子で、手に取って細部を確認している。
「何やら凄い事になっとるのー。そこはかとなく動物園を思い出すわ」
 傭兵に囲まれているイリスを眺める坂上 透(gc8191)。持ち込んだスナック菓子の封を空け、中に手を突っ込む。ちなみにこれで道中から数え三袋目である。

 さて実際の試験運用だが、傭兵達は三つしかないそれぞれのASをローテーションで使用し、各々思う所を確かめる形を取る。
 テスト相手であるキメラはというと、実際探さないと見つけられない程度の数しかおらず、必然車ごと少しずつ移動しつつ行なう事になった。
「ASを応用した新兵器、か。本来のJXとアンサーの役割とはまた違うのだろうけど、この先この力は必要か」
 一番手を勤める事になったヘイル。剣型のAS、スキュラを軽く振るいながら感触を確かめる。
「まあ、ASをより戦闘向けにするには効率いいんですよ。何かしらの形や分野に収めた方が」
「だろうな。しかし剣型か‥‥槍はないのか?」
「理屈は同じですから簡単に作れますけど、とりあえず剣かなと」
「どうせならアンサーと同じ型にしてみないか?」
「考えましたが、ごっちゃになると面倒じゃないですか? いつかアンサーが復活するという前提だと」
 眉を潜めるヘイル。確かに最終的に同じ名前の物が並んでしまうと面倒な気はする。
「うーん‥‥しかしこういう形になるのは、アンサーを探すのに行き詰っているという事でしょうね」
 持ち込んだ武器を外し、盾型ASナルキッソスを装備する恭也。更に美汐が銃型テウクロス装備で最初のテストを行なう。
「イリスさんはこれで後ろから見学してください。以前渡したのと同じですから、使い方は分かりますよね?」
 美汐からタクティカルゴーグルを受け取り頷くイリス。美汐はそこで顎に手をやる。
「私か和泉さんの傍を離れないように‥‥と言いたい所ですが、二人とも前に出ちゃいますからね」
「イリスの護衛に関しては心配無用なのダー」
「ちゃんと私達が見張ってますからねっ」
 レベッカと海の言葉に頷く美汐。実際それほど危険な場所ではないのだ。彼女達なら何の問題もないだろう。
 というわけで、早速キメラの集団を探して実験開始。
 まずは実験に使用する個体を海が選ぶ。選別した個体にはペイント弾でマーキングを施していく。
「えへへー、カラフルで楽しいでしょっ?」
 ぶっちゃけた話、彼らだとこの程度のキメラではろくに相手にならない。加減する個体を決めておかないとあっさり倒してしまいそうだ。
「あとね、閃光手榴弾とかもありますよっ」
「‥‥使うんですか、それ?」
 懐から取り出した閃光手榴弾を掲げる海。イリスはその隣で困惑した表情を浮かべている。
「使いますよー! 敵に囲まれた時とか、イリスちゃんが危険な時とか! まあ、そうそうないでしょうけど‥‥」
「そうでしょうね。これまでもっと危険な状況を乗り越えてきたわけですし」
 ゴーグルを覗き込むイリス。そこではヘイルがトカゲキメラと戦っている。攻撃はあえて大雑把にし、ASの補正具合を確かめるつもりだ。
 一先ず飛び掛ってくるキメラに剣を構える。適当に構えただけだがちゃんとキメラの方向に光が放出され、瞬きと同時にキメラは弾かれた。
 続け、反撃。やはり狙いは雑につけて剣を振るう。一瞬光が瞬きキメラは両断された。
「んっ? 勝手に手元が動くというのは奇妙な感覚だな‥‥」
 怪訝な表情を浮かべるヘイル。というのも、自分が狙っている場所と違う所を刃が切り裂いたからだ。
 狙いは的確だった。きちんと首を狙って両断したのだが、どこを狙うかというのは自身の癖や好みが大きく影響する。思っていたのと違う、という感覚は当然残るだろう。
 一方、キメラの攻撃を盾で受ける恭也。こちらの使用感は上々で、飛び掛ってくるキメラを容易くいなしていく。
 命中精度が高いヘイルよりも、体感する補正は恭也の方が上だ。襲ってくると恭也が考える以上に的確に光が放出されキメラを弾き返す。
「これは中々面白いですね」
 更に銃型を試す美汐。しかしこちらはまるで攻撃が当たっていない。
「あらら? やっぱり無茶な討ち方だと駄目ですか」
 自動エイムの精度を確認しようと背中に手を回して撃ってみたり、指先で回して撃ってみたり、腕をぶんぶん振りながら撃ってみた所、ターゲットである飛竜キメラにかすりもしなかった。
 と、そこで遠くでイリスが腕を振っている。呼ばれて戻ると、イリスは青ざめた表情で美汐に縋りついた。
「望月美汐‥‥それは貴女が『ちゃんと当てよう』と思わないと当たらないんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうです。皆さんの意思と連動しているので、当てようとしなければ当たらないし、斬ろうとしなければ斬れないんです」
 思い返すと先ほどヘイルが素振りしていた時には何の補正も掛かっていなかった気がする。ASの効果は対象のデータと使用者の意思が大きく関係するのだ。
「じゃあ、当てようと思えばいいんですね」
 前線に戻り、腕を背中に回し飛竜を狙う美汐。
「どうも早い相手には通じない印象しか無いんですよね。ほら、傭兵だと評価値四桁の方とか」
 ぼやきながらも竜へ引き金を引く。すると腕が勝手に動ききちんと翼を射抜いて見せた。ただ、当てようと思っても腕を振り回したりすると当たらない。
「ASはあくまで補正をかけるだけなので、皆さんの意識的な行動は阻害しないようになっているからですよ」
 との事である。要するに自動エイムより腕を振り回す行動の方が優先されてしまうのだ。
「しかし‥‥暇じゃのぅ」
 スナック菓子を食べ続ける透。敵はどんどんAS隊が倒してしまう為、正直特にこれといってやる事もない。むしろ透は別にそれでいいと思っているのだが。
「貴女は行かないんですか?」
「テストは順番だしのー。キメラとの戦闘はなー‥‥ほれ、ベテランばかりじゃし、別に我が戦わなくとものー」
「まあ、それはそうですけど」
 肩を竦めながらニヒルに笑う透。イリスはゴーグルから目を離し苦笑する。
「ところでのー、イリスとやら。天才な頭を見込んで一つ訊ねるが」
「何ですか?」
「ごろごろしてるだけで敵をやっつける兵器は作れないかの?」
 無茶というより冗談の様な話だが、イリスは腕を組んで暫く思案する。
「身体に巻きつけるようにして大量の刃を展開するASとか‥‥」
「‥‥いや、そういうのではなくな‥‥何か逆に疲れそうじゃのぅ、それ」

 そんなこんなで、役割をローテーション。剣型をレベッカ、盾型を美汐、銃型が余っていたのでそのままヘイルに使ってもらう事にした。
「こういう形とはいえ、またアンサーと一緒に戦えるとはな」
 剣型ASを眺めるレベッカ。剣に刻まれたその名前を懐かしく思う。
「アンサー、どんな姿になってもおまえはおまえだ。自分の好きな自分でいればいい。イリスと、あたし達とここから新しいスタート。何時だって始まりなのダー」
 剣を手に走るレベッカ。普段剣を使わないレベッカだが、攻撃はキメラに吸い込まれるように命中する。むしろ癖がない分、補正は素直に反映されるようだ。
「うむ、悪くない。あたしがアンサーのサポートでどこまで剣戟が出来るか、と言った所か」

 光の剣でトカゲを切り裂くレベッカ。知覚系と相性の良いエレクトロリンカーだ、攻撃力はかなりの物になる。
 軽く振るい、飛び掛ってくるキメラに備える。剣を使った防御も基本的に経験がないが、やり方を把握していれば難しくはない。
「構造から考えると‥‥エネルギーの流れを作り受け止めるではなく受け流す」
 光の波が瞬き、キメラが側面を吹っ飛んでいく。流れるような動きからは反撃にも移りやすい。
「こうか」
 反転しキメラを切り裂く。その動きは白兵戦闘の不慣れさを感じさせない。
「まあ能力者ですし、レベッカはあのASの使い方と相性良さそうですからね」
 ゴーグルを覗き込むイリス。透はその様子を欠伸しながら眺めていた。
 美汐が調べているのは盾の範囲と持続力だ。基本的には一瞬だけ光の結界を張る装備だが、連続展開も不可能ではない。
 範囲に関しても応用は利く。そのつもりで使用すれば範囲を拡大し、身体を丸ごと覆うほどの壁を展開する事も出来る。出来るのだが‥‥。
「な、なんだか疲れますね‥‥」
 冷や汗を流す美汐。連続で広範囲に壁を出していると、身体から力が抜けていく感じがする。恐らく過剰使用には能力者の錬力を食う仕組みなのだろう。
「でも、頑丈さはかなりのものですね」
 飛び掛るキメラを竜の咆哮で押し返す。連続で正面に発生した数枚の光の壁が輝きと共に爆ぜ、反動もなくキメラが派手に吹っ飛んでいった。
「錬力を消費すれば、スキルがなくても同じ様な事が出来そうな気がしますね」
 三つのASの中では意外とこの盾が一番完成形に近いのかもしれない。その様子に海が挙手する。
「はいはーい、イリスちゃん質問っ」
「何でしょう?」
「ナルキッソスは、閃光手榴弾の音とか光を遮断出来ないかな?」
 閃光手榴弾は強力な道具だが、言わずもがな味方にも効果を発揮してしまう。これを遮断出来るのなら、確かに応用の幅は広がるが。
「光の遮断は恐らく可能です。ただ、音を完全に遮断するのは難しいでしょうね。精々薄壁一枚隔てたから、くらいの効果しかないかと」
「うーん、そっかー。そういえば今日は試作型アンサーちゃんも連れてきたんだけど、連携できないかな?」
 と、軽い気持ちで訊いてみたが、イリスにとっては意外な発想だったのか、目を丸くしている。
「その手がありましたか。そうですね、可能です。要するに同じものですから。試作型には皆さんの戦闘傾向が既に記録してありますから、連携すればより個人にマッチした性能を発揮するでしょう」
 例えばヘイルが感じた違和感も、ASが彼の癖を知れば修正出来る。より思い通りに補正が掛かれば、イメージに沿った高度な戦闘が可能だ。
「今回から少しずつデータを取っていくつもりでしたが、そうすれば段階を幾つかすっ飛ばせそうですね。少しお預かりしても宜しいですか?」
「お役に立つのなら、どうぞっ」
 耳からアンサーシステムを外しイリスに手渡す海。イリスは何かヒントを得たようだ。
「暇じゃ! 楽なのは良いが、何もしないで立って居るのは退屈なのじゃ!」
 くわっと目を見開く透。その間もお菓子を食べる手は止めない。
「それもそうだろうな。あたしはやりたい事は試してみたし、そろそろ代わるか?」
 と、透に剣を渡すレベッカ。透は目をきらきらさせて刃を振るうが、何かしっくりこないのか首を擡げている。
「イリスとやら、イリスとやら。これは音は鳴らんのか?」
「音ですか?」
「ぶぅーんとか、でゅーんとかあるじゃろ」
「それは‥‥必要ですか?」
 首を傾げるイリスに歩み寄り、その肩を叩く透。
「その方が‥‥かっこいいじゃろうが!」
「か、かっこいいですか?」
「うむ。具体的にはちみっ子たちに馬鹿ウケ。やれ性能だーなんだ言っても見栄えは重要じゃ。そこんとこゆめゆめ忘れるでないぞ」
 謎の高説の後どや顔する透。イリスは困った表情を浮かべるしかない。
「うーん、でも実際平和でしたねー。何事もなくって言うのはいい事ですけどっ」
 パイドロスに跨ったまま海が苦笑する。敵が少ない為探しにこっちが移動する事、敵が不意打ちしてこなかった事から、不眠の機龍はやや手持ち無沙汰だったようだ。
「そういえばこれで練成治療も使えるのか。誰か怪我してないか?」
 振り返るレベッカ。だが顔を見合わせる傭兵達は全員無傷である。
「俺は一応殴られはしたが、別になんともなかった」
「えーと、自分もです」
「私もですね‥‥あはは」
「おまえ達頑丈すぎなのダー」
 仕方がないので剣を透から受け取り練成強化を施してみる。スキルは問題なく通常の超機械として使う事が可能だと証明された。
「さて、最後に最大出力のテストでもしてみるか。恭也、付き合ってくれ」
「ええ、自分は構いませんよ」
 剣を手にするヘイルと盾を手にした恭也が向き合う。二人は持てるスキルを最大限に使用し、AS同士をぶつけるつもりだ。
「い、一応加減して下さいね。大丈夫だとは思いますが」
 はらはらした様子のイリス。二人は互いに力を高めていく。
「さて、こちらは準備OKです。いつでもどうぞ」
「よし‥‥行くぞ!」
 互いに紋章を輝かせる二人。イリスは口をぱくぱくしながら手を上げたり下げたりしている。
「壊さないで下さいね! 壊さないで下さいね! 壊さないで下さいねーッ!!」
 解き放たれ激突する二つの力。光が爆ぜ、衝撃が大気を震わせるのであった‥‥。

「橘川海、これはお返しします」
 一通りテストが終了し、試作型ASを返すイリス。後は今日のデータを元に改善を施し次回に挑むだけだ。
「強度問題とアンサーシステム小型による装備効率アップか。基本は既存の類似品の分析や素材の見直し‥‥未科研なんかにも問い合わせるべきか」
 腕組み呟くレベッカ。傭兵達はそれぞれ今回の要望や意見をイリスに伝えていく。この検討には結構な時間を費やした。
「しかし、アンサーを外から探すのは無理‥‥か」
「その内アンサーにも会わせてくれ。俺達の中にもアンサーの記憶はある。JXでそれを走査すれば彼女が『思いだす』切欠くらいにはなるかもしれない」
 恭也とヘイルの言葉に頷くイリス。そちらに関しても平行して進める必要はあるだろう。
「ええ。では、近いうちにお願いしますね。えーと、今回の要望を纏めると‥‥結構やる事がありそうですね」
 片目を瞑り考え込むイリス。とりあえず今日は持ち帰る課題が兎に角多い。一つ一つ整理しつつ進めていく必要があるだろう。

 こうして様々な展開を予感させる試験が終了した。今回のテストがどのような結果を齎すのか、それはまた次回へのお楽しみである‥‥。